2016/07/25 - 22:59~01:31 のログ
ご案内:「海底遺跡『朱夏の遺跡』」にリヒットさんが現れました。<補足:長い青髪の小人/スモック一丁/遺跡保全のバイト(修復)>
リヒット > 歓楽区や研究区のギラつく喧騒を尻目に、常世島北東の近海を駆ける小ぶりのクルーザーがひとつ。
運転席にて舵を握るのは、白衣姿の人間の女性です。そして、その白衣のお尻にしがみつき、海風に耐えるはリヒット。

「ぷー……」

リヒットは異邦人であり、精霊の一種です。そのため、人間のように食事も要らなければ、快適な住居もいらない。
常世島に棲むにあたり、基本的に学費以外はほとんどお金を使う必要はないエコロジーな存在です。その学費も、境遇と幼さゆえに当座は免除されている様子。
とはいえ、全くの無一文で過ごせるわけでもなく。多少なりとも、リヒットにお金は必要です。
例えば銭湯。リヒットは暖かいお湯、つまりお風呂は大好き。でも根無し草のリヒットがお風呂で温まるには、どうしてもお金は必要です。

加えて夏休みで暇だったのもあり、この興味深い『遺跡保全』のバイトに食いついたリヒット。1週間ほどアルスマグナ先生の講義を受け、予習もバッチリです……彼なりには。
では、遺跡に向かうこのクルーザーを操縦する女性は何者でしょうか?

 「リヒット君、もう少しで着きますからね。海水は辛いでしょうけど、我慢してね?」
「ぷ~……」

アルスマグナ先生からリヒットを通じて手渡された海図を凝視しつつ、腰にしがみつく小人を諌める女性。
彼女は、研究区に勤める研究員のひとりで、専門は異世界・異邦人の研究。そう、彼女の任務は、謎の異邦人であるリヒットの研究なのです。

リヒット > 遺跡があると思しき海域まで到達すると、船は右に左にとぐらぐら揺さぶられ、あちこちに流されます。
これでも夏になって多少海流が和らいだというのですから、普段この領域に近づくのが如何に困難か想像に難くありません。
そしてやがて、白い砂浜と木々に囲まれた小島が見えてきます。

リヒットはこの島に遺跡調査・保全のバイトに来たわけですが、同伴の女性はリヒット本人の調査が目的。
語弊を恐れず言えば、これは一種の「ストレステスト」というものです。
シャボン玉を自称する精霊が過度のストレスを受けた時、どういう反応を見せるか。このボケっとした児童が、攻撃的な何かを隠し持っていないかどうか。
幾億とある並行次元からの来訪者、異邦人にどんな特異で致命的な能力が潜んでいるか知れたものではありません。それを調べ、管理するのは常世学園の健全な運営に欠かせないといえましょう。
とはいえ、自我や自意識が確立した成人であればまだしも、リヒットはまだ幼児。かようなテストを課すのは、倫理的な面でも提案しがたいものがあります。
そこを、リヒット本人が自ら危険に飛び込もうと主張するのです。この機会を逃すわけにはいきません。

 「……まぁ、ほんの10000ぽっちのバイトですし。きっとそんなに危険じゃないのでしょう」
「ぷ~……せんせぇ、まだつかないの……」

石鹸の精であるリヒットにとって、ミネラル分の多い塩水は苦手なものの一つ。界面活性剤の力が奪われ、シャボン玉を作れなくなるのです。
波音とエンジン音にかき消されそうな弱々しい声にも、面倒見のいい女性はいちいち応え、懸命になだめています。

やがて、クルーザーは小島へと着岸しました。

リヒット > クルーザーの側を力なく、ふわふわと右往左往に浮遊するリヒット。波しぶきと海風にやられ、かなり疲労している様子。
とはいえこの冒険はリヒット本人が言い出したこと。この島の奥まで進めば遺跡がある、と考えれば、徐々に勇気が湧いてきます。
そんなリヒットの側で、何やら小型の機械を起動する研究員。機械は小さな起動音を立てると、4枚のプロペラを回し、宙に浮きました。

 「リヒット君、このドローンを着いて行かせるからね。キミに何かあったらすぐ助けにいくから、安心して」
「ぷー。でっかい虫さん」

リヒットはその機械を興味深げに眺めています。プロペラの間にはキラリと光るレンズ。カメラドローンです。
迷子防止の意図もありますが、本来の目的はもちろんリヒットの観察です。

 「アルベルトゥス教諭に渡された道具類は忘れず持ってきましたね?」
「……あるべるとぅす?」
 「ああ、あの人はアルスマグナって自称してたんでしたね。ほら、補修用の道具とか、明かりとか、テキストも」

リヒットはこくこくと頷いて、袖をぷんと軽く振ります。
大きめのシャボン玉が形作られ、すぐさまリヒットがそれをつまんで割ると……その手の中には、小ぶりのカバンが生まれていました。何やら可愛らしいキャラクターがプリントされています。
この芸当からしても、研究員にとってはてんで理屈の分からない「術」。彼の遺跡での振る舞いを見れば、その仕組みも少しは分かるのでしょうか?

 「私はここで帰りを待ってますから。……まぁ、リヒット君ならそうそう死ぬこともないでしょう。シャボン玉ですしね」
「うん。リヒットは死ぬけど、死なないよ。早めに帰ってくるね」

研究員に見送られながら、リヒットは地図を片手に、島の奥へと浮遊して進んでいきました。

リヒット > 【リヒットPLより、アルスマグナ先生、およびROMしてくださってる方々へ】
【リヒットはこれより「修復」のダイス表で、4層を目安に遺跡探索を行います】
【ただし、いくら予習をしてきたとはいえ、リヒットはまだ幼い異邦人です。普通の人間なら容易いこともできない可能性があります】
【状況によっては、ダイスの結果に書かれた顛末を得られず、収入を減らす方向で結果を変更することがあることをご容赦ください】
【また、ダイス目が重複したら振り直します】

リヒット > 遺跡1層目 [1d15→9=9]
リヒット > 修復9.
君たちがこの部屋を訪れた時にはすでにルインワーム達によって壁も天井も床も食い荒らされた後だった。おまけに酸がところどころにひっかけられて、貴重な遺跡の史料が見るも無残な形になっている。
ここを修復するのは難しい、次の部屋に移動しようとするなら足元や天井からの落下物に注意すること。
(バイト代ボーナス-250円)

リヒット > ――アルスマグナ先生お手製の地図をたどり、あきらかに遺跡遺跡した感じの入り口を見つけ、そのまま浮遊しながら侵入したリヒット。
しばらく階段を下り、いくつかの分岐を適当に選んで折れ(もちろんメモを取りながら)、辿り着いた最初の広間は……。

「……うわぁ、ボロボロ」

それはもはや自然洞窟と言っても過言ではない……いや、それ以上に不気味に侵食された空間と化していました。
天井も壁も無造作に食い荒らされ、ノコギリやヤスリめいて筋や棘が生え、いまにも崩れそう。
明かりを取り出し、あちこちを照らして見ますが、今は動く陰などは見当たらず。
かわりに、ほぼ無価値な紙片と化した何らかの書物だったものや、酸に上半身を溶かされた石像だったものなどがお出迎え。

「もったいないなぁ……」

アルスマグナ先生の講義を一通り受けたため、それらの遺物が十全な状態であればとんでもない価値を持っていたであろう、ということも頭に叩きこまれています。
とはいえここまで徹底的に破壊されてしまってはもうどうしようもありません。リヒットにも、きっと考古学のプロでさえも。

とはいえ、入り口でさっと中を照らしただけでは調査は充分とはいえません。奇跡的に残されているかもしれない遺物を探し、リヒットはふわふわと部屋に入っていきます。

「あっ」

そんな彼をさっそく、天井から滴る強酸の雫が襲いました。黄緑色の毒々しい液体は彼に触れるやいなや、ジュッと不気味な音を立て…。
…そして、リヒットはあっけなく石鹸水の飛沫と化し、破裂してしまいました。

リヒット > 間一髪で酸の飛沫を逃れたカメラドローンが、追跡対象を見失って人工知能を混乱させ、右往左往しています。
……しかし、リヒットを見失って数十秒後、そのレンズがリヒットの来た側の廊下に静かに向き直りました。

「ぷー。リヒットは死んじゃった。頭を溶かされて死んじゃった」

呟きながら、廊下の闇から染み出すようにリヒットが現れます。
懐中電灯は消灯しているものの手に持ったまま、酸が被ったはずの頭頂部も綺麗になって。

「やっぱり、遺跡って怖いところ……。リヒットはあと何回死ぬのかな」

再び部屋の入口にふわりと佇み、やや恨めしそうな視線を廃墟と化した空間に投げかけます。
ボケッとしているリヒットでも、この部屋にあったであろう何かを偲び、失われた価値を体感すれば、ちょっとは後悔の念も湧こうというもの。

「……ぷー。別の部屋行こうっと」

リヒットはくるりと空中で体を捻り、来た道を引き返しました。
そして、廊下の別の分岐へと……。(報酬-250)
[1d15→7=7]
リヒット > 修復7.
偶然触れた宝玉のはまった台座はこの遺跡の過去を映し出すホログラムのようだ。
この遺跡の屋上に古代人たちが集まり『門』に酷似した空間を開く様子が映し出される。古代人達はこの『門』を通って他世界へ移ったのだろうか、それとも……。謎は深まるばかりである。
(バイト代ボーナス特に無し)

リヒット > 今度は、さほどルインワームの被害を受けていないと思われる広間へと出ることができました。
正面の壁に向かって1段、2段とせり上がっていく床。そして小高く佇むその頂上には、何やら意味深な祭壇が。

「ぷー。なんか、学園の教室みたい。上に何かあるのかな」

仏頂面の中に好奇心を抑えきれず、ふわりと早足で宙を蹴ってその祭壇へと向かうリヒット。
祭壇には、大きな青色の宝玉が埋め込まれています。素人目に見ても、欠損らしい欠損はありません。今回もまたリヒットの修復の出番はなさそうです。

「……あっ」

宝玉にリヒットの白い指が触れた刹那。その透き通った青の中心でキラリと何かが閃いたと思うと、部屋の中央にぼんやりと光の像が浮かび上がったではありませんか!
それは徐々にピントを取り戻し、輪郭がはっきりとしてきて……立体映像になりました。何かしら複数の人間が蠢いている光景が映し出されます。

「てれび……?」

電気屋や、拾ったお金でたまに行くことのあった銭湯の更衣室などで見たことがある、めまぐるしく絵の変わる額縁を思い出します。
いまこの部屋で映しだされている光のマジックはそれに雰囲気が似てますが、立体映像は現代技術でもなかなか再現に至らないものです。
リヒットは任務も忘れてその立体映像に見入っていますが……やがて。

「……門」

ぽつり、と寂しげに呟きます。

リヒット > 古代人と思しき人影が集い、円陣を組み、なにやら祈祷を捧げているような映像。
その祈祷が激しくなるにつれて、広い円陣の中心に、黒い黒い【穴】が穿たれて行くではありませんか。
立体映像ゆえにその【穴】も薄ぼんやりと光を帯びて、おどろおどろしさは軽減されていますが、それでも……リヒットの目はその【穴】に釘付け。

……あの日。
リヒットは川底をのんびりと泳いでいるところを、巨大な【穴】に遭遇しました。
けたたましい轟音を立てて、水が、砂利が、小魚が、藻が、際限なく吸い込まれていく様。
リヒットもひとたまりもなく飲み込まれ、闇の中を何度も宙返りし、巨獣の喉元を通り……。
……気づいたときには、「とこよじま」の「てんいこうや」の熱砂の中に放り出されていたのです。
川底と同様に、「てんいこうや」の空中にもこのような【穴】が穿たれ、ゲボゲボと川の水を吐いていたのでした。すぐに閉じてしまいましたが。

「…………」

《門》です。リヒットが常世学園に入学させられ、いの一番に教わった言葉のひとつ。
この常世学園には……いえ、この世界には、こうして《門》に飲み込まれ、来訪した異邦人が数多くいると。リヒットもその一人だと。
その《門》が如何にしてリヒットの住まいである川底に開いたのか。なぜリヒットはこの世界に来なければならなかったのか。
わからない、目下研究中というのが学園の答えでした。そして、リヒットが再び元の世界に帰れるかどうか、も。

「……………」

リヒットは目をまんまるに見開き、祭壇に腰掛けたまま、その立体映像を凝視していました。
再生が終わると、ふたたび宝玉に触れて再開。何回も、何十回も、何百回も……。
堪え性のないカメラドローンがリヒットを急かすようにプンプンと羽音を立てますが、そんなのさえ意に介さず。

リヒット > 「……帰りたい。リヒットは、帰りたい」

ブツブツと呟く声が静謐な遺跡に響くのを、ドローンのマイクは捉え、クルーザーで待機する研究員にも届けていました。

帰りたいと。
元の世界へ帰りたいと。
この島、この学園のことも好きだけど、リヒットの居場所は元の世界なのだと。友達もいっぱいいたのだと。
《門》のことを知りたいと。
誰よりも知りたいと。
知れば、きっと帰れる手段も見つかると。

念仏のように、あるいは怨念のように、ひたすら抑揚のない声で呟き続けるリヒット。
その音声を、これまた仏頂面で頬杖を付きながら聞き続ける研究員。

 「……ええ、帰れるといいわね。私達も《門》のことはよく知りたい。けど……」

残念ながら、こんな胡乱な立体映像では《門》の謎も一発解決とは行かないのが実情。貴重な資料のひとつにはなるでしょうが。
しかし、リヒットにとってはそんなことはどうだっていいこと。

たっぷり12時間ほど映像をリピートし続け、やがてエネルギーが尽きたのか、像が霞み始めました。
そこまで来てようやくリヒットは本来の任務を思い出し、ふわりと祭壇から腰を上げました。

「…………」

バッグからペットボトル入りの水を取り出し、一口。やや疲れの滲む顔で、遺跡の奥へと進みます。
[1d15→4=4]
リヒット > 修復4.
昼食を忘れて飢えている調査員に出会ってしまった。自分たちの食料を分けてあげるなら調査員は喜んで受け取り、お礼に修復のコツを教えてくれる。(バイト代ボーナスがマイナスの結果を引いた時、一度だけプラスマイナス0にする)
その後調査員は君たちと別れ、出口に向かって帰っていくだろう。
(バイト代ボーナス+250円)

リヒット > 「ぷー」
 「……うわっ!?」

遺跡の通路の角で、何者かと鉢合わせ。
まったく動揺を見せないリヒットとは対照的に、遺跡の奥側から来た人物はやけに驚き、危うく尻もちをつきそうになっています。
さもありなん、こんな遺跡の奥で、空中浮遊する幼児と出会ったのですから。幽霊と思われても仕方がないでしょう。

 「……き、キミ……まさか、アルスマグナ先生のバイトなのかい??」
「ぷー。そう。リヒットはバイト。おにーさんもバイト?」

よくみると、出くわした青年はアルスマグナ先生と似た装いをしています。冒険用の装備ってやつです。

 「いや、俺はバイトじゃなく正社員……つーか、学園の職員だが。そ、そうだそれより、リヒットちゃん?かな? 食べ物を持ってないか?」
「ぷー」

昼飯を忘れ、死の淵というわけでもないが空腹に腹を鳴らしている調査員。
リヒットはスモックの袖からバッグを取り出し、中を漁りますが……。

「……食べ物、ない。水しかない」
 「ガッデム!!」

調査員の悲鳴が遺跡にこだまします。
リヒットは精霊です。食事の必要はないのです。なので食料はカバンに入れてこなかったのですが……どうやら失敗だったようですね。

リヒット > 「おにーさん、水、いる?」
 「い、いや……水は一応持ってるし余ってるからいいんだ。とにかくカロリー、カロリーをだな……」
「じゃあ、シャボン玉はいる?」
 「……いらない……」

地べたにへたりこみ、心底疲れた様子でぐったりとうなだれる調査員。
そんな彼を中空から見下ろすリヒットの視線も、どこか寂しげ。

 「……ホントに飢え死にしちまわないウチに俺はキャンプまで帰るから。リヒットちゃんも気をつけて調査しろよ」
「ぷー。ごめんね、おにいさん」
 「気にするなって。……あーでも、調査の進捗良くないからまた部長に怒られるんだろうなー……」

よろよろと立ち上がった調査員は、入り口へと向かってまた歩き始めました。

「食べ物、普段から持ち歩いたほうがいいのかな。でも、リヒットには買うお金がない。
 ……でも、このバイトがおわれば、お金が入る。頑張らなきゃ」

去っていく人影が闇に呑まれるのを見届けると、リヒットはまた先へと進み始めました。
[1d15→6=6]
リヒット > 修復6.
なんとどうやらここは宝物庫に相当する場所らしい。まだ手付かずの金銀財宝がほとんどそのまま残っている。ただ全部持っていくのは流石に無理だろうが少しばかりちょろまかすならば気づかれないかもしれない……。
何もせず正直に調査員に報告してもよい。君の良心が今試される。
(バイト代ボーナス+500円、財宝をちょろまかした場合さらに+500円)

リヒット > うっすら埃の積もった遺跡の通路。
徐々に奥まってきているとみえ、床にはほとんど足跡はありません……先ほど空腹に喘いで入り口を目指していた調査員の分くらい。
それを遡るようにリヒットは奥へ奥へと進みますが……。

「ぷー?」

ふと、遺跡の壁にキラリと光るものを見た気がしました。
浮遊するに任せて進んでいた身体をひきとめ、その壁のあたりに近づくと……壁面には、せいぜい幅3cm程度の亀裂が走っていました。
亀裂に懐中電灯を当てると、中でキラキラと光が反射し、目に痛いほど。何かがあります!

「入ってみよう」

リヒットはそう呟くと、壁の亀裂に躊躇なく小さな指を突っ込みました。当然、いかにリヒットが小柄だとはいえ、この亀裂を通過することはできません。
代わりに指先から小さなシャボン玉を発生させ、亀裂の向こう側の空間へと放ちました。
そして、亀裂から指を抜き取ると今度はその指を自らの額に宛てがい、デコピンのように爪の先を皮膚へと打ち付けると。
……先ほど酸を受けた時と同様に、リヒットは雲散霧消してしまいました。

またも戸惑いを見せる自動追従型カメラドローンでしたが、やがて何かを見つけたように、亀裂へと侵入していきます。
カチカチとプロペラを鳴らしながら亀裂をくぐり抜けると……なんと亀裂の向こうの空間にリヒットの姿があるではありませんか。転移術でしょうか。
そして、その足元には目にもまばゆい金銀財宝が!

リヒット > 「ぷー♪ ぷー♪」

ボケッとした表情は崩さないながらも、その鳴き声はとても楽しげ。くるくると何回も宙返りを撃ち、暗い宝物庫のそこかしこにシャボン玉をばらまいています。
精霊といえど、色とりどりの装飾品や金貨を目にして、心が躍らないはずもありません。

さて、ひとしきり嬉しがって小躍りしていたリヒットですが、すぐに平静を取り戻します。
そしてスモックの袖から筆記用具を取り出し、ここまでの経路とあったことをメモに取ります。
……基本的には絵です。拙い絵です。とはいえ道の分岐や経路、方角は正確といえます。
そして、いまいる地点の壁の横には、グチャグチャと金貨やネックレスのイラストが。見る人によってはルインワームと誤解しても仕方ないウネウネっぷりです。

「……ぷー。ここにもあまり壊れてるおたからはない。どれもキレイ」

散らばる宝物を眺めながら、簡単なシルエットの宝物を色鉛筆でスケッチしていくリヒット。
……それらに手を付ける様子は見られません。
それもそのはず、リヒットにとって宝物の類は目に鮮やかで楽しくはあるものの、価値はないのです。
この「常世島」は貨幣経済。基本的に「円」と呼ばれる硬貨や紙片以外は価値はなく、取引には使えないのですから。
ゆえに、バイトの一環として記録をつけるのみ。持ってきた自由帳いっぱいにスケッチを済ませると、名残を惜しむ素振りもなく、ここに入ってきたのと同様の方法で通路へと戻って行きました。

その様子をカメラドローンで観察していた研究員はきっと歯噛みしていることでしょうが。

リヒット > さて、財宝を見つけてからもしばらくは奥へ奥へと探索を続けていたリヒットですが。

「むー。水がなくなってきた」

カバンからペットボトルを取り出し、一口啜ったあとに確認すると、すでに内容量は半分を切っています。
水の精霊であるリヒット、食料が不要なかわりに水は人間以上に生命線です。
手持ちの水分が半分を切ったら、調査を打ち切って帰途に付くよう、研究員から強く言い含められています。
その言に従い、リヒットは自らのメモを見ながら遺跡の入口を目指し始めました。

そして、カンカン照りに陽光が照りつける屋外へと、無事帰還することができたのでした。

「ぷー。まだ明るい。もう夜になってると思ったのに」

太陽は来た時と同じくらいに天高く登っています。それを訝しむのもほどほどに、リヒットは彼の帰還を待つ研究員の元へと漂っていきます。

リヒット > クルーザーの係留してある海岸には焚き火の跡。
甲板を見れば、レトルト食品の切れ端や空のペットボトルなどが幾つも転がっています。
そして、船室の奥のほう、クーラーボックスに抱きつくようにぐったりと寝そべっている白衣姿の女性を見つけました。

「ぷー。ただいま、せんせい」
 「……んー、あ、ようやくお帰りかしら。フフッ。最悪船の中で3泊くらいを覚悟してたけど、1泊で済んだわね」
「いっぱく……?」

研究員の女性の白衣から覗く手や顔もこんがりと日に焼けています。リヒット、ようやく『島に来て丸1日経っている』ことを理解しました。
時間感覚を失いがちな遺跡の内部にいたのだから仕方ないことかもしれませんが。

 「ちゃんとバイトはできたかしら? 何か修理してきた? お宝とかあった?」
「うん。お宝、あったよ。いーっぱい、きらきら。修理するものはなかったけど、これでいいのかな」
 「しっかり調査できてるようだし、大丈夫じゃない? きっとアルスマグナ先生からごほうびをもらえるわ」

バテ気味の顔に笑顔を貼り付けながら、しかし研究員の女性はリヒットに聞こえないように舌打ちをしました。
お宝です。お宝があったのです。こっそりと回収し、お小遣いでは済まない額を手にする事ができたかもしれません。
しかし研究員の女性には遺跡に潜る度胸もありませんし、ましてやあの狭い亀裂を通り抜けることができません。なんとも歯がゆい話です。
そして、カメラドローンがリヒットを捉え続けた映像にも、これといって目新しい発見はありませんでした。

 「さあ、仕事が済んだらさっさと帰りましょう。早くクーラーの効いた部屋に行きたいわぁ」
「ぷー。リヒットも池に戻って水浴びしたい」

諦めたようにドローンを回収すると、研究員はボートのエンジンを入れ、船体をターンさせて常世島へと走り出しました。

リヒット > 船中泊により、あからさまに疲れの色を浮かべる研究員。それでも必死に体に鞭打って舵を取ります。
帰途ではリヒットは彼女に掴まる代わりに椅子にしがみつき、懸命に船の揺れに耐えています。

……耐えながら目をつぶり、暗闇に浮かぶは、遺跡内で延々と見続けたあの立体映像。
もはやリヒットの目にはあの映像はしっかりと焼き付き、細部に渡るまで克明に思い出すことができます。
古代人の呼びかけに応じ、開く《門》の禍々しさ。取り囲む人々の熱狂。その《門》から溢れでたモノ、入っていくモノ。

「……門。リヒットは、門のこと、もっと知りたい」
 「……そうね。知りたいなら、もっといっぱい、勉強しなきゃね」

呟くリヒットに、そう素っ気なく応える研究員でした。


◆報酬ボーナス:+250円(1部屋目で-250、最後の部屋で+500)

ご案内:「海底遺跡『朱夏の遺跡』」からリヒットさんが去りました。<補足:長い青髪の小人/スモック一丁/遺跡保全のバイト(修復)>