2022/10/10 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に北上 芹香さんが現れました。<補足:マフラー/ハードなジャケット/白のカットソー/チェックのスカート/ロングブーツ(乱入歓迎)>
北上 芹香 >  
ストリートで弾き語りをするにあたり。
道路使用許可申請、というものがある。
事前に申請することで許可証が貸与される。
このペラペラの証を首から下げてないと。

風紀委員に『あっこいつ不法に道路を占拠してやがる!』と言われて。
排除されてしまうのである。

しかもこのペラい証明書は常世渋谷の路上でやるには結構なお値段がする……

気分を切り替えてアコースティックギターを取り出す。
ペラいのは身分だけで十分。
今は世間に私の重厚な歌を聴かせてやる!!

寒風が吹いた。
うわ寒………10月も10日の夕方なのに…

北上 芹香 >  
ジャンッと演奏前にアコギを鳴らす。
ストリートでは演奏前にこれをやると注目を集めるって
月刊ギター道で書いてあった。

「心がざわめく 熱い叫び聞こえてるかい」
「不安はすぐそば そこに届け僕たちの声」

私が考える爽やかな滑り出しを見せてやる!!
一曲目、『スクリーマーズ・ハイ』で勝負!!

「輝きを信じて 愛を受け取って」
「今こそ────さ・け・べー!」

ジャジャンッとサビ前の盛り上がり。
この曲を作ろうと言ってくれたキーちゃん、見てて!!
(キーちゃんは今インフルエンザ)

「歌い笑い手を取り合い」
「苦い思い吹き飛ばして」
「大声で進んでいこう 光の輪の中へ」

アコギを演奏し終えてペコリと頭を下げる。

「スクリーマーズ・ハイでした」

顔を上げる。
誰も聞いちゃいなかった。

北上 芹香 >  
誰も。
聞いちゃ。
いなかった。

アコギを軽く調律してテレレテレレテレレと切なげな旋律を演奏し始める。
今日の学生諸君は明るいファイトソングという気分ではないらしい。

鬱ソングでいくか……?
それとも恋愛ソングで代官山オシャレフィーバー狙いか…?

黙っていても日は沈む。
何か手を考えねば。

北上 芹香 >  
よし……!
北上芹香は…鬱ソングでいく!!

次は直球お別れソング『アロガント・ブラック』だ!!

ジャンッとアコギを鳴らす。
くどいようだけど大事……大事ですよ…


「触れた時壊れてしまった その時に嗤ってしまった」
「鏡に映る僕らはどこまで傲慢なんだい」

「黒色に染まってしまった 指先は汚れてしまった」
「その手で触れられるものを探したんだ」

無慈悲なる黒に汚れた指先を歌う。
無垢、成長、大人、抑圧……メロディアスにキメよう。

「“Don't go away” どの口が言うんだ この悲劇は必然」
「“HELP ME,HELP ME” どうしたら言える どうしたってお別れ」
「涙に耐えて耐えて耐えて耐えて」

アコギをかき鳴らして盛り上げていく。
どうでもいいけどこの曲を作ろうと言い出したのは
お嬢様のバンドメンバーである斎藤志保ことさっちんなのは
ちょっと闇を感じる。

「許してよ僕が愛した断頭台」

じゃーんとばっちり決めて。
再び頭を下げる。

「アロガント・ブラックでした」

誰も聞いちゃいないんだけどね。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に真詠 響歌さんが現れました。<補足:茶色のキャスケット帽/ベージュのムートンコート/桃髪赤眼>
真詠 響歌 >  
秋は死んでしまった。
二日くらいの出席履歴を残して常世の島からいなくなってしまった。
四季折々の内二つくらいがそろそろ絶滅しそう。

「さっむぅい」

言いながら常世渋谷をうろついて。
寒さを紛らわせようと8ビートを刻む指。
だからだろうか、この前は聞き損ねたストリートミュージックが耳に届いた。

メッシュ交じりの黒の髪。
アコギを掲げて決めためっかわ女の子。

歌い終わっちゃった所かな、まだ間に合うだろうか。
ちょっとだけ息を切らして、音の鳴る方にかけていく。

北上 芹香 >  
もう……終わりかな…
私の夢はここで潰えるんだ……
だが忘れるな学生ども……
私が死んだとしても第二第三のワナビミュージシャンが……

とほーな感じでギターを撫でていると。

こちらに駆けてくるカワイイ系女子の姿。

「えっえっえっ」

元アイドルユニットEEの!!
tokoMODE専属モデルの!!
真詠響歌ちゃんじゃありゃせんか!?

「えっ…………」

硬直。彼女に比べたら#迷走中の戦闘力は5です。カス。

真詠 響歌 > 間に合った。多分。

「モールの方から聞こえててっ」

来ちゃった。ニヘラと笑いながらそう言いながら息を整えて。
ストリートミュージック、私が音楽を始めた場所。
そこで一人雑踏の中で吠える音に惹かれて、ここに来た。

「バンド名とか聴いても良いかな!?」

言ってみた所で女の子の顔を覗き込んで……あれ、フリーズしてる?
帰る所に押し掛けたみたいになって困らせたかな。
道路使用許可のひらひらが冬の風に吹かれて待っていた。

「もうおしまいだった?」

北上 芹香 >  
背筋をピンと立てて敬礼のポーズ。

「ハイ! 終わってます!! 青春!! 続けますが!!」

アワワワワ、バンド名!
バンド名聞かれた!? 真詠響歌ちゃんが! ナンデ!!

「#迷走中です……」

目が泳ぎまくる。
ヤバ、声が超クリア。髪がキレ―。かわいい。死ぬ。

真詠 響歌 >  
「終わってたかぁ、残念」

間に合ってなかったね。
背筋をピンと張った、如何にも"バンギャ"な女の子。

「私もストリートやってたなぁって思うと懐かしくって。
 あ、初めましてだよね。私、真詠って言うんだけど……」

結構、名乗るときに困る事がある。
本島でアイドルやってたなんて言っても知ってる人は知ってるし知らない人は知らない。
現役じゃないから、なおさらだ。

「#迷走中! いつもここで歌ってるの?」

SNSで検索してるとライブハウスでの活動なんかもしてるみたい。
『クレスニク』……どういう意味だろ。

北上 芹香 >  
「ああ、いや、その、歌は、終わってません…」
「頑張ってマス………」

ふわふわ愛されウェーブの淡桃の髪!
神に愛されたかのような赤い瞳!!
マジモンの響歌ちゃんだよ!!
ヤバ………死ぬのかな私……

「知ってる……tokoMODEの…モデルの…EEの……」

指でずっとEを描く。
まだ泡を吹いてないのが不思議だ。

「時々、かな……ここで歌うのお金かかるから」

たはーっと頭を抱えるようなモーション。
笑って。

「ちょーファンです! 握手してください!!」

両手を差し出した。

真詠 響歌 >  
「知ってくれてたぁっ、ありがとー!
あ、一緒に写真撮っても良い?」

差し出された両手をガッチリ握って。
あ、この子の手めっちゃ暖かい。

「分かる……申請許可って安くないよね」

誰も足を止めてくれない日の方が多かったし。
許可を取ってやっていても邪魔っけに見られる視線も痛い。
それでも、止められない。

「終わってないなら……じゃあリクエストしても良いかな。
 ──アガる奴!」

北上 芹香 >  
「もちろんです、私も撮っていいですか」

握手をしてから、手汗を気にした。
ああ、後の祭り。

携帯デバイスで自撮りっぽく二人の写真を撮りまくった。

「そうなんですよね……色々と準備をして、空振り。そういうの堪えます」

ということは……響歌ちゃんもストリートで歌っていたのか…
見たかったな……マジ天使だったろうな…

「わっかりましたー!」

上擦る声でリクエストを受けて。

「いきます、『波動関数☆オブザーバブル』」

ジャンッとギターを鳴らして。

「アナタを見てる たった一人のエルミート演算子」
「気づいて欲しい 恋心を秘めたガールズ観測者」

アップビートを刻む。理系ポップなアガるやつ!

真詠 響歌 >  
「もっちろーん、もっと寄る?」

ちょっと強張ったままの女の子の肩に手をまわして顔を寄せ、
二枚三枚、上側からのアングルのカメラ目線。
一番盛れるアングルも自然と身についていく。

「私もそう。やめちゃおうかなー、とか向いてないかなって思ったりもしたし。
 でも、歌いたかっただけだしね。
 褒めてもらいたかったとか、認めてもらいたいとかじゃなくて」

一人でも良かったって言ってくれた人が居た。
名前を憶えてくれた時に、嬉しかった。
それだけで、歌い続けるのには十分だと思う。

ジャン、とギターが鳴る。
これから始まる、そんな期待感の求めた通りのアップビート、
小気味良い響きが、ポップな歌がお腹に響く。

北上 芹香 >  
歌いたかっただけ。
その言葉が。
どれだけ胸を打っただろう。

私も純粋な気持ちを思い出して、歌おう。

「ψ(プサイ)の内積 下校時、随伴アドゥジョイント」
「この純情を解き明かす解法を」

「離散的にならず完全系で求めよ」

ジャジャジャッとかき鳴らして楽しく笑う。
ああ、そっか。
私も歌が好きなんだ。売れたいとか、そういうのもアリで。
でも……一番は。

「ラーブラブラブ 愛の基底」
「好ーき好き好き ベクトルは?」
「全域性のハートの実在 キミにだけ確度を増していくよ」

「キーミが好きっ」

ギターをかき鳴らしてフィニッシュ。

「ありがとうございました」

頭を下げる。
ちょっと泣きそう。

真詠 響歌 >  
ありがとうございました。
その言葉を演者に取られた観客ってなんて返せば良いんだろう。
分からない。分からないまま、痛くなるくらいに手を叩く。

「……良い」

語彙力も秋と一緒に死んだかもしれない。
遠巻きに、通りすがりに足を止めた人が見ている。
傍から見たら壊れた人形みたいに手をたたく私は滑稽かも知れない。
でも、良いじゃん。外野の視線が痛くてアピールなんてできないんだから。

「めっちゃ、めっちゃ良い……かわいい……」

キャッチ―で可愛い、そんな歌。
私のレパートリーにあんまり無いから新鮮で、それでいてよく刺さる。

北上、北上芹香ちゃん。
SNSのプロフィールを見つけると、そっとフォローのボタンを押す。
ただの一人でいい、たくさんいる人の中の一人。
彼女の歌が良かったって、それを伝えるために次回ライブの予定にもイイネ。

北上 芹香 >  
「!?」

えっ……響歌ちゃんが良いって…言ってる?
もしかして? 私の歌を?

大噴火する活火山。
九蓮宝燈を和了する私。
北上芹香祭なる謎の奇祭。
脳内映像が次々とチャンネルを切り替えていった。

「あ、あの………」
「ストリートで歌ってると、邪念入っちゃって……」
「でも、私……歌ってるのが好きだからバンド始めたこと、思い出せました」

何言ってんだろ私、とくしゃりと表情を歪めて笑った。

 
その日は夢見心地で何を話したかあんまり覚えてない。
ただ、SNSでのフォロワーに彼女の名前を見るたび。

この日あったことが夢じゃなかったことを証明された気分になるのだ。

真詠 響歌 >  
泣きそうな、でも曇りの取れたよういい笑顔。

「嫌になったり上手く歌えなくなる時ってきっとあると思うんだ」
「考えすぎたり、変に思い悩んだり」
「でも、そういう時に思い出すんだ。良かったよって言ってくれた人の事」

それだけで、頑張れる。

あの後、本当に他愛もない話をした。
そうしている内に思っていた以上に時間が過ぎていて帰宅を急かされる事にはなったけど、
叱られながらも頬が緩むくらいには、良い日になった。

『クレスニク』……かぁ、行けばまた聴けるかな?
スキップ気味に帰る足取り。冬の寒さも忘れるくらいに、胸の内が温かかった。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から北上 芹香さんが去りました。<補足:マフラー/ハードなジャケット/白のカットソー/チェックのスカート/ロングブーツ(乱入歓迎)>
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」から真詠 響歌さんが去りました。<補足:茶色のキャスケット帽/ベージュのムートンコート/桃髪赤眼>