2015/07/30 - 01:15~02:35 のログ
ご案内:「美術室」にヨキさんが現れました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた袖なしの長衣、ロンググローブ、ハイヒールサンダル>
ヨキ > (7月29日、放課後。夏休みの前日。
学生たちが出払ったあと、夕刻のしんとした美術室にひとり)
「さて……、」
(目の前の大きな机には、いくつかのモチーフがいかにもデッサン用らしい配置で並べられている。
部屋の隅からイーゼルを一台担ぎ出してきて、机の前の床にごとりと置いた。
見るからに使い込まれた道具箱を傍らに置き、椅子にどっかりと腰を下ろす)
「どんなものだか」
(タイマーを三時間後にセットする。がらんとした美術室を見渡して、人びとの姿があることをイメージする。
几帳面に削られた鉛筆の数々から一本を取り出し、向き合った紙の白さににんまりと笑う)
「――始め」
ヨキ > (鉛筆の芯が、するすると紙の上を滑る音。
紙の端々に印をつけ、大まかな形を取り、空間を紙の上に切り取ってゆく。
視線だけがモチーフと紙の上とを行き交って、左腕だけが動いている。
腕を突き出し、モチーフに向けて翳した鉛筆で、物体の大きさを測る。
獣の目には、動かないモチーフは何とも捉えづらいものがある)
「……………………、」
(紙から手を離す。
小首を傾げて、僅かに身を引き、構図のバランスを見る) [1d10+2→10+(+2)=12]
ヨキ > 「……こんなものか」
(モチーフを並べ直す必要はなさそうだ。
ひとたび席を立ち、机から離れて、品々が置かれた位置を見る。
人が増えたならば机の台数を増やせばよい話だが、少なくとも、それらは誰にとっても見やすい配置でなければならない)
「敷居を上げては、壁になってしまうものな……」
(呟いて、椅子に戻る。
鉛筆を握り直し、再び紙に意識を戻す)
ヨキ > (鉛筆を走らせ、ときに小刀で芯を削り出し、硬さの異なる鉛筆に持ち替え、描き進めてゆく。
均等なストライプ柄が波打って描き出すランダムな模様、光沢と非光沢、有機物と無機物……)
「…………。リンゴが」
(食べたい。
これ以上はデッサンどころか、空腹と向き合う羽目になる。多くは言うまい。
金属と生きる性質のためか、つややかなステンレスの表面を描き出すのが何となしに気に入っていた。
硬い鉛筆の芯が、くっきりとしたコントラストを重ねてゆく。
だがケトルばかりに心を注いでは、せっかくの構図がバランスを失ってしまう。
いずれのモチーフをも均等に、少しずつ、紙の上に質量を描き出して重ねる) [1d10+2→5+(+2)=7]
ヨキ > (ぐう、と小さく腹が鳴った。
描き慣れた身にはよいが、三時間というのは長いようで短く、短いようでいて長い。
描きすぎず、薄すぎず。
鉛筆の濃淡で、リンゴの赤色を浮かび上がらせる。
実際のところ、ヨキには彩度の区別があまり付かなかったが――リンゴとストライプの黒が異なる色をしていることは、判る。
前に出すぎず、後ろに下がりすぎず。
モチーフの位置は動かない。それらの前後左右が空間を形づくっている。
ケトルとブロックの間に、ブロックに空いた穴の中に、波打った布のドレープの中に、空気がある。
練り消しが余計な黒鉛を拭い取り、ハイライトを浮かび上がらせる) [1d10+2→2+(+2)=4]
ヨキ > (深く目を瞑る。顔を上げる。時おり描いたものを大胆に消して、描き直す。
画用紙に刻まれた鉛筆の跡は、消し切れるものではない。
構図を取り、筆跡を重ね始めたが最後、不可逆だ。
椅子から離れ、遠目から紙を見る。
描いて、消し、描き直して、また消し、新たに重ねる。
凝りそうになる腕をぐるりと回して、壁の時計を見た。
制限時間は半分を過ぎている)
「……やれやれ。時間が過ぎるのは早いな」
(普段、人と会話を交わしているときほどではなかったが。
ほんの細やかに描き入れたタッチが、硬いブロックに重みを与える。
描きながら、どこかしら巧くいくこと。大きな画面を相手取るに、それが飽かずにいられる支えになる)
ヨキ > (時間が差し迫ってくる。
作品の評価は、まず描き終えることから始まる。
絵を始めた当初は、自分がどれほどのペースで腕を動かせるかも判らずに、よく中途で断念した。
この一分一秒という時間の概念も、獣のうちには意識などしたこともなかった)
(手を止めて、絵を見る。逡巡は最小限に、先へ先へ。
大きな画面のうちに、手を動かしただけの時間が浮かび上がってくる。
水分を摂って喉を潤し、集中の糸を撚り合わせる。
明日もきっと暑くなる。扇風機が必要だな、などと、意識の隅で考える)
(あと少し。
この布の細やかな繊維に、もう少し手を加えたい――) [1d10+2→10+(+2)=12]
ヨキ > (息をつく。紙から鉛筆を離す。
これ以上重ねるのは蛇足だ、と思えたところで、左手を降ろした。
再び時計を見る。まだもう少し、時間は残っていた。
消しても戻ってこられるほどには余裕がある。
どことなく空気の滞留したような画面に不満は残るが――消したとて、余計な汚れを残すばかりとなるだろう。
画用紙の持つ凹凸を、むやみに磨耗させる訳にはいかない。
鉛筆を箱に戻す。道具箱の蓋を閉じる。
そこでちょうど、時計のアラームが鳴った。ピピピピピ、と早口に鳴り響くそれを、手早く切る)
「――そこまで」
ヨキ > 「……………………、」
(腰掛けたまま、床の上に足を投げ出す。半眼になって、紙をじっと見る――苦笑する。
あるいは、美術部員の方が巧者とも知れなかった)
「とりあえずは……こんなところか」
(指を組み合わせ、腕を伸ばすと、肩が鳴った。
ごきん、と小さく響く音は、なにやら鉄骨めいていた)
「…………。うまく行くといいんだがな」
(女子を装って茶会を仕掛けるような悪戯とは、訳が違う。
やれやれと立ち上がりながら、ふと机上を見遣る)
「……明日からは、新鮮なリンゴを用意してやろう」
(椅子を立つ。画材を片付け、大きなモチーフを残して荷物をまとめる。
ブロックの上に置いたリンゴだけをひょいと手に取ると――
しゃくりと小気味よい音を立てて、夏の室温に生温くなった実を躊躇なく齧った。
日の長い一日とて、そろそろ外は暗い。
道具箱を相棒のように携えて、美術室を後にする)
ご案内:「美術室」からヨキさんが去りました。<補足:人型。黒髪金目。197cm、拘束衣めいた袖なしの長衣、ロンググローブ、ハイヒールサンダル>