2015/08/11 - 01:53~01:58 のログ
ご案内:「落第街の空き地」にクローデットさんが現れました。<補足:やや暗めの銀髪に青い目、ゴシックロリィタスタイルの人形のような美貌の女性。手にはやや小振りの羽根扇子、腕には公安委員会の腕章。>
クローデット > クローデットの故郷にも「バカンス」というものがあるが、本業と趣味が限りなく近いクローデットにとって、それはどうでも良い事だった。
通常通り研究を行い、通常通り実験を重ねる。あえて言うならば、授業が無いので時間には多少融通が利く…という程度だろう。
それも、新しい知識を吸収する機会をある程度犠牲にした上で、という話だが。

そんなわけで、クローデットは授業が空白になる分の時間の過半を落第街の調査、巡回に割いていて、今日もその一環に過ぎぬ、ただの黄昏時…の、はずだった。

しかし、どうやら余計なものを引っかけてしまったらしい。
3つ、4つ、5つ。ゆらゆらと、人型の黒い影がクローデットの周囲で、高さと質量を伴って揺れている。

(………『魔術師喰い』でしたかしら?)

探査魔術が未知の、不穏な気配を察知したので、人通りの多い地域を、住人の敵意を受けつつ迂回してきたのだが、どうやら自分が一番の『御馳走』だったらしい。
不穏な気配は、離れるどころか増えていた。

…しかし、クローデットは動じる事が無い。
優雅に顔を隠す羽根扇子。その影で、笑った。

クローデット > 影の1つが、まるで光を受けて伸びる影のように、その身体をクローデットの方に伸ばしてくる。その片腕を、鎌のように変形させながら。
その鎌の影が、クローデットの頭にかかるか否かのところで、クローデットが鎌の方に向けてその手を伸ばした。

『光の剣(エペ・ドゥ・レイヨン)』

その手から、丁度鎌と化した影の腕と同じくらいの太さの光線が伸びる。
光線は、「魔術師喰い」の鎌と化した腕を綺麗に切り飛ばした。

その背で、別の「魔術師喰い」がクローデットに向けて突進してきている。

クローデット > クローデットのブーツには脚力強化の術式が仕込んであるが、クローデットが戦闘でそれを活用する事はさほどない。
素早く反応して、対処するべく適切に身体を動かす。
そのような訓練を、彼女は積んでいないのだ。

ただ、クローデットが突進してきた「魔術師喰い」に向けて視線を投げると、クローデットの周囲に、透明な球状の障壁が展開され、人型の影が弾き飛ばされた。

(障壁から魔力が吸収される気配無し、獰猛な攻撃性…恐らく「捕食タイプ」でしょう。
………外れですわ)

「吸収タイプ」であれば、新たな「僕」の力と魔力の吸収、どちらが上回るかぶつけて楽しむ事も出来たが…「捕食タイプ」の場合、喰われて糧となって終わりの可能性が高い。

(…まあ、おかげで心置きなく「憂さ晴らし」が出来ますけれど)

羽根扇子の下の唇の端が、下弦の月のようにきゅっとつり上がる。

クローデット > 障壁は、具現化させているだけで魔具に蓄積された魔力を消費していく。
クローデットは、一旦障壁を消した。
どうせ実際に攻撃されても暫くは自動で無効化してくれるので、問題は無い。

『地の怒りよ、我が敵に牙を剥け…「大地の牙(クロ・ドゥ・テール)」!』

地面を滑るように飛びかかってくる、「魔術師喰い」の群れ。
まさに、丁度その身体に突き立てるかのように…地面から、尖った岩が飛び出してきた。

「………!」

声にならぬ悲鳴を上げるかのように震えながら、人型の影が串刺しになっていく。
串刺しを免れたのは、5体いたうちの1体だけだった。

「………さあ、どのように料理して差し上げましょうか?」

そう、残った1体に向け、若い女性らしく澄んだ美しい声で朗々と告げる。

すると、最後の影は、影のようにのっぺらぼうな顔の下部に、口のような「穴」をぽっかりと開けると…そこから、金属音のような音で「叫んだ」。
その不快な響きに、楽しげだったクローデットの眉がしかめられる。

クローデット > すると、串刺しにされた影達の形が、崩れていく。
崩れた黒は、声を発するもののところに吸い寄せられ、その黒を吸い集めて、影はどんどんその大きさを膨れあがらせていく。

最終的に、影は全て統合され、背丈が3〜4メートルはあろうかという影の巨人となっていた。

「ーーー!」

その巨大な影が、咆哮した。
その声は明確な音として大きいわけではなかったが、それでも、空間をずいぶんと震わせた。

「…このような情報、ありましたかしら?」

羽根扇子を閉じる。そこには、花の綻ぶような、淑やかな笑みがあった。

「…「外れ」は、撤回しても良いかもしれませんわね?」

クローデットは、事ここに至ってなお、同様などしていなかった。

クローデット > 落第街に、奇跡のようにぽっかりと空いたこの空間はさほど広くはない。
しかも、そこに岩をいくつも隆起させてしまったせいで、クローデット自身がいよいよ動きようがなくなっていた。
それを見透かすかのように、巨大な影はその両掌を、合掌するかのような動きでクローデットに向けて伸ばしてくる。
どうやら、クローデットをその巨大な掌で圧し潰すつもりらしい。

圧し潰す、というのは継続的な攻撃だ。
その攻撃を受けている間、自動発動でも魔力は、術式は損傷を受けていく。
…何より、侵襲を受けたままでは気分が悪い。
クローデットは再び障壁を展開させ、黒く巨大な掌を受け止めさせた。

(…凄い力…全部の魔具を合わせても、15分が限度かしら?)

それでも、クローデットは動ぜぬまま、障壁に守られた中で魔術を展開し始めた。

クローデット > 影は、その両手により力を籠め始める。障壁が軋んだ。
それでも、クローデットは余裕を崩さない。

(…まあ、15分もあれば、十分でしょうから)

『鋼よ、その質量によりて我が敵を圧し潰せ…「鋼の大槌(マッス・ドゥ・アシエ」!』

実際、クローデットが悠々と状況を確認して…呪文を唱えるまで、1分かかったかどうかだった。
その瞬間、影の1.5倍の高さと、2倍の底面積を持った金属の円柱が影の頭上に現れ…そして、瞬く間に落とされたのだ。

ズン…と、地響きが鳴る。
影は、その巨大な塊に呑み込まれるかのように、潰されてしまった。

クローデット > 障壁ごとクローデットを圧し潰さんとしていた黒い両腕が、力をなくして崩れ落ちると…そのまま、黒い塵となって霧散する。

「「魔術師喰い」の最期…情報通りではありますが、一応、頭も検分しておきましょう…『浮遊(フロッテゾン)』」

そう唱えると、巨大な金属の円柱がふわりと宙に浮かび上がる。
金属の塊を魔力に還してしまわないのは、万が一生き延びていたときに念入りにすり潰すためだ。

しかし、心配は杞憂だった。
黒い「何か」が平べったくなっていたのを確認したのも束の間…その「何か」も、やはり黒い塵となって宙に消え、何も残らなかった。

「…討伐完了、ですわね」

クローデットは、とびっきりに満足げな笑みを浮かべた。

クローデット > 地響きを聞きつけたのか、周囲を巡回していたらしい風紀委員、公安委員が姿を見せ始める。
公安委員会の腕章を見て、姿を見せた公安委員の1人がクローデットの方に近づいてきて、何があったのかと尋ねる。
彼の視線は、クローデットとその周囲ー尖った岩が何本も突き出し、巨大な金属塊が浮いている、奇妙なオブジェのような光景を不安げに彷徨っていた。

「お騒がせして申し訳ありません…「魔術師喰い」と遭遇致しましたので、見晴らしの良い場所で交戦しておりましたの。
無事に殲滅出来ましたので、ご安心下さいませ」

尋ねてきた公安委員の不安げな表情をよそに、上品な笑みを浮かべるクローデット。

「その際、今までの報告に無かったと思しき動きがありました。
情報提供の必要があるかと思います…それと、」

ちらり、と視線を逸らす。そこにあったのは、薬物濫用の後と思しき焼け跡だった。

「『このような地域』でも、土地の所有者、使用権を持つ方はいらっしゃるでしょうから…騒いでしまったお詫びに、『ご挨拶』に行く必要があるか思います。
その準備も必要でしょう?」

相変わらず、その顔には上品な笑みが刻まれている。

落第街で、公安委員が『挨拶』に行く意味。
その点は嗜めながらも…その公安委員は、クローデットの理屈を正面から否定する事が出来なかった。
「落第街」は、公式には「存在しない」ことになっているのだから。

クローデット > 否定されないことを、「肯定」として強引に受け取り、人形のように整った顔に瑞々しい笑みを浮かべてみせる。

「ありがとうございます。
「魔術師喰い」に関する情報提供の整理もしなければいけませんし…何より、こういった案件は本来風紀委員の方々の職分でしょうから、あたくしは一旦失礼させて頂いてもよろしいでしょうか?」

当然、公安委員の彼も基本的には職分の外である。
風紀委員に尋ねたらどうかと促されたクローデットは、風紀委員の1人—クローデットとさほど変わらぬ背丈の、眼鏡をかけた青年の方に向かうと、

「「魔術師喰い」は死滅すると黒い塵となって霧散しますが…現場には何か残っているかもしれません。
学生の安全に関わる事ですから…これ以降の現場の調査を、風紀委員の皆様にお願いしてもよろしいでしょうか?実況見分は、必要であれば「一学生として」喜んで協力致しますので」

と、柔らかな微笑で尋ねる。
風紀委員の青年は警察機構でいうところの鑑識に相当する役職だったようで、進んで任されてくれた。

「ありがとうございます…それでは、あたくしで力になれる事があれば、及び下さいまし。
………ところで…現場保存の観点で考えて、魔術の行使跡はどうしたらよろしいかしら?消す事も、残す事も出来ますが…「浮遊」の魔術をかけたままにしておくのは少々魔力に負担となりますので、完全に消してしまうか、出なければ一旦「あれ」を下ろしてしまいたいのですが」

と、閉じた羽根扇子の先で、浮遊する巨大な金属塊を示して。

クローデット > 風紀委員の青年は、調査の際に必要であればこちらで「動かす」ので、下ろしてそのままにしていって欲しいと話した。

「承りました」

そう、クローデットが静かに頷くと、金属塊は、先ほどの地響きが嘘のように、静かに地面に降りた。

「それでは、後の事はよろしくお願い致しますわね」

現場で、風紀委員達が慌ただしく動き始める。本部の部署に連絡を取っている者もいた。

公安委員の権限は常世学園の体制に危険を及ぼす範囲に基本的には限られている。魔物騒ぎに出る幕は無い。
クローデットは、悠然とその場を後にした。

その空き地は、調査が一段落するまで暫く立ち入り禁止とされたという…。

ご案内:「落第街の空き地」からクローデットさんが去りました。<補足:やや暗めの銀髪に青い目、ゴシックロリィタスタイルの人形のような美貌の女性。手にはやや小振りの羽根扇子、腕には公安委員会の腕章。>