いわゆる禁書やかつて焚書の対象となった書物群、他にもいわくつきの魔導書など力のある書物が収められた書庫。
図書委員以外の生徒は特別に許可を得なければ普通は入れないものの、何かしらの魔導書などの力により迷い込んでしまうような者もいるようだ。。
また、力ある書物が揃っているために怪異が発生するなどの噂もある。
毎年一月には図書委員会の中でも特に禁書を扱う「禁書管理員」の生徒や教師による書庫蔵書整理が行われる。
危険が伴う業務であるため基本的に秘密裏に実行され、このときに蔵書の再封印や修繕なども行われる。
参加者(0):ROM(1)
Time:07:12:23 更新
ご案内:「禁書庫」から藤白 真夜さんが去りました。
■藤白 真夜 >
珍しいことに私の中には、侮蔑や怒りが蟠っていた。
私がそれらを感じるのは、まず自身に向けたものになって他者に向かないからだ。
私の自意識は低く──そして、“コレ”はそれだけに愚かだと私は想っていた。
「……なぜ、なぜ求めたのです……。
祈りは、求めるものではなく。
ただ捧ぐものであるはずなのに……。
神の……──真なる愛など、何処にも無い。
ただ己が内に在るそれを信ずるに留めたのであれば貴方は──」
目元を覆いながら、届くことのない忠告を呟く。
仮に届いたとしても響くことの無い言葉だった。彼は、完全に“その存在”を確信していたのだから。
同時に、私は彼を侮蔑する資格もなかった。
私はこれに頼り、これに習い、これに近しい者であるから。
罵りめいて吐き捨てた言葉はしかし、ただ己に向けられたものだった。
神聖なるものの堕落。
愛ゆえの確信。
そしてそのおぞましきこと。
私は、それらを全て身に着けた。
元より知ってはいた。だから……出来る。
……ただ、己が欲望のために。
儀式の準備は、整った。
■藤白 真夜 >
「──……」
読み進めるうち、冷や汗が止まらなくなる。
ただの狂気が並ぶ呪術書などよく見るもので、私も慣れていた。
しかしこの人間にとって、残虐な行為の意味が違うのだ。
それは神を求める“祈り”と違わず、その愛を求める行為だったのだから。
じき、拷問めいた“祈祷”には、魔術的な要素が増え始める。
ありとあらゆる方法で愛を検証するために。
それは、聖書のような清らかさで書かれた。
そして、魔術書めいた密やかさを孕み……。
ついに、禁書のおぞましい実体を得ていた。
頁を進めるにつれ、それに籠められた愛という名の呪いが湧き上がる。
魔術的な呪いの補充と、おぞましい“方法”を知ること。
……それが、私の求めていたものでもあった。
結果から言えば、大成功なのだろう。これならば私の儀式にも足りる。
しかし──
(なぜ……)
本をやっとのことで読み終えた私は、後悔していた。
なぜ、こんなものを見てしまったのかと。
■『祝福』 >
■■をえぐりとり、■に捧げた。
足りない。届かない。まず、愛が足りないのだ。
賛美歌をうたい、祈りを捧げながら行おう。
……そうだ、■■にもその資格が必要であるはずだ。
愛と祈りに満ちたもの。
それらを■してこそ、はじめて神の目に留まるはずなのだ──
■藤白 真夜 >
呪術書と言われてはいたが、文体は酷く平素なものだった。
むしろ、読むものへの共感と教導を感じる触れやすいものだ。
何よりも、筆者の“愛”を一途に求める姿勢は、私にも理解できた。……それは、私には絶対に無いものであったから。
しかし、その一種優しさすら感じたまま、この呪術書の本懐が始まった。
「……う……」
思わず、声が出た。
その優しさや愛を秘めたまま、彼はおぞましい凶行を繰り返した“記録”が残されている。
彼は、それが軌跡であり、歴程であると信じているようだった。……信じてしまった、というべきか。
ただの殘酷な絵面や行いには慣れていたけれど、それを神聖な行いだと確信して行われる狂気は、私にも些か堪えた。
■『祝福』 >
私は、奇跡を見た。
見るも無惨に蕩けたスープのようになった躰が、元通りになったのだ。
アレは間違いなく死んだはずだった。
罪人に下す天罰の秘跡。
高位司祭の操るその術式は流れる河のように淀みなく施され、青白いいかづちが罪人を溶かした。
なのに、あの女は生きている。
泥を啜り、男を誑かし、あらゆる悪徳を成したあの女が──聖なる奇跡に耐えたのだ。
有り得るはずの無い事実。死者の蘇生。
間違いない……あれこそが、神に愛されたものなのだ。
あれこそが、真なる愛の証明だ。
ひとを創造し、故に不滅の愛が宿る魂。
わたしは、それを求めたのだ。
■藤白 真夜 >
禁書庫には何度か立ち入ったけれど、やっぱり苦手だった。
胸は重く、どこから見られているような気がして落ち着かない。
事実、私は以前魔術書に自我を絡め取られよくわからない場所に飛ばされたことまであった。
……なのに、今はそれらの危険を何一つ考えられなかった。
ただ、眼の前に在る書見台に開かれた本を食い入るように見つめるのみ。
悪名高いその呪術書の名は『祝福』とのみ在った。
触れる前から呪いなのか魔力なのかすらわからないモノを垂れ流すそれに、魔力遮断の手袋に呪い避けの眼鏡になんだかよくわからない現実を視るという触れ込みのお守りまで持ってきて霊的防御は万全。
しかし、いざ頁を開くと……そこに書かれているのは、宗教書か、一種の聖書のようなものだった。
ただ只管に、“真なる愛”という概念を解説しているだけだった。
彼か彼女か解らないが、筆者はどこかの教会で下働きをしていたらしい。
その時見た、“ある処刑”を切欠に、……おそらく、……彼は完全に、発狂した。
■『祝福』 >
私は、奇跡を見た。
この本を紐解くものは、必ずや祝福か、あるいは真なる愛を求めているのだろう。
嗚呼、我が同志よ。同じ空を、同じ刻を見ることはなくとも同じ愛を求めるともがらよ。
これは、我が人生を以て遺した真なる愛への軌跡である。
ついぞ私はそれを見られはしなかったが、我が求道が貴殿らにほんの少しでも……光へ届く兆しとなることを祈る。
はじめよう。
これこそ、我が真実を求めた歴程なり。
私の見た祝福の再現。
──我が神の愛の証明である。
ご案内:「禁書庫」に藤白 真夜さんが現れました。
ご案内:「禁書庫」から清水千里さんが去りました。
■清水千里 >
『おまえは人の子を救おうとしているのか? 決して救われえぬと知っているのに?』
「だからこそだ」
『おまえには、自らの引き起こす結末さえ見えているのだろうな』
「この世に何もなかった時代よりは、決して悪いものではないさ」
清水は筆を置いた。「終わったぞ」
『ああ、心安らかなようだ』
「できれば面倒事を起こさないでくれるとありがたいんだがね」
『それはできぬ。お前の趣味と同じく、私とて余興を必要とするのだ』
「知っている、ただの愚痴だ」
『いつかまた会おう、全てを知る者Eurusよ。東の風過ぎ去る後のことは、知らないほうがいいことのひとつだろうから』
■清水千里 >
「その結末は滅びか?」
『人の子はいつか滅びるものだ――おまえのようなものと違ってな。おまえに滅びはない。
おまえの命長きことの前では、滅びですら終焉を迎えるだろう』
「褒めてもらえてうれしい限りだ」
『よせ、そのような人の子じみたことは。おまえと話せて、私はうれしく思っているのだ。
知る者は常に孤独だ。そうでない者にとっては、世界は驚きと歓びで満ちているのだろう。
おまえがかつてそうだったように。イースの偉大なる種族の精神としての記憶は、
お前を成す重要な要素のひとつのようだ。おまえはすべてを知って後悔したか』
「君は後悔したのか」
『いやなやつだ、知っているくせに』
「もちろん、私はそれを知っていた。君は私について知らなかったようだが」
『私でさえ知らないことはある。知らないほうが興味をそそられることとてあるのだ。
げんにおまえが私に触れるまで、私はお前のことを知らなかった。
だがお前は違うようだ。だからこそ不思議なのだ、おまえがそこにいることが。
人の子とて不思議に思うだろう』
「彼らはみな、わたしがイースの偉大なる種族だと思っている」
『なんと愚かな!』
「それでよい時もあるのだ、君も言っただろう、知らない方がいいこととてある」
■清水千里 >
『おまえが異形の者だからだ』
清水は、その写本が書かれたものと同じインクと、同じ紙、同じ筆を用意し、本をめくって破けたページの修繕を始める。
「それが分かっているなら、この作業に素直に従ってほしいものだ」
『私は多くの時間を生きてきた。人間、いや、多くの知性体にとって想像もつかないような長い時間をだ』
清水は、それを描いた者の筆跡を、いや、まるでその存在そのものであるかのように修繕を進める。
『だからこそ不思議だ。奇妙で、怖ろしいとさえ思えるほどだ。私を記述した者はお前ではなかった。魂の器を感じればわかる。にもかかわらず、お前は私を知り尽くしているように私をえがく』
「なぜだろうか?」
『謙遜することはない、全てを知る者よ。おまえは私以上の存在かもしれぬ』
「おそらくそうだろう」
『だとしたらなぜおまえはひとの姿などとっている? なぜ小娘の姿などとって、ひとの世でつまらぬ余興さえ演じている?』
「ただの趣味だといったら?」
『認めよう、私とてたんなる興味から愚かな子羊たちに分不相応な奇蹟を与えることさえある』
■清水千里 >
「さてさて」
この手の依頼はいつもというわけではないが、よくあることだ。
それでも、禁書管理員の資格を持つ者も多く在籍する連絡室作戦課たる"Carcosa"が匙を投げることは珍しいことだった。
こういう時は清水が後を引き継ぐことが決まっている。彼女が今までに失敗したことは一度としてない。
「なるほど」
そうつぶやいて、彼女は本に触れる。
『――誰だ、お前は』
「誰だ、はひどいな。こっちは君のキズを直しに来たというのに」
『お前は人間ではないな』
喋る本は珍しくない。といっても本が口を持ってしゃべるのは少数で、
大概は接触によって知的生命体の精神に干渉するのだ。
「珍しいかい?」
『いや』と本は否定した。『言葉のあやだ。ここに来てからというもの、様々な存在が私にコンタクトを取ってきた。私はつねに、それらの存在に苦悩と破滅を齎してきた。だが今はそうしていない』
「それはどうして?」
■清水千里 >
常世島の禁書図書館には、世界各地から取集された多種多様な異形の書物が揃う。
紀元前25世紀エジプト古王国、2世紀アケメネス朝ペルシア、8世紀イースト・アングリア、
13世紀元、18世紀フランス、20世紀アメリカなど……時代も場所も様々で、中には人類文明勃興以前の遺産もある。
禁書と聞いて色めき立つ人間も多いが、ふつうそれらの好事家を遠ざける文句として使われる「危険」以上に、
それら禁書は一般の人々にとっては難解であるものが多い。
それは禁書の執筆者たちが必ずしも知識の伝播を目的としていなかったからで、そのため一部の禁所は破損または汚損していたり、そうなりやすくなっていたり、あまりの”難解”さゆえに同言語圏の人間でさえ解読できなかったりする。
そしてまた、それでは困るものもある。
『委員が破損してしまったものだ。戦闘中に』
「戦闘」
『君たちなら修復できると聞いた。ここにあるものの中でも、最も危険な禁書の一つだが』
そうして連絡室に本庁から依頼が持ち込まれたのだった。