学園地区に存在する学園立の大博物館。
「地球」はもちろん、《異邦人》の協力も得て、《異世界》に関する展示品までも収蔵した非常に規模の大きな博物館であり、現代の「地球」においては最大規模となる。
「中央館」、「東館」、「西館」の三館があり、どれも複数階で構成される現代的な外観を持つが、内装などは階や展示によって大いに異なる。また、それぞれに休憩室やカフェテリアを持つ。学園草創期の「中央館」は帝冠様式の建築であったが、後に現在の形に改められた。
「中央館」は主に「地球」に関する展示、「東館」は《異能》や《魔術》を中心とした現代をテーマとした展示を主とし、「西館」は《異世界》の展示が中心となっている。特集展示はテーマに合わせてそれぞれの館で催される。
地下には一般に公開するには危険なアーティファクトなどが保管・封印処理されており、時折奇怪な現状が発生しているなどとも噂されている。
基本的に、学生・職員の入館料は無料である。
「西館」の収蔵品については大部分がレプリカとなる。《異世界》から多くの資料を集めることは、現実的にまず不可能であることがその理由。レプリカの作成には《異邦人》の協力が欠かせない。
「西館」は展示内容に合わせて内装が頻繁に変わり、展示される《異世界》の有様が再現されるため当博物館の名物となっている。《異世界》について体系的な資料を得ることは困難であり、再現には《異邦人》個人の記憶によるところが大半であるため、正確性には欠ける場合もあるが、《異世界》の文化の一部を展示し、「地球」の人々に知らせることを第一義としているため、ある程度は度外視される。もちろん可能な限りその《異世界》についての情報は収集される。
博物館の管理運営は主に《図書委員会》が行うが、大規模な博物館故に別途学芸員や職員を雇用している。学生・教員が学芸員となるためには常世学園にて博物館プログラムを履修し、かつ試験に合格する事が必要となる。既に学芸員(あるいはそれに相当する)資格を持つ者の場合は試験のみを必要とする。
また、地下のアーティファクト保管庫において封印処理などに従事する「遺物管理員」は、扱うものの危険性から一般職員よりも更に厳しい試験や審査が行われる。
参加者(0):ROM(1)
Time:08:28:59 更新
ご案内:「常世博物館」から藤白 真夜さんが去りました。
■藤白 真夜 >
「……、……び、びっくりしたぁ~……」
しばらく、波打つような鼓動が落ち着くまで、立ち去る彼女の姿を呆然と見送った。
彼女が立ち去ってから、ようやく呼吸が始まった気がした。
未だに、くちびるに触れた感覚が残っている。……もう、指のものなのか別のものなのかすらわからない。
「……なんで、これにしたんだろう……?」
不思議と、あの絵画を見返した。
それは、タロットカードの元にもなった。表でも裏でも、悪い暗示を齎す。
私も、これを見ると少しそわそわする。もちろん、意味を知っているからだろうけれど。
それは、結集の証でもあったが同時に挫折を意味している。
……考えても、仕方がないか。何より、今は頭の中がいろんなことでぱんぱんだった。
6割くらいは、自分をばかばかと罵り続けている。
その残りは──
「……腰、抜けたかも……」
何故か初対面の相手をそうでないと思い込んで、なんとか耐えていた恥じらい的何かのオーバーフローなのであった……!
ご案内:「常世博物館」からノーフェイスさんが去りました。
■ノーフェイス >
「フフフ、キミは思ったより悪いコかもな。
そのままイっちゃっても良かったかも」
なにを笑ったものか、見下ろす眼は細められた。
儚い花の姿のおく、真っ赤な顔の裏側に、宿る血潮、熱、思い。
ただうずくまるのではなく、道の正否に関わらずも進もうとするすがた。
それにふれられて、その奥の輪郭すらもふれることはできなかったけど、
ひどく愉しそうにころころと笑った。
弱さには、興味がない。
進もうとする強さと笑顔、それを支えるものにこそ。
女はエンターテイメントを見る。強者の作法を望むのだ。
「ん」
唇のまえに指を立てて。
今更なことだけど、ほんとにちょっとしたお尋ね者。
お騒がせの悪ガキは、そう、とっても形にこだわる。
……そんな気取った仕草が、ふいに。綻んだ。
聴きにいく、と、そのことばに。
嬉しそうな表情は、ひどく、そう、
不自然なほどに自然なものだった。
「ありがと。最高のショウにしてみせるよ。
……真夜がいっぱいに満たされますように!」
手をふって、悠然とその場を辞した。闇の衣に、血の色が畝る。
彼女がやろうとしている、面白いコトの手助けになれれば最高だ。
■藤白 真夜 >
「……え、……?」
その言葉の意味は、わかるつもりだった。
……というか、口説き文句のような、それ。
赤面だとかそういうものより、困惑が先に来る有様。
それでも、さすがに顔を見つめられたまま言われれば、意味くらいわかる。
……貞操などというものは無いつもりだったけれど、そう見られていることに赤面した。
きっと、彼女の髪があんまりに赤いから。
彼女の言葉は、……奔放なようで優しいと思った。たぶん、優しくは無いんだろうけど、私からすれば。
だから……その“熱”のようなものに、私はひどく驚いて。
……でも、その揺らめくような熱い眼差しを、ただ見つめていた。
「あ、……」
近づく体温に、私の体は退いて、なのに逃げるでもなく距離は近づいた。
……ずっと、釘付けにされた瞳はそのままに。
制止の呼びかけすら、声にならない。
今喋っては、くちびるが触れてしまう気がしたから。
彼女の言葉は届いていても、頭は動かなかった。
あまり動かないはずの心臓が、酷く動悸している幻覚を感じている。
……言葉通りに、何かを剥ぎ取られたかのように真っ赤に顔が染まる。
真っ先に目を閉じたいはずなのに、それはなぜか出来なかった。
覗いてはならない何かを、覗き込んでしまうように。
触れ合うその肌と肌の感覚を、予感するだけで……悪いコトをしているような背徳感。
でも、だからこそ……甘やかな繋がりが──
「……!」
いよいよその瞬間に目を閉じて身を委ねよう──なんて考えは、驚きで消し飛んだ。
「あーっ!
……えっ? じゃ、じゃあ、あなたが……」
……頭の中身が追いついていなかった。顔はまだトマトみたいに赤いし、心臓のような何かが喧しい。
それに気づかぬ己の愚かさに声を上げながら、その自己紹介の意味を知った。
“塔”を見つめる。そう、これではなかった。
「……はい。
そ、そのコツは、私にうまくできるか、わかりませんがっ。
……聴きにいきますね」
乱れた髪を抑えながら、問いかけに頷いた。
ちゃんと、聴きに行こう。そうすれば、私の中で腑に落ちないものは、きっと無いはずだから。
……そのコツが実現出来るかは、まだそわそわとして赤いその顔が物語っていたけれど。
■ノーフェイス >
「そうかもね。 不器用……というより、それを隠せないコ。
キミもそうだ。かっこつける余裕がないんだね。
気をつけなよ。 そういうコを満たしてあげたくなる手合はどこにでもいるから。
歓びがどれくらいでいっぱいになるのか、そのときどんなカオを見せてくれるのか」
左手の指先は、女の指にしては硬い。
演奏者の指先だ。それが顎に痛みを与えないように擽る――摩擦する。
ふれあう。
「それはボクの場合、相手のためじゃなくてボクだけのために。
ヨワってるとこ優しくしたら陥ちるかなーってヤツ」
戯けて笑って、少しだけ顔を離す。
名乗った少女の顔貌すべてを、しっかりと双眸で把握する。
「イイね」
笑顔に、確かに呟いた。そのちょうしだ、と。
「悪い音楽は何ぞやとさっきキミはボクにたずねたな。
曖昧なこたえしか返せなくって申し訳なかったんだけど……。
……黄金の時代、名盤がつぎつぎと生まれ、歴史がかがやくときは。
たいてい、治安がめちゃくちゃに悪くなってるものなんだ。
荒れた心の飢えこそが、至高の芸術を産む、とも取れるが……」
そこで一端、言葉を区切った。
口元の笑みが深まる。優しさ、柔らかさの内側から。
抑えきれない、双眸が示す炎の熱が滲むような、獰猛な色が滲む。
「カルチャーを創るのは聴く側だ」
顎を指先で下からわずかに押し上げた。
「脱いで。まずは羞恥心」
長椅子のうえで体重が動いて、距離を詰める。
「理性も」
額が触れ合うほどに寄って、
「道徳も」
覗き込む。
「ぜんぶ脱いだときに、のこった場所で受け止めて」
その距離ならこれで十分の、かすれた小さい声で告げて、
覗き込んだ顔と顔がほぼ零に。
――なった後に、立ち上がった。
■藤白 真夜 >
「あ……」
彼女の笑顔は、想像していたのよりずっと柔らかかった。
私はといえば、表情なんて気にする余裕もない。
ただただ、自分を否定し、なのに自分を貫く……自己矛盾めいたものを口にするだけでいっぱいいっぱい。
でも、彼女の言葉に呆気に取られるように苦悶は過ぎていった。言われた通りの、シブい顔は。
「……」
言われたことは、解るはずだった。
誰かが得をすれば、誰かが損をする。
私の“存続”は多少なり金銭的価値が出る。それが誰かのためになるなら、彼らは喜んで“安い”人間を犠牲にするだろう。
私が大事にするルールに則るのであれば、きっとそれは正しいことになる。……なってしまう。
「……痛くても、苦しくても。
それでも、譲れないものがあるんです、きっと。
私は貴方ほど強くはなれないかも、しれませんし。
そのひとも……笑顔が、下手なのかも、しれませんね」
顎に触れる指先に、常日頃なら慌てふためいたかもしれない。だってそれは接吻か審美を予感させるから。
でも私は抗わぬように顔をかすかに傾けて、小さく微笑んだ。……笑顔というにはあまりに弱々しいそれを。
……いいや先程からあまりに顔が近かったから、今更赤面はちゃんとしていました。
流れる髪の毛から意識をそらそうとすると、今度は彼女の美貌が目に入る。純粋に、そんな綺麗なモノと相対することが恥ずかしいのだ。……私は、醜いのではないかと。
「……私は、藤白 真夜って、いいます。真夜中の、まや、で……」
言葉は最後まで続かない。……このひと、本当は顔見知りじゃなかったんじゃ? そう思うと、急に恥ずかしさがぶり返してくる。
「は、はい。
……なんだか、音楽の先生みたい、ですね」
彼女を喩えるもっと適切な言葉があったかもしれないけれど、『真面目ちゃん』の私に思いついたのはそれだった。
へたな比喩で、……でもその言葉は彼女にとても似合うようで。
我知らず、小さく微笑みながら頷いた。
■ノーフェイス >
「つまんないことしてくれるよな」
少女の思考に差し挟まれる、冗談を聞いたような小さな笑いは。
縛ろうとする者に対する女のアンサーだ。
「そう?」
絶対の法を冒してでも、拒みたい出来事があると。
意思を向けられると、ふわりと抱きとめるようにそれを需要して、
女は柔らかく笑った。
「なら笑えよ」
片方の眉を吊り上げて、いま少女がどんな顔をしているのか、と指摘した。
柔らかく微笑んだまま、悲壮な感情を一笑に伏すようにして。
「その、キミがしようとしている悪いコトが、さ。
誰に背負えと言われたものではなく、キミ自身で決めたコトなら。
どいつもこいつもシブい顔して、痛いんです苦しいんですなんて顔してさ。
笑ってられない道なんて、ボクからしたら考えられない、アイツも――」
女の善し悪しは、法の外にあって。
それを提示してから、彼女に対して告げることは。
「――ニンゲン社会は、けっきょく誰かと摩擦しないと生きていけないじゃん。
時にキツく擦れあって、血が滲むことだって、骨が折れることだってあるだろーけど。
キミがたとえ、ひどく痛い方法で、だれかを傷つけて生きるんだとしても。
そうやって生きたぶん、だれかが悦べば帳尻は合うんじゃないの?っておもうし……」
その手をもたげて、少女の顎に指先をふれた。
過ぎたスキンシップだ。眼を細める。
「キミが誰かを傷つけたって、キミがボクを満たしてくれるならそれでいい。
……ボクはそーゆーヤツだ。自己紹介には、なまえも必要?」
首を傾げば、血の色が重たく、どろり、と肩の上を流れていくようだ。
「……真面目ちゃんのキミに。
音楽を楽しむコツを、ちょっと教えてあげようか?」
■藤白 真夜 >
……似合わない、と言ったら失礼だけれど、洒脱に見える彼女の秩序を語る言葉は、私には教師のもののように理路整然として聞こえた。
「……??」
途中に挟まれた女性の美については素直にはてなマークが飛んでしまったけど。
彼女の言葉を聞くうちに、私の中でも少し整理が出来たように思う。……そして、その考え方自体、彼女の言う『真面目ちゃん』であるのだろうけれど。
私は、音楽を芸術として見ていた。それこそ、この美術館のように。
芸術にルールを課すなんてことが、私には酷く……非現実的な何かに見えていたのだ。
……でも、それはきっと存在する。
彼女のいうように、ルールというものに決めつけられるというカタチで。
……納得は出来ないけど、理解は出来る。ルールというものは、時に横暴だから。
……そして何よりも。
彼女の柔らかい言葉が、最も私の心に突き刺さっていた。
「…………」
暗号に悩んでいた時よりも、……悩ましい沈黙は重々しかった。
あの暗号のほうが、余程難しいはずなのに。
私の中の思考の海。
文字通りに、それは地獄のようだった。
「私が傷付くのは、構いません」
「誰かを傷付けるのは、……絶対に、いやです」
「法は、……“良いこと”は、絶対……です。
善くあることこそが、罪を濯ぐ唯一のことであるはずだから」
声は震えるようでいて、自らに言い聞かせるように確かに響く。
顔色が悪くなった。
……単純なこと。自らの有様を言葉で表したら、それが酷く……恐ろしいことであっただけで。
「……でも、私は人を傷つけなくてはいけない。
でないと、生きていけない。私はただ──」
溺れるような思考の中で、当初の目的を思い出す。
あの禁書があれば、……人を殺めることなく、人の魂に触れられる。
墓場を掘り返すような、呪われた所業。
でも──
「──誰かを傷付けるより、私が悪いことをするほうが、良い。
そう思うんです。……私の、信念のために」
些か血の気が抜けた顔で、でも彼女を見つめた。弱々しい瞳に、それでも意思をこめて。
■ノーフェイス >
「キミは真面目ちゃんだね」
微笑ましげに、あるいは生徒の疑問に興味を示したように、眉を跳ね上げた。
「なにが善くてなにが悪いか、って価値基準を明確化してないと悩んじゃうよな。
法を冒してるんだったら、その観点でいったらもちろん悪いコトさ」
フライヤーに書かれたものは、だめ、と明文化されている物品、あるいは商売ばかりだ。
たとえそれで傷つくものが居らずとも、だめなものはだめ。
「善いヒトであることで保証されるものがたくさんあるのが社会であり、秩序ってやつだからね。
でも、悪いコトをしないと手に入らないものもある……ってだけで。
流通してない無断録音(ブートレグ)から、発禁本、麻薬……
自分ではない、ほかの誰かに恋をする女性が、とても美しく見えた時に……
いいやこれはだめなコトだから、って思った時点では、まだ罪じゃない、かなぁ?」
だれを擁護するわけでもなくて、見せられた手札に対しておもった言葉をならべた。
とりとめのない言葉のなかで、ふいに哲学的になった少女の言葉には、しかし。
顔を塔のほうに向けて、唇を尖らせた。飴玉を支える棒が天井のほうをむいた。
「ムズカシーことを言うね。 クオリティとか人気じゃなくてだよね?
善悪とか?許されるかどうかの話だと、うーん……」
眼を瞑って、考える。考えて、考えて。
「悪い音楽、ってのがあるとして。
それを決めるのは多数派か偉い人、もしくはウルサイ人かな」
皮肉った笑いで、思考の緊張を解いた。
そういうものだよ、と。
健全な社会秩序のために必要ならば犠牲になるものもある。
熱、狂騒、暴走に駆り立てるきっかけは、事実として危険だ。
「……キミは法を守りたいの? それとも他人を傷つけたくないの?
それとも、キミ自身が、きずつけられたくないから?」
改めて向き直って、夢でも問うような柔らかさでたずねた。
■藤白 真夜 >
「……え?」
隣に座った彼女の言葉に、むしろ私のほうが納得してびっくりした。
つい視線を反らしてしまったのを忘れて、彼女の顔を見つめ返す。
……目が覚めるような美人とはこういうひとを言うのかもしれない。
見ているだけで、ちょっと緊張する。でも、燃えるようなその瞳の輝きのほうが、髪の赤色を見るよりかはマシだった。
「とけていないところは、あると思います。16-2の部分は全然わかりませんし……。
でも……」
不思議と、彼女の言葉は私の胸の内に沁み入った。
どこかで会った顔見知りのような──だが名前も知らない彼女の雰囲気のせいもあったかもしれない。
あるいは、言葉通りに私が納得出来ていなかったのか。
「あのブラックマーケットは……、……悪いコトなんでしょうか。
……いえ、あの部分は正直、結構悪いことな気がします。
売っちゃダメなものはダメですよね。
……でも」
あれは、ブラックマーケットだという。
でも、その中核にあるのが何なのかは、あのカボチャのムービーを見た人間なら誰でも察する。
あれは、ライブなんだ。
「……悪い音楽というものは、あるのでしょうか?
私は、ああいう音楽には詳しくありません。
……だから、私には解けないのか、私にはしっくり来ていないのか──」
──むしろ、音楽を知らないのにあの場所へ物目的で忍び込もうとする私のほうが、“悪い”のではないか。
女性の輝くような瞳とは裏腹に、小さくしょげたように私は自分を考えていた。
「私は、……“悪いコト”は、したくありません」
考えた末に出てきた言葉は、弱々しく……だからこそ、ありのままを語っていた。
■ノーフェイス >
「ここ、あんまり人気がないみたいだからね。
でもボクはここがいちばんすきだな。まだ全部みてまわってない。
ちょっとずつ、暇みつけて崩しに来てんだけど……フフフ」
ひとりぶんのスタンスを開けて、彼女の隣に腰かける。
脚を組み、ころりと飴玉が鳴った。
彼女が視線を逸らせども、この前もそういうことあったな、と気にもしない。
赤が舐めるよう空中を踊る。
「ふんふん」
彼女の推理を聞いてみる。
荘厳にそびえ立つ塔を楽しむためのBGMに。
「……フフフ」
しかし、途中から。
可笑しそうに、鈴の鳴るような笑い声。
「スゴいね。 ほとんどとけてない?
暗号だけなら――しっくりくれば、そこでおしまい。
でもキミは、なんかストンと落ちてないんだ?」
そちらのほうを振り向いて、少しだけ顔を寄せた。
佳いものは見てて飽きない。むしろもっと見ていたくなる。
そしてその一対の炎には好奇とちょっとした好色の輝き。
「とけてないとこがあるとか。
――悪いコトに興味があるから解かなきゃいけない?」
■藤白 真夜 >
「うん。HELLから考えなおすのは正しいはず……。
わからないからって1563を拾うから変なとこに行くんです……。
HELL、16……。地獄、16個……う、う~ん……。
……16……タロットカードの塔、いやいや自分の考えに引きずられすぎ……」
──そう、劇的に何かを閃いたりすることは無い。これはいわば、神曲めいて答えを求め苦しむ私が居るだけの地獄ということ……!
……なんて考えが浮かぶくらいには、地獄を見すぎた。比喩ではなく。
今でも目を閉じると地獄を題材にした絵画の数々が思考の暗黒の中から見つめ返してくるのを幻視していた。
……だからだろうか。その明朗な足音に気づかなかったのは。
「ひゃっ。
……ご、ごめんなさい。人がいると思わなくて……」
びっくりと同じくらい、恥ずかしい。背の高い女性を見上げる顔は赤らんでいた。
……普段ならそこに萎縮も入っていたけれど、そのひとに感じる印象は少し違った。
どこかで軽く知り合ったような、話したような……気がする。
私に顔見知りは少なかったからこそ、続く言葉の雰囲気は少し柔らかだった。……私にしては。
「あ、あはは……ああいうの、気になってしまって。
……といっても、進んでません。むしろ、詰まったところというか……」
女性のほうを見ようとして、……止めた。
このひとの髪が、綺麗すぎたから。あまりに鮮烈なその赤は、文字通り目に毒だった。
代わりに、絵を見上げる。大きい。
「大バベル。……1563年。これが関係あるかなって、思ったんです。数字が当たっただけなんですけどね。
“地獄の”ブリューゲル。バベルは複数ある、その“1st”だ……って」
……違いましたけどね、と続く言葉は、力ない。
■ノーフェイス >
少女の声だけがただ静かに満たすような白亜の宮殿に。
お行儀よく抑えた足音が、絵の具を新たに足したように混ぜ合わされた。
その足取りは少女の座る長椅子の傍らで止まると、視線を絵画に向けた。
「ネットに流れてるやつ、解いてるんだ?」
口元に銜えた白い棒は、煙草――
ではなかった。煙も立てていないし、ころり、と歯の裏にあたって音を立てる。
キャンディポップを銜えた女は、今や打ち崩された塔から炎の色の視線を少女にむけた。
「ひとりごと、きこえてたよ。
どこまですすんだ?」
興味津々に、少女を見下ろす――うん、可愛い。
そんな色も隠そうとは一切しない。上機嫌な相だ。
ご案内:「常世博物館」にノーフェイスさんが現れました。