2022/01/31 のログ
ご案内:「商店街」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
1月の末、商店街にて。黛薫は悩んでいた。

普段からどうでも良いことでくよくよ悩みがちな
彼女だが、今日の悩みは分かりやすい。商店街で
悩む内容と言えば当然買い物についてである。

黛薫がじぃっと視線を注いでいるのは値引きされた
お惣菜が集められたスペース。近くで立ち止まって
他の客の迷惑になるのが嫌だからと遠巻きに眺める
車椅子の少女の姿は却って悪目立ちする。

大層な悩みではない。今夜の晩御飯をどうするか
決めかねているだけである。だが貧乏性な彼女は
買い物に来ると毎回必要以上に悩んでしまうのだ。

黛 薫 >  
食べるのが自分1人なら悩まずに済んだだろう。
安くて栄養価がありそうな品を買い、足りない
カロリーは砂糖で補えば良かったから。

彼女が悩むのは至極単純な理由で、出来る限り
同居人に良いものを食べて欲しいからである。

人型を模しているとはいえ同居人は怪異であり、
しかも種族的に悪食。極端な話、残飯どころか
食物でないモノすら与えられれば食べるだろう。

(それは……なんか、ヤダ)

悪食であれど、美味しいものを美味しいと感じる
感性を持ち合わせているのは確認済み。折角なら
美味しいものでお腹を満たしてもらいたい。

ご案内:「商店街」にフィールさんが現れました。
黛 薫 >  
だがしかし、美味しいものを食べてもらうために
際限なくお金を注ぎ込めるかと言われれば否だ。

そもそも黛薫の支出は殆ど同居人の貯蓄によって
賄われている。当分心配しなくて良い額があれど
使えば減ってしまう。一応同居人は露店を出して
収入を得ているものの、2人分の生活費を賄える
額にはまだ届かない。

(自分で稼げりゃ、心配いらねーのになぁ)

同居人には良いものを食べてもらいたい。
使わせてもらうお金は出来るだけ抑えたい。

かといって自分だけ倹約すれば逆に気を遣わせて
しまうだろうし、喜んでもらうのが目的なら同じ
食卓を囲んで同じものを食べた方が良い。

フィール > 「うーん…………」
先日もらったメモを眺めながら、ふらふらと歩いている。

殆ど見たことのない形式の魔術。
大変容の前から人間が継いできた魔術という。

知的能力の向上と、精神の平穏を齎すと、これを授けてくれた…清水さんが言っていた。

しかし…これには危険性が含まれているような気がする。
そもそもこれは人間が継いできた…と言っていたが。


本当に人間が発明したモノなのだろうか?


形式もそうだが、なによりその術式自体に人間性を感じられない。
寧ろ、狂気やそういったものに近いような気がして…

そんな難しいことを考えながら、薫の側を過ぎる。
薫に、気付いていない。

黛 薫 >  
「ん」

見慣れた顔と少し珍しい場所でエンカウント。
眺めているのは買い物用のメモか何かだろうか。
それにしては随分難しい顔をしているような。

さておき自分に気付かないほど深く考え込みながら
お店の中を歩くのは良くない。人にぶつかるのも
良くないが、品物にぶつかって店に迷惑をかけたら
なおさら大変だし。

良く知った仲だからこその心配と気安さ、そこに
メモへの興味とほんの少しの悪戯心が加わって。
ぽんと貴女の肩へ手を置いて人差し指を突き出す。
振り返れば頰に指が刺さる古典的な悪戯。

車椅子に座っている分、此方の目線は低め。
貴女の身長が低いから成り立つ悪ふざけである。

フィール > 「っ、ぁ」
突かれてびくっ、と反応し。振り向いたら、そこには最愛の人が居た。

「あ、あぁ、すみません。気を取られてて気付きませんでした。買い物です?」

メモを懐にしまって、声を掛ける。

黛 薫 >  
「フィールがあーしに気付かねーってよっぽどよな。
 今しまったメモ、そんなに難しぃ内容だったの?」

冗談めかしつつも単刀直入にメモの存在に触れる。
私的な内容かもしれないので、貴女が話すまでは
無理に内容を問い正したりはしないが。

「そ、買い物。もし晩メシの希望とかあったら
 今のうちに教えとぃてくれっと助かるかも」

膝の上に乗せた買い物カゴの中には6個入りの
唐揚げが1パックとインスタント麺、調味料が
いくつか入っていた。

フィール > 「…そうですね。メモに書ける程度だというのにここまで解読出来ないのは初めてです」

それは、決して汚いからではない。寧ろ丁寧な部類で…だからこそ、読み解け無いのである。

薫なら見せたほうが良い…むしろ見せないとせがまれる気がした。

そうしてみせたメモは。《トートの詠唱》と呼ばれる、今ある魔術の系統から外れた形式の術式だ。

基礎からまず違う。術を形作る格子から違う。
何から何まで今まで学んだ魔術が生かされない。
魔術を嗜む者でも…否。魔術を嗜むからこそ解読出来ていないのだ。

「晩ごはんですか。うーん………強いて言うなら珍しいものを食べてみたいですかね?」

黛 薫 >  
「……なるほどな?」

目を伏せる。それは広い意味では『魔術』に属する、
しかし普遍的な魔術の体系から外れた所にあるモノ。

「旧くから、この世界に暮らす人は色んなモノを
 利用して発展してきた。でも、時には天才とか
 変人とか呼ばれるヤツが生まれたり、人智の
 及ばない異種族が紛れ込んだりもしたのよな」

語り口は見せられた術式と無関係のようで。

「時代を一歩先取りした天才の発明。常識の壁を
 無視して踏み出した変人の一声。まだ未知の
 解明を知らなかった民に与えられた緻密な術式。

 人間はそれを『魔術』と呼んで恐れた。
 未知を当たり前のように語る者を狂人と呼び、
 或いは魔女とレッテルを貼って吊し上げた」

「植物の薬効を知らなかった人が見た調薬も。
 神の教えから外れた、常識を覆す観測も。
 異星から齎された未知のテクノロジーも。
 全部『理解出来ないモノ』と一括りにした」

「このメモに書かれてんのはそーゆー『魔術』だよ」

ふっとメモから目を逸らして、返却する。

「珍しぃモノなぁ。商店街って無難なモノなら
 いくらでも手に入んのに、珍しぃのは……
 いぁ、あったな。買ぅ気はなかったけぉ」

黛薫が向かうのはカップ麺が積み上げられた一角。
そこにあるのはカップ焼きそば(ショートケーキ味)。

フィール > 「…わかるんです?」
薫とメモを見比べて。
これを、予め知っていたかのような。

「やっぱり…薫は凄いですね。私は黄泉の穴に潜った時に同じようなものを見かけた、程度だったのに。ほんと、感服します」

薫の持つ魔術的知見は研究家のそれだ。
欠けた才能を追い求めた結果ではあるが…それでも、それは無駄にはならず、今の生活すらも支えてくれている。

「しかし…聞いたところによると脳に直接作用するような効果なんですよね。知的能力の向上と、精神の平穏を齎す、って聞いたんですけど。
…大丈夫、ですかね?」

脳に直接作用する魔術はある種の危険性を伴う。
それは、麻薬にも似た効能であり。
それは、人を廃人にしかねないのだ。
催眠等の間接的なモノとは訳が違うのだ。

「………ショートケーキ味???ちょっと食べてみたいですね」

以前薫に内緒で塩プリンなるものを食べて珍妙な食べ物に興味を持ったのだが…このカップ焼きそばも中々なものだ。

黛 薫 >  
「んん……分かる、っつーとちょぃ語弊があんな。
 存在を知っている、否定してない、って感じ?
 全部がそーじゃねーけぉ、その手の術式って
 『理解する』だけで踏み外すパターンあんだわ。

 例えば今でこそ存在が証明された『幽霊』。
 オカルト、フィクションだって言われてた頃、
 幽霊が見えたヤツはインチキか頭おかしいか
 嘘吐きって言われてた。でも本人にとっては
 『いるのが当たり前』だから理解されない。

 そーゆー『魔術』の深奥はこの世界じゃまだ
 完全な理解に至ってねーから……知ることで
 常識や価値観が根底からひっくり返る危険が
 あるって言やイィのかな?

 本人としては『新しい世界を知った』だけ。
 でも周りから見たら『気が狂った』よーに
 見えちまぅ。だから、この世界に適応して
 生きられなくなるリスクがあるワケ」

「……あーしはそーゆー、触れたくねーモノの
 実験にも使われてたかんな。多少知ってるよ。
 大丈夫かどーかは……んん、難しぃトコだな。

 使ってみなきゃ分かんねーけぉ、使ったら
 『大丈夫じゃなかった』かどーか自分じゃ
 分かんなくなるかも。大丈夫じゃねーって
 否定する他者の方がおかしく見えるよーに
 なるかもだかんな」

それから、ある意味狂気的な棚に視線を戻す。
安っぽくはあるが、これもまた価値観の冒涜
……と言えなくもないのかもしれない。

「このメーカー、定期的にヘンな味出すらしぃ。
 落第街で食ったコトある。罰ゲームでな」

顔を顰めるあたり、良い思い出では無さそうだ。

フィール > 「理解するだけで踏み外す、ですか…。あの人も、ある意味そういう類の人…だったんでしょうか」

あの瞳の奥。人ならざる存在。いや自分も正確には人ではないが。

そう、言うならば…『上位存在』、というべきだろうか。次元の違う生物。そんなものに見られている感覚を覚えた。

だとするならば、こんな術式を知っていたのも頷ける。

「自覚症状ではわからないですものね、自分の意識なんて。意識の変革だって自覚できるものではないですし」

かつての自分もそうであったように、自分が変わったとしてもそれを自覚するのは難しい。

「まぁ、でも…おかしくなったら薫に止めてもらえれば…多分大丈夫でしょう」

根拠のない理由だ。そんな価値観が崩れ去ってしまってもおかしくないというのに。

「へぇ………中々挑戦的…いや、話題になれば売れるんですかね?私みたいな人が一定数いるから?」
不味いものを出すのはどうかと思うが、少なくとも話題にはなるし、怖いもの見たさで食べる人も一定数は居るのだろう。

そうでなければ定期的に出すというようなことは出来ないだろうし。

黛 薫 >  
「誰にもらったかは聞かねーけぉ、厄介なのは
 イィ人から貰ったからって害のなぃ術式とは
 判断できねートコよな。

 その手の『魔術』の深奥を知るヤツと知らなぃ
 ヤツの間には、それこそ機械を扱う文明人と
 原始人くらぃの開きがある。

 親切のつもりで与えた火で山ごと身を焼いて
 死ぬなんてリスク、想定してねーかもだから。
 安全な使ぃ方を知ってる者ほど無知なヤツが
 どんな使ぃ方するか想像出来ねーもんな」

曰く、ずっと昔にその手の『魔術』に関する話が
小説として出回ったとか。実体験なのか、空想が
偶然事実を言い当てたのか、はたまた文章という
形にした所為で現実となったのかは定かでない。

それらの小説はファンタジーでも冒険活劇でもなく
『ホラー小説』に分類された、と。未知を知るのは
それだけ恐ろしいことなのだ。

「人は『大変容』以降、魔術を知り、異能を知った。
 『大変容』は価値観の崩壊でもあり、科学ですら
 解明出来ない『未知』を知らしめた出来事。

 『未知』の存在を知ったから狂気を正気として
 受け入れる土壌が出来たのか、それとも逆に
 『未知』を覗き込むのを恐れなくなった所為で
 狂気に侵されやすくなったのか。

 フィールもその辺り、心に留めとぃてくれな。
 それで回避出来ねーから恐ろしぃんだけぉ」

がむしゃらに『魔術』を追い求めていた黛薫が
狂気に身を窶さずに済んだのは思慮深さによる
ものではなく、ただの偶然だ。

その重さを知るが故に、僅かばかりの警告を呟き。

「どーなんだろ、メーカーとしての知名度稼ぎ?
 分かんねーけぉ、売ってるってコトは何かしら
 メリットはあんだろな……あるよな?」

ともあれ、フィールが挑戦的な味のカップ麺を
購入するなら、黛薫は普通の味の方を籠に入れる。
万が一ハズレだった場合に折半するためだ。

フィール > 「そうなんですよね…こう、得体が知れないというか。魔術を授けておいて、異能や魔術を持て囃される事を危惧していたり。

…いえ。それ以上に。私見でしかありませんが…『アレ』は私達も及びもつかない存在に思えてならないんです」

そう、それこそ。『神様』に値するような。

「…少なくとも。大変容は、それを知り、それを伝授出来る『友好的存在』がいたから普及に至ったんだと思いますよ。それこそ、フィーナのような。」

かつて国の外へ知を求め、違う言語を理解し得たのも、『友好的』であったが故。

「まぁ、ただ…人間は未知を求める存在ですから。狂気だろうがなんだろうが、たとえそれが多くの人を殺すことになっても人は研究を止められませんよ」

知恵は人に恵みを齎したが、それと同等に破滅の手段すらも齎している。

『彼女』が言う事は、間違ってはいない。


「知名度もそうですし…売れるから売ってるんでしょう?少なくとも。」

たとえ話題稼ぎであったとしても、売れなければそれだけ損失がでるのだ。
儲けがでなければ売る意味がない。

黛 薫 >  
「ま、それもそーよな」

軽く肩を竦める。大変容の話題、人の歩みの話題に
跨って示される同意。黛薫は話題が広くなったとき
度々こうして返事をまとめる。必要に迫られた場合
『そっちには同意していない』と逃げ道を作る為に
身に付けた癖が抜けていない。

「売れる……ん、だろーなぁ……フィールみたぃに
 珍しぃモノ食べたぃって需要、大きぃのかな?
 メーカー側だけじゃなく食べる側も話題作りの
 タネにゃなりそーだけぉ……」

黛薫、こういう商品には二の足を踏むタイプ。

「にしても、あーしに気付かなぃくらぃに
 集中してたから何事かって心配したよな。
 『薫り』ですぐバレるかと思ったのに」

未知の術式がそれだけ強くフィールを惹きつけて
いたのか。単に長く側にいたお陰で薫りに慣れて
分からなくなり始めたのか。欲を満たしたお陰で
以前ほど強く惹かれなくなったのか。それとも
自分がフィールの一部を宿したお陰でフィールも
『繋がり』を通して適応したのか。

最初は驚いたが、意外と要因は思い付く。

フィール > 「でも面白そう、と思わせるのは開発…いや宣伝の上手いやり方だと思いますよ。こういうのも参考にしないと、ですねぇ」

カップ焼きそばのパッケージを見ながら、自分の商売に活かせないか考える。こういう話題性も、必要だろうか……

「あー…そうですね。慣れた…というのもありますけど。『繋がり』を得たお陰で、惑わされなくなったのは大きいですね。
薫の『薫り』も、自分の一部と同じような感覚で…それで、ですかね?」

薫に自分の一部を埋め込んで以来、薫の『薫り』に惑わされることはなくなった。深い『繋がり』を得たお陰で薫の供犠体質とも繋がった為だ。

いくらなんでも『自分と同じもの』を喰うのは、よっぽど飢えない限り人としてもスライムとしてもしない。

黛 薫 >  
「参考、参考に……な、る……かなぁ……?
 つまり、何だろ。役に立つ立たないは一旦
 脇に置いて、純然たるウケ狙ぃの術式を
 一緒に並べとく、みたぃな?」

発想としては別に間違ってはいないのだが、
カップ焼きそばのメーカーに対してはド失礼。

「ふぅん、そんなら何処までなら影響受けずに
 いられっか、探っていくのもアリかもだよな。
 今のまんまだと色々縛りがあるワケだし」

フィールを『受け入れる』契機となった一件以来、
入浴の順番は必ずフィールが先で黛薫が後だった。

残り湯の処理を身体が不自由な黛薫が行わなければ
ならなかったり、雨に降られた後迂闊にシャワーを
使えなかったりと地味に厄介。

フィール > 「実際花火みたいなものでも良さそうな感じはしますけどね。ほら、前やったイルミネーションとかもその発想じゃないですか」

あれは世間の話題に合わせたものだが、ジョークグッズとしてのスクロールなんかも意外と売れるんじゃないかな、とフィールは考える。

「そうですね…不便も多いですし。出来ることは増やしていかないと。分身の調整もしないとですし」

以前言っていた、自分の分身を使った魔力の発現、貯蔵。それを行う為にもそういった障害は無いに越したことはないのだ。