2021/10/22 のログ
ご案内:「古書店街「瀛洲」」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
はらり、はらり。年月を感じさせる黄ばんだ頁を
捲っていく。本は積み重ねた年月がそのまま価値に
繋がるとは限らない。
(……まあ、ハズレか)
立ち読みしていた本をそっと棚に戻す。
稚拙な内容、穴だらけの理論。間違った結論に
基づく破綻した主張。全ての頁が文字で埋まって
いようとも、中身が空っぽな本は存在する。
研究の行き詰まり、集中力の限界、牛歩の進捗への
焦り、その他諸々。追い詰められるほど躍起になり、
周りが見えなくなって余計に行き詰まる悪循環。
どうしようもなく息が詰まって、少しの間だけと
言い訳をして逃避した。逃げれば逃げるほど目を
逸らした問題に追い立てられているような気がして
余計に気疲れすることも多々あるが、今回は珍しく
気が紛れてくれた。
並べられた玉石混交の魔法書を精査すらせずに
取り出して読み漁る。現状を打破するような本は
無いけれど、苦しくて目を背けていたタスクへの
モチベーションは戻りつつある。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」にフィーナさんが現れました。
■黛 薫 >
本の内容を流し読みしつつ、研究の進捗について
思いを馳せる。共同研究者があまりに優秀すぎる
お陰ですぐに自信を失いがちだ。
自分が目的地まで橋を架けようと試行錯誤している
傍らで、彼女は飛び石さえあれば川を渡れるからと
石の置きやすい場所を探すために無関係な人たちを
激流に放り込んで泳がせる、そんな感じの差。
(だからって、向こうの才能頼みの手段なんか
取れねーのよな。そこが甘いのかもだけぉ……)
犠牲者を少なく済ますには自分が頑張るしかなく、
しかし石さえ置けば彼女は渡ってくれる、なんて
理由で思考放棄など出来るはずもなくて。
橋を架けるには理論が必要で、その点に関しての
理解だけは『出来てしまう』だけに必要としない
彼女より少しだけ深い。しかしその程度の研鑽で
超えられる差だとは思っていない。
■フィーナ > 「ん、あれ?」
未だ知らぬ書物を求めて書店へと立ち入ったところ、知っている薫りを感知する。
理性をゆるがす薫りだ。
「奇遇ですね、薫。資料探しですか?」
手を振って、声を掛ける。あまり近づかないようにして。
■黛 薫 >
「おぁ、フィーナ?なんか珍しぃトコで会ったな?」
手を振り返し、駆け寄りそうになって急ブレーキ。
体質が変化した現状、近寄り過ぎれば相手に忍耐を
強いることになりかねない。
とはいえ、あまり距離が離れていると普段よりも
声量を上げる必要がある。だが書店という立地も
相まって、大声で話せば『視線』を集める羽目に
なってしまう。
少し悩んだ末に立ち読みしていた本を棚に戻し、
軽く手招きして人のいない路地へと向かう。
「あーしは資料探しじゃなくて気分転換っす。
ま、そんでも読むのは魔法書に偏ってますんで
つぃでに資料に使える本が見つかりゃ一挙両得
でしたけぉ、そー上手くはいきませんね」
■フィーナ > 「成程…こちらは…そうですね。伝記ものとか、逸話とか。そういうものを調査したく思いましてね。貴方のその左目に関して…もしかしたら何かしらの逸話と共通するものがあれば、と考えたんです」
そう。クロと話して知った。薫を解放するには、まず左目の解析から始めなければならないと。
彼女を囚えている繋がりを断ち切らねば、その本質を取り戻せないと。
「それに合わせて…薫。貴方の過去についても、知っておきたい。」
これは、必要なことだ。彼女を囚えている繋がりが、どこから来たのか。
知らねば、それを覆す事は出来ない。
■黛 薫 >
「伝記に逸話、なぁ。あーしは未だに自分の中に
そんな大層なモノがあるって感覚ねーのよな……。
信じてんのがフィーナじゃなきゃ、冗談だろって
鼻で笑ってただろな」
左の瞼を押さえる。『何も無い』が見える。
「あーしの昔語りなんざ、面白ぃコトないすけぉ。
必要ってんなら、まあ……ちょっとくらい大丈夫」
そういえば……学園に来て以来、昔のことを話す
機会も相手も無かった気がする。入学した当初は
ときどきホームシックを感じていたけれど……。
■フィーナ > 「…では、単刀直入に。
その『左目』はいつから?」
伝記や逸話を調べるのは…そう、薫自身が言った、『無名の恐怖』との繋がりを危惧しているからだ。
彼女が公的な検査を受け発覚した『供儀体質』。それを利用するとなれば、最高のものに対して使うはずだ。
なにしろ人の命は一つしか無い。大一番でしか使わないはずだ。
そして、その大一番で、一番近況であるのが、この『無名の恐怖』だ。
あくまで推測でしか無いが…その推測の成否を、確認しておきたかった。
■黛 薫 >
「いつから……いつから?んー……どうだろ?
少なくともあーしは物心つぃた頃から左の目は
『何もない』しか見えなくて。……あー、いぁ。
おかしぃんだっけ、その言い方。昔っからよく
それは『何も見えない』っつーのが正しぃって
笑われてたんだわ。片目だけ盲目?みたぃな」
気まずそうに頰をかく。彼女の言葉が正しいなら
左目は常世学園に訪れる以前から変わっていない。
「でも、そーゆーの珍しくなぃよな?多分。
まだ小っちゃい頃、神社のババァに愚痴ったら
ババァの母親も左目だけ見えなかったってさ。
教えてもらったのよな」
■フィーナ > 「…………いえ。そういう直感的な言い方は、強ち馬鹿には出来ません。
『何も見えない』と、『それしか見えない』は雲泥の差です。何より…今貴方の見えている、その、『何もない』は、貴方を縛っているものの可能性が非常に高い。
家族や…今話した神社の…ばばぁ?さんから何か他に聞いたことはないですか?」
ずい、と乗り出して。
■黛 薫 >
「んん……つってもな、そもそもあーし入学前は
そんな頻繁に話せる相手いなかったんだよな……。
なんせ小学校の全校生徒10人超えねー限界集落の
出身だし。両親は仕事が忙しぃって滅多に構って
くれなかったし。神社のババァはそんときの1回
除くと話した記憶すら……」
記憶の箱をひっくり返す。碌に思い返すことすら
無かった記憶に感慨はない、と思っていたが……
既に忘れかけているという事実には針の先程度の
痛みがあった。
「あんとき、ババァと何話したんだったっけ……。
あぁ、んー。クリスマスか正月か、何か祝い事の
日だったんだな。他の家は色々お祝いとかしてて、
でもあーしん家の両親は忙しいとかで、あーしの
こと放ったらかしだったから、腹立って。
んで、迎えに来るまで帰らなぃって意地張って、
神社の隅っこにいたんだった。そしたらこんな
寒ぃ日に何やってんだって、ババァにクソほど
叱られてなー……。
なんでその流れから目の話になったんだっけ。
……あ、そか。ババァの家に入れてもらって、
仏壇?の天井近くにご先祖さまの遺影が飾って
あったんだけぉ……一個だけ額縁だけで写真が
入ってなかったのな。それがあーしと同じで
『左目だけ盲目だった』ババァの母親だって。
"あーしが生まれるちょっと前に死んだ"んだって」
■フィーナ > 「……ふむ、ふむ」
一つ一つ、言葉を洗っていく。
限界集落…人数がそこまでいない集合体。神社…神を祀る社、だったっけ?
左目だけが盲目の先祖…死亡したタイミング…
「…その、ばばぁ?さんとは御血縁で…?」
■黛 薫 >
「んー、直近では血縁とか無さそうだけぉ。
小さい村……いぁ町?市町村合併で名前変わって
建前上は町になってたっけ。まーどうでもイィか。
とにかく、狭い共同体だったかんな。結婚相手も
外から連れてこなきゃ限られてたから、遡ったら
どこで繋がってっか分かりゃしねーのよな。
実際、全然関係なぃと思ってた家の人が死んで、
血縁だからって両親が通夜に行って初めて知った、
なんてコトは1回や2回じゃなかったし」
小さな共同体。判然としないながら繋がりの多い
血縁関係。代替わりのように生まれた盲目の左目。
ひとつひとつは、無視できるような小さな要因。
もし、それが繋がっているとしたらどうだろう。
■フィーナ > 「…ふぅむ」
恐らくは薫の左目と同様と思しき症状があったのはばばぁさんの母親一人だけ。そして代替わりのように生まれた薫。
近縁ではないにしろ、血縁である可能性。写真のない額縁。神社。
一つ一つ、聞いていかねばならない。
まずは、核心から。これは、聞いたかどうかは、わからないが。
「いくつか、質問します。
まず1つ。そのばばぁさんの母親、左目が盲目、と言っていましたが…その話の中で、薫と同じく『言い方の違いがあった』という話はありましたか?
2つ目。そのばばぁさんの母親の遺影が無い、ということですが、これについての理由は聞いていますか?
3つ目。その神社には、何が祀られていたか、わかりますか?」
■黛 薫 >
「えー、とりゃえず1個ずつ答えてくな?
まず1個目、流石にそこまで覚えてねーな……。
あ、いぁ、でも待てよ?多分あーしはそんときも
『何もない』しか見えなぃって言ったはずなんだ。
んでも、ババァはわざわざ指摘してこなかったわ。
人が出来てて深掘りしなかっただけかもだけぉ。
んで2つ目。それはあーしも変だなって思って
聞いたのよな。額縁に入れたらダメなんだって
言ってた。写真も火葬の時全部燃やしたらしぃ。
どうしてかまでは教えてくれなかったけぉ……。
3つ目。あの神社ホントに何を祀ってたんだろな?
神社って何か……御神体?みたいなのあるじゃん。
そーゆーのって普通公開されねーし、神職ですら
気軽に触れなぃみたいな?そーやって聞くけぉ。
あの神社、御神体を納めるはずの……祠?的なの
あんのに、開けっ放しで空っぽだったのよな。
あーし、神社っつーとそれしか知らなかったから
それが普通だと思ってたけぉ、こっち来てから
色々学んで、変だなーって思ったコトはある」
■フィーナ > 「…ふむ、ふむ。」
一通り、聞いて。
点と、点が、繋がっていくのを感じた。
「まず、確信があるのは…貴方と、ばばぁさんの母親との繋がりですね。どういった経緯かはわかりませんが…貴方の左目は恐らく譲り受けたか、もしくは『移された』ものだと思われます。
ばばぁさんが貴方の発現に疑問を呈さなかったのも、そのせいかと。
そして、これらを勘案して…4つ目の質問。
貴方は、両親を含め、人と接する機会が少なかった、と認識していますか?もしくは、『避けられている』と感じたことは、ありますか?」
■黛 薫 >
「ん……要は『継承』ってコトになんのかな。
魔術の世界じゃそーゆーの、結構ある話だし。
いぁ、むしろ多いのは魔術よりは呪術の方か?
末代までの呪いとか、前の代の縁者が死ぬと
次に生まれてくるヤツが、みたいなの」
自分の過去を掘り返し、それをフィーナが繋げて
自分の解釈で肉付けしていく。形を成すソレは
可能性としてはあり得ない話ではないと感じた。
……それが自分のこととなると、やはり実感は
湧きにくいのだが。
「んー、避けられてたって実感はねーけぉ。
あーしって夢見がちっつーか、昔っから魔法とか
空想に興味持ってたから、浮いてた感じはあるな。
結構根気強く誘ってくれた子も、まあいたけぉ。
あーしが本ばっか読んでたから諦められた的な。
……避けるとは違うけぉ、あーしの両親は仕事が
忙しぃとかであんま構ってもらえなかったのかも、
って思うコトはある。あ、いぁ。所謂毒親とか?
そーゆーのとは違ぅけぉ。いつの間にか連絡すら
取らなくなっちまったし……」
■フィーナ > 「……やはり、というべきですかね。
貴方、その集落にいた頃の記憶、印象的なもの殆ど無いですよね?
親から同年代、人の死に至るまで。通夜にも両親しか行かなかったのでしょう?子供であった貴方を置いて。」
繋がりが、標となっていく。
フィーナの中で確信へと変わっていく。
薫は、生贄として、育てられたのだと。
「その集落で、仲のいい人、いましたか?」
■黛 薫 >
「そんなコト……無ぃ、と思ぅ……けぉ。
だって、同じ学校の人の名前も大体覚えてるし。
両親との仲だって、悪くなぃ。そうじゃなきゃ
進路の希望だって聞ぃてくれなかったはずだし」
戸惑ったように、否定の材料を挙げていく。
しかしその内容は却って貴女の説を補強する。
名前を覚えているだけの人を『仲が良かった』と
表現する価値観。不仲でなかったと主張している
両親とは音信不通。普通の家族ならいつの間にか
連絡が取れなくなった、なんてあり得ない。
『独り』が当たり前で、基準が狂っている。
……しかし。
「それに、さっきも言ったろ。本ばっか読んでる
あーしを根気良く誘ってくれた子もいたんだから。
……いぁ、その子のコトは"何も知らねー"けぉ」
たった1つの『例外』だけを覚えていない。
■フィーナ > 「…その子、根気よく誘ってくれていたのに、仲良くなかったのですか?」
違和感。もし生贄として村八分にされているのであれば…その子に構う者も、同様の扱いをされていても可笑しくはない。
10人程しかいない小学校で…………いや。
「10人程度しかいなかった学校で、何故その子だけ覚えていないのですか?」
多分、こっちが正しい。10人程度なら多少交流は無くとも名前ぐらいは覚えられるだろう。
それでいて、印象に残るほど構ってくれていた子について、何も知らないというのは…どうしても違和感がある。
■黛 薫 >
「いぁ仲良くなかったっつーか……影薄かった?
つか同じ学校の子じゃねーよ、同じ学校の子なら
名前覚えてるはずだし」
黛薫本人はその異常を異常と捉えていない。
両手で数えられそうな人数しか子供がいない
集落で、学校に通っていない子供が1人だけ。
記憶に残るほど誘われても覚えていない。
「1人で本読んでるときに限って誘ってきてさ。
影薄ぃから鬱陶しぃとさえ思わなかったし……
無視する気はなかったけぉ、存在感無さすぎて
本読み終えた頃には忘れてるくらいの……」
■フィーナ > 「…そりゃぁ、まるで『幽霊』みたいですね。それか、『神様の子供』か。
その子、一体何を誘ってたんですか?」
わかりやすく、具体的な例を出して。気付かせようとする。
彼女の気付きがなければ、引き出せない。深く引き出すためには、まず薫に気付いてもらわねばならない。
そうでなければ、この話だって、出来なかったのだから。
■黛 薫 >
「何って、だから誘ってただけっすけぉ」
「"こっちにおいで"って」
"こっち"とは、何処か、何方か。
無意識に左目の瞼を押さえていた。
そう、誘われていた。手招きしていた。
「──足りない、ひとり」
ぽつりと、呟く。
■フィーナ > 「………薫?」
様子が、可笑しい気がして。
声を掛ける。
■黛 薫 >
「あ、いぁ」
ふるりと軽く頭を振る。ほんの一瞬の上の空。
「大したことじゃねーです。でも、ちょっと」
少し躊躇った後、距離を詰めてくる。
体質の都合上、あまり長く近くにはいられない。
貴女の手を取って、指の形を確かめるかのように
二度三度、軽く握ってまた距離をとった。
「あーしの故郷の……おまじない?みたぃな。
何かを忘れて思い出せなぃとき。忘れてるコトが
不安になったとき。近くにいる誰かの手を握る。
元々はもっと大人数で手を繋ぐおまじないだった
らしぃけぉ、学校にそんな人数いなかったから
簡略化されたんだって」
■フィーナ > 「っ」
不意に握られ、頬が赤くなる。甘い香りのせいか、それとも…
「なにか、思い出せそうですか?」
■黛 薫 >
「思い出したってほどじゃねーけぉ……何だろ。
こういう習慣?って意外と咄嗟に出るんだなって
懐かしくはなった……かも」
絆創膏だらけの手に視線を落とす。
「何を忘れたか思い出せなぃってコトあるだろ。
あーしの故郷だと……不吉?とは違うかもだけぉ、
それをなーんか危ないコトみたぃに扱ってたのな。
特に"1人でいるときに忘れるのはダメ"とかで。
今のおまじない、手を繋ぐヤツが出来なぃから」
「だから、学校から帰る前とかは皆で輪になって
手ぇ繋ぐんだ。帰る途中でバラバラに別れるから、
忘れて思い出せなくなる前にって歌も歌う」
故郷の童歌を、口遊む。
『月の見えない暗い夜 廿と九人で手を繋げ
一人は一日 皆で一月 巡り廻って月満つる
三日月 半月 小望月 望月 十六夜 月欠けて』
『足りぬ独りはとりのこさまだ
ひとつ隙間を空けとくれ』
■フィーナ > 「足らぬ独りは、とりのこ様…それが、神社に祀られていた筈の、神様の名、なんですかね?」
一人でいる時に忘れるのは駄目。忘れてしまったら………いや、この場合は。
「忘れられたら、連れて行かれる…?」
だから、こっちにおいでと。生贄として、一人になった薫を、呼び続けていた…?
「…そうか、だからばばぁさんの母親は…」
合点がいく。生贄になった者は『忘れ去られねばならない』としたら。
遺影も、遺物も。残すわけにはいかない。でもそう出来なかったから…
薫に、視線を向ける。その神様とやらの捧げものとされた、左目に繋がりを持つ、薫を。
「ある意味…その薫りと資質は、薫を生かしてくれたのかも知れませんね」
もし、薫が忘れ去られてしまったのなら。ばばぁさんの母親とは違い…本当に供物となっていただろうから。
■黛 薫 >
「実際のところ、どーなんだろな……?
もしかしたら皆はもっと知ってたのかもだけぉ、
あーし本ばっか読んでて話聞ぃてなかったから」
或いは、意図的に遠ざけられていたか。
忘却を、無に帰ることを恐れていたら……
独りになり得ず、連れ去られなかったから?
ぼんやりと黛薫周りの事情が見えてくる。
彼女は『供儀』に捧げられるための存在である。
既に捧げるべき『対象』が定められているから
他者は極上の餌たる彼女から何も得られない。
もし彼女が独りになり、忘れられ、自身も何かを
忘れたなら──そのときこそ『供儀』は成立する。
彼女は連れ去られ、『いなかった者』となる。
■フィーナ > 「…………しかし。足りない、独り…というのはなんでしょう?廿と9人で…それで月がめぐるのに一人足りなくて。で、そこがとりのこ様…
月の名を並べていって……………とりのこさまは新月…?
すみません、左目で見える、『なにもない』って、もしかして真っ黒だったりします?」
再度、この伝承との繋がりを確認する。盲目という程だ。恐らくは…
■黛 薫 >
「いぁ、だから『何も無い』んだって。
目を閉じれば目蓋の裏が見えるし、暗闇の中なら
黒が見えるだろ?それは『何も無い』じゃねーし」
きっとそれは、彼女にしか分からない感覚だ。
異界と化した『虚空』に潜行した貴女でさえ、
その空間には黛薫がいたのだから。
真に『何も無い』なら視覚では捉えられない。
特異なのは彼女の瞳か、それとも。
「……ああ、でも。新月とか、真っ暗とか。
1人でいるといつの間にか暗がりにいるみたぃな
錯覚起きるコトとかあるよな。あーしの場合は、
その……余計なコト考えて、気持ち悪くなって、
そっちで上書きされちまぅんだけぉ」
『供儀』の成立条件が『独り』であることなら。
他者の存在を感じることで防ぐことが出来るはず。
彼女を苦しめる異能、他者の視覚に付随する触覚。
そしてそれを想起させる精神的外傷、幻覚、幻触。
未だ彼女が存在出来ている理由は、それだ。
■フィーナ > 「………兎も角。これでは薫を独りにしておけませんね。何時消えてなくなるかわかったものじゃないじゃないですか…」
はぁ、とため息を尽き。その後、手をかざして…一つの分体を作り上げた。いくつかの魔術結晶が含まれている、手のひらサイズの小さな個体だ。
「…とりあえず。この子に隠蔽術式…この前やった水の膜のやつです。それをもたせました。この子を連れて行っておいて下さい。押してもらえれば術式を展開するように組み込んだので」
つまり、薫はスイッチを押すだけ、後はスライムが術式を組み立てて魔術を完成させる、という方式だ。これなら、薫の影響も受けづらく…スライムを起点とすれば水の膜の移動も楽にこなせるだろう。
「…しかし、これは…更に資料を集めないといけないですね…最悪現地に…」
■黛 薫 >
「仕事早いっすね?あーぁ、あーしもこんくらい
サクサクやるべきコトが出来りゃイィのにな」
怪異の分体を受け取り、ため息ひとつ。
非才を嘆けいたところでどうにもならない。
嘆く暇があればひとつでも多く積み上げる。
そのために手痛い代償を支払ってでも、だ。
黛薫の知識と、割に合わないほどの実験の『痕』は
そうして積み重ねられてきた。今でも、これからも。
独りになれば『連れ去られる』リスクが高まる上、
『供儀体質』の所為で襲われる可能性も低くない。
しかし人に交われば異能の所為で錯乱するほどの
苦痛に晒され続ける。
言動や精神だけでなく、在り方さえもが歪。
黛薫は、望まずしてそう生まれてしまった。
「一旦帰りますかね。あーしも気分転換ばっかに
かまけてなぃで、そろそろ加減手ぇ付けねーとだ」
自分の立場を理解していないのは、幸か不幸か。
満月の月明かりの下、黛薫は歩を進め始めた。
落第街の暗い闇の奥、親しき怪異の住処へ──。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」から黛 薫さんが去りました。
■フィーナ > 「…わたしも、資料を探さないと…な」
先程聞けた情報を元に、古書店へと。
海の先の、小さな集落のものだ。あまり期待は出来ないが…やるだけ、やってみよう。
少し小さくなった手で、本を手に取り、読み始めた。
ご案内:「古書店街「瀛洲」」からフィーナさんが去りました。