2020/07/27 のログ
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」に神樹椎苗さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 ――目が覚めたのは、いつもの自分の部屋。

 一つの終わりを見届けて、椎苗はベッドの上で体を起こした。

 記憶は、まだ鮮明に残っていた。
 ただ一人の『友人』が、恋した相手に抱かれて逝った。
 死ねないはずだった『友人』が、自分で選んだ終わり。

「――良い終わり、でしたよ」

 それは『友人』が描いていた終わりとは、少し違っていたかもしれないが。
 その終わりはけして無様ではなく、美しく、そして幸福だっただろう。

「ああほんとに――羨ましいじゃねーですか」

 きっと一つの理想的な終わり方なのだと、椎苗は思う。
 死に焦がれるモノとして、羨望を抱くほどに。

神樹椎苗 >  
 椎苗はベッドから立ち上がる。
 ゆっくりと歩き、左手でカーテンを開けた。

 思っていた通り、悲しみは訪れなかった。
 感じたのは、『友人』が願う通りに終われた事への安堵と、最後に『彼』が間に合った驚きと。
 『友人』に先立たれた、ほんの少しの寂しさだ。

 けれどやはり、悲しくはない。
 死は生命への祝福だ。
 永劫得られなかったはずのソレを、『友人』は自身の手で手にしたのだ。

 ――親愛なる友の旅立ちに、幸あれ。

 静かに祈る。
 『友人』が楽園へと至れることを。

「まあ、余計なお世話でしょうけどね」

 それでも、『死の神』が祈るのだから、至ってもらわなければ困る。
 そして今度こそ――誰にも邪魔されない、幸福な夢を。

神樹椎苗 >  
 窓を開け、少し高い窓枠に寄りかかる。
 空を見上げ、目を細めた。

 この記憶も、刻まれた『記録』も、時間と共に消えていく。
 『友人』は三日と言ったのだから、三日経つ頃には『友人』の顔も声も、思い出せなくなるだろう。
 最後に交わした、他愛のない、幸福なひと時もまた――失われるのだろう。

「それでも、無にはならない」

 消えても、失われても。
 それでもなお、残るモノはある。
 椎苗は誓ったのだ――『友人』を忘れないと。

 『友人』が確かに、この場所にいたこと。
 どれだけ忘れても、それだけは覚えていると。
 二人で願った奇跡は――消える事はない。

 空に手をかざす。
 いつか、『二人』でそうしたように。

「ああ――綺麗ですね」

 空に浮かぶ白い月は。
 涙が出るほどに、美しかった――。

ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」から神樹椎苗さんが去りました。