2020/10/11 のログ
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「常世寮/女子寮 部屋」に園刃 華霧さんが現れました。
レイチェル >  
「はー……今日も何だかんだで一日終わったなー」

レイチェルの自室。
その中央には丸テーブルが置かれている。
以前までは無かったものだが、少し前に買ってきて、
ここへ置いたものだ。ふぅ、と一息をついて座椅子に腰掛けると、
両腕を後頭部へ回し、一度深呼吸。

時刻は18時を過ぎたところだ。
近頃は風紀の仕事を分担し、早めに帰れるようにしているため、
このような時間に帰ってくることも珍しくないのだ。
あいつに、無理をしないと約束したのだ、守らねばならない、と。
そんな思いから来るレイチェルのそんな行動は既に習慣化していたのだった。

「華霧……話してあげたら、か……」

はぁ、と。少しばかり悩ましい想いが籠もった息が漏れる。

『寂しがり……ですか?
 ……なら、もっと会って話してあげたらどうですか?』

少し前に、沙羅と会って話した時に言われたことを、思い出していた。
あれから何度か連絡をとろうとしたが、真琴から華霧の秘密を
伝えられていたこともあり、少しばかり悩んでいて、それで今に至る。

――ま、悩むなんざオレらしくないって、分かってんだけどな。

それでも。
華霧を前にすると、華霧のことになると、
『レイチェル・ラムレイ』が解けてしまう。

そんな事実に頭を抱えながら、
天井を見つめて時計の針の音を聞いていた。

「会って、話してぇな……」

ぽつり、と。そんな言葉が口から漏れた。

園刃 華霧 >  
「ンー……チっと、慌てスぎカな……?」

女子寮の一室の前まで来て、ちょっと考え込む。
話をしておきたい、とは思ったけれどアポ無し突撃ってのもな……
と、流石にアタシも思うわけだ。

「つッテもナー……」

此処まで来て帰るのも、如何にも間抜けだ。
そも、多分電話で話せそうにないことを話そうと思ったわけで……

………
……


「アー、やメやめ。
 ヨシッ」

考えることをやめた。

ということで、とりあえずノックだ。

レイチェル >  
ノックを受ければ、耳がぴくりと跳ねる。
この部屋、来客はそう多くはない。
一体誰が来たのだろうと、胸の内でレイチェルは思案する。

「開いてるぜ~」

そう口にしながらさっと立ち上がれば、
肩を回して玄関の前まで歩いていくレイチェル。
踏み出す一歩と共に、金の髪がゆったりと揺れて流れる。

「どちらさんだ?」

次元外套に右手を忍ばせつつ、玄関前まで行って確認する。
これは完全に、レイチェルの癖――生まれ育ってきた
環境から来る習慣が、今でも残っているのである。

園刃 華霧 >  
「はイ、コチラさんデすよーット」

いつもの感じの声が聞こえてくれば……
あれ、これで良かったかな?と、ちょっと思案しながらも答える。

どうも人のところに行くも来るも慣れない。
不法侵入ならそれなりに経験はあるが、まさかその流儀でいくわけにもいくまい。

「入るヨっと」

ノブを握り……
少し警戒気味に開ける。

あ、やば。不法侵入時の癖だなこれ
まあいいか……

レイチェル >  
「か、華霧っ!? ド、ドーゾ、ナカニ……」

その長い耳が驚くほど跳ねた。
そして思わず強張ってしまった喉からは変な声が出てしまう。

思わぬ来訪者にどくん、と強く脈打つ心臓抑えようとするように
左手を胸にやりつつ、ふぅ、と一息つくレイチェル。

心が引き締まるような、解けてしまうような。
そんな不思議な感覚を覚えると同時に、レイチェルは
忍ばせていた空の右手を外套から引き抜く。


そうしてレイチェルは頭を軽く振って、続く言葉を投げかける。

「あー……普通に入って来てくれていいぜ」

警戒しながら客を出迎えようとしていた口から出た言葉がそれである。
両者が育ってきた環境から来た癖が、どこかぎこちない、
ちょっと不器用な来訪を形作っていた。

「今日は、どうしたんだ?」

そんな言葉をかけながら、レイチェルは笑顔で
彼女を自室の中へ案内する。

部屋の真ん中の丸テーブル。そこには3つの赤い座椅子があって、
ゆったり座れるようになっている。
そこを手で示しながら、レイチェルは華霧にそう問いかけた。

園刃 華霧 >  
「ァー……ンじゃ、遠慮なく……」

考えてみれば、招待なしに人の家に行く、なんて初めてだな……
ああいや、不法侵入はおいておいて、おいておいて、だ。

といって作法なんかあるわけでもないだろう、と決め込んで、
とりあえず上がりこんでみる。

「ンー……いヤ、ンー……」

どうしたんだ、と言われたら唯一つ。
様子を見に来たのと……

「前の、約束……大丈夫かナって、ナ?」

そういえば、言うだけ言ってまだ実行に至っていない。
そんな約束が気になっていた。

我慢させっぱなしならよくない。

にしても、整った部屋だな……らしいっちゃあらしい

レイチェル >  
「約束……それで、来てくれたのか。ありがと、華霧。
 何か飲むか? えっと、今あるのは……オレンジジュースか
 トマトジュース、牛乳、緑茶……あとは珈琲ってとこか」

純粋に、その心遣いがレイチェルは嬉しかった。
きっとこの相手は純粋に心配してくれている。
嬉しかったのだが、それでも。気にかかるところはあった。
今日は、そのことについても話すことになるのだろうか。
そんなことを頭に思い浮かべながら、レイチェルは先に冷蔵庫へと
向かう。

白くて丸い木製テーブルの上には、本人の間食用であろう、
様々なチョコレート菓子が沢山入った袋が置かれていた。

「約束……血のこと、だな」

確認するように、そう告げる。
華霧は自分の身体のことを知って、血を吸わせてくれると
言ってくれた。

「今は、大丈夫だ……色々あってな。
 今まで、ずっと人工血液を飲んでたんだ。
 
 でも、人工血液じゃ、生の血と同じような成分だとしても、
 どうやらオレみたいな吸血鬼にゃ、
 劣悪な代替品でしかなかったらしい。今回のことで分かったよ。
 だから、血液不足が……ずっと蓄積してたんだと。

 ……吸血種や、
 血液を媒介にする魔術を使う奴らの為に、献血をしてる
 慈善団体がこの島にあるらしくて、その血を紅蓮っていう
 先生から貰ったんだ。お陰で少し持ち直したけど――」

冷蔵庫を覗き込みながら、レイチェルはそう返した。
冷蔵庫の中のトマトジュースの赤が、やけに鮮やかに目に映った。
そして。隠し事はしたくないと、華霧へ続く言葉を伝える。

「――何の因果かしらねぇが。その血は、真琴の血だった」

その事実だけをまずは伝えて、レイチェルは2つの
マグカップを洗う。
マグカップにはウィンクをしているネコマニャンが描かれていた。

園刃 華霧 >  
「ン……別に、なんでも。」

飲み物に拘りはない。
強いて言えば、ドロドロの珈琲なんかは昔のことを思い出して懐かしい、くらいだろうか。
もっとも、そんな珈琲はあまり世間では好まれないようで久しく飲んだことはない。

けれど、別に懐かしがって飲むものでもないし……好み、というのとも違うだろう。

「そウ、血のコと。
 結局アレから全然ダしサ?」

同居を断った負い目もあって、なんとなく此方から確認しづらかった。
だが。

今は、また色々バタバタする中で、気になって仕方なく……とうとう我慢しきれなくなった、ということだ。


「人工血液、ネ……
 で、今はナマっぽいの飲んデて大丈夫ってコと?」

言われれば納得はある。
人工、なんて所詮どこまで言っても偽物は偽物なのだ。
不具合があってもおかしくはない。



「へ? マコト?」

真琴、といえば……互いに知っている人物であれば。
あの真琴しかいないだろうけれど……
そうか……アイツ……

なるほどなぁ

レイチェル >  
「分かった。それじゃ、オレンジジュースにしとくな。
 これ、結構美味しいんだよな~」

洗ったマグカップに『キュー』と書かれたラベルの貼られた
ペットボトルを傾ければ、魅惑のオレンジ色が注がれていく。
そのまま丸テーブルへことり、と置けば、レイチェルは座椅子に
腰掛けた。
胸の下で腕を組んでリラックスした姿勢をとりながら、
華霧の方を見やり、レイチェルは言葉を返していく。

「そーだな、あれから全然だった。
 お前から……一緒に住むの断られたあの時が、最後だったな」

同居を断られたあの日のことは、ずっと覚えている。

『正直、これまでの無茶がたたったりとか……
 ちゃんと相談してくんなかったりとか。
 アタシは、とても、気に入らない――』

脳内で、あの時の華霧の声が改めて響く。 

『――だから、ちゃんと大丈夫ってアタシが納得できるまで。
 レイチェルんとこ行くのは無しだ』

彼女のその言葉は、ずっと胸に刻んでいた。
ずっと覚えているからこそ、今日まで在り方を変えてきた。
彼女を心配させない為に。傷つけない為に。

だって、それこそが――


「ま、そういうこと。前に比べりゃマシになった。
 ……完璧って訳じゃねーが」

そう口にしながら、レイチェルは言葉を返す。
ここで突然出した、真琴の名。華霧も意外だったのだろう。
説明を加えていく。

「……オレ達吸血鬼は、ある能力を持ってる。
 血を吸った対象が、自分に強い想いを持っていた時……
 夢の中で、繋がる能力だ。意識せずとも、な。
 
 そこで、あいつのこと色々聞いたんだよ」

園刃 華霧 >  
「ふぅん?」

飲めればいいや、の精神だったり、物珍しいほうがいいや、精神だったりで、
だいたい飲み物は目についたものを買っていて同じものを何度も続けて、はあまりない。

そんな自分からは、そういう発言は新鮮だったり。
いや、結構みんなそうしているのは知っているんだけれど……

まあそれはそれとしてとりあえず、レイチェルの対面に座る。
いつものあぐらで、リラックス。


「ン……まぁ、ネ」

改めて言われると、ちょっぴり気まずい。
あの時の自分の言葉を思い出すと、自分にも突き刺さる。
いっそなかったことに、とも思う瞬間がないわけでもない。

しかし、同居人からは逃げるな、というありがたいお言葉をいただいているので
この程度でくじけるわけにもいかない。


「ヤっぱ、完璧、ではナいのネ。
 まァ……そう、都合よクはいカないカー……」

それでも、落ち着かせる方法があるのに越したことはない。
先々のことを考えても……


「ふ……ん……?」

血を吸った対象が、自分に強い想いを持っていた時……
夢の中で、繋がる能力

そこで、あいつのこと色々聞いた

ああ……なるほど。
だいぶつながった。

そういうことだったわけだ

レイチェル >  
「ま、飲んでみな。華霧も、結構気に入るかもしれねーし」

そのジュースは、果汁の美味しさをたっぷりと感じられる濃厚な
オレンジジュースであった。しかし、それでいて後味がすっきり
している、とても飲みやすいオレンジジュースだ。一部では果汁
の主張が強すぎる、などといった意見も出ているようだが、レイチェル
は好きだった。


「……すまねぇな。あの時のこと、気にしないでくれていい」

気まずそうにしているのは、彼女の纏う雰囲気からそれと知れた。
だから、レイチェルはそう口にして困ったように笑うのだった。
笑って、笑って、耳が少しだけ垂れ下がった。

「オレは、在り方をちょっと変えられたし、自分がどう在りたいかも
 分かってきたからさ」

自分がどう在りたいか。なぜ、そう在らねばならないか。
そのことを、ずっと考えていた。
その答えは今、彼女の内に出ていたから。

「……夢の中もそうだけど、あいつとはきちんと話したよ。
 オレがアトリエに行ったの、聞いてるだろ。
 あいつとは色々あったけど、何とかまぁ……また、
 前に進めそうな気がしてる。

 悪ぃ、ちょいと複雑な話になっちまったな。でも、これは華霧に
 話しておかなきゃって思ったんだ。隠し事したくねーからさ」

そう口にするレイチェルだったが、その胸の内は――

レイチェル >  
――どう、しよう。


一つだけ。
たった、一つだけ。
口にすべきか迷っていることがあった。

本当に渇きを癒やす為には、
今のままでは足りない。
その、理由を。

レイチェルのような吸血鬼にとって、
吸血は一種の愛の儀式である。

血であれば、何でも良いという訳ではないのだ。
渇きを癒やすには、直接口にする想い人の血こそ最も身体に馴染む特効薬となる。

最も効率が悪いのは人工物。
一度体外に出された血液は人工物よりもマシではあるが、
それでも実際に直接血を吸うそれよりも、格段に効率は悪い。
その場しのぎでしか、ないのだ。

要するに、真琴の血のお陰で幾分か持ち直したが、まだまだ本調子
ではなく、渇きは続いているということ。
本当にその渇きを癒やす為には――他でもない、華霧の血が必要だということ。

そのことを、伝えるべきかどうか。
レイチェルは、悩んでいた。

無理してほしくない。傷ついてほしくない。
目の前の相手に、そんなことは望んでいない。
貰うんじゃなくて、与えたいと思っている。

けれど。

『ちゃんと相談してくんなかったりとか。
 アタシは、とても、気に入らない。』

再び、頭に響くその言葉。
目の前の相手を裏切ることだけは、したくない。

ならばきっと、それがいつになるか分からないが、
必ず伝えなくてはならないのだろう。

園刃 華霧 >  
「んじゃ、まァ……遠慮ナく……ん。
 へぇ……確か二、悪クなイな」

差し出されたジュースを飲んでみる。
うん、美味しい。
それなのに、悪くないって感想もないもんだが、これは口癖と言うか……
良いもの、という感覚があまりまだわからないから仕方ない。

でも、それはそれとして。これは覚えておいても良いかもしれない。


「在り方……?」

あの時の問答は、そう。
結局、頼ったり相談してくれなかったりという目の前の相手に反発してのこと。
であれば、その辺のことだろうか。

しかしそう考えると、なにか強要したようでそれはそれで気まずいが。
まあ……うん。やめよう。
気まずい地獄に入りそうだ。


「あァ、まァ……うン。
 その辺は、ナんとナく……うン。」

マコトからあらましは聞いている。
流石に、夢、なんてちょっと荒唐無稽な話は聞いてなかったけれど。
……流石に説明しづらいもんなあ、それ。

濁されているけれど、深い話もアタシは……
けれど、あれは……そう話すものでも、ないだろうし。


「じゃ、体調は今ンとこ大丈夫ナんダね?」


再度、確認をする。

レイチェル >  
オレンジジュースを気に入った様子は伝わったのか、レイチェルは
心から嬉しそうに笑うのだった。

「そ、在り方。
 最近のオレってほんと、自分のことも相手のことも
 見てなかったなって。特に、自分のことだ。
 お前のお陰で気付けたよ。誰かを大切にしたいなら、
 まずは自分から大切に、ってさ。
 始まりはお前との約束だった。そいつが、オレに考える
 きっかけを与えてくれた。その、ありがとな」

華霧だけではない。この島を守っていく立場にあるならば、
まずは己の身をしっかりと持たせなければならない。
当然のことであるが、どうにも自分の呪縛がそれを邪魔してしまう。
今でも呪縛はこの身にある。
それでも、少しだけマシになった気がする。
それは、華霧との約束のお陰だと、レイチェルは感じていた。
だから、満面の笑みで礼を言う。

そして。再度の問いかけ。


「今の所は、ああ。大丈――」

そこまで口にして。
胸が、ずきりと痛んだ。

そうして、レイチェルは沈黙する。
先の思案が、再び脳内を駆け巡る。
華霧の顔を見て、そして自分の内側から溢れる渇きに向き合って。
そうして。

困って、困って、困って。
レイチェルの視線が段々と伏し目がちになっていく。


――、を。

レイチェル >  
――何、を。

拳を握って、軽く頭を振った。

――何を、考えてやがる。

前を見る。しっかりと華霧を見る。

――そうじゃねぇだろ。

浜辺での、独房での、華霧の言葉をはっきりと思い出す。

――華霧の覚悟を、心配を、穢す訳には。

『つまり、アタシは馬鹿も無茶も上等ダ!
 必要なときハ、みっとモなく泣いテでも
 アタシのトコ、絶対、来いヨ……!
 いいナ!忘れるナ、レイチェル!』

――忘れて、ねぇよ。忘れて、ないから。

ぽつりと、みっともなく。
それでもしっかり華霧を見据えて。
レイチェルは口にする。

「……本当は、ごめん。伝えてないことが、一つだけあるんだ」

一旦そう口にして、レイチェルは華霧の反応を待った。

園刃 華霧 >  
「見てなカった、かぁ……そっか。
 そうダなあ。
 ほんト、使命、だっタりなんだリに追わレて、自分が見えてなイ連中が多イよなあ。」

やや呆れたような口調。
特に、身の回りに多すぎるのではないか、という気がしてならない。

「まあ、それが見えルようになッタだけでモ上等なんだロうな。
 うん、悪くナい」

にへら、と笑う。
大事な友人が、救われたのならこんなにいいことはない。
嬉しくなってくる。


「ぇ……?」

大丈夫、と言いかけて止まる友人。
その視線がどんどん下がっていくのを、ただ見つめることしかできなくて……

ああ……
やっぱり……
だめなのか……


「……」

つたえてないこと
なんだろう

「……もし よければ
 おしえて」

ぽつり、と言葉を返す。

レイチェル >  
レイチェルは、全てを伝えた。
静かに、弱々しく、しかし視線を逸らすまいとしっかり前を見据えて。
そうして、最後にぽつりぽつりと、一番大事なことを伝える。



「結論を言うと……その……恋……をしちまった吸血鬼は――」



大切な人を怖がらせたくなかったから、
傷つけたくなかったから、無理して欲しくなかったから、ずっと隠してきた。
レイチェルが華霧に隠していた、その最大の秘密を。



「――好きな、人の血がないと、生きていけないんだ……」





――ああ。分かってる。こんなこと、伝えたくない。

好きな人の血を吸わない限り、ずっと渇き続ける。
その呪縛は、純粋すぎるレイチェルには猛毒であった。

――でも、裏切る訳にはいかねぇんだ。

恋に気付いた時。
自分が一人で我慢していれば良いだけの話だと思っていた。

しかし、今レイチェルの身体はボロボロに傷ついていて、
このままでは長くはもたない。それは、医者から聞いていた。

だから。
彼女を本当に安心させる為には、
彼女を傷つけなくてはならないのだ。


いつしか、紫瞳は潤いを帯びていた。


「……華霧に、伝えてなかった……秘密は、これで全部……」

弱々しく眉を下げつつも、
それでもレイチェルは一生懸命華霧を見ていた。
見据えていた。
みっともなく、縋るように。
それでも、まっすぐに。

園刃 華霧 >  
「あぁ……」

吐息のような声

「そう なんだ」

いいかけて いえなくて
ようやく ことばにされた
それは

「ねぇ」

――好きな、人の血がないと、生きていけない
――……華霧に、伝えてなかった……秘密は、これで全部……


「……ほんとに、それで全部、なんだよね?」

縋るような
それでいて真っ直ぐな
その瞳を見ながら

静かに聞いた

レイチェル >  
「……あと、伝えてなかったこと、は……。
 ……昔みたいな、治癒能力がほとんど無くなっちまってんだ。
 前はちょっと怪我したり、内蔵にダメージが入るくらい何とでも
 なってたんだ。
 
 でも、医者から言われたよ。今のオレの身体、さ……。
 中途半端に治ってるところが、あるって……。
 それで、余計に身体がボロボロになってるんだって」

袖で、ぐっと涙を拭いて。
大事なことを伝え終わったレイチェルは、そう口にした。

 
「オレの身体と、血のことに関しては……
 こいつで全部……だと、思う。隠してて、ごめん……。

 華霧を傷つけたくなかったから。
 いや、それだけじゃねぇ。
 
 吸血のことに関して言えば、
 拒否された時、自分が傷つくのも怖かったから。
 そんな卑怯な気持ちがあったから……
 だから、伝えられなかった」

再び少しばかり伏し目がちになるが、それでも続く言葉は
力強く。レイチェルは、華霧に語る。
 
「でも、お前の言葉を思い出して、裏切る訳にはいかねぇって
 思った。オレのことを心配してくれてるお前に、このことを
 伝えない訳にはいかねぇって、そう思ったから……
 だから、オレが知ってるオレの身体のことは、
 全部伝えたつもりだ」

こうして秘密を打ち明けて、それでも前を見据える強さを
華霧をはじめ、周りの人達に貰ったから。
だから今、レイチェルは『レイチェル・ラムレイ』としてここに立てる。


華霧を前に、真実を伝えることを躊躇してしまう弱い自分を、否定できる。

園刃 華霧 >  
「内臓の……あぁ……それは、うん。
 前に、聞いた、な……」

病院でひと悶着を起こした時に伝え聞いた話だった。
あれも、もう随分と前のような気がする。

すでに知っていたことではある、が。
本人の口から改めて聞かされると、妙な実感を伴ってのしかかってくる。

でも、それはすでにわかっていること。
まだ、なんとか耐えられる。

「いや……いい。
 うん、いいよ。
 話すの、辛いだろうにさ。
 話してくれたんだし、さ。」

涙を拭い、本心を伝えてくれる友人。
それは本当に得難くて……嬉しいことだ。

「今更、傷つくもなんもないだろ……っていいたいとこだけど。
 まあ、そこはいいっこなしってトコで。」

にへら、と笑う。

「悪いね、なんか……色々言わせちゃってさ」

見据えてくる相手を見返して、言葉を紡ぐ。