2020/09/15 のログ
神樹椎苗 >  
「そ、そうですか」

 聞き返した結果、聞き間違いでないことが分かってしまった。
 なんてことだろう。

「先輩はただものじゃねーと思ってましたが。
 想像以上にすげーヒトだったのです」

 ラ・ソレイユ。
 ネットワーク上に流れている評判だけでも、相当に評判がいい店だ。
 いずれ、必ず行かねばならないと思ってマークしていた店の一つでもある。

「先輩のヤバさの一端が分かった気がするのですよ」

 まさか本職のパティシエに教えを乞えるとは。
 盗めるだけのスキルを盗んだら、娘に――姉にも、食べさせてあげられるだろうか。

「――それなら、早速手ほどきを受けてもいーですかね」

 先輩を見ながら、少し腰を浮かせる。
 じっとしていると、また考え込んで落ち込んでしまいそうだった。
 何か手を動かしていれば、そっちに意識を割いていられるだろう。

柊真白 >  
「そうかな」

別に大したことはしていないつもりなのだが。
今までやってきたから出来ている、と言うだけ。
その経験が人よりも長いだけの話だ。

「ん……」

目線を彼女に向ける。
思わぬ師の実力に居ても立っても居られない、と言うように見える。
けれど、さっきの彼女の姿。

「――教えてはあげられる。でも何かから逃げるためにやるんなら作り方を教えるだけ。それでいいなら」

何かから逃げるのが悪いわけではない。
ちゃんとやりたいならばちゃんと学んで欲しい。
別の心配事があって集中できない、なんてこちらもつまらないから。

神樹椎苗 >  
「――それだけでも十分です。
 今は何かをしていた方が、幾分マシでいられそうですから」

 また、ふと虚空を見るように視線が飛ぶ。
 思い悩む事があるというのは、隠すつもりはない。
 逃避と言われれば、返す言葉もないのだから。

「ただ、やる以上は真面目にやりますよ。
 自分が好きなのもありますが――好きなものを共有したい気持ちもあるのです。
 美味しいお菓子、食べさせてやれたら、喜んでくれそうじゃねーですか」

 心の内は平常とは言えないが。
 それでも上の空で教えを受けるほど、いい加減にするつもりはない。
 立ち上がりながら、切り替えるように左手を握りこむ。
 あったときに比べれば、幾分、表情は晴れたように見えるだろうか。

柊真白 >  
「そう」

自覚をしているのならば大丈夫だろう。
ならば、解決するまで今まで通りの料理に加え、菓子も教えていくことにする。

「こっちも手は抜かないよ。――一応、先輩として相談も受け付けてるから」

どこまで力になれるかわからないけれど、これでも一応先輩で師匠なのだ。
後輩で弟子の悩みには力になりたいという気持ちはある。
立ち上がり、彼女の頭にぽん、と手を置く。

神樹椎苗 >  
「ん、気を遣わせちまいましたね。
 先輩には十分すぎるくらい、助けられてますよ。
 おかげで娘の笑顔も、随分増えたように思います」

 手を置かれれば、むず痒そうに片目を詰むって上目にみる。
 この先輩には、意外と多くの面で支えられているのだ。

「だからこれまで通り、厳しく教えてくれれば有難えのです。
 改めて、よろしく頼むのですよ」

柊真白 >  
「弟子のメンタルケアも師匠の仕事」

ぽんぽん、と彼女の頭を二度三度軽く叩いてから手を離す。

「ん。じゃあ、これからは作る前に食べる時間も作ろうか」

とりあえず彼女の舌も鍛える時間を作って行こう。
それは料理を作る者の助けになることだから。

「椎苗の『娘』にも会ってみたいね。料理は出来るの?」

彼女の『娘』はどんな人なのだろうか、と思いを巡らせながら。

神樹椎苗 >  
「食べる時間ですか。
 それはまた、随分と鍛えられそうですね」

 師の料理は間違いなくどこに出しても誇れる逸品だ。
 それを味わわされれば、嫌でも舌は肥える事になりそうだ。

「えーあー、娘ですか」

 料理できるのか。
 さて、一人で作らせた覚えはないが――手伝うと言われたときに叩きだした覚えがある。

「得意とは、言えねーんじゃないですかね。
 放っておくと、サプリメントや栄養食で食事を済ませるような娘ですからね」

 首をひねりながら、まともな食事をしていないのを見た時を思い出す。

「まあそういう理由もあって、今は娘の舌を肥やしたいのですよ」

柊真白 >  
「ふうん」

サプリメントや栄養食。
まぁ身体の栄養と言う面では問題ないのだろう。
ただ、食事はそれだけではないと思っている。
人の自由だとは思うが、

「じゃあ、今度連れてくる?」

それはそれとして、お節介焼きが顔を出す。
舌を肥やすならばいっしょに連れてくると良い、と。

神樹椎苗 >  
「ああ、そうですね。
 いつも風紀の仕事で忙しくしてますが。
 退屈そうにしているのを見つけたら連れていってもいいですね」

 より美味なものを食べさせれば、さらに肥やしてやれるだろうか。

「その時はまた、改めて頼むのですよ。
 とはいえ、さすがに娘の面倒まで見てもらうのも気が引けないではないですが」

 この先輩は、かなりのお節介焼きなのだ。
 あんまり世話を焼かれ過ぎても、返せるものがなくて困ってしまうのだが。
 それはそれとして、ありがたくもある。

柊真白 >  
「風紀だったんだ」

なるほど、風紀の『娘』。
それは忙しそうだ。

「別に構わない。私もそうして先人から受け取ってきたし。それは私に返すんじゃなくて、後進に渡してあげると良い」

恩と言うのは返す者ではない。
次の世代に続けていくものだ。
それが先達の義務だとすら思っている。

神樹椎苗 >  
「先人から――後進に」

 それは技術の継承というモノなのだろう。
 そう言うカタチであれば、自分にも伝えられる、遺せるものがあるのだろうか。

「――そう言う事なら。
 一層、気合を入れないといけねーですね。
 しいもいつか、誰かに伝えられるくらいにならねーといけません」

 一歩、玄関先から踏み出して、もう一歩進んで振り返る。

「そういう事ですから。
 これからもよろしく頼むのですよ、白ロリ先輩」

柊真白 >  
「そう。だから私もあなたにこうして技術の継承をしている」

勿論誰にでもという訳ではない。
彼女ならば正しく継いでくれる、と判断したからだ。

「人はそうして歴史を紡いできたからね」

歴史、技術、知識、その他諸々、今自分たちが暮らしていられるのは先祖がそう言ったものを伝えてくれたのおかげだ。
それらを次へつなげる限り、人の歴史が途切れることはないと思う。

「もちろん。よろしく、未来の師匠」

ご案内:「宗教施設群-修道院」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」から柊真白さんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」に神樹椎苗さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 ──頭が痛い。

 今回は比喩的な意味で、痛かった。
 修道院の玄関先に座り込みながら、この数日の事を思い返す。
 自分にもあまり余裕は無かったが。

「──気付いてないと、思ってんですかね」

 ぼやきつつも、違うだろうなと首をふる。
 だとしたら自分にできる事は多くない。
 精々、いつでも帰って来れる場所で居てやる事くらいだ。

「あとは、美味しいものを食べさせてやるくらいですか」

 どうやら母娘という関係は、世話を焼きすぎるのも良くないらしい。
 それでも、『助けて』のサインだけは見逃さないように。
 本当ならもっと、一緒に居てやりたいのだが。

神樹椎苗 >  
 座り込んだまま、ぼんやりと何をするでもなく庭を眺める。
 今日もまた、お見舞いにはいけなかった。

 行ってもどうせなにもできやしない。
 そんな気持ちが日々強くなっているような気がした。
 どうせ『ただの他人』でしかないのだから、と。

「ちゃんと、戻ってきてくれるのでしょうか」

 その時にはもう、以前とは決定的に違ってしまってはいないだろうか。
 体は、動けばなんとかなる。
 けれど心は、そうではない。

「元通り、なんて贅沢は言いませんから」

 顔を伏せる。
 これ以上、失わないでほしい。
 あのヒトは、もう十分に失ってきたのだから。

 迎えに行くべき、なのだろうか。
 自分が行ってもいいのだろうか。
 どれだけ『計算』しても答えは出ず、伏せられた顔は上がらなかった。

ご案内:「宗教施設群-修道院」にクロロさんが現れました。
クロロ >  
「おい、何してンだガキ」

不意に少女の頭上から、随分と低い声が響いた。
それは何時からいたかはわからない。
顔を上げれば、人相の悪い青年が見えるだろう。
夜風に揺れる迷彩柄のジャケットと緑の髪。
薄暗い場所でも煌々と輝く金の瞳が特徴的な青年だった。
少女の体躯を簡単に隠してしまう程の長身。
細めた金色がじ、と少女の姿を見据えている。

「なンだ?家でも追い出されたンか?それとも腹でもいてーのか?」

修道院を一瞥して尋ねる声音は
見た目とは裏腹に心配の音だ。
こんな時間に子ども一人、顔を伏せたままなら心配位する。
青年、クロロとはそう言う男だった。

神樹椎苗 >  
「――なんですか、おまえ」

 顔を上げたら、人相の悪い男。
 そしてすでに暗い空の色。
 いつの間にか随分時間が経っていたようだ。

「なんですか、しいに声を掛けるとか、ロリコンやろーですか」

 はあ、と疲労を感じさせる息を吐きだしながら。
 見上げていた気だるそうな視線は、すぐに地面へと落ちていく。

「別に追い出されたのでも、体調不良でもねーですよ。
 ただ――いえ、特に何をしていたわけでもないですね」

 声に力はない。
 声音や様子から、気分が落ち込んでいるらしい事は見て取れるだろう。

クロロ >  
「"ろりこん"?オレ様はそンな名前じゃねェぞ、クロロだ。クソガキ」

訝しげな顔をしながら吐き捨てるように名乗った。
生憎、記憶のほとんどは空白だ。
"ロリコン"と言うものの知識はないので、名前だと思ったらしい。
しかし、どう見ても少女は気落ちしている。
やる気がない、と言うよりは疲労や心労と言った具合が見て取れる。
アー、妙な声を上げながらその場にしゃがみ込んで視線を合わせる。
所謂、ヤンキー座りだ。

「どッちでもねェッても、どーみてもテメェどーかしてるだろ?
 素直じゃねェのは結構だが、そーゆーのは、強がれる状態の時だけにしとけよ」

正直クロロにとって、他人などどうでもいい。
此の少女も放っておいてもよかった。
だが、弱っている女子どもを放っておくのは"スジ"が通らない。
だから、クロロは見知らぬ誰だろうと、手を伸ばす。声もかける。

「で、どうしたンだお前?やべーンなら、病院ぐれーつれてッてやるけど?」

神樹椎苗 >  
「あー、なるほど、バカですねお前」

 頭が悪いというわけではなさそうだが。
 少なくとも言葉を知らないのは間違いなさそうだ。
 視線を合わせてくる相手に、胡散臭そうな視線を返す。

「強がってるわけでもねーです。
 そこら中怪我だらけではありますが、病院の世話になる理由は、今のところねーですね」

 なんだろうか、この男もまたお節介焼きな人間――人間なのだろうか。
 やんわりと首を振ってみせる。

「ただ、まあ。
 どーかしてるのは、否定できねーですか、ね。
 思い悩むことくらい、誰にでもあるじゃねーですか」

 はあ、と。
 またため息を繰り返した。

クロロ >  
「ア?なンだとクソガキ?オレ様はバカじゃねェ。バカッつッた方がバカなンだよ」

そう得意げに語る馬鹿が目の前にいる。
何だが微妙にドヤっている。馬鹿である。
馬鹿は得てして、自分を馬鹿だとは思わないのだ。

「……で、テメェは一丁前に悩み事か。ガキにしちゃァ、随分と気苦労が多そうだな」

所感と言う奴だ。
本人曰く傷だらけと言う事らしいし
何より、如何にも気だるそうな雰囲気、悩みは随分と重たいらしい。
ふぅン、と適当に相槌を打てば首を傾げた。

「ンで、ガキ並みの悩みッつーと、何に悩ンでンだ?
 かーちゃンにでもしかられたか?それとも
 傷が耐えねーのがイヤッてンのか?」

「そこで一生蹲ッてても、一生前はむけねーぞ?
 とりあえず、八つ当たりでも何でも、吐き出してみろよ」

初対面相手に、と人は言うかもしれないが
だから言える事もあるし、何よりこのまま放っておいて
本当に何かあったら寝覚めも悪い。だから、クロロは問いただす。

「どーせ、一夜限りのエチケット袋だぜ?その辺に吐いてポイする位の気軽さで丁度いいだろ」

ニィ、とクロロの口角がつり上がった。

神樹椎苗 >  
「典型的なバカのセリフを聞いてびっくりですよ」

 ドヤ顔をキメる青年に、目を丸くして驚いた。
 気苦労と言われれば、気苦労はしているのだろうが。
 特別、多いと思ったことはなかったが、さて。

「――うるせーですね。
 わかってますよ、こうしてても何も解決しないって事くらい」

 考えて答えが出る事なら、とっくに解決しているのだ。
 自分の『演算』で答えが出ないなら、それは思考して答えが出る事じゃないのだろう。

「ふん、随分と口のうるせえエチケット袋じゃねーですか。
 うるせー上にバカでロリコンとか、救いようがねーですね」

 ふ、と鼻で笑って小ばかにしたような顔を向ける。
 まあ善人ではないかもしれないが――とびぬけて悪人でもないのだろう。
 絶妙に頭の悪そうな言動が、お節介を『余計なお世話』にしていない。
 なんとも、上手いことバランスが取れている青年だ。

「はあ。
 大したことじゃねーです。
 ただ、自分が本当に、何もできないちっぽけなモノだって思い知ってただけですよ」

 そう、結局はこれだ。
 単純に自信を失っているだけ。
 特別、複雑に悩む事でもない――だからこそ一度思い悩むと深みにはまってしまうのだが。

クロロ >  
「ア?なンだとガキ?誰がバカだコラ、ゲンコツ決めンぞ」

流石に人相通りのガラの悪さ。
子ども相手でも睨みを利かせて顔を覗き込んだ。
ドスの利いた声で脅してくるも、手を出す気配はない。
手を出すのは、筋が通らない。

「つくづく口の減らねーガキだな。そンな一々吠えても
 誰も構ッちゃくれねーぞ?つーか、"ろりこん"ッてなンだよ」

如何にも言葉の鋭さが目立つ。
自分も大概、丁寧でないにしろとげとげしいと言うべきかなんというか。
逆に敵意の無さだろうと、それは人を遠ざける言葉だ。
クロロもそこまで、他人へと"トゲ"をぶつける事はない。
表裏無く、悪意無く、サッパリした男なのだ。
だからこそ、その少女の事が"心配"になってくる。
訝しげに顔を顰め、自身の後頭部を掻いて溜息だ。

「アー、要するに無力な自分に嫌気が差したッてか?
 そりゃ、ガキだからそーだろうが。子ども一人で……」

「……────ッたァ、言い切るこたァねーけど、何があッたンだ?」

異能者の島。子ども大人だからって力量を図ろうとは思わない。
人が無力に思い悩むときの理由は大抵、相場が決まっている。
じ、と神妙に少女の目を見据えて問いかける。

神樹椎苗 >  
「ふ、なんですか、ガキの言う事にムキになるんですか。
 案外、お前もガキなんじゃねーですか?」

 睨んで来ようと凄まれようと、どこ吹く風だ。

「ロリコン。
 少女性愛嗜好者。
 一般的には年の離れた相手を性愛の対象にする人間の事を指します。
 つまりお前みてーなやつですね」

 ついに断定し始めた。
 そうは言っても、実際にロリコンだとは思っていないが。

「そうです、嫌気がさしてんですよ。
 自分のできる事っていうやつが、どれだけちっぽけなもんなのかって」

 青年から視線を外して、横に流しながらまた重たい息が漏れる。
 何があったと聞かれれば、ちら、と視線を戻してその顔を見ると、また遠くに視線が外れる。

「――お前には、大切な相手っていますか。
 出来る事ならなんだってしたい、力になりたい、一緒にいたい、そんなふうに思う相手は」

クロロ >  
「あンだとォ?オレ様は見ての通り大人だ!オ・ト・ナ!」

ムキになって声を荒げた。子どもっぽいのは間違いない。
ギギギ、と奥歯を噛み締め噛み慣らす。動物っぽい威嚇だ!

「ロリコン。成る程なー」

はぁー、と納得したように頷いた。
そして、思い返す。果たして自分は彼女の言うように"ロリコン"だったのか。

「…………」

……なんか思ったより年上しか相手にしてなくね?
よし、これについて考えるのはやめよう!
それよりも今は、彼女の悩みだ。

「……成る程な」

ちっぽけな自分が嫌だと言った。
大切にしたい相手がいるか、と問いかけた。
それだけで大よそ、彼女の悩みは察した。

「ガキの癖に随分と立派な事言うじゃねェの。
 ……で?お前はその大切な奴が怪我でもして、落ち込んでるッてオチか?」

まずは逆に、質問で返した。