2020/09/19 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」に神樹椎苗さんが現れました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」にレオさんが現れました。
神樹椎苗 >  
 色々と覚悟を決めて見舞いに行った翌日。
 なぜかまた、椎苗は主の居ない修道院前で膝を抱えていた。

(すごく、無茶苦茶な事を言った気がしますが?)

 昨日のお見舞い。
 自分の心に従って、想いを、行動にしてぶつけて来た。
 最大の傷を晒した。
 しかしそれは、彼女に無理やり『椎苗』と云う重荷を押し付けただけだったのでは。

(うう、余計に悩ませただけなのでは)

 それも、彼女自身の事で弱っている所に、追い打ちをかけるように。
 そう考えると、あまりにも自分本位な我儘をぶつけただけのようで。
 今更になって頭を抱えていた。

『──────』

「──べつに、後悔してるわけじゃ、ねーですよ。
 ただ、その、気持ちをぶつけるにも、もっとタイミングがあったんじゃないかと。
 ちゃんと回復して落ち着いてから話すべきだったかもしれねーです」

『────』

「まあ、はい。
 今でもなくちゃ、話せなかった気もしますけど。
 うう──」

 確かにここ迄、椎苗が思いきれるタイミングはそうあるものじゃないだろう。
 だから、数少ない機会ではあったに違いないが。

『──────』

「そう、そうなのですよね。
 いつまでもあのヒトの事だけ考えるわけにもいかねーのです。
 しいにはしいで、手の掛かる相手がいますからね」

 そう、最近様子のおかしい娘の事を思い浮かべ。
 そこに触れていいのかと迷いながらも。
 普通そうに振る舞おうとする娘の様子を見守ってはいるが。

 やはり、これもまた、何ができるかと考えているだけじゃいけないのだろう。
 とはいえ──昨日の後では、すぐに思い切る事はできない。
 勢いだけでなく、考えた上で行動したい。

「──はあ、悩ましい事ばっかりなのですよ」

『──────』

「なんでそこで笑うのですか。
 むう、しいは真剣に悩んでいるのです」

 修道院の玄関先で膝を抱えたまま、誰かと話しているような独り言を繰り返していた。
 

レオ >  
誰かに話かけている少女に、声がかかる。

「――――――すみません」

それは、小さな声で。
他に声がないからかろうじて聞こえるような、か細い声。
男性…まだ声変わりの途中なのか、比較的高い、少年とも青年ともつかぬ声。

振り向けば、君の後ろの先、修道院の門の前あたりその声の主が立っている。
ひとりの、青年。
年は15,6ほどだろうか。
決して高いとは言えない背。
ベージュの髪はぴょんと跳ねていて、後ろで小さくまとめている。
青年は声と同じように静かに、その場に佇んでいる。

よく見ると、シャツは所々に赤黒い沁みが出来ているだろう。
上着は何処にあるかと言われれば、脱いで”なにか”をくるんで、それを抱えている。
その上着も赤黒い沁みができていて、そのシャツのそれよりも、随分と汚れていた。

「――――――急に、すみません。
 少し…道具と場所を、貸してもらえませんか?」

その手に抱えているのは
一匹の、黒猫だった。
猫の体から出る赤黒い液体が上着を濡らして、ぽつ…ぽつと滴って、地面に跡を作っている。
猫は辛うじて息をしているようで、青年の腕の中でもがくように、小刻みに震えていた――――――

神樹椎苗 >  
 聞こえた声に顔を上げて、そちらを見る。
 青年が一人、妙に血に濡れているが。

「――悪いですが、ここはしいの家ではないのです」

 そう答えながら立ち上がる。
 見ただけではただの不審人物だが。
 抱えているモノを考えれば、無碍にするのも気が引ける。

「軒先なら貸してやれます。
 道具はしいが探してきますから、ここで待ちやがれです」

 そう言って、軒先を示してから玄関の中に入っていく。
 ここの主も、きっとこの状況なら手助けをするだろうと考えて、救急箱くらいはないだろうかと探しに院の中へ。

レオ >  
「―――ありがとうございます」

入る事を許可されれば軒先の下まで入り、そして上着で包んでいる猫をそっと地面に寝かせる。
猫は逃げ出そうともせず、横になって掠れた呼吸を続けているだろう。
腹が裂けており、前足があらぬ方向に曲がって、傷口からは血がとめどなくあふれ出している。
その血が青年の衣服を汚したことは、想像に難くない。

「水と…あと、手当できるものがあれば、それを」

腕まくりをしながら、少女にそう告げる。
声色は冷静で、動揺の様子はない。
ただ、淡々に言いながら、ハンカチを取り出し…
治療用の道具が来るまで、傷口の血を止めようとするだろう。

神樹椎苗 >  
「わかってます。
 少し待ってろですよ」

 青年に応えて、すぐに動く。
 少しして救急箱を持ってきて、もう一度離れるとバケツに水を張って持ってきた。
 動きを見ていれば、左手しか動かない事が分かっただろう。

「ソレ、助かるようには見えねーですが。
 ――バケツは消毒して水を入れてきたので清潔です。
 救急箱は、中身は後で返しておきますから好きに使えばいいです」

 と、一通り渡しながら青年と猫の様子を見る。
 助けようというのだから、医療の心得でもあるのだろうかと。
 冷静な様子には『慣れ』を感じて、半歩引いたところから動きを窺った。

レオ > 「‥‥」

少女の方を見て、持ってきてくれた道具を受け取る。
水と、救急箱。
そこから消毒液と、ガーゼ、そして割りばしか、折れた腕を固定できそうな棒を取り出す。
裂けた腹を塞がないといけないので、針と糸も。

「……近くの道路で見かけて。
 多分…車に轢かれたんだと思います。
 見かけた時にはもう、息が細くなってて……病院に連れていくんじゃ、間に合わないので。

 …出来る限りのことは、しようって。」

そう言いながら、手当をする。
医療の心得があるというよりも……応急処置くらいの手当てが、身についているような動きだ。
よく見れば袖を捲って露わになっている、血まみれの手はどこもかしこも古い傷跡だらけで、痛々しい。
自分の怪我を自分で手当てしてきた…といった所だろう。

水で傷口に入っている砂利を洗い出して、止血をして、縫う。
あまり綺麗な縫い方ではないが、血の出はさっきよりも緩やかになる。
猫の方は痛みで悶えようとするが、それをする気力もないようにぐったりとしている。
命は……消えかかっている。

それでも、青年は手当を続ける。
淡々と。
静かに。

「――――右腕、動かないんですか?」

猫の手当をしながら、少女の方を振り向かずに、青年が唐突に聞いてくるだろう。

神樹椎苗 >  
「出来る限りは、ですか」

 その行為を、無駄だとは思わない。
 少なくとも小さな命でも無碍に扱わない、生命に対する誠実さは感じた。
 傷跡だらけの腕を見ながら、その手際には危なっかしさがないのを認めて。

「――ええまあ、動かねーですね」

 集中しているかと思えば、話を振られた。
 見ればわかる事なので隠す事もなく答えるが。
 答えは端的で、話が弾むモノではなかった。

レオ >  
「…そうですか。それは……大変ですね


 …傷。
 凄い、傷ですけれど……何か、あったんですか?
 誰かとも……話していたようですけれども」

手を止めずに手当をしながら、さらに聞く。
踏み込みすぎだろうか……
不快に思ったかもな。
そう思って、聞いてから少しだけ、後悔する。

でも、あんなに至る所に傷があって、その上、ずっと誰もいない所に話しているのを見たら、気になってしまった。


目の前の猫は、出来る限りの手当が終わって……横にいる少女と同じように、包帯だらけの姿で上着の上に横になっている。
包帯からはじんわりと血が滲んできていて、命は今もぎりぎりの所を揺れ動いている。

「……すみません、聞きすぎましたかね。
 とりあえずこの子の方は……出来る限りのことは、終わりました。
 あとは……」

猫を見る。猫に漂う「死の気配」を見る。
濃く、はっきりとした黒い靄。
目の前の小さな命に絡みついたそれは、最初に道路で発見した直後と同じか、さらに、濃くなっていた。

…やるだけはやったけど、後は…この子次第、か。

傷だらけで、息をしている猫の頭を
そっと撫でる。

神樹椎苗 >  
 淡々としている青年に、興味を持たれたのが少々意外だった。
 とは言え、怪我に関しては昨日もかなりの決意で話せた事である。
 触れられても、たいして答えられる事はない。

「これは、そうですね。
 ちょっとした古傷みてえなもんです。
 諸事情で薬も魔術も異能も、効果がないもんですから」

 そう答えて、独り言に関してはどうしたものかと首を傾げる。
 『神様』と話していた、なんて言ってまともに受け取るような手合いはいないだろう。

「あれは、独り言です。
 見えないお友達と話をするような、変な子供とでも思ってればいいですよ」

 なんて言いながら、手当てが終わるのを見届けて。

「別に聞かれるだけならかまわねーですが。
 ――終わったなら、後は、こっちの仕事ですかね」

 猫を見れば、もうすでに『寒く』なっている。
 処置も完ぺきとは言えず、失血が多すぎた。
 もう、助かる見込みはないだろう。

 青年の隣に屈みこみ、猫の額にそっと左手で触れる。

「――お前はよく生きました。
 だから、もう眠るといいのですよ」

 静かに声を掛けながら、人差し指で猫の額を撫でる。
 猫に漂っていた『黒い霧』と同じものが、椎苗の指先からわずかにあふれ出て。
 『黒い霧』は数秒渦巻いて、ゆっくりと空へ立ち昇っていき、消えるだろう。

 霧が消える頃には、猫はもう呼吸をやめている。
 動物の魂は、とても迷いやすい。
 縁に触れてしまったのなら、導くのもまた椎苗の役目だった。

「――『死を想え』
 ――『吾は黒き神の使徒』」

 静かに、信じる神への祈りを捧げて猫の魂を送る。
 瞳を閉じて祈りを捧げる、椎苗の隣には。
 黒くて大きな影が寄り添っているのが、青年ならわかるだろう。

 それは、『死と言う概念そのもの』と思えるような、濃密な死の気配。
 黒い霧で形作られた人型のような、おぼろげな輪郭が浮かんでいる。
 それは感じ取れる人間ならば――嫌悪か、畏怖か、何も感じずにはいられないだろう。

レオ >  
「…そうなんですか。
 奇遇ですね。僕も――――――――」

傷が癒えない、と言われて、自分も似たようなものと返そうとすれば。
隣に座った少女から出た、『黒い霧』

自分が視覚で見た場合に見える『死の気配』と同じもの。
それが動いて、ひとりでに目の前の猫に『死』を与え、去ってゆく。

「―――――」

少し、目を疑った。
それと同時に、なるほど、とも思った。
最初に見たときに『初めて見る気配』がしたから。

不死は、沢山見て来た。
死に近く、それでいて遠い存在。
でも、不死に近くても…彼女のそれは、少し違った。
死に寄り添って……そして、離れない。離れれない、のかもしれない。
それでも、そこに『居る』。
そして隣人のように、手のように、その死を『動かした』。

死を忌避するでなく……死を操る者を、初めて見た。

――――こんな人が、いるんだな。
恐怖とも違う何かを、心が灯らせた。

そっと、たった今『死んだ』猫の、傷だらけの体を優しく撫でて。
優しい声色で、少女に声をかけた。

「――――ありがとうございます」

悲しいような、ほっとしたような…そんな何とも言えない顔を
青年は、していただろう。

神樹椎苗 >  
「別に礼を言われるようなことはしてません。
 ただ、魂を迷わせずに送り出すのも、しいの役目ですから」

 猫のやわらい毛に触れて、少しだけ寂しそうにほほ笑む。
 手を離すと、再び青年の方に視線を向けた。

「一時とは言え、縁を結んだのです。
 ちゃんと、相応しい場所に運んで、弔ってやるのですよ」

 と、静かに言うだろう。
 隣にはやはり、『黒い霧の影』が今も寄り添っている。
 その、顔のように見える部分が、椎苗と青年を交互に見ているように感じるだろう。

レオ >  
『送られた』猫を撫でながら、弔ってやれ、という言葉に小さく頷く。
 
「……ダメそうなら、僕がやろうと思ってましたから。
 そろそろ…ダメだろうなというのは、分かっていたので。
 ……せめてこれ以上苦しまないようにって。」

手は、尽くした。
自分が出来る範囲で手当はした。病院は…間に合わなかった。
消えそうな命を出来る範囲で、助けようとした。

でも、駄目だった。
少し先に目の前の少女が『送って』くれたけど、自分も…もう無理だろうと、判断をした所だった。
きっと少女がやらなければ、同じことをしていた。
でも自分に出来たのは、首の骨を折るくらいだ。
彼女の方が、安らかに『送る』ことが…出来たのだろう。


「…苦しいのに死ねないのは、辛いですから」

ぽつりと、呟いた。

神樹椎苗 >  
「――そうですね」

 青年のつぶやきに、静かに同意を示す。
 中途半端に延命されて苦しみ続けるのは、ただ悲しみを増やすだけだ。

「『寒く』なった魂は、正しく、誰かが送らなければなりません。
 たまたま、今日この日この場所に、しいが居ました。
 こいつは少しだけ、運が良かったかもしれねーですね」

 少し寂し気に、けれど優しさを感じさせる微笑みが猫だったモノに向けられる。
 

レオ >  
「……」

少女の方を、少し見る。
今目の前で猫を『送った』……『殺した』少女は、そんな事をしたとは微塵に感じさせない、慈愛に満ちた微笑みを猫に送っている。

その姿に…暖かみを、少し感じた。

「……いい人ですね」

小さく、少女に微笑みかける。
出会った時から、手当を終え…そして、今までに、見せなかった微笑み。