2021/07/22 のログ
ご案内:「常世渋谷 常夜街」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
一般的に『交渉』とは利害関係にある者同士の間で
互いの妥協点を探す行為を指す。どの程度までなら
要求が通るか、或いは己の不利を呑まずに済むか。

思惑の交錯、主張の衝突こそあれ、互いが理性的で
ある限り、交渉は議論と同様の秩序の上で行われる。
もっとも、それは互いに裏がない場合の話。

隠し事を持ち込んだ時点で『交渉』は成立しない。
相手の主張を踏まえて妥協点を見つけるのではなく
利益を最大化するための『騙し合い』に成り下がる。

故にこそ『交渉』を持ちかけた時点で開示できない
情報を抱えておくのは悪手。何を隠しているのかが
分からない以上、交渉の着地点である『妥協点』は
相手有利でなければ割が合わないからだ。

「ま、そーゆーワケです。いつも通りっつーには
ちょっと話せる内容が少ねーのは自覚してますが。
立場的にあーしが言えるコトなんざそう無ぃんで、
勘弁してもらうしかねーんですよね、はぁ」

交渉の席に立つ少女──黛薫は気怠げにそう溢すと
テーブルに置かれた炭酸水のストローに口を付けた。

黛 薫 >  
違反学生、二級学生の間で裏のない交渉など滅多に
行われない。つまり建前上の交渉はほぼ全てが腹の
探り合い。隠し事無くして交渉が必要になることは
有り得ず、しかし隠し事が己の不利になる二律背反。

従って、交渉の規模次第では重要事項を知らされて
いない『代理人』が重用される。秘匿された情報を
漏らさないようにするだけでなく、万一摘発された
場合に表向き無関係を装えたりもする。

黛薫は度々そういった交渉の代理人を請け負う。

普段は厄介なばかりの異能も『視線』から心情を
推察する用途であれば役に立つし、何より地道に
積み重ねてきた信用がある。

拷問に掛けられて半殺しにされようが、その直後に
風紀に引っ張られて絞られようが、重要性を問わず
一切の情報を吐かずに通してきたお陰で信用勝負の
交渉になれば多少おまけしてもらえるくらい。

あくまで『便利な人材』であって『重要な人材』では
ない点が幾人かに評価されている。今回の交渉相手も
そうやって繋がった顔馴染みだ。

黛 薫 >  
此方側の要求を提示すると相手は愉快そうに笑った。
随分気前が良いものだ、とうとう大きな案件に手を
出せるようになったか、と。

「んなワケねーでしょーが。交渉のためのカードを
全っ然用意してもらえねーもんだから、その条件で
流してもらうなら金を積むしかねーよって説得した
だーけーでーすー。あーたらにゃ些事でしょうし?
もーちょい安く見積もっても良かったんですけぉ?
そっちの顔立ててやったんですから有り難く思って
欲しいトコっすよ、ホントに」

さもいつもの代理交渉のように振る舞っているが、
実は今回、バックに誰もいない。強いて言うなら
出資者である同居人がそれにあたるか。

交渉の札を用意して貰えなかったのではない。
最初から金以外に積める物がないだけの話。
……厳密に言えば『もうひとつ手札はある』が。

今回流してもらおうとしているのは魔術の触媒。
お金さえ払えば詮索されずに購入できるような
代物ではないため、怪しまれずに入手するには
どうしても一手間かかってしまう。

要するに『重要事項は知らされていない代理人』
ではなく、全てを知った上で実質的に自分の懐に
入れるつもりで臨んだ交渉ということ。

別に今回の交渉相手になら裏の事情をバラしても
大きな問題にはならないのだが……警戒している
別の違反部活動に嗅ぎ付けられると厄介事を招く。
従って慎重を期した形。

本当の目的は別の組織に頼らない危険区域への潜行。
付き合いの長い組織を1つ出し抜くことになるからだ。

黛 薫 >  
交渉自体は恙なく進行している。此方側からすれば
ともかく相手からすれば取り立てて注目するほどの
案件ではないのだからそれも当然。相手方の手間も
リスクも最小限に抑えてある。

言ってしまえば向こうに断る理由などまずない。
此度の交渉は形だけのもの。わざわざ対面してまで
交渉の席が設けられたのは、別の理由があるからだ。

つまり──『ご機嫌取り』である。

「で。取引は成立ってコトで良ぃんすね?」

努めて冷静に確認を取る。了承は得られた。
上機嫌に相手の口角が吊り上がるのが見えた。

黛 薫 >  
商談が終わると相手の部下が席に呼び戻された。

組織の重要なポストにいる、とまでは行かないが
部下を持てる程度の地位。詮索したことはないし、
するつもりもないからそれ以上は知らないのだが。

次いで料理と酒が運ばれてくる。代金は此方持ち。
店内奥、壁際からやや中央寄りの卓は一見密談に
向かないように見えてそうでもない。

此処は違法店舗で、相手組織はこの店の上得意。
より厳密に言うなら、相手組織の更に上の組織が
この店の経営に一枚噛んでいるらしい。

広々とした空間は密談に不向きで、かつ大規模な
捜査に踏み切られないように手を回しているから
風紀に摘発されないこの店舗は、密談がある日は
ほぼ貸切になっている。

黛 薫 >  
代金は此方持ちと言ってもこのテーブル分だけ。
貸切全員分の代金を要求するでもなく、この店を
交渉に使わせて貰えた理由も察しがついている。

(あーしが酒の肴、ってコトだろ)

この席に案内されたのもそれが理由。
既に何度か仕事で関わった仲、秘匿もしていない
自分の『異能』については相手もよく知っている。
だから『店のどこからでも見える席』に通された。

向こうに断る理由がないとはいえ、建前上は交渉。
交渉相手の機嫌を損ねるような真似はできないと
分かった上で遊ばれているのだ。

半分以上残っていた炭酸水のグラスが下げられる。
代わりに大きめのグラスに注がれたアルコールが
目の前に置かれた。

黛 薫 >  
グラスに一度だけ口を付け、顔を顰めて卓に戻す。
対面に座る相手は実に楽しそうだ。交渉と言えど
対等ではなく、場所を抜きにしても向こうが優位。

表立って無茶を要求されてはいないが、飲まずに
席を立つことを許す気がないのはすぐに分かった。
そうでなくても混雑状況を見ると相手の許しなく
自力で店の出口までは辿り着けそうもない。

「……悪趣味」

以前同じ目に遭った際、女は多少生意気な方が
『そそる』と話していたので口答えは許される。
相手を愉しませるだけだから言うだけ無駄だが、
黙って耐えられるほど強くはない。

対面の席からのみならず、至る所から下品な視線が
注がれ、服の上から舐め回すように肌を撫でていく。
緊張と不快感で口の中が渇き、余計にアルコールを
口にするのが億劫になる。

ご案内:「常世渋谷 常夜街」にフィーナさんが現れました。
黛 薫 >  
表の街では営業出来ない服装の店員がテーブルに
揚げ物を運んでくる。お酒はともかく、揚げ物は
此方への嫌がらせか単なる好みか読めない。

食うに困っているとき、重い食べ物を飲み込めず
吐きそうになっている自分を見て嘲る面々は心底
楽しそうだったが。

(コレに関しちゃ、今日は怖くねーな)

最近はきちんと食事を摂れているから幾分楽だ。
揚げ物をひとつ貰い、またお酒に口を付ける。

あのウェイターは好きでこの店にいるのだろうか。
それともこんな店でしか働けない立場なのだろうか。
この店には二級学生の店員も多い。

泥水を啜って痩せ細った自分を眺めるくらいなら
客への『サービス』として着飾った店員を見た方が
楽しかろうに、と思うが口には出さない。

もし彼女らが望んで働いていないのならあまりにも
失礼な言葉だし、望まない『視線』の気持ち悪さは
黛薫自身が1番よく知っている。

黛 薫 >  
退廃的な絢爛さと背徳的な艶かしさに彩られた
店内で、異物と呼べるほどに見窄らしい彼女は
さぞ目立つだろう。『視線』の数がその証左。

視線に伴う触覚に惑い、羞恥と嫌悪で震える少女は
酒の肴として消費されている。視線が増えるほどに
どうにか逃れられないかと忙しなく姿勢を変え続け、
しかし交渉相手の機嫌は損ねまいと、いじらしくも
耐え続ける以外に道はない。

彼女が吐き捨てた通りの悪趣味な『見せ物』だ。

未成年ながら促されるままにアルコールを呷り、
店内を満たす甘ったるい紫煙に息を詰まらせる。
世間話の皮を被ったハラスメントの言葉に顔を
背け、交渉を棒に振らない範囲の罵倒で返す。

『視線』の感触が精神を蝕んでいく。
無理やり飲まされた火酒が逆流しそうになるのを
深呼吸で押し返し、曖昧な意識で相槌を繰り返す。

フィーナ > 「………ふぅん?」
薫と話をしようと、渡した『ブツ』の痕跡をたどって、店までたどり着いて。一つの店にたどり着いた。『貸し切り』と看板が置かれた、店に。

薫の持ち物がここにあるのは間違いない。見えにくいが、薫の着ていたものと同じフードが見える。

正面から堂々と、というのは無理だろう。見たところ、なにかされている様子でもない――――酒を呑んでいるのは少し気になるが――――ので、近くの店に居座って眺めることとする。

黛 薫 >  
元々酒の味が分かる方ではないが、今日出された
酒は尚更分からない。強い酒精が喉を焼く感覚が
過ぎると、覚えはあるものの慣れない独特の風味が
鼻の奥に痛みを生じさせる。自分が口にしたのが
液体かどうかすら自信が持てない。

(……気持ち、わる……)

長く『視線』に晒された所為か、強い酒の所為か。
意識が朦朧として頭痛を伴う悪寒が湧き出てくる。
半分ほど減ったグラスは干すことも手放すことも
許されず、飲み切る前に色の違う酒が注がれた。

水が飲みたい、と思った。

要求したところで与えられないのは知っている。
そも今自分は意味のある言葉を紡げるだろうか。
相手の返答を聞き取ることができるだろうか。

ぼやけた意識の向こうで視界が回っている。

隣に座る人物の顔すらはっきり捉えられない現状、
彼女は近くの店にいる知り合いに気付けないだろう。

違法店舗でありながら風紀の手入れにも合わずに
営業を続けている店だから『普通なら』中の様子を
観察し続けるのは難しい。

とはいえ、僅かな隙間さえあればどうとでもなる
『怪異』の目までは想定されていないようだ。
黛薫は酒を飲まされている以外に危害を加えられて
いる様子はない。……ない、はずだ。

フィーナ > 「………………うん?」

遠目でよくわからないが、どうもふらついているように見える。ボトルを注がれるタイミングも早い。

「…………まさか。」

ずるり、と。足の先から体を『引き伸ばし』、地面から扉の僅かな隙間を通り抜け、店内へと一部を侵入させる。

そして、目立たない所に、『目』を作る。薫であろう人物が、よく見えるように。

黛 薫 >  
酒の度数は高く、注ぎ足されるペースも早い。
『場の空気』は彼女に酒を勧めているものの、
強要の声はないし、細工や異物の混入もない。

けれど、彼女は虚に揺れる目で注がれる酒を呷る。
飲めなければ止める、というだけの冷静な思考が
出来ていない。

『見られているだけ』で疲弊が思考を奪い去る。
『見ているだけ』の面々はそれを愉しんでいる。

『優越感』は人が感じられる中でもとびきりの娯楽。
秩序だった社会の中であれば、年齢や序列によって。
混沌とした裏社会に於いては暴力や従属によって。

いずれにせよ、得るためには何かしらで優っている
必要があり、劣っている相手がいなければならない。
裏の社会でもしがらみに囚われ、思うがままに充足
出来ない者は山のようにいる。

それが黛薫の手札であり、枷でもある。

落第街の力関係に序列、階級を当てはめるならば
彼女は最底辺に位置する。その上、彼女を見下し
優越感に浸るには暴力すらいらない。

何せ、ただ『見ているだけ』で良いのだから。

暴力、暴言を躊躇う連中も彼女には強く出られる。
『触覚』への反射は己の意思だけでは御しきれず、
それ故に力のない者にも優越感を与えてくれる。

フィーナ > 「………………」
明らかに飲まされている。強制的にというわけではないが、明らかに『強要』されている。

このままではアルコール中毒に陥る危険性が高い。それだけでなく、何かしらの不利な条件を呑まされる可能性もある。

まずは、この場をなんとかしなくては薫は抜け出せない。

スライムたる自分の体を更に伸ばし、店の裏に回る。

そこにあるであろう、変電設備や配電盤、ガスや水道などの機器。

その、変電設備に目をつけた。

変電設備に自分の体を入れ、回線を自らの身体から作り出した『酸』で、焼く。

こうすれば、少なくとも店の機能は停止。混乱にもつながるはずだ。

黛 薫 >  
前触れなく電気が消える。空調が停止する。
『お楽しみ』を邪魔された面々から苛立ちの声が
上がったが、苛立ちが暴力に転じはしなかった。

単なる『停電』と捉えられたのが幸いした。
人為的なものだとすれば、真っ先に疑われるのは
唯一店を貸し切る組織と繋がっていない薫だった。

裏を返せばそれは『彼女は抵抗しない』と全員が
理解していることにも繋がる。『信用』と言えば
聞こえは良いが、舐められているとも取れる。

軽く混乱した場を収めたのは店の中央テーブル、
他より一段高い席にいた人物だった。交渉の席に
立っていた人物ではなく『交渉の席を眺められる』
場所にいた人物の方が位が高かったということ。
この交渉は『見せ物』でもあったから。

停電(だと思われている)の所為で場の空気は白け、
まとめ役と思しき人物も宴の解散を宣言した。

黛薫はすっかり反応がなくなって、虚な目のまま
人形のように椅子に座っている。まとめ役が彼女を
担ぎ上げ、店の奥へと運んでいった。

好意的に解釈するなら、酔い潰れた交渉相手を
部屋に寝かせに行った……とも考えられる。

ただ、その場合不自然な点が2つ。

1つはこの店にちゃんと宿泊用の部屋がある点。
寝かせるのであれば宿泊室を使えば良いはずで、
それなら彼女はどこに連れられたのか。

もう1つは解散を宣言されてなお人が減らない点。
交渉の席にいた人物が集金を始めているが……
どうやらこれは店の支払いでは無さそうだ。
薫を運ぶ前にまとめ役が支払いを済ませていた筈。

フィーナ > 「……………………」
店でタピオカミルクティーを楽しむ傍ら、『目』は薫を追っていた。
バレないよう、停電の時に一番暗くなる『天井』を這って。

店の者が何をしてようと関係はない。重要なのは薫なのだ。

薫は酔いつぶれることを許すほど警戒心が無いわけではない。『潰された』と解釈するのが常道だろう。

ならば、これから先行われるであろうことは、『薫にとって不都合なこと』に違いないのだ。

場所さえわかれば、魔術的な障害のない壁などあってないようなもの。

問題は、薫をどうやって救い出すか、だ。

黛 薫 >  
黛薫が連れて行かれたのは客室より少し上等な部屋。
強力なものではないものの、侵入への対策は幾つか
講じられている。つまり、侵入されたら困るような
目的で作られた部屋だ。

彼女はベッドの上で放置され、まとめ役の人物は
待っているだけ。停電によってこの部屋の電気も
使えなくなったため、火を扱える異能者が照明の
係として呼び出されている。

お開きに伴って人が捌けてくれれば侵入しやすく
なったはずだが、まだある程度の数が残っている。

この場に残ったのは先に金を払っていた面々。
店の看板が『貸切』から『閉店』に変わってから
彼らもまた、黛薫の連れられた部屋に向かう。

さて、彼女を連れ帰るにはどうするべきか。

まずもってこの店は非合法の営業をしている。
従って、閉店後に店内を検められないための対策で
数人の人員が残っている。恐らくは下っ端だろうが
不審者の侵入があれば誰かしら駆けつけてくるはず。

正面以外の侵入ルートなら客室の窓しかないが、
黛薫が連れて行かれた部屋は客室ではない。
忍び込むか力尽くで押し通るかの2択だろうか。

また、目的の部屋にもそれなりの数の人がおり、
軽いものだが侵入防止の術式もある。どちらか
片方だけならどうにでもなりそうだが、同時に
解決しようとすると多少手間取るかもしれない。

フィーナ > 「ごちそうさまでした」
タピオカミルクティーを飲み終え、席を立って会計を済ませる。

『目』から届いた情報によれば、少し厄介な所に連れて行かれたみたいだ。結構な人数が中に居て、侵入防止の術式もある。恐らくは鳴子の意味もあるのだろう。
店の中にも数人が警邏している。普通に侵入すれば見咎められる。


では、どうするか。


簡単だ。『出て行かせればいい』。


先程回路を焼き切った変電設備。そこにスライムの分体をけしかける。

回路を焼き切ったために、電気が通らなくなった設備。しかし、回路を繋げば、また電気は通る。
そして、そこに通る物質が発火性のものであれば―――――

ぼわり、と。変電設備に忍び込んだ分体が燃える。そして命じられた通り、燃えたまま店の裏口へと突っ込んでいく。