2021/07/23 のログ
黛 薫 >  
火が回る。店の裏口から燃え広がって行く。
最初に気付いたのは誰だったか。動揺と混乱が
広がり、集まった人々は我先にと逃げ出した。

備え付けの消火器で火を消そうとした者もいたが、
1本で消し止められないと分かると即座に退避した。

立て続けに起きた停電と火事、前者が後者の原因に
なったのではと話す者、人為的なものに違いないと
喚く者、パニックになる者、ただ逃げる者。

黛薫については放置して逃げるか連れて行くかで
多少意見が分かれているようだ。落第街の住民など
焼け死んだところで省みられはしないという意見、
違法営業の足跡を残さないために連れて行くべきと
いう意見、商談がまとまっているから助けた方が
得だという意見など。

最終的には彼女も連れ出された。
放置されたところを救出する危険は冒さずに
済んだが、機会をひとつ逸したとも受け取れる。

公安、消防の対応はまとめ役の人物が請け負った。
その際、黛薫は落第街の方面に運ばれている。

火事騒ぎで散ったお陰もあり彼女の周りにいる
人員は当初の半分以下。部屋に侵入する必要も
無くなったため、侵入防止の術式も無視できる。

フィーナ > 「…さて。」
大凡望み通りの展開になってくれた。これで『大義名分』が出来る。

まぁ、最悪の場合も考えておこう。恐らく薫からはドン引きされるだろうが。

転移術式で先回りし、薫を運ぶ人々と鉢合わせるようにする。

「あら、どうしたんですか?そんなに急いで?」

そう話しながら、『最悪』を見越して、地面に、壁に、スライムの体を這わせておく。

黛 薫 >  
鉢合わせた位置は常夜街と落第街の端境。
この区画に於いて『身形の良い少女』は異常だ。
怪異と見抜いた者はいないが、警戒体制に入る。

もし、初めに店にいた数の人員がここにいたら。
それより少なくても、店に残った数の人がいたら。

1人くらいは停電に火事、奇妙な少女との鉢合わせに
人為的な繋がりを見出したかもしれない。悪ければ
更に黛薫との繋がりに思い至ったやもしれない。

しかし、彼らはそんな集合知を生むには少なく、
また動揺し過ぎていた。未知との遭遇に狼狽し、
相手が不審な動きを見せれば暴力に訴える用意が
あることを匂わせている。

まあ、まとめ役が事後処理に残ってしまったため
ここにいるのは大体が下っ端。一連の事件に関連を
見出せるほど優秀な下っ端を抱えている組織なら
黛薫よりもっと良い相手と契約できるだろうし。

フィーナ > 「……喋らないならいいです。『直接聞きます』」
カツン、と。地面を杖で叩く。と同時に、杖の先端から閃光――――それも、目を潰すような――――を発する。

それと同時に、地面と壁に忍ばせていた『自分の一部』を、その下っ端共の『耳』にめがけて突く。目指すは、その内側にある、『脳』だ。

人間は脳の電気信号によって体を動かし、意志を持っている。

ならば、そこを支配してしまえば…もう、それは、操り人形も同然なのだ。
仕組みは全て知っている。全部1から作り上げたことがあるのだから。

黛 薫 >  
落第街の違反組織と言っても玉石混交ではあるが、
少なくとも、大した影響力もない中小規模の組織、
その更に下っ端に咄嗟の判断で危機を切り抜ける
優秀な人員など存在しない。

数人の人員は文字通り瞬きの間に傀儡と化した。

運ばれていた少女──黛薫は殆ど反応を見せない。
深く酩酊はしているとはいえ眠ってもいないのに
劈くような閃光にも僅かに身動ぎするだけ。

検査が可能なら極度の精神疲労が原因だと分かる。
しかしあの空間は居心地の良いもので無かったと
言えど、こうも疲弊するとは考えにくい。

さりとて魔術干渉の痕跡もなく、追い詰めるような
言葉の暴力もなかった筈。強いて異常を挙げるなら
パーカーの下の着衣が乱れているくらいだが……
これは部屋に連れ込まれた後のもの。状況判断が
出来なくなるまで疲弊した原因には成り得ない。

フィーナ > 薫を抱え、見る。
意識の混濁が非常に強い。これは、酒のせいもあるが…どちらかと言うと『極度に疲れてる』といったほうが正しいか?
それにしても…着衣が乱れている。慌てて着直したような、そんな感じの。

薫本人がそれを行える状態とは、思えない。
つまりは、脱がされて、着せられたのだ。

怒りが、湧いた。

「…さて。薫はちょっと今喋れそうにないですし…『薫に何をしていたのか全部話してください』」
命ずる。反対などさせない。たとえ逆らう意識があろうが逆らった瞬間痛みだろうが苦しみだろうが好きなように感じさせられられるのだ。

黛 薫 >  
自供の内容は全員が概ね同じだった。

今宵商談が行われたということ。商談に際して
他の客が入らないように店が貸し切られたこと。
商談と貸し切りの宴が終わった後、金を払えば
彼女を『使って』良いと言われたこと。

だが、それだけだ。

誰もそれ以上のことを彼女にしていない。
意識が朦朧とするまで追い詰めた自覚がない。
ただ『見ていただけ』なのだ。

フィーナ > 「…使った人間は、だれ?」

怒りに、満ちた、声。

落ち着けない。

イライラする。

何故?

黛 薫 >  
この場にいる人員での該当者は2名。
それ以外にも更に数名の名前が挙げられた。

部屋に連れ込まれてから火事で運び出されるまでの
時間を考慮するに同意を得て1人ずつゆっくりなどと
いう行儀の良い扱いでは無かったのだろう。

傀儡と化した人員のうち、1名のスマホが鳴った。

火事騒ぎともなれば、事後処理には時間がかかる。
まとめ役やその補佐は今夜中には動けない筈だが、
大事になる前に逃げ出した面々は混乱から回復し、
統率が取れ始めている様子。

あまり長時間拘束すると不利な情報が共有される
可能性もある。恐らく貴方にとっては痛くも痒くも
ないが、黛薫の立場は現状でもやや危うい。

情報を聞き出すなら、粘るにしてもあと1つ。

現場検証が行われれば停電や火事が偶然でないと
気付かれる可能性が高い。黛薫は手を回さないと
真っ先に嫌疑をかけられる立場にあるはずだ。

フィーナ > 「………」

聞かないべきだった、と思った。

冷静でいられない。

感情に理性をかき乱される。

鳴るスマホに、目を向ける。

こいつも、薫に手を出したのだろうか。

「……あー、あー。」

声を、調整する。男の声に聞こえるように。そして、スマホの通話ボタンを、押す。

黛 薫 >  
当然と言えば当然だが、連絡を寄越した人員は
同組織のメンバー全員の声を把握してはいない。
名前による確認は傀儡にした者から聞き出せば
どうとでもやり過ごせるだろう。

要件はメンバーの安否確認と、大事になったため
上の人間から通達があるまで行動を慎むようにと
いう通達の2件だった。

黛薫については誰が運び出したかまでは把握して
おらず、まとめ役が運び出せと言ったから死んでは
いないだろう、という程度の認識。好みではないが
安く使えて抵抗しないから、ほとぼりが冷めたら
また商談があると良い、と笑っていた。

フィーナ > 「…そういえばなんの商談してたんすかね?」
こいつが上の人間とは思えない。でも、知ってるのなら聞いておきたい。

何故、薫がこう身を投げるような真似をしてでも商談をしに行ったのか。

理由がなければ納得が出来ない。

黛 薫 >  
詳しい商談の内容を把握している者はいなかったが、
雑談混じりに周りに話を振り、断片を継ぎ合わせて
大まかな取引内容は得ることができた。

曰く、大規模な転移の術式に関わる魔導書、及び
それを実践する為の触媒の横流しに関する商談で、
交渉らしい交渉もなくあっさり成立したのだとか。

彼女は代理交渉人として度々商談に駆り出される
らしく、馬鹿みたいに誠実かつ口が固い上に野心が
ないため、中小規模の違反組織には便利らしい。
『便利』といっても『大切』では無さそうだが。

下っ端から得られる取引関連の情報はここまで。
断定するには情報が足りないが、恐らく彼女は
黄泉の穴、ないし禁書庫への潜入に使えそうな
材料集めに奔走していたと推測できる。

フィーナ > 「…………なるほど、わかりました。教えてくれてありがとうございます。それでは、行動は慎ませてもらいます」
適当に挨拶を済ませ、通話を切る。

がしゃり、と。そのまま地面に落とし、壊した。

傀儡となった下っ端共を見る。

もう、生かす価値は、ない。

糸が切れたように、下っ端共が崩れ落ちる。そうして、フィーナは彼らに近づき…………

哀れな下っ端共は、この世から『姿を消した』。




「薫、薫。起きてください、薫?」

しばらく放置してしまった薫を目覚めさせようと、頬をぺちぺちする。

黛 薫 >  
軽く頬を叩くと数秒の間を置いて幾許かの正気を
取り戻した様子。相も変わらず疲労と酩酊で目の
焦点は合っていないが、もう見慣れた姿が眼前に
あることはそうも経たずに理解した。

「なん……ぁー……なんだ、フィーナ、か……
なに、まだ外?なんで……う、きもちわる……」

譫言のように無感情な声を漏らしつつ立ち上がる。
飲まされた酒の量を思えばまっすぐ立つことさえ
難しいが、壁に手をついて気合いで無理やり直立。

状況整理も出来ていないのに動ける姿勢を取るのは
落第街に染まったが為の生存戦略。無理でも何でも
危険が近付いたら逃げられるように。

フィーナ > 「酔い冷まし、用意しておきました。飲めます?」
先程『喰った』やつから拝借した金で買った水と、インスタントのしじみの味噌汁を用意していた。伝聞で聞いたものだから、本当に効くかは知らないが、やらないよりはマシだろう。

「吐きそうだったら言ってくださいね。」
向ける目線は、最初に会った時の打算や、途中変わった焦がれるような食欲の目では無くなっていた。

その目は。その目線は、親しい者を心配する者の視線であった。

黛 薫 >  
「ああ、うん……そう、飲ん、お酒、うん、だから
……そう、酔って……あーし、つよく……ねーし……
だから……うん、ごめん、吐く……かも……」

ギリギリ整合性の取れた会話は出来るようだが、
やはり体調は悪そうだ。一息に飲み干すことも
出来ず、舐めるようにして口にする。

吐きそう、と言いながらも耐えるだけの理性は
残っているようで、一度二度迫り上がった物を
飲み下して咳き込んだ。

もし彼女が素面で、正気であったなら。
親しい者を案じる怪異の視線を見返せたなら。
彼女の内心、接し方は何か変わっただろうか。

焦点の合わない瞳は未だ貴方を見ていない。

遠く、在るかも分からない渇望の先を見ている。
そのためなら、身を売るような無茶でさえも、
精神的外傷を抉るような視線の只中での交渉も
厭わない──否、止められないのだろう。

水はともかく、外で味噌汁を残すのは憚られて、
10分近くかけて、何度も吐きそうになりながら
飲み切った。まだ意識も定かでないというのに
相変わらず律儀なことだ。

「……さきに……かえってても、いいんで……
あーし、やすんだら……ちゃんと、かえるし……
のんだ……水?とか、だから……さっきよりは、
楽に、なったから……うん、ありがと……」

休んだら帰るというのは、休まなければ帰ることも
出来ないことの裏返し。再び立ち上がることすらも
億劫で、貴方に身体を預けたまま。

乱れた服に染み付いたのは、未成年には濃すぎる
酒精の香り。不快な粘りの残った肌からは欲望と
汚濁の匂いがする。

何も今日だけの話ではない。彼女は貴方と出会う
前も、出会ってからも。求める物のために全てを
投げ出して模索を続けている。

言葉を紡ぎ終えるのとほぼ同時に意識が落ちた。
酩酊だけなら一晩寝かせておけば抜けるだろう。
疲労についても、ゆっくり回復を待てば良い。

それまでは多少研究の進みは遅れるだろうが……
きっと許せば彼女は自壊するまで走り続ける。
休ませるための大義名分がある点だけを見れば、
まだ、まだ……最悪ではないのだ。

ご案内:「常世渋谷 常夜街」から黛 薫さんが去りました。
フィーナ > 「……ともかく、寝床に運びますか」
薫を抱えて立ち上がり、落第街へと足を運ぶ。

少なくとも、わたしの持つ寝床であれば、誰からも襲われる心配は無い。


「………このまま、拐かしてしまえば、どれだけ楽なんだろうな」

すこし無粋なことをぼやきながら。

ご案内:「常世渋谷 常夜街」からフィーナさんが去りました。