2022/06/24 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
常世渋谷駅、停留所に程近い喫茶店の前。
車椅子に座った女子生徒が雑踏を眺めている。
時刻は待ち合わせの10分前。

金糸の模様が入った黒のブラウスとベージュの
コルセットスカートは普段より少し女の子らしい
装い。お気に入りのパーカーだけはいつもと同じ。

常世渋谷での待ち合わせといえば忠犬ロク公像が
定番のランドマーク。しかし定番過ぎて人が多く、
埋もれかねないので避けた。黛薫は学習している。

(ま、合流出来ねーってこたねーだろーけぉ)

今日纏う香りは2人きりのときの特別な白ではなく
美しい色を模した蒼。香りさえ届けば辿ってくれる。
気付けばこの香水も残り少なくなっていた。

ご案内:「常世渋谷 中央街(センター・ストリート)」にメロウさんが現れました。
メロウ > 待ち合わせの合図はランドマークに非ず
私にとってはそうだった。何も問題なかったね

変わらない恰好、可愛らしい白のゴシックドレス
常世渋谷の中では溶け込んだ妖精の仕草
貴方の見える範囲で視線を巡らせて、視認
不器用な笑みの代わりに両手を大きく振って、駆け寄ってくるのだった


「お待たせた?」

それは大体、待ち合わせの五分前ほど。探していた時間を考えれば、もう少し前には居たか

黛 薫 >  
「んや、だいじょぶ。そんな待ってなぃ」

そういえば待つのってあんまり苦にならないなと
気付いたのはつい最近。落第街にいた頃とは違い、
気を張らなくて良い時間は安閑としているうちに
勝手に過ぎていく。

人目があるとどうしても気は休まらないものの、
今日は人の少ない待ち合わせ場所を選んだこと、
後に楽しみが待っていることが功を奏した。

「じゃ、行こっか。つっても今日は行く場所とか
 あんま考ぇてねーのよな。前に出かけたときは
 メロウと一緒なら香りに縁深い場所がいいかな
 とか思ってたけぉ……そーゆー場所の香りって
 あーしよかメロウのが詳しかったっぽぃし。

 だから、普段香りを意識しなぃよーな場所のが
 メロウの気付きになんのかも? とか」

メロウ > 「そ?待ってない、それは私も」

お揃いだ、なんて。待たせた側の彼女が笑うのはどうなのでしょう

「因みに私はちょっとだけ考えてるよ
 そろそろなくなりそうな薫様の香水の為、材料を買い集めてみたり
 薫様に出会いたい『私』を選んでもらったり

 そういうこと、考えてる」

前者は、普段通り使っているなら『そろそろ』と、完全に理解した口ぶりで
そして後者は、その意味を果たしてその言葉で伝えきれたものなのか

「楽しそうだよね」

屈託は感じさせないその精神性、理解の程度は気にしてる様子も無かろう

黛 薫 >  
「ん? あ、そりゃそっか。材料だって無尽蔵じゃ
 ねーもんな。ってコトはジュエリーショップ?」

メロウは調香の際、香りの保つ期間や使う頻度まで
考慮してくれている。それは前回までの買い足しで
確認済み。嬉しく思うと同時に、材料の管理まで
含めての『調香師』なのだと改めて気付かされた。

黛薫が常用する香水『エフィメール・フィデル』は
異世界由来の花と天河石を用いて、錬金術に近しい
手法で抽出されていた。花を仕入れるなら此処より
異邦人街の方が向いているだろうから、宝石店が
目当てなのだろうとあたりをつける。

「楽しぃ……うん、楽しぃ。楽しむために出掛ける、
 って感覚、あんま無かったけぉ……ちょっとずつ
 分かるよーになってきたのかな?」

さておき、数秒の逡巡は詩的な言葉の解釈のために。
自分と出会いたい『彼女』を選ぶ。自分が望む形に
彼女を彩って良い、と解釈するべきだろうか。

「……服飾店とか?」

考えた末に出した結論はそんなところ。

メロウ > 答えは伏せて、スカートの裾を摘まんではゆらゆらと
間違いなく、上機嫌な仕草だった。一回りして、漂う香り
『貴方の為の香り』を纏っている。届けている

「なはは♪薫様は私と出会う時、特別を選んでくれる
 だから憧れても仕方ないよね。私もそう思ってるよ
 でも独占はダメだよって私は返さないといけないから

 マスターから言葉を貰って、その意味を私は心で問う
 監査の意味だけじゃなくって。それを『嬉しかった』と思い返せるように」

『意味はない』、が正解だったのかもしれない
故に貴女が何を見出すかの問い。詩は相手の心の視野を尋ねる

「以前は宝石箱の中の天河石だったけど、もっと私の色を探したいでしょ?
 だから一緒に探したいなって思ってたんだよね

 ついでにこっそり、薫様の心の事も聞いちゃったんだよね
 それが服飾の事になるのなら...えへ、えへへへへ」

黛 薫 >  
「独り占めはしたぃんでーすーけーぉー」

ダメと言われてもちょっとのぼやきは返す。
心は奪いたくないけれど独り占めしたいのは本音。

真剣に考えるがあまり掌の上で空回って転がって
しまった自覚はあるけれど、ご機嫌な仕草を前に
強く出られなくなってしまった。

(あーしも大概甘ぃんだろな)

やや渋い表情は不機嫌ではなく照れの誤魔化し。

この程度の取り繕いは最早メロウの前では意味を
為さないどころか、見透かされて余計にご機嫌に
させてしまうかもしれないが、中々癖は抜けず。

「あー、んー……そっか。メロウの手持ちん中で
 1番……キレイなの選んだつもりだったけぉ、
 専門店ならもっと近、適したのあるかもなのか」

どの宝石が良いかと考えていた調香師の前で
『綺麗な石』を探していたら、いつの間にか
『目の前にある綺麗なもの』と重ねてしまった
初回来店時の思い出。

微妙に濁した言葉選びは、直接的な表現をすると
気恥ずかしくなってしまうからだろうか。

メロウ > 「そうだね。私も、薫様を探せる」

多少不機嫌を装って、目線を逸らす位ならば
彼女は遠慮なく距離を詰めてくる。心の距離も同様に

貴女の『綺麗』は目の前にあって、だからメロウにとっての『綺麗』も同じく

「周りの目線、どの程度?」

唐突な問いは囁きにて。ランドマークから外れたこの場所は、死角と言えばそうなのかもしれないが
精確な答えを出せるのは、異能を抱く貴女にしか答えられないだろう

『何のため』であるのかは、彼女も口にする気はない様で

黛 薫 >  
「視線はそんなに。そのために選んだ場所だし」

ランドマークほど人は多くなく、人の流れも街中か
停留所に向かう人が中心。そして喫茶店を目当てに
訪れた人はさっさと店内に入ってしまうか、入口に
設置されたよく目立つ期間限定メニューのポップに
視線を奪われるか。

人の目を意識するあまり、避けることばかりが
自然と上手くなって。たまたまぶつかる視線は
あれど、注視される機会はいつの間にか減った。

「……じゃあ、行く?」

合流も済ませ、目的地も定まった。
しかし確認と呼ぶには迷いが多く含まれた声。
差し出した手も繋ぐ前に半端な位置で止まった。

何をもって感じ取ったか、気のせいなのかも
分からない。ただ、何となく今の問いかけが
単なる気遣いで終わっていないのかも、なんて
気がしてしまって。

メロウ > 「そう?ふふ、香りを知らないと私達は見つからないね」

返答に、ただの心配ならぬ妖しい気配を見せたのは、すぐに答えに繋がろう
瞳の宝石を見つめ合うだけの距離は、一瞬だけ交差を為す。吐息で香りを混ぜる、口付の形として

「行こっか?」

シームレスな動きはで確認に答え、半端に伸ばされた手を拾おう
躊躇いのなさ、事既に通り過ぎた風の様に爽やかながらも
彼女によって行われた事は確かに事実であったと、記憶できるか

黛 薫 >  
柔らかな香り。温もりを孕んだ自分のための香り。
触れて、溶け合って、混ざり合って、そして離れた。
感触と、体温と。微かな名残は夏の風が吹き抜ける
瞬きの間に消えるほど儚く、それなのにいつまでも
残留するような錯覚。

視線を確認する質問はこのためだったのか、とか。
タイミング悪く見られていなかったろうか、とか。
仮に誰かが此方を向いても、メロウの背に隠れて
見られずに済んでいたはず、とか。

普段なら頭をよぎったであろう思考も全部綺麗に
抜け落ちて、痺れるような熱が頰を染めた。

「……う、ん。行く、行こっか」

日光を反射する僅かな潤みのお陰で、揺れる瞳の
輝きはなお宝石に近しく。動揺を隠しきれない声は
そのまま所作に現れる。手を取ったは良いものの、
動かすのを忘れた車椅子の車輪は回らない。

メロウ > いつも、私の事を欲しがることばかりを求めてしまう
でも私の方こそ、あなたにちゃんと返してあげたい
普段のお仕事であなたは満足そうに、ううん
きっと本当に満足として受け入れてくれるんだろうけど

私の心、まだ足りてない

「私も薫様が欲しいんだと思うって、
 言葉ばかりで言うのは難しいから」

笑う声で、彼女はいつもの調子で歩き出そうとして
回らない車輪のその重さに、抵抗を感じて止まってしまう
今の貴女の白く染まった頭の中では、気付けないかもしれないが
急いで進もうとしてしまうその歩みこそ、『照れ隠し』の一環だった

「かーおーるーさーまーぁ」

振り返った不機嫌そうなジト目の姿も、鏡を見ればよく似ている

黛 薫 >  
「いっ、今のはあーし悪くなく、いぁごめんなさぃ」

目まぐるしい街の喧騒のすぐ側にありながら、
視線から隔絶された死角の内。止まった思考に
鈍化した時間感覚も相まって、見逃した仕草を
勿体ないと感じられなかった勿体なさ。

当然、本人はそれを自覚できやしないので。
動揺のあまり、普段気怠げな口調で隠している
気弱さを垣間見せて、漸く気持ちを切り替えた。

「メロウってほんっとそゆトコ面白がるんだから。
 あーしの方も心の準備とか、いぁあーしは先に
 言ったら言ったで余計に緊張するから言いづら、
 って、それは別に関係ねーってか、それ言ぅと
 理不尽だから先言ってって言ぇねーしぃ」

ぼやいては見せるが、着地点は定まらないまま。

遅ればせながら車輪の向きを変え、手を引かれるに
任せて目的地へ。調べれば分かるにせよ、黛薫は
常世渋谷の地理を把握していない。

メロウ > 「薫様も分かってないじゃん。勿論私も知らないよ
 だから私のしたいようにしちゃった。そういう事

 でもいいね。私としては、とてもよかった
 って、話でおしまいになってくれないかな?」

用途外と語っても、自身の中での心を交えた蓄積
自覚で来たなら悪い事では無かったのだろう。強引な解釈
即ち、解釈ばかりに気を取られたのが敗因で会ったのだろう
彼女自身、お出かけをする機会が少なくて、この街は尚更

格好としては、意外と自然に紛れ込める人混みの中、
また街角で佇む二人の姿があったそうな

「薫様、借りるね?」

『魔術』のディスプレイを広げて、地図を見ている
きっと、ここがそうであそこがこう...言葉で道を辿る時間

黛 薫 >  
「んぅ、そりゃメロウがしたくてしたコトなら
 あーしとしても嬉しぃし、その行動そのものも
 嬉しぃコトだったら尚更だけぉ」

嬉しくはあれど、ただ触れ合うだけより文化的な
意味合いが強い唇での触れ合いは、思い返すのも
言葉にするのも気恥ずかしく。話題の転換には
乗らざるを得ないのに惜しくもある不思議な感覚。

「それ、使ってくれてんだな。いちおあーし側の
 本契約の準備はイィ感じに進んでっから、追々
 もっと便利になるよ」

自分が構築し、メロウと共有した電脳魔術の
画面は逃げる先の話題として格好でもあった。

「んと、ジュエリーショップがココで現在位置が
 ココ……ってコトはコッチに進めばイィワケで、
 あれ、方角どっちだ?えっと停留所がこっちで、
 んならあっちを向けば北……あの建物が北だな?
 で、ジュエリーショップの方角が……」

彼方へ此方へ、指差しながら考える。
黛薫、地図を読むのはあまり上手そうではない。

メロウ > 「図面把握、得意じゃない?」

覗き込んできた顏は、随分と意外そうなものだった
物事を順序良く手繰り寄せるのは得手の彼女だと思っていたから

それとも、上手そうに見えないながらも、情報を集めれば強固に把握できる類なのだろうか
苦手があっても習慣で繰り返して補う...うん。そう解釈すると悪くなさそう

「技術もそうやって、進歩していくというものなんだね...」

なにやら勝手に感慨深い呟きで頷いているものの、
彼女が1人で勝手に考えを巡らせていると捉えても良いだろう

相手にはいずれ、技術的な『無理難題』を押し付けてしまうかもしれないのだし

黛 薫 >  
「図面ってか、地理の把握があんま得意じゃなぃ。
 視線気にしてっと、歩くとき下向きがちだから」

目深に被ったフード、長い前髪。どちらも視線を
避けるためのもの。隠れるように俯いて歩く習慣が
身に付いているお陰で、地形を確認して地図情報と
紐付けるのに慣れていない。

しみじみ呟く様子を横目に、メロウも技術の進歩に
覚えがあるのだろうかとか、此方は此方で的外れな
考えを巡らせたり。

閑話休題。

不慣れながらも地図を読み解き、宝石店に辿り着く。

歓楽街、異邦人街、落第街の境界にある常世渋谷は
流行り廃りの激しい、良く言えば型に捉われない、
悪く言えば混沌とした街並みが特徴。

宝石店もしっとりとした高級感ではなく、豪華さや
煌めきを全面に押し出した華美な雰囲気が色濃い。

「……目ぇチカチカする」

案の定、日陰者の黛薫は気圧され気味。
迂闊に商品を落としたり傷付けたりしないよう、
車椅子の動きもやや慎重になっている。

メロウ > 「そうだね」

お店の中に入って、薫が感じた言葉に彼女も同意する

取り扱っているものに関していえば、価値そのものに関しては自分のお店で扱っているものと極端な差はない筈だと思ってはいても
扱うものの輝かしさに大きな差がある様子。薄暗い個人のお店とは一味も二味も違うのだ

「本当に目を奪うって、こういうものを言うのかな
 お仕事の関係上、匂いの事ばかり考えるけれど...」

瞬きの回数も心なしか多くなる
この宝石の中から、一番綺麗な物を探す。それは私に出来る事?

黛 薫 >  
「んん、どーだろ。あんまキラキラしすぎてても
 目ぇ眩んで直視出来なぃんじゃ、キレイにした
 意味もなくなっちまぅんだろーし。

 んでも、光ん中で目ぇ開いてられるんなら、
 こーゆーキレイさを余さず見られんのかなぁ」

暗に自分はそうでないからもう少し煌めきが
抑えられた空間の方が居心地良いと仄めかす。

宝石そのものに香りは無いが、宝石の輝きを
1番良い状態で見せるため、傷付けないための
高級な布地の匂いは、店内空間の格式高さに
一役買っていると言っても過言ではない。

宝石の装飾に金や銀等の貴金属も使われているが、
金属臭は感じられない。金属特有の匂いは酸化を
はじめとする化学反応に起因するため、曇りなく
丁寧に扱われる金属は無臭のまま。

「色別に分けられてたら分かりやすかったのかなぁ」

色が異なれど同じ宝石、縁深い宝石は同じ棚に
収められている。アクアマリンやエメラルドは
緑柱石の側に。ルビーとサファイアは隣同士。

宝石に詳しければレイアウトにも頷けようが、
色くらいでしか区別出来ない門外漢にとっては
やや探しづらくも感じられた。

メロウ > 「こういうのって、『一番綺麗なもの』を探せばいいかと思ってた
 そうじゃないんだよね。綺麗な物が多過ぎて...」

宝石の香りを抽出する異世界の花は、石の香りを魔術の色で知りたくて
特別な加工も成されていなければ、ここに漂うは客の纏う香水の色ばかり

「む、む、む。薫様は前、宝石の話もしてたから
 魔術的な色々はあっても、宝石そのものの価値の事
 こればかりは甘く見ていたと、判断せざるを得ないのかな」

棚の前で背伸びをして、奥の方を覗き込んでみたとして
名前も知らない、粒の輝きが出迎えるばかり。首は大きく傾いた

参考になるものは、隣の人物の目の色だけ。見比べて

黛 薫 >  
「『綺麗』と『好き』は一緒じゃねーのもあるな。
 誰かにとって1番の宝石でも、別の色が好きな
 別の誰かには違ぅ1番があんだろし」

血を溶かしたワインのように紅いガーネット。
昼下がりの木漏れ日のような翠のペリドット。
ガラスとは異なる輝く透明さのダイヤモンド。

互いの眼の色に近しい青の宝石に絞ったとて、
緑から遠いサファイア、暗い色味のアズライト、
透明度のないターコイズなど種類は限りなく。

「あーしも魔術的な価値を抜きにして宝石を
 見る機会ってあんま無ぃ。それこそメロウに
 香り作ってもらったときが初めてだったかも。

 んでも、そーゆーの全部抜きに、ただ宝石の
 見た目だけに向き合ってみっと……キレイよな。
 いぁ、それって当たり前なのかなぁ」

見返す瞳は蒼い右眼。メロウの瞳の色と近しく、
強いていうなら少し暗めの色合いだろうか。
『何もない』を捉える左の目は店内を望むには
向いておらず、動かない瞳は盲を思わせる。

「見た目だけじゃなくて希少性も『価値』だから、
 値段から判断するってのも難しぃ話だもんな」

単に透明度だけ見れば劣る針水晶も、物によっては
ごく普通の水晶より高い値札が貼ってあったりする。

メロウ > 一度、貴女の事を例えた色はオパール
光を返す白濁の虹色。盲の左目が私を見てくれると知ったから

「宝石を変えると香りも変わる
 質じゃなくて、種類がそう
 だから探すべきもの自体は少ないんだけれど

 勿体なく思っちゃうよね
 こんなに宝石の種類があるなら、
 普通に贈っても良いんじゃないかって
 ...それも当たり前かな?」

それを『香り』の為に使う、という考えが異端なのだ
似合うものを探す時、また新しく見つけ出してもいい
可能性ばかりで迷っては居るけれども、その証とも取れる

と、彼女なりに前向きに解釈しようとしている段階
お金は仕入れと称して沢山用意は出来るものの、
そこから一歩進めるには、私達は決定しなければならないのだ


「私はただ、一番『薫様だ』って思えるものを見つけられればいいんだけど」

黛 薫 >  
「どーなんだろな? 自分が好きなものを相手にも
 好きになってもらいたぃってのも自然だと思ぅ。
 出来るコト、得意なコトで相手の役に立ちたぃ
 ってのもアリだと思ぅよ」

あーしもそーだし、と呟いてディスプレイを開く。
好きなこと、携わっていて楽しいことが実利にも
繋がるならモチベーションも上がりやすい。

「香水にした後って、元の宝石は残んのかな?
 こんだけキレイなの見ると、溶けちまぅんなら
 それはそれで勿体なぃと思わなくもねーけぉ。
 価値の形が変わるだけでもあんのよな。

 だって、宝石からはイィ香りしねーワケだし。
 いずれ減って無くなっちまぅとしても瓶の中の
 香水ってまた違ぅキレイさがあるワケだし」

無意識に左目の瞼を軽く指先で押さえる。

『自分らしい宝石』のために悩んでもらえること、
時間を使ってもらえることはこの上なく嬉しいが、
左右異なる眼の色の印象に近い石を見つけるのは
難しいのではないかという不安もある。

あくまで自分がメロウに──あのときはただの
『調香師』だった彼女を想う印象の石を選んだとき、
見比べたのが瞳の色だったというだけで判断材料は
他にもあるのだろうけれど。むしろ材料が増えれば
尚更難しくなるのかもしれない。

「『らしい』のを探すなら、石言葉、ってのもあるか」

店内パンフレットに目をやりながら呟く。

メロウ > 「香水にした後の宝石はね、形は残るよ
 でも輝きは無くなる。素人目に見てもね

 思うに、宝石足りえる『価値』の形を変えてるんだと思う」

『この世界での法則』では、起こりえない価値の変換であっても、
それを為し得るのが異世界の媒体というものだ

彼女の言う『素人目』という言葉の意味。彼女は1つの道のプロである
取り出した宝石は、路傍の石と遜色のない存在と成る
色も、光の返し方も、大して変わらなかったというのに、だ

「言葉も意味、それは私の普段してる事
 勿論その道もあるけれど、薫様の言ってる事を考え直すとこうなるね

 今の香水じゃなくて、新しい香水も試してみたい
 宝石の種類を変えるっていうのは、そういう事
 瞳の色から、私の色に。変えるのはそういう事」

彼女の言葉には相変わらずの複雑さが宿るものも
やっと『出来る事』の話が出来るのだとの、
気持ちの面での上擦りを含んだ声色である事には違いない

宝石店、実際に跳ねてみせる様子は当然ないけれども


「これもまた、あなたの為のお仕事になるよね?」

黛 薫 >  
「なるよ。最終的に得られる香りもそーだけぉ、
 こーやって誘って、一緒に考ぇて選んでくれた
 時間まで含めて、あーしの為になる」

メロウの言葉に宿るのは詩にも似た美しさと、
良くも悪くも内心をそのまま形にするがための
伝えるには向かない難解さ。

以前の黛薫は言外に意味を乗せつつ、枝葉の言葉で
真から目を逸らさせるような誤魔化しが多かったが、
最近は、或いは貴女と共にいるときは極力飾らない
誤解させにくい言葉を選ぶことが増えてきた。

対照的なようで、実直に伝えたいことを口にする
その一点においては似通っているとも言える。

「カタチが残っても輝きが無くなる。価値が移る。
 うん、言ってるコトは分かる。伝わってるよ」

魔術に携わる立場柄、価値の変容は理解できる。
万物に宿る魂と呼ぶべきもの。見た目が同じでも
込めた想い次第では感じ取れる価値が変わり得る、
というのが良く使われる例えだろうか。

「探してみるとイィよ。メロウが想ぅあーしの色。
 そこから生まれる価値も。メロウが思うカタチに」

手伝うという表現はきっと正確ではない。
隣にいて、メロウが納得できるまで探す過程に
寄り添って、話して、感じて、最後に受け取る。

きっと、それが大切なのだと思った。

メロウ > 「くひひ、ありがとう。私の仕事が求められてる
 そう考えると、本当は単純な事ではあるけどね
 前は見て選んだんだ。だから今度は聞いて選んだ

 表と裏、白は黒、表面が返す虹色には、
 秘めた色が万華鏡のように返す、だってあなたも色とりどり」

ディスプレイを開きながら随分と、時間をかけて迷っていた彼女も目線を決めた様子。囚われた内の1つの宝石
当てた光で色を変える、オパールの表面の輝きと対照した。内側に秘めた色彩の無数

「ボルダーオパール。不思議な色だと思うよね?石言葉も調べてみたり
『奇跡』『発想』『達成』って、なんだかいい感じに聞こえてくるよね?」

黛 薫 >  
「……コレ、自然に出来る色なんだな」

ボルダーオパール。層状の岩の隙間から算出し、
母岩を残して研磨される、遊色が特徴の宝石。

黛薫は自身と比べるようにショーケースの横から
メロウに視線をやる。貴女と似通った色合いの
蒼い右目と、オパールの彩と同じく色を留めない
左目。双方がメロウの方を見ている。

「どう?」

見比べてみてどうか。色が、印象が近しく思えるか。
似合うか、メロウ自身がチョイスに納得出来るか。
見た目も、石言葉に込められた意味もひっくるめて
『黛薫らしい』と感じられるか。

小さく首を傾げる仕草は誰に似たものだろう。
僅かに青みがかった黒髪がさらりと揺れた。

メロウ > 「見比べても分かんないな、そういうものを選んだからね」

表情を向けられて、それだけの判断で『似てる』とは言わなかった
印象が最後に、この宝石に吸い込まれた。彼女にとってはそれだけ
或いは、『見えないもの』を見出したと考えたとするならば、
その目を見つめ続けていた意味があったという事なのだろうか?

固執している、自分でもそう思っている。今、私を見ている色彩を保つ蒼よりも
きっと私が居なくなっても見てくれる色ばかり見てしまってる

「私ってもしかして、薫様と目を合わせた方が良いのかな?
 じゃないと、寂しく思われそうだもん。事あるごとに、見えない方ばかり見てるから
 心を探すのが私のお仕事だとしても、外側だってあなただから」

黛 薫 >  
「ふひ、そりゃそーだ」

実際、この宝石を見て『似ている』という基準を
適応するのは無理がある。抱いた印象がそうだと
直感的に思わせた。時にインスピレーションは
熟考の果ての結論をも凌駕する。『香り』という
繊細なものを扱うメロウなら、きっと。

「いぁ、そこはやりやすぃよーにしてくれてイィよ。
 流石のあーしも自分の目にまでヤキモチ焼かなぃ。
 あーしは『今の』メロウをこっちの目で見てて、
 メロウは逆の目を見てくれる。それはそれで多分
 バランス取れてんじゃねーかな」

無転な理屈ではあるが、それで良い。それが良い。
言葉全てに意味が無くとも、紡ぐことに意義がある。
時々浮世離れした、歌うような言の葉を紡ぐ相手に、
偶には曖昧なままの言葉で応えても。

「それにメロウ、そーやって考ぇてくれてる。
 その方がイィのかなってメロウが感じたのなら、
 見てもらぇるくらぃに目ぇ惹くのはあーし側の
 頑張り次第? みたぃな? そーゆーコト」