2020/07/18 のログ
ご案内:「落第街大通り」に山本 英治さんが現れました。
山本 英治 >  
落第街。悪徳が栄える街。
ここにある毒を排除するために、俺は生活委員と共に来ている。

その毒の名はキョウチクトウ。
美しい花を咲かせるその樹は、庭にでも生えているくらいありふれているものだが。
0.30mg/kgで人が死ぬ、青酸カリを超える毒性を持っている。

「……綺麗な花だよな、実際」

クレーン車とトラックが誘導されて来る中、キョウチクトウの花を見上げている。

山本 英治 >  
「それじゃ始めますか」

生活委員会の男子部員と共に、キョウチクトウの木の根本にスコップを刺す。
気をつけなければならないのは、根にも毒があること。
うっかりキョウチクトウに触った手で目など触れてはならない。

それにしても。なんだか異様にギャラリーがいるな。
落第街の住民が悪意を込めて俺たちを見ている。
お前らなんかが手を出すな、とでも言いたげだ。

実際あるんだろうな、睨む理由が。
この木の毒を使って。
落第街で不幸な死が蔓延している。
俺はそれを止めに来た。だから、睨まれるのも覚悟の上だ。

山本 英治 >  
それにしても、生活委員会はいつもツナギ姿で作業に当たるのだろうか。
俺なんか今日は護衛のつもりで来たからいつものシャツにスラックスなネクタイスタイルだ。
根本を掘るのを手伝うのなら俺も動きやすい格好で来ればよかった。

それにしてもあちい。なんか恨みでもあんのか、太陽………

汗をかきながら根本を掘ると。
キョウチクトウの花が揺れて落ちた。

ごめんな、お前に恨みはないんだ。
ただ……人間がちょっとズルかったから…
お前を廃棄しなきゃいけないんだよ。

山本 英治 >  
ふと、小さな女の子が近づいてきた。
ボロボロの服を身に纏った彼女は、俺たちを憎むように見上げている。

「どうした? 俺たちに何か用かい?」

と、スコップを置いて話しかける。

落第街の少女 >  
「私達はそれがないと生きていけない」
「それを持っていくのをやめてほしい」

風紀委員や生活委員がその言葉を聞いてくれるわけがない。
そういう諦めを感じながら、口にした。

ご案内:「落第街大通り」にマルレーネさんが現れました。
マルレーネ > 身体を使う仕事。 いわゆる、ゴミ拾いやらは当然として。
何か事故や事件があった際の現場の片付けがその次のレベルとする。
更に、今回のような大掛かりな作業が必要な仕事がさらに次のレベル。

いわゆる、風紀や委員会オンリーだけだと純粋な"人手"が足りない際に呼ばれる人員というものがある。
というか、彼女は良く呼ばれていた。何度呼び出しても文句一つ言わずに便利だからね。

………そんな彼女は掘り出した土を台車に乗せる係。
生活委員の人間がやりづらそうにしている中、彼女は特に気にせず作業を続ける。
……こういう目線には、ある意味慣れてしまった。

だが、少女の声を聴く姿を見て、思わず手を止めて。
二人の会話に耳を傾けるのも、また彼女の性だろう。

「……どうかしたんです?」

手元を土塗れにしたままの修道服も、よいしょ、と隣にやってくる。

山本 英治 >  
「ああ、マリーさん……いや、この子が………」
「私達はキョウチクトウがないと生きていけない、って…」

少なからず、衝撃を受けた。
毒を持たないと、生きていけないというのは。
どういうことだろう。

「どういうことか話してくれないか?」

マリーさんと並んで話を聞く姿勢を取る。作業は中断された。

落第街の少女 >  
「それがないと刃物に毒が塗れない」
「毒がないと身を守れない」

端的に、諦観を抱きながら。
説明をした。

「毒を飲ませるのも、毒を使って死ぬのも」
「選べなくなるのは……困る」

マルレーネ > 「………………」

相手の言葉を聞いて、目を伏せる。
経験があるからこそ分かる話だ。

「ここの住人の刃なのでしょう、この木は。
 その刃がどこに向くのかはともかく。」

木を見上げた。 見上げて、少しだけ首を横に振る。
彼女の中では結論は出ていた。

山本 英治 >  
「……どう思います、マリーさん」

少女にかける言葉を探す。
仕事だから、この木は排除しなきゃいけないのだけど。
それはこれから起こるであろう結果の話だ。

俺の決意の話じゃない。

「……刃………か。俺たちにとってはただの毒の木でも」
「ここの住民にとって……刃なんだな…」

目を固く瞑る。
それでも、この毒で人が死ぬのであれば。
俺は。

落第街の少女 >  
「毒を持っていくのなら、代わりに薬をちょうだい」
「あなたたちは、どうせくれないでしょうけど」

その薬は。
自分にとっての。

両目に既に輝きなく。虚ろのような視線を二人に向ける。

マルレーネ > 「どうも何も、仕事をしに来たのですから。
 例え殴られても刺されても、必要だと信じるならば為すべきことを為すだけ。」

彼女はただただ、そう言った。

「お嬢ちゃん。

 薬って、何が欲しいの?
 私はここに来たばかりだから、まだ分からないのだけれど。」

そっとしゃがみ込んで。
その表情は優しいようで。瞳は全く動かぬままに。
するりと会話に混ざってくる。

山本 英治 >  
「……ああ、そうだな」
「しかし、肝の据わったシスターだな……」

落第街の人間の言葉は。
時として安穏と共に暮らしている俺の心を抉る。
こういうことは、何度経験しても慣れない。

堀の中で、何度もそういう言葉で頭をぶん殴られてきたのに。

彼女は言った。薬が欲しいと。
それは一体、どういう薬なのだろう。

落第街の少女 >  
「痛くなくなる薬」

「気持ちよくなれる薬」

「死んじゃったお父さんとお母さんを治せる薬」

「今の生活を治せる薬」

「あなたたちは……きっとくれないわ」

マルレーネ > 「そうですね。 きっとあげられない。
 だって私もそれは持っていないのだから。
 飲んで、一瞬で治せるような薬は誰も持っていないもの。

 私は、私にできることしかできません。
 私の手の届く範囲でしか、手を伸ばすこともできません。」

少女に冷たくも言い放って。

「肝が据わっているのは、経験があるからですよ。
 ………その時は、この子のように優しく伝えてもらうことはできませんでしたけれど。」

憎まれる視線を浴びながら、平然と男にも聞こえるように言う。
諦観と憎悪が混ざった視線に、ちょっとだけ寂しそうに微笑んで。

"刺すならこっちよ" と少女に囁く。

山本 英治 >  
「そうか…………マリーさんも……」

深く重い息を吐き出して。
俺は空を見上げる。どこまでも憂鬱な、青空。

「それでも……俺は………」
「落第街に毒も薬も要らない世界を目指したい」

手を伸ばして、少女の後ろ手から刃物を取り上げる。
それはボロボロで、刃毀れしていて。
それでも……錆一つない丁寧に磨かれた刃。

「君みたいな子がこんなものを持たなくていい未来を求めたい」

強い眼差しでマリーさんを見る。

「風紀が対症療法しかできないなら、風紀がいらない環境を作っていきたい」
「そのために……まずはこの木を排除する」

落第街の少女 >  
刃物を奪われると、叱られた子供のようにバツが悪そうに。

「……返して」

と言って両手を伸ばした。

マルレーネ > 「強い力はとてもたくさんの水のようなもの。
 それだけでたくさんの人を救えて、それだけでいくらでも植物を育てられる。
 けれど、強い容器が無ければ周囲を壊す波となる。

 真っすぐでない志に水を注げば、そのうち倒れて零れるだけ。

 貴方の言葉は、素敵な容器だと思います。
 そのまましっかりと、すべての水を受け入れられる容器へとなりますよう。」

祈るように言葉を紡いで。

「返してあげましょう。
 それは今回の"仕事"ではないもの。」

ほら、まずは貰える? と男に手を差し出して。
少女には待ってね、と掌を向ける。

山本 英治 >  
「……はい」

今の自分は、未完成の器で。
ただ言葉を並べただけの無力な存在。
だからって。それでも。
弱いままの自分でいるつもりはない。

「わかりました」

そう言ってマリーさんに刃物を渡した。

俺はこの時、マリーさんがどうして返す前に自分に渡してと言ったのか。
その意図を理解していなかったんだ。

落第街の少女 >  
「返して……返して…」

両手を伸ばす。大切なんかじゃない。厄介なだけの。
それでも身を守る最後の砦。

マルレーネ > 「よろしい。」

受け取れば、口笛を吹くような素振りをしながらするりと靴紐を結ぶかのようにしゃがみ込んで、腕の袖をまくりあげ。
ひゅ、っとまるで当たり前のように、自分の腕を切り裂く。

そのナイフを赤く赤く、血に染め上げ。
浅い斬り方だけれども、それはそれ。派手に赤く染まったのを見れば。

「はい、どうぞ。
 貴方は勇敢に抗議をしに行って、相手に小さくない傷も与えて。
 この場に残る刃を守ろうとした。

 行きなさい。このことは内緒よ?」

なんて、ウィンクをぱちりと少女に向けながら、柄の方を向けてナイフを返す。

「あ、もちろんこっちも秘密よ? 怒られちゃう。」

男に振り向けば、ぺろっと舌を出して見せた。

落第街の少女 >  
「………っ!」

相手の言葉の意味を理解した瞬間。
火がついたような羞恥心に苛まれた。
服がボロボロだろうと。
どんな行為に至ろうと。
感じたことのなかった恥ずかしいという感覚に。

血のついたナイフを掴んで、そのまま背を向けて走り去っていった。
自分の頬に、涙が伝っていることを理解しきれないまま。

山本 英治 >  
「なっ、あ、アンタ……何してんだ、マリーさん!!」

慌てて彼女に声をかける。
確かにメンツは守られただろう。
これで彼女には遅効性の薬になったかも知れない。

それでも……こんなこと………

「生活委員会、救急箱を持ってきてくれ! 早く!!」

そう叫んで、追い詰められたような。
理解できないというような表情で。
彼女に問う。

「……どうして…………痛いだろ? 血が出てる…」
「こんなこと、俺がやればよかったんだよ!!」

目を瞑って叫ぶ。思いつかなかったくせに。子供のように、駄々をこねた。

マルレーネ > 「すいませーん、切っちゃいました。」

慌てて叫ぶ男の脛をこつん、と蹴って。
声をかけられた男性に何でもないような声を向ける。


「力仕事残ってる人にー?
 やめてくださいよ、私その分働くことになるんですよ?
 海の家の日陰作ったら腰が痛くて痛くて。」

ころころと笑って、冗談でかわすように言葉を使い。
その上で、もう一回脛を蹴る。 今度はちょっと強めに。 ゴッ、って鳴った。

「……風紀に関しては詳しくはありませんが、組織に入って何かを為すなら。
 人を頼ることを覚えなさい。

 全てを自分でこなすなら、少なくとも私くらいは小指一つで超えて貰わないと?」

ぺろりと舌を出して、ちょっと悪戯に目を細める。
にっひっひ、と歯を見せて笑いながら、掌を上に向けてくいくいと挑発までしてくる。


……あ、救急箱を持ってきてくれたので、とっても穏やかな外向け笑顔でありがとうございまーす、って言っておく。そとづら大事。

山本 英治 >  
「あッ」

脛を軽く蹴られた。
彼女の意図を図りきれなかった。そのことが心を痛めた。

「で、でも………女性が腕を…痛ッ」

脛を強く蹴られた。
彼女の意図を図りきれなかった。そのことが心を…いやめっちゃ脛が痛い。

脛を抱えてぷるぷる震えていると。

「………ウス」

己の未熟さを窘められて。
つええな。全く、敵いそうにない。
鮮やかな解法だった。自分が傷つくという、ただ一点を除いて。

「後の作業は俺が……いや、俺たちがやるので…」
「その、休んでてくださいよ。傷口がある人に毒木の処分作業なんてさせられるわけがない」

俺がやる。俺が。それで救える人なんていない。
そのことを指摘されたみたいで、しょげかえる。

「……男って奴は、一生のうちで何人の女の子を守れるんでしょうね…」

走り去った少女の涙に、どんな感情があったのかすらわからない。

マルレーネ > 「何を言ってるんですか。
 あのナイフには毒が塗ってなかったことは見て分かったじゃないですか。
 大騒ぎし過ぎですよ。 それに、あの木に触れる仕事は最初から頼まれてませんからね。
 外部の人が中毒でも起こしたら、それこそ大変なんじゃないです?」

全くもう、と言わんばかりの声。
ガーゼを当てて包帯を巻いて、ぎゅ、っと縛ればはい終わり。
ワイルドな処置を施しながら、自分の肩をぽんぽん、と叩いて。

「……どうでしょうね?
 なぜか守られる側になったこと、ほとんどないんですよね、りーふじーん。」

ぶーぶーと文句を言いながらも、救急箱を返して立ち上がって。

「今回は誰も傷つけずに済んで、怪我しなくてよかったじゃないですか。」

なんて、ウィンク一つ。
秘密にしておくのだから怪我人0ですね、とする言葉。表面上は。

山本 英治 >  
「あぶぶ………」

理詰めで来られると、弱い。
それが綺麗な女性なら殊更に。

「……俺が守りますよ」
「俺がシスターマルレーネを守れるくらい、強くなります」

続く言葉に表情を歪めた。
この人はこんなことを繰り返してきたのだろうか。
一欠片の同情すら求めず。こんなことを。

「傷つきましたよ」

夏風が吹くと。猛毒の花びらが舞い上がる。

「痛みます」

それをわかってほしいと口にすることは傲慢で。
今のままでも子供の弱さで。
ああ、俺ってやつは。どこまでいっても。

マルレーネ > 「あっはっは。 それならば猶更、もっと強くなってもらわないと。
 気長に待ちますかねー?」

立ち上がって背中を向けて。
前回は争いになった。過去、寂れたスラム街で。
ナイフで刺されながら抵抗して、暴力を振るった。
振るわざるを得なくて、人を守ろうとして血の海を作った。

だから今は、シスターの表情は優しいまま。


「あら、………脛を蹴り過ぎました?」

分かっていながら、振り向いてウィンク一つ。
微笑みながら言うのだ。

「痛かったなら修道院までいらっしゃい、手当をしてあげますからね。
 それとも、この程度は痛みじゃなかった、って言うくらい蹴られる練習とかです?」

ころころと、楽しそうに笑いながら。 土の入った台車を持ち上げてえっちらおっちらと運んでいく。

山本 英治 >  
優しい表情のまま。
人のために。誰かのために。働き続けているんだ。
知らない土地で。この世界にたった一人なのに。
自分の戦いを続けているんだ。

その勝手な仮定が、俺の心の柔らかい部分を引っ掻いた。

スコップを持ち直して。
髪を弄って肩を竦める。

「ははは……勘弁してくださいよ」

今は冗談を口にすることで自分を守った。

「すまない、作業を再開する」
「七割、根を掘れればあとはクレーンで釣り上げて積み込み作業に移れる」
「落ちた葉っぱや花びらは可能な限り回収していこう」
「それから………」

俺はキョウチクトウの花を見上げた。
何人の命を奪おうとも、ただ美しい。そう思った。

マルレーネ > 積み重ねれば強くなる。
でも、積み重ねれば思い出す辛いことも増える。

それを顔に出さないようにすることは。

強さか。 摩耗か。

ご案内:「落第街大通り」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「落第街大通り」から山本 英治さんが去りました。