2022/11/10 のログ
言吹 未生 > “お願い”の鍵。
【圧魄面説】の干渉はまだ解かない。
怪我の功名めいた帰結であるが、異能の干渉に当たって意識と記憶をリンクしたところ、

「……息が出来ない辛さが解ったかな?」

“裁くに足る”理由が見出せたのだから。
――集団暴行。抵抗する女性。その首に手を掛け――

「――それでも、“彼女”が味わった無念には届くまい」

代弁者の、地を這う声の冷たさに――不幸にも――青年の一人が目覚め。
それでも、その身を律する/縛する呪いの枷が、息も、弁明も、悲鳴も赦さない――。
継続する苦悶に思い出したようにのた打つ姿を、冷厳な一つ眼はじっと俯瞰する。
手を下す事さえ忌まわしいとでも言わんばかりに。
不吉な夜風と月明かりの下、哀れな影がタランテラの独演を狂い舞い――やがて、終演する。

言吹 未生 > 四つ分の干渉。その全てが、今や無用となって絶たれた事を確認して。

「…………」

ウインドブレーカーのポケットから取り出すのは、ありふれたメモ用紙。
その一枚に、また取り出したペン先を走らせる。

『罪状:集団暴行、殺人、死体遺棄
 十一月十日午前×時、処断ス』

「…………」

しばし逡巡し、読み取れたもう一つの情報を記す。

『遺棄場所ハ 青垣山第七遺構 南東ノ沢ナリ』

裁き、罰すまでは己の領分。ならば弔うは――。
記し終えたメモ用紙を、斃れたブルゾンの硬直が始まった手に握らせた。
仄かに残る体温。常人ならば厭う不快感にも、眉ひとつ動かす事なく仕遂せて。

言吹 未生 > 痕跡を残すなど、我ながら浅はかだ。
ここに遺されたものは、もはや不明なる変死体ではなく、れっきとした他殺体である。
風紀は嗅ぎ付けるだろうか。答えは是であろう。
脳裏に数瞬、『救えるのは自分だけ』と説いた長躯の風紀委員の声が甦る。

「……出来るものなら――」

やってみるがいい。
牙を軋らす飢犬の吐息を思わせる毒づきが、湯気を立てて夜に挑む。
病院には私物を取りにこそ戻るが――それきりだ。
学生寮の、殺風景が過ぎる部屋にも戻る事はあるまい。
――だから何だと言うのか。
己は留学生でもなければ苦学生でもない。
学生と言う身分さえ、そもそも本土がお仕着せただけのものだ。

風紀の目すら逃れ得る罪人を処するのに、そんなものは必要ない。
狂犬には喰らい付く牙と、駆ける肢と、ねめつける眼があればよい――。

言吹 未生 > 「――改めて感謝するよ。いや、本当に」

何の功徳にもならない謝辞を、死体四つに投げ掛ける。
己が本分へ立ち返るその切欠に、文字通り命を以て成ってくれたその献身に。

身を翻し、袖口から疾らせた特殊警棒。
そこから放たれ、向かいのビルの手摺へと喰らいつくワイヤープラグ。
それをよすがに、少女/狂犬は翔ぶ。
夜闇にひずんでなお冥い、その行方も知れぬ昏黒の奥底へと。

強硬派は、跳梁を開始した――。

ご案内:「廃ビル」から言吹 未生さんが去りました。<補足:表情筋が死んだような、モノクロームの少女。>