2020/06/14 のログ
ご案内:「スラム」に夢莉さんが現れました。
夢莉 > フードを深く被り、スラムの角で煙草を吸いながら気だるげに座り込む。
治安の悪い地域で顔を出来るだけ隠すのは、経験で覚えたものだった。
自分の顔はこういった場所では、特に悪い意味で狙われやすい。
必要な時以外は見せぬが吉。それが面倒な輩に絡まれぬ為の、スラムで生きる為の知恵だった。

「…ほんっと
 好き勝手やりやがる」

つい先ほど起きた、この辺りではまさしく「些事」である争いの事を思い出しながら。
人が死ぬのも消えるのも、大した問題ではない。
少なくともここはそういった場所。ここの住人の命は…軽い。

それでも、ゴミのように殺される自分と同じような境遇の者を見るのは。
気分がいいものではない。

夢莉 > 夢莉はスラムで生まれ育った。
夢莉自身は父親を知らない。母親は夢莉の生まれる少し前まで売春婦として生きていた。
貧民街を生きる為に売春婦となる女は少なくはない。夢莉の母親も、例に漏れず文字通り自分の身を売り、自分の生活を保っていた、ただの貧民街の住人であった。

一つ夢莉の母親が他と違ったのは、彼女が『外の街』の役人に気に入られていた事だった。
月に一度、視察と称してその貧民街にやってきたその役人は、身分を隠しながら夢莉の母親との関係を続けていた。
夢莉の母も役人という上客の存在によって、他の貧民街の住民とはくらべものにならない程豊かな生活が出来ていた。
互いにお互いの関係については語る事はなかった。どちらにとっても、関係を他者に知られる事は、最も危惧する事であったから。
やがて役人との間に子供が出来た。それが夢莉であった。

…だが、夢莉の母の順風満帆な生活は、そこで打ち止めであった。
自分の子を孕んだと知った役人はあまりにもあっけなく夢莉の母を切り捨てた。
さらにそれと重なって、売春婦仲間に役人との関係が漏れたのだ。
既に切れた関係への嫉妬で、夢莉の母は他の女達に口にするのも憚られるほどの仕打ちを喰らう事となった。
様々な嫌がらせ。仕事すら奪われる日々。
夢莉を生んだ後もそれは延々と続いていた。
売春婦として生きる上で最も重要である顔を焼かれ、夢莉の母は夢莉が5歳になる頃には、全てを喪っていた。

夢莉の不幸は、そこから始まった。

夢莉 > 顔を喪い、全てを喪った母親は、かつて溜め込んでいた資産を切り崩しながら、夢莉を育てた。
夢莉は美しい顔を持って、男の子と生まれた夢莉を、母親は女として育て始めた。
自分が喪った物を補完するために。美しくなるようにと、最大限の方法を用いて育てられた。

夢莉が8つになる頃、母は夢莉を仕事に駆り出した。
その仕事は、女としての仕事であった。
母親によって資産を切り崩してまで美しさを磨かれた夢莉は、貧民街から少し離れた歓楽街の離れにあるショーパブで、初めての仕事をした。
そこはパブとは名ばかりの、見世物小屋であった。
そこで夢莉は、その美しさで人気を勝ち取っていった。

夢莉 > 夢莉が金を稼げるようになってからも、母親は夢莉の美しさの為に拷問のような仕打ちを繰り返した。
稼いだ金で買ったホルモン剤を飲まされ、男らしい部分は可能な限り矯正を施された。

『ずっと綺麗な姿でいてほしい』が、母親の口癖だった。
夢莉には拒否権はなかった。

ただ、夢莉は子供であったが、自身の母親が自分にしていく事を疑問に感じる事の出来る賢い頭を持っていた。
それは、まだ精神的におかしくなる前の母親が、ほんの少しの間ではあるものの夢莉を愛する我が子として愛を持って育てていた為であったが
しかし夢莉にとっては、そんな事は知る由もなく
ただ母親に命じられる事や、自身の置かれる立場に対する疑問、反感だけを積らせていった。

夢莉が出来た唯一の犯行は、母に見られない時間、『仕事』をする直前のほんの少しの間の時間、普通の男の子として、仕事場の近くにあった広場にいる子供に交じって遊ぶ事だけだった。
その時だけ、なんとなく夢莉は自分のしている事と、自分の心の歯車がかみ合うような心地よさを感じる事が出来た。
そして時間が来れば、仕事場であるショーパブで服を着替え、客の前に出て、男でも、女でも、誰とでも客の相手をした。
仕事は嫌な事も多かったが、そうやって夢莉は、自分を捨てる事なく、幼少期を生きていった。

それが崩れたのは、夢莉が12歳になる頃であった。

夢莉 > 12歳になる頃、段々と夢莉は自分と他の子供が違うものであるという事に気づき始めていった。
その頃になると共に遊んでいた子供の中に、段々と『男』への成長をしていく者が増えていったのだ。
身長が伸び、骨格が逞しくなり、声が変わり出す同年代の友人が増えていった。
そんな中、夢莉だけが何時まで経っても、そういった変化が訪れる事はなかった。
声は依然として高いままで、筋肉はつく事は無く、背は伸び悩み、それどころかむしろ、ほんの少しであるが、乳房のふくらみを感じていた。
それは、母親が夢莉に対して長年行ってきた『美しくあるための矯正』の結果であることは、想像に難くなかった。

その頃から、夢莉は何とも言えぬ不快感を常に感じるようになっていった。
日常の中で、パブでの『接客』を続ける度に自身という一つの個が、ミキサーをかけられ、ぐちゃぐちゃにされる感覚。
そんな中で辛うじて自身を繋ぎとめていた、子供として遊び合う友人たちとの目を逸らせぬ程の乖離。
決定的だったのは、時折遊びの中で、同年代の友人たちに向けられるようになっていった…夢莉への『視線』だった。
夢莉にとって、馴染みのある、しかし、不快感を催す『視線』。
パブの中で客に向けられる『視線』と同じものを、友と思っていた者たちに向けられる瞬間がある事に、夢莉はすぐに、気が付いた。

自身が男であるのか、女であるのか
齢12の夢莉は、既にそれが分からなくなっていた。

夢莉 > 14歳になる頃。
仕事場であったパブに警察の捜査が入った。
その頃になれば既に夢莉も理解していたが、元々そのパブは違法行為の温床であった。
パブの情報を警察に流したのは、夢莉本人であった。
そうすれば店を続ける事は適わず、自分は解放されるのではないかという気持ちから、半ば衝動のように、情報を流した。

誤算は、それが母親にバレた事だった。
働き口を潰された事、我が子に初めて逆らわれた事に逆上した母親は、自分の今の生活が崩れ去る事へのストレスでヒステリックを起こし、そのまま夢莉の首を絞めた。
首にかかる強い圧迫感と窒息。気の触れた母の醜い顔。
それが『最初に死んだ時』に夢莉が最後に感じた全てだった。


気が付くと夢莉は、パブの近くにあった広場で目を覚ました。
首を絞められた跡は無く、服は仕事に行く直前の、男物のボロだった。
夢かと一瞬思ったが、横で鳴り響く、パブの前に駐車された複数のパトカーのサイレン音で、それが夢では無い事を理解した。
夢莉が、最初に自分の異能を知った瞬間だった。


目論見は成功し、夢莉は自分が稼いだうちのほんの僅かな端金を片手に、パブと母親から逃げきる事に成功した。
警察は夢莉を追わなかった。それは夢莉がスラム出身故に身元の判明が困難であった事もあるし、夢莉が言ってしまえば、被害者の立場であったからかもしれない。
母親とも、それ以来、会ってはいない。
おそらくパブの捜査の際に警察に捕まったのだろうが、そんな事は、もはや夢莉にとっては一切関係のない事だった。

そうして解放された夢莉は、一人で生きていく事になった。
だが、齢14の、身元の不明な子供である夢莉が、一人で生活をするのは、至難を極める事となった。
真っ当な働き口は当然、見つかりはしなかった。
住む所も失った夢莉が生きる為には、結局、パブと同じように、誰かの相手をする事で、生活をする他なかった。

夢莉 > 天涯孤独の身となってからの夢莉の生活は、やもすればそれまでの14年よりも過酷な日々が続いた。
身寄りのない子供、相手からの暴力を伴う『接客』をしなければならない事や、仕事の失敗により見世物として奇怪な物を口に入れられる事もあった。
そんな中で少しずつ一人での生き方を学んでゆき、2年が経った頃には、その顔も、体も、異能も、何もかもを自分の『武器』として扱う事が出来るようになっていた。
特に異能の存在は、夢莉にとって非常に助けとなった。
使い方次第では他の人間にとっての危ない橋すら難なく進む事の出来る夢莉の異能は、時に荒事から夢莉を助け、時に『接客』以外の仕事として夢莉の資金源となった。

そうして一人で粗方自分が生きる為のやりくりが出来るようになった頃、相手をしていた客の一人の言葉から、夢莉は常世学園の事を知る事となる。
そこから偽装学生証を手にし、学園都市を新たな拠点とする迄は…そう時間はかからなかった。
何にせよ、そうして新天地に向かう夢莉の胸中に、これまでの人生からの脱却という想いがあったのは、事実である。


……塵のような存在からの脱却、の為に。

夢莉 > 「―――こんなんじゃねえよな、求めたのは」

何処かへと消えた二級学生がいた場所に、そう呟いた。


(”あれは、オレだ”)

夢莉 > 今の自分は恵まれている。
なんの巡り合わせか二級学生から脱却し、裏方の汚れ仕事とはいえ公安として働いている。
自分を拾った奴はムカつく上にドがつく程の阿呆だが、しかし恩があるし、返そうと思える程度の相手だ。

それでも、まだ
自分はこちら側だという気持ちが消える事はない。

そんな事を思いながら、一人ぼんやりと煙草を吸っていた。

ご案内:「スラム」に織機 雪兎さんが現れました。
織機 雪兎 >  
「んんんん……」

スラムに何やらバケモノがいる。
そう言う通報を受けたはいいものの、今動けるのが自分しかいなかった。
普通こういう案件は複数人で来るのだが、そう言うことだからおっかなびっくりスラムを一人で歩く。

「なんでだよぅ……僕一人で何ができるってんだ……」
真っ青な顔で懐中電灯をあっちにこっちに向けながら青い顔。
以前バケモノに襲われたときのことを思い出す。
ファッキンクソったれ人員不足め。
恐怖心を紛らわせるために悪態をつきながら歩いていれば、懐中電灯が金髪の美少女?の姿を捉える

「ひぃあぁ!? ――ぁ、ひ、ひと? あ、あぶないですよー、バケモノが出たらしいですよー……?」

一瞬驚くが、それが人だとわかってちょっと安心。
ビクビクと辺りを警戒しながら彼女?の方に近付いていこう。

夢莉 > 「あ…?」

やってきた女?を怪訝な表情で見る。
風紀の制服……通報でもあったのか。
にしても一人、しかもビビり散らかしている姿が随分と頼りない。

「風紀…?……むしろこんな場所に居て危なくない場所なんてある訳ねえだろタコが」

ぺっ、と煙草をそっと消して口悪く返した。

織機 雪兎 >  
「んひぇあ」

口が悪い。
めっちゃ顔が良いけどめっちゃ口が悪い。
あまりの口の悪さに変な声が出た。

「い、いやでも、ほら。こんな場所でも危険度の違いと言うか、お財布の危機と貞操の危機と命の危機はそれぞれ別物と言うか。そ、そう、危ないから風紀委員のボクが表まで送ってあげるよ!! 風紀委員のボクと入れば安心だし! ね!!! そうしよう!!!」

足早に駆け寄りすがり寄る。
自分が誰かと一緒にいたいだけである。

夢莉 > 「……」

あからさまな『なんだこいつ』というという顔―――!!

「風紀委員ってのは人員が足りてねえのか…? こんなクソの役にも立たなさそうな奴もいんだな…」

ぼそっと(めちゃくちゃ口悪く)ぼやいた。
出来ればすがり寄るのも御免被るのだが、変に追い払うともっとうるさそうだ。

「…てか、お化け屋敷じゃねえんだから普通にしろよ。
 余計に目につくだろ。
 ンなだと襲われるか犯されるかされんぞ」

織機 雪兎 >  
「んっひぃ」

ぼそっと呟いた言葉が耳に届く。
めためたにこき下ろされてる。
なきそう。

「普通!? 出来るわけないだろバーカ!! 怖いんだぞ!! こちとら脚ガックガクだぞ!! 暗いし! 善良な一般風紀委員の僕がこんな怖いとこで普通に出来るわけねーだろ!!! バーカ!!!! ばあああああああか!!!!!」

逆ギレである。
恐怖がはち切れそうなところに更に脅されたため、恐怖心の決壊を起こしての逆ギレ。
語る通り脚は残像が見えそうなほど震えているし、彼の袖口を掴む腕もものすごい勢いでバイブレーションしている。
さらに当然のように半べそだ。

夢莉 > 「(うぜぇ…)」

露骨にうぜぇって顔(?)をする不良学生であった。

「…じゃあもう帰ったら? 心配しなくても何もねーよ。
 というか初対面の人間の袖を掴むんじゃねえよ」
 

織機 雪兎 >  
「帰る!?!? 帰る!?!?!? 一人で!?!?!?!?!? このメタクソに怖くて危険な落第街の路地裏を一人で帰れと!?!?!?!?!?!?!?!? おまえそれでも人間か!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

この世の終わりのような顔をして叫ぶ。
ここまでくるにも命懸けだったのだ。
一人で引き返すなど、どれだけ命を掛ければ足りるのか。
眼をクワッッッ!!!と見開き、全力で叫ぶ。

「だって怖いんだもん!!!!!!! 仕方ないだろ!!!!!!!!! なにかに掴まってないと立ってられないんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!」

メタクソに情けないことを叫ぶ。

夢莉 > 「うるっせぇよ!!!!! とりあえず静かにしろ!!!!!」

至近距離で大声を喰らい怒鳴る奴。
あんまり目立ちたくないのになんなんだコイツという顔をしているぞ!!

「あーもう、とりあえずハイハイハイ!!! 風紀委員だっけか!? わーったよついてきゃいいんだろ!?」

どうせこんな煩くしてたら誰かしらに目をつけられる。兎に角ズラかりたい。
可能なら目の前の女を引きはがすなり異能使うなりで今直ぐいなくなりたいが腕を掴まれてるせいで異能が使えない。クソッタレめ

ご案内:「スラム」にハルシャッハさんが現れました。
織機 雪兎 >  
「はい」

スンッと黙る。
腕も脚もブルッブル震えて怖くて仕方ない。
つい逆ギレして騒いでしまったが、騒ぐと目立つのはわかっているのだ。
騒いだけど。

「じゃ、じゃあ風紀委員の僕にしっかりついてくるように! ふ、風紀委員の僕の指示に従うように!! 安全の、安全のためにね!!」

ついてこい、と言いつつ彼の腕にしがみ付いて離れないし歩こうともしない。
いや歩こうとはしているのだけど、脚が動かないのだ。
全力で脚に力を込めても、ほんの僅かずつ、ずり、ずりとナメクジが這う様な速度で地面を擦るだけである。

ハルシャッハ >  
ゆらり。 建物の影と影の間を一つの影が揺らめく。
大声で話す住人がこのスラムに居る事自体違和感の塊だ。
大声で話せば諸元が割れる。 どの位置、どの高さに居るのか。建物の中か。

その耳から伝わる情報を元に、男はその二人を遠巻きに、
まるで踊るように建物の合間を縫っていた。

「……。」

仕事の、いや正確には街の偵察の帰りだ。
対人、それも対多数で接触する必要性など絶無であり、どこにもない。
誰がどこに、何が有るのか。 まず知ることが必要だった。
あなたにも存在の気配はふと伝わるだろう。
何かが通った、という事実は間違いなく伝わる。消す必要が、なかった。

夢莉 > 「それでいいからさっさといこうぜ……なんかどっと疲れた」

あからさまに疲れ切った顔で歩き出す。人に掴まられてると兎に角動きにくい。ただでさえ筋力がないのだ。

「……」

少し周りを見る。目につく……こちらを見ているのは数人
そのうち数人は…まぁ、あんな大暴れする怪物と人間の戦いの直後に見知らぬ人間に近づきたくはないのだろう。
ちらちらと様子を伺う、警戒しているような視線だ。
別に気にしなくても近づきはしないだろう。

・・・が、一つだけそれとは違う視線が一瞬あったのに気が付く。
どちらかというと”今の自分寄り”の視線の動き。
気にする価値があるかどうかを確認してた視線。
それが一瞬あって、直ぐに消えた。何処に今その視線の主がいるかは分からない。


早々に立ち去ろう。厄物が多すぎる。

「あーあ、人がノスタルジーに浸ってる時にほんっと…ところで誰だよオマエ」
そういえばと、唐突に名を訪ねながら警戒は絶やさなかった。
弱者としてスラムで生きる人間としての最低限の心構えだ。

織機 雪兎 >  
「うぅ……」

彼が歩き出せば引きずられるようにこちらも歩き出す。
周りからの視線を気にするように、キョロキョロとあたりを見回し、その視線から隠れるように更に彼の腕にしがみ付く。

「うえあはぁ!? きゅ、急に話しかけるなよ!! 合図!! 合図をくれ合図を! 殺す気か!!!」

ビョーンと10㎝ぐらい飛び上がるような驚き方。
そして無茶な要求。

「ぼ、僕は風紀委員の織機雪兎だよ。君こそ誰だよ。スラムに住んでるような身なりじゃないだろ」

スラムの住人にしては小綺麗だ。
こちらを観察するような視線には一切気が付かない。

ハルシャッハ >  
相手が何者なのかなど、こちらからすれば気にかける理由がない。
有象無象、どこぞの馬の骨のために割くリソースのほうがもったいない。

――逃走(ラン)・隠密(ハイド)・戦闘(ファイト)。

盗賊の、いや危険地帯を生き残る為の鉄則にして教則に忠実な、
盗賊の下っ端だったこの男からすれば、なおさら戦う理由もない。
ごくごく最低限の、生き残る為だけの装備しか無いのだ。
仕掛けるにはあまりに理由が脆弱に過ぎた。

一瞥、二瞥。

軽く視線を投げ込むと、家3軒程度離れた距離を1軒分詰める。
敵対するような動きではない。むしろ、盗賊としての技術はまだまだ下級。
しかし、それでも技術を教わったかどうかだけで、素人とは天と地の差がある。
気配の色が、むしろ逆に薄くなる。 接近しているにもかかわらず。

音が近いならば、むしろ動きは小動物のように。穏やかに。
盗賊の鉄則だった。

夢莉 > 「どう合図すりゃいいんだよ……」

正直名乗りたくねーな、と思いながらも言わないと煩そうだし風紀委員相手に偽名を使うのも面倒くさいなと思った。
聞かれる前に聞かれそうな事は話しておこう。面倒くさいし

「夢莉だよ。3年、年は18。
 
 スラムはただの古巣。様子見に来ただけで今は別の場所に住んでる
 こんなモンでいいか?」

言いながら不審な動きが距離を詰めて来たのを感じ、そっと歩く位置を移動させた。
最悪自分が狙われるように、自分の方が狙いやすくなるように。
特に意味はない。
今目の前にいる雪兎と名乗った少女を守らなければという気持ちが強い訳ではないが、どうにも、癖として、そういう動きをとっていた。

織機 雪兎 >  
「ふうん。ユーリパイセンはこのへん住んでたの? 大変だねぇ」

会話を始めたからかちょっと余裕が出来てきた。
未だ彼の腕からは離れないが、こっちを見ているその辺の住人を睨みつける程度の余裕。

「てーかパイセン口悪いよパイセン。パイセンせっかくカワイイ顔してるんだからもうちょっと愛想よくしようぜパイセン」

歩く位置を移動したことにも、何者かが距離を詰めてきたことにも一切気付かず、呑気にパイセンパイセンと彼の口の悪さをからかって。
この女、風紀のくせにめちゃめちゃ呑気してる。

ハルシャッハ >  
――視線が問題なく通り、視認できている段階で情報が増える。
音源の主はガキが二人。 若い声から想定はついたこととは言え。

事実、距離を詰めたことでより確実に確認ができた。
背格好、大筋の年齢。
そして、ある程度足音から歩く配置を移動したということは、
『こちらの存在が気取られている』ことを意味する。

知識と経験さえあれば、これほどまでの情報量が、得られるのだ。

(……ガキ二人か……。 死んでも知んねぇぞ……?)

関わり合いになる理由が絶無なのだが、それでも渋い顔にはなる。
まして、片側は極めて呑気なものだ。ここがどのような場所か知ってか知らずか。
一般人のバンピーが、ましてや非武装で歩いていい場所ではない。
何かしらの心得くらいは無いと、危険な場所だというのに。

位置と相手の情報さえ得られれば、男にとっては収穫だ。
2軒分の距離が、一気に3軒半まで急激に広がった。
それは、より離脱しやすい距離へと離れていくことを意味する。

周囲に耳を張り巡らせ、宵闇により溶け込みながら。
男は新しい情報を求めて、目を光らせていた。

夢莉 > 「愛想よくする必要性がねえからな」

媚を売るのは疲れた。
必要がなければ、極力御免被る。
何より、スラムや貧民街では美人というだけで狙われるのに、その上で愛想まで良くして居たらカモと見られかねない。
最低限の威嚇。「手を出したら噛みつく」という意思表示は出している必要はあるのだ。

「とりあえずさっさといくぜ。テメエのせいでめちゃくちゃ疲れた。
 街戻ったらなんか奢れよ」

すたすたすたと、早足でスラムを出ていく…
出来るだけ早く、安全な場所に出る為に

織機 雪兎 >  
「えー、パイセン美人さんなんだから愛想よくすればモテると思うなぁ。あでも僕にだけ優しくしてくれるとかだと僕ァキュンとしちゃうかもしれないなぁ。いや待てよ、誰にも靡かない孤高の野良猫みたいなパイセンもそれはそれで……」

へらん、と笑いながらいつもの調子を取り戻していく。
緊張感がなくなったのはスラムに慣れている誰かが隣にいると言う危ない安心感からか。

「ふふん、風紀委員の僕が居れば落第街なんて怖がる必要はないからね、大船に乗ったつもりで――あっちょっまって早いまって」

言葉とは逆にがっしり彼の腕にしがみ付きながらドヤ顔していく。
が、彼の足の早さに着いていけるほど脚が回復したわけでも無く。
結局こちらを『視て』いた視線に気付くことなく、スラムを無事抜けだしましたとさ。

あとから来る風紀の本隊と合流と言う本来の仕事を果たせずしこたま怒られたのはまた別の話。

夢莉 > 「キメぇ」

一刀両断しながら去っていく。

(…襲ってこないなら、まぁ、いいか)

ご案内:「スラム」から織機 雪兎さんが去りました。
ハルシャッハ >  
観察するのだ。 よく観察し、よく調べ、よく学ぶために。

難しい話ではない。
誰しもが持つ動物として、いや。 獣としての本能を研ぎ澄ますだけだ。
忍びの技術、盗賊の技術はそこから始まる。
それらをいかに研ぎ澄まし、生き残る為の適切な択を取るかという一点だ。

距離を徐々に離す、その足は早くも静かで。
ロングブーツがレンガやコンクリートを叩く音も、そう響くこともなく。

――人として穏やかで、そしてそうは取れないほどの朧気な輪郭。

それが、また観察の学びを終えて。 ――宵闇に消える。

ご案内:「スラム」からハルシャッハさんが去りました。
ご案内:「スラム」から夢莉さんが去りました。
ご案内:「スラム」にアーヴァリティさんが現れました。
ご案内:「スラム」にフィーナさんが現れました。
フィーナ > 「んー…………」
捕縛依頼を受け、スラムを進む。
とはいってもいかんせん対象の情報が少なすぎる。
『好戦的』
『擬態する』
『触手を扱う』
『魔術を扱う』
これぐらいしか教えられていない。魔術を使ってくれれば感知はしやすいのだが…それでも決定打にはなりえないし。

アーヴァリティ > 「はあ...今は戦うような気分じゃないんだけどなあ
よりにもよってバレる格好だなんて、僕も運が悪いね」

先ほど襲撃を仕掛けてきた、今は触手に頭を握られ呻き声を漏らす数ヶ月前に見逃したこの男。
よりにもよって今自分を襲撃を仕掛けるなんて、迷惑だから容赦無く排除させてもらった。
当時、恋人と共にスラムを歩くとかいう危険極まりないアホ行為を行っていた彼だが、それなりに見込みがあったため恋人を殺すに納めて、次に期待していたのだが...

「もういいよ。死んで」

せっかく先日の戦いでいい気分になっていたというのに。その感傷に浸る時間を私によこせ。
容赦無く触手に力を込め、男の頭を握り潰せばそれを少し離れたところへと放り投げて。

フィーナ > 「……?」
物音が聞こえた。そちらの方に顔を向け、視界を効かせる。

触手だ。

「…………」
まだ情報が足りない。暫く身を潜めて『確定』しないと。手は出せない。

アーヴァリティ > 「んー...こいつ報告してそうだなあ...格好変えようかな...」

伸びをしながら、姿を変えようか、と。
服はまあ、出そうと思えば出せるのだが。
無駄に魔力を損耗したくないし正直この場で姿を変えるのも面倒な気がする。
これは歩き回らずに大人しく拠点に引きこもっていたほうが良かったかもしれない。

「じゃあ帰ろ...見られてるなあ」

しかもこの気配は少し覚えがある...そう数日前、僕と切人の戦いのときに見ていた中で強かった雰囲気。
何時か戦りあいたい相手だとは思っていたが、今来るのか。
どうしようかなあ、と悩みだし...

「逃げよ」

雑にテレポートの魔術を発動する。
変に魔力を消費したくないし、相手が一人であれば撒けるだろう、と油断している。
魔術に精通した者であれば妨害できるだろう。

フィーナ > 「!」
そうか、やはりあの時のか。なら、『確定』だ。

しかしあの時の魔術と違って随分乱雑だ。これなら………

と、瞬時の思考で、距離があるにも関わらず魔力を送り込み、相手が使う術式を『書き換える』。

『目標地点』を、『今相手がいる上空』に。

空の上では大抵は無防備になる。

アーヴァリティ > 「ッ!判断ミスだ!」

魔術に精通した敵と出会ったことは、この長い人生の中でもなかなかに少数だ。
さて、油断の代償、突然テレポート先の風景が先程居た場所の上空、となれば襲撃に備えて飛行する。
今回はしっかりと魔力も術式も組んでジャックされないようにして。

「そんな気分じゃないけど...!来い!」

フィーナ > 「…む」
見当違いだった。まさか、『飛行能力』も備えているとは。
となると…この位置関係を利用しよう。

ぐ、と杖に魔力を籠め、術式を解放し、重力という現象に干渉をする。
相手がいる場の重力を高め、反動として自分の重力を弱める。

さぁ、急な重力の変動にどう対応する?

アーヴァリティ > 「重力操作?!思ってるより面倒そうだ!」

全く、今日はそんな気分じゃないと叫んでやろうか。
これが敵の異能であればいいのだが、魔術を妨害した以上、魔術での重力操作、もしくは複数の異能持ちか。
どちらでもいいが、どっちでもシールドを使うにはまだ早い。あの戦場で見せなかった部分を無駄に見せるな。

重力操作による押さえつけに身体能力向上で抵抗しながら、横向きに移動して重量操作の圏内から逃れることを試しつつ、敵の位置をさぐる...

フィーナ > 「…………」
あの動き。こちらの位置がバレてないのか?とすると…

複数のスクロールを取り出し、1秒で組み上げた複雑な誘導術式に結びつける。自分を中心にスラムの街に分散させ、そこから相手に四方八方から誘導付きでぶつける術式。

そしてスクロールの術式は空間爆破。殺傷力より撹乱を目的に。

アーヴァリティ > 「ッ!好き放題打ち込んできやがって!
今日はそんな気分じゃないんだよ!!!」

爆破のごく僅か前、その前兆を掴み取れば、脆いシールドを貼る。
さて、このシールドは確実に破られるだろうが、目的はそこにはない。
爆発の寸前、相手の位置を掴んだ。
さればとる行動は...!

フィーナの背後へとテレポートし、同時に風の魔術も発動して、触手で自分を囲うようにして防御も展開した状態で全力でフィーナの頭部に向けて拳を振るった。

フィーナ > 「っ」
背後に回られたことを察知し、重力魔法で軽量化した自分を『跳ね上げさせる』。風の魔術が少し掠ったか、裸足の足が少し切れた。

「面倒…!」

そのまま、打ち下ろすように炎の槍を形成し、相手に落としていく。

アーヴァリティ > 「魔術師はこれだから厄介だ!」

手数が多い相手はどうにも苦手だ。
自分のシールドは単一の攻撃手段しか持たない相手には非常に有効だが、逆に複数の攻撃手段を持つ相手には弱い。
そうでなくとも、いくつもの対策を練らないといけない。
行き場をなくした拳と纏った風をそのまま下を潜らせ、上に向けて放ち、炎の槍を相殺しようとするが、所詮流用しただけの拳は炎の槍を砕くには弱すぎたようだ。

多少勢いを減らせど、形を残している槍を触手数本で掻き消し、地面を強く蹴り、さらに飛行魔術も併行し近接空中戦に持ち込もうとする。

フィーナ > 「………」
顔を顰める。距離を詰められると打てる手が少なくなる。
今この状況は非常にマズイ。

術式を組み上げながら、上に旋回して相手の視界から外れるようにUターンする。その間に、水の屈曲を利用した自分のデコイをばらまいていく。まずは距離を取らないと話にならない。組み上げている間にこちらが殺られる。

アーヴァリティ > 「そんな表情するなら最初から襲ってこないでもらえると嬉しいんだけどね!」

顔を顰める襲撃者に露骨に不快そうな表情を向ける。
そのままぶん殴ってやろうかと思ったが、空中でしかも高速で移動しているとなると飛行状態でも姿勢が悪すぎる。
足も先程の跳躍で上手く蹴りに流用できず。

すれ違った直後に止まるが、襲撃者の方向には水面で反射する光、とでも言えばいいだろうか。
そんな襲撃者の偽物か、はたまた全て本物か。
どちらかはわからないが、大量増殖しているのが見え。
数が多いなら端から潰して行けばいい。
上空から触手を急速に伸ばし、視界に入る両端の分身から攻撃を仕掛ける。

フィーナ > ばしゃり、ばしゃり、と。水なので簡単にはじける。が…
ごぽごぽと、また元の形に戻っていく。潰すには蒸発させるか凍らせるか、もしくは術式そのものを破壊する必要があるだろう。

「…………」
撹乱に成功し、距離を取ったフィーナは、術式を練り上げる。一つ、二つ、三つ、四つ…………そして、九つまで。
一つ一つが対象を追い、極端なまでに圧縮された粒子の光線、つまりは『ビーム』を打ち出す魔法陣だ。それを九つ全て放つ。

当たれば貫通は免れ得ないだろう。

アーヴァリティ > 水の分身体とは。
重力、火、水。
一体幾つの属性を扱えるのだろうか。
ただ、分身体が再生することに関してはそこまで問題でもない。
再生したところで何かしてくるわけでもなければ、再生したところで偽物は偽物だ。
真ん中へと破壊を進めればいいー

「光属性も使えるんだッ!」

こちらに向けてレーザーが輝き、放たれた。
これは防がねばまずい。
流石にこの類はただのシールドでは防ぐのは容易ではないし、威力というかダメージも大きいし、ただのレーザーではない可能性もある。
となれば、レーザーという概念を防ぐシールドを展開し、迎え撃つだけだ。
比較的余裕を持って防げば、お返しと言わんばかりに触手の突きをレーザーが飛来した元の辺りに降らせるだろう。

フィーナ > バリン、バリン、といくつかの魔法陣が割られる。問題ではない。
攻め手を緩めるつもりもなく、次の魔術を組み立てる。

相手を中心に竜巻を発生させる。
それは次第に大きくなっていき、ビル一つを飲み込みかねない大きさに。

内部は気圧差を利用して雷を発生させ、熱転換で外部に熱を放出しながら、内部の温度を極端に下げる。

相手の動きを温度で阻害しつつ、空気中にある水分を氷結させ、風に乗せることで凶器化させる狙いだ。

そして魔法陣もまだいくつか生きている。

アーヴァリティ > 「ぐう...何属性使えるんだよ!ふざけやがって!」

竜巻に飲み込まれた直後、脱出を試みるが、見事雷に打たれる。
雷の速度かつ認識外なんて避け切れるか!
突き出した触手は根本から崩れ落ち、襲撃者に到着する前に勢いを失う。
内部の温度が下がりだした事に気付き、竜巻の巨大化に伴うその威力向上に対し、高出力のシールドを貼って抵抗するが、このままではジリ貧だ。
襲撃者が起こした竜巻とは逆向きの風を内部で起こして竜巻の打ち消しを試みながら、雷に打たれたり他の攻撃が貫いてきたときのために自分を触手で覆う。
雷に対してはないよりマシ程度であるが...

フィーナ > 「………ふぅ。」
ここまでやって、ようやく一息。威力を抑えながら戦うのは本当に骨だ。

「…さて。」
並大抵では脱出するのは難しいだろう。なら…次に打たれる手はテレポートのハズだ。

術式は解析した。次にテレポートをするならば、その時は術式に介入して…そうだ、両腕だけテレポートさせよう。ついでに触手も切り取る感じで。
腕と触手を無力化できれば、捕縛することも出来るだろう。と、安易に考えてみた。

アーヴァリティ > 「くっ...テレポート!」

致し方ない。
さっきからやけに魔力消費が多い。
初手のテレポートにしても、レーザーを防いだシールドにしろ、今貼っているシールドにしろ、今日はやけに魔力を消費している。
だが、この状態が続いても、削られるだけだ。
大人しくテレポートで離脱を試みる。
...が

「ッ!!」

魔力は持っていかれた。両腕と触手も持っていかれた。
竜巻を軸とした襲撃者の反対側にテレポートしようとしたのだが、そこには両腕と触手だけテレポートしただろう。
歯が軋むほど歯を食いしばり、悲鳴を押し殺す。
そして、耐えている中、集中力欠如により魔力供給を失ったシールドが破壊される。

「しまっ!」

そのまま竜巻の中で氷塊や雷に二度三度打たれるが、このままではまずい。触手を再生し、応急的に防御を固めれば、全力の風で竜巻を中和し破壊する。

竜巻の外へと脱出したはいいものも、両腕がなく、全身焼け焦げ血塗れの姿が観れるだろうか。

フィーナ > 「…さて」
今回の依頼は捕縛依頼だ。このまま攻撃してもいいが、それでは殺ってしまう可能性がある。

また、術式を組み立てる。
相手と同じ術式を。


あれだけ離れていたフィーナが至近に出現し、相手に触れようとする。

直接魔力を流し込み、相手の身体の制御を奪う目算だ。

アーヴァリティ > 不味い状況だ。
あれだけ魔力を消費して、このザマだ。
あれだけの魔術を使う者が触れようとしている、何をされるかわかったモンではない。

力なく散らばる触手の一本の先がわずかに、フィーナの方へと振られ、その先からは斬撃がとび、フィーナの伸びる腕を切断せんと迫るだろう。
そして、他の触手も同様に、大きく動かすことは出来ずとも斬撃を放ちだす。

そして、フィーナの背後まで伸びていた触手が、後ろからフィーナを叩き潰そうと、その鋼鉄並みの高度のそれを振り上げた。

ご案内:「スラム」にアーヴァリティさんが現れました。
ご案内:「スラム」にアーヴァリティさんが現れました。
フィーナ > 「っ」
長年の戦闘の勘だろうか、とっさに手を引きながら、魔術と呼べない魔力を放出して、障壁を作って斬撃を防ぐ。が…

「あ゛っ!?」
ベキリ、と。嫌な音を立てて背中に衝撃が走る。

殴られた勢いのまま、墜ちていった。

アーヴァリティ > 「はあ...はあ...危ない...やっぱり魔術は...強いね」

久々に痛覚通すのやめようかと思った。
両腕を異能で再構築し、触手を引っ込め、尽きた魔力と溜まった疲労から、とどめを刺す事も、死亡を確認する事もなく、その場をふらふらと歩きながら去っていった。

「どうせ来るなら...こっちから殺しに行ってもいいかもね」

口元を歪ませ、恐ろしいことを呟きながら...

ご案内:「スラム」からアーヴァリティさんが去りました。
フィーナ > 「……………」
からんからんからん、と。突っ込んだ家屋が崩れる音がする。

「痛い………」
折れた辺りを抑え、慣れない法術による治療術を行う。
時間はかかるが、動ける程度には回復するだろう。

フィーナ > 「…逃しちゃったな」
言い訳するためにある程度傷を残して、立ち上がる。

そのまま、スラムを去っていった。

ご案内:「スラム」からフィーナさんが去りました。
ご案内:「スラム」に閃 天兎さんが現れました。
ご案内:「スラム」にエルピスさんが現れました。
閃 天兎 > 「戻らんな...魔術の類ではないのか?」

さて、昨日に続き、スラムにて適当な奴を捕縛して脅して賽子を振らせる。
今回は『殺さない』ことを約束したら、昨日の二級学生よりは早く振った。
今回の出目は一。
案の定化け物が生まれ、そのサイズも変化も昨日の化け物程ではなく、化け物というよりかは怪異とか、合成獣のような見た目になった。
知能もそこまで低下していないのか、化け物になり切った後も特に暴れると言った事もなく、大人しくしていた為、実験は楽に進行したのだが...

「魔術ではないとなると...呪いか。少々もったいないが、使わざるを得んか」

瞳だけでなく、眼球全体が赤く染まった視線をこちらに向けるスラム住民に向けて、解呪用のマジックアイテムを取り出せば、呪文を唱え出した。

エルピス >   
常世学園の技術水準は歪だと、常々思う。
雨風を凌ぐのがやっとな家屋に住む者も居ればワープ付きのビルに住むものもいる。

傷口の手当てだって火と布で精いっぱいのものもいれば、最新鋭の医療で不老不死や高速回復を施されるものもいる。

もっと言えば体系化された"魔術"だって取り込まれている。
SFじみた永久機関やワープだって実現されているかもしれない。

(僕が言うのも、だけれどさ。)

兎にも角にも歪だと思っている。

そんなことを考えていた用事の帰り。
裏通りの喧騒を避けてスラムに足を踏み入れれば──

スラムの住人にしては身なりの良い誰かが、スラムの住人相手に何かをしている。

(よくあることといえば、そうだけど。)

少し様子を見てみよう。
遠巻きに見物することにした。

閃 天兎 > 「やはり一般的な魔術も習得するべきか?わざわざ道具を用意するのは面倒だ」

解呪用のマジックアイテム基スクロールが詠唱終了と共に焼け落ちて消える。
スクロールが消滅するのを見届け内包された解呪魔法の発動を確認すれば、独り言で愚痴を漏らして小さく溜息を吐く。
スクロールが消滅してすぐに、その効果が現れた。
化け物に変わっていたスラム住民の眼球からは赤色がひき、通常の眼球へと。
膿んだようになっていた体表は汚れが流れ落ちるように元の肌へと戻り、元のパッとしない女に戻った。
疲れたようでその場で崩れ落ち、地面に両手と膝をついているが、目立った外傷はなさそうだし見たかぎり異常はない。

「もう一度だ」

解呪のスクロールはまだ二つある。
どうせだ、他の出目でも戻るか試して見るか、と嫌そうな顔をするスラムの住民に賽子を差し出しながら剣を向け...

「誰だ?」

私に潜む悪魔は意識を持つ。
さて、彼か彼女かも知らないその悪魔によれば誰かが見ているとか。
スラムの住民の首根っこを掴み、こちらを見る何者かの目の前に異能で移動すれば

「便利屋か。ちょうどいい。依頼がある」

確かこいつはエルピスとかいう便利屋だったはずだ。

エルピスの顔を確認すれば、剣を仕舞いながら、そう伝えるだろう。

エルピス >   
 転がる賽子。
 怪物に変貌し、元に戻る住人。
 無理強いして繰り返そうと脅しつけて──いるところで声が掛かった。

「……もしかして、最近落第街で出回ってるソレ?
 出元にアタリが付くから、あんまり触りたくないんだけど……受けるなら高くするよ。」
 
 嫌そうな顔をしながら近付く。
 恐怖ではなく、嫌悪と呆れの類だが。

閃 天兎 > 「いや、調達して欲しい物がある。解呪に使えるアイテムが欲しい。」

賽子を手放すのは全て実験して使い道が見つからなかったらでいい。
まだあまり解明できていないこれを売るのには惜しい。
やけに嫌そうな顔でこちらを見ている便利屋に、「こう言った物だ」と解呪のスクロールを取り出して渡す。

「こう言ったものを20回使えればいい。スクロールでもアイテムでも。20回分あればいい」

エルピス >    
「……それなら構わないけれど……。」
 
 拍子抜け、と言った具合で賽子を見て、スクロールを見遣る。
 状況と言動、一部の文字の書き方から解呪の類であることに疑いは持たない。

「汎用的な解呪形式……異能や科学で混ぜものしない、純粋な奴かな。
 2日ぐらい貰えれば調達できると思うけれど、それでいい? 1日でやってもいいけれど、特急料金貰うよ。」

 いくつかの伝手を脳裏に浮かべながら納期と金額の交渉に入る。
 この手の物品の調達は得意なのか戸惑う様子はない。

閃 天兎 > 「そうだな。解呪に使えればいい。幾らになる?」

私と便利屋が出会ったのは初めてのはずだが。随分と酷いイメージを持たれているようだ。
拍子抜けしたような表情の便利屋にの表情を見て、自分がどう言った目で見られているのか。
私はあくまでも合理的に動いているだけだというのに。
この賽子のトリガーが『振る』ことでなく、他人方の干渉でどうにかできるものであればこんな面倒なことをして歩く必要もないのだが。
さて、便利屋に分類される相手と取引するのは初めてではないが、要求される金額は基本的に個人差が大きい。
基本的に言い値をそのままのんでいるが...
さて、こいつはどれほど要求してくるだろうか

エルピス >   
「ざっと──この位?」
 
 提示された値段は"相場"通り。
 高くもないし、安くもない。
 
 魔術の素養があるものが聞いたら卒倒するような値段は付けない。
 商売っ気がないとも言う。

 少なくとも、足元を見るつもりはなさそうだ。

 ……閃そのものへの嫌悪はあまりなく、どちらかと言えば賽子やその近辺への意識が強い。
 溜まっている"ヨクナイモノ"が鼻に付いているような、そんな具合だ。

「ううん、単純な解呪なら"森エルフの祈り"辺りが効くかな……
 余分な機能がついてなくて、あまり嵩張らない方が良いよね。」
 

閃 天兎 > 「分かった。こんなところか」

提示された額に仮面の下で少し驚いたような表情をする。
便利屋は数いれど、その価格が常識的、というより足元を見た価格設定をしない者は少ない。
金には困っていないが、仕事の成果もよければこれからはこいつに依頼しようか。
異空間から大体これぐらいか、と提示された額を出し、手渡す。
足がつかないようにそれ専用で用意した金銭だ。

「あああれか。用意出来るならそれで頼む。1日で用意出来るなら受け取る時に金も渡すが。幾らだ?」

数度使ったことがあるが、あれは使いやすい。
この便利屋は使えそうだ、と判断しているようだ。

エルピス >  
「そんな所。渡し損ねても腐らないし、後払いで良いよ。」 

 そこはかとなく人が好いのだろう。
 足元を見て交渉に手間取る事を嫌っているのかもしれないが、
 理由があるとは言え後払いで良いと先に言うのは、多少甘い。
 
「一日なら倍額にするよ。
 寝る暇惜しんで、講義もサボることになるし」

 流石に値が張るらしい。
 自分の時間も大事らしく、特急料金は高くする方針。

「明確に『振る』なんていう呪いを補強する儀式が付いてなければ、
 ディスペルマジックや科学的打消し、概念斬や簡易解呪でも済んだと思うから楽だったんだけれど。」
 

閃 天兎 > 「そうか。ならそうしよう」

金を異空間にそのまま戻せば、どういう意図があるのか考える。
考えると言っても、考えられる理由はせいぜい信頼を得る為、それぐらいだろう。
人がいい、という可能性もあるが...まあないだろう。

「倍額か。分かった。それで頼もう」

ここで正体を空かせればその講義の分を埋め合わせてやる、とでも言えるのだが。
そもそも学園の生徒としての講義かすらわからないのだが。わざわざ生徒の顔なぞ覚えていない。
倍額はそこそこ大きな出費だが、1日待つ時間時間で出来る事を考えれば、損ではない。

「簡単に解呪できれば私も楽なのだがな。こんなアイテムに頼らずとも済む」

それでも一応、賽子が万が一振られた判定にならないように、厳重に管理しているが。
簡単な呪いであれば『邪教医術』で取り除いておしまいなのだが、このレベルで重たい呪いともなるとそこそここちらの損耗が大きいし、わざわざ研究所に連れて行くのも面倒だ。
作者の意地の悪さが見て取れる。

ご案内:「スラム」に閃 天兎さんが現れました。
エルピス >   
「しょうがいないなぁ……いいよ。
 明日の23時、ここで良い?」
 
 払うと言えば承諾の意を示して時間と場所を提示する。
 正体を探るつもりもないのか、余計な探りは入れてこない。

「"起こることは何でもいい"んだろうけど、"ちゃんと起こってほしいし""簡単に終わってほしくない"んだろうね。
 ……効果や強度よりも成立を第一にしてる辺り、意地が悪いよね、この作者。あるいは──」

 賽子へ目を落とす。
 賽子に別の意図がないか思案しているらしい。

閃 天兎 > 「明日の23時だな。ちょうどにここに来よう」

これで風紀や公安、仲間などを連れて来られたらこいつは随分と策士だろうな。
そんなことはないとは思いつつ、正体に探りも入れず、価格設定も金銭の受け渡しも適切な選択もできている。
さて、次からも機会があれば利用させてもらおうか。

これからも利用するから、どこに行けば良いか聞くのは受け取った時で良いだろう。

「なんでも良い。ここに良い性格の賽子があるというだけだ」

地面、スラムの地面。もっというならば常世島の地面、常世島自体を指差す。
誰がどう言った意図で作ったか知らないが、利用できるうちは好きなだけ利用することにしよう。
ただ、教師としての自分に負担がかかることだけは避けたいが...

「では明日、23時ここで」

そう告げれば、この間首根っこを掴まれ震えていたスラムの住民の首に手刀を落とし、気絶させればそれを引きずりその場を去って行く。

白い仮面はエルピスから見えなくなり、闇の中へと黒いローブ姿は足音も残さずに消えていった。

ご案内:「スラム」から閃 天兎さんが去りました。
エルピス >   
「これを良い性格って言うキミも中々だね。
 ──了解、また明日。」

 苦めの表情を笑みにして誤魔化して見送る。

「……とりあえず、急ぐかな。
 今の話聞いてると、多めに仕入れといた方が良いし。
 利益のためにも、自衛のためにも。」

 誰も居なくなったことを確認してからこの場を去る。
 取引は恙なく行われ、その節に拠点を訊ねられたので答えたのは別の話。

 この取引を境に"森エルフの祈り"なる瓶詰めの聖水が落第街に出回るようになったのもこれまた別の話。
 青色の聖水を見かければきっとそれが解呪に特化した聖水である"森エルフの祈り"だ。
 値段に関しては、売り手次第だが。
 

ご案内:「スラム」からエルピスさんが去りました。