2021/11/14 のログ
ご案内:「遺跡群」に『調香師』さんが現れました。
『調香師』 > 意識を取り戻すと、そこは荒廃した土地
目の前には遺跡が1つ、ぽっかりと

「?」

少女は先日の事を思い返します
こんな事、当然予定には無かったけれど
過去を想う。更に彼女は首を傾げました

木曜日から一度も意識を取り戻さないまま
日曜日の今日、この場所で意識を取り戻したらしい

「えっと。帰らないと?」


『帰らないと』、そう意識した時に。記録の呼ばれる方向へ
少女は遺跡の口へ潜ろうと、無自覚に歩みの先を向けました

『調香師』 > 彼女の歩みは帰郷の歩み

そこに警戒の気持ちはなく。異能すらも使われない
どこかで誰かに見つかってしまったのかも、そんな意識は全く持たず

異能は彼女の『機能』ではない
『機能』でなければ、使う理由もない
或いはその意識すらも、持たない


私は『調香師』。香りで人に仕える為に生まれたの
けれど、この場所はじめじめとしているんだね
埃くさくて、まるで永い間忘れられてきたかのよう
今日から私は、どんなお仕事をする事になるのかしら

私は、


灯のない遺跡、暗闇の奥へと進んでいく

『調香師』 > 「私は」

歩みが遅くなる

「私は...?」

じょじょに、じょじょに
香りの漂わない方へ、私は進んでいた
それを違和感と感じ始める

ついに、その足が止まる。そうして彼女は振り返った
遠くに見える外の光。『香り』はその方向から

何の香りなのか、私の記録にもない
私はそうして、こんな香りを纏っていたのだろうと
首を傾げながら正面を改めて見直した時に


「ひゃ...!?」

前方の道が、崩れて落ちていたことを知った
尻餅をついて後退る。このまま進んでいたら、私は

ご案内:「遺跡群」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
「誤解されそうだから、予め言っておくけども…」

 甘ったるい煙草の香りは、降って湧いたように、その声と同時に出現した。
 後退るその背後、女は忽然とそこにあった。
 彼女と同じ、探検に来ようという風情ではない、此方はステージにでも立とうという出で立ちの。

「落っこちそうだったら、助けるつもりだったよ、ボクはね」

 見殺しにするつもりだったのかという問いかけをされた場合に布石を打っておく。
 そういうことをしそうかしそうでないかなど、判別がつかない状況だった。
 ついさっき少女が振り向いた時にはいなかったその女はというと、
携帯灰皿に銜えていた煙草を押し付けてから、背後から長身を屈ませて少女の頭上から覗き込む。

「立てるかい?」
 

『調香師』 > 「ひゃぁ」

身を震わせて、また首が振り返る
香り、知らない香り。その判別だけは効く

それ以外、彼女はロクに、警戒として働かせていなかったのだが
...甘い煙草、女性の声。貴女は『そこ』に居た


「立て、たて」

立ち上がりたいが、意識がそれを拒んだ
未だ、その脚は『前』へと進みたがっている

立ち上がりたくない、そう首を横に振る
どちらが戻る方向か分からなくても、
間違って、奈落の底には落ちたくはないと

ノーフェイス >  
「ボクは立ってるよ」

 女は苦笑しながら場違いな応答を返した。
 命令をされているわけではないのはわかっているし、少女が尋常な様子ではないことも、
察せられないほどには、女は鈍くはなかった。
 ただ、この少女が尋常なものではないことも、なんとなく…ほんとうになんとなく。
 感じ取れなくもないから、彼女が何を望んでいるのか確かめた。

「…だいじょうぶ」

 膝をつくと、少女の矮躯を背後から抱き留めた。
 動転している。追い詰められた恐怖、あるいは死を予見した錯乱か、
人間でさえこうした誤作動はよく起こす、女はそれをよく見てきた。

「だいじょうぶだからね」

 《うた》うように、その耳に…音という情報を需要する機構に声が届く。
 彼女が自分の問いかけを、読唇術で読み取ったとかでもないかぎり、
特異な力は乗せていないけれど、落ち着かせるために柔らかく、低く、おさえた声で言い聞かせる。
 子供をあやすかのようでも。

『調香師』 > 「あ、a」

口が動転して、声がから回って
気もそぞろな現状。その抱擁を避ける手立てもなく

伝えられる、少女と女性の間の歳を生きよう貴女の身体
同時に伝える、彼女の身体の、甘美に熟れた果実の香り
自身が危機に瀕した時。まず『餌』となってしまいそうな程

人と比べて遜色なく、彼女には『本能』という物が宿っていた
それは危うく、被食の才と呼ばれる類だったのだろうが

「私は、大丈夫...?」

傍から状況を測る相手が居る
彼女にとって、最も救いとなった部分だ

自身が確かに『異常』と知って、
背中に温かみを受けながら、呼吸を整える時間を得た
暫くあやしていれば、彼女の無自覚の震えも収まってくれる事だろう

ノーフェイス >  
「…すごいな」

 なにが『すごい』のか、女は言わなかったが、言葉は、感嘆のトーンで。
 本能が理性を上回り、平静が衝動を抑え込んでくれないその有り様、
あまりに人間的な、そしてそれよりもか弱く思えるほどの矮躯を、
しばらくそうやって抱き支えていた。

「うん、ボクがいるから…」

 少なくとも、落ちることはなく、落ちさせないように取り計らうことができる。
 体軸は見た目より更に頑丈で、細身の腕さえ屈強で、しかし締め付けないように柔らかく抱いた。
 女はそうして、慈母のように、少女の帰還を無情にも阻み続けた。

 軽く、一定のリズムで、抱いた身体を、とん、とん…叩いて。
 幾星霜を過ごした天井や壁に漫ろに視線を巡らせていたが、時を待って口を開いた。

「…でも、なんだってキミはこんなところに?」

『調香師』 > 「......」

「ありがとう」

少女は静かにそう返す

落ち着いた身は香りも同様に。必要以上の芳しさは鳴りを潜める
ここには為になるべき『人』は居ない。背後の彼女は、危険ではない

自分自身だけ、誰も知らない間に危機に陥り
そして彼女に救ってもらえた。そう、思い込んでいる
彼女は機械。人が居るなら、切り替えも早い

「どうして、ここに居るんだろうね?
 分からない...って言えば、信じてくれるかな」

思い当たる節だけは幾らでも
しかしそれを秘匿したがる程度には。一応世間体を保ち始めた

隠せているのかは、兎も角

ノーフェイス >  
「夢遊病なんだとしたらさ、ずいぶんずいぶん、気長に遊覧したもんだねぇ」

 けらけらと楽しそうに笑った。
 女からすれば、まず死にたいのか、死にたくないのかの確認が第一だった。
 礼を言われたということは、彼女にとっては良いことをしたのだ…と考えた。

「信じてくれるもなにも…ボクにそれを疑う理由はないサ。
 ただもし『わからないまま』その先に行くのは…
ちょっともったいないんじゃないかな、とは思ったよ」

 少し先には深い闇が口をあけていた。
 そこに落ちればもしかしたら楽園に繋がっているのかもしれないけど。

「ただ、ボクがそれを信じるだけの切っ掛けはある。
 さっきまでは…」

 少女を抱いた腕が、蠱惑的に動いた。
 その喉を指先が優しく撫でる。顎から鎖骨の位置まで、弦のうえを滑るように。

「このまま引き裂けちゃうくらいにか弱いカンジがしたんだよね。
 ついうっかり、ぱくり…としてしまいそうなくらい。
 なのにいまのキミは、そこまでじゃない。
 正気(ふつう)、そう、いま話しているキミからしたらふつうじゃなかったんだろう。
 キミを食べてしまわなかったボクの我慢には、もしかしたら感謝が必要かもしれないねえ」

 あまりに無防備、あまりに甘美。
 滴る果実はその甘味だけでなくて、みずみずしい皮の上から歯を立てる快感もまた味わい深い。
 女の指先はソレ以上の無体を働かない。

「…で、キミはどこのヒトなんだい?
 ボクみたいに、お金がないから散歩するしかなかったヒト…ってワケでもなさそうだけど。
 ここの…常世島のヒト…ではあるんだよね…?」

『調香師』 > 静かに呻く。喉元を通り過ぎた手に柔らかく重ねた手
拒絶と言うには、やはり弱弱しい物であっただろう

しかし、簡単には齧られてやんないよと
そのいじらしさは、強者から見つめたのであればそそり得る抵抗なのかもしれないけれども

「感謝感謝が沢山でも。私に出来る事はあんまりないよ
 あなたの好む香りを作る。それが限界

 ...うん。私は帰らなきゃいけないんだよね
 実感が持てなくても。常世島の中に
 そこってホントに、私の帰る場所なのかな?

 みひ。考えても仕方ないかもだけど」

思考は繰り返す。帰る場所は、まだそこに在るのか
或いは、帰られると自分は本当に思っている?

無意識に、まだ暗闇の先を目線で追う
『何か』に誘われた縁。そう簡単には、断ち切れていないだろうに

ノーフェイス >  
 身長差と膝立ちのせい。含み笑いは頭上から。
 齧りたいという気持ちは半ば本能のようなもので、重なった手には擽ったそうに動くだけ。
 齧ってしまえば、甘さが染み出すのかもしれないが、それをする理由に乏しいのも確かだ。

「なによりもロケーションがなぁ…」

 女は突飛なことをぼやいた。風情の有無を気にすることもある。

「香り…? ははぁ、いい匂い。
 いいね、ボクの好みの香りってどんなだろう、お金がないから買えないけど」

 つい先日、この島での『人権』を買うためになけなしの私財を殆ど使った。
 そして先程、久しぶりのホテルで美味しいものを食べたせいですっからかんだ。

「んん?
 どうかな、仕方ないからって考えないのも、それはそれとしてツマンナイ気がしない?」

 彼女の視線を追いかけた。
 ここは遥か昔、人間の記憶、もしかしたら『すごい』ものを作った人たちの…

「帰る場所がひとつでなければいけないわけじゃない。
 っていうと、ちょっと力技かなぁ…?
 あくまでボクの実感だけどさ…そう…」

 天井を見上げて、女は軽薄な口調でなにかを考えてから口に乗せた。

「おうちに寝に帰ることと、いま自分がいるばしょから故郷に帰ること…
おなじ言葉なのに、全然意味が変わるのが、不思議だね。
 ぜんぜん違うことだ…ふたつともおなじ、じぶんの帰る場所のはずなのにね~」

 女は遠いトコロからきたことを、振りかざそうとはしないけれど、
実感としてぼんやりと口にしてうたった。

「…懐郷病(ホームシック)?」

『調香師』 > 尋ねられた言葉に返す事は出来なかった

ぼんやりと、彼女も天井を、
くうを想い目線を漂わせる
これが、ホームシック?

首を縦に振る事は出来なさそうだ
もしもその言葉を当てはめるなら
故郷に帰る足取りが、『罪』に急かされ逸る事を示す様で
なんだか、自分が届けたい『思い出』の香りと重ならない

顔に手を当てる。彷徨っていた数日の記憶がぼんやりと浮かぶ
そうだ。きっと私はこの数日間

「...逃げてたのかな。ナニカから」

記録を奪ったあの子から。そして、この数日間続く言い知れない恐怖から
さもなくば、一度も目覚めた事はないこの場所に、
そうでありながらも『役目』が眠るこの場所に、

気付く事すらなかっただろうに

「お金。無くても良いよ
 今回はお礼だからね。私が、ちゃんと、帰れたら」

呟く。これはちょっとした交渉
彼女は『表の世界』に帰りたがってる

けれどまだ、この遺跡の奥に心惹かれているのも事実
だから『手を掴んで、引き返して欲しい』、そういう事を言いたいのだろう

ノーフェイス >  
 天井をともに見上げていた時間はどれくらいだったろう。
 女は、少女の心の内側を当てようとはしていなかった。
 当てようとすれば当てられた、わけではもちろんない。
 彼女は自分が思っていた以上に複雑なものを抱えていたようだから、
あれこれ嘴を突っ込むのはためらわれて、女は言われた言葉にただ返した。

「ははぁ、もしかしてボクの、大いなる的外れ…
 ボクがちょっと、キミのことばで故郷を思い出していたことがばれてしまったね。
 …でもさ、でもさ! ほら、逃げ帰る、ともいうよね。
 このさきに、やさしく抱いてあやしてくれるひとはいるのかな~」

 すこしだけ闇の先にも興味がわいた。
 なにかいやなことがあって、それを包んでくれるような優しさが、
塗りつぶしたような奈落の底に待っているんだとしたら、随分とひどい話だ。

「つぎはボクみたいな、キミを止めるようなやつがいるかもわからない。
 そんなときのための逃げ道は、別につくっといたほうがいいかもしれない。
 お店やってるんでしょ? だったらいろいろ会うし、いろいろ起こるだろうからさ~。
 なんなら、ボクに甘えにくるかい?こうしてはあげられるから」

 優しく彼女の肩をたたいて、そのまま、彼女の体を抱き上げる。
 手をとらなかったのは、彼女の願いを聞いたんじゃなくて、
女が自分のそうしたいがままに彼女をふりまわしているからだ。
 そのままぽいと小さい体を投げ落とせる姿勢だが、もちろんそんなことはしない。
 ふかい、ふかい闇の奥に炎の視線を向けてから、
踵を返して光のほうへと、ブーツの靴底を鳴らしてゆっくりと歩きだす。

「ロハでやってくれるっていうのはとっても嬉しい申し出なんだけどね。
 それなら、そのぶんボクにやらせて?
 …ところでキミの、きょう帰りたいおうちは、どこ?」

 女は、お姫様は丁重に扱う、と身勝手に宣言した。
 手を引いて歩くだけじゃあ、弱っている子に恩を売ったにしては軽すぎる。
 そんな浅い考えで、女は鼻歌をうたいながら歩く。

 それは、ふるい、ふるーい、人間の《うた》。
 もう誰も知るものもないはずの、この場所に似合いの《うた》。
 ついさっきまで、誰からもわすれられていたのに、誰かが思い出したことで、
どこかからすくい上げられたような、そんな《うた》。

『調香師』 > 「わぁ」

軽々と、抱えられてしまった
彼女の言葉遣いには、気を惹かれる様な魅力を感じる

そうして回答がワンテンポ遅れている間に、次に次にと駒を進める
きっと、そうして主導権を握り続けるのが相手のやり方なのだろう

そんな貴女に、容易く身を預けてしまっている自分自身も滑稽な物で
彼女はそうして、初めてくすりと笑みを浮かべることが出来た

「香りは思い出に一番働きかける
 でもここの香りは懐かしさを感じない

 帰っても、誰も待ってはいないんだろうね」

きっと、奥に眠るのは表皮を隔てた向こう側の
残骸散らばるだけの夢の跡だ
同胞が生きていたのなら、私が『忘れられる事』も無かったのだし

「あなたのお誘いは興味深いけれど、
 私はあなたが怖いかな。ふふ、不思議な話だけれど

 お歌が上手なあなた。きっと、私みたいにおかしな事が得意なんでしょうね」

身を預ける。三日三晩、彷徨った体は
歌声に誘われ、休息を求めて、微睡んで

「...『Wings Tickle』」

最後にそう、『帰るべき場所』を告げたあたりで
彼女の意識は沈んでいく事だろう