2020/10/07 のログ
ご案内:「常世学園付属総合病院」に水無月 沙羅さんが現れました。
ご案内:「常世学園付属総合病院」にレイチェルさんが現れました。
水無月 沙羅 >  
裏常世渋谷での朧車討伐任務後、意識不明で倒れているところを緊急搬送された水無月沙羅は、現在『常世学園付属総合病院』に入院している。
風紀委員にはもちろん、共に住んでいるルームメイトにはこの情報は共有されており、既に幾人かの見舞客があったが未だ彼女は深い眠りについていた。

しかし、それも昨日までの事であり、ようやく彼女は目が覚めた。
目が覚めた当初は軽度の錯乱状態にあったらしいが、今は落ち着いているらしく見舞客の残した人形に挟まれるように横になっている。
邪魔になっているのではないかと看護婦に片づけられようとしたところ、激しく抵抗したらしい。
曰く、これが無いと眠れない、とか。

彼女はそうして確かに意識を取り戻したが、未だ意気消沈といった具合で、食欲もなくほとんど食事をとっていない。
それどころか、コミュニケーションを取ろうとする看護師に対してはほとんどの場合無言を通しており、何かしらの精神的なショックがあったのではないかと医師陣は見解を示していた。

他に誰もいない病室の中、白い天井を見つめてはようやく独り言をつぶやいた。

「何がいけなかったんだろう……。」

彼女の思考は、そればかりに支配されている。

レイチェル >  
病室の白と、自責の念。
二重の壁に囲われた少女の耳に届いたのは、
彼女の知る声だった。

「……沙羅、レイチェルだ」

同時にコンコン、と軽く響くノックの音。
廊下の向こうから聞こえてきた声は扉を通して静かに
少女の耳に入ってきたことだろう。
心配、躊躇、遠慮、不安。
声の主の胸中に燻る雲煙の如き感情が、
彼女の声の調子を一段抑えて響かせていた。

―――。
――。
―。


――『らしくねぇ』な。

ややあって。

「入ってもいいか?」

先程よりも、少しだけ調子を戻した声色で、レイチェルは
沙羅へと声をかけた。
その手には、紙袋が提げられている。

水無月 沙羅 >  
「……?」

珍しい来客者だな、というのが第一の感想だった。
同じ風紀委員であり温泉旅行でも話をしたことはあったが、普段から交流のある人物というわけではない。
もともと彼女が刑事課のエースだったという事もあり、別部署である自分とのかかわりが薄いのは当然のことだが、だからこそ、彼女がこうして見舞いに来るというのは疑問の余地があった。
特別仲が言うわけでもない、ともあれば、心配で見舞いに来たというよりは話すべき事がある、という事だろうか。
なんにしても、わざわざ来た彼女を追い返す理由もなければ、そのような薄情者でもなかった。


「どうぞ、空いてますよ。」

しかし、扉の奥から聞こえてくる彼女の子は何処か不安げだった。
それも次の一声では静まっていたが、それを隠しているという事だろうか。
いや、気を使っているのかもしれないな、と少し苦笑する。

彼女がそこまで不安に思う理由が自分には思い当たらなかったが。

レイチェル >  
「意外な奴が来て驚いたか? 
 部署は違えど同じ風紀委員の後輩だ。
 理央やレオと話して、
 お前とは一度しっかり話したいと思ってた」

沙羅の抱く疑問はいざ知らず、
レイチェルは困ったように笑いながら病室に現れた。
レイチェルはレイチェルなりに、ここに来る理由があった。

理央やレオ――特に、レオと話したあの日から、
必ず会わねばならぬと思っていた。
当初の予定とは随分と違う形での来訪となってしまったが。

加えて、理央との関係は前々から知っていたし、今回の朧車の件を聞けば、
レイチェルの性分が彼女のことを心配に思わぬ訳がなかった。

「じゃあ、邪魔するぜ」

そう口にしながら手近な椅子を引っ張ると沙羅の乗るベッドの
横に滑らせ、向き合う形で腰を勢いよく下ろすと、そのまま
口を開く。

「……って。ネコマニャン好きだったのか、お前」

でかいネコマニャンのぬいぐるみを物欲しそうに――否、
驚きに目を丸くしながら見つめた後、ふっと笑って沙羅へ
問いかけるレイチェル。

水無月 沙羅 >  
「あ、えぇ。 まぁ。
 顔に出てましたか? すみません。
 ちょっと意外ではありました。
 あまり理由もないように思えて。

 話したい……ですか?
 あぁ、レオ君……ともお知り合いでしたか。
 彼は元気にしていますか?」

最近できた仕事を教えている後輩の事を思い出して苦笑する。
あのどこか飼い主を失ったような、子犬のような少年は元気にしているだろうか。
また妙に思い詰めて居なければいいのだが。
不死という自分の存在は、どうにも彼には大きすぎる様に思う。

理央という単語に少し怯えたように反応をして、あえてそれに対する言及は避けた。
今、彼について話すような気力がないというのもあるが、気持ちの整理がついていないからだ。

「話に聞いた通り、豪快というか、威風堂々……そんな言葉の似合う方ですね。
 いえ、そう見せたいだけ、のようにも見えますけど。」

先ほどの不安を押し殺した入室の言葉と、少女らしい趣味に少しだけ微笑む。
気丈に振る舞いながらも、中身はれっきとした少女らしい一面があるというギャップには少し安心する。
刑事課の面々にとってもアイドル的存在なのではないかと思うぐらいには、彼女の容姿や性格は魅力的に思える。

「あぁ、デカマニャン……ですか?
 ルームメイトが好きでして、置いて行ったんだと思います。
 私は特別好き、っていうわけじゃないですけど、あの人が此処に来たんだって思うと安心できるので。
 もう一つはたぶん……かぎりんかな。」

思い当たる二人の家族をあげて、少しだけ暗い表情が柔らかになる。
二つの人形を抱き寄せて、顔の下半分だけうずめて見せる。

「欲しくてもあげませんよ?」

レイチェル >  
沙羅の言葉を受けて、レイチェルは柳眉を少しばかり下げて、
軽く笑い飛ばす。
 
「なに、顔に出てなくたって分かるさ。
 こう言っちゃなんだが、
 別に普段からあれこれ仲良くしてた訳でもねぇし。
 しっかり話したこともまだねぇだろ?
 温泉の時くらいか、ちょいと話したのは。
 
 
 それでも、書類に目を通す中で知ったお前のこと。
 それから、お前に縁のある連中から聞いたお前のこと。
 どっちも、知っちまった以上は放っておけねぇって。
 そう思っちまってな、そういう性分なんだ。

 レオは……最近オレと特訓してるぜ。
 殺さぬままに相手を鎮圧する……そういう戦い方を
 学びてぇんだと。あいつも色々悩んでるけど、『変わろう』と
 頑張ってる。なら、支えるだけで心配は要らねぇと思ってる。
 その点、話に聞く限り、レオよりお前の方が心配だね」

理央の名に明らかな動揺を見せる沙羅。
やはり、まだ彼の話をするには整理がついていない状況のようだ。
彼女が所属上、理央の下から外されたことは聞いている。
その深い内面を流れる事情まで詳細を知るところではなかったが、
それでもある程度、何が起きたかを推測することはできた。

「へぇ、ルームメイトが……って、かぎりん……? 
 かぎりんって、まさか……あの華霧か?」

今度こそ、レイチェルは目を丸くした。
少しばかり腰を浮かして沙羅へ顔を近づける形となる。

「……あ、すまん。いや、別に欲しい訳じゃねぇ。
 しかし、そうか。意外だな、お前と華霧、知り合いだったんだ」

そういえば、彼女の現在の交友関係も深くは知らない。

――ほんと、今は知らねぇことばかりだな。

水無月 沙羅 >  
「あはは……、そうですね。
 私、風紀の問題児みたいなところありますから。
 目につきますよね……すみません、ご迷惑ばかりかけて。」
 
椿の件や、トゥルーバイツ事件において行った、あかねへの異能による攻撃。
殺し屋事件に際しての行方不明。
スキャンダルにおいては事欠かない人材と言えるだろう。
そして今回の入院騒動。 そろそろクビになってもおかしくないなと自嘲的に笑う。

「そう、あの子が変わろうと……ですか。
 いや、あはは。
 君は君でしかない、誰かの代わりにはなれないとは言いましたけど。
 そうですか……殺さない、戦い方。
 良かった、彼は、変われるんですね。」

自分の言いたかったことが伝わったのか、それともほかの人たちによる聡しがあったのか、どちらでも構わない。
彼が、『システム』ではなく、彼個人として動き出しているという事は嬉しい朗報であった。
あの日話したことは、無駄ではなかったと思える。 
風紀委員に居た意味が、一つ増えた。

「……まぁ、入院してるぐらいですから。
 心配されても仕方がないですね。
 
 ……?
 えぇ、園刃 華霧です。
 私の、お姉ちゃん……みたいな。 いや、血縁関係は無いですけど。
 血は繋がってないけど家族……みたいな。
 仲良くしてもらってるっていうか……面倒見てもらってるっていうか。
 えぇ、そんな感じです。
 ルームメイトは、まぁ、私より年下の椎苗って子なんですけど。
 お母さんみたいな子っていうか。
 いや、すみません。
 脈絡が無くて驚きますよね。」

自分の親しい人達についての所感を述べると、余りに突拍子が無さすぎて相手を混乱させるのは自覚しているが、それでも自分にとっては家族同然の大切な人たちだ。
故に、この紹介の仕方を変えるつもりはなかった。
レイチェルにとっては、華霧とそう言った仲が良い関係というのが驚きだったらしいが。

「意外……ですか?」

少し首をかしげる。
仲が悪そうに見えるのだろうかと逡巡する。
確かに、生真面目に見える自分と、少しいい加減に見える彼女は相性が悪く見えるのかもしれない。

レイチェル >  
「別に、良いんじゃねーの、迷惑かけたって。
 オレだって風紀の皆に散々迷惑かけてきたぜ。
 順番だよ、順番。後輩だった頃に問題起こして
 迷惑かけまくったオレが、
 今度は後輩であるお前の問題に向き合う番」

自嘲的な笑いに対して、それでもにっ、と。
頬を緩ませてレイチェルは笑うのだった。
だから気にすんな、と。言外の笑みに残した想いを彼女に託す。

「そっか、沙羅も大切な言葉をあいつに渡してたんだな。
 じゃ、お前も立派な風紀の先達だな」

ふふん、と笑いながら椅子の背に右腕を回し、
左手の人差し指でびしっと沙羅を指さすレイチェルの姿勢は、
既にリラックスしたそれになっていた。

ところが。


「……え? いや、お、おう……?」

華霧がお姉ちゃんだという話を聞けば、
はぁ、と首を傾げて沙羅の顔を見つめるしかなくなる
レイチェルであった。
しかし、考えてみれば。きっと華霧にとってはとても大切な
関係性なのだろうと、すぐに思い直した。
彼女の過去を考えれば、頷ける話だ。

「まー、そうだな。二人のタイプが違うから~、とか。
 そういうんじゃなくてさ。
 あいつからそういう話、聞いてなかったからさ」

しかし、自分の知らないところで、
彼女がそういう関係を作っているのは少しばかり、
ほんの少しばかり寂しくもあり、そして何よりも。

――ほんと、知らねぇことばっかりだ。

自嘲気味に再び浮かぶ、言葉。

――『らしくねぇ』。

それを、レイチェルは否定する。
これから知っていけばいいだけの話だ。
そしてそれは、きっと楽しいことだ。

『らしくねぇ』気持ちを振り払うように頭を振った後、
レイチェルは穏やかに微笑んだ。

「華霧は、ああ見えて結構寂しがりやだからさ。
 そういう親密な関係があるなら、良かった、本当に」

水無月 沙羅 >  
「順番……ですか。
 みんながみんな、レイチェル先輩みたいに言ってくれたらいいんですけどね。
 そうじゃない、面倒ごとを見る眼を向ける人も当然いますから。
 ほら、公安とか……ね。
 実際、危険人物であることに変わりはありません。
 そうでなくしたいな、とは思ってますけれど。」

結局は他人の評価だ。 信頼ともいえるかもしれない。
いったん落ちてしまった信頼を再構築していくことは難しい。
不可能と言っても過言でもない程に。
それほどに、犯した罪というものは呪いの様に付きまとってくるものだ。
だが、彼女のその言葉は温かく、少しだけ沙羅の表情を穏やかに微笑ませるのだろうか。


「先達……いや、私まだ一年なんですけど。
 レオ君の先輩というには、ちょっと情けない気もします。
 でも、あぁ、そう成れていたならうれしいですね。」

こちらの事をリラックスした姿勢で指さす彼女。
先ほどの不安な様子はどこへ行ったのやら。
おそらく話したい本題はそこにはないのだろう。


「寂しがり……ですか?
 ……なら、もっと会って話してあげたらどうですか?
 その、かぎりんってすごく心配性というか、けっこう考えてるっていうか。
 なんていうのかな。
 すごく、思いやりがあるし、不安になりがちだと思うから。
 私は、その、今こうして心配をかけてしまっている側だから。
 レイチェル先輩が、かぎりんにとって仲の良い人なら、支えてあげてください。
 きっと、今は少し辛い状況だろうから。」

自分の事を棚に上げて、沙羅はそう告げる。
本当ならもっと自分のことを第一にするべきだと言われるのだろうが、沙羅にとっては身の周りを固める事こそ、自分の為でもある。
これ以上親しい人を失いたくないという恐怖が、その根源には存在していた。

少しだけ震える手を隠すように、デカマニャンを抱きしめている。

レイチェル >  
「馬鹿。そういう眼からお前を守るのがオレ達の役目だ。
 もっと周りを頼れよな。
 でもまぁ、『そうでなくしたい』――『変わりたい』ってお前が
 思ってるその気持ちが、きっと大事なんだと思うぜ。
 お前がそう思ってるってんなら、ちょっと安心した。
 それならオレ達は、そいつを支えるだけだ」

周りを頼れ、と。
今の自分ならきっと責任を持って、胸を張って言えるから。
その言葉には血が通っていて、少しばかり力強く放たれた。

「一年だって、レオよりも先に風紀委員に入ったんだったら
 先輩になり得るだろ。お前の方が経験あんだからさ。
 それに、少なくともお前の言葉、きっとレオに響いたんだろうよ。
 だからこそ、レオは動き出した。なら、お前は胸張っていいと思うぜ」

リラックスした姿勢はまだ続く。
その裏で、レイチェルはいつ核心に触れるべきか考えていた。
それは、病院の廊下に居た時から何も変わっていなかった。

「……そう、だな。ああ、その通りだ」

何度、連絡を取ろうと思っただろうか。
何度、話しかけようと思っただろうか。
在り方に悩んで、結果的に先延ばしにしていた。
でも今ならばきっと、楽しい気持ちで会える気がしていた。
だからこそ、レイチェルは沙羅の言葉に頷いたのだった。

「仲の良い……オレにとって、あいつは大切な奴だ。
 だから、そこんところは安心してくれ。
 オレはあいつに寂しい思いをさせないように頑張るからさ。
 オレもそうしたいし……それに、
 『妹』の頼みじゃ、しょうがねぇからな」

冗談っぽく笑いながら、ネコマニャンを抱きかかえる沙羅へ
目を向ける。そうしてその震える手に、目が行った時、
先まで崩れていたレイチェルの姿勢は、改まった。
表情もまた、少しばかり病室の扉の前に居た時の色が、
ちょっぴり浮かんだ。
そうして、しっかりと彼女へと身体の向きを直した。

「……沙羅。怖いのか?」

震えているその手を見て、真剣な表情で
レイチェルはそう問いかけた。