2020/08/02 のログ
ご案内:「留置所」に園刃 華霧さんが現れました。
園刃 華霧 >  
ここは風紀委員会留置所。いわゆるブタ箱ってやつ。
いや、いい加減、これ毎日考えるの飽きてきたんだけどな……
ま、折角だから続く限りは続けるさ。
で、なんだっけ?
ああ、そうそう。此処は悪の吹き溜まり。
こんなところに用があるのはごく一部の変わり者だけさ。
ということで。オマエさんは、なんで来たんだい?

ご案内:「留置所」にレイチェルさんが現れました。
園刃 華霧 >  
ごろり、と寝転がる。
まるで大型の猫科動物が寝ているかのような居住まい。
なんとなく、うとうとしているのでぼんやりとしている。

「……ン―」

此処に入って結構経っているが。
そういえば、エイジに「不便はないか?」って言われたっけか。

いや、洗濯とか頼めばしてもらえるとかむしろ天国では?
ぶっ壊れた水道管から流れる水で洗うとかザラだったしなー。
それ考えたら……ねえ?

あー、なっつかしいなあ……
あの時寮出た後とか、ひっさしぶりにやったけど意外と気にならんかったしな。
あかねちん、意外と其の辺なんにも言わんかったんだよな……

実は、あれもズボラか?

つらつらと、過去に思いを馳せてはいたが……
やはり、意識はぼんやりとしている。

ねむ……

レイチェル >  
くすんだ灰色の留置場に、金の髪が靡いて歩く。
制服の上、羽織った外套が揺れて道を流れる。

レイチェルは再び、此処へやって来ていた。
先日は、ちょうど先客が居たようで引き返してしまったが、
今日こそはじっくり話したい。
そう考えて、この場へやって来たのだ。
ここ1週間の間、書類の山に埋もれながらも、
色々なことを考えてきた。
彼女へはまだまだ伝えたいことが山程あり、
聞かねばならないことも山程あった。

浜辺で別れたあの日。
星空の下で抱き合ったあの日。

そして今この、黒の滲んだ獄所で二人は出会う。
二人の全ては、これからだ。


「華霧、邪魔するぜ」

手には何も持たぬまま、レイチェルは華霧の居る独房まで
やって来ればそう声をかける。

園刃 華霧 >  
過去を思い出せば、感覚が研ぎ澄まされていく。
あの頃の感覚。

だから気配を感じた。
何者かが離れたところから、此処まで近づいてくる。
敵か、味方か……それはわからない。

一体、誰が……
誰……
だ…

「……ン―……?
 なんダよォ……寝てタんだけド……」

眠そうな顔と声で、寝転がったまま応じた。

レイチェル > 「……悪ぃ悪ぃ。なんなら、出直そうか?」

ふっ、と。レイチェルは少し笑った後、
言葉とは裏腹に独房の前へその腰を落ち着ける。
なるべく早く、彼女と話したかった。
今日ばかりは、しっかりと言葉を交えたい。

「オレだよ、ねぼすけ」

彼女の声が、レイチェル自身の胸の内で重く染み渡る。
ここ1週間、ずっと抱えてきた感情に押し潰されそうになる。
それでも、そのズレを修正する為に今日は此処へ足を運んで
きたのだ。簡単に暗い顔を見せる訳にはいかない。
だからこそレイチェルは、穏やかに笑う。笑ってみせる。

「不便、してるんじゃねぇか? 何か必要なものがあったら
 言ってくれよ。手荷物検査に引っかからないものだったら、
 頑張って用意、するぜ」

そしてだからこそ、からっとした声でそう問いかける。
問いかけて、問いかけて。
レイチェルは顔を落として首を振れば、観念したように
ぽつりと呟く。

「……悪ぃな、遅くなっちまった」

それは何処でも聞くような、ありきたりな言葉だった。
しかし、彼女の放つその言葉は、この場限りの言葉などではなかった。
彼女と過ごしてきた何年かの月日。その中で、彼女自身とこうして
面と向かってじっくり語り合う機会はそう多くなかった。
海で語り合ったことはあった。風紀の仕事の中で、他愛ない話をした
ことは何度もあった。
しかしながら、彼女と本当の意味で語り合ったことがどれだけあった
だろうか。
こうするのは確かに、遅すぎたかもしれない。

それでも、今日は。


改めて、二人の関係《これから》を始める為に。

レイチェル・ラムレイは彼女《とも》の前に在る。

園刃 華霧 >  
「ン―……ォー……」

むくり、とのんびりゆったりと体を起こす。
普段の機敏さは何処にも見えない。

「おァよ、さン……
 はハ……べっつニー……不便、どこロか……なンなら、天国、クらいダよー……」

まだ頭がはっきりしないのか、ぼんやりした物の言い方をする。
これといってなにもない部屋。
そんな中で、環境のせいでもなかろう、いつものいい加減になでつけた髪。
そして、適当に着崩して着ている服。

普段どおりが異質の空間に混ざってそこにあった。

「遅く、カぁ……ン―……」

急に頭を振る。
ばさばさと髪が揺れる。
ただでさえ乱れた髪が更に乱れる。

「ま、いいンじゃナい? まだ間に合ってンだシ?」

少しだけ目の覚めた顔になって、へらりと笑った。

レイチェル > ふふっと、思わず笑ってしまう。
何だか肩の力が抜けてしまった。
目の前の華霧はこういった状況にあってもいつも通りで、
今まで通りに迎えてくれる。
変わってしまった自分とは、大違いだ、と。
自嘲気味に自らの胸の内へ、そう言葉をかけた。

「そうかよ、此処が天国……ねぇ」

これまで歩いてきた中で、独房の中に居た者達の顔を思う。
そう、彼女は此処に至るまで、彼らの顔をしっかりと見ていた。
目を逸らすことなどしなかった。いつだって、そうだった。


「そいつは結果論、だがな――」

もう少し自分が遅れていたら、山本のような『誰か』の関わりがなかったら。
どうなっていたことかと、考えるだけで背筋が凍る。
そう、凍るのだ。凍って当たり前の筈だった。
それなのに、自分はあの日――。

そこで、思考を払拭するかのように再び頭を数度、横へ振る。

「――ああ、間に合って良かった。本当に」

園刃 華霧 >  
「そーソー、天国天国。
 飯が食えテ、寝られレば十分でショ」

へらりと笑う。
強がりでもなんでもなく、本当にそう思っている顔。
だいぶ目も冴えてきているようで、ボケた反応というわけでもなさそうだ。

「ひひ、だロぉ?
 なら、そンで十分じゃン」

けたけたと、楽しそうに笑う。
なにが、とも、何も口にはしない。
ただ、シンプルに答える。

そこまでいえば、完全に身を起こして


「ンで、まっさカ……そンだけのタめに来たンじゃ……ないっしょ?」

楽に胡座をかいて……そして、じっと顔を見つめた。

レイチェル >  
「ま、刑務所の飯の方が豪華だ、就寝中に襲われなくて済むなんてありがたい、なんて、考える奴はこの都市にごまんといるだろうがな」

考えてみれば確かにそうだ、と思う。
留置場は風紀の下にある以上、安全は高い水準で保障されている。
しかし、そこには自由がない。人間として持つべき自由が、ない。
だがその自由の捉え方次第では、ここは天国になり得るのだろうと。
レイチェルはそう考えていた。

話を聞きながら、レイチェルは両手をやや後方の床へやる。
彼女がリラックスしている様子であれば、自らもまたそれに合わせる。
まずは形から、というのはよく言ったもので、そうすることで少し気持ち
も楽になった。少しだけ。そう感じながら、ぐっ、と伸びをする。


「そう、間に合った。だが、この話はそれで終わりじゃねぇ……だろ?」

ふぅ、と深く息を吐く。
目の前の相手の顔をしっかりと見つめる。
相手が口にする言葉を、しっかり受け止める為に。

「まずは、謝らせて欲しい。
 お前を浜辺で救ってやれなかったこと。
 お前の寂しさに気づけてやれなかったこと。
 お前の居場所になってやれなかったこと。
 お前の悩みを聞いてやれなかったこと。
 お前の心を受け入れてやれなかったこと。
 全部、全部だ。謝らなくちゃならねぇ。
 自分を、見失ってたんだ……だから、本当に大事なものに
 気づくことができなかった、オレはどうしようもねぇ奴さ。 
 本当に、ごめんな……」

改めて、その言葉を口にする。星空の下で抱き合った時は、
少しだけ口にすることしかできなかった、胸の内に洪水の如く
溢れて流れるその感情を吐露するように、華霧へと渡す。

その謝罪は当然、
この痛みから解放される為でも。
口にして罪悪感から逃れる為でもない。

ただ、悩みに悩みぬいた末、それでも彼女に伝えたかった言葉だった。
奥歯を噛みしめる。リラックスする姿勢をとった筈だったが、
その拳は握りしめられていた。自らへ向けて。

「だから華霧……今日は『受け入れる』為に、ちゃんと聞くぜ。
 聞かせてくれ。お前の望みは、一体何だったんだ?」

真理に挑む。そんな大それたことをしてでも、手に入れたかったもの。
それは、面白いからだとか、楽しいからだとか、そんな単純なもので
本当に済まされるのだろうか。
今まで付き合っていた彼女であれば、確かにそう答えるのが常だった。
何でも、楽しい方へと流れる人物だった。
しかし、あの星空の下で、華霧がレイチェルに対して放った言葉。

『アタシだって、頼り、たくて……
 別れを、つげに、いったんだ、ぞっ
 この、ばかっっっ!!!』

そうだ、彼女のことを、まだ自分は理解できていない。
理解しきれていない。長い間、一緒に居ても。

だから、今日は理解しに来た。
園刃華霧を、理解しに来た。

園刃 華霧 >  
「ァー……」

頬をかく。
まあ予想していなかったわではない。
ない、が……こんなバチコリ謝罪されたり、
ガッツリパワーこもったやつが飛んでくるとは……ちょっと予想外。

少し、困ってしまう。

「……それは……ウん。」

とてもいいにくそうに言いよどむ。
しかし、相手がさらけ出してきたのに自分だけ逃げるのか?
今更? 虫のいい話だ。
それは、自分が許さない。

「アタシも、悪かッタ。
 アタシはなンでも隠しテきた。
 アタシはナんでも捨ててキた。
 アタシはなんデも諦メてきた。
 アタシは何とも向かい合っテこナかッタ。
 アタシは誰も彼も何も信じてコなかった。」

懺悔の言葉。
結局行き着くところは自分の愚かさだ。
まさか、悲劇のヒロインでも気取ったっていうのか。
馬鹿馬鹿しい。

「だカら、これハお互い様、ナんだ。」

そう、本心からの言葉で締めくくる。
本当に、お互い様だ。
酷いすれ違いだ。
馬鹿馬鹿しい掛け違いだ。
開いてみればとても簡単な話だったのに。

「そンで、ネ……『望み』、なんテものの前に……ちょっと、長い話、つきアってくレる?」

語らなければ、いけないことがあった。

レイチェル >  
互いの謝罪を、交わす。
覆い隠すものは何もなく、ただまっすぐに。
独房の格子もこの二人の感情は遮ることなく、
ただ二人の居る位置を隔てるのみ。

「……ああ、お互い様、だな」

本当に。
不器用で、臆病で。
向き合うことができなくて。
大切なものに気づくことができなくて。
たった一つの、しかし大切なボタンを掛け違えた
二人の少女が今、心を寄せた語り合いを始めた。


「あぁ、聞くよ。いくらでも聞く」

レイチェルは静かに頷いた。
目の前の少女のことは、何でも聞きたい。そう、何だって。
全てを受け入れるつもりで、レイチェルは今ここに立っているのだから。

園刃 華霧 >  
「今まで、誰にも黙って来て……ま、ちょっト言葉の殴り合いの時に、エイジにはちっとダケいっちまったケド。
 でも、詳しく話をしたコト、ない話。」

あえて語るまでもないと思っていたこと。
あえて語っても仕方ないと思っていたこと。
あえてこれまでしまい込み続けていたこと。

――自分の、過去。

「アタシが、元二級学生……っテの、知ってル?
 ま、風紀の書類のドっかにゃ載ってるシ、知ってルやつは知っテるよナって……
 そうやッて、放り捨テて来たコト、なんダけどサ」

制度自体はちゃんと残っているし、おかしな事例ではない。
ただ、最近は取締のほうが多くて引き上げる、なんて話はろくに聞いた覚えがない。
昔は、それでもあったというのに……
最近だと、トゥルーバイツの一件の時くらいじゃなかろうか。

「じゃ、ソれまでアタシがどうシてきたカ。
 そコが全部の始まり、なンだ。」

やれやれ、と肩をすくめてみせた。

レイチェル >  
「まぁ、過去なんてそう簡単にぽろぽろと零すようなもんじゃ
 ねぇだろうさ」

自分自身もそうだ。常世に来る前の15年間、どのように生きてきたか。
そのことを話したことなど、そう多くはない。
話したとしても、ただ暴れてただとか、悪魔を狩ってただとか。
それから師匠が居た、だとか。
簡潔に語って終わるのみだった。


「二級学生としての華霧が……どう過ごしてきたか、か」

一度、噂に聞いたことがあった。華霧は元二級学生だという話だ。
そして今回の件を経て、書類の上でその事実だけは知った。
しかし細かな事情や、彼女が過ごしてきた感情は、書類の上では
知ることができない。

人物を語る書類には、あまりにも余白が多すぎるのだ。

「全部の始まり、か。聞かせてくれ、華霧の話。
 オレは、華霧がどう生きてきたか、それを知りたい。
 あれから色々考えたんだ。やっぱり、華霧のことちゃんと 
 知らなきゃ、友達だなんて恥ずかしくて言えねぇからさ」

これまで、勝手に友達だと思いこんでいた。
確かに、世間でいう友達ではあったかもしれない。
しかし、それは本当の友達などではなかったのではなかろうか。

無意識の内に、ただ表面上の付き合いをしているに過ぎなかったのではなかろうか。
しかし今、レイチェルは目の前の相手との関係にそれを望まない。
彼女のことを知る必要があるし、知りたい願望がある。
もう二度と、彼女を苦しませないために。
目の前に居る友達が困ってたら、きちんと手を差し伸べるために。

園刃 華霧 >  
「ン……じゃ、続けるナ。
 ま、二級学生って言ったケどね。
 正直なトコ、二級学生ナのか、不法入島者なノか。
 そこスらも、アタシにはワっかンないンだ。
 なにシろ。アタシが覚えテるかぎり……親も、兄弟も、頼レる誰かモ、
 何も、ナかったンだ。」

静かに、思い出しながら語る。
アタシには何もなかった。
ただひたすらに、繰り返した其の言葉。
それを思い出しながら。

「お陰デ、名前もナイ、家もナイ、飯だッてナイ。言葉だってロクに話せナイ。
 ナイナイ尽くしで、どーニかコーにか生きてキたのナ。
 あっちで盗ミ、こっちデ隠れテ。
 時には、腹をぶっ壊シて死にかけタり。
 時には、ぶっ叩かれてくたばリかけタり。
 そンな毎日だッタ。」

獣のような生き方で
其の頃は尖ったナイフ、どころじゃなくて。
周りが皆、敵だった。

レイチェル >  
「……そうか、何もなかったんだ」

目の前の少女は何もなかった過去を、虚無の余白を語る。
彼女が語る『そんな毎日』。
彼女が語る過去には、心を抉られるものがあった。
いくら同情の言葉をかけたところで、安く見えてしまうほどの――


――違う。


レイチェルは内心で、その言葉を否定する。
また、過ちを犯してどうするのか。
目の前の相手に、触れることを躊躇うな、と。
だから、感じたことをそのまま、相手へと伝える。
それは、かつて彼女がそうであったように。

「安っぽい、言葉になっちまうかもしれねぇが。
 ……本当に、苦しい思いをしてきたんだな、華霧」

だから、ぽつりと。彼女が話を紡ぐ邪魔にならぬ程度に、
短くそう返した。

園刃 華霧 >  
「ウん……」

一言だけぽつり、と返す。
何に反応したのかは、わからない。
ただ、それだけ。

すぐに、切り替える。

「アタシ、言葉、変でショ。
 こレもさ。とにカく、アッチコッチのヤツの話聞いテさ。
 なンとなく、覚えてキたからサ。
 色々ごっちゃンなっテんのネ。」

少しのけぞって、ひひひ、と笑う。
其の笑いは、どんな種類の笑いだったのであろうか。

「マ。そンなこんナで、運良く生き残っタ悪ガキ一匹がナ。
 一端の強者気分で、『全部自分で手に入れてきた』っていきがッてタわけ。
 デ、掴んだ大物ガ……正規学生の身分と、風紀委員って身分ってネ?」

違反部活を荒らし回り、自分の力を見せつけて、
『自分もそっちに入れろ。自分によこせ』と……
まあ、今考えるとクソ恥ずかしい上に、良いように使われたんだろうなーって気にはなる。

「……ト。ここマでが、前フリってヤツ。
 なンか、聞きたいコト、ある?」

首を傾げつつ……しかし、眼だけはしっかりみて聞いた。

レイチェル > 「そうか……」

彼女の話し方、確かに違和感はあった。
この世界には色んな事情の人間や、様々な場所から来た人間が居る。
だから無意識の内に、彼女の語りの違和感も、
その山の中埋もれさせてしまっていたのだろう。
その根底にあるものに気づかないまま過ごしていた。

「聞きたいというか、言いたいことはあるぜ。
 お前はいきがってたなんて言うけどよ。
 オレからすれば、そいつは十分すげぇことだ。
 何も分からない状態から、正規の風紀委員のポジションを
 手に入れたんだ。違反部活を潰して回ってたのだって、
 並大抵の努力じゃねーだろ、それ」

自分の時は、たまたま運が良かった。この世界に初めて来た日。
拾ってくれた人物が、たまたま理解のある人間だった。
幸運な偶然に恵まれただけだった。
無論、そこから自らの力は示した。示したからこそ、風紀委員として
認められた。
しかしながら、そこは彼女にとっては壁にならなかったのは事実だ。
幼い頃から悪魔を、異形を殺して生きてきたのだ。
戦いにおいては、一日の長があった。

しかし、華霧はどうだ。この常世学園で、全てを持っていない状態から、
そこまで上り詰めてみせたのだ。自分の場合は、師匠が――と、
思考を走らせていく中で、レイチェルは疑問に思ったことを口にする。

「そうだな、聞きたいことはあった。
 導いてくれる人は、居なかったのか?」

園刃 華霧 >  
「いヤぁ……今考えリャ、だーイぶいキがってたサ。
 力さエあれバ、なンでもデきる……
 暴レりゃ、ナんとかナるってナ?」

うーわ恥ずかしいなあ、これ。
黒歴史って言葉聞いた記憶あるけど、まさにそれじゃん。
まあ、そりゃ、いいたくならないわな……

「デ、こっち入ってミりゃ、力とか小手先のナんかでどーニもなラんことが山積みサ。
 いヤぁ、文字書くのキッツかったワー」

それでも、掴んだものを手放すなんて……奪われるなんて、嫌だった。
だから、死ぬ気で色々やった。

「お陰で、マ―……だいぶヌル―いのに仕上がっチまったワケだけドさ。」

尖っているのか、丸まっているのか。
自分でもよくわからない。
そんな半端な人間になってしまった。

「アん? ああ。導くヤツ?
 勿論、居なかったヨ。いたラ、もう少しはマシに育ってルっしょ」

見てよ、このざま?とケタケタと笑った。

レイチェル >  
「じゃあ、オレと同じじゃねぇか。
 力さえありゃ何でもできるってさ。
 昔のオレみてーだ」

笑う。本当におかしそうに、笑う。

――あぁ、そうか。ずっと昔から、似たもの同士だったんだ。

知れば知るほど、何で手を伸ばさなかったのだろうと思いが巡る。
でも、それはお互い様。手を伸ばさなかった。駆け寄らなかった。
お互い様なのだ。


「オレのことも、少し話すよ。
 昔は平和な世界に生きてた。父が居て、母が居て、弟も居た。
 全て奪ったのは悪魔の野郎だ。悪魔は、悪魔狩りを仕事にしてた
 オレの父親に乗り移って……母と弟を殺した」

そこまで口にして、レイチェルは自らの眼帯へその白い指を置いて、
トントンと叩く。そうすれば、緑色の淡い電子光がそこから放たれる。

「オレは悪魔の器になった父親に嬲られて、片目を食われて、
 このザマだ。それで……自分を守る為に――」

脳裏を過る記憶。震えながら、めちゃくちゃに泣きながら、
父親の顔に銃を向けたあの日の記憶。
これまで、他人に話すことなど殆どなかった、
『レイチェル』の始まりの物語。

「――撃ち殺したよ。
 初めての殺しだった。
 そうして『何もなくなった』状態で、
 もう一歩も動けなかったオレを、
 救ってくれた師匠の爺さんが居た。
 そこでオレはそれまで持っていた自分の人生を捨てて、
 代わりに銃と剣を背負った」

友が語れば、また己も語る。包み隠さず、生を語る。


「『何もなかった』あの時、
 自分一人で何か出来てたかって言われると、
 できていた、なんて言える自信は全然ねぇ。
 だからさ、華霧。
 一人でそこまでやったお前は、
 やっぱりすげぇとオレは思うよ。
 でもよ、これからは頼ってくれよな」

オレも、オレ達も、頼るのに見合うくらいに頑張るからさ、と。
レイチェルはそう付け足した。今後は、頼って欲しい。
それはあの日、星空の下で伝えた言葉でもあった。

園刃 華霧 >  
不幸なんてものは、お互い持ってる尺度で違ってくる。
それをこの間、嫌というほど思い知った。
望むものがちっぽけでも、大きな不幸が眠っていることだってある。

だから自分と目の前の相手、どちらが可哀想か。
どちらが大変だったか、なんて比べても意味はない。
だから、ただ黙って聞いて……一言だけ言葉にする。

「……ソっか。
 いい出会い、シたんダな」

そうはいっても
自分にはなかったもの。
それを持っている相手は眩しくて……
でも不思議と妬む気にもならない。
いや、なるんだけれど、それはもうなかったんだ、という気持ちが一緒に訪れて……

ああ……クソ、アイツもこんな気持だったのかな。

心のなかで舌打ちする。


「『頼ってくれよ』、か……ひひ。
 そー、ナんだヨな。アタシが『望ん』だのハ結局、サ。
 『全部自分で手に入れてきた』つモりで……何もかも、手に入っテない気がシて。
 だカラ、『全部』、が欲しかっタんだ。
 家も、家族も、食い物も、寝床も、言葉も……トモダチ、も……何モかも『全部』、ナ。
 ナ? 馬鹿だロ?」

呆れたような笑いを浮かべる。
ああもう、本当に。
『馬鹿』が『馬鹿』だから『馬鹿』をしたオハナシ。

レイチェル > 皆、過去を背負って生きている。
その重さを背負って生きている。

それは、自明の理。

だからこそ大事なのはその重さにどう立ち向かうかだと、
レイチェルはそう考えている。

目の前の少女は一人で立ち向かった。
彼女は、それを汚れた歴史だと思っているかもしれない。
それでも、レイチェルからすれば十分に眩しいのだった。
誰だって、頼ることなく生きていくことなどできないというのに。

「なるほど、全部か。全部が欲しかったから、華霧は……」

全て、納得した。
彼女が今までに歩んできた道、その先に望んだもの。
それを今、レイチェルはようやく理解した。
そうして、深く心に刻み込んだ。

「今なら、面白いことをしたいっていうお前の気持ち、分かるよ。
 それはただ表面だけの面白いことを追っかけていくだけじゃなくて、
 『実感』が欲しかったんだな。
 だからこそ、今度こそ本当に真理を手に入れようとした訳だ」

目を閉じる。目の前の友の歩んできた道、その心の在り方を今一度、
自らの内で思い巡らせる。そして、改めてレイチェルは言葉を伝える。

「教えてくれて、伝えてくれて……ありがとな、華霧」

園刃 華霧 >  
結局、追いかけていたのは全て幻だった。
あかねちんによれば、『仮に成功しても、解答が得られないことだってある』ってことだった。
それなら、アタシの『願い』はそもそもどう片付けられたのか。

解答は、なかったのか。


「ありがト、とかヨせよぉ……照れる……っていうカ、マジでこっ恥ずかシい!
 ほんト、今まで黙っテたの、このクソ恥ずかしサのせいじゃナいかァ……?」

思わず、ワタワタとする。
話した内容の恥ずかしさもそうだし、お礼を言われる恥ずかしさもそう。
何もかも皆恥ずかしい。

なんだこれ、これが、公開処刑、とかいうやつか?


……けれど
大事なことのために

「納得、しタ? もう、確認するコと、ナイ?」

確認をした

レイチェル > 「そうだな。もう1つあるぜ。
 華霧、全部を求めてひた走って、今は満足してるのか?
 
 もしかしたら、お前はまだ満たされてないんじゃねぇかって。
 オレはそう思っててさ。
 
 ここ最近、謝ることと、それからそのことを
 ずっと考えてた。
 
 だって、そうだろ? あれだけ一生懸命追いかけてたんだ。
 欲しがってたんだ。もしかしたら、『気づいた』ことで、少しは
 満たされた所もあるかもしれねぇ。でも、本当にそうなのか? って。
 『華霧は』、納得がいってるのかよ」

納得したかと問いかける華霧自身は納得してるのか、と。
そう問いかけた。

たとえ身近なものの大切なに気づけたとして。
もしかしたら彼女はまだ、何も救われていないのではないかと。
レイチェルはずっと、そう考えてきた。
もし、そうであれば自分には何ができるのか、と。

「もし、そうだったら……オレに何ができるのかを、教えて欲しい」

考え、考え抜いてきたからこそ、レイチェルはそう口にする。
華霧へと問いかける。