2020/10/05 のログ
ご案内:「Free2」にちょっとむかしの、おはなしさんが現れました。
ご案内:「Free2」からちょっとむかしの、おはなしさんが去りました。
ご案内:「ちょっとむかしの、おはなし」に白い少女さんが現れました。
白い少女 >  




        ――――ある日、女の子はいやなゆめを見ました。
 
 
 

 

白い少女 >  
『それはこのお部屋でくらす、すこし前のゆめでした。
 女の子は、「しゅうどういん」という所にひろわれた、お父さんとお母さんのいない子供でした。
 女の子の生まれたところはせんそう、ということをしていて、女の子のお父さんとお母さんは、それのせいで死んでしまって、赤ちゃんだった女の子を「しゅうどういん」の神父さまが見つけて、育てることにしたそうです。

 でも女の子は、そのことがつらかったことは、ありませんでした。
 「しゅうどういん」での生活は、女の子と同じようにお父さんやお母さんがいない子たちがたくさんいて、一人じゃなかったからです。
 みんなで助け合って毎日生活をするのは楽しかったし、「しゅうどういん」の神父さまも、とてもやさしくしてくれていました。
 女の子にとっては、神父さまがお父さんだったので、ぜんぜん、つらくありませんでした。』

白い少女 >  
『クロエ、というなまえは神父さまがつけてくれました。
 草のめや、木のめが、すくすくとそだって、大きくなるといういみの名前だそうです。
 げんきにそだって、長生きしてほしい、と。神父さまは言っていました。
 クロエは、そのなまえがとても、とてもだいすきでした。
 そのなまえをつけてくれた神父さまのことも、とても、とてもだいすきでした。』

白い少女 >  
『でもそんな生活は、あまり長くはつづきませんでした。
 神父さまが、せんそうの「じゅうぐんぼくし」として、へいしさんたちのためにありがたいお話をしにいったきり、かえってこなくなってしまったのです。
 しゅうどういんは神父さまが、みんなで生活できるようにがんばっていたため、神父さまがいないしゅうどういんは、とても、とても困ってしまいました。
 ごはんが少なくなったり、おふろに入れなくなったりしたので、みんなでがんばって、前よりもささえあって生活をしなければいけませんでした。

 しゅうどういんのねんちょうのお兄さんは、お金をもらうためにへいしさんのなかまいりをしました。
 それから、お兄さんとは会っていません。
 女の子となかよくしてくれていたお姉さんは、いつのまにか、しゅうどういんからいなくなっていました。』

白い少女 >  
『だんだん生活ができなくなって、ほんとうに困っていたころ。
 あたらしい神父さんが、しゅうどういんにやってきました。
 あたらしい神父さんは、いつもにこにこしていましたが、女の子は少し、そのにこにこがこわくて苦手でした。』

白い少女 >  
『あたらしい神父さんは、にこにこしながら、皆にいいました。

 「今日から、私が皆のお父さんだよ。
  今まで辛かったね、苦しかったね。でも、何も心配しなくていいよ。
  これから、皆の生活をどんどんいいものにしていこう。
  皆で、幸せになろうね。」

 それから、毎日ごはんが食べれるようになって、おふろにいつも入れるようになりました。
 みんな、そのことにおおよろこびしました。』

白い少女 >  
『いつのまにか、女の子よりもとししたな、いもうとが一人、いなくなっていました。
 あたらしい神父さんにどうして?と女の子が聞いたら、あたらしい神父さんは、こういいました。

 「あの子はね、新しい家族の所にいったんだよ。
  新しい家族の所で、元気に過ごしているんだ。
  だから、何も心配は、いらないんだよ。」

 あたらしい神父さんは、おかねを数えながら女の子ににこにことしていいました。
 そのにこにこが、女の子はなぜか、とてもこわく見えました。』

白い少女 >  
 
 
 
 
 
 
         今日は、ここでおしまいです。
 
 
 
 
 
 

ご案内:「ちょっとむかしの、おはなし」から白い少女さんが去りました。
ご案内:「常世渋谷『陽月ノ喫茶』」に貴家 星さんが現れました。
貴家 星 > 疲れている。
100人が見たら120人くらいが『ああ疲れているんだな』と判断しよう程に。

「面倒で面妖なことだ……いやしかし与太郎と断じるのも、だが。
 意思疎通が出来なくば致し方が無いか……」

端的に言えば"テーブル席の天板にだらしなく頬をつけた姿勢で凭れている"。
口から零れる疲労困憊もかくやの言葉は、宛ら傾斜を転がるびい玉のようであり、
ころころと転がっては床に落ちて消えていく。

何故、こんなことになっているのか。
それは裏常世渋谷に朧車なる怪異群が現われたからである。
必然、分署に詰めていた私が対処に加わることにもなるのである。
幸いに久那土会なる集団の協力もあり、裏常世渋谷、略して裏渋への突入は叶えども問題はその後。

「致し方が無いが……もうちょいと大人しい感じであって欲しかった……」

そう、強いのである。朧車。確かイと号されていたか。
私は同僚らと十名程で突入し、協力し合って漸くこれを撃滅せしめたが、
朧車は数多く存在する為にそれで終わる訳ではない。
日々、やれこんな形のが居ただの、こういった攻撃が良く効いていただの。様々な報告が署に舞い込んでいる。
今までに無い忙しさであるゆえ、私は斯様な有様となりてお気に入りの喫茶店で崩れ落ちている。
ささやかな休憩時間というやつだった。携帯の電源は切られていた。
言伝はしてあるし問題はなかろう。そういう判断だった。

貴家 星 > 喫茶店内の空気は静かで、そして緩い。
寡黙なマスターは何も言わず客の注文(現在、店内は私独りなので私のオーダーである)をこなしている。
常世渋谷内にあるこの店は心地よいと思うもので、そうであるから、此方側に影響を及ぼさんとする怪異は度し難く思える。
テリトリーを侵すものがどうであれ諍いを生むのは、人間の歴史が旧くから証明しているし、
《大変容》による異世界からのまれ人達との戦争も、そういうものかもしれなかった。

「しかしまあ外に出よう。他所に攻撃的、破壊的な振舞いをしよう。
 などとは……そうまでして外に出たい理由でもあるのだろうかな」

うっそりと頬を天板から浮上させ、次は椅子に背凭れる。
鉄道委員会が有する車両が朧車になりかかった。事が今回の方針を決める決定打であったらしいことはそれとなく知っている。
"やりすぎたから"こうなったとも言え、人間に阿ると言えば、そうしてきた自分の一族のことを想った。
ああ、生存戦略であったのだなあ。

「何だか余計に重苦しい感じになってしまったな……」

唸った所でテーブルにホットケーキが運ばれた。
三段重ねで上にバターが乗り、傍にシロップ入りのポットが置かれている。
この店は多様なトッピングも扱ってはいるが、こうした"いわゆるホットケーキ"にも抜かりが無い。
すかさずポット内のシロップを全て投入し、店内に過剰なるメープルが馥郁と流れる。
胸いっぱいに深呼吸をし、唇を莞爾と歪めナイフとフォークを手に取った。

貴家 星 > 大きめに切り出して口へ。
忽ちに口中はホットケーキに占領されて言葉にならない感嘆が漏れる。
洋菓子よりは和菓子党と自分でも思うのだが、中々どうしてホットケーキは別枠を感じさせてしまう。
少なくとも、裏常世渋谷内には存在しえない代物であろうと思われた。

「店探しが出来る余裕も無さそうな所よな……」

裏常世渋谷内の空気は表側の生物を蝕む。
特別な力を持つものは別であろうが、基本的には人も妖も分け隔てなく悪影響を齎す。
長期滞在は心身の均衡を保ち難くするものであり、私も例外に漏れない。
ちなみ、報告書によれば裏渋内にて飲食店の存在は確認されてはいるそうだが、食べてみた者は居ない。
……らしい。誰が言い出したかは知らないが、食べたら此方側への帰参は叶わぬこととなると、まことしやかに言われている。
右を見ても左を見ても、憶測が記述されるような所。曖昧模糊な事だけが判明している場所。それが裏常世渋谷なのかもしれない。
やはり、少なくともホットケーキのような甘やかさは存在しえない場所と思われた。

貴家 星 > ホットケーキを口へ
ホットケーキを口へ
ホットケーキを口へ
幾度同じ動作を繰り返して綺麗になった皿を見て頷く。

「すみません、同じものをもう一つ」

──おかわり。
言葉を受けて店主が頷く。
むずかしいことをかんがえると、身体は糖分を求めるそうだ。
ゆえに私の行動は理に適っている。
かの"時空圧壊《バレットタイム》"こと刑事課の頼れる先達、レイチェル・ラムレイ殿とて賛同してくれよう理論である。
勿論休憩時間にはまだ幾許か猶予があり、おかわりを堪能しても誹られる謂れもきっと無い。

──この後、突入した裏常世渋谷内にて、人型に変形する全長20mはあろうかという朧車と遭遇するのだが、それはまた別の話であった。

ご案内:「常世渋谷『陽月ノ喫茶』」から貴家 星さんが去りました。