2022/05/04 のログ
ご案内:「Wings Tickle」にメロウさんが現れました。
ご案内:「Wings Tickle」に黛 薫さんが現れました。
メロウ > 本日も営業、『Wings Tickle』
その店主は今日も困り気味

難しい注文を頂いてしまったのだから、
それに合わせての探求の日々が続いている

「命。命...」

時に、香りとは目に見えない同士
引き合う事もありそうな分野ではあるけれども
基本的に、私が再現できるのは、再現可能な事

案はあるけれど。時までは突き詰めたいのが職人の性分
今日を机を前に、分厚い本を前に、うんと唸って見せていた

黛 薫 >  
5月初頭。常世島近海に位置する島国においては
祝日、祭日が集中しており、象徴的な連休の時期。

冬の寒さが形を潜め、初夏の清々しい空気の兆しを
仄かに交えた春の陽気が心地良い季節。常世学園は
旧世紀の学校と体制が異なるが、まとまった休みを
取ってレジャーに繰り出す学生も少なくない。

「メロウ、いる? ……って、考ぇ事の途中だった?」

そんな麗らかな日和に縁が無さそうな黛薫。
陰気な前髪とフードで顔を隠しがちな彼女は
今日も行きつけのお店を訪れる。

五月晴れの爽やかさは季節の移り変わりの最中、
微妙なバランスの上に成り立つ物。日によって
初春に立ち返ったような肌寒さ、或いは初夏を
先取りしたような暑気を孕むこともある。

長い前髪にパーカー、タイツで視線から身を守る
黛薫は陽気に当てられてほんのり汗ばんでいた。

メロウ > 「ほひょ?」

同じく、世間の暦とは無縁に
連日働き詰めながら、ずっと趣味に没頭中の彼女

暢気な声と共に、入り口の方を見上げた

「...いらっしゃい」

普段通りのお出迎えの言葉も、馴染みであれば遅れたと気付けるくらい
彼女は立ち上がって、貴女の前に立つ事だろう
目を瞑り、何かを感じるように深呼吸を1つ

「これが、特異を誘う香り?」

当然、微塵も感じ取れはしないけれども

黛 薫 >  
「ん……」

一瞬の逡巡。メロウが何かしらの変化を得ていれば
『薫り』を感じられるのか。汗をかいている今なら
確かに影響は及びやすいはず。しかし感じているに
してはメロウは理性を保ちすぎている。

「んー……何か、雰囲気的にはそーじゃなさそ」

惹かれた者/モノの狂いようを知っている黛薫からは
メロウに変化はなく、自分の『薫り』は未だ届いて
いないと結論付けざるを得なかった。

「普段と違って感じられた? とかなら何だろな。
 汗かぃてるから? あ、いぁ、コレの所為かも?」

不自由な身体で運ぶにはずっしりした印象の鞄、
そのポケットから青い包み紙を取り出した。
不恰好な、恐らく市販品ではないキャラメル。
甘い香りだけではなく、青草のような薬じみた
匂いが混じっているような。

メロウ > 「うん、そうだね。相変わらず嗅げない香りだった
 そこにあるって知ってても、感じることが出来ないんだね

 汗ばんでる今ならもしかしたら、と思ったんだけど」

麻薬の時もそうだったが。大きく揺さぶられる行いには常に自制が伴う
こうして無事に立っている事だけでも、影響がない根拠とは言えるか

それはそれとして、寂しそうな表情をしている事は否めない
私の知らない薫がそこにあると知りながら、感じ取れないなんてね

「...それは?というか」

キャラメルに対しての疑問もそう。その上で、もしかして今日は車椅子じゃないのかも?
一見して分かる筈の事、『薫様がやって来た』という情報だけで処理していると目線から外れてしまっていた様子

黛 薫 >  
「例えば、あーしの『体質』が芳香成分由来なら
 メロウは誰よりも敏感に気付けたんだろーけぉ。
 そーゆーのが見当たんなくて、影響受ける種族の
 感覚から『薫り』って結論付けるのが限界なのな」

元々は、メロウを繋ぎ止めるための切り札として
伏せていた情報。隠しておく意味は無くなったが、
寂しそうな表情を見てしまうと、本当に知らせて
良かったのか省みたくなるのも本音。

「……とりゃえず、一個ずつ整理してこっか」

自分の来店と香りへの興味で二の次になっていた
諸々を『視線』の動きから読み取って苦笑する。

「んと、まず今日は車椅子使ってねーのよな。
 慣れた道ならリハビリにもイィかと思って。
 今日は先日話した魔術……情報機器の代用の
 進捗と、メロウに使ってもらぅ上での相談?
 しよーかなってつもりで来た」

松葉杖に身体を預けた姿勢で宙空に半透明の
ホロウィンドウを展開して、すぐに消す。

「んで、コレは……試作品ってか、何つーか。
 あーしが作ってみたヤツ……改良の余地は
 色々あんだけぉ。……味見、してみる?」

青い個包装のキャラメルは手作りらしい素朴な
ミルクとバターの香り、強めの甘味。それらで
隠そうとしたと思しき生薬じみた青臭い香りと
渋み混じりのえぐみ。美味しいと呼ぶには少々
課題が多すぎる味と香り。

メロウ > 「慣れてる、とはいっても。そこそこ距離はあるけどね...んへへ」

心配の半分、慣れていると言われた好感触も半分
声と共に、両手で自身の頬を揉みしだく仕草がくねくねと

直後、静止。ポーズだけはそのままに、微動だにしない両目線が捉える

「でも、測れないから存在しないというのは早計
 私が対面する課題と言うのも、その手の物だし
 うぅん。存在しないなら、そこを『空白』で表現するのもありかと思ったけど
 そうそうしないんだよね。香りを表現する為に香りを抜くなんてこと

 でも引き算は時に使えるようになっておかないとね
 臭い物を覆い隠すために足したものが余計な物を招くなんて、よくあるお話し
 例えばそう、試作品と言いながらも実質的な失敗作
 きっと詰まっちゃったんだろうねって感じるその香り」

つらつらと告げていくその姿は、鏡と言うには大分手厳しい
自覚していたとしても、その傷跡を正面から抉り出して欲しいとは誰も思わなかろうに

「相談事は、更に増えちゃったね
 うん。まずは座ろっか。ずっと立たせちゃダメだもん

 今日のリハビリは...うーん。出来るかな、出来ないかな
 そういうことを考えるのは、後にしよっか」

キャラメルを1つ、摘まんではぱくりと口に入れ
彼女は定位置、普段の椅子の場所へと移動する

黛 薫 >  
「引き算な……まーたタイムリーな話なのかも。
 足してくのは簡単でも、削んのって大変だし」

いずれメロウにも使ってもらえるよう改良中の
魔術タブレット。機能の追加は比較的容易でも
発動媒体や術式のサイズ縮小、動作の軽量化や
消費軽減のため無駄を省くのに苦労している。

「失敗はしてねーでーすー。妥協出来ねートコを
 譲らなぃために、別んトコで妥協しただけ」

メロウの口の中に消えるキャラメルを目で追って
口を尖らせる。美味しくない自覚はあるのだろう。

もっとも、キャラメルは基本的に嗜好品である。
味と香りを妥協している時点で失敗作の謗りを
受けて然るべきなのだが、そうでないとの主張。
10人に食べさせれば9人以上は否定しそうだが。

「ま、あーしの用事は急ぎでもねーよ。
 メロウが調香中……勉強中?だったら待っても
 イィかなってくらぃ。また新しぃ香り作ろーと
 してたトコだったかもだし」

来店時、メロウが開いていた分厚い本に目をやる。
興味半分、しかし依頼されて調香していたのなら
安易に聞くと顧客のプライベートに関わるかもと
いう線引きが半分くらいの気持ち。

ひとまずは勧められた通り椅子に座るとしよう。
お店に来るまで歩くのもそれなりの負担だったし。

メロウ > 「んふふひひ。予想通り想定通り、そんな味
 そもそもこれが、どんな用途を想定してるのかな
 生薬的な要素を多分に含んでるから、お薬なのかなと考えるけど」

キャラメルの体を取ってる辺り、恒常的に好意的に摂取していきたい物なのだろうけれども
推測だけを進めても、答えに至る訳でも無し。応答から窺ってこそ
試作品を持ち込むとは、そう言ったやり取りを求めての事だと期待している様子

「そうだね。でも、私が香りを作る時、アイデアを求める時間の方が遥かにかかるんだよね
 私って、考えるでしょ?『あなたの為』と言う部分。この時代の機械じゃないよねぇ

 だからお話し、聞いたり話したり。いつも通りが好きなんだよね
 アイデアは何処からでも期待中。引き算だって、分かってはいても先程はぽろっと出た言葉だし」

『今日の私はあなたの為』。普段通りのスタンスだ
タブレットの事も気になるのだし。ふふ、どんな事を考えてるんだろう

口の前で両手を合わせ、待ちの仕草

黛 薫 >  
「あーし、身体が不自由になって体力落ちてっし、
 魔術が使ぇるよーになっても、素質は高くなぃ。
 だから体調崩しやすかったり、外部補給で魔力
 接種したりしてんのな。んでも、良薬口に苦し
 っつーくらぃだから飲みにくぃのばっか」

いくつか常備してあるらしいキャラメルを手で
転がして、包み紙を剥ぐことなく鞄に戻した。

「つまり、ちょっとマズくても直接飲むより
 我慢できる味なら改良には成功っつーコト」

逆に言えば、改善の余地はまだ尽きないとも。

「ともかく、折角メロウが『あーしのため』に
 向き合ってくれんだから、好きに話そっかな」

既に割と好き勝手話していたが、棚に上げて。

鞄の中からずっしりと重い魔導書を取り出す。
小学生のランドセルに収まるかどうかくらいの
大きさ。リハビリ用の重りには向かない。

「コレがさっきも見せたタブレットの『本体』。
 見て分かるよーに、持ち運びには向ぃてなぃ」

メロウ > 「ふむ、だよね。既製品で扱いやすく研究されてもそうなら、
 個人的な改良で、効果を期待するにはこの位の強烈さを押しつぶす位が限度かなぁ」

もぐ、食べ終えたキャラメルも、きちんと記録として残してある
魔力由来というものは、ある意味で薫よりも縁のない彼女
その成分のある程度は、完全に未解析な項目で並んでいる

「...もうちょっと、理解が進んだなら
 成分を壊さないように抽出する事も出来るかもね?
 一応、普通のお部屋よりは専門的な道具をそろえてるつもりだし」

工業的な手法には及ばなくとも、専門家ではあるつもり
『学生』として用意できる限度を越える程度には、自身の働きに自負があろう

「ま、こっちのお話しは情報を集める目途が出来てからかな
 それで、その本が...うん

 それ持ってくるつもりだったなら、私の方から出向こうかなって思う位には、だね」

完全に同意。体の不自由な人が持ち歩く物でもない
今迄このお店に試作品を持ってこなかったのも頷けよう
それほどまでに情報を『記録』して、はじめてタブレットの形として動作するとは

黛 薫 >  
「妥協出来ねートコを譲らなぃ、ってつぃさっき
 あーしが言ったんだっけ。薬を作る側にしても
 おんなじで、優先すべきは薬効と広く行き渡る
 価格、大勢が買いやすぃコストで作るコト」

「そりゃ薬の味なんざ後回しになんのが道理よな。
 消費者側が一工夫出来るくらぃ手付かずなワケ。
 メロウみたぃに抽出なんて手法使ぇるほどじゃ
 ねーから、誤魔化すのが精一杯だけぉ」

例外を挙げるなら苦いと飲んでくれない子供用の
薬くらいか。本当に繊細な調合を求められる薬は
素人判断で味を足してはいけないのだろうけれど、
黛薫が手を出している物はそうでないと思われる。
というか、もしそうなら怒られている。

「んで、タブレットにつぃてだけぉ。本来なら
 魔導書に魔力を通して術式を起動することで
 動作するのな。

 この手の術式は悪用されないよーに所有者を
 設定するのが一般的。だからこの本は今んトコ
 あーしにしか使ぇなぃ。

 他の人に使ってもらぅ平易な方法は魔導書を
 複製して、その人が使ぇる用に調整するコト」

本の中には不可思議な紋様と記述がほぼ隙間なく
詰め込まれている。機械部品のように極小の部品を
組み込めない場合、サイズが大きくなるのは不可避。

「んでも、その方法だと譲渡する相手が魔術を
 使ぇるのが大前提になるからメロウには無理。
 あと嵩張って邪魔だから便利さが削がれる。
 っつーコトで、メロウに使ってもらぅんなら
 別の方法でやんなぃといけなぃ」

「ここまではOK?」

メロウ > 「分かる、と言えば分かるけど
 ここで『複製が大変』とは言わないんだなって

 調整するってなると、機械的な複製も難しいだろうし
 それこそ、平面を平面のまま緻密に書き出せるて、
 会話による調整も利く私みたいな機械か、
 その構造を完璧に理解した薫様しか出来ない芸当」

そしてそのどちらにせよ、魔術的な素養が必要不可欠らしい
彼女の口ぶりでは、魔力と言うものはただのエネルギーではなく、
個人の判別にも使用されるものだそうで

「聞かせて貰っても良いよ。その次のお話
 それが実験的な事でも、私は協力したいって思うのだし」

黛 薫 >  
「複製、継承、共有。自分以外に神秘を譲渡する、
 或ぃは他者の神秘を奪ぃ取る魔術の歴史ってのは
 長ぃかんな。複製のノウハウもあるもんなのさ」

種に水をやることなく果実の甘美だけが欲しい、
甘い蜜だけ貪っていたいというのは根源的な欲。
この世界の歴史が証明するそれらは歴史の裏に
遺されなかった魔術史でも変わらない。

「シンプルな話、コレが魔術の産物である以上
 普通なら魔術が使ぇなぃ者には扱ぇねーワケ」

「んでもメロウの場合は特殊で『あーしの物』
 っつー前提がある。使い魔や従魔、ゴーレム、
 オートマタに主人の魔術を使わせる方法って
 結構たくさんあるんだわ。メロウは魔術の
 素養がなぃから、正確にはあーしが発動して
 機能だけメロウに与ぇる形になんだけぉ」

本を閉じる。重量を感じさせる音がした。

「で、こっからが本題。メロウにタブレットを
 使ってもらぅためにはあーしとの『繋がり』を
 魔術に適した形、『契約』として補強すんのが
 ベターだと考ぇてる」

「代表的な方法は契約魔術、魔導具を用いた誓約、
 儀式魔術、刻印とか色々あるけぉ、言葉だけじゃ
 伝わんねーよな。つまり方法がたくさんあっから
 それぞれ説明して、これがイィって形をメロウに
 選んでもらおっかな、と」

メロウ > 「確かに、その通りだね。私はメロウ、あなたの物
 そう信じてるから出来る事もある。そういう類なのだろうけどぉ」

首を傾ける。貴女の物である、という事は前提に。お互いの共通認識だとして

「うん。当然分からない
 契約と誓約って何が違うのかなって考えるし、
 儀式もきっと似た様な意味で、刻印まで来るとまずは図形が先に来るし

 聞かないと分からないものと、一度聞いただけで理解するこの感じ
 うん。前にお客様に数学について聞かされた時の似たような気持ちだね」

あの時の本題は香りについてだった為、詳細は必要なかったが
今回はそれが当事者だ。話半分ではいられまい

「ぜひ、全部聞かせて欲しいな。その様子だと、もしかして
 色々思いついちゃうから我慢できなくて、楽しみで
 持ってきちゃった、なんてストーリーも出来ちゃうもんね」

ふふんふ。また、変な笑う声
私の事を呼んでくれても良いのに。その『いつか』じゃ、耐えられない気持ちを秘めていたのかな?なんて

元々足りない魔力を、私の為に回す。言葉にしてるほど、楽な動作ではない筈だ

黛 薫 >  
「……んじゃ、ひとつずつ説明してくから」

枝葉の話題を全て省き、本題一本に絞る。
微妙に渋い声音から、色々思いついて楽しみで
持ってきてしまったという推測が図星だったと
如実に伝わってしまう。

「まず1つ目、魔術契約。名前の通り契約用の
 魔術で繋がる方法。メリットは簡単で準備や
 実行にかかるコストが低くて済むコトかな。

 デメリットは簡易に済ませるほど『繋がり』も
 弱ぃから、使ぇる魔力量に制限が生まれたり、
 一方的な破棄が出来たり、第三者からの妨害や
 契約奪取に比較的弱かったり。

 メロウが『あーしのもの』って前提があるコト、
 用途をタブレットの使用に絞るコトから比較的
 デメリットは抑えやすい。契約の強度を高める
 1番お手軽な方法が『同意』だかんな。同意で
 契約強度を高めんのが『誓約』。

 他の方法だと決心がつかなぃかも、っつー場合
 お試し的に使ぅのもアリ……っつーとホントに
 タブレットの購入みたぃな売り文句になるな?
 魔力量の制限も通信量制限みたぃなもんか」  ▼

黛 薫 >  
「2つ目、魔導具を用ぃた契約。契約の起点になる
 魔導具を双方、または従魔側が持っておく方法。

 メリットは魔術契約に次ぃでコストが低く済み、
 その割に契約の強度が高いコト。デメリットは
 魔導具を手放すと一時的に契約が機能しなくなり、
 破壊すると契約そのものも破棄されるコト。

 普通は破棄されねーために鍵がなぃと外せなぃ
 首輪なんかを起点にしたり、身体に埋め込んだり。
 破壊耐性だの紛失対策だのをしっかり付与すっと
 メリットのひとつであるコストの安さが削れて
 結局コスト相応の効果に収まりがちなイメージ。

 双方の合意が無くてもそれなりの契約強度が
 保証されるから、服従の強制には適した方法
 だけぉ、そこは別にあーしとメロウの場合は
 メリットになんねーな。

 でも同意/誓約があれば、契約強度を少し落として
 身に付けなくてもOKに出来る。起点の魔導具を
 隠しちまぇば、お手軽強力な妨害対策になるな」

「ここまでで質問ある?無ければ続き話すけぉ」

メロウ > 「ふむ、そういうもの
 理解の埒外とはいえ、内容は他の物と置換可能にも思えるかな

 薫様が、私にも分かりやすく伝えてくれてると言えば、そうなのだけど」

ここから一々指摘を続けるよりは、彼女の語りたい事に委ねてしまった方が良いだろう
彼女は促し、そして見つめる。どの関係が私たちに相応しい物になるのだろうか、と

そう、真面目ぶる事で。初めは渋い表情の彼女が段々語り続ける専門家的な。或いは『素の表情』を見せ続けているのを、眺めていて

黛 薫 >  
続きを促され、頷いて再び口を開き始める。

その表情は淡々と事実を並べる学者のようで、
楽しみを前に心を躍らせる無邪気な子のようで
──或いは調香を前に透き通った視線を携えた
貴女のようで。どれも近しく、少しだけ違う。

「3つ目、挙げた順番だと儀式が来るけぉ、先に
 刻印につぃて話そっか。つーのも儀式は刻印と
 併用するコトも多ぃから。

 読んで字の如く印を刻む、直接術式を身体に
 刻む方法。メリットは先に挙げた2つよりも
 明確に契約強度が高いコト。デメリットは
 難易度が高くて、刻印する側に相応の技術が
 必要な点、更新や書き換えに手間がかかる点。

 刻印は施す側、施される側の一方通行だから
 魔導具よりも更に同意の重要性が低くなる。
 要求される技量や手間の問題が不可避だから
 強制服従にもそうそう使われねーけぉ。精々
 敵国の王族とか重要な捕虜に刻むくらぃ?

 刻印が得意ってか、魔術適正が極度に高い種族、
 悪魔や夢魔なんかは割と使ぅ……って脱線したな。

 あと、刻印は書き終えた時点で『完成』だから
 書き換えたり更新したりすんのが大変。大抵は
 消して書き直した方が楽。それを承知でわざと
 他者の刻印を改竄して貶めるコトもある。

 その対策、見られても内容を読めなぃよーに
 したり、書き換えられなぃよーにしたりとか、
 そこまで考ぇるとハードルはどんどん上がる。
 だから刻印を見られるコト自体忌避する文化が
 ある場合も。夢魔とかは逆に内容をはっきり
 分かるよーにして見せつけたりすっけぉ」  ▼

黛 薫 >  
「最後、儀式につぃて。ベースは先に話した3つ、
 それらの効果を儀式と触媒……要は複雑な手順と
 追加のリソースをぶっ込んで効果を高める方法。

 メリットは言ぅまでもねーな、契約強度が高ぃ。
 デメリットは儀式の規模や複雑さ、触媒の質が
 契約強度に直結する点、契約強度を高めるほど
 失敗したときのリスクが肥大化する点、それと
 他の方法より後戻りが難しい点。

 儀式での契約強度は青天井だから、極端な話
 あーしが使ぇる魔術を全部無制限にメロウが
 使ぇるよーにする、なんてコトも出来得る。

 ただ、儀式契約の破棄や上書きって基本的に
 規模で上回る儀式を行ぅしかねーのよな。
 考ぇなしに更新を繰り返せば手ぇつけらんなぃ
 規模になるし、一旦まっさらにするだけでも
 破棄する儀式契約と同等以上のコストが必要」

長々とした説明を終え、ようやく一息つく。

「長くなったけど、説明はこんなトコかな。
 モノによっては契約ってかなり重くなっから、
 相談して決めんのが大事なワケだな」

メロウ > 「そもそも、契約の半分くらいが同意を想定してない場面もある
 ...って言うのは本題じゃないけどぉ。ん、っと」

説明の後に差し出されたのはハーブティ
聞きながら立てていた物を、そうして相手に提供する

「実際の所は、聞いてもリスクやコストの面は余り分からない
 薫様がどの程度の契約をして、更新しうる余地を残したいのか、とか
 共有しておいた方が良いのはその部分じゃないかな

 最初の質問としたら、薫様が今後の事を考えるなら『するべき契約』と、
 一旦将来の事を置いておいて『したい契約』はそれぞれどれなのか

あなたの知見から聞けることが、私にとってのまずの基準になるかなって」

そうして、自分もティーを口に付ける
互いに気の置けない関係で過ごす時間を演出する舞台装置としての働き

きっと、ここからも長くなるのだろうと

黛 薫 >  
「魔術師の『契約』って、悪く言や縛るモノだし。
 合意が取れるってのはアドバンテージなんだわ」

ありがと、と小さく呟いてハーブティに口をつける。
長く話せば当然喉も渇く。すぅっと爽やかな風味が
頭を休めさせてくれるような気がした。

「あーしの見立てで『するべき』だと考ぇるのは
 2つ目に挙げた魔導具契約より上の契約強度で
 縁を結ぶコト、かな。

 理由は単なる魔術契約、弱めの繋がりだと
 タブレットを使ぅ上で支障が出るかもだから。
 あーし自身の素質が低ぃお陰で、弱ぃ繋がりを
 通して送った術式はロスが無視できなくなる」

「それを踏まえて、あーしの提案は
・魔術契約(誓約)+略式の儀式
・同意込みの魔導具契約(誓約)
・刻印契約  …… の、3通りかなって」

「今んとこ契約更新の予定は全然ねーんだけぉ、
 拡張の余地があると無ぃとじゃ大違ぃだから
 多少幅を持たせとくと気持ち的に安心できる。
 『するべき』じゃなくて『したぃ』の範囲な」  ▼

黛 薫 >  
「案1、魔術契約を略式の儀式でブーストする案。
 メリットは他2つの案と違って外見上の変化が
 存在しなぃコト。デメリットはコストを単純に
 値段換算した場合、1番重ぃコトか。大雑把に
 触媒の値段を考ぇると、あーしがいつもの香水
 3〜4年分買ぇるくらぃか?」

「案2、魔導具契約。同意があれば身に付けずに
 済むとは言ったけぉ、あーしの素質的な問題で
 その分のロスすらギリギリだから、手放さずに
 身に付けてもらぅ前提。メリット、デメリットは
 それぞれ案1と、これから話す案3の中間だと
 考ぇてもらったらイィかも。それから魔導具の
 紛失、破損に注意しなぃといけなぃ点か」

「案3、刻印契約。メリットはコストが1番安くて
 契約強度が1番高い。デメリットは直接身体に
 刻印して大丈夫か、って話。服とかで隠すのは
 簡単だけぉ、容易く消せない紋が残るってのは
 抵抗ある人多そぅだかんな。技術的な面での
 難しさにつぃてはあーしが何とかする、ってか
 そこが腕の見せ所って感じ」

「で、これらの案を実行する前にトライアル的に
 儀式無しの魔術契約でタブレットの使い心地を
 試してもらぅのがイィかなって」

「あーしの考ぇはそんな具合。メロウは聞ぃてて
 思ったコト、感じたコトとかある?」

メロウ > 「そだね。考える事は各々の案に確かにあって、一長一短
 出来るだけ強い契約を行なっておきたいけど、すると契約更新が難しいよね

 刻まれるくらいなら別に、私はそうして変えられる事
 本当は初めから想定してたくらいだから、今更なんてこともない、んだけどぉ」

唇を湿らせる程度の角度に、両手で包んだカップを傾ける
今迄の彼女の言葉にはどこか、『誤った前提』を含んでいる、と思う
これが次の質問になる物だったけれども。丁度良い、このタイミングでぶつけてみよう
今回仮契約を行なうのなら、次回までの丁度良い課題になる筈だ


「私が機械って事、考えるとどうなる?
 きっと、やろうと思えば、『私自身』が触媒になる事も出来るんじゃないかなって

 そう考えるけど。それって難しいかな?」

黛 薫 >  
ぱちり、目を瞬かせる。考えていなかったこと。
想定の外にあったこと。それはメロウが機械で、
人ならざるモノという点ではなく。

「それは……調べてみなぃコトには何とも、かなぁ。
 有体に言や、触媒……魔術の効果を高める物って
 それが持つ『運命の重さ』が大事なのよな。

 例えばこれから生を謳歌するはずだった赤子の命。
 長い年月をかけて育った1粒の宝石。遥けき時を
 見守った大樹の枝。次に巡り合う頃には星の命が
 終わっている星辰の並び。

 そんな『奇跡』の存在を以って『起き得ない』を
 覆すのが触媒魔術。メロウは、どうなんだろな?
 材質、構成要素的には水が近ぃんだっけ」

ハーブティを味わいながら、考えてみる。

「もしかしてメロウ、自分が『モノ』寄りだから
 『契約』って表現がピンと来てなかったりした?

 深読みかもだけぉ、そーだったら問題ねーよ。
 命を持たない土に契約を刻んでゴーレムとして
 仮初の命を与えることもあるくらぃだし」

メロウ > 「ふぅん、奇跡」

実際ピンとは来ていなかったけれども
契約、自身の中では稼働を始めた瞬間に為されれば良いもの
あとは従うべき主が存在する。自分は正常にはなされなかった存在で、
だからここまで、随分とこじれてはいたのだが...

「例えば、遥か古代に滅びた文明の遺産。誰も記憶していない被造物
 そこに刻み込める魔術の質というものはどのくらいの物なんだろうね」

目を細める。今更ながら、『私』がこの異能を得るに至った経緯を想う
薫の言葉は、その理由に足る内容。時を経る程に神秘の累積が為されるのなら、
かつての私も、目覚めて今に至るまでに十分な触媒として在る瞬間もあったのだろうか

或いは、今はどうなのだろう。自分自身では理解成し得ない事

黛 薫 >  
「『人工物』は触媒にはあんま向かなぃ場合が多ぃ。
 目的を持って作られたモノはなるべくしてなった
 存在だから。『あり得ない』を覆す『奇跡』とは
 性質が遠ぃ……うん、本来なら、だけぉ」

『奇跡』とは言うなれば『あり得ない』を覆した
結果そのもの。その前例を以って不可能性を崩す。
大規模な魔術はそうして不可能を可能にする。
故に大量生産された機械は『奇跡』の対極にある。
……それが未だ世に溢れているなら、だが。

「実際に人工物が強力な触媒になった例はある。
 遥か昔、明確な目的ありきで作られた粘土板は
 記録の術式に高い親和性を持っていた。

 だからメロウ自身が触媒になる可能性はアリ。
 皮算用だけぉ、それが可能だった場合、案1は
 デメリット帳消し。案2と3は契約強度っつー
 メリット部分が跳ね上がる感じ、かな。

 ただ、メロウを触媒として使ぅなら事前調査を
 きっちりやる必要があるのと、前例の無い触媒で
 儀式をするなら、それ用の術式を組まなぃとだな」

メロウ > 「逆に言えば、本来の扱われ方をよりも性質が優先される
 人工物に対してはそんな傾向もある...のかな?」

推測に重ねる、推測。口にはするけれども、理解が届いているとは到底思えない

内容を窺い、考える

「.........むぅ」

考えて、どうにかなるのかはまた別のお話
次第に姿勢は、カップを置いてから机に伏せるように
髪が乱れて、後頭部やらうなじやらを無防備にさらす位に考えても尚、こちらから出せるものが何もない!

「...事前調査って、どんな事。術式って、やっぱり大変?」

顔だけ上げて、見上げた尖らせの唇

黛 薫 >  
「メロウ、拗ねてる?」

人は思索に耽っていると取り繕うことを忘れがち。
気を張っていれば別だが、黛薫はこの店の中だと
どうも気が緩む。ぽろっと問いが口をついた。

「事前調査はざっくり言ぅと触媒なしで調査用の
 儀式をして、破棄して、今度は触媒ありで儀式を
 やって、その結果を比べる……ってのを触媒の
 運命力を消費せずにシュミレートする感じかな。
 測るだけならイィけぉ、その結果が正しいのか
 検討するには時間も必要だし神経も使ぅ。

 で、触媒として使ぇるならそれに合わせて術式を
 組む。触媒の例に挙げた宝石なんかは、何百年と
 時間かけて作られた一雫だけぉ、成分だけ見りゃ
 石ころなワケで。触媒足り得る『理由』を術式に
 組み込まねーといけねーんだわ」

「大変かどーかで言や超大変だけぉ、ド本音言ぅと
 魔術師的には未知の触媒調査ってある種の夢よな。
 今の時代、そんなもん巡り会ぇる機会ねーもん」

魔術師としての抑えきれない好奇心はあるが、
メロウを単なる『興味/好奇心の対象』として
コンテンツじみた消費の対象とするのは嫌。
と、言って理解が得られる相手はいるのやら。

「あ、もしかしてメロウが拗ねてんのって、
 『奉仕する側』でありたぃメロウのために
 あーしが何か色々考ぇてっからとか?」

先日のお宅訪問を思い出す。掃除の必要がない
部屋にすらひどくおかんむりだった。

メロウ > 「それは、いいよ。薫様の試作品を使ってデータを出す
 そうすれば改善点を探せるから。そういう意味で、役に立てるって
 解釈を挟む事で、私だって納得してるつもりだし」

その結果は、芳しいとは言えないが。本人としては、理由ではないつもり
先日から、専門用語。或いは、置いてけぼりを食らうことが多いような

(......分からないなぁ)

説明をされれば分かる事である筈。しかし、一々話題を遮ってその意義を確かめなければ疎通に難儀する
薫様を満足させられているのだろうか。それが不機嫌の形になれば、更に楽しくなくなるのかもしれないのに

「その夢を、分かるようになるのが、勉強なのかなぁ」

黛 薫 >  
「……分かるよーになってみたぃ?」

机に頭を預けたメロウの隣、自身も伏せる姿勢。
向かい合って座っていたお陰で、近づいた瞳は
逆さまに貴女を映している。

「メロウが色々考ぇてんのに、あーしが言っても
 説得力? とか、感じらんなぃかもしんねーけぉ」

つん、と指先で頰に触れる。メロウのご機嫌が
芳しくないとき、枝葉の理由は様々あるけれど
幹にまで遡ればその理由はシンプル。

相手のためでいられない、或いはその自信が
持てないとき、不機嫌が表出してしまう。

「あーしはこの店に来たくて、メロウに会いたくて
 ココ通ってんの。あーしはそんで十分楽しぃし、
 嬉しぃんだからさ。そんな眉根に皺寄せなくても
 イィんじゃねーの、って思ぅよ」

だから、自分は満足しているのだと伝えてみる。
メロウが部屋を訪れた日、いてくれてよかったと
伝えたように。きちんと言葉にして。

「寧ろあーしが原因でメロウを悩ませてんのは
 あんま嬉しく……んー、やっぱ今のはナシで。
 今の言ぃ方はズルかった気ぃする。

 メロウ的には足りなぃコトあんだろーけぉ、
 良ぃトコ伸ばすのも悪ぃトコ埋めるくらぃ
 満足に寄与するワケだからさ。

 してくれて嬉しかったコト、して欲しぃコト、
 今までも、これからも、たくさんあんだから」