2020/07/22 のログ
ご案内:「常世ディスティニーランド」に山本 英治さんが現れました。
山本 英治 > もうすぐ夜が明けるという頃に。
常世ディスティニーランドで少女の遺体が発見された。
身元確認の結果、トゥルーバイツ所属の鶴尾 摩衣(つるお まい)だと判明した。

俺は現場検証に常世ディスティニーランドにやってきた。
そこにあったのは、ベンチに座ったまま安らかに夢の目蓋を閉じた。

美しい死体だった。

右手にはなんらかのデバイスのようなものが握られている。
今にも動き出しそうで、二度とそんなことは起こらない。

ご案内:「常世ディスティニーランド」に雨夜 賢瀬さんが現れました。
雨夜 賢瀬 > 報せが風紀に届いたときに、ちょうど手が空いていた賢瀬。
居合わせた山本を乗せて車で現場急行。
先に彼を下ろして、車を止めてからやってきた。
機動隊ではあるが、結構他の部署にもいいように使われている。

「待たせた。……状況は?」

一応聞きはするものの、状況は見たままであった。
電源が切れたように、眠る女性。
身元は把握していて、資料は手に持っている。

山本 英治 >  
「乗せてくれてありがとな。ああ……見ての通りだ」
「死んでるよ、検死の結果待ちだろうが………」
「恐らく小型の門から真理に触れて脳を焼き切られたんだ」

彼女の亡骸が持っているデバイスを指差す。

「鶴尾 摩衣。18歳。異能は小規模な因果律操作。まぁ、事象改変とかそういうのだ」

難しい顔をして、彼女の亡骸の周囲を見る。
何の変哲もないベンチだ。だが……

「彼女の両親が服毒自殺したベンチだ」
「両親が事業に失敗してな……彼女も親に致死毒の入ったドリンクをここで飲まされたが…」
「死ぬ寸前で異能が発現して一人だけ死を免れた、らしい……」

固く目を瞑る。夜よりも、瞼の裏の闇を見ているほうが落ち着く。

雨夜 賢瀬 > 「いいってこと、困ったらお互い様だ」
「小型の『門』に『真理』ねえ。
 ……情報量に耐えられなかった、とかそんな感じかね」

腕を組む。難しいことはわからないが、
これはこの1件だけでは済まない気がする。

「一家心中……の、未遂で、被害者か。なるほど」
「因果律操作。まさしく九死に一生ってとこか」

腕を組んだまま話を聞いている。
一家心中は珍しくとも、"とても"というほどではないだろう。
生き残ってしまったというのは幸か不幸か、それはわからないが。

「真理とやらには通用しなかったようだが……」

対照的に賢瀬は目を空けて、現場を視界に置いている。

山本 英治 >  
「真剣にバイクを買うことを考えるよ……今度、飯でも奢らせてくれ」
「ああ、普通の会話とは質も量も桁違いの情報を脳に直接流し込んだ、というところだろう」

ゆっくりと両目を開く。何も現実は変わっていない。
周囲の風紀委員が発見者に話を聞いたり、現場保全に動いたりしている。

「だが摩衣ちゃんは言ってたよ………」
「本当に変えたい現実は何も変えられなかった、ってな…」
「そして裏奨学金制度…実質の闇金に手を出し、二級学生に落ち、トゥルーバイツに入った」

震える指で安いライターを擦り、煙草に火を点ける。
肺腑に紫煙が行き渡る。

「真理は多分だが、『因果律を操作できる』という紙に書かれた異能者を紙を破ることで壊せる存在だ」
「存在の次元が違うんだろうさ……」
「異能に意味はなく、相手にとっての多分、落書き程度の情報で摩衣ちゃんは死んだ」

くしゃり、と表情を歪めて。

「もっと俺がマジになって止めていれば」

雨夜 賢瀬 > 「ふむ、そうだな。なら、今度選ぶの手伝ってやるよ」
「処理が追いつかないか、容量が足りないか……まぁ、機械と似たようなもんだな」

交通事故ならともかく、こういった変死現場で、
他に風紀がいれば賢瀬がやることはほとんどない。

「ちょっと運がいい、ぐらいじゃ現実は変わらんだろうな……」
「もっと使い方は有ったかも知れないが、後の祭り」

後頭部を掻く。ままならないもんだ。
道を踏み外せば、落ちる先があるこの島。
いい出会いに恵まれなければ、明日は我が身かも知れない。

「まさしく規格外だな」
「対話に応じてくれたのも、なんなら門が開いたのも向こう側の気まぐれかも知れない」

途方も無い。想像するのも難しい。
はぁとため息を付いて、腕を組み直す。

「それは……後悔か?それとも、反省か?」

まだやることはあるんじゃないか、とでも言いたげに。

山本 英治 >  
「サンキュー、雨夜先輩」
「そしてヒューズがとんで、彼女は死んだ…ということだな」

続々と人が来ている。
現場保全も完璧に行われるだろう。
何もかもが完璧。ヒト一人が死んでいるのに、だ。

「……かも知れない」

表情を歪めて否定の意味を込めて首を左右に振る。

「後悔も、反省も………あとですりゃいい…」
「それでも考えるんだ、前にトゥルーバイツだからって理由で摩衣ちゃんに声をかけた時に」
「俺…なんて言っていいかわかんなくて、ナンパしてさ……」
「その時、摩衣ちゃんがバカみたいって言って笑って……」

「次に会う時に女の子への声のかけ方を教えますよ、って……」

約束はどうしたんだよ、摩衣ちゃん。
ギリ、と拳を握る手に力が入る。

「今のままじゃ誰も救われない」
「止めないと……一人でも多く」

雨夜 賢瀬 > 賢瀬も手際の良さに違和感を感じている。
こんな時間なのに人の集まりは早いし、準備も完璧で。
きっと、ディスティニーランドの営業にも支障はないのだろう。
どこか……想定されていたかのような。

「……そうか」

否定をされれば頷いて。
真理に噛みつかざるを得ない人々。
現実を変える力を持てなかった人達。
おそらくほとんどはおかしな奴らではなく、根はきっと普通の人だ。
難しい顔をしながら、山本を見る。

「自分がやりたい事がわかってるなら、いいさ」
「……ああ、でも。焦って間違えないようにな」

山本 英治 >  
携帯灰皿に灰を入れる。
深く紫煙を吐き出して自嘲気味に笑う。

「園刃先輩のところに行かないと」

止めないと。こんな風に。人は死んでしまう。
レイチェル先輩が悲しむ。いや……俺が悲しい。

「予定調和だって簡単じゃないのに」
「ここまで複雑に絡み合った案件、気が焦りもするさ」

その時。
鶴尾 摩衣の。
眼が、開いた。

開いただけだ。虹彩に光は無くて。
恐らく不随意筋が反応しただけの、死体として真っ当な現象。
なのに。

「あ、あああああ………!」

知り合いの命なき瞳と目があって。
俺はどうしようもなく涙が流れた。

雨夜 賢瀬 > 「気持ちはわかるが……焦って間違えた判断は後々──」

突然、声を上げて泣く相手に驚いて。
なにが有ったのかと見れば。
ああ。これでも亡くなってからは時間がたっているのか。

「関係者だったのなら、堪えるだろうな……」

額に手を当てて首を振る。
それから踵を返して。

「よし」
「……俺は車の準備をする」
「あとの事は他の奴らに任せて大丈夫だろう」

敢えてこの場を外す。

「ま、やり残しは無いようにしろよ」

山本 英治 >  
「あああああッ!」

泣きながら膝を折った。
彼女は。
笑ってたはずの。泣いてたはずの。怒ってたはずの。
今はもうなにもない。
何もないんだ、未来………

『あなた、そんなキザな台詞でいつも女の子に声をかけてるの?』
『バカみたい、全然なっちゃいないなぁ』
『今度会ったら、女の子に声をかける時にどうするか』

『教えてあげるから────』

摩衣ちゃん。どうしてあの時、笑っていたんだ。
あの時にはもう、真理をポケットに隠していたんだろう?
なら、なんで………なんで…

「すまない………」

雨夜先輩に謝る。
感情の置き場がないままに。

「……やり残し………?」

彼の言葉は、俺の心を強く打ち据えた。
そうだ。まだ終わってない。まだ、まだ……終わってないんだ…

神よ。それでも俺に生きろと言うのかよ。

空は明るくなってきている。朝日が昇っているのか。
俺はただ恨みがましく、空を見上げていた。

ご案内:「常世ディスティニーランド」から雨夜 賢瀬さんが去りました。
ご案内:「常世ディスティニーランド」から山本 英治さんが去りました。