2021/11/15 のログ
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に『調香師』さんが現れました。
『調香師』 > 「ん、ぅ……」

人形は目覚める。真暗闇の部屋の中で
少女らしく目をこすり。匂いを嗅いでも、薄く

見上げた天井の思い出を辿れば
……ここは、マッサージルーム?

(昨日のお姉さん。ここを寝室だと思ったのかな)

普通に考えれば、そうだろう
だってベッドはこの部屋にしかなく、
まさか普段、店頭の椅子で眠っているとは思うまい

(帰って、きたんだ。帰って?)

昨日からの違和感はまだ拭えない
帰る場所。このままでは考えてばかり

(お店、準備しないと)

追いやるように、切り替える
彼女は表へとぱたぱた。忙しない靴音

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
昨日訪れたとき、お店に店主の姿は無かった。
『CLOSED』の看板もなく、おまけに鉢合わせた
知り合いは店主の記憶を忘れ去っていて。

彼女が『異能』を行使したのだと知った。

動転しつつも自分は彼女を忘れていなかったから、
行方を辿るための準備をしてきた。香気分析用の
機械を借りてきて、改めてお店を訪れる。

勿論、店主が帰ってきたことなど知らずに。
緊張した面持ちでドアを開けた。

『調香師』 > 「…………?」

店頭に戻ってきて、首を傾げる
このお店の配置、こんな風だったっけ?

昨日のお姉さんを疑いたくはないけれど
いや、そもそも私は鍵を掛けてここを出たっけ?
全体的な不注意、そう考えておくべきかもしれない

彼女は過去に調香したオイルを保管した棚を覗く
……うん。どれも大丈夫

原液は最悪替えが利いても、調香後のオイルは唯一無二
レシピを覚えているとはいえ。彼女にとって、命に並んで大切なもの

『私の香り』、それもちゃんとそこにある
光を虹色に反射する、白色の液をその両手で包み込み
その時、玄関の鈴が鳴った

「いらっしゃい」

少女は居る。確かに見える
顔を向けて、普段と変わらない笑みが浮かぶ

貴女の左目には、少女に絡み付いた『忘却』の色が見えているとも知らず

黛 薫 >  
扉を開けたら、当たり前のように貴女がいて。
昨日の出来事はまるで夢だったかのよう。

けれど貴女が居なくなって覚えた不安は本物で。
絡み付く『忘却』の色は貴女が『いなくなった』
事実を補強する。

視界が滲んで、貴女の姿が遠ざかる。

気付かないうちに涙を流していただけなのだが、
また貴女が手の届かないところに行ってしまう
錯覚を感じて、手を伸ばす。

「なんで 急に いなく  なっ 」

苛立ちをぶつけるつもりだった言葉に怒りの色は
一切なく、失う怖さと寂しさだけに満ちていた。

『調香師』 > 「いなくなっては、無いんだけどね?」

『貴女の前からは』

重ねられた手は現実的な距離感を示す
彼女はそこに居る、筈

『忘却』は彼女の身体の匂いから
昨日、遺跡の中からついてきた匂いから

それが未練の様に、少女を包み込んでいる事を
嗅覚に敏感な筈の彼女は自然と受け入れていた

「あ。もしかして、この数日中に来てくれた?
 ごめんね。留守にしてて」

涙の理由も知らぬ彼女は、困ったように眉を傾けて

黛 薫 >  
むずがる赤子のように貴女の袖を強く握る。
手放すことを嫌がるように、怖がるように。

「だっ、て。お店に、いなくて、閉店中の看板も
 なくて……それ、に。メアと、鉢合わせて……
 あーたのコト、覚えてなぃ、って、聞ぃ、て」

口に出すたび、あのとき感じた不安が蘇る。
今貴女が『此処にいる』事実を感じたくて、
やや強引に引き寄せようとする。

「……今だって、あーたに……絡み付いてんだよ。
 全部、忘れちまいそうな……怖ぃ、何かが……」

『調香師』 > 「メア、と?」

その時、明らかに体の力が抜けた
動揺を見せたと言うべきだろう

丁度腕を惹かれたタイミング
貴女の身に、少女の身体は凭れ掛かる

「……だから、そんな事聞いたんだ
 メアも来てたんだ。そして、言っちゃったんだ

『全部忘れてる』って
 それじゃあ、お願い果たせなくなっちゃった」

凍えた声だった
自ら飛び込んだ雪原の寒さを今更思い出す
一人なら、ただ耐えていれば良かった

誰かに知られて、その歪が顕になった時
『自分の行動』を思い、震えが止められなくなる

記録を消すという事は。帰るべき・辿るべき縁を1つ失うと言う事だった
自分が身を売り出してまで望んだ場所を。『お願い』されれば、いとも容易く

黛 薫 >  
「……何があったか、聞かなぃ方がイィ?」

失う恐怖から強く握りしめていた手はほんのりと
柔らかさを取り戻す。凍えるように震える貴女を
やんわり抱きしめ、あやすように、温めるように
背中を撫でた。

「……ごめん、あーしも、その。動転してたから。
 あーたにも事情があったのは分かってたはずで、
 それに……忘れられるコト、嫌がってたもんな。
 触れられたくなぃトコ、聞ぃちまったかも」

『調香師』 > 愛情を与える事は不得手な筈なのに
昨日から、そうして温もりを私に分けてくれる人がいる
きちんと、覚えておくべきなのだろうけれど

腕の中で、小さく、ゆっくりと首を横に振る
お願い通り、約束通りなら。この言葉はきちんと言わなければいけなくて

でも、すぐに伝えられる勇気はない
全部『やってしまったこと』だから
彼女の異能は忘却に特化していても
それを取り戻す能力は、持っていない

「……後で」

今は、もう少し別の話をしよう
彼女は見上げます。今日は、どんな用事で来たのかなと

黛 薫 >  
「……ん」

後でと言われればそれ以上深掘りはしない。
貴女の中で整理が付くまで待つことにしよう。

「いぁ、今日は……あーたがいなくなったのが
 不安で、ココから辿って探しに行くつもりで、
 って、その必要は無くなったんだよな……。

 あぁ、でも。そもそもあーたがいなくなったの
 知ったのはお店に来たからで……ちょい待って、
 今回の件で他の用事とか全部飛んじまったから
 思ぃ出すトコからやんねーと……」

半分本当で半分嘘。貴女を探す目的で頭が一杯に
なっていた点、それ以外が追いやられていた点は
本当だが……昨日の来店の理由は覚えている。

ただ、その理由を紐解いて言葉にするのが
難しくて……逃げ腰になっているだけ。

「ただ、会いたかっただけって言ったら……笑ぅ?」

突き詰めれば、行き着くのはそこしかなくて。
口に出してみたは良いけれど、妙に恥ずかしくて。
くいと指先でパーカーのフードを引き下げた。

『調香師』 > 「アイタクテ?」

ある程度の平常運転、保留処理
さて、まずは来店の仕草を整えよう

スキをみてするりと身を放し。佇まいを整えた所で
接客業務ではない要望に、首を傾ける

「アイタクテって、会いたくて?」

反対の方向に首が傾く
それは、正しく認識しているのかとの確認
隠した顔に、またあの無垢に見せかけた瞳が迫ってくる

黛 薫 >  
「……そーーだけぉ。悪ぃ?」

むくれた声で返事を呟き、するりと抜け出す
貴女の袖を掴み直す。最初ほどの必死さはなく、
振り解こうと思えば解ける程度の力だが。

「あーたって、取り繕ぅの慣れすぎてねぇ?
 いぁ、接客するときはそーゆー自分でいたぃ、
 みたぃな理由なのかもしんねーけぉ」

気持ちの整理が付かないなら別に弱い部分を
見せたって構わないのに。そう思ったけれど、
『後で良い』と了承した手前、掘り返すのは
狡いような気がした。

『調香師』 > 「悪くないよ。とってもいい!!」

袖を掴む手を握り返す勢いで
見せてほしい部分とは真逆なような

彼女の表情は、変わらずとも喜色に染まる
声の調子と、振るう事を堪える手がよくよく示しているのだ

「これはまた、何か進展している予感だね
 お店じゃなくて私というのも、ぬへ

 みひ、ししし。うん、とてもいい
 こういう時にスタンプをどうするか考える楽しみ……」

黛 薫 >  
「あーぅ゛ー……余計なコト言った気ぃする……」

頑なに手は離さないが目は逸らす。
長い前髪とフードに頼って表情を隠すものの、
隠せない口元は羞恥に歪み、頰は赤く染まる。

「……仕方なぃじゃん。だってあーし具体的に何が
 買いたぃ、何をしてもらいたぃってちゃんとした
 理由持って来れたコト、ねーんだもん。そんでも
 来たぃって思っちまぅんだもん」

不貞腐れたような声音で呟いた。

「……いちお言っとくけぉ、居場所がねーとか
 他に受け入れてくれるヒトがいねーとかじゃ
 ねーかんな」

『調香師』 > 「え、そうだっけ?」

彼女は思い返す
薫がやってきた理由を探る
目線が揺らぐ。人が思い出すような仕草

1度目は迷い込み、2度目は約束
3度目は、3回目で4度目は……そういえば、お誘いだっけ

「確かに」

『お店』として利用された事は1度もない
それでぽんぽんと、遠慮なくスタンプを押していたこと

さも重大事実かのように、半口開けて呆けていました

「つまり、このお店自体には魅力がない?
 ううん、来てくれることは魅力的?

 難しいお題になっちゃったね
 私はあなたが来てくれるだけでも嬉しいけれ、ど」

『居場所』『受け入れてくれるヒト』
彼女が瞬きしたのはその瞬間

「うん。とてもいい知らせ?」

堕ちた香りと言うものも最近は薄れてくれていると嬉しいけれど

黛 薫 >  
「お店の魅力は十分過ぎるほど足りてますけぉ、
 あーしが上手にお店を利用出来てねーのよな。
 だからただ会ぃに来るみてーな、シンプルな
 理由が必要になんのかも」

黛薫の纏う香りは以前と変わりつつある。
落第街の仄暗い匂いは以前より更に薄れており、
連れ出されて以降落第街に戻っていないと分かる。

しかし真新しい包帯と消毒薬の匂い、それらに
塗り潰された血の香りからは、未だ暗い闇の中に
心が囚われていると示唆しているかのよう。

望まぬ行為を強いられた汚臭は概ね洗い流されて、
しかし彼女自身が素となる女の子の匂いはむしろ
以前より強くなっているようだった。

総括すれば、落第街の特徴的な匂いが抜けつつある
お陰で彼女自身の匂い、お店で買った香水の匂いが
目立つようになっている。

「イィ知らせっつーか、落第街に戻らなぃでって
 言われた約束は守ってるって伝えたかったから。
 てか何で疑問系?いぁ、別にいーけぉ……」

一度言葉を切り、じっと貴女の顔を見つめる。
考えるように、悩むようにその瞳を覗いて。

『調香師』 > 「そんなに変だった?」

疑問形。言葉遣いではよく使うような
薄い迷いも多少は見えたかもしれないような

覗かれた瞳に、彼女はよりいっそう顔を近付けては

すん、と

「んふ。今日も薫ってる」

あなたが選ぶ、私の薫り
今日はしっかりと感じ取れる

その事に、満足そうに瞳を閉ざす
逃げにも見えたかもしれないが、
心中以下ほどかは自分ですらも測りかねる

「それじゃ。今日もお望みのこと
 したい事だけしようかなーって

 このお店に来てもらったんだもの
 私はいつも通り、あなただけのモノ」

手が結ぶギリギリの距離
退いた彼女は尋ねる。そこから望みはあるのかな?と

黛 薫 >  
退いた距離を一歩踏み込んで詰める。
本人が意識しているかすら怪しい無意識の所作。

「望みのコトなら、多分いくらでもある。
 でも、あーしはそれを上手に言葉に出来ない。
 だから『何がしたい』も分からなぃまんまで
 このお店に通ってるし、望みを見つけたトコで
 それが『人の為』かって問われたら自信なぃ」

貴女の手を引き寄せて、指の形を確かめるように
触れて、触れさせて、感じて、感じてもらって。

「だから、大まかには前回と一緒……かも。
 見て、聞ぃて、触って。それから……嗅いで
 知って欲しぃ。教えてほしぃ」

『調香師』 > 「前回と一緒」

動きやすいように、そんな簡単な動機
その程度の距離もあっという間に詰められる

不思議だね?そんな風に首が傾きながらも
彼女は相変わらず、笑ってみせた

指の隙間から掌がきちんと重ね合わさるように
相手の欲しい物を、仕草から感じ取りつつ

「んっとぉ。それじゃ
 ……それじゃあ

 どこか行きたい所ってある?
 あ、好きなものでもいいな!
 香りばっかりだったけれど、
 興味があることでももちろん」

その内容は、貴女の期待にはそぐわないもの
『ただ会いに来た』その言葉を真に受けてか、
プライベートに近い事柄を彼女は自然と選んでいた

前回の通りなら、このまま奥へと手を引くべきだと気付いていように

黛 薫 >  
「行きたいトコ。好きなモノ。香り……じゃ、
 無くてもって条件が付くと、あーたにとっちゃ
 つまんねー話になるかもだけぉ……構わなぃ?」

絡められた指はもどかしそうに貴女の手を引くが、
そもそも自分の『望み』自体曖昧な物だったから。
投げかけられた問いに『そうじゃない』と否定の
言葉を返すのは躊躇われた。

「このお店……は、今いるから行きたぃ場所に
 カウントすんのはズルだよな。学校……は、
 別に行きたぃワケじゃなくて、心置きなく
 通える立場、状況が欲しぃだけだから違ぅし。
 図書館、古書店街……行きたぃのは合ってる、
 かもしんねーけぉ、目的ありきだし……。
 ごめ、すぐに思ぃつかなぃから、好きなモノ?
 先に、答ぇるから……。

 えっと、好きなモノ、何だろ。このパーカーは
 お気に入り……だと、思ぅ。愛着?ってーのかな。
 あとは、何だろ。好きな……食べ物?とかかな。
 甘ぃ食べ物はあると安心するよな。カロリーさえ
 取ってれば生きられ……いぁ、それは何か好きと
 違ぅ気ぃすんな?えっと……そう、飲み物?とか。
 自販機の、缶の……お汁粉とか、ポタージュとか。
 よく買ってた。お腹に溜まるから、水分だけじゃ
 なくて、お得な気が……いぁ、違ぅ、違ぅよな?
 そーゆー、利じゃなくて、好きな……」

律儀に問いの答えを探すものの、出てくるのは
『望み』ではなく『必要』に迫られた物ばかり。
落第街の外に出てなお、匂いの如く染み付いた
習慣はどうにも抜けてくれなくて。

求められた答えを返せていないのではという焦り、
この時間が自分の求めた物なのか確信が持てない
もどかしさ。それらが合わさってしきりに貴女の
手を弄っている。

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」から『調香師』さんが去りました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に『調香師』さんが現れました。
『調香師』 > 一方彼女、そんな言葉を連ね続ける薫の姿をにこにこと
...普段の笑みを数割マシにしたような、そんな表情に見えるかも?

「んへへ...」

貴女の思う程、悪い事は起こっていなさそうです
寧ろ、そういったしどろもどろに期待していた風にも

掌をしきりに握り返して。さて、次はどんな言葉が出てくるか
語られる言葉には、自分の知らない『生きた形』という物が宿る
その機微を測る能力を持っている。彼女は、なんだって楽しいのです

「『好き』を『嫌いじゃない』、そんな風に言い慣れてるからかな
 だからどうって事じゃ、ないけどね」

黛 薫 >  
「ん、ぅ……」

焦る自分とは対照的に楽しそうな様子の店主。

内心その理由を測りかねつつも相手が楽しそうに
しているのなら自分の言葉は『人の為』であれて
いるのだろうか、と考えてみたりする。

「……そーゆー事情も、あるかもしんねーけぉ。
 心から『好き』って言ぇるよーなモノは……
 今までひとつしか見つけられなかった、から」

そして……真っ先にそれを挙げられなかったのは
『今は好きと言えなくなってしまった』から。

「キラィじゃないモノ、たくさんあるよ。
 スキかキラィか2択で答えろって言われたら
 スキって答ぇるしかなくなる……と、思ぅ。
 でも、スキだったモノ、そのために他の全部
 捨てられるよーなキモチ、知ってるから……
 それと比べてどーかって考え始めちまうと、
 スキって言ぇるのか……自信、なくなる」

触れ合った手はさっきより明らかに緊張して、
おずおずと見上げた瞳は怯えているかのよう。

「……スキとか、特別とか。そーゆーキモチ、
 あっちこっちに抱ぃてると良くなぃってか
 ……浮気?してる、みたぃな気になって。
 不誠実っつーか、悪ぃコトしてるよーな……
 ごめんなさぃってキモチに、ならなぃ?
 ヘンかな、あーしだけかな……」

『調香師』 > 「好きなモノ。似合うモノ
 このお店の中なら、それらを選んで貰う事は普通だと思う
 好きが沢山ある事を、私は良いと思うよね

 そしてその好きは人によって色々あるし
 私はそれを聞き届ける。だから悪いとは考えない、んだけど」

今向けられている怯えた瞳
そして、好きよりもっと超えた『特別』との言葉

「...薫さまは、私に『ゴメンナサイ』したいの?
 なんだか。あなたの言葉は、さっきまでの好きとは違う『好き』を含んでいるような気がする

 うん。そんな香りになりそうな気持を感じ取った様な気がしたんだよ」

黛 薫 >  
「ん゛ん゛ん゛……」

話の流れで口を滑らせたことを後悔する。
意見を聞くだけに留めようと間合いを測っていたら
そのまま懐まで踏み込まれてしまったような感覚。

「……あーしがごめんなさぃって言ったトコで
 あーたからは何のコト?ってなるでしょーよ。
 つか、あーしだってよく分かってねーですし。
 ……分かんなくて不安だから来た、ってのも
 無くはねーのかもしれねー、ですしぃ……」

ぐいぐいとパーカーのフードを押し下げている。
恐らく買った当初はもう少し窮屈だったはずの
フードは今や顔全体を隠せるほどに伸び切って
ゆるゆるになっている。

「そーゆー、キラィじゃねーのは確かだけぉ
 スキって言ってイィのか分かんなぃ場所の話。
 あーーしの中じゃあーたも入ってんですよ。
 だって初めてだったんだもん、触られたのに
 怖くなかったの。

 でも、そーやって怖がってるあーしのコトを
 受け入れてくれよーとするヒト、他にもいて。
 あっちこっちに絆されてっとあーたにも他の
 ヒトにも悪ぃ気ぃするってか、さっきの言葉
 そのまんま使うなら浮気してるみてーな気に
 なって、ごめんなさぃってなんだよ。

 だからってそん中から1人選ぶとか出来なぃし、
 ごめんなさぃって言われても困るだろーよ。
 だからスキってはっきり言えねーーんだわ。
 スキの中に入れたら不誠実じゃん、そんなの」

自棄っぱちで溢す言葉に滲む感情は羞恥に近い。
ずっと他者から距離を取り続けた所為で適切な
距離が分からない。そんな年頃の女の子の悩み。

『調香師』 > 「私も」

長い長い言い訳の、羞恥の感情をそのまま舌に乗せて回すような言葉遣いを
相変わらず、一歩遅れた理解の様子を見せながら、恐らく肝となる部分を口でなぞる

「私も」

繰り返した。その言葉の真意を自身の内に得るために
再生。より確かな意味として捉え直す為に

「私も...」

手を握る力が、より強くなる。この確認から相手を逃さないように

「私もで、いいの?
 こういうのって、『お友達から』って。そういう感じの?
 わわ、なんだか女の子っぽい事言っちゃった」

口調は普段通りでも、表情から笑みが抜けている
真面目に問うてるつもりなのだろうか

黛 薫 >  
「ちゃんと、話っ……」

聞いてたのか、と言いかけて飲み込む。
だってその言葉はちゃんと聞いていたから
出てきた言葉だったから。

だけど。

「……あーし、選べねーって言ってんだぞ?
 あーたも、ってトコは……合ってる、けぉ。
 あーしは弱ぃから、優しくされただけで
 また……そーゆーの、増ぇるのかも、だし。
 それって、すごく……不誠実、じゃねーの。
 だから、あーし……」

言葉は逃げ腰で、しかしその手は振り解けない。
振り解こうともしない。拒絶するのが怖いから。

「……何がスキか、分かんなぃのはホントで。
 でも、それと別で……スキって言っちまったら
 また……酷ぃコト、してるんじゃ、なぃかって。
 だから……言えなぃスキも、あんだってば……」

『調香師』 > 「うん。それでもいいよ
 と言うより、それがいいよ

 私が欲しい言葉って『好き』じゃないから
 私が求める事は、約束は、変わってないから

 覚えていて。私にはそれが一番大事」

その確信が出来るだけで。ここに帰る、1つの理由になる

「帰ってこれるなら、またいろんな事が出来るもんね
 うん。お友達ってこういうので良いのかなって思うけど

 私は。あなたがそうして落ち着ける場所・人を増やしてくれる事
 本当に、嬉しく思ってるんだからね」

良い事を言った、そんな雰囲気
むふっと。見方によっては生意気にも見えたのかも

黛 薫 >  
忘れない。覚えている。自分に出来るのはたった
それだけ。けれど、彼女は『たったそれだけ』を
心から信じられない立場にあった。

だから、忘れない。絶対に。

それはそれとして。

「……そっ、か。とも、ともだち、ね……」

黛薫、ものすごく目が泳ぎまくっている。
頰は赤いし、口元は緩んでいるんだか緊張して
いるんだかよく分からない形になっている。

お察しの通り、面と向かって友だちを名乗った
経験はない。初めての友だちということになる。

「……友だち料とか……いる……?」

黛薫の中の友だち像、大分偏っている説。

『調香師』 > 「トモダチリョウ」

異文化の言葉が出てきてしまった
トモダチ...リョウ?

「えっと。一緒に住むって、こと?」

トモダチ『寮』
お友達なら一緒に住みたくなるのかもしれない

彼女の知識も大分偏っているというか
街で見聞きした言葉を時々素直にばら撒いてしまう節がある
さっきの『友達から』も似たようなものだ

黛 薫 >  
「なんで???」

『料』と『寮』を咄嗟に結び付けるのは難しく、
反射的に混乱と動揺の入り混じった言葉を返す。
自分の言葉も大概どうかと思ったので説明も
憚られ、一旦思考をまとめるために言葉を切る。

「前から思ってたけぉ、あーたも世間知らずよな。
 いぁ、今のはヘンなコト言ったあーしが悪ぃか。
 その、えっと。……と、友だち、とか。あーし、
 いたコトなかった、ってか。とも、だちだって
 確かめ合ったコト、なくて、それで……」

ぎゅ、と緊張したように繋ぎっぱなしの手を握る。

「ふ、ふつつかものですが……おねがぃしま、す?」

『お友達から』がおかしな形で繋がった。

「ぅーぁー、大丈夫?あーし何か恥ずかしいコト
 言ってなぃ?てか好きなコト?の話ってコレで
 良かった?知って欲しくて、教えて欲しくて、
 あーし、何がしたかったかも分かんなくなって
 ぅ゛ー、イィ、のか?こんで良かったの?」

ぽす、と貴女の胸に埋めるようにして顔を隠す。

『調香師』 > 「安心して。私も確かめ合った事ないから」

うふふ。彼女は何の根拠もなく笑いました

相手の身体を受け入れる。先程、震えを受け止めてくれた姿とは逆
やましい心も静かに、受け入れる様に頭を撫でる

胸に鼓動は無い。液体が循環するような、パイプの音はするかもしれないが

「恥ずかしい事は分からないけどね
 私はどんな方向に進んでも良いよ

 だって今日も、薫さまと居ると楽しかったからね」

黛 薫 >  
「……ん、なら良かった」

一緒にいて、楽しかったと言ってくれる。
一緒に過ごす時間を快いモノと捉えてくれる。
きっと友だちとはそういう存在。知識として
知ってはいたけれど、実感するのは一味違う。

店主が『前回と同じ』を選ばなかったのは、
此処まで見越していたのだろうか、なんて。

(流石に、それはねーはず……だよ、な?)

人に似た温もりと、人から遠い循環の音。
それらを聞きながらおずおずと貴女を見上げて。

「もしも、だけぉ。あーしが『前回みたぃに』
 手を引いてもらぅコトを押し通してたら……
 友だち、に……なるって、確かめ合う話には
 ならなかった、のかな」

『調香師』 > 「んー?」

もぞりと頭が動く感触。撫での手つきを和らげる
目線を合わせて、首を傾ける

「わかんないな」

無責任な口調で告げ、今回は隠れて欲しくないなと
フードを被せてしまう前に、手で制しながら

「わかんないけどね
 感じ取る事は出来たかも?
 私ってそういう事、得意だから」

その視線の感触も、自身の機能への確信の色を帯びたまま
ゆっくりと、あなたの頬を撫でる

黛 薫 >  
「あ、ぅ」

顔を隠せなくなると、途端にその言葉は途切れて。
どきどきと早くなった鼓動が指先から伝わってくる。
何かに頼らないと本音を言葉に乗せさえ出来ない、
心の弱い女の子の顔。

触れた頰の感触はやや熱っぽく、フードに頼れず
隠しきれなかった瞳は今回もまた揺れている。
あの日『怖くない時間』の中で触れられて以来、
黛薫は貴女に触れられると心の弱さを隠せなく
なってしまった。

この店にいると、どうしても貴女に頼りがちだ。

「……あーしのコト、知られてばっかだから。
 あーたのコトも……聞こぅかと思った、けぉ」

絡み付いていた忘却のこと、メアの記憶喪失に
言及されて震えていたこと。『後で』と言って
話題に上らせなかった不安要素は幾つもある。

「話したくなかったら……今日は、やめとく、から」

『調香師』 > 「聞きたかったんでしょ。いいよ
 ...きっと、言わなかったら私、壊れちゃうから」

『友達』という言葉を交えた時に、
そんな簡単な関係を表した。それだけで伝えられる物がある
勇気が湧いた。自分が人間だったらそんな言葉も使えたのかな

彼女の心は『人の為』
約束を違えたくはないと思っていたし、
ここで言えなければ、ずっと彼女を『信じられない』

「メアさまはね
『出会った事がない程、酷い事』をされてみたいんだって

 私なら、それが出来ると思ってたから
 だから記憶を消したの。その約束も、忘れられるように」