2021/11/27 のログ
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に『調香師』さんが現れました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』」に黛 薫さんが現れました。
『調香師』 > 香りが手招く、香りが存在を確かにする
歓楽街の路地裏に浮かび上がる異色の1つであるこの扉は閉ざされている

きちんと鍵が掛けられて、表に看板は無し。書置きに『暫く外出しています』
香りだけが残滓としていつもと変わらず漂っている物だから、近付くまでその様子に気付く事はないのだろう

肝心のその店主。信じるならば、もうすぐ帰ってくるらしいが...

黛 薫 >  
店の前で立ち往生する来客。常連と言っても
過言ではない彼女は普段と少し異なる装い。
毎回欠かさず着ていた動物パーカーではなく
もう1サイズ大きいシンプルな黒いパーカー。

内側の服も含め新品ではないが着古してもいない、
あまり袖を通していないような印象の服ばかり。
此処の店で買った香水の匂いは普段より些か強く、
取って付けたような煙草の匂いが混ざっていた。

ドアノブを回す。開かない。
呼吸を整え直し、ドアノブに手をかけて扉を押す。
外出を示す書き置きに気付いたのは3度試してから。

(今、すげー恥ずかしぃコトしてた気ぃする……)

視野が狭くなっていたのは伸ばし過ぎた前髪や
普段より大きいパーカーのフードの所為だとか。
脳内で言い訳しつつ店主が店の中にいないことに
少しだけ感謝した。

『調香師』 > このお店の仕入れにもいくつかの種類がある
裏の世界と通じるコネからの仕入れでは、闇夜の頃に向こうから
この路地裏に通じた『運び屋』が届けてくれる
本当にいつの間にか届けてくれるものだから、その正体を彼女も知ってはいないのだけれども

ではそれ以外の、ごく普通の品だったなら
香りだけが導のこの路地裏に届けてと言うよりも。表の目立つ場所を指定していた方が確実なのだ
以前、注文した業者に迷い人を生み出してしまった挙句、荷を失った事のある立場の教訓である


抱える程度の段ボールを持ち直した時に、彼女は香りを嗅ぎ取る

「薫さま、だよね
 ごめんね、待たせちゃって」

角を曲がった前方には、普段と違う衣装
彼女はいつも通りの笑みを浮かべて近付いてくる

黛 薫 >  
「あーいぁ、そんなに待ってもねーです、へーき。
 あとはアレか、待つ時間まで含めての楽しみ?
 みたぃな。そーゆーのもあるでしょーし」

普段なら同じはずの目線の高さ。しかし黛薫の声は
随分下から聞こえてくる。きぃ、と軋むような音を
立てて車椅子が店の扉の前から退いた。

「うゎ大荷物。重かったりしたらあーしの
 膝の上にでも置いとぃて構わねーですよ。
 そのまんまだと鍵開けんのも大変だろ」

『調香師』 > 声と照合、確かに相手は薫だ
しかし近付いて気付く。予め設定していた高さに貴女の顔はない
目線修正、貴女は縮んでいる?その理由も、車椅子で容易に理解はした

「半年に一度、あるかないかの仕入れだから
 中身は結構軽いよ。緩衝材多めだし
 お店の中の瓶の大きさ、そのくらい小さい瓶
 これから足りなさそうな物をいくつか程度」

力に自信がある訳ではないが、大きさに煩わしさを覚える程度
抱え方を変えれば、片手で鍵を扱える。勿論、細心の注意は払っているけれども

「寒いし。お話はお店の中」

その状況への疑問。尽きずともまずは貴女はお客様
鍵を開ければ扉も開こう。荷物は作業机の上へと

黛 薫 >  
「あぁ、瓶か。なら一旦地べたに置いても……
 と、思ったけぉ、フツーにいけんのな」

長い前髪の下、目線は気遣うか心配するように
抱えられた荷物を見ている。普段の彼女ならば
万が一落とした場合に備えて立ち位置の調整を
していそうなところだが、今はそれも叶わない。

「そーなぁ、もぅ冬になっちまったんだな」

そんなに待っていないと言った黛薫の鼻の頭は
寒さで赤くなっていた。気を遣わせないための
方便だったのか、それともお店に来る道中に
時間をかけてしまったのか。

電動の車椅子を片手の指先だけで操作して、
貴女の後に続くようにしてお店の中へ。

『調香師』 > がこん、ごとんと車椅子を揺らす扉の段差
歓楽街の路地裏、裏口を改装した店舗
まさかお客様の1人が突然車椅子になるとは、
彼女は配慮はもちろん想定もしていなかった

普段の様に正面の椅子へと促しても、貴女にとってはその椅子ですら『障害』であった筈だ
それが邪魔で正面から向き合えないと、気付いたのは数秒後
慌てた振る舞いで、調香師は椅子を避ける事だろう

椅子に座った高さで、やっと普段通り

「今日は?」

切り出す言葉にも目線にも迷いが潜む
故に、貴女がどう受け取るのかに委ねる

黛 薫 >  
「んー、まぁ目的のひとつは……何つーか?
 近況がコレだから、黙っとくのもアレかなって。
 知らせずにいんのも、何か悪ぃ気ぃしたからさ」

ぺし、と軽く車椅子の肘置きを叩いてみせる。
たったそれだけの動作も随分ぎこちなくて……
ただ単に足を怪我して歩けないだけではなく、
全身の動きに支障があると仄めかす。

「あとは、うん。いっつもお話に付き合って
 もらってばっかだし……お店として?の、
 利用を考えてるかな、調香してもらったり。
 マッサージ……は、準備なぃとマズぃかな?
 軟膏とか……結構使ったみたぃだし……」

やはりぎこちない動きで首を動かし、店内に並ぶ
瓶へと視線を逸らす。揺れるアロマストラップから
漂う香りは前回までの来店より濃いめで、足りなく
なって買い足しにきたわけではないと伺える。

落第街から連れ出されて以降、薄くなってきた
煙草の匂いも今日は一際濃く感じられた。

『調香師』 > 「コレって言われても。事の重大そうなくらいしか分からないかな」

焦らない、内心はそう強く律して
段ボールの中から1つずつ、瓶を並べて確かめていく
別の作業を挟まないと、自分の気になる事ばかり問い詰めてしまいそうで

「あなたが来てくれる。そう思えるなら、準備は怠らないよ?
 うん。だから軟膏の心配はしてくれなくてもいいよ

 香りを身に着けてくれる、それで今日も私はそれが正しかったって分かる
 んひ、今日は煙草の匂いも濃い目だけどね。どうしたのかな?」

黛 薫 >  
「んー、んー……まぁ、重大っちゃそー、だよな?
 でもなー、割と自業自得?っつーか何つーか……
 やりたぃコトやった結果だからあんまり後悔とか
 反省とか……してなぃっつーか……」

やや歯切れが悪い。普段から曖昧に逃げるような
話ぶりが多い彼女だが、今日は逃げる以前にまず
踏み込みが浅いような印象。

「あ、えと、うん。そっか、足りてんのか……」

軟膏についても、足りていない前提でプランを
組んでいたような態度。迷うように目線が下がる。

「煙草は、あーたくらぃ鼻が効くなら分かんだろ。
 あーしは元々吸ってたし、偶々吸いたい気分?
 だったとか、そーゆーアレだから」

当然だが黛薫は未成年。落第街の外に出てしまえば
煙草を買える店は限られる。特に連れ出されて以降
匂いが薄かったのは補充が利かず渋っていたという
理由もあるだろう。だから尚更今日の匂いの濃さは
らしくない。

『調香師』 > 「うーん...?」

曖昧な態度に首を傾ける
近況を伝えたい、そう言われて確かにそれを知ったものの
自業自得と普段通りの文句で締めくくられると『何が起きた』と知りようもない

マッサージに関してもそう。彼女は機微を測るものであるからか
積極的ではなさそうだ。そう察することは容易い
身体の調子がおかしい、個人的な気持ちを推すなら触って確かめておきたさも含むが控えよう

「なーだろねぃ」

ストラップは手放せず、けれど覆い隠すように強く煙らせる
その真意を知るには、貴女の行動にノイズが多い
場合によっては、そのノイズこそが答えであるとも言えそうなのも質が悪い部分なのか

せめてどこかに理由が欲しくて。思い当たった所に触れる

「今回って、3回目だっけ」

理由を付けて私の『なんでも』が欲しかった。それなら、まだ理解できる

黛 薫 >  
自業自得。黛薫がよく使う言葉。
全部自分の所為にしてそれで終わりにしよう、と
諦める逃げの姿勢。しかし貴女が首を傾げたのを
見ると、バツが悪そうな表情で視線を戻す。

「……怪我とか病気とかじゃなくて、その。
 『願ぃ』を叶える過程……代償?でいろいろと
 失くしちまったのよな。……だから、その。
 別んトコで『願ぃ』どうこぅって話になると、
 気ぃ悪くすんじゃとか……思ぃ、まし、て……」

余計な気遣いが空回って嫌な気分にさせたら
本末転倒。『身体が動かなくなった』事実だけ
伝えて逃げる予定だったが、諦めて白状した。

「うん、3回目。いちお確認しときたぃんだけぉ、
 『お願ぃ』ってスタンプが溜まったらその場で
 使わなぃとダメとか……そーゆーの無ぃよな?
 前回みたぃなきちんとした目標作ってねーから、
 何をお願ぃしたらイィかも決めてねーんだ」

『何でも』が欲しかったわけではないと暗に答える。
むしろ、当たり障りのない話題に逃げられたとでも
言うように詰まらず言葉が出てきたくらい。

「あぁ、でも……場合によっちゃ『お願ぃ』で
 どーにかしなぃとダメかもって心配はしてた。
 あーしが余計な横槍入れちまってメアからの
 『お願ぃ』で悩んでただろ、あーた。

 『酷ぃコト』ってさ、長期的に見たらどーだか
 分かんなぃけぉ……その場に限れば少なくとも
 目の前にいる誰かのためって感じじゃねーし。
 それであーたが思ぃ詰めてたら『お願ぃ』を
 上手く使おーかな?とかは考ぇたよ、うん」

『調香師』 > 「メアさまの事は、もういいよ
 彼女が想定もしていなかった事を突きつけちゃって
 その結果、彼女が忘れちゃったから」

『忘れさせた』のではなく
故に、彼女に対して言及するその声は、何を思っていたのだろうか
少なくとも目線は、当時の言から遠ざかる為に、貴女の顔を見つめていた

「そうやって悩むのは、私が何も出来なかったと思うから?
 それとも、私が何も出来ないようなことをしていたから?

 ...うん。気を悪くする所もある
 でもそれって、突然あなたがそんな体になっちゃったから驚いてだね
 私、貴女の『願い』、知らない。あなたもそれを求めてこなかった

 私はただ、『出来る事』であなたの役に立てれば、それでいいんだよ?」

別んトコ、他人に対する気後れなどではなく
どの様な理由があっても、求めてくれるならその役目に殉じよう

機械的・道具的な幸福原理。貴女の態度は何も反する事は無いだろう
少なくとも、彼女が傷ついた様子は見せなかった

黛 薫 >  
「……そっか」

短く答え、表情も意識して動かさないように。

特にメアの問題に関しては部外者の自分が首を
突っ込むのも筋違い。だがそれでも尚心配して
しまうのは、入れ込み過ぎなのだろうか。

「……ん、まぁ、適材適所……みたいな?
 そっちの『願ぃ』は……あーたに頼むにしちゃ
 畑違ぃだと思ったから。『代償』って言い方で
 想像つくかもだけぉ、魔術とか儀式とかの分野。

 宝石使った調香が初挑戦だって言ってたから、
 分野違ぃで頼む発想が無かったのよな」

普段なら言葉だけでなく仕草も雄弁な彼女だが、
身体が上手く動かせない現状では出来ることも
限られてくる。表情や決まりの悪そうな吐息から
気を揉んでいるのは伝わってくるが……。

「……あーたの前では、あーしが『自分の為』に
 素直になんのが1番喜んでもらえんだろーな、
 っていつも思ってんだけぉ、なー……。

 それが難しぃってか、あーしが下手なだけか?
 どーも喜んで欲しぃとか心配かけたくなぃとか
 上手くいかねーなって、いっつも思ぅんだわ。

 だから……お任せ?みたぃな感じであーたから
 見たあーしの『してもらぃたいコト』を探して
 もらぅみたぃな、回りくどぃ手ぇばっかでさ。
 ちゃんと『店』として利用しよーと思ったのは
 そーゆー理由もある」

『調香師』 > 「実際、どうだったんだろうね
 香りで何かを変えられるならそれは良いなと思うけど
 その判断も、私には出来ない位には、魔法みたいなことは分からなくて」

こん、こんと瓶を並べる
きちんと確かめ終えた瓶の数は、確かに特別多くはない
よく使う物からよく減っていく。専門でなくとも見た事ある名前もちらほらと

「私から、『したいこと』を
 で。今日はあなたから『したいこと』を

 ...もしかして。マッサージをなんとなーく遠ざけたのって
 恥ずかしかった?」

実際は、そんなシンプルな理由だったのだろうか
彼女の思考は留めるより直入な所がある
よりデータが欲しい時には相手より求める。仕草が分からない今なら猶更

黛 薫 >  
「少なくとも、あーたの作った香りがあると……
 意識?は、変わるよな。いつでも身にまとえる
 『お気に入り』があると、気分がどん底にまで
 落ち込んでも、香りの分だけは最悪からは遠く
 ……いぁ、うーん。褒めるにしてはマイナスを
 想定し過ぎか?ちょぃ待って、ちゃんと考える」

一度言葉を切り、並んでいく瓶を目で追いかける。

「好きなモノってさ、やっぱ気分がアガるんだわ。
 同じ身に付けるモノなら服とかアクセサリとか。

 香りは、ずっと付けてるといつの間にか慣れて
 意識の外になるんだけぉ。風の具合とかで時々
 ふっと意識の中に戻ってきて、その度にやっぱ
 好きだなって実感する、みたぃな。

 ずっと側にあっても慣れこそすれ飽きは来なくて、
 好きならいつまでも楽しめるのが香りの良さかな、
 とかあーしは思ぅ、かも。あーたの調香の腕が
 イィから飽きねーだけかもだけぉ」

褒めるときは思い付きでなくきちんと思考を費やし、
語彙も尽くして。それは黛薫なりの誠意でもあるが、
作ってもらった香りを気に入っているからこそ。

考え始めると真剣になりがちな黛薫は少しの間
自分の世界に入っていたが、貴女の問い掛けで
現実に引き戻され、狼狽を見せた。

「えぁっ……ん、と。それとなく避けてたのって、
 分かりやすかった……です、かね?いぁ、うん。
 恥ずかしぃのは、その、合ってる。合ってるけぉ、
 今日は余計にそぅってか、えっと」

「……ちょっと、いつもより……よ、汚れてて?
 触らせると、何か……汚ぃかな、みたぃな……
 そーゆー、はぃ。申し訳なさ、的な……」

『調香師』 > ぱち、ぱちと
言葉を受け止めるたびにまばたく
『言い直す必要も無かったのにな?』と考えた、
自分自身の考えの甘さがあったのだろう

どくどくと溢れる言葉の色
感覚的な部分が多いけれども、それは普段から自分も使うこと
正面から受け止めた後、暫く表情を制止させ

歪な仕草、自身の表情を掌で弄る様な態度

「にやけそう」

にやけてはいない。その感情はまだ上手に処理出来ていなさそう
今自分がどの様な表情をしていたのか、つぶさに確かめていく

尻すぼみな貴女の言葉に応対する余裕が目に見えて失っている程度には、嬉しさでバグっていた

黛 薫 >  
「あーたって顔に出なぃワリに結構雄弁だよな」

どの口がそれを言うか。
今は表情はともかく仕草がだんまりだがさておき。

「機嫌悪くしてたときはめっちゃ顔に出てたのにな。
 作れる表情とそーじゃなぃ表情でもあんのかな?
 表情をコントロール出来んの、あーし的には割と
 羨ましぃかも。交渉とかで有利取れそーだし」

表情は変わらず、しかし顔の動きを確かめるように
手のひらで探る貴女とは対照的に、黛薫はにんまり
笑みを浮かべていた。

「でも、そんなコトよりあーたが褒められると
 ちゃんと嬉しぃって分かったのが収穫だよな。
 褒めるネタならあーしの中にもあるかんな。

 あーしがこのお店に来たのって予備知識も何も
 無くて、ただ香りに誘われて来たってだけでさ。
 それって好きで香りを楽しむ人以外にも魅力が
 伝わる香りを作れてるってコトだろ。そっから
 通ぅくらぃにハマってんだから、あーたが作る
 香りの良さは推して知るべし、ってな。

 店の内装にしたって、ずらっと並べられた瓶は
 壮観だし、彩り豊かに並んでりゃ嗅覚だけじゃ
 なくて視覚も楽しぃってもんだろ。あーたと
 話してっと時間が過ぎんのも早く感じられるし、
 香りも話術も込みで居心地良ぃ空間だって思ぅ。

 それに、マッサージの腕だってとびっきりだろ。
 あーし、あんな安心出来る空間なんて想像すら
 したコトなかったし。あの時間がずっと続けば
 イィって思っちまったくらぃ。アレだけの為に
 通ぅ価値だってあると思ぅのよな」

敢えて貴女が自分の感情を整理し切る前に、
畳み掛けるように賛辞を並べていく。
すらすら出てくるのは今考えたことでなく、
普段から感じていたから。

『調香師』 > 「表情ってその場のノリな所ある、から...ぅ」

凡そ機械の発言ではない
実際の所、彼女も基準は分からない
店員である、と心がければ随分と硬い物になる所
その態度があなたにとって愉快だったのが彼女にとっての不幸だったのだろう

「ぅ、ちょ、ずるぃ
 それだめじゃないかな?
 あなたの言葉のひとつ、ひとつ、ちゃんと測ってるんだから
 どうしてそんなに、いえるのかな」

両手を前に伸ばして、拒絶のバリヤーを張ってみようとも
当然言葉は指の間をすり抜けていく

「ぁぅ...」

しまいには、香りの沁み込んだ作業机に突っ伏す格好
逃げが下手。攻められる事なんて無かったんだもの
まさか目の前に迫った香りを嗅ぐ余裕すらない程に、自身が追い詰められる場面がやってくるなんて、想定されていなかった

黛 薫 >  
「どーしても何も、普段から思ってるからだな?
 あーしくらぃの立場だと褒め言葉ってどーにも
 お世辞として受け取られがちだけぉ、あーたは
 素直に受け取ってくれそーだって分かったから」

くっくっと喉の奥で忍び笑いを漏らしながら
机に突っ伏す貴女を愉快そうに見ている。

「ま、畳み掛けたのは意地悪ってか、遊び心に
 負けたのもあるけぉ。あーしがこのお店のコト
 心から気に入ってて、褒めよーと思ぇば簡単に
 言葉に出来んのは嘘偽りなくマジだからさ。

 あーたのコトだから、香りとかお店のサービス
 褒められた方が嬉しぃだろーと思ってそっちを
 中心に話したけぉ、別にあーた自身のコトでも
 出てきたと思ぅ。容姿とか性格とかな」

あまりにも隙だらけにだったので、ぎこちなく手を
動かして軽く頭を撫でてみる。糸で釣られた人形の
ような不器用な手つきだが、出来る限り丁寧に。

『調香師』 > 「私だって、受け取れない時くらいあるよぉ
 昔だったら、そうだったんだから」

言い訳がましく、机を伝った声が響く
駄々っ子の様に揺れていた体。貴女の手が頭の上にのせられると、途端に大人しくなる

きっと、動かしているだけの時間より、乗せているだけの時間の方が長そうな手であろうけれども

「...もう、触ってくれないのかと思ってた」

返答はそれだけ。表情以外は分かりやすい彼女が感情より先に落とした台詞

身体を動かす事に難儀している貴女
いつの間にか、『対価』として支払っていたらしい貴女
もう、私の事を『知って』はくれないのかな、と
自分ですらも気付けなかった言葉が、静かに落ちた

貴女はそれでも、手を伸ばしてくれるんだね

黛 薫 >  
「昔がどーでも、今受け取ってくれたんなら
 あーしは満足だよ。変な解釈とか何もナシで
 本音を受け取ってもらぇる機会限られてっし」

油の切れた機械のように固く制御の甘い動き。
赤子のように不器用で、行き過ぎては戻る所作は
ただ触れて撫でるだけの動作にさえ酷く難儀して
いる実情を如実に伝えていた。

貴女の呟きに、びくりと一瞬手が固まって。

「あ、いぁ、えっと。無意識……ではねーけぉ、
 そんな色々考えてたワケじゃなくて、ただ単に
 触りたくて触った?みたぃな、そーゆーアレで。

 見て、聞いて、触って、嗅いで知って欲しぃって
 言ったの、あの場だけじゃなくてずっとそうだと
 思ってたから、知りたぃとか知って欲しぃとか?
 感じたら、手ぇ伸ばしてイィかなみたいな。

 ……その反応は、えっと。イヤではない、と
 解釈……すれば、イィん、ですか、ね?」

声に動揺が混じると、分かりやすく手の動きは
鈍くなった。他に意識を取られるとそれだけで
動かせなくなるくらいの集中力が必要なのに……
不思議と貴女に手を伸ばすのは苦にならなかった。

けれど、言い換えればそれは思慮の不足でもある。
マッサージを渋るくらい自分が『汚れている』と
感じていたのに。触れたままで良いのか、離した
方が良いのかを測りかねる。

『調香師』 > 「触って」

要求はこれ以上なく単純な物
面も上げられずに伝える

「変わらず知ろうとしてくれるって、いま、
 私、本当に嬉しい事なんだから」

声に震えが浮かぶ
彼女が他人の表情を持ち合わせていたのなら、
貴女の事を揶揄えないくらいに泣き虫だったのかも

首から振り落とさないように。細心の注意を向ける
甘受できる間を感じ取ろう

黛 薫 >  
「ん」

短く答える。それからは触れて、知るための時間。
ふんわりと柔らかな白い髪の感触を知っていく。

手櫛で梳くように生え際から髪の先端まで流して
指の引っかからない滑らかさと毛先の癖を覚える。
髪束を指の間に通し、さらさらと落としてキメの
細やかさと滑らかさを感じ取る。不器用な動きで、
しかし知るために何度でもやり直して。

頭蓋の形を確かめるようにとんとんと指が動く。
耳の裏を中指がくすぐって、白磁のような肌の
たわやかさに触れる。頸から盆の窪、肩口まで
人差し指がなぞり、押し込み、撫で下ろす。

『貴女』を知ると同時に、それは知ってもらう
動作でもある。『動く』だけで力の入らない指、
慣性に負けるほど緩い力、細かい動きが出来ず
触れ損ねた場所に戻るため重ねられる試行。

(……どんな顔してるんだろ)

机に突っ伏した貴女はきっといつも通りの表情。
しかしその裏にある雄弁さを教えてもらった。
感情がそのまま表情に現れたらどう映るのか、と。

益体もない想像に耽りながら形を確かめるように
耳の裏を中指の腹で撫でている。

『調香師』 > 調香師が感じ取る、その手の軽さは質量を持った空気に撫でつけられるように心もとない
重さは確かに感じる。その上で、自らが感知するその動きは人の物に非ず
人肌である事、そして予め人間の行動である事と認知している事のみがそれを担保する

それでも私は『知られている』。『知って欲しい』と、身じろぎ一つも封じられている
もどかしく蠢くその時間、燻ぶる快さが表皮より内へ身を焦がす

普段の言葉、『あなたの為に時間を使う』
普段のスタンスと何ら変わらない筈なのだが、それが『誰の為』であるかを思考すると
この裡に宿るものを考えれば、どうにも『自分の為』としか言いようがない

(自分の為...)

『生き延びる為に、自分を失わない為に』と振舞うのは簡単なのに
ただ、他人に施してきたようなことを自分に返される様な場面であると反省してしまった時

また、小さく呻き声の様な物が漏れ出でる

黛 薫 >  
小さく呻くような声。意識が逸れてしまったのか、
髪に、肌に触れる手はゆるりとその動きを止めた。

意図して止めたというより、止まってしまったと
表現する方が近いか。自力で動きを止めるだけの
力すらなく、慣性に負けてしまったような動作。

「くすぐったかったりしたら言ってイィかんな。
 あーしはあーたのコトを知りたいし、知って
 欲しぃけぉ、それは我慢を強ぃてじゃねーし。
 言いたぃコト出来たらその場で言ってくれて
 全然構わねーから」

返事があるまで動きを待っても良かったけれど、
何となく……それは『違う』ような気がした。

知るにも知ってもらうにも互いの意思は大切で、
しかしそればかり慮って手を止めてしまうのは
今『求められている』ことではないのでは、と。

理屈も何もなく、どうしてかそう感じたのだ。

さらり、不器用な指先が髪を撫でていく。

『調香師』 > 声を、伺いを立てられても彼女からの返事はなく
慮りながらも、手を止めない
手を動かすだけで重労働であろう事は推測が容易で、
その上で、手を決して止めない

そんな貴女に甘えている。無言である事は現状催促と変わりはない

「...ううん」

その声は、もう随分と後の話
我慢をしていないとの言葉は、或いは逆の意味で

そろそろ、『お客様』に気を遣わせられないと
立場を思い出したが故の声だったのだろう

黛 薫 >  
知ってもらって、同じくらい知ろうと考える。
『人の為』を第一に置く貴女がここまで長く
沈黙したのは少々意外でもあったけれど……
だからこそ、無言の催促に応えたいと思った。

「……今度、お店の外で会ってみる?
 業務の外ならあーたも色々気にせずに済むだろ」

『理解出来る』ほど知り尽くした、などという
思い上がりはないけれど。『推測出来る』程度に
頑張って知ろうとした自負はあった。

だから、その提案は一種のカマ掛けだ。
随分と長い間を開けて返ってきた否定の呟きは
『店主』という立場から出たのではないか、と。

「きっと、あーたが知って欲しぃって思ぅのと
 同じくらぃ、あーしも知りたぃって思ってる。
 それにあーしも『あーたの為』は嬉しぃし?
 だったらあーたがちょっとくらぃ自分本位に
 なったって、それもまた客の為ってな」

『調香師』 > 「本当!?」

これまでの静かな交流。1分刻んで僅かな進展と言うような物から一転
あれほど起き上がるのを渋る様な鈍さを見せていた彼女が、勢いよく顔を上げた

分かりやすい。分かりやすく、笑みが明るい

「それって。『友達』みたいなことしようって事で良いんだよね?
 今更嘘って言ったらダメだよ?本当だよ?」

きっと、貴女の思っていた以上の好色
だが、そもそもその提案に似た事は、前回の時点でもこちらからしていたのかもしれない

調香師、その答えが返ってきただけだと。そんな風に捉えている節がある

黛 薫 >  
「うぉっ……いくらあーしでもんなタチの悪ぃ嘘
 吐かねーですよ。っつーかそんなに喜ばれたら
 仮に嘘でも嘘とか言えねーですし」

喜色満面の笑顔につられるように頰が緩んで。
咄嗟に口元を隠そうとしたものの、動きの鈍い
手ではどうにも上手く隠し切れなくて。

珍しく、パーカーのフードに遮られていない
黛薫の赤面と笑顔が見えた。

「……みたぃな、は今回余計ですー。
 ちゃんと友だちのつもりで誘ってっから」

誤魔化そうとして声音だけ不機嫌そうに取り繕うが、
笑みを隠し切れない口元のお陰で少しばかり滑稽に
見えてしまうかもしれない。

「因みにあーたはしたいコトとか行きたいトコ、
 あります?聞ぃとかなぃとあーしの希望優先で
 決めちゃいそーなんだよな、あーたって。

 さっき言ったばっかだけぉ、あーしだって
 あーたの為は嬉しぃし。だからお店の外で
 会うなら場所や予定は一緒に決めたぃのな。
 どっちの為でもあんなら落とし所としては
 イィんじゃねーのって」

『調香師』 > 「私の為?くひ。おそろいだ」

『どっちの為でもある』。そんな言葉を受け止めて
隠れない、隠せない。そんな笑みへと近づくために机に身を乗り上げようとして

倒しそうになった瓶の存在を思い出し、慌てて身を戻す
机の対面ではなく、隣に移動するのが良いのかもしれない
先程、どかした椅子が丁度、貴女の隣にあるのだし

照れ隠しも上手くいかない貴女の笑顔、間近で堪能することにした

「気になるとこ、あるよ。魔法のこと、別世界の香り
 私には分からない事だらけだもん

 今まさにしたいコトもあるけれどね」

身を寄せる、鼻を寄せる。貴女の身体の、煙草で隠したかった香りへと意を向ける為に

黛 薫 >  
「あっ……ぶなぃな」

倒れそうな瓶を見て思わず声を上げてしまったが、
咄嗟に手で支えることすら叶わなくて。仕入れた
ばかりの瓶の無事を確かめて安堵の吐息を溢す。

「別世界の香りは探す手伝ぃしか出来ねーけぉ、
 魔法につぃてならあーしも少し手伝えるかも。
 あーしはずーっと長い間、進めずに燻ってて、
 最近やっとスタートラインに立たせて貰って」

黛薫の言葉は貴女の所作に気を取られて途切れた。

微かな緊張はあったが、今の身体では抵抗など
出来るはずもない。覚悟を決めたのと不安とで
半々くらいだろうか。

真っ先に感じられるのはやはり煙草と香水の匂い。
普段より強く香るそれは貴女の推察通り別の匂いを
隠す為のものらしい。

着衣は全体的に匂いが薄く、買ったきり滅多に
着る機会が無かったという雰囲気。その下から
香る石鹸の匂いは執拗すぎるほど重なっていて、
しつこく洗い過ぎたお陰で擦れた肌表面の匂いに
ごく薄い血の香りが混ざっていた。

更にその奥の奥。消そうと躍起になった匂い。

薄く残るソレは鼻を突くような汚臭だった。
例えるなら落第街のいっとう汚れた男子トイレの
小便器に男女の性的な液体をバケツでぶちまけて
混ぜたような、人に染み付いて良いはずのない臭い。

『調香師』 > 「んひ、だったらそこも一緒だね
 スタートだって事だね」

すんっと。貴女が逃げられないという所は、
実はあまり計算には入れてなかったのだけれど

素直に嗅ぎ取れた匂いをもう一度深く、確かめて

「随分と薄れた系統のものだと思ったんだけど
 嗅ぎ取れるって事は、結構最近なのかな?」

この状態で半壊した落第街に踏み込むのだろうか?
流石の彼女でもそうそうないと思いたいが

黛 薫 >  
「そーな、お揃い……って、友だちっぽい?」

嬉しさと不安、半々に混じった声音。
しかし貴女が嗅ぎ取った臭いに言及すると、
分かりやすく表情に陰が差した。

「……ヤな臭いだろ。そんな何回も嗅がなくてイィ」

嗅ぎ取れないくらいに薄まっていてくれたら、と
期待していたが現実は甘くない。動かない身体で
無理に洗っても限界があったか、それとも相手の
嗅覚の前では誤魔化しなど無意味だったか。

はぁ、とため息をこぼす。

「拉致られたんだよ、時間感覚は曖昧だけぉ、
 一昨日から昨日にかけてかな。1人でいたら
 思ぃ出して頭おかしくなりそーだったから、
 安心出来る場所に来たかった」

他人事のように淡々と話すのは、内容からも
伺えるように思い出したくないからだろう。

「その、いちお頑張って洗い落としたはずだけぉ。
 手ぇ届かなぃトコに残ってたらアレだから……
 マッサージを避けてたのは、うん。そゆコト。
 ……あの、もしヤだったら、あーしが触った所
 洗ったりとか、必要なら……」

だけど、結局行き着くのは貴女に不快感を与えて
いないかという一点。一刻も早く安心したかった
はずなのに、動かない身体で血が滲むほど必死に
洗い落としてきたくらいだから。

『調香師』 > 「あなたの事、知らないって言えない程度には知ってるからね

 変わって欲しいものは簡単には変わってくれない
 そしてソレをどうにかするとかそういう感じの事は、
 私が出来る事でもないって言えちゃうのが」

ただし、『して欲しい事』は相手の口から確かに出てきた
私が彼女に齎せるものは安心であり香りであり

「大丈夫だよ」

こんな簡単な言葉だけ
こんな気持ちの時にこそ凭れ掛かって欲しいから、
私も彼女に重さをちょっと委ねてみたりして

黛 薫 >  
「……そりゃ、な。あーしだって知りたぃのと
 おんなじくらぃ知って欲しくて通ってんだし」

やっとで薄くなってきて、このまま消えるかもと
期待していた臭いはまた濃くなるまで染み付いて。
落としてみようとしたけれど上手くいかなくて。

知られるのが怖くて洗い落としてきたはずなのに、
知られた上で拒絶されなかったのが嬉しかった。

「……臭ぃとか汚ぃとか思ったら離れてイィから」

そう前置きした上で、貴女の背中に手を回す。
抱きしめるほどの力はなく、でも心地良い重さを
少しだけ独り占めしていたくなったから。

『調香師』 > こちらも腕を回して。貴女が染みる程に洗った体の届かなかった箇所、背中に手を届け返すように

「嫌な事も、ちょっとあったかな
 うん。でもおかしい事じゃないとも思う

 知られたくないから、隠すよね
 だったら私はただわがままなだけだよね」

貴女がどれ程複雑な気持ちを抱いてこの場に来たのかは分からない
貴女の衣装が着なれない物となっていたのは、
彼女が語る事情の結果、と見て間違いないのだろうか

(知ってる、って言ったけど
 知らない事もたくさんある

 知って欲しいって言うけれど...)

知らない方が薫にとって快い事もある
その塩梅はどこなのだろう。私は全部知りたいけれど

黛 薫 >  
「別に、ワガママなのはイィじゃんって思ぅよ。
 ワガママってのは求める何かの為に他のコト
 犠牲にしてるって状態だから。『人の為』を
 優先し過ぎてるあーたは、その分ワガママを
 通すくらぃで丁度イィんじゃねーの」

密着するほど近付けば臭いにムラがあるのが分かる。
貴女が手を回した背中は本人の手が届かない場所、
直接嗅げば顔を顰めたくなるような臭いが残る。

「つーか、どーしても知られたくなかったなら
 あーしが会いに来んのガマンすりゃ良かった
 だけだし?知られたのはあーたのワガママの
 所為じゃなくて、あーしの辛抱の無さが原因」

貴女を汚すのを嫌がりながら、触れられてしまうと
離せないのは心の弱さでもあり、傷の深さでもある。

「誤魔化そうとしちまぅのも悪ぃクセなんだよな。
 言いたくなぃコトは言いたくなぃって変な理由
 付けずに最初から言ぇたらイィのにな。

 そしたら、あーたも気ぃ使わずに聞きたぃコト
 遠慮せずに聞けんのかなとか、考ぇるもん」