2022/01/11 のログ
『調香師』 > 「活動限界」

その言葉を反芻する瞬間に、彼女が触れていた指の動きは硬直する
指摘されればその可能性を考慮してしまう。未知の技術は則ち、再現の不可能性を示す

そして、近年中にそれが起こる可能性が高いからこそ
私は焦り、『サービス』という名の出会いを求めた


調香師は瞳を閉じる。人の体温に似せた体
彼女の纏う息は、珍しく匂いの持たない自然な物

「そういう物が来る前に、私は誰かの物になってみようかな。くひ」

嘘は付かない、ただ明言を避ける。『貴女の物』とまでは言えないこの心
私はその表現を恐れたらしい。得る事は則ち、失う事

胎に抱いた感触は、想像以上の密度がある
これを許しているという事は、あのいけすかない『彼女』の仕業なのだろうけど
...遺したい、遺せるものがあるのなら。最後にちょっと、笑う声が漏れてしまう物だ


鼻にかかる、引っかかるものは声だけでもない
先程吐ききった胃液の臭い。それも感じ取ってしまうのがこの嗅覚
きちんと綺麗に大事にしないと

ある種の逃避で次の行動を探す彼女は、シャワーに手を伸ばす為にその身を、遠ざけようかと動き出した

黛 薫 >  
触れている温もりが離れようとする。
けれど、離れない。離さないように掴んでいる。

「誰かの、なんて曖昧な言ぃ方じゃヤダ」

呟く言葉は剣呑さと、押し殺そうとして
隠し切れなかった必死さが滲んでいる。
口にして以降、自覚してしまった独占欲。

「ずっと不安なんだもん。あーたが誰かのモノに
 なっちまぃそーだったら、カードを使ぅって。
 あーしはずっと言ってっけぉ、実際のところ
 あーしが願ぅ前に誰かがおんなじコトをしたら
 あーたは断れんのかな、って。

 ……あーしが受け入れる準備出来てる、って。
 そー言ったら、あーたは『叶うはずだった』
 っつって『今のまま』を望んだ。だから……
 断るのが『出来なぃ』ワケではねーはずで。

 でも、望んでんだろ。誰かのモノになるコト。
 あーしはそれが怖ぃよ。怖くてもあーたの希望
 通すって決めたから、まだ使ってなぃだけ」

抱きしめた姿勢では顔を見られることはない。
軽く貴女の首に歯型を付けるような甘噛み。

「触ったなら、誰があーしのナカに『残した』か
 分かるよな。フィールは最初あーしの『全部』が
 欲しぃって言ってたんだ。

 でも、あーしはあーたを受け入れる予定があって。
 あーたにあげられるだけあげる覚悟もしてたから。
 ココだけ差し出して……代わりにあーたのコトを
 受け入れて、受け入れられるよーに、って……
 そーやってお願ぃしてきたんだ」

「あーし、本気だよ。あーたは逃げ道も用意して
 迷ったり悩んだりしてんのかもしんねーけぉ。
 その上で、あーしは『まだ』今のままの関係で
 探ってくって決めてるだけ」

「だから……『今のまま』じゃなくなるんなら。
 あーたがどっか行っちまいそーだってんなら。
 今の全部壊してでも、受け入れちまぅから。

 もし、あーしがお願ぃする前に誰かのトコに
 行っちまっても……奪ぅくらぃ、するつもり」

『調香師』 > 「だって、」

言い訳しようとした口を、甘噛みに食い込む刺激が遮る
軽く通す皮膚の感触。ソレが何で出来ているものかも、伝えた事はない

両の手で数えられるほどの数日前。まっすぐで不器用で、それでも貫こうとした想い
私はそれに触発されて、確かに『愛情』の形を知った。自身にソレが備わらない事も

私は、貴女から私に刺すようなその気持ちを。『愛情』と定義するだけの材料がある
私は、貴女に『特別ではあるけれど、それ以上ではきっとない』なんて話をしようとしていた

貴女はどう?なんて。聞こうとしていた私の事を、貴女はこんなに想ってくれているのに
揺れ動こうとする私の心を、振り子が戻る様に。大きく揺れる程、大きく引かれる
麻薬を吸った時と同様にそれ以上に、私の心を縛り付ける機構がある


「私は『調香師』だよ?どんなに乱されても変われない
 想えない私が悪いのかな。私には贅沢すぎる罰なのかな

 なんで、私は、届くのに、夢にしか出来ないのかな」

『友達』で居たかった。『友達』としてしか居られなかった
気持ちが非対称になってしまった時に、歩み寄るには大きすぎる枷を引き摺って、また動けない

私は本当に、ひどい事をしているみたいだ

ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/ロッカールーム」から『調香師』さんが去りました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/ロッカールーム」から黛 薫さんが去りました。