2021/11/05 のログ
ご案内:「落第街のどこか」に《KKP》さんが現れました。
《KKP》 >  
そこはまるで戦場であった。
そう、銃弾が降り注ぎ線香と爆発音、異形が闊歩する戦場。

彼女らにとっても戦場であった。
全く違う意味でだけど。

「判ってるわね?。あたしたちは今日は星座観測に来ただけ!
 あくまで!
 ぐうぜんに!
 巻き込まれただけだから!」

気合を入れてみんなに囁く、《KKP》の臨時作戦部長。
『偶然』というのを強調するのだ。
一般生徒がこんな夜更けに、こんな場所で何をするつもりか。
観察である。
勿論、彼女たちの趣味の。

情報としては、今夜、落第街に行かない方がいいという、ささいなこと。
これを得るために、委員会には毎日のように各方面への様々な「観測」や「取材」「調査」などの
申請を出しているのです。
なーに、何もなければ行かなければいいだけの事。
却下や注意を受けたら、それに対して情報を集めて計画を練るだけなのです。
その結果、今夜、落第街で抗争があると予想される――と、《KKP》の情報分析班の答えです。

《KKP》 >  
「あっ!、あそこっ!」

いち早く見つけたのは、忍者修行歴3か月の高等部生相当の学生。
園芸部だけど、感化され、最近は雄蕊と雄蕊が妙に色っぽく感じるようになったとかなんとか。
腐ってます。

「座標確認。衛星からの映像、回します」
「直接は駄目よ?。あくまで、偶然、見切れるぐらいで映ったぐらいで」

《KKP》、法を順守する団体である。
もちろん、肖像権なども。だから、偶然に映ったのなら仕方がないにしても、
目標として映したらダメなので。

「五行唐陣にリンクするあるね」

大陸からきている学生、科学と陣法を繋げる。
こんな技術どこからきたのか?
答えは、彼女たちの執念。
ただただ、男性×男性の世界を妄想するために。

どーん、どかーんっと、至近ではないが小さな瓦礫が飛んでくるほどには近く。
小さなささやき声で「きゃぁ~」と声が揃うのである。
「きゃぁーっ!」ではなく、「きゃぁ~♪」と黄色い声。
生金狼が遠くに見えたから。

ですが、すぐに目線を外します。
《KKP》会則、凝視は5秒以内、というルールです。

《KKP》 >  
「クロはいないの? クロは」
「グレイとホワイトなら確認・・」
「だれだれ?」

さっそく、撮影と似顔絵が描かれます。
戦場のような中、きちんと彼女らを守るフォーメーション。
撮影機器、これも精密機械に詳しい女子生徒作。
写真を取れば、それが6分割された形で記録される仕様。
そう、画像データを見ても見切れた形でしか撮れないのです。
合わせて初めて、しっかりと判るもの。
肖像権的なものの穴を潜るためのカメラなのです。

「そうね、白獅子と・・灰蛇というところかしら?」

仮の呼称を付けられます。
誰とカップリングさせるか。前か後かと小声や通信回線で議論。
腐ってます。

その頃の美奈穂 >  
その頃、この《KKP》成立のきっかけとなった小さな巫女さん。
美奈穂は、既にお布団の中。
すやすやぴーっ。
22時にはいつも寝てしまう美奈穂、早めだと21時過ぎには。
早寝早起きなのです。

窓を開ければ、家からでも閃光などが見えたかもしれません。
けれど、きちんと雨戸も閉めています。
戸締りは基本なのです。
音は、屋敷を守る用にある結界に阻まれて聞こえてくることもなく。
お昼に風紀委員として常世祭の取り締まりをして、今日もオトナポイントアップです、とか
満足した一日だったのです。

《KKP》 >  
『あっ、あ~っ!』
『シスター!、シスター!、しっかりして!』

念波で入ってくる、破壊音と瓦礫の崩れる音、そして悲鳴と切羽詰まった声。
もっと近くで見たいと、北斗七星観測班が表側に敢行。
あくまで、星座観測のため。

ですが、正面からは迫力がありましたが、その分危険度も高い。
当然です。
修道院に努める修道女なので厳密にはシスターではないのですが、
周囲からはシスターと呼ばれる彼女。
教会式の結界を張れるのですが、少しきつかったようで。
その様子を遠くから双眼鏡で眺めると、崩れた建物、その横で倒れたシスターを抱える、
演劇部歌劇団の若手エース。

「仕方がありません――ほっておきましょう」

異議なし、と賛同が得られました。
彼女らがこの程度でなんとかなるぐらいなら、観測なんてしなかったでしょう。

なにせ、日夜(主に深夜テンションで)意見の違いがあると、「ちょっと話し合いしてくる」と、
演習場で物理的な話し合いが頻繁に行われるのです。
嗜好が少しずつ違うため、意見の違いも多いのです。
ですが、演習場では少し問題が――過剰なダメージでは安全装置が働いてしまうということ。
彼女たちは話し合いをしたいのであって、勝負をしたいわけではないのです。
ですので、必然的に大ダメージを受けないようにするのが得意になったのです。
あそこで倒れており口から血を流しているように見えますが、口元のはケチャップでしょう。
迫真の演技でしたが、無事だと断じられていると判ると。
「ちぇ~」という感じで立ち上がり、こそこそと観測を再開するシスターの姿。
元気です。

《KKP》 >  
「新たに黒いロボット?が・・」
「男? 女?」

赤い姿の女性にはあまり関心をもたなかった面々。
仕方がありません。
今日ここにいる主体は《薔薇衆道会》の割合が多い。
そう、男×男が大事なのです。

「!――空をみてください!
 い、いま。
 白獅子が空に黒くて大きいのを――あっ!
 黒いのにぶっすりっ!?」

見た角度的にそう見えました。
彼女の妄想の中に、どのような光景が描かれていたのか。

「――眼鏡男子に、黒くて大きいのがぶっすり・・」

鼻血を出した女子もいます。
いい収穫物です。

「あっ、編集さん?、あの、今、ちょっと忙しくて・・。
 えっ? 読み切りですか?
 あっ、えと、ヘタレ男子がオレオレ系な白髪の人に。
 『俺の黒い大きいのを突き刺してやるよ』と迫る感じで・・。
 え?、あっ、はい。
 ティーンズ雑誌ですか?」

編集さんからの電話に出る、プロデビューした子。
危険な場所ですが、編集さんからの電話に出ないわけにはいけません。
口調的に、電話先の女性編集者は酔っている感じです。
 

《KKP》 >  
「――!。トラトラトラ。
 オリオン座班が委員会に見つかった模様。
 フォーメーションD、
 フォーメンションD!
 撮ったスチルとかは確保し撤退。
 足止めにオリオン座、漢女座班がかかれ!」

委員会に見つかって、せっかくのネタを取り上げられてはいけないと。
素早く撤収準備。
大事な撮影機材やイラスト帳は、脚が早く隠密が優れた女子生徒たちに。

「――こ、こわかったんですぅ」
「私たち、星座見に来てたら、急にどーんて」
「怖くて動けなくて」

演劇部歌劇団監修の、怖がって動けなくなった一般生徒の演技です。
助かりました!、と傷がついた膝(とっさに傍の壁にニーキック)で涙(目薬)を零し。
助けが来た・・と委員たちに態度で示す彼女たち。
その後ろに回した手、親指だけ立ってます。

彼女たちは厳重注意を受ける事でしょう。
ですが、そのおかげで大多数のメンバーが無事に脱出です。
今日のネタで、年末の戦場は勝つる!
そう確信した、《KKP》の幹部たちだったのでした。

ご案内:「落第街のどこか」から《KKP》さんが去りました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」に『調香師』さんが現れました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」に黛 薫さんが現れました。
『調香師』 > 彼女は再び、貴女の手を引いてこの部屋を訪れる

『バスローブ、使っていいよ』との言葉が遺される
貴女がそれに着替えるのか着替えないのか、その部分は委ねられよう
少なくとも『調香師』は、普段着のままやってきた

以前までと違う事と言えば。扉を閉ざした後に立ち止まった事だろう
気配が、貴女へと視線を向ける

「このお部屋の電気、付ける?付けない?」

黛 薫 >  
「ん……」

バスローブに着替えてきた黛薫は、貴女の問いに
少し迷う様子を見せた。互いを知り合うならよく
見えるに越したことはないが、肌を晒すことへの
羞恥はある。しかし、前回の暗闇の中での視線を
思い返すに、少なくとも貴女が見る分には照明の
有無は関係ないのだろう、とも考える。

「……んじゃあ、点けとぃてくださぃな」

消しても変わらないなら、相手の姿が見えた方が
まだ安心できると判断した。

『調香師』 > 「ちなみにオススメは消したままだよ。いひ」

ぱちり、スイッチを押すとこの部屋の簡素な全容は露わになる
中心にベッド、燭台。マッサージオイルを仕舞う棚は壁際に

見えるなら手を貸す必要もない。彼女はすたたとベッドの方へ
お先にと座っては、貴女の方をじっと見つめている
今回の事はお仕事ではない事。実はちょっと、浮かれているのかもしれない

電灯のスイッチの場所は分かりやすい
自分のオススメがどう影響するのかなと、その点も交えて見つめている

黛 薫 >  
「どーーして答ぇてから言ぅんすかねぇ……」

施術台に腰掛けた黛薫は呆れたように呟く。
浮かれる貴女とは対照的に緊張しているのだろう、
姿勢良く背筋が伸びている。

口調こそ普段通りだが、貴女のおすすめを聞いて
照明を消しに行こうかと足が動き、しかし勝手に
施術台から降りて良いのか分からず思い留まって
行き場を無くした手が彷徨った。言葉はともかく
仕草は雄弁。そこまで含めて普段通りと見るかは
貴女次第だ。

動いて良いか躊躇うくらいなら、貴女に頼んで
消してもらっても良かったのだが、一度点けて
もらったのにすぐ消してもらうのも気が引けた。
人に『お願い』するのは苦手らしい。

『調香師』 > 「あなたを知る為には、一言でも多く喋りたいよね
 そう言ったら納得してくれるかな?

 そして私は、意外とあなたの事を見てる」

躊躇う歩みに首を傾けて。それを指示と取る様に、
規則正しく辿り着いては貴女の方へと目線を向ける

「良いかな?」

肯定すれば、またこの部屋は暗闇に戻る
そして、目線はまだそこに残っていた

黛 薫 >  
「見るより話したぃ、って理解でよろし?
 つっても、見られてんのは知ってんよ」

対話を望むのなら、導線は此方が用意しよう。
此方の視界は役に立たない暗闇の中、視線を
辿って手を伸ばし、貴女の頬に触れた。

「見ぇなくても、見られてんのは分かるんだ。
 それがあーしの『異能』。『視界過敏』って
 名前が付けられてる」

「見られると、触られてるように感じられる。
 怒ってる人の視線なら殴られるみたぃに痛い。
 怖がってる人の視線ならつられて鳥肌が立つ。
 ……落第街にいたら、どう見られると思ぅ?」

『調香師』 > 「今日はその両方。知る、その程度を私は理解してないから
 でも、その質問は的を得てるよ

 見て、聞いて、触って。それから嗅いで知って欲しい」

振れた手に、委ねる様に
首の重さが程好くかかる

「見られてるのが分かる異能
 そうなんだ。それは考えた事なかったな

 さっきまで隠れてたのも、恥ずかしがり屋
 そういう風に私捉えてたな」

今更両目を覆うように掌を乗せても手遅れ
分かっていてそうするのは、真面目な調子の乗り方のつもり
考えるような唸り声。自分自身がどう見られるのか
人形にそれを考える事なんて無かったから

「...どう見られるんだろうね
 すくなくとも、そう聞く事は快い事じゃないって言ってるよね
 その例え話はどれも、あなたは好きじゃなさそうだもん」

黛 薫 >  
「欲張りだな。最初からそーでも良かったのに。
 知りたぃ、知って欲しぃって。素直なキモチ、
 あるんだなって……少し、安心した」

形を確かめるように、中指で耳の裏に触れる。
撫で下ろすように首筋、顎、鎖骨にまで指を
優しく這わせた。

「もしかしたら、恥ずかしぃのもあるかも?
 でも嫌だったり怖かったり、別の強い気持ちで
 上書きされるから……どれが理由かは自分でも
 いまいち分かってなかったりして」

向けられる視線は快くないモノばかり。
貴女の感想に応えつつ、問いの解も織り交ぜる。

「でも、落第街ってわざわざ人のこと見なぃんだ。
 表の街だって、事と次第によっちゃ裏の街より
 残酷な目で見てくることはある。

 あーしはそれが嫌で、逃げて、落ちて、それで
 ……戻れなくなった。表の街には居場所が無ぃ。
 裏の街も、別に受け入れちゃくれねーんだけぉ。
 何でか、居場所が無ぃのにいる人が他にもいる。
 ヘンなコト言ってんな。でも、嘘じゃないんだ」

「あーたも、キレイなトコにばっかいたワケじゃ
 ねーんだろ。じゃなきゃカフェで話したような
 言葉、出てこなかっただろーから」

『調香師』 > 「分からないかな。私は最初から、『したい事・したくない事』しか言ってないよ
 人の為になる事をしたい。だから調香師で居たいって
 出来なかった筈の事をしなくない。人は殺したくないって

 私は元々、目覚めた場所が真っ暗だったから」

『綺麗な事ばかりじゃない、分かってるよね』
指の隙間から通す。今は揺らがず、透き通った目線

人肌の温かさと柔らかさ持った身体をなぞる指先
咎める様子も勿論無く

「何処にも居られないのなら。もしかしたら、私を羨ましがるのかもね
 私って、誰にも見えない覚えられない。そんな『異能』を持ってるから」

自分でも驚くくらい、その情報はすんなりと出てきた
何を以て今まで隠してきたのか。考えられなくなってしまった

貴女が触れている限りでは、彼女は確かにそこに『居る』
気の迷いだと、思われてもおかしくは無いのだろう

黛 薫 >  
「あぁ、いぁ……言い方が曖昧だったか。
 したぃのは『人の為』だけかと思ってたんだ。
 んで、その『人の為』の中にあーた自身の為は
 入ってんのかなって。それが分かんなかった。

 あーたが造られた存在で、かつ『人の為』しか
 したぃコトなかったら、それって造った誰かの
 したぃコトじゃねーの、みたぃな不安」

「今はあーしのコトを知りたくて、あーたのコトも
 知って欲しぃ。それがあーたのしたいコトだって
 信じてっから。だから安心したって話」

目覚めた場所。成長と共に自我を確立していく
『生命』には無い概念。造られた存在の証左。
けれど体温があって、人肌のような感触がある。

頭での理解と、心での理解は乖離していて……
どうしてだか、それをすんなり受け入れられた。

「そっか。だから……忘れなぃで欲しぃって。
 そう言ったのか。あーたがその気になれば、
 あーしもあーたのコトを……」

ふと、言葉が途切れた。ぱち、ぱちと左の眼……
オパールのように色が変わる瞳を瞬かせた。

「……ヘンなコト言って良ぃ?初めてあーたの
 お店に来たとき。溶媒の抽出の時間待ち?を
 してたよな。あのとき……あーたがそのまま
 消えていなくなりそぅで、怖かったんだ。

 いぁ、あーたがそういう異能持ちなんだから
 実際に消えてたらそんな違和感、不自然さすら
 気付かなかったはず、なんだろーけぉ」

『調香師』 > 「寧ろ、私は私の事ばっかり考えてるよ
 ふひひ。実はあのポイントカードもね

 ...その理由は考えて欲しいな。私は言い出したくない事だもん」

存在を確かめるような指の動きが止まった隙に、思考が乖離を纏めている間に
するりと先程まで触れていた感触が消える

その懐に滑り込んだだけなのだけれども
薫の首元ですんと、鼻を鳴らす音がする。影の姿は、小動物の様で健気な物であった

「...私の異能が出てたのかな。でも、どうして
 あなたの言う通り、私の力は悲しい位に完璧だよ

 気付ける方が、おかしい」

自覚していないだけで、無自覚の暴発は時々あったのかもしれない
しかし、今まで不都合がなかったのであれば、通常だったら気付かれない
フィルム回しの映画で登場人物の一人が1コマ欠けたとして、大して気にされはしまい

『見た事がある』
彼女にとってはそんな事ですら、想像だにしなかった

黛 薫 >  
「3回来たら『何でも』お願いを叶える、か。
 それが『自分の為』ってコトは……ただ単に
 『人の為』の欲求を満たしたぃってだけじゃ
 無ぃ、って受け取ってイィのかな」

「自分じゃ出来なぃ、願われなぃと出来ない。
 そーゆー『したいこと』がある、のかな」

「じゃあ、あーたが求めてて、求めて欲しぃのは」

いつか聞いた子供遊びの質問を思い出す。
曰く"右の手で掴めないモノは何でしょう?"

答えは、自分の右の手そのもの。

「……『あーた自身』?」

忘れられたくない、と彼女は言った。
『誰の手も届かないところに消えてしまえる』
彼女の『異能』は、その願いの保証を否定する。

縄で繋いだとて、縛られていないなら意味がない。
籠に閉じ込めたとて、扉が開け放たれていたなら
軛にはなり得ない。

所有、或いは隷属?どんな言葉で縛ろうとも、
いつでも軛をすり抜けられる彼女のはその関係を
自分の意思でしか繋ぎ止められない。

「……だから、忘れられたくなぃ?」

『調香師』 > 返事はない。その腕が、貴女の身体に抱き着いてくる
バスローブより、その内側。貴女の身体に直接


返事は出来ない。彼女も屈折しているのだから
『忘れないで』と言った時、その言葉を信じた事はあったか?
誰にでも容易く忘れられてしまうその異能を抱きながら

現代に目覚め、自身の使命を問うた時の答えは暗殺
それが出来てしまう体になっていて。拒む理由はどこにも無く、
『マスター』のいない己は未定義、相手の言葉だけで倫理を測る
到底信じたくはない事も。彼女は全部鵜吞みにしてきた

不信感を燻ぶらせ続けた過去の遺物が溺れた世界
『人の為』という、形骸化した使命感と、
『今度こそ良い人に出会えますように』との、少女のように甘い甘い夢

口にしてしまう前に、必死に飲み込む。貴女はきっと、理解してしまうから

「私が最近、出会ってきた人は
 きっと良い人、ばっかりだったんだよね」

代わりに、当たり障りのなさそうな事だと
自分が思っている言葉を零す

貴女に縋りつく体の震えまでは隠せないのは、
ソレがただの造り物の『少女』であるからなのだろう

黛 薫 >  
歯噛みする。『忘れない』と交わした約束が
どんなに脆い土台の上にあるか知ってしまった。
いや、忘れなくても……自分は明日も知れぬ身だ。
忘れるより早く逝ってしまってもおかしくはない。

素肌に触れる感触。抱き止める資格があるだろうか?

貴女は肌の奥の筋肉の収縮、僅かに上がる体温も
きっと如実に感じ取るのだろう。お互いの内面を
全て晒し出すこの場に於いては隠す意味すらない
緊張と羞恥。年頃の乙女としては妥当な反応だが、
落第街の不良学生には似つかわしくない反応。

「……イィ人だから、奪ってくれなぃ?」

それなら……『悪い人』を待てば良いのだろうか。
彼女が連れて行かれる、そんな想像が脳裏に過ぎる。

それは、あまりにも。

「……なら、あーしは悪ぃ子だよ。知ってんだろ。
 悪ぃ子だから、後の責任とか約束守れるかとか。
 そーゆーの、分かんなぃ。もしあーたが異能を
 使って忘れられようとしたら、きっとどうにも
 出来ねーし、そもそもあーたよりあーしが先に
 死ぬだろーから、そしたらおしまいだ」

「だから」 「怒ってもイィよ」

胸の中で震える貴女に自分の顔は見えていない。
抱き寄せるように深く、貴女に密着して。

その首筋に、歯を立てた。

力加減は分からない。少しの間でも、跡が残れば
良いと思った。血が出るだろうか。痛いだろうか。
所有と呼ぶには浅ましいが、守れもしない口約束を
交わすくらいなら、刻み込んでしまいたかった。

「もう3回、通ぇばイィのかもって思ってたよ」

「だけど、やめた。そーやってあーたの言う通り
 待ってたら、良ぃ人みたぃだから。だから、さ。
 酷いコトする、きっと。それであーたを手元に
 置けるなんて、甘い考えも出来ねーよ、でも、
 知るもんか。なぁ、言いたいコト、分かるかよ」

泣きそうな声で、未整理のままの内心を吐き出す。
無意味であってもせめて今だけでも逃げられない
ようにと、きつく貴女を抱き寄せたまま。

『調香師』 > 「わかんないよ、言いたい事」

声は抑えたまま
喋っていると余計ない言葉を落としてしまいそうになりながら
それを伝えない、と言う選択肢は失った

こんなにきつく、胴から押し出されようとしている


「でも分かった事もある。あなたも『悪い人』
 でも『悪い事』をするのは、へたくそなんだね」


ほんの数時間前まで、自分に向けた反省と同じものだった

一度見せた。彼女の身体には血の代わりに『匂い』が流れている
噛まれている事に身じろぎもなく、にじみ出たのは甘く暖められたお菓子の香り。キャラメリゼの風味
ブリュレを模倣するような、芳香の液。バニラエッセンスの様な物、舐めればきっとえずく様に苦い

自傷の『悪い人』へ、そんな人にはきっと丁度いい罰の味

黛 薫 >  
「分かってるよ、どうせ下手だってコトくらぃ。
 あーたの望む言葉かけられたら良かったって
 思ぅよ。でも、言って何になるっていぅんだ。
 言ったらあーたはいいよって言うかもだけぉ、
 それであーしに何が出来んだ、忘れなぃって
 言って本当に忘れずにいられるか?その前に
 死んで忘れる以前の問題になるかもなのに?
 おんなじ無意味なら、空っぽな言葉でなんか
 済ませたくねーよ。あーしは、あーたが……」

乱暴に貴女の身体を引っ張り、施術台に押し倒す。
全体重をかけたとて、その気になれば貴女は容易く
抜け出してしまうのだろう。だけど。

「……あーしの中に残す保証が出来ねーのなら、
 あーたの中に残すしかねーだろ。あーたなら
 どーせ忘れねーけぉ、埋もれずにいられるか
 どうかは分かんねーし、あーしが何したって
 あーたにとっちゃ大したことじゃねーのかも
 しれねーよ。でも、何もせずにいられるほど
 あーしは賢くねーんだ」

感情の吐露は時間稼ぎでもある。

ここまでしておいて、どうすれば痕を残せるか
肝心の手段が思いつかない。バスローブは床に
滑り落ちて、痣と切り傷だらけの裸体が貴女を
押さえ付けている。

元々が持たざる者だ。差し出せるものなんてないし
まして奪えるものなんて。だから、貴女にとっては
つまらない行為かもしれないけれど……選べるのは
その程度しかなくて。

押し倒した貴女の唇を奪った。