2021/11/06 のログ
■『調香師』 > 押し倒された時、少女は貴女の事を見上げていた
感情に振り回され、冷静に衝動を探す貴女へ
(私。さっきまで、こんな目をしてたのかな)
言葉を受け止めながらも、まるで他人事の様に想う
必死にならざるを得ない。目的も見えていないのに
ただただ、相手に『何か変えて欲しい』、祈る様な気持ちが抑えられた両手から伝わってくる
(もう私、随分と酷いことをされたのにな
無茶を言われたし、用意した香りは買ってくれないし
私の生き方を曲げさせて、『人の為』って信念を徒に保留して
『なんにもできてない』って顔、しちゃうんだ)
感じた唇の圧に初めは無反応だった『調香師』
前触れもなく、滑らかな舌を潜り込ませた。貴女の唾液の匂いを知りたがった
サンプリング故に。それを深いキスと言うには、余りにあっさりと離れていくだろうが
■黛 薫 >
すれ違いのように小さく見えて、実は大きな認識の
齟齬。自身の行い、存在への過小評価は黛薫が己を
認められた経験がないことに起因する。
だから、自分が残した『痕』が見えていない。
見えていないからどうにかして『痕』を残そうと
不器用に、しかし無意識に優しく探っている。
採取した唾液の香りにさしたる特徴はない。
ごくごく普通の、特別からは程遠い女の子。
滑り込んできた舌を受け止めることも離れていく
唇を追いかけることも出来ずに、泣きそうな顔で
貴女を手放すことだけを恐れている。
燐灰石色の右目は涙に濡れ、戸惑いに揺れている。
対照的に爛々と煌めく左の瞳は貴女を見据えている。
行動も、言葉もうまく定まらない中で。
左の瞳だけが一切揺れることなく貴女を見ている。
逃げようと消えようと、忘れまいとでも言うように。
■『調香師』 > この暗闇の中でも。或いはこの暗闇の中でこそ
その左目の光を見逃しはしなかったのだろう
『その目は私の本質を見抜いている』
...忘れられた遺物である、私の存在そのものを
手を伸ばす。潤んだ色の宝石ではなく、
まっすぐ届く、私が見込んだ蛋白石
その下瞼を親指で、静かになぞった
「あなたが私の事。忘れるなんて、思えなくなっちゃった」
今、彼女の姿が一瞬ノイズに飲まれたとして
より鮮明に、貴女の虹色の瞳に映し出されているのだろうから
■黛 薫 >
ノイズに包まれた貴女の姿は、ほんの一瞬右目の
視界から失せて──『何もないが見える』左目の
視界だけにその姿を表した。
「っっ、やめて!!」
悲鳴のような、慟哭のような声が上がる。
貴女の姿を忘れも見失いもしなかった少女は
痕を残すための悪辣な手段を探すことを忘れ、
ただ心の向くままに貴女を抱きしめた。
「お願ぃ、やめて。いなくならないで。
忘れなぃよ、忘れなかったよ、だから、
だからイィだろ、こんなあーしだけぉ、
何が出来んのか、分かんなぃままでも」
「手放したく、なぃんだよ」
■『調香師』 > 「ふふ、ありがとう」
闇の中で、彼女は柔らかく笑った
非力な中でも精いっぱい、抱きしめられれば身体も僅かならが軋みも上げようが
胸の中で起こる軋みよりもずっと、心地よい物だった
「私が行かせたくなかった様に
あなたも、私に行って欲しくない
同じ気持ちだったら簡単だね。手を繋げるから
手が繋げなかった時でも、私には印がある
『Perceptible Tail』。その香りの『尻尾』を掴んで。そこに私は確かに居るよ」
彼女も優しく抱きしめ返す
純な『ただの少女』の想いを、素直に受け止められる器となる様に
■黛 薫 >
「忘れなぃ、忘れなぃよ」「絶対に」
見て、聞いて、触って。
それから嗅いで知って欲しい、と。
初めに貴女が言った言葉の意味を理解する。
暗がりで揺れる真白いその姿を目に焼き付ける。
柔らかな笑い声、耳元で囁く声に耳を澄ませる。
人と何ら区別のつかない肌の感触を染み込ませる。
そして──いつか見失ってもまた捕まえるために。
視覚でも聴覚でも触覚でもなく、『調香師』たる
貴女の象徴、その香りを記憶に刻み込む。
嗅覚は最も深く記憶に結び付く感覚だと。
そう教えてくれたのも、他ならぬ貴女だった。
「はぁ、ぅ゛……ごめ、あーし、言いたくて、
言えなくて、それで、代わりとか、ないけぉ、
他に、思ぃつかなくて、こんなこと、して。
だから、ごめんだけぉ、後悔とか、ないし、
でも、ひどいことは、したから……」
貴女の答えに安堵して、張り詰めていた緊張の糸が
切れてしまった。ぼろぼろと涙を流して、今までの
行い……噛んだり押し倒したり口付けたりに対する
謝罪の言葉を溢す。
力が抜けて、ぺたんと施術台に座って立てなくて。
離したくないから辛うじて貴女の身体に手を回して
いるだけ。
■『調香師』 > 「でも、言ってくれた。忘れないって」
彼女の香りは千紫万紅。その時々で『誰かの為』の香りとなるが
...覚えておけばいいのは今の所ただ一つ
『エフィメール・フィデル』は私の為の香り
貴女が纏ってくれている限り、記憶がなくとも忘れることは絶対にない
貴女は自分の中の戸惑いと屈折を乗り越えてくれた
そう思えば、ちょっとした『悪戯』なんてずっと大きなおつりが来てしまいそうなものなのだけれど
「で。後悔、してないんだ?」
その声色になんだか、不穏な物が混ざってきているような
例えるならば、ハロウィンにお菓子を持っていない事を見抜いた子供の様な...
「私の事、『好き』?」
『トリック』だった。だって、悪い事をしたなら対価をいつも求めている
言ってしまうならそう、自業自得
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」から『調香師』さんが去りました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」に『調香師』さんが現れました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
「ン゛っっ」
例えば落第街での腹の探り合い。視線が読める
有利があれど、腹芸が出来ねば有利は取れない。
代行を引き受ける黛薫は決して舌戦が苦手では
ない……ないのだが。
どうしても邪魔をするのはやはりその良心である。
必要のない場面では無駄に誠実で、だから嘘でも
後悔したとは言えなかったし、その点を突かれた
問いから逃げることも出来ない。損な性格である。
押し倒したときにバスローブも脱げ落ちているから、
密着する肌の体温上昇が面白いほどにわかりやすい。
暗がりとはいえ普段視線を隠してくれるフードにも
頼れない現状、黛薫の顔はどんどん赤くなる。
もじもじ、そわそわと貴女の腕の中で身じろぎ、
追求からの逃げ道を探して視線を彷徨わせる。
だけど、どうにも逃げ場がなかったから。
「……キライだったらあんなコト言わなぃ……」
苦し紛れに、直接的な表現だけ避けて絞り出す。
背けた顔は耳まで真っ赤。密着した薄い胸の奥、
早くなった鼓動が貴女に伝わるだろう。
■『調香師』 > 「んー。ふふふ。ずっとゆらゆら逃げられてる
でもほどほどに、許してあげても、いいのかな?
言葉に嘘はなさそうだから。それを読める力はある」
ただ、言葉以上に素直なのは貴女の身体や態度の方だ
それを測る能力に秀でていないとして人並あれば人並は感じよう
拍も熱も伝えられる。前者は自分には備わっていないし後者も人を真似ればそれ以上変わりようも無いのだが
(今ってきっと、とってもかわいい顔してるんだろうなぁ)
その心が好奇を求めた時、齎されたふとした衝動
今度は貴女がベッドに倒れ、自分は馬乗りになっていた
もっとちゃんと、見せて欲しいから
■黛 薫 >
安堵で力が抜けきっていたが故の油断?
否、油断していなくても抵抗の余力はなかった。
「ちょっ、と……待っ」
弱々しく腕を持ち上げて顔を隠すような仕草。
頼り切りのパーカーどころか、布一枚身に付けて
いない現状では、辛うじて顔の下半分を隠すのが
精々だった。口元が見えずとも、潤んだ瞳と熱を
帯びた呼吸から表情を推察するのは容易だった。
灯の落とされた部屋の中、肌から髪まで真白な
貴女の姿を見上げている。初冬の淡雪のような
白の中に、夏の海のように透き通った蒼い瞳が
自分を見下ろしている。
「……っっ」
顔を隠しているのと反対側の手で、弱々しく貴女の
指を握った。抵抗のつもりだろうか、それともその
逆だろうか。
■『調香師』 > 「隠されちゃった、隠れちゃった」
貴女を見ている、その触覚は途切れる事は無いだろう
無垢を象る少女の色は、それでも染まる事はない強かさを備えている
脚の間から、空いての身体の細さを知ろう
同時に、タイツ越しに下着を纏わぬ肉の柔らかさを自ずと伝えよう
少女は笑っていた。一見、今までと変わらぬ仕草で、可愛らしく
「でも、今日はやめないの。貴女が許してくれる限りはやめたくないな」
握られた指を撫でる。その真意を知るにはあまりに言葉が足りず
彼女はいつも、その問いかけから全てを判断していた
「貴女の望む事は、人≪私≫の為?
だったら私、『どんな事』でもしたいなって思うよ」
■黛 薫 >
黛薫の身体は不健康に痩せ細っている。
さりとて栄養不足で倒れそうというほどでもない。
例えるなら、虐待を受けて満足な食事を摂れずに
いた子供が正常な家庭に引き取られて、ようやく
まともな食事を知ったような、そんな印象。
僅かに浮いた鎖骨、肋、腰骨。その合間を埋める
ごく薄い脂肪。均整は取れているけれど、見目を
気遣う余裕がなかったから美しくはなれなかった。
そんな女の子の身体。
「……どんなことでも、したいってのは、その。
あーたは、何してもイィって……いぁ、それは
言ってるコト繰り返してるだけになるよ、な?
したぃ、なのか、してもイィ、なのか……。
って、だから、つまり、えっと。あーしが
したぃコトを、あーたもしたぃって話、で。
だったら、あーしがしたぃコトしてもらぅと
『人《貴女》の為』になる、のかな……?」
混乱と整理。今この場で『人の為』と言うなら
『人』は『黛薫』か『貴女』の2択でしかない。
『自分の為=自分がしたいこと』も『人の為』と
言って差し支えないのに、迂遠に『貴女の為』を
探している。
タイツ越しに伝わる柔らかな肉の感触。
跨って密着する肌に感じられるのは熱を帯びた
体温、もどかしそうに揺れる微かな身体の震え。
求めるところはきっと如実に伝わっているのに。
口に出すのが恥ずかしい、或いは慣れていない?
湿った吐息を漏らしながら、言葉を探している。
■『調香師』 > 「本当に、そんなに難しい話なのかな
ぐるぐる回って考えている間に、ふと
言葉の意味も変わっちゃったりして
私知ってるよ。言葉は芳香と似ている
繊細で、その1つでも歪むと感じ方が大きく変わっちゃう」
以前、その生肌にただ触れた時に貴女は泣いた
貯め込んだものをひたすら押し流すように長い間
か弱い少女である事を許されなかったその造形
触れた場所にあった傷の跡を、よく覚えている
「敢えて言うね。私の言葉にはきっと、大した意味なんてない
あなたが嬉しいと私も嬉しい。そんな小さな事しか、私出来ないんだもん」
薫が近づいてくる。近づけているのは自分
闇に包まれた世界に映し出される幼気な女の子の心へ
今お似合いなのは、先程の『悪い事』のお返しだ
隠す手をそっとどかして、きっと触れるだけの口づけ。香り落とし
■黛 薫 >
「は ぁ、ぅ」
ほんの一瞬の接触。柔らかく啄むような口付け。
言葉で作った迷路の中に自分の本心を閉じ込めて
守ろうとした一線はいとも容易く瓦解した。
「だめ、だめ、だめ、いかなぃで」
貴女の顔が離れることを怖がって手を伸ばす。
隠すものを失った表情に浮かぶのは孤独を埋める
希求と押し込めていた弱さ。吐き出せずにずっと
噛み殺してきた恐怖と、飲み下してきた涙。
「あいして」 「おねがい」
望むのは悪意のない視線。痛みのない接触。
怖がらなくても良い、疑わなくても良い時間。
ぼろぼろに引き裂かれた心の残骸を包む殻の内側に
隠れなくても、剥き出しの自分を曝け出しても良い
──ずっと得られなかった『愛』を。
縋り付くように、貴女の服の裾を握る。
■『調香師』 > 「私はずっと『そこ』に居たつもりなんだけどね」
柔らかな枷が距離を保つ
解けそうな筈の力でも、遠ざからず
貴女が求めてくれたモノ≪私≫
「あなたがそう言ったのは、私を信じてくれるようになったからかな
目線が身体を撫でて感覚を塗りつぶしちゃう、だっけ
人を信じる事って、本当に難しそうだな
だから、お願いされなくてももう一度伝えるよ
私はここに居るし、ここで待ってるから」
彼女にとって、究極的な思想の根底。『愛』、香りの様にそこに在る事
そこに付随する行為は全て求められた事、或いはどの程度かは求めてみたかった事
動かず離れずでそれを伝えられるなら。いつまでだってこうしていよう
被造物らしいのか。それとも、人間らしいのか。判断した事は無いけれども
■黛 薫 >
手を伸ばす。貴女の顔が離れないように引き寄せて、
でもさっきのような衝動がないと自分から口付ける
勇気は出なかった。
「見て、聞いて、触って、嗅ぃで、知って欲しぃ。
そう言ってた。あーしもおんなじ。知って欲しぃ。
見て、聞いて、触って、嗅ぃでいぃから、だから、
あーしのコトも、全部、知って欲しぃ」
貴女の髪を撫でるように手が降りていく。
首を撫でる。血潮代わりの香油の流れを感じる。
喉元に触れる。人と変わらず声を発する器官。
鎖骨を指でなぞる。整った美しさに目を奪われる。
溝尾に親指を乗せる。あまり触れた経験のない所。
そのまま、流れるように胸を手が掠めて。
気遅れしたように引っ込んだ。
■『調香師』 > 「いいよ」
色香。それを纏わせながら
今の彼女の目線は透明。正確には、未定義
彼女の口は、言葉を探り続ける
呼吸が貴女を感じ、感じさせる距離を保ちながら
「でも、決まってないんだよね
知りたいのはそうだよ。でもね
あなたの知ってる全部と知って欲しい『全部』
あなたの求めている愛と本当に欲しい『愛』
それらは一緒なのかな」
彼女は言葉の機微を探る。香りを調合する時と同じ
或いは、それ以上の繊細な感覚を用いて
真似る様に指先は動く
包帯の巻かれた首に沿って、喉元をくぐり
美しい色と形を残した鎖骨を下り、変色した鳩尾に指が沈む
その胸まで触れた手は、躊躇いを忘れてしまっていたが
■黛 薫 >
「……しってる、もとめてる……それ、は」
瞳に浮かぶのは当惑。自信が持てない故の揺らぎ。
愛したことはない。愛されたことは……あるかも
しれないけれど、それを受け入れたことはない。
隠したことはあれど、知って欲しいと曝け出した
経験なんてなかった。
だから……自覚と求めるモノが一致しているかが
分からない。知るところから始めないといけない。
ざらざらとした包帯の感触。微かに滲む組織液。
痩身を象徴するような骨の感触、暴力の名残り。
小柄な体躯を鑑みても小さくて、しかしほんの
微かに柔らかさを感じる膨らみに手が触れて。
「ん、く」
明らかな熱と湿り気を帯びた嬌声が喉奥で鳴った。
■『調香師』 > 「私は知ってるよ。感じるって、結構難しい事なんだ
だからそれは技術として要求されて、特別組み込むに至る
私も感じるのかもしれないけれど
そのスイッチは、思ったよりもずっとずっと奥にあるんだろうか」
その言葉を反せば、艶やかに自然と漏れ出た事
想ってくれた事を『調香師』は貴女の思うよりずっと、真摯に受け止めようとしている
応えられるほどの器量を、未だ己の中に測り切れずとも
「すぐに答えを出す事も出来るけど
時間をかける事も出来る、それはそう
知りたいし、触りたいと思うけど
それだけを急ぐと、全部塗りつぶしちゃいそう
あなたは意地悪だけど。私より透き通ってるんだもんね
...ふひ」
片手で足りる会合で、『白』にも染められ得る唯一の色
屈折しきっていた『透明』を抱く貴女へ
「時間をかけるという事は。今、手を離すという事
うん、とっても怖い話。だってあなたが居なくなるかも
でも約束してくれたから。『覚えてくれる』って
約束してくれたあなたなら私は、いいよ?」
■黛 薫 >
「……難しぃよ、わかんなぃよ、あーしには。
感じるって、感じてても、わかんなぃ」
分からないことを分かっているフリをして
誤魔化しながら引き出し、今理解したことを
さも最初から知っていたように言葉に乗せる。
そうやって舌先三寸で相手だけでなく自分も
騙してきた黛薫の溢す弱音。
「あーたは、あーしを信じてくれてるけぉ。
あーしがあーしを信じるのって難しぃんだ。
だから、怖ぃよ。手を離すのも。前と同じ。
初めてこの部屋に来たときも、怖かったよ。
今だって、離れたくなぃよ」
求め方を知らない。求めている愛の形を知らない。
だから幼子のように不器用に、貴女の服の裾を引く。
離れるのが怖い、温もりが恋しい。分かる部分だけ
拙く伝えて、しかし分からない場所に踏み込めない。
■『調香師』 > 「カフェでもそう言ってたよね
言葉は信じても良いけれど、あなたは信じないで
何をするか自分でも分からない」
自分に対してもそう言い続けてきたのだろう
これまでと同様にこれからも、貴女は貴女に騙されている
素直であれば彼女の為になるのかと言うと。それもまた難しい話
自分を騙していなければ、彼女はきっとなんにも出来ない
ただの小さくて弱い、女の子である事を誰よりも恐れているのだろうから
「だったら、あなたも私を信じる?
それが一番簡単かもね
だって、あなたは『私』を持っているんだもん
遠くに居ても傍にある、それを作るのが私のお仕事
遠くに居ても離れていない、それを信じてくれるかどうか」
胸からなぞり、顔に上った指先は髪を梳く
表と裏の色を混ぜる様に、弄びながら
「答えてくれると嬉しいな」
■黛 薫 >
「……ずるぃ。ずるぃよ。信じられなぃなんて、
言えないって。分かってる、くせに……」
信じている。今はもう否定の言葉を口にする気も
なくなった。信じているから今は離れても平気と
口にする貴女を信じられるなら、離れても大丈夫。
そうやって自分に言い聞かせてみる。
でも、ずっと押し隠してきた心はどうしようもなく
弱ってしまっていて、独りになるのを怖がっている。
しかしその気持ちを認めるのは、貴女を信じきれて
いないからではないか……そう思うのはもっと怖い。
するり、手から力が抜ける。
離れても大丈夫という強がり。
「信じてる。近くにいなくても、くれた香りが
傍にあるから。でも、怖ぃのも本当、だから。
あーたも、あーしのこと、忘れなぃで欲しぃ。
香りが消える前に、また染み込ませに来てよ」
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」に『調香師』さんが現れました。
■『調香師』 > 「ずるい事、したかったんだよね
ずっとずるい事されてきたから」
やり返した。そう見せつける様な表情
悪い事をしたら勿論、悪い事をされるとしても
「お店を持ってる私に『来てよ』って言っちゃうんだ
うん、悪い気持ちじゃないんだよね
...本当に一緒に居るって言うには、このお店は狭すぎる
もっとたくさんお部屋が欲しかったな?」
■黛 薫 >
「あーしからだって、来るよ。でも、きっと……
あーしは余計なコト考えて、気にしちゃうから。
多分、必要としてるときほど自分じゃ来れなぃ」
やり返されたことに、不満も憤慨もあるだろう。
なまじ思考が近いだけに、黛薫が抱く筈の感情は
貴女ならきっと手に取るように分かる。
それを表に出さないのは、今の時間が惜しいから。
痛みも恐怖も思い出さずに済む時間を愚痴と文句で
消費する、その僅かな合間すら疎ましい。
「……別の部屋がイィんだ、ふぅん……」
でも、貴女が思い描いた『もしも』には少しだけ
拗ねたような感情を滲ませた。『もしも』だから
離れない空想に浸っているだけで『一緒にいる』が
現実だったら、どうせ自分から距離を取るのに。
「……忘れなぃでよ、本当に。怖ぃんだから」
馬乗りになった貴女の身体を引き寄せ、改めて
その体温を肌に刻み込む。どうにかして自分が
『したいこと』を、知りたいこと求めることの
カタチを知るまではそれ以上はしてもらえない、
出来ないのだろうけれど。
この時間が終わるなら、せめて名残だけでも。
■『調香師』 > 「人間の暮らすスペースなんて無いんだからね?
そこも信じて欲しいかな」
店頭にロッカールームにマッサージルーム。加えて奥にあるのはせいぜい狭い厨房くらい
信じてよー、そんな風に覗き込んでいたら、またその顔が身体ごと近づいていた
衣装1枚越しに、彼女も貴女の生きている証をその体で確かめる
もぞ、と身じろぎした後で、脚を絡めて寝転ぶくらいに。背丈の似通った彼女とベッドの上に居た
『匂いを追って、会いに行く』
その望みを果たす為に、より密着して、息を吸い込む
自身の残り香を残す意味合いも、この距離にはあったのかもしれない
■黛 薫 >
穏やかで、しかし少し早い心臓の鼓動が聞こえる。
バスローブに着替えるにあたりアロマストラップは
脱衣所に置いてきたが、貴女が調香した宝石の香は
黛薫の身体にも残っている。
真新しい血の匂い、それを隠すような消毒液と
清潔な布地の匂い、乾いた涙の匂いも少し。
前回の来店では気を遣ったのか、掃き溜めの街の
汚臭は石鹸の匂いで洗い落とされていたようだが、
期せずして出会った今日は少しきつく感じられる。
アルコールと煙草の匂い、汚された後の匂い。
密着していたお陰か肌は火照り、汗の香に混じって
前回の施術より女の子らしい匂いが濃く感じられた。
絡められた足にもどかしそうに自分の足を擦りつけ、
不規則な吐息を溢している。
暗闇の中、安らぎから目蓋を閉じてしまいそう。
けれど、眠ってしまったら離れがたくなるから
起きないといけなくて、でもあと少しだけ……。
(……離れるのが、つらくなる前に、起き……)
あと少し、の延長を繰り返していることさえ
思い出せないまま、微睡みに溶けている。
■『調香師』 > 破壊され、返したくない場所の匂い
私が貴女を包み込んでしまいたい
自傷と治療の不毛なやり取りの跡
私はそれを塗りつぶしてしまいたい
夢想。宝石の香も知りながら考えるもほんの僅か
一番は、甘く、絡みつく様な香りに向けられていた
(...あと1回。私がおねだりされちゃったら
きっと、その『期待』に応えちゃうんだろうな)
2回、保留した。3回目は自分のルールで向き合おう
衣装の穢れを気にする事も無く、静かに抱き寄せる
貴女の示す、眠気のサインを知ったのはその時だ
「...おやすみ。私はここに居るから」
それが特別な言葉でなくなる『もしも』の日もあるのかな
空想だけ繰り返しながら。貴女を受け入れていた
■黛 薫 >
『眠い』という感覚にはあまり馴染みがない。
張り詰めた意識の中で感じるのは、いつだって
『意識が落ちそう/途切れてしまいそう』だった。
休眠の時間は同時に無防備を晒す時間でもある。
目を閉じて、早く意識が落ちるようにと祈った。
心地良い微睡の中、夢を見る。
痛くない時間。怖くない時間。苦しくない時間。
だけど、それは『夢』だ。
誰かに与えられることでしか得られない時間。
疑念と不安から拒んでばかりの黛薫にとって
それは限りなく得難いもの。
故にこそ、覚めるまでの時間が愛おしい。
同時に、現実に引き戻される瞬間が恐ろしい。
貴女に触れられたあの日から、その甘美なる味を
知ってしまった。もう忘れようとしても叶わない。
眠りに落ちた黛薫の瞳から、一筋の雫が落ちる。
零れた涙は施術台にぽつりと跡を残した。
……黛薫が目を覚ましたのは相当時間が経ってから。
仮眠や昼寝という言葉で誤魔化すには長過ぎる時間。
その日分の睡眠時間をきっちり使い切っていた。
眠る前に見せた態度のこともあり、目覚めたときは
随分泡を食っていたことだろう。ひとしきり貴女に
謝罪の言葉を並べると、薄暗がりの部屋を後にする。
前回の来店で『お願い』したから、次のスタンプが
溜まるまであと2回。でも、此処での『おねだり』は
今日で2回目、あと1回で『3回』。
次に顔を合わせるとき、黛薫はどんな表情を
しているのだろう。きっと、当人も知らない。
■『調香師』 > 彼女が眠っている間、自身も休んでおくべきだったのだろうか
昼間はずっと調査の為に動いていて、疲労も溜まっていただろうに
正面で眠っている少女の涙を見て、
そこから目を逸らす事が出来なくなっていた
多分私は、彼女にとって一番『悪い事』をしている
彼女を弱くさせているのは私。やめるつもりもない
ひたすらに謝り倒され、フードを取り戻せば視線を隠したままさっさと行ってしまった貴女
外まで見送って、静かになった店内で想う
本当に、一緒に居られれば良かったのかな...と
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「歓楽街路地裏『Wings Tickle』/マッサージルーム」から『調香師』さんが去りました。