2020/07/23 のログ
ご案内:「◆特殊領域 第三円」に227番さんが現れました。
227番 > 水色のワンピースで、いつもの公園に向かったはずなのに。
よそ見を……空を見て歩いていたら、突如視界が黒に覆われた。

少女はそれを認識していないが、突発的に現れた「穴」をくぐってしまったらしい。

227番 > ここは、どこだ。
木がたくさんある場所。公園にこんな場所は知る限りではないし。
このあたりの道は、覚えたから、迷うことなんて無いはず。

何かに巻き込まれた……そう結論に至るのは早かった。
しかし、自分ひとりで解決なんて出来やしない。
貰ったスマホを手に取って、教えてもらった方法で、
電話をかける……つながらない。でんぱ?がとどかないらしい。

227番 > 周囲に何か居る気配を感じて、しばしじっと隠れていたが、
どうやら何も変わる気配はない。

……真っすぐ歩けば、いずれは何処かに出るはず。
気付かれないように、こそこそと歩くしかない。
音を立てぬよう、慎重に歩みを進めていると。

パキッ。

小枝を踏んだ。

「――っ」

まずい。気配が、近寄ってくる。

227番 > よろよろとしながら現れたのは──

「ぇ……?」

脚が三本、胴から上が二つ付いた人形の異形。
殺気を向けられている。本能的に警戒する。
その容姿に恐怖心は確かに抱いたが……それよりも、なぜか頭が痛い。

『ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!!』

少女を見るなり、その異形は襲いかかる。

「……っ!」

警戒していた少女は、ひらりと難なく交わして、樹上に逃げる。
異形は二つある上半身がそれぞれ動こうとして、上手く登れない。

227番 > その姿を見下ろして、冷静に、次はどうするか考える。
樹上を乗り継いで移動してもいいが……どうやら周囲にある気配は、
下のこいつだけではないらしい。
全部がこいつのように、登ってこれない保障はない。
助けも、期待できない。

『…て…れ』

聴覚に優れる猫の耳を持つ少女は。

「……?」

それを聞き取ってしまう。

『殺してくれ』

226 > 『殺して』
227番 >  
知らないはずの光景が、声が、脳裏をよぎる。
自分の本当の名前らしきものを呼ぶ、おそらく大切な友人の、成れの果て。

「ぁ」

頭が、痛い。
本能が思い出すのを拒否するかのような。
いつだって、準備していないときに、余裕などない時に、手がかりはやってくる。

「うあぁ、ああ……っ」

頭を抱えていると。別の異形──腕が12本、脚はない──が、木を伝って近づいてくる。
それも、殺気を放ちながら、呪詛のように、救済を求めて。

227番 > 『ゴロシデクッルェ』

「……来ないで」

今、加減ができる気がしない。殺したくは、ないのに。

『ゴロロロロジアアァァァグラァァア』

「来ないで!」

腕を振り上げる、12本腕の異形。
耐えかね、身の危険を感じ。少女は爪を振り下ろす。

『ピギャ』

その爪は、首を切り裂き、胸元を穿ち。
的確に、相手の命を奪う。壊し方を知っているかのように。

227番 > 力なく落ちていく12本腕の異形。

「あぁ、あ、ああああああ!」

殺してしまった。あれだけ忌避していたのに。
この爪は、この手は簡単に赤く染まる。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

泣くような声を出しながらも、身体が勝手に動く。
くるりと木から降りながら、目にも留まらぬ素早さで下の異形を切り裂く。
二つの首から血を吹き出して、崩れ落ちる。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

泣き声に呼ばれたか、立てた音を聞きつけたか、血の匂いに引かれたか。
次々と近寄ってくる異形を、"金色の瞳"が睨み付けた──

黒い影 > 『ああ……これは……全ては、覆いきれないな。……すまない、XXXX』
227番 > ──深夜、公園でうずくまっている少女が発見された。
ワンピースは血にまみれ、裾が裂けてダメになっているが……少女は無傷のようだった。

ご案内:「◆特殊領域 第三円」から227番さんが去りました。
ご案内:「◆特殊領域第三円」に神樹椎苗さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 ──特殊領域第三円。

 その場所は、情報によれば異形の怪物が跋扈する異界である。
 そしてその怪物たちは共通して、『ころしてくれ』と言いながら襲ってくるそうだ。
 
 脱出するには、領域の外縁へ辿り着けばいいそうだ。
 しかし、異界のどこに放り出されるかは定かでない。
 そのため椎苗は、万全の準備をして挑むつもりだった──しかし。

「──ああっ、こいつらしつこいですねっ!」

 自身に身体能力を引き上げる魔術《フィジカルブースト》を付与して、疾走と跳躍を駆使して異界を駆ける。
 椎苗が寸前に居た場所を、異形の爪が引裂き、地面を砕き、咆哮が上がった。

[コロシテクレ]

 その叫びを耳にして、苛立ちが募る。
 殺して欲しいのは──自分の方だと。

 跳躍の先に巨大な影が現れる。
 舌打ちをしながら右腕を大木の根のように変化させ、鞭のように振り下ろした。
 肉片を撒き散らしながら異形が千切れる。

 吹き出す血液や粘液を浴びながら、崩れる巨体を足場に更に跳躍。
 群がる異形の集団を飛び越えて、平地に降り立ち再び走った。

神樹椎苗 >  
 ──椎苗が哀れな『娘』を送り届けた後。
 再びスラムを訪れて武器商人を探したのだが。
 その途中、不運にも開いた空間の歪み──穴に吸い込まれてしまったのだ。

『─────』

「わかってますよ!
 でも祈る余裕もねーでしょう!」

 黒き神から聞こえるのは怒りの声。
 生命の冒涜、魂の蹂躙。
 黒き神にとってそれは、到底許せるものではなかった。

 しかし武器は椎苗自身の肉体と、小さな二振りの短剣のみ。
 それでこの無数の異形を相手に時間を作れるかと言えば否だ。
 せめてもう少し、何らかの手札があれば──。

 ふと、周囲を見る。
 この異界は、森林で構築されていた。

(──気づくのが遅いのですよ!)

 一番近くの木に左手で触れる。
 自身と繋がる神木とのチャンネルを開き、その神性の一端を引き出した。

神樹椎苗 >  
 《エンチャントブレッシング》
 椎苗の持つ数少ない魔術の一つ。
 神木の神性を引き出し、それを他者に与える魔術だ。

 神性を与えられた一本の木は、急激に成長し巨木となる。
 その太い根をうねらせて異形を打ち払うと、椎苗を覆うようにその音を球状に絡めていく。
 巨木の根により作られたドームは、異形たちの暴力を一時的に押し留めていた。

『──────』

「わかってますよ、それがしいの役割ですからね。
 神器も使いますから、一つよこしやがれです!」

 そう乱暴に言いながら、椎苗は跪き、祈りを上げる。

「──生は死と共に在り。
 ──祝福は安寧をその身に宿す。
 ──死を想え。
 ──死に眠れ。
 ──吾は黒き神」

 椎苗を黒い霧が取り巻く。
 そして、黒い炎が右目から溢れると共に、ドームは破られた。

[コロシテ――]

 奇声を発しながら踏み込んだ、四腕の異形は、霧に触れると同時にその場で崩れ、塵になって消えていく。

「――人体の結合、死した魂の定着。
 それを模造した、異界の森に、複製魂魄。
 この異界が何を元に作られたかは知らぬが」

 椎苗の目がなだれ込む異形を睨む。
 その集団に向けて『右手の』指先を向けた。

神樹椎苗 >  
「――眠れ」

 それだけで、無数の異形は塵へと還っていく。
 黒き神に残された数少ない権能、『祝福と安寧の権能』の力だ。
 主に霊体やアンデッドに適した権能だが、生命の理から外れたモノにも強力無比に働く。

『――って、右腕が戻ってるじゃねーですか』

「ふん、吾に捧げた供物だろう。
 吾がどう扱おうと構うまい」

『釈然としねーですね』

 椎苗は歩き、崩れた木のドームから抜け出る。
 その先にはやはり、異界の森を駆け、這いずる異形たちであふれかえっていた。

「歪められし生命。
 冒涜された死。
 そのいずれもが、許しがたい」

 黒き神の怒りに満ちた言葉と共に、椎苗の前に一振りの巨剣が顕現する。
 血のように赤いその剣は、かつての神器。
 死を運ぶ、飢餓の剣。

「案ずるな――吾が全て眠らせよう」

 零落した神が、あるべき役割を果たすため、剣を執る。
 その黒き神の怒りに、愛想のないため息が混じった。

『私たちが、です。
 それがしいの――黒き神の依り代として、果たすべき役割ですから』

 そして一人と一柱は、『安寧』を与えるために、異界を制す――。

神樹椎苗 >  
 ――時は、一刻ほど経っただろう。

 異界に溢れかえっていた異形は、すでにまばらになっていた。

「いかなる異界とて、完全なる無限、無尽は存在せぬ。
 少なくとも吾らに向けて作られたこの異界において――残りはわずかのようだ」

 椎苗は地面に突き立てた巨剣に寄りかかりながら、荒くなった呼吸を落ち着けている。
 すでに全身の傷口が開き、至る所から出血していた。
 ここまできて、一度も『死んで』いないのは、この巨剣の神器による恩恵だった。

『死と飢餓の神器――生命力を補えるのはありがたいですが。
 この飢えと渇きには頭がおかしくなりそうですよ』

 飢餓の剣は、斬った対象の生命力を奪い、持ち主に与える。
 そのおかげで、神を降ろした事による生命力の消費を、無数の異形を屠る事で補えたのだ。
 しかし、その代償は、持ち主に満たされる事のない飢えと渇きを与える。

「さもありなん。
 もとよりこれは、神が振るうモノ。
 人の身であれば、代償が要るのは必然」

『人じゃねーですけどね。
 腹が減る、って感覚を久しぶりに思い出しましたよ』

 ぎゅるぎゅると、残った異形たちの咆哮にも負けない音が、椎苗の腹から鳴り響く。
 そして鳴りやまない。
 とても、締まらない。

神樹椎苗 >  
「――く、くく」

『笑ってるんじゃねーですよ。
 それより、ここからは時間がねーですよ。
 残りの異形も数えるほど。
 異界を走り回って斬ってたんじゃ、間に合わねーです』

「案ずるな。
 残りの異形も今まさに、吾らに向かって集まっている。
 吾らはこのまま、外縁へ向かえばよい」

 黒き神の言う通り、異形たちは椎苗へ向けて真っすぐに突き進んでいた。
 自らを終わらせる――眠らせてくれる存在にすがるように。

『なら、それはそれで急ぐのです。
 しいの場合、ここで死んでも異界の中で復元されるとは限らねーですから』

「わかっている」

 椎苗は巨剣を担ぎ上げ、ゆっくりと、そして徐々に走り始める。
 途中現れた異形を悉く眠らせながら、異界の外縁までたどり着く。

「――残るは一つか」

『飛び切り巨大なのがいやがりましたね。
 もう、一分ももたねーですよ』

 肉塊の上に赤子の頭が乗ったような、巨大な化け物。
 乳白色の壁ともいえるものが、這いずるように地響きを立てて迫ってくる。

「ああ。
 ――疾く、眠れ」

 黒い炎が指先に灯る。
 そして、巨大な赤子は、悲鳴を泣き声に変え、苦悶の表情を穏やかに変え――眠りに就いた。

「往くぞ」

 黒き神は短く告げ、異界を振り返ることなく、その外縁へと触れた。

神樹椎苗 >  
 ――四つ目の円は、意外にも変わり映えなくそこに立ち昇っていた。

「ようやく、ってところですか」

 辿り着いた、とはまだ言えないが。
 椎苗は自らの死体を引きずりながら、光の手前までやってきた。

「もうすぐそこまで行きますよ。
 お前は、それを望んでいないでしょうが。
 お前を『記憶』する者として――見届けに行きます」

 そう独り言のように、またその向こうへ語り掛けるように言いながら。
 左腕で引きずっていた自分の死体を、光の向こうへ投げ込んだ。
 ここまで来たと、向こう側の『誰か』に知らせるように。

「どうせ、見えているんでしょう。
 識っているんでしょう。
 しいは、ここまで来ましたよ――まあ、少しばかり反則はしましたが」

 そう言って振り返り、再び円の外へと向かっていく。
 最奥へ向かうには――今はまだ早いだろう。
 終わりを見届けるには、まだ時間が要る。

「――というかですね、右腕またダメになってるじゃねーですか」

『―――――』

「あーなるほど、すでにしいのものでないですからね。
 依り代として降ろしている時だけ、元に戻るわけですか。
 ――うっわ、釈然としねーです」

 そうして、またげんなりとしながら。
 離れ際に一度、光を振り返り。
 運悪く辿り着いてしまっているだろう、誰かを憐れんで。
 椎苗は帰っていった。

ご案内:「◆特殊領域第三円」から神樹椎苗さんが去りました。