常世祭の開催期間中、ヨキが指導している金工ゼミの学生が常世大ホールで展示を行っている。
数多く設営された展示室のひとつである会場内には、鍛鉄、鍛金、鋳鉄、彫金、異能など、さまざまな技術で作られた大小の金属作品が並ぶ。
壁のキャプションには、「謝辞」としてヨキのメッセージが記されている。
まずは教え子らへの作品鑑賞に対する礼と、今回の展示の総評。
それらに続いて、自身が獣人から人間へ成り代わったことと、《対比》と銘打たれた一連の作品シリーズを終了し、新たな作品の方向性を検討してゆくこと……。
教師と学生の一同が、今後も共に弛まず励んでゆく、という旨で締め括られている。
獣人の教師として対外的に活動を続け、一定の評価を得てきたヨキが、外に向けて語らねばならなかった部分だろう。
会場の奥には、参考作品としてヨキが手掛けた鍛鉄のオブジェが一点飾られている。
作品名は《萌す(きざす)》。鍛金、鉄製。
岩に前肢を掛け、天へ伸びやかに首を伸ばす狼を象った、実物大の像。
腹から下、地を踏み締めた下肢には金箔が施されている。
光り輝く毛皮を脱却し、鉄の身体が表出したとも見て取れる。
金は不変と完全性のシンボルにして、鉄は人間的な金属である。