2016/02/06 - 01:08~04:46 のログ
ご案内:「転移荒野」にクローデットさんが現れました。<補足:やや暗めの銀髪に青い目、ゴシックロリィタスタイルの人形のような美貌の女性。手にはやや小振りの羽根扇子>
クローデット > 呪術を元にした、新しい物理防御魔術の魔具。
その「試運転」の会場としてクローデットが選んだのは、転移荒野だった。
間もなく落第街の巡回担当に復帰するとはいえ、その前に足を踏み入れたことが万が一露呈しては信用に関わるー常世財団、及び学園に悪意を持つからこそ、クローデットは表向き手続きを重んじていたーし、何より、試運転段階で”殺刃鬼”と遭遇することを避けたかったのである。

(…嫌な臭い…異邦人(ヨソモノ)の臭い…バケモノの臭い…)

不愉快そうにしかめられた目元を除けば、ほぼ無表情。
作り物めいた美貌が、恐ろしいほど冷たく見えることだろう。

クローデット > しゃらり、と、その呪術を仕込んだブレスレットが擦れて鳴る。
呪術の限界—術式の拙さから来る限界だったり、「身代わり」の耐久限界だったり—がきた場合、速やかに今まで使用していた物理防御魔術が発動するようにしてあるので、抜かりはない。

(…さて…丁度良い「実験台」がいてくれれば良いのですが…)

魔物の類に対して、まるで無警戒であるかのように、ゆったりと荒野を歩き回る。

ご案内:「転移荒野」にヨキさんが現れました。<補足:成人男性の体高を超える巨大な犬。黒い毛並みを幽鬼のように棚引かせている。首や腹に不治の傷を負っており、錆びた鉄の匂いがする血を滴らせている。くろがねの骨の隙間から、金色の焔を絶えず噴き上げている。>
ヨキ > 地響き。

黒い獣の影が、切り立った崖から飛び降りたのだ。
見た目よりずっと重い四本の足が地を踏み締めた瞬間、背筋の強靭なばねをしなやかに沈めて衝撃を和らげる。
だがその鉄塊のごとき身体は、未だ距離を置いたクローデットの足元にも小さな地震に似た揺れを齎すだろう。

巨大な口の周りの毛並みが、付着して乾いた血のためにごわごわと毛羽立っていた。
いきり立った喉から蒸気のような吐息を吐き零し、ぐるりと荒野を見渡す。
双眸から、口から、喉や脇腹の呪いの傷から、金色の焔を噴き上げた。

死体と泥の臭いのする涎を口端からつうと垂らした瞬間、獣はぴくりと動きを止める。

視界の遠くに、銀色の髪が揺れるのを見た。

(……………………、)

元より灯台のように光を放つ身だ。近付くでも、逃げるでもなく。
やってくるクローデットの姿を、ただじいと見ていた。

クローデット > なんという偶然か。
丁度クローデットが足を向けていた方向に、巨大な獣の影が降り立ったのである。
クローデットとはまだ距離があるにも関わらず、「それ」が降り立った際の衝撃がクローデットの足下にも及んだあたり…その獣は、かなりの重量を備えているらしい。

…しかし、何よりも目を引いたのは、その異様だ。
身体の傷は生命体としては致命傷にすら見えるのに、意に介する様子もなく動いている。
更には、その傷口をはじめとして、身体のあちこちから金色の焔が噴き出している。
…更に、その身体から発する死体の臭いと、口元に付着した血。

通常の生き物ではない上、安全な存在ではないのは見て取れた。
…だが、それでこそ「実験台」に相応しいというものである。

(念には念を入れておきましょう)

あれだけの傷を負いながら動いているところを見ると、不死の属性がある可能性が高い。
そうなると、呪いを受けることも警戒しなくてはならないだろう。

「清らかな力よ、我が身を守れ…『無垢なる護り(デファンス・イノサント)』」

そう唱えたクローデットの周りに、白く柔らかな光が舞う。
不死のもの達ならではの攻撃…呪い、毒、感染などから身を守るための白魔術だ。

準備は出来たと言わんばかりに、黒い巨大な犬へと近づいていく。
獣からの視線に、屈する様子もない。寧ろ、口元は楽しげに微笑んですらいた。

ヨキ > 輝く二つの眼差しが、ぐらぐらと揺れている。
その胡乱さは、クローデットへ飛び掛かるのを寸でのところで留まっているようにも見えた。
クローデットが防護の魔術を施す様子に、獣が一歩足を踏み出す。
大きな口が何事かを喋り掛ける様に似て、ばくばくと開閉した。

しかし、その口は見た目の通りに人語を発することはなく、ただ巨大な獣の唸り声がクローデットの耳に届くばかりだ。
獣が人真似をして口を開いているかのような滑稽ささえある。

――さて、獣の中身と言えば、言うまでもなく美術教師ヨキその人である。
ヨキは近付いてくる相手――図書館で一度出会ったばかりのクローデット・ルナンへ、思念を通じて語り掛けんとしていた。

異能者へしか通じることのない、声なき声。

異能を持たないクローデットへは、およそ通じることもないだろう。

今この場で人の姿を取るのは早計と踏んだか、相手の出方をじりじりと窺う。
巨大な身体が、地を踏む力を溜め込んで低く身構えた。

クローデット > 近づいていく途中で、巨大な獣が見せる表情に、違和感を覚えた。
内面で葛藤のあるかのような、瞳の揺らぎ。
間合いから考えても噛み付きには間抜けで…且つ、一定のリズムを持っているように見える口の動き。
探査魔術が、何らかのエネルギーを捉えてはいるが…クローデットに、それが具体的な働きかけをすることはない。
しかし、口の動きからすると、おそらくは…

「………『聴取(エクート)』」

クローデットは、獣から3mほどの地点で立ち止まり、思念を聞き取るための魔術を発動させた。
無詠唱であれば、範囲は半径5mほど。ぎりぎり、獣が範囲にかかる。
便利といえば便利ではあるが…無差別な場合思考の邪魔になるので、クローデットは意図して魔具として装備してはいないのだった。

「…何か?」

怜悧な瞳で獣の視線に応えながら、獣に声をかけた。

ヨキ > écoute、というその言葉が、ヨキにはどのような意味かは分からない。
何らかの詠唱らしいその響き。
だがクローデットが次いで言葉を促したとき、獣は事情を察したと見えて顔を起こす。

《きみ》

クローデットの魔術が拾い上げるのは、男の声だ。

《クローデット・ルナンだな》

その声は間違いなく、彼女が探っていた教師ヨキのものだ。
彼女が立ち止まった距離から見る獣の瞳は、人の姿のヨキと同じ形をしている。
爛れたように縮れた体毛も、今にもはち切れそうに引き絞られた筋肉に覆われた体型も。

穏やかな声が、低く連なる。

《ヨキだ。きみの――敵ではない》

まるで熱に浮かされたような声音だった。

クローデット > 「………」

聞こえてきた声に、ぱちくりと大きく目を瞬かせる。
そう、聞き覚えはあった。「処理」すべき相手として、よく記憶していた。
あちらが「アキレス腱」を曝してきた…その昂りを何とか鎮め、表に出さないよう努める。
羽根扇子を広げて口元を隠し、表に出ている目元を、申しわけなさそうに軽く伏せてみせる。

「ああ…ヨキ先生でしたか。
無礼、失礼致しました」

女性らしく柔らかな声と共に、柔らかい物腰で頭を下げた。
どうせ防御魔術の実験のつもりで来ていたので、隙を見せることも大した問題ではない。

ヨキ > 人が平静を装うことはしても、獣というのは直情的であるらしい。
閉ざされた喉の奥から、解かれることのない警戒の唸りが絶えず漏れ聞こえてくるのが判る。
ぐう、と低く鳴いて恥じるように身を捩ると、脇腹の深い傷からくろがねの肋骨が覗くのが見えた。
ぎょろぎょろと大きな瞳の視線が、クローデットの様子を見分するように這い回る。

《……詫びる必要はない。
 我々は、ただ鉢合わせたに過ぎん》

小奇麗な身なり、整った仕草、穏やかな声、深いパルファンの香。
およそ普段のヨキが持つ清潔なそれらとは程遠い、どろどろとした粘質の血と腐肉の臭い。
クローデットの様相との際立つ対比に、じりじりと後ずさった。
『聴取』の魔術が届く、ぎりぎりの範囲。

《あまり、君に見せたい姿ではなかったがね》

クローデット > 警戒のうなり声を不快に思う様子を、クローデットは見せない。
噛み付かれたとしても意に介することはないどころか、寧ろその方が好都合だったのだから当然だろう。
頭を上げると…金属質な見た目の肋骨が、脇腹の傷から覗くのが一瞬だけ見えた。

「そうですわね…ここで学園の方とお会いするとは、あたくしもあまり考えておりませんでしたし」

じりじりと後ずさる獣…ヨキとは対照的に、クローデットはその場で堂々と柔らかな微笑を零すのみだった。
見分されるのにもかなり慣れて「しまっている」し…何より、「今」「この場の」クローデットに、やましいところはないのである。

「ええ…正直に申し上げますと、少々驚いてしまいましたわ。
…学園の中には、お見せになる方もいらっしゃるのですか?」

人形めいたしぐさで、ことりと首を傾げ。
「「君に」見せたい姿ではなかった」という言葉の、目的語部分を掘り下げるように問うた。

ヨキ > ヨキのアキレス腱、動脈、心の臓とも呼ぶべきもの。人の姿を知る者に、見られてはならなかったもの。
獣の姿がそうであることは、今のヨキの様子からして明らかだろう。

《……――いや。この姿は、自分からは誰にも》
《図らずも、見られてしまったことはあるが》

足元の土をじわじわと汚す血痕。
臭いは生物の血液というより、ひどく錆びた金属そのものを思わせた。

《易々と人に明かして、“間違い”があってはならんのでな》
《……いくら人に慣れたとて、いつ理性を失って噛み付くとも限らない》
《獣として討たれるのは、御免なのでな》

苦く顔を逸らして首を振る。

クローデット > 「………そうなのでしたか…
お互いに予期しなかったとはいえ、不運な邂逅になってしまいましたわね」

(…あなたにとっては、ですけれど)

続く言葉は飲み込んで。
ヨキが自ら他人に見せたことがない姿と聞けば、申しわけなさそうに目を伏せてみせた。
獣姿のヨキの傷口から漏れる血は、生き物の血の臭いというよりは錆びた金属そのもので、別の種類の不愉快さがあった。その感情ごと、悪意を奥に押し込める。

「確かに…好奇心ゆえに殺される「幼子」がいては哀れですものね。
あたくしも、公の場では漏らさぬように致しますわ」

羽根扇子を閉じて、口の前に人差し指を立てる。「内緒」のジェスチャーだ。
口元には、優しげな笑みを浮かべて。

ヨキ > 《君に襲われなかっただけ幸いだ。君は有能そうだからな》

生物が、身体の組成を細胞の根っから誤ったかのような歪さ。
一見すると巨大なだけの猟犬に見える顔も、時おり口を開いて首を傾ぐ様には畸形を思わせる不自然さが纏わり付いた。
肉が腐り落ちるのを押し留めるように顔を歪める。

《……公の場のみならず、私的な場でも、だ》
《君は特に》

《………………、》

間。

《誰にも言わないでくれるか》

身を低めて、低い位置からクローデットの顔を見る。
口を開いた拍子に零した血は、死んだ犬ではなく、命ある生き物の血液の臭いがした。

クローデット > 「そう見ていただけるのでしたら、有難いことですわ」

「有能そうだ」と言われれば淑やかに笑んでみせる。
その、形だけ笑んだ瞳は、ヨキの有様を細かに観察していた。

「私的な場でも言うな」という念押しは…まあ、当然だろう。
そこから、重い沈黙と…「生きている」血の臭いとともに、溢れた嘆願。
…クローデットは、やや迷いがちに視線を横に流してから、改めてヨキの方に向き直った。

「…分かりました。
ヨキ先生が「野生」に負けてしまわぬこと…もし負けてしまった時に、それがあたくしの所属する委員会に露呈しないことを、お祈りしておりますわ」

柔らかいながらも、真剣な表情で頷いてみせる。
クローデットは、ヨキにこれ以上疑いの目を向けられることを避けることを選んだ。

ヨキ > 動くものに聡い、獣の瞳。
クローデットの視線といやにかち合う――“視ている”のだ。
その淑やかに細められた、瞼の奥を。
獣の、白目の目立たぬ眼球が、クローデットの顔を真っ直ぐに見返していた。

《ヨキは過ちなきよう、わざわざ荒野へ出ているのだ》
《広く知られてしまっては、堪らない……》

《それに》

獣が目を伏せる。
だが細めた瞼は肉の皺を刻んで、非対称に歪んだだけだった。

《君は、獅南の生徒だから》

《人に広く知られることは元より》
《“友人”に、斯様な穢れを知られたくはないからな》

クローデット > 視線をかなり追われているのか、やけに獣の姿のヨキとは目が合った。
観察しているのは悟られているだろうか、と覚悟を決め…開き直る。
クローデットの視線に、動揺の影はほとんどない。
ただ、ヨキの思念から伝わる「恐れ」に対してだけ、淑やかに目を伏せた。

「………本当に、不幸な邂逅ですわね…
獅南先生には…特に、内密に致しますわ」

嘆息とともに感想のような言葉を漏らして。
それから、改めて獣姿のヨキの目を見据えて、そう言った。

ヨキ > 獣のヨキは、呼吸を整えんとする息をよく吐いた。
先生、学園、委員会。それらの語が耳に届くごと、言葉以外の余計な思念まで漏れ伝えそうになるからだ。
現にクローデットへ届くヨキの声にも、ちらり、ちら、とノイズのような雑音が交じり始める。

《……有難う》
《そうしてくれると、助かる》

《女性相手に、見苦しいところを見せたな》

《済まなかった》

大きな頭を、ぺこりと下げる。

《君を襲わずに居るというのも、なかなかに……》
《苦行でな》

目を逸らす。
たおやかな女性の気配を厭うように。

クローデット > 思念を聞き取る魔術はさほど使わないクローデットだが…精緻に組んだものならともかく、初歩の、さほど強くない魔術でこうもノイズが混じるものだろうかと、内心いぶかしむ。
…が、ヨキが大きな獣の頭をぺこりと下げれば、花のほころぶような笑みを見せて。

「お気になさらないで下さい…「ただ鉢合わせたに過ぎない」と仰ったのはヨキ先生なのですから」

と言うが…「襲わずにいるのが苦行だ」というその後の言葉に、目を丸くして、それから。

「…それは…大変、ご迷惑をおかけしました。
ご負担にならないよう、あたくしは移動致しますわね。
…魔術の「実験」が、まだ済んでおりませんの」

そう言って、場違いに柔らかく笑んでみせた。

ヨキ > 初級魔術ですら拾うほどの、あまりに強い思念。気を緩めば堰を切るであろうものだった。
ご迷惑を、と詫びられて、ぶしゅる、と笑うように息を吐く。

《…………、》
《それこそ失敬したな》
《ヨキは、君が思う以上に犬なのだ》

《若い肉は、それだけで好い匂いがするものなのさ》

後肢を一歩退ける。

《……ヨキも少し、頭を冷やしてくるでな》
《“実験”》
《うまく行くといい》

《――それではな》

《ルナン君》

最後に名を呼び、身を翻す。
身体を風のように翻し、驚くほどの軽やかさで跳躍する。
影がクローデットの視界から完全に消えたのちも――

不快な腐臭だけが、夜気の中に重たく滞留していた。

ご案内:「転移荒野」からヨキさんが去りました。<補足:成人男性の体高を超える巨大な犬。黒い毛並みを幽鬼のように棚引かせている。首や腹に不治の傷を負っており、錆びた鉄の匂いがする血を滴らせている。くろがねの骨の隙間から、金色の焔を絶えず噴き上げている。>
クローデット > 「…そう言われてしまうと、確かに恐ろしさはありますわね」

ヨキが「若い肉の匂い」を語れば、「まあ怖い」といった風情で羽根扇子を広げて顔を隠す。
…その割に、萎縮した様子はなかったが。
実際のところ、クローデットとしては、魔術に対して「理性」で抗おうとしたりする「ヒト」の方が、基本的には恐ろしいのである。

「ええ…それでは、また」

挨拶をするか否かの速さで、獣の影はクローデットの視界から消えていた。
それを確認すると、クローデットの視線が再び冷える。

(…しかし…「友人」ですって?どういうことなのかしら…)

間もなく再開する落第街の巡回。魔術の探究。
…そして、先ほどまで共にいた「獣」についての調査。

(…問い詰めるにしても、調査が一段落してからですわね。
すべきことばかりが増えてしまいますわ)

疲弊感か、視線を落としたのは数秒。
…しかし、その後には魔術の「実験」への期待に目を輝かせ。

「浮遊(フロッテゾン)」

ふわりと宙に浮かび上がると、ヨキが元いただろう方角にあたりを付けて、そちらに向かった—

ご案内:「転移荒野」からクローデットさんが去りました。<補足:やや暗めの銀髪に青い目、ゴシックロリィタスタイルの人形のような美貌の女性。手にはやや小振りの羽根扇子>