2016/05/30 - 22:31~03:15 のログ
ご案内:「屋上」にヨキさんが現れました。<補足:人型/外見20代半ば/197cm/黒髪金目/鋼の首輪、拘束衣めいた袖なしの白ローブ、白ロンググローブ、白タイツ、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > 美術教師ヨキは凝り性である。
料理、麻雀、マンガ、将棋、映画、音楽、ネットゲーム。
ひとたび興味を持ったら最後、寝食も忘れて没頭するのが常である。
昼を過ぎ、湿気を孕んだ初夏の陽気が降り注ぐ屋上。
屋上でしゃがみ込んだヨキの足元には、大きな模造紙が広げられていた。
四隅を養生テープで止めた白い紙の上には、太い油性ペンの筆跡でみっちりと文字が書かれている。
それは魔術の術式だった。
ヨキの傍らには、獅南蒼二から受け取った防護の魔術書の他に、入門用の魔術書があった。
当然ながら、獅南に渡された本がいきなり理解できるはずもない。
彼がひたすら書き出しているのは、防護魔術の中でもごく初歩のものだった。
魔術を習い始めて間もない者さえ、その魔術はほんの一言で発動するだろう。
だが、ヨキにはできなかった。
どうしても阻まれて、そのたび紫電を浴びて感電した。
なぜ自分が魔術を用いることが出来ないのか、何となく推察はつく。
“妨害”から逃れるためにヨキが試し始めたのは、術式をひたすら回りくどく分解することだった。
1+1=2。その数式を、どこまでも長く、冗長に。
ヨキ > 図書館に籠もり、インターネットを駆使し、スマートフォンと睨めっこして、
魔術学の講義を取っている教え子を捕まえてはあれこれ質問した。
いかに難解で読みづらいコードを書くかを競うプログラミングのコンテストが存在するように、
ヨキはいま非常に読みづらく、難解で、回りくどい、不細工な術式を書き殴っていた。
見る者が見れば、その醜悪さに卒倒するだろう。
そうでなくとも、真っ白な模造紙を埋め尽くす数字や記号やアルファベットの羅列は異様だ。
「……よし。できた」
模造紙の隅まで辿り着いて、油性ペンのキャップを閉める。
書きすぎてカーペットの模様のようになった文字列を前に、いそいそと発動の支度を進める。
右手の指輪を外し、手の内に転がす。
黒光りする金属が音もなくしゅるりと伸びて、短い杖の形になった。
「《 》」
スイッチとなるべき詠唱を一言。
そうして、杖の先で油性ペンの魔法陣を一突き――
乾いた破裂音がして、紙の中から紫電の雷球が迸った。
ヨキの頭が後方に弾かれて、尻餅を突いて背中から引っ繰り返る。
眼鏡が軽い音を立てて床に落ち、屋上の床をからからと滑ってゆく。
中央が焼け焦げて穴の空いた模造紙を尻目に、裸眼のヨキは大の字で仰向けになったまま空を仰いだ。
「…………。
ヨキが試したいのは……防護魔術なのだが……」
紫電に打たれた鼻先が、薄らと赤くなっていた。
ヨキ > 「これはこれで、どうにか役に立たんものかな……」
放電があまりにも短いために、魔力として役には立たない、と生徒には断言されてしまった。
他人の魔術を浴びるだけ浴びて、自分が扱えないのでは満足できない。
「……………………、」
むくりと起き上がる。
手にした杖が融けるように形を変えて、むくむくと大きくなってゆく。
平たい形に変じた金属が、ちょうど盾に似たフォルムを取ったところで――
「だめだ」
次の瞬間、金属は元の小さな指輪の形に戻ってヨキの手のひらに転がった。
「だめだ。異能で魔法に勝っちゃだめなんだ」
術式を書き出していたいたときと同じ、いわゆるヤンキー座りの体勢でしゃがみ直す。
指輪を人差し指に嵌めて、息を吐いた。
「……もっと、」
空疎でない戦いを。
ヨキ > 自分を殺しに来る相手が最も信頼する友であることは、ヨキの中では決して矛盾していない。
だが今はとにかく――自分は死ぬべきではないのだし、相手を死なせる訳にもいかなかった。
人差し指の指輪は厖大な魔力を貯蔵可能なスペックのくせ空っぽで、
自分は魔術の初歩中の初歩さえクリアできない。
それでいて、魔術を一から知ることは退屈ではなかった。
単語があり、文法があり、整理された構文は筋が通っていた。
理知的で冷徹で、合理的で、美しかった。
頭を掻く。
立ち上がって、のろのろと眼鏡を拾いにゆく。
常になく、考え事に耽る顔をしていた。
ご案内:「屋上」に雪城 括流さんが現れました。<補足:小さな蛇、またはピンク色の髪をした、制服姿の少女。名札にはくくるせんせいと書いてある。>
雪城 括流 > 初夏の屋上。
日向ぼっこには絶好のベストスポット。
出入り口など無視して(元々ドアを開けたりできないのでいつもそうなのだが)
壁面をにょろにょろと小さなピンク色の蛇が登ってくる。
暇なひととき、ちょっと日向ぼっこでもしにきたようだ。
なお普段の教師姿もだいたいはこの小さな蛇である。人型も隠しているほどではないが。
ヨキ > 眼鏡を掛け直す。
振り返った先では、小さな蛇が屋上に到達したところだった。
「む」
動くものに聡い目が、その姿を視認する。
蛇に向かって、気さくな調子で左手を掲げた。
「やあ、雪城。いい天気だな」
言いながら、広げたままの模造紙へ歩み寄る。
一畳ほどの大きさに、魔術の構文が油性ペンで隙間なく書かれているものだ。
中央になぜか焼け焦げた穴の空いている紙を、拾い上げて筒状にくるくると巻いてゆく。
雪城 括流 > ようやく身体を全部屋上に乗り上げた蛇が、かけられたその呼びかけに反応して先客の存在に気付いた。
通常の蛇には無い瞼をぱちぱちと瞬かせる。
「あら、ヨキせんせ?」
しゃー、と口を広げて尻尾の先端を応えるように振ってみせる。
挨拶を済ませて彼のそばに視線をやると魔術書に模造紙と各種大掛かりな道具。
何かしていたのだろうということだけはあたりをつけて。
「ええと、秘密特訓か何かかな。お邪魔だった?」
首をこてんと30度ほど傾けながら、そう尋ねた。
ヨキ > 秘密特訓と言われると、明るく笑って首を振った。
「はは、特訓ということだけ当たりだ。だが別に秘密という訳ではないよ。
魔術を覚えようと思ったんだけど……どうも才能がなくてな、」
あっ、と短く声を上げる。
見れば床のタイルのごく一部が、薄らと焦げたように黒ずんでいたのだ。
呻きながら、慌てて靴裏でタイルをごしごしと擦る。
紙の煤が付着していたらしく、すぐに取れた。
「防護魔術を勉強していたつもりが、危うく火事を起こすところだった」
巻き取る途中の模造紙を、蛇に向けてみせる。
マッチで悪戯でもしたような穴の空き方だった。
穴を囲う文字列は、大人の端正な筆跡でいて、子どものように読みづらい術式だ。
雪城 括流 > そう?とでもいいたげに頭を傾けていた逆側に揺らす。
「記録の必要や危険があるようなら実習地区か、研究区を借りてやったほうがいいはずだ。
そうじゃないから秘密みたいに思ったよ。
あ、屋上でしてはだめということではないんだけど。」
そう思った理由を述べて、頭をぶんぶん左右に振りながらフォローも付け加える。
特に隠している、というわけではないなら見てもいいのかなとにょろーんとそちらのほうに近づいた。
複雑すぎる術式に、焦げた後。
こういう魔術は括流の専門ではないが――
「失敗、かな?ヨキせんせ自身は大丈夫?
さすがに多少のことで大惨事になる教室じゃないはずだけど。
設備は…まあ、生活委員に連絡すればなんとかしてはくれるはずだよ。」
焼け焦げたのは魔力のオーバーロードだろうか。
もしくは他の何かか。経過を見ていないので、これだけでは推測は付かない。
唸りだしそうな顔つきでその模造紙を眺めていた。
ヨキ > 「記録するほど複雑ではないし、そうそう大掛かりで危険でもないからね。
演習場を借りるほどのことは、まだ無いのさ」
失敗してしまってな、と鼻を掻く。
既に赤みは引いていたが、照れくさそうな顔をした。
「そう、失敗。発動しないんだ、どうしても。
魔術学部みたいに上手くはいかないみたいで……ふふ、初歩中の初歩のはずなんだがな。
ヨキと魔術とは、随分と相性が悪いらしい。まあ、校舎にも大事ないようで安心したよ」
初歩中の初歩にしては、書き出されていた文字はいやに多い。
紙をすっかり巻き取ってしまうと、肩に担いでぽこりと軽く叩いた。
次いで床から拾った二冊の魔術書を、括流へ見せる。
一冊は、常世学園の蔵書印が捺された入門用の魔術書。
そしてもう一冊は中級者用の、私物らしい魔術書だ。
古くからヨキが死蔵していたか、そうでなければ誰かから借りた本のように見える。
「君は何か……そういう、魔術に詳しかったりはしないのかね、雪城?
こう、何かそういう力を操れそうな姿をしているな、と思って」
雪城 括流 > 大事無く照れる様子に、よかったと言うように目を細めて。
「防護魔術っていってたみたいだからね。
本来なら危険は無いんだろうけど…相性か。」
穴の開いた模造紙からではそれっぽいということしかできない。
みせてもらった魔術書のひとつは確かに入門用のものだ。こくこくと言う様に縦に頷くように首を振る。
もう一つは新しく購入したようには見えない。新品の魔術書というのも変な話だが。
こちらの中身も…どうやら、防護魔術を主体としたもののように見えた。
「くくるも確かに魔術の一種である魔方陣学を担当してはいるけど。
くくるの魔術はこういう魔術とは質が違うからね。」
陽光の元で分かりにくいが鱗に光が流れるように走り、空中に魔法陣を描き出す。
発揮する効果はたいしたことなく、軽く冷風が吹く程度。そして括流の魔術は魔力を消費しない。
「だからその魔術書のような魔術を学びたければなるべく、そういう教師を紹介することにしているけど…
ねえ、ヨキせんせはなんでこの魔術を学ぼうとしたの?」
中級者用の魔術書をじっと見て、そう尋ねた。
ヨキ > 「まさか障壁を張るつもりが自分でダメージを受けるなんてな。
むしろこれはこれで、体系化された魔術学をコケにする才能やも知れんな」
軽い調子で笑う。
括流が魔術を発動する様を見ながら、ほう、と小さく声を漏らす。
「学園で教えている学問としての魔術とは、確かに違うみたいだ。
どちらかと言えば……この地球で言う異能に近いように見える」
特定のエネルギーを消費しない、超常の力としての異能。
無から浮かび上がるような発現の様に、そのような印象を持った。
「魔術の先生はたくさん知っているから、頼る先は多いんだ。
……ん?ヨキが学ぼうとした理由かね」
中級者用の魔術書を、ばらばらと開く。
「防御」「軽減」「遮断」……「守り」に関わる語が多く出てくるようだ。
「必要になったからさ、『自分の身を守る魔術』がね。
それを学ばないと、ヨキは命まで危険に晒すことになるかも知れない。
友だち同士で約束した『ある挑戦』に向けて、それが要るんだ」
括流を横目に手近なベンチへ腰掛け、君もおいで、と言外に誘う。
陽光に温められた座面がぽかぽかとして心地よい。
雪城 括流 > 「初歩の初歩と言うのは、手順どおりにやって初めて意味があるよ。
教師も無く独学でそこまで弄り回してしまったら予想外の効果が起きて当然なはずだ。
…ヨキせんせが理由も無くそういうことをするとは思えないけど。」
呆れたように、もう体系からは外れているんじゃないかな、と言いたげに突っ込みはいれておく。
「ちゃんと学園でも教えているんだけどね。
これは言うと見方が変わってしまうから、言ってはいないんだけど。
くくるの魔術はゲーム的に言うと神聖魔術の類になるんだ。信仰を源にする魔術なんだよ。
ヨキせんせはたしか異邦人だったっけ。そっちにはそういう術を使う神官とか、僧侶の類のひとはいなかった?」
これは括流への信仰、生徒にとっては信用か信頼だろうか。
それによって接続されるシステマチックな、神霊の力を借りる魔術だ。
近代魔術における精霊召喚や守護天使構築にも近似するだろうか。
これを原初化すると祈りの奇跡になる。
そういったものがなかったのか、と問いたげに、不思議そうに。
そうして、ベンチへ誘われたのに合わせ当初の目的、日光浴のためにその隣にだらんと胴体を投げ出す。
先ほどまでの会話の間にも、軽い魔術なら扱っても平気なほど体温を得てはいたが。
「同僚だし、わざわざ紹介するほどでもないよね。
…危険に首をつっこもうとしている、ということかな。」
ならば括流の魔術を教えるべきだろうか、それとも止めるべきだろうか。
もしくは。すこし何と言うか迷ってから。
「…その中級者用の本のほうは、専門じゃないから間違いかもしれないけど…物品に付与する防護術式が中心に見える。
その魔術だったとしたら、ヨキせんせ自身が扱う必要はないんじゃないかな。」
と、そう疑問に思っていたことを言った。
ヨキ > 「もちろん、理由はあるとも。
初歩中の初歩――正しく安全な術式、というものはある。この図書館で借りた本など、すごく判りやすくてな。
魔術学の『筆記試験』だけならば、ヨキはすぐに解けるようになるはずさ。
ただ……どうしてもそれが、現に発動をしなくてね。
他の先生や生徒にもアドバイスを聞いて回ってみても、何一つ功を奏さなかった。
だから、正道が合わないならば、邪道を試してみようと思ってね。
これはヨキの個人的な練習だから……生徒には絶対に薦めんが」
括流の言葉に、うん、と微笑んで頷く。
眉を下げて、指先で額を掻いた。
「……ふうん、信仰を源に?
雪城もまた、他の何ものかに信仰を捧げている、ということか。
ヨキの世界のことは……いや。
よく知らないんだよ。ここへ来るまでは、そういう人間と過ごしたことがなかったから。
ここで言う魔術か異能か、それに似た力はありはしたらしいが――詳しいことは、何も。
何と言う名の土地であったかも判らないから、知れる手掛かりも残っていなくて」
本を膝に乗せ、隣の括流を見下ろす。
人間の女性と向かい合っているときと何ら変わらない、柔らかい眼差しだった。
「そう、合ってるよ。『物品に付与する』ためのものだ。
中を見た人から、良い本ですねって褒めてもらった。
学園には、この中に書かれた魔術をとっくにマスターしている人間も少なくないとは思う。
――だがね、人にやってもらっちゃあ、意味がないのさ。
その『挑戦』には、ヨキが独りで立ち向かわなくちゃならない。
先がえらく思いやられるが、学ぶ価値はある」
くすくすと楽しげに笑い掛ける。
「もしこれを言っているのが自分の生徒だったら、大人しく人を頼れ、と諭すところなのだがな。
まあ、ヨキも一丁前の男であったということだ。
一見してとても非効率で、遠回りでいてじれったいことに熱意を燃やしてる」
唇の前で人差し指を立てて、密やかに笑った。
「危なっかしいが、他の人たちや学園を危険に巻き込むようなことじゃない。
だから安心していてくれ」
雪城 括流 > 体表面を広げるように身体を巻かず、のびのびとスペースをとる。
しゃら、と尻尾の鱗が音を立てた。
「すでに専門家に聞いたのなら、私の出る幕はなさそうだね。それは邪道と言うよりもう独自研究に近いようだ。
原因の解明、と言う点においてなら手助けもありうる…けど。」
だがそれを彼が望まないのなら、でしゃばって手を貸すことは無い。
それはくくるの神族としてのルール。
「ちょっと違うけど、似たようなものかな。
そっか、わかんないか。それなら概念の理解としてそういうファンタジーノベルを勧めてみるべきかな?
魔術と魔法使いも異なるもの、と言う考え方もあるけどね。」
有名どころだと魔術学校の少年の話や指輪を投げ捨てる話だろうか。
そういった書のタイトルをいくつかあげる。
見つめられて、見つめ返し。
目をぱちぱちとさせてこういう視線を受けるのは珍しい、というように首を120度ほどひねる。
「挑戦か。
そうだね、初歩の手順にそって使えなかった理由も、別の手段をとったところでなくなるわけじゃない。
止める理由は無いかな。ちょっと意地悪に、人を頼れないなら神でも頼れ、とでも言いたくなるけど。」
そっぽをむくように、常世神社の方角を見る。
なぜか彼の最後の安心してくれと言う言葉にはどこか同種のような、嫌な感じがして応えは返さなかった。
ヨキ > 「魔術の才能がない原因は、何となく判ってるんだ。
何と言うか……有り体に言えば、呪いのようなものさ。
それは誰にも解くことが出来ない」
悠々と足を伸ばす。
「いや、魔術の体系だけならば、もういろいろなところで勉強はしているからね。
特にフィクションの中のいわゆる『魔法』は、それこそ沢山だ。
現実に学ぶ学問としての魔術には、触れてこなかっただけでね。
あとは……君のような蛇なら、むしろ信仰を捧げられている側に居そうだな、と思ったんだ。
西日が当たって、眩しいくらいだ。鱗の手入れはしているのかな。それとも脱皮とか?」
女性に対して、それこそ髪の手入れの仕方を尋ねるように。
「……ふふ、神でも頼れ、か。
神学を究めた末に唯物論へ流れた哲学者とも違うけれど、
ヨキには元々、神に頼るとか、何かに願い事を捧げる、という行動にいまいち実感がなくてな。
自分と、いま現実にこの世界に生きている相手を信じることしかできないんだ」
遠くを見る括流を見下ろす。
ややあって、言葉を選ぶように呟く。
「ヨキが産まれた世界で、魔力がどのような形で扱われていたかは判らないが――
何だか不思議なことをする、と思う人間はあった。
今にして思えば、きっとその人間らこそが魔術師で……だが地球の魔術学者のように、理屈っぽくはなかったな。
それこそ『魔法使い』、言葉にならない力を操るものたちだった。
もしかすると、だからヨキと地球の魔術学とは相性が悪いのやも知れないと思っている。
言葉にならない魔力を、言葉に落とし込もうとしているから」
雪城 括流 > 「……でも、克服しなければ挑戦を満たせないのでは?」
最初に、呪い…と呟きかけたが、詳細について尋ねることはやめた。
解くことができないというのならそうなのだろう。大抵の呪いは、そのかけられた本人の在り様にも関わるものだ。
「地球の魔術は、大変容まではだいたいが巧妙に隠されていたんだ。
フィクションにはその断片が混ぜ込まれていることが多い。その学びにはきっと、価値があったと思うよ。」
こくりと頷くように、肯定の意を示す。
「褒め言葉かな、ありがとう。
ああ、うん。ひょーか…主がいるから、手入れはしてもらっているよ。」
己でも綺麗にはしているが、飼い主にも洗ってもらったりはしている。
普段はペットだと自己紹介するけどこう言われてはそうはっきり言うのははばかられて。
結局どちらへの答えもぼかしたようになってしまった。少し困ったような様子に感じるかもしれない。
「神頼み、と言う言葉があるから言ってみたけど。
気休めにはならないか。」
それまで上げていた頭をゆっくりと下ろす。
すこしうとうととしているようだ。
「…もといた場所のやり方を調べられたとしたら、それが一番馴染むかもしれないね。
常世の魔術は過去の復活と異界の理が混ざってしまった。科学と違ってたった一つの答えがそこには無い。
理屈っぽいのはその地球の癖なんだと思う。それは一つの正解であって、全ての正解ではないんだ。」
少し眠るように、小さな蛇の瞼が落ちる。
ぽかぽか陽気が眠気を誘って、しばらく日光浴にふけるようだ。
「答えはヨキせんせの記憶にしかないのかもしれないね…。」
この発言の後、しばらく返事はなくなるだろう。寝てしまった、ようだった。
ヨキ > 「……そうだな。阻む壁にしては大層大きい。
でも、この呪いがあってこそのヨキとも言えるからな。
けもの道を探すみたいにしてでも、どうにかしなくてはね」
笑いながら、両手を持ち上げてぴこぴことしたジェスチャ。
ゲームのコントローラだ。
「いちばん参考になったのはテレビゲームかな。もう楽しくて楽しくて。
古いタイトルで、設定にとても読み応えのある攻略本があるんだが……
よくよく考えれば、何か参考になるかもしれないな。
聞いた話によると、大変容からすぐに絶版になったんだと」
どこか曖昧な「手入れ」についての答えには、何てことのない風に笑う。
「もちろん褒め言葉さ、良いところは褒める。
それにヨキは君を同僚の女性だと思っているから、迂闊に触れたりだってするものか。
物言わぬ動物の蛇であったら、撫でたりしただろうがね」
眠たげな括流の様子に、自分もまた大きく伸びをする。
「どこかに答えへの手掛かりでもあれば……それがいちばん良いんだが。
ヨキの記憶からさんざん引っ張り出しはしたが、今のところ取っ掛かりはゼロだ。
同じ世界から来ただとか、その土地を知る者にはいまだ会ったことがない。
なかなか手ごわいものさ。ヨキにとって最大の、ミステリアスな魅力ってやつ」
冗句を飛ばしながら、模造紙やら本やら、こまごました荷物を抱えたまま自分もベンチに凭れた。
少しあとの時刻をスマートフォンのアラームに設定してから、目を閉じる。
日が傾くまで、しばしゆっくりと眠ることにした。
ご案内:「屋上」からヨキさんが去りました。<補足:人型/外見20代半ば/197cm/黒髪金目/鋼の首輪、拘束衣めいた袖なしの白ローブ、白ロンググローブ、白タイツ、黒ハイヒールブーツ、右手人差し指に黒紫の金属の指輪>
ご案内:「屋上」から雪城 括流さんが去りました。<補足:小さな蛇、またはピンク色の髪をした、制服姿の少女。名札にはくくるせんせいと書いてある。>