2016/06/07 - 22:28~02:07 のログ
ご案内:「梅雨入りからプール」に松渓つばめさんが現れました。<補足:上は運動着下は水着。ご丁寧にも旧式スクール水着である>
松渓つばめ > 「っるぁーーーーっ!」
カエルも鳴きはじめようかという夕刻。本来人気のないところに気合の声が響いた。

体育会系娘、松渓つばめ。
彼女はいま、自分の背丈よりも長いデッキブラシを見事に操り、プールの藻をこそぎ落としているのだ……ひとりで。

松渓つばめ > 水着の上に白の運動着。何故かねじり鉢巻という出で立ちで、剣豪か何かのように掃除をぶちかます。

さて。こんなことをしているのは素行の微妙に良くない彼女への懲罰ではない。……そういうのならもっと適切な人材が多い島だ。

松渓つばめ > つばめは運動が好きだ。特に季節感あふれる運動が大好きだ。
島の外で冬を過ごした時、シベリアを選んだのは『寒くなって雪が降るのが早いから』というのも一つの理由だ言うくらいだ。
当然水泳も、本土の小学生に負けず劣らず待ち遠しくてたまらない。

だから教師の一人に交渉を持ちかけた。掃除をさせろと。そして真っ先に泳がせろと。

常世学園はその性質上、プールが使われない年すらもあったということを、つばめは耳にしていた。
居ても立っても。こうして講義の後にぬるぬると格闘しているというわけだ……「ぐぬ、やりおる」足を滑らせるとかなーり危険。

松渓つばめ > そしてふと見渡す。だいたい半刻ほど続けて見たが、まだまだ先は長い。
気温も高くない、下手をしたら今の彼女の格好では肌寒くすらあるのだが……額には汗。
この調子では数日かかるだろう。考える。

「――これならッ」
異能を使ってみよう、そう決めた。手を前に振り出すと放たれる煙のような粉。
これがプールの底に溜まった水に溶け込むことで……

掃除のしやすさは別に変わらなかった。落胆のあまり、デッキブラシを支えにしゃがみ込む他にない。
「何か楽になる方法ないのー?」
人を集めるのが最も有力な手段だろう。だけれど。

松渓つばめ > イマイチ誘う相手というのがぱっと浮かばない。いや、二人ほど……絆の力とつばめが気づかぬ魔術の力で思い出す二人はいるのだが、どっちも案としてはボツ。
(こうして思い出したからって、かつて棗嬢から受けた呪がその力を失った訳ではないことを明記しておきたい。)

つまり一人で頑張るのが正攻法なのだが、裏ワザを試さずにはいられない。つばめはそう言うヤツだ。
気分を持ち直して立ち上がると、プールの底全体を見た。
「水に、木気……」
そして頭のなかでシミュレート。
もやもやもや。

水生木とは、五行相生の理。魔術を使ってプールの水をみんな藻に吸わせてしまえばよい。では、その後はどうするか。
決まっている。木生火。火を放つのだ。
そして燃え盛るプールのど真ん中、デッキブラシを扇のように持ち『人生五十年……』と謎の踊りを踊るつばめの影があった。

やもやもやも。
「死んでどーする!!」

ご案内:「梅雨入りからプール」にヨキさんが現れました。<補足:人型/外見20代半ば/197cm/黒髪金目/鋼の首輪、黒半袖Tシャツ(正面に有名オンラインFPSの白抜きロゴ)、袖を腰元で結んだグレーのつなぎ、黒ハイヒールブーツ>
ヨキ > 「プールの掃除をしている者が居る?……ひとりで?」

職員室でそう聞いて、見下ろしたプールに確かに人影があった。
一日にやるべきことは大方終わらせてあったし、夜に予定がある訳でもない。

行ってやるか、と思い立って、デッキブラシを肩に担いだ大男がプールサイドに現れる。
孤軍奮闘するつばめの姿を見つけると、手を振って声を掛けた。

「――おーい。君かね、一刻も早くプールで泳ぎたいというのは?」

持参したハイヒールのサンダルに履き替えて、のしのしとつばめの前にやって来る。

松渓つばめ > 妄想をツッコミで吹き飛ばしたポーズで少し止まっていた、が、
視界の端に人の姿を認めると一応居住まいを正した。まあ……武蔵坊弁慶のようにブラシを垂直に立てた、というやり方だが。

「あらら?えーっと……先生?」美術に全く縁のないつばめ。1年の入学式にいたかなあと記憶を探ってみるが……ダメだったようだ。微妙にアタリをつけて返事。
「ん、まぁ、そんな所。――先生もそのクチ?珍しいじゃない」
近づいて、下から見上げながら歯を見せる。にひひ。

ヨキ > 「そう、美術のヨキだ。見上げた根性の女子が居ると聞いてな。
 ……君、名前は?」

尋ねながら、プールの水槽内へ降り立つ。
さっそく靴底にぬめりがこびり付いて、おお、これはこれは、と足を持ち上げた。

つばめの言葉に笑い返す。

「いや、ヨキは泳ぐことをせんのだ。
 単純に人助けだよ。君の情熱に敬意を表してな」

試しに床を擦って汚れを剥がし取ると、よし、と頷いて、つばめを見遣る。

「ところでその恰好は……気合が入っておるな。
 掃除が済んだら、すぐにでも泳ぎ始めそうではないか」

松渓つばめ > 「つばめ、よ。松渓つばめ。なーに風呂屋の大将が一番風呂にありつこうってだけの話だわ。
――でも、結構な汚れでしょ。一瞬焼き払おうかと思っちゃった所」
手を動かしだすのが早い教師には負けてられぬと、ガツガツと藻を削る。

「ヨキ先生?」
名前?一度聞き返すも、ほぼ『そうなのだろう』と思ったのか確認までは取りきらない。
「泳がないのに手伝いだなんて……嬉しすぎ。だからっていきなり泳ぐのはムリ、かな?
もともと数日かかるとは思ってたもの」

ヨキ > 「松渓つばめ君。ふふ、ヨキは良いことをする生徒は一発で覚えるぞ。
 プールを焼き払われても一発で覚えるが」

ヨキ、という名前らしからぬ名前を訊き返されて、頷く。

「かわいい生徒が独りで頑張っているところを見過ごすなど、教師が廃るからな」

話しながら、しゃがみ込んで汚れをごりごりと擦り落とす。
先は長いが、横顔にはいやそうな表情一つなかった。むしろ楽しげですらある。

「一番風呂、ならぬ一番プールを満喫した後には、せいぜい声高に誇ってやるがよいぞ。
 ここを掃除したのはこの松渓つばめだ、とな」

にやりと笑うと、大型犬に似た牙が目立つ。

松渓つばめ > 「下の名前で呼んでよセンセ。あたし外国でもファミリーネーム聞かれない限りそう通してたの」
つばめは世界を股にかける渡り鳥『燕』の事だってね、と。

「でも、教師たるものこれ見過ごせないのなら、そしたら」
と、教室棟を指差す。こちらからも窓の中が見える。
ということは、明日には進捗がしっかり見てとれることだろう。頑張れば3割り前後だろうか。
「明日からはセンセー総出ね。むしろあたし楽できそー
それにさ、こういう事ってあんま目立っても子供っぽいってならない?先生?」

一応普通の学生である彼女にとっては、逸脱のし過ぎは恐怖である。まだまだコドモなのだ。

ヨキ > 「下の名前?ああ、それならつばめ君、と」

つばめの指先に倣って、教室棟を見る。
窓際で人影が動いたのが見えたらしく、立ち上がって大きく手を振った。

「だが総出となれば、逆に他の生徒らが蔑ろになってしまうでなあ。
 ヨキはたまたま手が空いていただけだ。人の多い授業の担当ともなれば、仕事も多かろうからな」

軽い調子で、再び作業に戻る。
年寄りくさい語調のわりにチャラい柄のTシャツの袖と、捲ったツナギの裾から伸びる四肢は、
美術というより体育教師のようだった。

「安心するがよい。人のやらぬことに手を付けられるのは、むしろ大人の証拠であるぞ。

 ……それで、独りきりでよく着手する気になったな。
 誰か誘う友人とか、居なかったのかね?」

松渓つばめ > 一人でよくもまあと言われれば、にまっと笑う。気分が乗ってきたのかその手は軽い。
「大人?ヘヘ、センセーは優しいねえ」
シャーッと新雪に足跡をつける感覚で、ハート型に底を掻く。逆スプラなんとか。逆パブロ。

「友達もけっこいるけど、意外と出払ってたりインドア派だったりで、ね。まあ一人なら一人で面白いし。……にしてもセンセーって体育じゃないよね?だったらあたしが知らないなんてありえないもの」脳筋宣言であった。

ヨキ > 「ヨキほど生徒に優しい教師は居らんぞ。
 それに、君が卒業して一人前の女性になったら、もっと優しくなる」

汚れを掻き集めては捨て、掻き集めては捨て。
先は長いとはいえ、いざやり出せば成果は目に見える。

「そうか。それだけプールで泳ぎたかった、と。

 ……うん?ヨキかね。
 ああ、教えているのは美術だけだよ。専門は、金属の工芸だ。
 絵を描いたり、粘土を捏ねたり、机に座って芸術の話をすることもあるがな。

 何だかんだで、体力勝負の科目だよ」

つばめに背を向けたまま話すヨキのツナギには、絵具やら粘土の跡やらがこびりついている。

「そう言うつばめ君は、美術、あまり興味はないクチか。
 その綺麗な名前、見覚えがないものな」

松渓つばめ > 美術と聞けば、少し目が遠く……セリフに彼女があまり使わない三点リーダも混ざろうというもの。
「あぁー……美術かぁ。あたし全然そっちの単位取ってないの。
美意識が破滅的って言われちゃって。
聞いてよ常世に来る前なんか、二人ペアで相手の顔描いたら『インカの破壊神が良く描けています』なんて調子で!」

ある意味才能なのか。でも、
「んーん、興味が無いワケじゃないの。ゲームとかでキレーな絵描いてる人っていっぱいいるじゃない?
それに少しでも描ければお絵かき好きな人とも話できるし……と。
月が見えてきたわ。タイムリミットはその辺にしようと思ってたの。ムリしても疲れて続かないじゃない?

でさ、センセセンセ」
異能を使って汚水をまとめながら、問う。
「あたしでも絵とか――工芸?像つくってみたり?そういうのって出来るようになるかな?
すっごいへたっぴぃなんだけど」

ヨキ > 「ははは。破滅的か。美術教師が芽を摘んではいかんよなあ」

空を見上げる。二人の手で作業が軌道に乗ってきたところで、手を止める。
立ち上がり、つばめが発する粉に向けて汚水を掻き集めてゆく。

つばめの問いには、何てことのない調子で答えてみせた。

「もちろん。最初は誰だって、ヘタから始まるものさ。
 時間を掛けて作品の見栄えを良くしていくことの、遅いか早いかの違いだけだとも。

 やりたいな、と考えるところから、実際に始めるところの壁こそが、いちばん大きいものだ。
 最初は面倒だが、一度始めてしまえばどうってことない。
 このプール掃除みたいにな。

 巧さを伸ばすことなど、二の次さ。
 続けられれば、誰だって作品を作ることは出来る。手を掛けて、完成させてやることが大事なんだ」

異能の様子を眺めながら、笑う。

「それに、美術の入口はどこにだってあるぞ。ゲームでも、漫画でも、映画でも。
 ヨキが座って行う講義は、そういう話ばかりをしているよ。
 このヨキのように、『昔は美術になどまるきり興味のなかった者たち』に向けてね」

松渓つばめ > 最初はヘタから、かあ。と、sigh……。
「でも、あたし自身は意識してなかったけど。
今やってるコレも、やり始めたらラクだけど始めるのは大変な事だった~ってこと?そしたらそう、ね。
あたし今作りたいなって思ってるものがあるの。センセーに教えてもらえたらきっと上手くいく――よし。今日はこれでおしまい。
ほら、予定の3倍よ3倍!」
気づけば月どころか街灯も仄かに光り出し、作業は半分弱までも進んでいた。
本当にプール授業は雨天決行も現実的だ。
ふぅ、と水着に張り付いた運動着をぱたぱたとさせ、思ったよりも冷たかったのかクシャミを一発。いや、大小二連発。


「で、さ、センセーも昔は美術全然好きじゃなかったの?」
うっすら緑色になった運動着。月影。目洗い水でゴシゴシと応急洗濯しながら問うた。

ヨキ > 「大半の者は、プール掃除などやりたがらないだろうな。
 だが君は、プールに入りたいから迷わず始められた。

 ものを作ることも同じで、『作りたいものがある』。
 キッカケとしては十分すぎるな。あとはスタートを切るだけだ。
 君、プールも美術も、いいスタートラインに立っているぞ。
 入口で足を止めてしまう人間は、みな『何を作ったらいいのかが判らない』んだ」

くしゃみをするつばめに、おや、と目を丸くする。

「風邪を引くでないぞ。せっかく掃除を終えても、泳げなくなってしまうからな」

手を洗い、服についた汚れを流しながら、つばめへ目を向ける。

「ヨキかい?ああ、ちっともだ。
 何しろ『美術』どころか、『美しい』という感じ方があることさえ知らなかったよ」

指先で耳を抓む。
肌色の、福耳のように見えるがそうではない。ひらひらと垂れた、犬の耳だ。

「ほんの十年前まで、ヨキはただの犬だった。
 君が異能で粉を操るみたいに、突然ヨキは金属を操れるようになったんだ。

 それからだ。ヨキが『獣』ではなくなったのは。
 『ものを考える』ことを、見聞きした物事に『美しいか』『そうでないか』があることを、覚えてしまった」

松渓つばめ > 「へへ、そーっすね、これで風邪ったら大損。帰ったらアッツイシャワー浴びないと」
パン、と運動着を伸ばし、プールサイドに置いていたかばんに突っ込んだ。
その横には制服上着と、色気も何もない切り株。流石に男性の前で平気な顔して着替えるのは良識上マズイなと考えなおし。

しかし、続いた言葉には流石に。
犬。いぬ。わんわん。アォォーン。と、一瞬思考が途切れていた。
「いぬ……?センセーが?」さらりと話てはいるが「コレフツーに聞いて良いことなんですかネ」
となってしまうけれど。
――――いや、良いんだろう。
「そしたら、先生は。美しいものを大事にしたい、や、してるんですね」
それならなおのこと、この美の信奉者に教えを請いたい。そう思えた。
「センセー、講義って履修できます?」一瞬だけ自分がマジメなかおをしていたような気がして、気恥ずかしくなって、いつものにんまり顔に戻したのだった。

ヨキ > 「程よく疲れて、きっと食事は美味くなるしよく眠れる。いい放課後だ」

腕を掲げて伸びをする。
犬であった、と明かすことには、然して大した風にも思っていないらしい。
もはや話し慣れているのだろう。

「そう、犬。異邦人って言うだろ?異世界から来た。
 ヨキもその一人なんだ。一丁前に人間をやっているつもりで居るが、身体じゅう結構いろんなところが、今でも犬だよ」

言いながら、足を持ち上げる。
男には珍しい、ウェッジソールでヒールの高いサンダル。
だがよくよく見れば、四本指の足には踵がなかった。足の指から輪郭を辿ると、すぐにふくらはぎだ。

「うん。それはもう、人生が変わってしまったからな。
 すっかり惚れ込んでしまったよ。

 美しいものはもちろん、そうでないものだって、理由もわからず惹かれてしまうことってあるだろ?
 その『なぜ』を大事にしたいのさ、このヨキはね」

つばめが気さくな顔に戻る、その一瞬前。
揶揄うでもなく、目に焼き付けた。

「ああ。真面目に参加して、課題もこなしてくれるなら単位をやろう。
 そうでなくたって、覗きに来るだけでも歓迎だ。
 実技をやっている作業場にも、見学に来るといい」

微笑む。暗くなり始めた空気に、金色の瞳が蝋燭のように淡く光って見える。
一見すると、魔物の薄笑いのようでいて――その実、つばめが見せた意欲にひどく嬉しそうにしていることが判る。

松渓つばめ > 異邦人……ある意味怪異と関わったこともある彼女には、確かにそう極端に珍しい事例でもないのだろう。
しかし、大本の心が人でなかったものが、人となった、というのにはついぞ出会ったことはなかった。
「人生が変わる、って!」人生に変わるの間違いやんけーっと内心悪魔がツッコミを入れていたが、ちょっとそれは弱いぞ悪魔。

「あんまり凄いものを目にすると、なんというか――畏まっちゃうような。
そういうのって、あたしもあるかも」そうか。彼もその瞬間が心地よくて仕方ないんだ。
ああ、素敵なことだ。本当に。たとえその妖しいような温かいような清らかなような視線を受けても、おくびにも出しはしないけれども!
それは後々、彼女の創り上げるモノが示すものなのだ。
「あたしこれでも、講義はマジメですよー。留年怖いもの!」


「それじゃ、お手伝いありがとでしたセンセー。あたしは帰る前に着替えてくんで。今度はセンセーの講義室でっ」
大変は大変な作業だったが、楽しくて楽しみでたまらない、そんな風に髪を振り乱して背を向ける。
プールの鍵を指先でチャラチャラと回して。扉の奥へと。

ご案内:「梅雨入りからプール」から松渓つばめさんが去りました。<補足:上は運動着下は水着。ご丁寧にも旧式スクール水着である>
ヨキ > 一瞥する。人生、言うなれば犬生。そんな言い回しも、突っ込まれれば突っ込まれ慣れているのかも知れない。
つばめの言葉に目を伏せて、小さく肩を揺らす。人間の笑い方。

人差し指で、宙に文字を書く。“羊”。

「『美』という文字は――もともと『羊が大きい』と書く。羊とはすなわち、神への供物だ。
 捧げ物が大きいことが、『善』とされたんだな。

 君が言うように、畏まってしまうという感覚はとても正しい。
 美しいものに触れるとは、つまり『言いようもなく大きなもの』に触れるということなのだから」

開いた眼差しが、ゆったりとつばめを見る。期待と喜び。

「教え子が増えること、楽しみにしているよ。つばめ君」

そうして労いの言葉を掛けると、持参した掃除道具を手にプールサイドを後にする。
つばめと逆の方向へ歩き出しながら、大きく手を振った。

「また手伝いに来る!」

ご案内:「梅雨入りからプール」からヨキさんが去りました。<補足:人型/外見20代半ば/197cm/黒髪金目/鋼の首輪、黒半袖Tシャツ(正面に有名オンラインFPSの白抜きロゴ)、袖を腰元で結んだグレーのつなぎ、黒ハイヒールブーツ>