2016/07/01 - 22:48~23:29 のログ
ご案内:「大時計塔」にヨキさんが現れました。<補足:人型/外見20代半ば/197cm/黒髪金目/鋼の首輪、拘束衣めいた袖なしの白ローブ、白ロンググローブ、白タイツ、黒ハイヒールブーツ/恒常的な餓え>
ヨキ > 夜、教室棟が施錠される間際の頃合い。
規則的で重い足音が、時計塔の階段を昇ってくる。
屋上に姿を現したのは、巡回用の懐中電灯を携えた美術教師ヨキだ。
教師のあいだに定められた見回りの手順を忠実に守り、辺りをくまなく灯りで照らして見渡す。
内部に一通り目を通し、異状がないことを確かめて――
不意に、外界の景色へ目をやる。
広く開けた常世島のパノラマに、街の灯が煌々と灯っている。
徐に足を止め、仄明るい金色の光を発する瞳が注視した。
「……………………、」
“アンタがこの島や世界を大事に思うのなら,私に容赦などしない方が良い”
“お前の理想と欲望が私を止められないのなら、私は次にこの島を、世界を相手にする”……。
ヨキ > 魔術言語を学ぶことは楽しかった。
戒めとルールを重んじるヨキにとって、そこに広がりゆくものは無限の沃野だった。
だがそれと同時に、自分は魔術学においては獅南蒼二の背には永遠に追い縋れないのだとも知った。
彼はその言葉の通りに“最高の魔術”を以てヨキの前に立ち塞がるだろう。
彼はその言葉の通りに――ヨキが敗北するならば、直ちにその先へ向かってゆくだろう。
薄く開いた唇からは、何の音も出なかった。
これまで十余年の間、数えきれないほどの生徒に常世島への愛着を根付かせ、
そうして外の世界へと送り出してきたこの自分が、
今はじめて常世島への愛着を持たない男を、他ならぬ“常世”に永劫縛り付けてやりたいと欲望しているのだ。
誰よりも戒律を重んじることを憚りもせずに公言してきたヨキという男は、
誰よりも自分自身が最も許してはならない領域に足を踏み入れようとしていた。
ヨキ > (もしも、)
もしも自分自身の手で、いつか“最高の芸術”を産み出すことが出来たなら。
それきり筆を折ってもよいと、鎚を置いてもよいと、
もう金属に二度と触れることがなくとも構わないと思える作品が産まれたなら――
(そのときは、彼奴に捧げることにしようか)
目を伏せる。
ヨキは知っていた。
自分に“最高の芸術”などという到達点が存在しないことを。
人間としてこの身に宿した無限の想像力が、どこまでも次を欲して止まないことを。
(……もう、潮時なのやも知れんな)
そろりと持ち上げた指先が、音もなく首輪に触れる。
他ならぬ人間が自分に与えた苦痛の名残。
人間を赦し導くと決めた慈悲の証。
“自分はこの常世島にのみ尽くす”と誓った、妄信の鎖。
ヨキ > 人間の姿になってからというもの、自らの首を固く縛り付けてきたくろがねの輝きは、
拍子抜けするほど呆気なく、するりと蝋のように首筋を流れ落ち、指先の陰に消えていった。
これまで殆んど人目に晒すことのなかった素肌を、夜気が通り抜けてゆく。
誓いに背き、我欲に従い、許されないことをしたのだという強い罪悪感は、
ヨキの思考から“言葉”を奪った。
(これは)
(これはおれの欲望だ)
(人間として生きると誓ったヨキでも、人間として生きることを強いた妙虔でもなく)
(只このけだもののおれだけが持ちうる欲望なのだ)
指輪を嵌めた右手の肌を蒼い光が小さく弾けたのを、目にする者は誰も居ない。
それは紫電だ。
つまり、
ヨキ > 外界に向かって放出されようとする雷電を、
くろがねの骨によって抑止し、固着する――
魔力を戒めるための反動なのだ。
ヨキ > ややあって、踵を返す。
獣の足を引き付けて止まない常世の土を踏むために、時計塔を後にする。
(けだものの理から外れて人間となったこのおれが)
(ふたたび人間の理を外れるとき)
(おれはまたけだものに立ち戻るのだろうか)
流れるような手付きが、ローブの衿元を重ねて首筋を隠す。
(だがその一方で)
(ただひとつのものにこそ己を捧げようとするその心は――)
(どこまでも人間のようではないか?)
ご案内:「大時計塔」からヨキさんが去りました。<補足:人型/外見20代半ば/197cm/黒髪金目/鋼の首輪、拘束衣めいた袖なしの白ローブ、白ロンググローブ、白タイツ、黒ハイヒールブーツ/恒常的な餓え>