2016/06/19 vs 美国 荘司
ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)1」に鬼灯 怜奈さんが現れました。<補足:赤髪ロングのヤンキー娘>
鬼灯 怜奈 > 落第街の奥の奥。鴉ですらも立ち入らない闇の世界がそこにはあった。
割れたガラス。痩せた犬。赤焦げた壁の染み。
狭い路地を抜ければそこは、アッセンブルEX10。勝利に餓えた獣が集う万魔殿。

鬼灯 怜奈 > 「へへっ。いいじゃねえかよ一晩ぐらいさあ!」
店の前に停まったド派手な真紅のオープンカーでは、嫌がる女がまるで地獄の亡者のように、救いの手を彼方へ伸ばす。

「……。」

怜奈は一瞥すると、カットジーンズに指先をねじ込んだまま中へと入っていく。

鬼灯 怜奈 > 「奥で待ってるぞ。」

背広姿のカウンターの男は屈強で、その表情はサングラスによって遮断されている。
すれ違う二人に視線の交差はなく、怜奈の立てた親指が下をぐるりと指すと、男は鼻で笑った。

重い鉄扉を開けて彼女が抜けたその先には、無機質で巨大な機械仕掛けの棺桶と、特大モニター。
それらを多数のギャラリーが囲んでいる。

「やれーっ! ぶっ殺せー!!」
「早くしろーっ!」

全身タトゥーの男たちはそれぞれ好き放題にがなりたてる。

鬼灯 怜奈 > 「やあやあ、遅かったじゃないか。心配したよ。もう来ないんじゃないかなあーって、ね。」

怜奈に向かい立つ長髪の男。名は美国 荘司。
取り巻きを従える彼は美国財閥の御曹司にしてゲームの天才。
過去無敵を誇った怜奈をこの地、このゲームで完膚なきまでに叩き潰した男でもある。

「うるせェぞ紫ワカメ。今日こそてめえをぶっ飛ばして、そのうっとうしいちぢれ毛を引っこ抜いてやる。」

「お前、美国さんに対してその口の利き方はなんだ!」「そうだそうだ!」
「まあまあまあ、逃げずに来たことを褒めてあげようよ。」
「リベンジマッチだなんて言ったって、どうせまた僕にやられるのにねぇ。」

「チッ……。」

怜奈は苛立ちながら棺桶めいた筐体をこじ開け、中へ入っていく。
ID認証機能付きのカードキーを通せば、主人の帰りを待っていたかのように明かりが灯り動き出す。
タイタニックギア。それがこのゲームのタイトルであり、彼女らが駆る機動兵器の総称だ。

鬼灯 怜奈 > 保存された機体の構築データが読み込まれ、両者の画面に表示された。
このゲームでは無数あるパーツの中からプレイヤーが取捨選択し、自らの愛機を組み上げる。

「今日のステージも港町でいいだろう? 僕はねぇ、あの雰囲気が好きなんだ。」
「アタシはアンタをボッコボコにできれば何処だっていいんだよ。早く決めな。」

続いて装備の最終選択画面に入る。両腕背面。各部位の装備を選び終えればついに試合開始を告げるカウントダウン。

「じゃあお手柔らかに。」

3。2。1。

「「行けえええっ!」」

スタートの文字が躍り出ると、常世島西ベイエリアを模したステージに巨大な鉄塊が疾駆した。
バーニアの青白い炎が、思い切りよく大気を焦がす。

鬼灯 怜奈 > 「出た~~~! 美国さんお得意のロケットスタートだ!」
「やっぱはえ~~~!! 少しでも目を離すと置いていかれそうだぜ~!」

ビル街の分ける道路上を、美国機が超高速でかっ飛んでいく。
機体重量をカットし、動力の大半を出力に回したからこそ実現できるこの速度。
尾を引くように、通過したビルの窓ガラスが、次々に爆ぜてゆく。

「おおおおおォォッッ!!!」

沸き立つギャラリー。だが一瞬にしてその歓声は止まった。
美国機を掠めるようにして、火線が青空を薙いでいく。

「大した余裕だなァ、オイ!」

怜奈機から放たれたライフル弾が、美国機に追い縋る。
されどアクロバティックな機動を前に、標的を失った弾丸は次々にビルを啄んだ。
吹き飛ぶ瓦礫。続くミサイルの雨を掻い潜りながら、間合いはミドルレンジから一気にクロスレンジへ。

鬼灯 怜奈 > 「まるで初心者だねぇ、ほらほら……そこだ!」

美国機はその特性上、重火力の装備を掲載できない。
しかしそれを補ってあまりあるほどの機体性能と、右腕に掲載されたマシンガンで多くの敵を葬ってきた。
その中には当然、怜奈も含まれている。

「あっ クソ! チョロチョロと……!」

一瞬で頭上を取った美国機から逃れるようにバーニアを吹かすも、マシンガンの雨が装甲を着実に削り取る。
前回の対戦ではこのまま為すすべなく貼り付かれ、一方的に破壊されてしまった苦い経験がある。

「出た~~~! 美国さんお得意のサテライト戦法だ!」
「一度捕まったらもう終わりだ~~~!」

ライフルで応戦するも美国機は付かず離れずの絶妙の距離感。

鬼灯 怜奈 > 「うっせー外野! こっちも必死なんだぞ!」

「ハハ、ハハハ! かわいいもんだねぇ!」

銃撃の雨によって背面ボックスが破壊され、残る一発だったミサイルと共に黒煙を上げた。
視界を遮ったのは刹那の間だが、怜奈機は一目散に狭いコンテナエリアへと逃げ込んでいく。
画面下部のレーダー反応を横目に、美国機がそれに追従した。

「無駄さあ! 音速の貴公子と呼ばれる僕から逃げ切れるとでも?」

「ンな異名、はじめて聞いたぞ!」

「ハハハ、今付けたからねぇ!」

振り返りながらライフルを乱れ撃つ怜奈機に、情け容赦なくマシンガンを浴びせ続ける美国機。
互いにスラスターを全開にし、ジェネレータは熱という悲鳴を上げるも構いなし。
コンテナで区切られた迷路の中を、ノンストップで走り抜く。

鬼灯 怜奈 > 最中分かれ道に転がり込んだ矢先、突如として美国機のレーダーから怜奈機の姿が消える。

「動体センサー反応なし……ついに動けなくなったかい!」

詰めの一手を行うべく、最後のマガジンを装填する。
二連勝。終わってしまえばつまらないものだと、美国はその長髪は振り乱して高らかに笑声を上げた。
減速もせず壁を蹴り、そのままの勢いで飛び込んでいく。

「さあ、懺悔をしたまえ! この僕に!」

美国機が捉えたのはスクラップ同然のギアではなく、ライフルを大振りに構えた怜奈機だった。

「するかよバーカッ!!!」

「なっ!?」

ベースボールのハードヒッターのように、怜奈機はライフルをフルスイング。
コンテナに叩き付けられる美国機は、人形のようにその姿をたやすく軋ませる。

鬼灯 怜奈 > 「ああああ、美国さんんんん!!!?」
「やべーぞ、レイプだ!」

なんとか体制を整えようとする美国機。
が、しかし頭部を掴まれ幾度となくコンテナへと打ち据えられ、地面へと無残に転がった。
唯一の武装であるマシンガンも、右腕ごと踏みしめられ胴部とは離れ離れ。
あろうことか怜奈機に拾い上げられ、その銃口は主人に向けられていた。

「懺悔、するか?」

美国は静かに首を横に振る。
マガジンに残されていた全ての銃弾が美国機に注ぎ込まれ、完膚なきまでに破壊された。

ゲームエンド。
会場の大型モニターに大きく映し出されたその文字を合図に、コクピット型筐体が白煙を上げて開く。
歓声。怒声。様々な感情が入り乱れた声が飛び交い、その下から怜奈が這い出てくる。

鬼灯 怜奈 > 「美国さん大丈夫ですか!?」
「あいつ……俺たちの美国さんになんてことを……!」

美国を筐体から担ぎ出す取り巻きたち。
敗北の結果など微塵も想定してなかったのか、慌てふためいている。

「……おめーも大変だな。」

「よしてくれ。これも戦いさ。勝ちもすれば負けもする。」
「それは君がよく知っているだろう?」

「……。」

「これで君も晴れてランカーの仲間入りだ。僕の77という数字、受け取ってくれたまえ。」

タイタニックギアには上位実力者100名までをランキングとし、記録するシステムがある。
数多のプレイヤーの中より上位100名。その重さは計り知れない。
美国ほどの実力者ですら、77位とあれば想像を絶する世界である。

「これからの活躍を期待しているよ。ランカー。」

晴れやかな笑顔を見せる美国は、取り巻きとともに踵を返す。

……が、そこを引き留めるのは怜奈。

「光栄だぜ先輩。だがな、アタシはそんなもんよりもまずその紫もやしの収穫をしたい。わかってくれよ。」

「な。」
「なああああ!!!!!」

怜奈の手に握られていたのは電動式のバリカンは、無慈悲な唸り声を上げた。

「「み、美国さああああああああああああああああんんんん!!!!」」



店先から出ていく怜奈の顔は、とてもにこやかで充実感に溢れていた。
次回へつづく。

ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)1」から鬼灯 怜奈さんが去りました。<補足:赤髪ロングのヤンキー娘>