2016/07/26 - 23:38~03:58 のログ
ご案内:「屋上」にヨキさんが現れました。<補足:人型/外見20代半ば/197cm/黒髪金目、黒縁眼鏡、目尻に紅、手足爪に黒ネイル/拘束衣めいた袖なしの白ローブ、二の腕~手首までの白い付け袖、黒ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング/【恒常的な餓え+首輪なし】>
ヨキ > 曇り空の午後。
高さのある教室棟の屋上ともなれば、吹く風は冷たささえ感じられるほどだ。
タイルの真っ直ぐな目地を辿るかのよう、魔術書を手にしたヨキがのらくらと屋上を往復している。
片手に開いた書物には目もくれずぶつぶつと暗誦しているのは、魔術を構成する文法からなる――つまり詠唱だ。
魔力さえあれば、すぐにでもこの屋上一帯に術式が展開されるはずなのだが、
ヨキの唱えるそれは何ら異状を起こす気配さえなく、まるで外国の詩でも諳んじているかのようだった。
ヨキ > 防護に結界、相殺、中和。
借り物の魔術書を手引きに、身を守るための術式は何でも紐解き、学び、理解しようと努めてきた。
だが表立って現れる効果と言えば、ヨキの鼻っ柱を真正面から引っ叩く、反発するような紫電だけだ。
次に感電すれば皮膚が裂け、この頃の腐敗した体組織が噴き出ることは想像に難くない。
「……………………、ううむ」
眉間に皺を浮かべかけて、やめた。
「とりあえず、考えるのは後だ、後」
本を閉じる。
閉じた拍子に、指先から小さくばちんと青白い光が跳ねた。
「おっ、と、とっ……と、」
衝撃で取り落としそうになった本をキャッチしながら、屋上の片隅に設えられたベンチへ向かう。
ヨキの普段使いの、革の鞄が置かれている。
ヨキ > ヨキが腰掛ければ、さすがの頑丈なベンチも軋まずにはおれない。
両足を緩やかに伸ばした格好で深く座り、背凭れに片肘を載せる。
夏休みとは言え、職務や部活や、そのほかの課外活動に精を出す者は少なくない。
毎年、アトリエでの制作の手を休める間、ヨキはしばしば学内に顔を出すのが常だった。
とは言え、誰に会うでもなく勉強に耽るヨキというのは、例年に比べて少々珍しい。
まるで勤勉な学生でもやっているかのようだった。
「……やり残していること……あと、何があったかな」
別に、自分が殺されて死ぬとは思っていない。
ただ五体満足で動けるうち、やれることはやっておこうという魂胆だ。
ヨキ > 学生をやりたい。
学生と一緒に遊び回りたい。
美味いものを飲み食いしたい。
かわいい彼女と恋愛してみたい。
望みはごくささやかだ。
ささやかでありふれているからこそ、叶うようでいて叶わず、
叶ったとて次を望んでしまうような、際限のない欲求ばかりだった。
「……………………、」
徐に、ごろんとベンチに寝転がってみる。
まさか大事な本を枕にしようなどとは思わない。
硬い座面の寝心地は悪かったが、何故か無性にどきどきした。
「……うおお」
すぐに起き上がる。
いくら興味があっても、行儀の悪いことはだめだ。
ご案内:「屋上」に界雷小羽さんが現れました。<補足:栗色の髪、黒目、セミロング。あまり特徴らしい特徴を感じない。女子生徒。>
界雷小羽 > 「ぎりぎりで踏みとどまって起き上がったのは評価します。」
小羽は、屋上に飲み物を買いに来ていた。
小羽は貧乏臭く、安くて量の入った飲み物を買う。
いつも後半には後悔するものの、結局必死に全部飲むのが小羽の性格を示している。
少したぷっと鳴るお腹に手を当てながら、
まだ半分は入った飲み物を片手に、小羽はベンチに居る見知った教師に声をかけた。
ヨキ > 掛けられた声に、にやりとする。
「だろう?」
小羽の姿に、座面の尻をずらして座れるだけのスペースを確保する。
「良心の呵責という奴だ。
廊下を思い切り走るとか、図書館の棚に並ぶ本を押し込むとか、
そういう『悪いこと』にまったく縁がなかったからな。
一度くらい試してみようと考えるが、どうにも踏ん切りがつかん」
軽い調子で笑って、小羽を見遣る。
「君にはそういう、行儀の悪さはなさそうだな?」
界雷小羽 > 「そうやってさり気なく隣に座るように促すというのは、良心が痛まないんでしょうか。
世間一般では、生徒を引っ掛ける悪い男、と思われても仕方ないと思うんですが。」
座れるだけのスペースを開けられた、にも関わらず、
小羽は少し離れた場所にある別のベンチに腰掛けた。
少なくとも小羽にとっては、これが、正しく教師と生徒の距離感だ、と思ったからだ。
じーわじーわとセミが鳴くような快晴、ヨキの座るベンチは日陰だが、
小羽の座るベンチは太陽の光が燦々と降り注いでいる。
小羽は、例によって浮き立つ髪の毛を抑えるついでにタオルを頭に被ると、
教師であるヨキに体を向けた。
「勿論、私にはそういう行儀の悪さはありませんよ、
不純異性交遊も行うつもりはありませんし、規則を破ろうとも思いません。
そういう事をしても、損をするだけですから。
………学内で噂になっていますよ、ヨキ先生がやつれた、だとか、なんとか、
体調には気を付けるように、と、前にあった時に念を押したはずなんですが。」
ヨキ > 「はは、君にとっては悪い男と見えてしまうか。
いいや、ヨキと教え子との距離感は、いつも大体こんなものだ。
専門学科というものは、兎角顔触れが変わらんものでなあ。
つい友人のように親しくなってしまう……、
だが距離を詰めることも、離されることにも慣れている。
君の話しやすい距離でヨキと接してくれれば、それがいちばん良い」
小羽を照らす日に目を細めながら、言葉を続ける。
「もちろん、不純な交遊などというものは許されるものではあるまい。
学生のうちは、規則に従って生きることに慣れてもらわねばならん。
そうと言われると、破りたくなってしまうのが人情と呼ばれるものらしいが……
その点、君は安心だな」
言って、小羽が言うところの「噂」には、眉を下げて笑う。
「……ははあ、やつれた、か。
よくよく見れば、肉付きは何ら変わっていないだろうになあ」
ヨキの目が、真っ直ぐに相手を見る。
「君がこの話を、どう受け取るかは判らないが……。
“注意した上で”、この状態なんだ。
ヨキほど規則正しい生活を送っている人間は、そうそう居るまいよ」
三食をきちんと食べ、朝に目覚め、夜眠る。
実際、ヨキの生活パターンは健常そのものだ。
「……まあ、ヨキは元が魔物である故にな。
“人と心と身体に良いこと”をしていたら、こうなったという訳だ」
界雷小羽 > 「同じような顔ぶればかりでは、そうなってしまうのもわからなくもないですが、
ヨキ先生はあくまで教師なんですから、もう少ししっかりとしてください。
………前にもいいましたね、しっかりと、というのは。」
小羽は、はぁ、とため息をつく。
このような反抗的な態度をとるというのは、
それこそ、今自分が言ったように場合によっては評価に響くような行動だ。
あまり、賢い選択、とは、言えないような気がしていた。
「こういう生徒こそ、将来的には大きな事件を起こしたりするもの、と言いますけどね。
手放しに安心するのは、それはそれでどうなんでしょうね。
いえ、私にはそのつもりは全くありませんが。」
喋った喉を潤すように、残ったジュースを飲む。
半分に減ったジュースは、温みやすい、当然のように、夏の日差しで温くなっていた。
僅かに顔をしかめて、小羽は話を続ける。
「そうですね、あまり変わったようには見えませんが、
ですが、確かに近くで見てもやつれている、と感じます。
ヨキ先生は女性ではないので遠慮なく言わせて貰いますが、肌の張りが無くなった、といいますか。
どう受け取るか、と、言われても、
十分に注意してそう、という事は、間もなく死ぬ病人か何か、としか思えませんね。
保健室、いえ、病院にはちゃんと行ったんですか?
いえ、この学園の場合ではどちらも大差ないのかもしれませんが
異能なら医療設備の差なんてそう大きく影響はしませんしね。
人でも魔物でも、体調が悪ければ病院に行く、当然でしょう。
ヨキ先生がその耳に恥じず、飼い犬よろしく病院に行くのを拒否する、というなら、
誰かに引きずってでも連れていって貰うといいんじゃないですかね。」
ヨキ > 「ヨキはもう少し、君が求める教師像に照準を合わせる必要がありそうだな。
……そうすると今度は、大多数の学生らにとっては“四角四面”に映ってしまう訳だが。
生憎と君は、教師というものを『教師』という、別個の生き物みたいに考えているようだから」
学生とも、人間とも異なる生き物――教師。
苦言からも苛立ちからも遠い、夕食の献立を決めあぐねでもしたかのような口調だ。
笑いながら話すヨキの顔は、到底成績を左右するようには見えない。
しかし続く小羽の言葉には、些か表情を鋭くした。
「界雷君。
我々教師は、……いや、少なくともヨキは、君ら学生を事件を起こすような人間に育てるつもりは、全く、ない。
手放しの安心とは、そんなものはただの責任の放棄に過ぎん。
教師がすべきは、教え子を信頼し、信頼し合うだけの関係を培うことだ。
……ヨキの手と目を経て、なお事件を起こすというならば、それはそれで見上げた胆力だと思うがな」
鼻を鳴らして、小さくふっと笑う。
顔をフェンス越しの景色へ緩く逸らし、息を吐くと、もう元通りのヨキの顔だ。
「……ヨキには、この島へ来た当初から世話になっている病院があってな。
無論のこと、もう何度も通ったともさ」
小さく肩を竦める。言外に、原因が不明なのだと笑う。
「…………。
まあ、君が思い付くだけの手段は、もう試したものと思ってくれ。
それから、君が知らぬであろういくつかの方法もな」
小羽の顔をじっと見る。
「それで、界雷君。
君、特にヨキだけのことが嫌いとかいう訳ではなくて、誰にでもそんな調子なのかね?
友人の前では、一緒に笑ったりはしゃいだりするのかな」
大きな口だけが、薄く笑う。
小羽が望むだけの、“教師と生徒”の距離感が敷かれようとしている。
ヨキの口から、言葉を引き出す余地が遠ざかる――病院に関する迂遠な答え方は、
平素のヨキならば絶対にしない類のものだった。
界雷小羽 > 「教師は生徒に、理想の生徒像を求めるじゃないですか。」
小羽は、ヨキの言葉を否定するわけでもなく、淡々とそう言った。
「ヨキ先生も、同じようですから。今言いましたからね。
学生を、事件を起こすような人間に育てるつもりはない、と。
それがヨキ先生の、理想の学生像なんだと思いますが。
多くの学生は、その理想の通りに育って、この先も生きていくことになる。
仮に問題を抱えていても、それは解決しないまま、その理想にだけ従ってここを出ていくんです。
それなら、生徒も同じく、教師に理想の教師像であってほしい、そう思うものじゃないですかね。
勿論、問題を解決できるような先生が理想でしょうけど、
先生は一人で、学生は何百何千といるんですから、全員の問題を解決する事は出来ないでしょう。
………現に、ヨキ先生は、体調を崩されています。
別の生き物じゃない、同じ人間だからこそ、むしろ距離感が大切なんですよ。
それを否定するほど、私は馬鹿でも愚かでもない、つもりです。」
そこから先は独り言のように、小羽はただぶつぶつと言う。
別に、聞いてほしい話ではないのだろう。
「学生は教師の理想で、教師は学生の理想。
あんな立派な先生に迷惑はかけたくないと、思うからこそ、
大多数の学生は事件も起こさず、健全に育つんだと、私は思います。
ヨキ先生がそう育てたから、ではありませんよ、
学生が、そうしてあげている、というだけです。」
長く喋った後、飲み物を吸い込んで、
小羽は少しだけ咽る、日差しに温められた飲み物は、
もう、お湯と言って差し支えない温度になっていた。
じーわじーわ、と、日差しが小羽を焼く。
「原因不明なんて、現代医学にあるんですね。」
そこに驚きました、と、小羽は首を振った。
「当然、人であるなら死にたくはない、と思うものでしょうし、
あらゆる手段を試して、その結論なんだとは思いますが。
それに、知識量で私がヨキ先生に勝てる、という事もないと思いますから。
とはいえ、私は断じて違うと断っておきますが、
学生の中にはヨキ先生のファンのような子もたくさん居ますから、
死なないように努力してくださいね。
死ぬなら、元気な内に事前に退職なされました、と、でもしておいてください。」
この調子?と、小羽は首を傾げる。
「私はいつでも私です、笑いたければ笑いますし、笑いたくなければ笑いません。
少なくとも、今にも死ぬかもしれないという病人の、
それも、見知った教師の前で、へらへらと能天気に笑えるような女子高生は居ないと思いますよ。」
ヨキ > 「……理想の学生像、ねえ。
本では読んだが、実際にはピンと来ない言葉だ。
それこそ子どもは何百何千と居るのだから、理想がひとつとは限らないんだがな。
教師が与えるべきものは、あくまで人間として最低限のルールであって、
芽吹かすべきものは個々の学生が持つ『自分にとっての理想像』だ。
そこに教師個人が抱える理想像を、学生に投影してはならん。
教師が指導を行うのは、自分の理想像ではなく、社会の守るべきルールから外れているときさ。
それに……本当に、教師一人が、文字どおり無数の子どもを相手取ると?
そんなのは、土台無理な話に決まっている。
そのために我々教師は、大勢で手分けをして子どもを教えているのだ。
自分が受け持った学生は、誰ひとりとして取り零さない。
だからといって、自分の直接の教え子でない者を、おざなりに扱ってよい訳ではない」
腿の上で、八本の指を組む。
「現代医学、というものは、未だ人間と、それに類する種族を治すのが手いっぱいだ。
根源から理の異なる者は、そもそも医学そのものが効かぬのさ。
……死人のような面をして、尚も生き延びてきたのがこのヨキだ。
今までだって、十分すぎるほど血の気のない顔をしていたのにな」
荷物を手にして、ゆっくりと立ち上がる。
体調とは関係なしに、単なる自重による動作だ。
「……人に笑顔を浮かべてもらうことは、教師としてではなく、このヨキ個人の望みさ。
今のこの状態のヨキを前にしてさえ、笑っていてほしいと願うのは……
それこそ、おいそれと実在しない『理想の人間像』なのやも知れんな」
飄々とした笑い方は、一貫したヨキの表情だ。
「さて、ヨキはそろそろ行かねばならん。
……ふふ、熱射病にだけはなるなよ」
空いた手を滑らせるようにすいと掲げて、屋上を後にする。
ご案内:「屋上」からヨキさんが去りました。<補足:人型/外見20代半ば/197cm/黒髪金目、黒縁眼鏡、目尻に紅、手足爪に黒ネイル/拘束衣めいた袖なしの白ローブ、二の腕~手首までの白い付け袖、黒ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング/【恒常的な餓え+首輪なし】>
界雷小羽 > 小羽は、ただ静かに手を振って屋上から立ち去るヨキを見送った。
飲み物はもう、その冷たさで小羽の体温を下げてはくれないだろう。
それでも、小羽は、惰性的にそのストローを噛んでいた。
「受け持った学生すら取りこぼすのが、教師の常、だと思いますけどね。
意外と、そういうものには、気が付かないのかもしれません。」
ヨキが座っていて、そして、開けた、日陰のベンチに座る。
教師と生徒の距離感を守ろうとした、それで、良かったのだろうか。
小羽は、ヨキが立ち去る背の、その服の下の肌が、俄かに沈んでいたのに気が付いた。
先にベンチに横になった時についたその跡は、
これだけの長話で遠の昔に消えていないとおかしいものだ。
「とはいえ、そこまで踏み込む義理もなければ、
踏み込んでどうなるわけでもないですからね。
役に立つ異能があるわけでもありませんし、私には関係の無い事、です。」
小羽は、ふぅ、と息をついて、影を作っているモノ越しに、遠い空を見上げる。
―――笑えるわけがないでしょう、ほかの子も、あれだけ心配しているのに。
「………熱射病になる前に、帰りましょうか。」
教師に関する不穏な噂が、最近いくつも聞こえていた。
教師という存在が何かを隠している、という、不信感は、ゆるやかに、
学生を蝕むものだ、ゆっくりと、その教師という存在に依存しているような、弱い生徒から順に。
ご案内:「屋上」から界雷小羽さんが去りました。<補足:栗色の髪、黒目、セミロング。あまり特徴らしい特徴を感じない。女子生徒。>