2016/07/27 - 23:43~01:07 のログ
ご案内:「ヨキのアトリエ」にヨキさんが現れました。<補足: 人型/外見20代半ば/197cm/黒髪金目、黒縁眼鏡、目尻に紅、手足爪に黒ネイル/黒半袖Tシャツ、グレーのつなぎ、黒ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング/【恒常的な餓え+首輪なし】>
ヨキ > 当初の授業計画の通り、七月の後半からヨキが担当する授業は夏休みに入っている。
依頼を受けて制作していた食器も無事に納品を済ませ、ヨキは個人での制作に没頭していた。
来月からの個展には出さないが、不意に着想を得て造り出したオブジェだった。
しなやかなレイヨウの輪郭を形どったワイヤーが、板金の皮膚で覆われる。
それをひたすらに槌で叩き、叩き、叩いて、成型してゆく。
いつもの体力。
いつもの集中力。
いつもの横顔。
切欠は、ほんの些細なことだった。
工具の手入れをしている折、小刀の刃先で人差し指の先をごくわずかに切ったのだ。
ヨキ > 特に気が散っていたとか、考え事に耽っていた訳でもなく、単純に手が滑ったに過ぎない。
慣れた様子で、おっと、と呟き、スツールから立ち上がる。
大きな作業机に置かれたティッシュを引き抜いて、指先に宛がう。
誰が触れるかも判らぬ部屋を、この毒のような血液で汚す訳にはいかない。
暢気に鼻歌なぞ口ずさみながら、絆創膏を準備する。
そうして、取り出した絆創膏を指に貼り付けようとして――
「…………、え?」
手が止まる。
指先から滲み出る血液が、銀色をしていた。
ヨキ > 親指の腹で少しだけ傷口の傍を押すと、じわ、と滲む血の量が増す。
銀色の液体の中に、インクに似た艶のある黒が交じった。
「……………………、」
こがねに、あかがね、しろがね、くろがね……、
およそ生物の血液とは思えない、それは金属の光沢だった。
銀色に汚れたティッシュの上に、雫がひとつ滴り落ちる。
たちまち固まった小さな飛沫は、遊色めいたまだらの色をしていた。
「……これは」
親指を離す。
人差し指についたへこみが、ゆっくりと膨らんで元に戻った。
ヨキ > 呟いたきり、無言で絆創膏を巻き付ける。
傷口自体は、夜にもなれば塞がって跡形もなく消え失せることだろう。
元からそういう身体だ。
己の血はもともと錆のような臭いをしていたし、廃油のように粘ついていた。
だがたった今目の当たりにした、このとりどりの光沢――
さながら流体の金属とも呼ぶべき状態ははじめてだった。
見た目には平素のヨキと何一つ変わらないというのに、このどこかぶよぶよとした、
得体の知れない皮膚の感触……。
「……道理で、現代医学が太刀打ち出来ぬ訳だ」
昨日の界雷小羽との会話を思い出しながら、顔を伏せたまま小さく笑う。
深く深く息を吐く。
自らの身体に起こりつつある変容に、すべての合点がいった。
これは呪いだ。
呪いの金気だ。
ヨキ > 自分が獅南蒼二を食わずに居るから、魔物の身体が餓えて腐敗しつつあるのだと思っていた。
しかしそうではなく――つまりは、ヨキ自身が抱えた飢餓と、ヨキの体内で起こりつつある変容は、
根源を全く異にする現象であったということだ。
「おまえの仕業であったか、……」
答える者はない。
それでも、妙虔、と名を呼ぶことはしなかった。
単純な話だ。
自分が獅南蒼二を食わずに居るから、魔物の身体が餓えて腐敗していたのではない。
“自分の心が離れてゆくから、宿主の怒りを買った”のだ。
笑ってしまうほど、まったく単純な答えだった。
「……男の嫉妬ほど、醜いものはないな!」
癖毛の陰で笑った唇の端が、ぶるりと小さく震えた。
ヨキ > (忌まれ、恨まれ、蔑まされて)
(それでもおまえがこのおれを縛っていたということか)
握った拳を、作業台の天板にごつりと押し付ける。
重たげな金属の音。
規則正しい食事。規則正しい睡眠。規則正しい生活……。
結局のところ、何もかもはヨキにはどうしようもない話だったのだ。
人から心配されて、疑われて、不審がられて、嘆かれて。
「……ヨキはいったい、」
どうなってしまうのだ?
ヨキ > じっと考え込むヨキの瞼の裏に、ひとつのイメージが結ばれる。
それは脳裏の奥底に沈んでいた、黄金色に輝く像の姿だ。
流れるような衣のひだ。
細枝のように結ばれた指先。
今にも風に揺れそうな装飾。
優美に坐しているようでいて、決して揺らぐことのない身体つき。
たおやかな笑みを浮かべた、それはまさしく衆生済度の体現だった。
それこそが――
人の姿と言葉を得たばかりのヨキを、はじめて打ち据えた“美”の記憶だった。
ヨキ > 「……くそ、」
ヨキの口から、口汚い声が零れる。
歩みを進めているつもりだった。
どこまでもゆけると確信していた。
もはや一歩たりとも立ち止まる猶予はない。
自分はたった今、足元に底なしの泥濘が広がっていることに気付いてしまった。
顔を上げる。
汚穢に染まった金気の毒とは裏腹に、その瞳はどこまでも澄んでいた。
ヨキ > ――“けだものよ”
“おまえはいったい”
“誰が誰を食い物にしたと思っていたね?”
ご案内:「ヨキのアトリエ」からヨキさんが去りました。<補足: 人型/外見20代半ば/197cm/黒髪金目、黒縁眼鏡、目尻に紅、手足爪に黒ネイル/黒半袖Tシャツ、グレーのつなぎ、黒ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング/【恒常的な餓え+首輪なし】>