ご案内:「魔術学部棟第三研究室」にヨキさんが現れました。<補足:【女性化中】人型/外見20代半ば/180cm/黒髪金目、黒縁眼鏡、目尻に紅、手足爪に黒ネイル/襟刳りの広い濃灰七分袖カットソー、黒サルエルパンツ、黒ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ >


http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca1150.htm



ご案内:「魔術学部棟第三研究室」に獅南蒼二さんが現れました。<補足:くたびれた白衣を身に纏った無精髭の魔術教師。いつも疲れ果てた顔をしている。ポケットに入っている煙草はペルメルのレッド。>
獅南蒼二 > 貴方が部屋に戻れば、獅南は既に目を覚まし、その手には包帯が巻かれている。
散らかっていた部屋はまるで何事もなかったかのように修復されて、痕跡として残るのは貴方の服と獅南の白衣に付着した血痕だけだ。

「あまりうろうろし過ぎるなよ?
 尤も、教師が校内を歩き回るのは当然の事なのだが……。」

お前にこの棟は似合わん。
なんて、先程と変わらずソファに座ったまま、獅南は言う。
もう一眠りしたいと思っていた貴方にとっては、あてが外れただろうか。

「……さて、約束通りに夕飯をと思ったが、まだ少し時間が早すぎる。
 それに、お前は確か、腹が膨れないんだったかな。」

……どれだけ喰えるのか詰め込んでみるのも面白そうだが、なんて笑ってから、考え込む。
さてどうしたものか、と。

ヨキ > 部屋の扉を後ろ手に閉めながら、元通りになった室内の様子にふっと笑う。

「ヨキがここを出入りしている様子を、お前の教え子に見られていたりしてな。
 お前の悪い評判が立たねばよいが」

涼やかな女の声で笑いつつ、悪びれもしない。
獅南が目を醒ましたと知れば、二度寝を決め込むつもりはなかった。
ソファに腰を下ろし、まるで自宅のように背凭れへ身を預ける。

「……時間まで、少し話でもするか。
 駄弁っているだけだって、楽しいものだ」

相手の言葉に頷いて、隣の顔に目をやる。

「他のどんな食事を摂っても腹は膨れぬし、それに最近は……
 食べ物の味さえも、よく判らなくなってきてな」

言って、目を伏せる。
いくら眠っても消えることのない疲弊と、それを覆い隠すだけの気力。
美味い食事をあんなにも愛していたはずのヨキの顔に、わずかな陰が差している。
目の前の相手だけが、もはや最後の一線、あるいは支えだった。

「…………、それで……。

 この部屋、これからたまに来てもいいか。
 お前の邪魔にはならぬようにするし、来るなと言うなら来ない。

 腹は減ったままだし、何だか身体も重いが……傍に居ると、気が楽なんだ」

少し黙って、眉を下げて笑う。

「お前の血と唇だけは、随分と美味かったが……。
 もう迂闊なことは、しないようにするから」

獅南蒼二 > 楽しげに笑って、「もし見られたとして、不幸なのはその生徒だ。
 自分の目が信じられなくなるだろうからなぁ。」

ソファに腰を下ろした貴方を見れば「遠慮という言葉を知らんのか。」と肩をすくめた。
だが、咎めるつもりは無いらしい。

「難儀なものだ……私が生きている限りそのままか。
 どうやら、お前の呪いはお前よりも私を殺したがっているらしいな?」

その言葉は、深い思考と膨大な知識の海から編まれたのではなかった。
感覚、第六感。何の根拠も確証もない、何気ない一言だったのだが……

「………………あぁ、構わんが、もてなしは期待するなよ。」

……貴方の瞳と言葉が、それを裏付ける。
まるで、この獅南こそが希望だとでも言わんばかりではないか。
淡い期待など捨て去って、今ここで私を喰い殺せば飢えは満たされるというのに。
貴方はそれを、何よりも大きな禁忌としているように見えた。

「耐えられなくなったら腕の一本くらいくれてやる。
 その時は代わりにお前の腕を貰うがな。」

呪いは、貴方に何を強いるつもりなのだろう。
貴方が望まぬ未来へと導くことなのか。
……しかしなんと感覚的なことか。呪いは、やはり苦手だと、思う。

「……本当なら酒でも飲みながらと思ったが、
 お前がそうなった切っ掛けか理由か、何か糸口になりそうな話はないか?」

ヨキ > 「お前はつくづく肝が据わっているな。ヨキの出入りごとき、無用な心配か」

無遠慮な振る舞いに肩を竦められても、どこ吹く風。

「もてなしなど必要ないさ。
 お前がこの部屋に居るだけで、ヨキには何よりのもてなしなのだから」

何気ない世間話のような語調で続ける。

「……『お前を食べたい』と望んでいるのは、獣であるヨキの本能だ。
 お前の血肉にしか味を感じず、お前でなくては腹が膨れない。

 だが今のヨキは、それらの欲求とは全く別物の変化に苛まれている。
 真に『呪い』と呼ぶべきは、そちらの方」

徐に右手の指輪を抜き取ると、指の付け根を相手へ見せる。

リングの形が皮膚にくっきりと残ったきり、一向に跡が消えない。
まるで金属の軟体に窪みをつけたような――生物ならざる、不自然な弾性。

「――先日、指を切ったときにな。出てきた血が、銀色をしていた。
 もはやヨキの身体は、どこもかしこも金属に変じつつある」

指輪を嵌め直す。

「……もしもこの毒気が、ヨキの心まで覆い尽くしたなら。
 ヨキは血の一舐めさえせずに、お前を屠るだろう。

 お前を無残に殺して打ち捨て、『ヨキと獅南蒼二を引き離す』。
 まじりっけなしの、純粋な殺意……それこそが本当の『呪い』」

さも当たり前のことのように語られる、感覚的で感情的な「呪い」の姿。

「呪いの主は、言うまでもなくヨキが食った……(自らの顔を指して、)この男だ。
 自分の獲物を横取りされるのが、えらく不満であるらしい」

皮肉めかして笑う。

「……《けだものの本能》が、お前を食い殺すか。
 《もうひとりの遺した呪い》が、お前を食わずに殺すか」

ソファの背凭れに肘を突き、指先で額を支える。

「糸口があるとすれば、『身体中の金属を打ち消す』ことが出来たなら……。
 もしくは『呪いの源』さえ見つかれば……あるいは、な」

獅南蒼二 > 《けだものの本能》と《もうひとりの遺した呪い》
二つの殺意を向けられてなお,獅南は何ら変わることなく笑っていた。

「なるほど,お前にとってはずいぶんとまぁ,ジレンマの極みだな。
 それなら本能のままに,呪いに身を委ねて一度殺してみればいい。
 本能は獅南を恐れ,もうひとりは無理と諦めるのではないかな?」

自信過剰な発言も,呪いと本能に蝕まれているだろう貴方を気遣ってのことだろうか。
少なくとも,獅南がそれを気にする様子は微塵も無かった。

「だが,それにしても……」

それよりも,獅南の興味をひいたのは貴方の指だ。
貴方が金属を自在に操るのは知っている…だが,その身体までも金属へと変じているとは。

「……金属を破壊するための術式は編み出したが,打ち消す方法はさすがにわからんな。
 大抵こういった呪いの類は,対症療法だけでなく根本を打ち消さなくてはならんものだ。
 私と“その男”も仲良くやっていければ,いいのだがなぁ?
 獲物は逃げないようだし,山分けということでひとつ,どうだろうか。」

まるで“その男”に話しかけるように…冗談っぽく笑ってから,
呪いの源,という言葉にふむ,と小さく声を漏らす。

「あくまでも魔術学的なアプローチだが,呪いの源というのはとどのつまり発動の起点に過ぎない。
 複雑な術式を描きこむ際の制約を考えれば,大抵は術者が触れるか傷つけるかした箇所を中心として,術式を構成することになるだろうが……。」

貴方の身体に傷でも無いかと,目を向ける。
……このやり取りの時間軸的にはまだ貴方は女体のままであるので,あまりじろじろと見はしないが。

ヨキ > 常と変わらぬ不遜な物言いは心地よく、また心強かった。

「……おいおい、あまりヨキを誘惑してくれるな。
 お前の血がとびきり美味いことを知った今、『据え膳』を前にどれだけ我慢をしているか。
 とうに十分すぎるほど、ヨキはお前のことが恐ろしい」

一しきり笑って息を吐き、不意に自分の親指の付け根を噛む。
まるで目の前の相手に噛み付く衝動を紛らすように。
飼い犬に噛まれたような傷が、土気色の肌にくっきりと残った。

続く獅南の言葉に、感心の声を漏らす。

「金属を破壊する?ほう……、それはすごい。
 『編み出した』ということは、単に圧力や衝撃で砕くだけには留まらないのだろう?
 よもや原子に干渉するレベルではあるまいな」

自分の中へ向けて冗談めかす獅南へ、大きな口を開いてばくりと噛みつく仕草。「がお」。
もちろん、息さえ掛からない距離を空けたまま。

「山分けなどと、寂しいことを言うでない。
 ヨキがお前のみを望むように、お前もまたヨキを独り占めしてくれなくては」

相手の説明を聞きながら、視線を上に向けて考える。
知り合った当初よりも、魔術について何かしらの理解が及んでいる表情だ。

「……発動の起点か。傷付けられたところ……」

呟いて、自分の身体を見下ろす。
大きな胸に阻まれて、腹まで見通すことが出来ない。
上から服の中を覗いたり、下から捲り上げて傷ひとつない脇腹を無遠慮に晒したりする。
獅南の憚りが台無しだ。

最後に傷をつけられた箇所を思い出しながら、人差し指で肌の上をなぞってゆく。
首。胸元。腹。目元。もう一度首。喉から胸……。やたらと多い。

「………………。そうだ。脇腹だ」

不意に思い至る。
脇腹から斜めに突き上げ、肋骨の間を目掛けて。

「“何かを捩じ込まれた”……」

今となっては、その痛みも何もないらしい。首を傾ぐ。

獅南蒼二 > 日が沈み,辺りは夜へと転じていく。

「ははは,お前に恐れられても仕方ないからなぁ。
 尤もそれによってお前が“我慢”を覚えたのならそれも良いか…
 …“その男”か“けだもの”が恐れるようになってくれれば手間が省けそうだが。」

貴方の仕草を気に留めることもなく,棚から一冊の本を取り出す。
辞書ほどの厚みのあるそれを貴方へと投げ渡して…

「良い勘だな。
 …いかなる金属も“腐食”という破壊からは逃れられない。
 そして,僅かに電子を操作してやるだけで,腐食は大いに促進される。
 詳しくはその本を最初から最後まで読めば,すべて理解できるだろう。」

楽しげに笑った。渡された本は金属腐食工学とだけ書かれたシンプルな論文集だ。
とても読む気にはなれないだろうけれども。
噛み付くような仕草を見せる貴方に,ほれほれ,と腕を差し出してみる。
完全に遊んでいるが,それは貴方を信頼してのことなのだろう。

「まったく,お前はすぐに調子に乗る…愛しているとでも囁いてほしいのか?
 安心しろ…心配しなくともどこの誰か知らんその顔の主に興味は無い。
 その男の呪術には,学術的興味を抱かないでもないが,な。」

貴方に魔術の話をするとき,以前はただ困惑させるためだけに語っていた。
大きな変化に気づかぬ獅南ではないだろうし,その裏にある努力を想像できない男でもない。
……僅かに目を細めて,笑む。
が,あまりにも無遠慮な貴方の振る舞いには閉口した。

「………まぁ良い,脇腹か。だが,その身体が金属でできているのならX線は無駄だろう。
 いっそ,その身体を真っ二つに切り開くか…?いや,さすがに不味いな。
 尤もお前はその男を喰い殺しているのだろうから,起点はいくらでも……。」

まるで独り言をつぶやくように,獅南は思考を進めていく。
きっと,1人で研究に没頭しているときもこんな様子なのだろうとわかるくらいに,まっすぐな目で貴方の脇腹を見る。
そして不意に,何かを思いついたように視線を巡らせ…貴方の顔を,まっすぐに見た。

「……お前がその顔を手に入れた経緯をもう一度詳しく話せ,
 覚えている限りすべて,覚えていないものも,思い出して全て,だ。」

…夕食に出るのなら,もう良い時間になっている。
貴方ならすぐに想像できるだろうが,このままこの男の探求心に火をつけてしまえば,明日の朝になりかねない。

ヨキ > 「ヨキは『待て』が出来るのさ」

軽い調子で笑う獅南に、自分もまた楽しげに。
そうして放られた本をキャッチすると、その目次をぺらぺらと捲った。
辟易というよりは、感心した顔でほうと息を吐く。

「……金工を始めた当初、金属材料学は一通りやったよ。
 だが腐食だけで丸ごと一冊とは、まだ未知の世界だ。

 魔術は電子まで意のままに操るのか?
 本当に魔術学という奴は、不可能がないのだな」

しばし斜め読みをしてから、本を閉じて獅南に返す。

「お前に借りていた本を返したら、次はこれに手を付けようか。
 “獅南先生”が勧めるテキストなら、信用が置けるだろうからな」

獅南に腕を突き出されると、う、と息を呑む。
自分ではふざけてみせるくせ、いざ相手にやられればひどく弱い。

そして、愛しているとでも囁けばよいか、と嘯かれて、はっと短く笑う。

「……もしそうだと答えたとして、お前は口が裂けても言わぬか、
 或いはそつなくこなすか。ヨキはどちらも御免だ」

笑みに拗ねた声色が交じるのは、ほんの一瞬。

考え込む獅南にぱちぱちと瞬いて、真剣な眼差しを見返す。
その目が突然自分の顔へ向けられると、びくりと目を丸くした。

「覚えているものも、いないものも?また難しいことを。
 その瞬間、ヨキはまだ言葉を持たない犬だったのだ。
 詳しく話すなど……、……いや。やってはみるが」

どうせ食事に出たところで、腹は膨れず、味も判らない。
それよりも、こうして獅南の冷徹な目を見ている方がずっと好かった。

「……それで、何か思いついたことでもあるのか、獅南?
 独りで何もかも思い出すには、取り留めがなさすぎる。
 お前の案に沿って考えれば、多少の取っ掛かりにはなるはずだ」

縋るような顔。

「あとは……、
 ……実際の“獣”の姿を見せた方が、話が早いのやも知れんな」

視線を泳がせてから、相手を見返す。

「獣のときは……脇腹に、傷がある。
 人のなりをしているうちは、傷跡も何もなくなってしまう。
 それだけこの姿は不完全で、仮初のものに過ぎないんだろう。

 ……お前に、あまり見せるつもりはなかったが。
 ここへ来て、その機会が巡ってきた、ということなのだと思う。

 ………………。ヨキの理性がどれだけ持つかは、判らないが」

獅南蒼二 > 「良い子だ…褒美は無いが。」

貴方の言葉には、なるほどと頷く。
貴方が金属の基礎を学んでいることは、少しも意外ではなかった。
それだけの勤勉さを、既に貴方の中に見ていたから。

「ああ、どうやらどの分野にも変わり者は居るらしい。
 そして、電子を操作するには緻密な操作が必要だが、不可能ではない。
 ……これもお前を殺すための研究の一環さ。
 お前が酸化鉄を金属として操れるのかどうかは、賭けだったが。」

こうして手の内を話すのはそのさらに先を用意していることの表れとも取れるし、
貴方を「殺す」ことの意味が変わったことの表れとも取れる。

「おいおい、その分野ではお前の方が専門家だろう?」

笑いながらも、差し出した腕を見る貴方の瞳を、じっと見つめ返す。
今、本当に襲われれば抵抗など出来はしないというのに。
……むしろ、そうなることを半ば望んでさえいるかのように。

「感心だな……私の事をよく理解し始めている。」

肩をすくめて笑い、それから腕をやっとひっこめた。
それから、机上からメモのための紙を取ってきて、

「…お前に【喰った相手の顔を奪う】力があるとは聞いていない。
 ともすれば、その顔をお前に被せたのは【お前の無意識】か、もしくは【その顔の主の力】だ。
 前者であればお前の身体を交換する手掛かりに、
 後者であれば呪いの起点を探す手掛かりに……と思ってな。」

メモに、乱雑な文字でこれまでに出たいくつかのキーワードを書き込んだ。
それから、貴方の言葉通りに【獣】と書き込んで……手を止める。

「……なるほど、お前の本当の姿、か。
 なに、お前の理性がもたぬのなら、その時は私の力で封じ込めてやろう。」

メモを書く手は止まったまま、

「だが、【獣】はお伽噺のように人の言葉を話せるのか?
 流石の私も唸り声から言語は読み取れんからな。」

ヨキ > 瞬きして、はにかむ。

「工学者にも等しい成果を独りで上げるお前には、まったく敬服する。
 しかもそれが、ヨキを殺すためだと言うのだから。

 ヨキの異能は、金属元素を複製し、増殖させる力だ。
 結晶構造そのものを阻まれれば、ひとたまりもない。
 異能は即座に無力化され、この身体ごと破壊されるだろうよ」

獅南が軽口から覗かせる『望み』の片鱗に、喉奥で犬の唸り声が込み上げる。
目を伏せた顔は女の媚態に似て、近付くことも、遠ざかることもしない。
吹き荒ぶ衝動に抗い、唇を噛み締めて耐える様は被虐的ですらあった。

やがて眉を下げ、笑う相手に苦笑する。

「やっとさ……少しずつ、お前のことが判るようになってきた」

言って、相手が紙片に手掛かりを書き付けてゆく様子を見守る。

「……恐らく『我々』は、本当の意味でひとつになるはずだった。
 『宿主の主導で』、『正真正銘の人間』に。

 奴は言った――《遍く愛せよ》。
 それが奴を食らった瞬間に聞いた、最期の言葉だ。

 食らうと同時に、ヨキの脇腹も破られて……脳裏に『人の言葉』が爆発した。
 それ以前をうまく覚えておらぬのは、ヨキの中に言葉がなかったからだ。

 だが奴の目論見は、我々が一体化を果たした時点で『既に失敗していた』。

 途中で『他の人間』が我々の間に立ち入ってきたのだ。
 ヨキを討とうとする他の人間らが、奴よりも先にヨキを傷付けていた。

 今思い出すに……それは……恐らく、一連の《儀式》だった」

術者との一体化が齎す浄化。転生を遂げる祭儀。定められた手順。破られた禁忌……。
ヨキの言葉の端々から、『呪術』の姿が薄らと浮かんでくる。

「……獣の姿になると、言葉は一切話せなくなる。
 どうしてだか、異能者とは思念で通じ合えるのだが。

 だが例外はあった。クローデット・ルナンだ。彼女と、荒野で遭遇したことがある。
 何らかの魔術を用いて、彼女は獣のヨキと会話を行ったよ。

 ……お前には、獣の姿のことを知られたくなかったからな。
 彼女に口止めをした。『獅南にだけは明かしてくれるな』と」

ヨキは知らない。
彼女が獅南の依頼で、ヨキの来歴を探っていたことを。
ヨキが捕らわれていた頃の記録が、彼女の目に触れてしまったことを。
クローデットと獅南との結託が、既に決裂していることを。

獅南蒼二 > 勝ち誇るような笑み。

「やはりそうか……!
 異能と魔術の最たる違いは応用力だからな。
 ……といっても、まだ実用レベルには至っていない。
 お前の刃や身体が腐食により破壊されるよりも、
 その刃が私を貫く方がずっと速いだろう。」

不完全であることを白状しつつも、
己の理論とも呼べぬ推論の実証を、獅南は喜んだ。
戦うとなれば迷うことなく、貴方をしてそれを試しただろう。

「…………。」

努めて感情の表出を抑制することの多い獅南。
その表情から多くをうかがい知ることは難しいだろう。
狂おしいまでの衝動と信ずるべき理性の戦いを前にして、僅かに動いた眉。

それが何を意味するのか貴方に伝わるかどうかは分からないが、
獅南はもう、貴方を挑発しようとはしないだろう。
貴方の理性が敗北するのではなく、理性的に判断してそれを是とした時。
……その時こそ、腕を差し出そうと。

「……なるほど、その顔の主はつくづく間抜けで哀れな男だな。
 重要性を鑑みれば、一切の外的要因を排して臨むべきだった。
 それに……心中までは分からんが、お前の事も、恐らく【他の人間】をも救おうとしたのだろう。
 怪物をその身に封じた救い主となるはずだったのだろうが……。」

貴方の話を簡潔にメモしつつ、苦笑する。
言葉とは裏腹に、咎めるようでもなく、哀れむようでもなく。

「……クローデットか、それは初耳だな。
 今だから言うが、アイツは私の手駒の一人だった。
 私よりよほど才能に溢れ、慢心もない素晴らしい魔術師だよ。
 ……もっとも、お前と親しくする私を、彼女の方から見限ったようだがね。」

クローデットと獅南の間での情報共有は、ほとんど形式的で稚拙なものだった。
クローデットは信頼できぬ獅南に情報を隠し、ヨキを信頼した獅南はもはやクローデットの持つ情報を必要としない。
だからこそ、捕らわれていた貴方の記録は、獅南の知り及ぶところではなかった。

なんにせよ、念話の類いか、脳波やら神経系の増幅か、
少なくとも言語でのコミュニケーションが可能だと分かれば、それだけで十分。

「……よし、やるとして、人目につかん場所で実験するほかないな。
 外的要因の危険はあるが、荒野を使うか……他に人目につかん場所に心当たりはあるか?」

ヨキ > 弱点を突き止められてなお、相手が見せる晴れやかな表情を喜び、称える。

「……獅南。お前はすごいよ、本当に。
 魔術でどこへでも辿り着いてしまう。
 お前の冷静さと熱情を、ヨキは心から尊敬する」

深く呼吸し、息を整える。

「人間は、友人を食べなどしないものだ。
 だから絶対に、ヨキはお前を食べない。
 腕をくれるとお前は言うが、きっと腕だけで足りはしないから」

苛烈な葛藤を振り払うよう、にこりと笑う。

「もしも彼奴が独りで儀式を行うことが出来ていたら、今ヨキはこの場所には居なかった。
 ヨキを襲う人の集団が、ひどく密だったことを覚えている。
 義憤としがらみに支配された心を、秘儀に委ねきれなかった結果だろう。

 ……彼奴の姿となって人を《遍く愛すること》は、何よりの呪いだった。
 人が作る律に従い、自らを戒め、誰も彼もを等しく愛して、ヨキは他者から隔てられていた。
 そんなの、誰も愛していないことと同じだというのに。

 そうしてヨキは、死して久しい彼奴だけを憎んで生きてきた。
 ……全く思う壺だ。ヨキはまんまと、彼奴に心を縛られて独りきりだった。

 本当に愚かで間抜けだったのは、ヨキの方だ……」

“教師”としてのヨキが見せる厳格さからは程遠い、感情の吐露。
その顔は哀しげだが、悔いている様子はなかった。
顔を上げれば、目の前に光明があるからだ。

「そうか、手駒か。……はは、謀られたな。
 いや、今さら恨みなどするものか。ヨキは今のお前を信じている」

獣の姿を明かすとなれば、ヨキの顔がどことなく緊張に強張る。

「荒野の奥ならば、人も生き物も寄り付かんところがある。
 ヨキは無為に人間を食べたくなったとき、そこで耐えていた」

獅南の肩口へ、そっと額を寄せる。
その手も牙も、もはや相手に触れることはない。

「……獣となってお前と向き合う前に、覚えていてほしい。
 たとえヨキの理性が失われても、人の言葉が通じなくなっても、
 ヨキの望みは“お前と共に生き延びること”ただ一つだと」

獅南蒼二 > 「魔術学に取り憑かれた哀れな中年だ。」なんて肩をすくめて笑う。
その笑みは、いつもより少し、自然な明るい笑みだった。

「……そうだな。
 真っ当な人間としては、たとえ友人にだろうと自分の腕は差し出さないだろう。
 私も、お前より【人間らしからぬ】行為に手を染めるのは、やめておくとしようか。」

貴方を安心させるためか、あえて心中を言葉として貴方に伝えた。
それから、貴方の言葉を聞いた獅南は、呆れたように肩をすくめて、

「……さて、余りの苦痛に精神まで病んだか。
 他者の律に従い、等しく愛して……などと、舞台俳優でもそんな台詞は吐かん。
 お前が従っていたのは確かにこの島の律かもしれんが、
 お前が愛するのは【美しいもの】だけだろう?
 それに、お前が律に従い遍く愛するのなら、その対極にいる私を生かしておくことは出来んはずだ。」

貴方を真っ直ぐに、普段通りの鋭い目で見る。
弱った心が迂闊な言葉を紡げば、こうして叩いてやろうと言わんばかりに。

「……私が信頼した友が、その程度だとは思えん。
 私の友は、律から外れてでも己の信念と欲求に生き、やがて道を極める男だ。
 どのような呪いをもやがて退け、それをも己の美の材料としてしまうだろう。」

真面目な表情と声色。
それから、思い出したかのように、やや芝居じみた仕草とともに、

「……愚かで間抜け、という点については同意する。」

貴方の緊張を察してか……いつもより、楽しげな笑い声。
貴方が額を寄せても、獅南は僅かも身じろぎせず……

「荒野の奥……か、良いだろう。
 だが、私と共に生き延びること……とは、また随分と欲張った望みだな。」

……そうとだけ呟いて、小さく息を吐く。
絶対の自信と裏腹に感じていた、もう一つの可能性。
貴方が狂おしいほどに求めながらも、最も恐れ、忌避せんとする結果。

「魔術学は、不可能を可能にする力だ。
 安心しろ、お前が言葉を失おうと牙を剥こうと、お前の望みは決して忘れんよ。」

叶えてやれるかどうかは……。
そんな内心の微かな不安を掻き消すように、獅南は貴方を、ポンポン、と優しく撫でた。
貴方の為ではなく、それは、紛れもなく自分自身を保つために。

「よし、お前が指定した地点で、実験を行おう。
 日時は…………。」

ヨキ > 「……すべて事が終わったら、祝いにワインでも開けようか。
 お前の血以外に、味覚が戻ってくれればの話だが。
 友人というのは、そうして付き合うものだろうから」

相手から向けられる強い言葉と眼差しに、小さく笑う。
不安で気が遠くなりかけるのを、繋ぎ止めでもするように。

「……有難う。
 お前はこのヨキのことを、よく判ってくれている。
 こんなにも気弱になってしまうとは、自分でも思っていなかった」

眉間に力を籠め、笑って獅南を見返す。

「済まない。
 お前の信頼を裏切るようなことだけは、あってはならぬのに。
 いやな乱高下だ」

人間の言葉にこんなにも容易く、真っ向から励まされるヨキ。
ともすれば《呪術》とやらにもこうして嵌ったのやも知れぬと思わせる、
単純なまでの笑顔だった。

肩に頭を寄せ、顔を持ち上げて、言葉を続ける。

「…………。その欲求だけは、どうしても叶えたいんだ。
 ヨキの目標と、憧れと、指標が詰まってる。
 そこから至る夢に広がってゆくのさ。
 はじめからあれやこれやと望むより……ずっと慎み深いだろう」

失敗などあり得ないと、言い聞かせる様子にも似ていた。
もしも“共に生き延びること”が潰えてしまえば、その先のすべてが共倒れとなる危うさを孕みながら。
獅南の眼差しに射られたかのよう、ヨキはもはや言葉を憚らなかった。

撫でる手の柔らかさに、苦痛が和らいだ面持ちで目を伏せる。
しばしその感触に浸り、次に顔を上げたときには――眼差しに、決意の光。

獅南蒼二 > 「おいおい……今更世間一般の友人らしい真似事をするつもりか?
 まぁ,たまには良いだろうが……しかし,味覚か,なるほどな…
 味覚が戻らんお前の目の前で上等なワインを飲んでやるのも面白そうだ。」

貴方に向ける笑みは意地悪な,いつも通りの笑み。
それこそ,貴方を“いつも通りの日々”に繋ぎ止めようとしているかのようで…

「まったくだ,明日は雪か,それとも雹が降るかもしれん。
 それに……よく判っている,などと,買い被り過ぎだ。
 お前が馬鹿みたいに分かりやすい性格をしているだけだろう?」

単純に笑っているようにも,努めて笑おうとしているようにも見える貴方を,
獅南は呆れた顔で見やり,苦笑した。

「…………。」

そして貴方の言葉を聞きながら,己を顧みる。
“共に生き延びること”が潰えるとはつまり,魔術学が敗北するということだ。
獅南の望む“不可能”の壁を魔術学が打ち破れなかったということだ。
そして,獅南にとって唯一の“友人”を失うということだ。

「確かにそうだな…少なくとも,願いをかなえる側としては単純で分かりやすい。
 さて,お前だけでは不公平だ,お前の理性やら記憶やらが飛ぶまえに私の分も聞いておいてくれ。」

決意の光を宿した貴方の瞳と,疲れ果てながらも澄み切った獅南の瞳。

「……私の望みは1つだけだ。」



「全てが終わった後の祝杯は,ワインではなくウィスキーにしよう。」

ご案内:「魔術学部棟第三研究室」から獅南蒼二さんが去りました。<補足:くたびれた白衣を身に纏った無精髭の魔術教師。いつも疲れ果てた顔をしている。ポケットに入っている煙草はペルメルのレッド。>
ヨキ > 「遅いも早いもあるものか。
 やらずに終われば後悔するだろうと思えることが、沢山ある。
 真似事ではなく、ヨキが心からそうしたいんだ」

普段どおりの冷淡な笑みと、憎まれ口が心地よい。
懐いた犬のような穏やかさで笑っていると、女の造作だけは悪くなかった。

聞き洩らすまいとばかり、獅南の「望み」に耳を傾ける。
金の瞳をしばし痴れたようにぱちくりと瞬かせてから――

笑った。
可笑しくて、嬉しくて、肩を揺らして声を上げた。

「――分かった。覚えておく。
 ヨキの望みを叶えてくれるお前のために、ヨキも絶対に忘れない。
 例え何が起こったとしても……それだけで戻ってこられる。必ず」

朗らかに語らう友人の顔をして、しっかりと頷く。

「お前の望みは、このヨキが叶える」

ご案内:「魔術学部棟第三研究室」からヨキさんが去りました。<補足:【女性化中】人型/外見20代半ば/180cm/黒髪金目、黒縁眼鏡、目尻に紅、手足爪に黒ネイル/襟刳りの広い濃灰七分袖カットソー、黒サルエルパンツ、黒ハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>