2016/09/30 - 23:55~14:52 のログ
ご案内:「禁書庫」に化野千尋さんが現れました。<補足:垢抜けない黒いセーラー服の少女。 黒髪に赤い瞳。 ◯後入り歓迎です!>
化野千尋 > 「…………、」
日も落ちて、残っているのは数人の図書委員だけになった図書室。
化野千尋は、本来立入禁止である禁書庫にいた。
はじめは、普通の魔術書を読み漁って"探し物"をしていたにすぎなかった。
が。それだけでは、化野の探している回答には辿り着けなかった。
そんな中、立入禁止の魔導書図書館――禁書庫の話を聞いたのは偶然であった。
人が少なくなってきた時間を狙って、こうして忍び込んだ。
勿論、悪いことをしているという自覚はあるが、それでもどうしても。
天下の常世学園に所蔵されている"知識"を探し求めて。
驚くほどに、世界から葬り去られた知識たちが保管されているにしては、
あまりに簡素なセキュリティを抜けて。
さながら怪物の口の中に自分から飛び込むように。
ひとり、並んでいる物騒なタイトルを眺めて歩いている。
化野千尋 > .
人の足音が聞こえていないのを確認すれば、はあ、と溜息をついて壁に凭れ掛かる。
図書館の中と禁書庫とでは、空気の張り詰め方が違っていた。
常に誰かから見られているような感覚が、べったりと身体に付き纏う。
嫌な汗が垂れるのを、化野は我慢ができなかった。
一冊一冊に手を伸ばし、数ページ読んだだけでも体力の消耗が激しい。
紛れもない注視妄想であることは事実なのだが、それを妄想と断定することも出来ない。
この独特の空気感が、きっとこの禁書庫のセキュリティの意味も為すのだろう。
事実、一般的な生徒である化野千尋は、このセキュリティを前に敗北が見えていた。
何を探すことも出来ずに、何を見つけられることもなく、
何も得られることがなく、この知の集合体から逃げ出すことになりそうになっていた。
「魔法使いのみなさんでしたら、きっと」
余裕なのでしょーか、と。ため息混じりに重々しく漏らした。
化野千尋 > .
禁書庫の隅に置かれていた脚立を持ってきて、魔術学の区分の棚の傍に置く。
きっと、図書委員やそれに準じる司書たちが使うものなのだろう。
真面目に働くために置いてあるだろうものをこういう悪いことのために拝借することは
僅かどころでなく心が痛むが、目的のために手段を選んではいられない。
そうそう高頻度で訪れる場所では間違いなく、ない。
それよりも、こんなところは一刻も早く立ち去りたい思いのほうが圧倒的に強い。
「っとと……。」
ぎいこと音を鳴らして、脚立に足を掛ける。
几帳面なまでに整理された本の中から、一冊引き抜く。
引き抜いてみると、改めてその整理の均等さに驚くと同時に、
持ち出したらきっとすぐにバレてしまうのだろうという焦燥に駆られる。
引き出した本を片手に、脚立を降りる。
その棚の前に座り込めば、おもむろに最後5ページ目を開く。
――『死に関する41の魔術事例』。
死というものは、すべての生き物に与えられた権利であり、また、
すべての生き物に対して極めて有効な事象である。
これが、私がこの書を記した理由であり、私の長年の研究の結果である。
化野千尋 > .
――暫くして。
化野千尋にとって、その10分間はこれまでの人生のどの時間よりも長いような気さえしていた。
事実、経過した時間はたったの10分だ。たったの600秒だ。
それなのに、頭のなかに叩き込まれる著者の言葉は、どうしようもなく化野を苛む。
これが禁書であるのか、と本能で理解する。
恐らく、最後の言葉からして【大変容】の前に書かれた書物であることは間違いない。
今となっては、死などものともしない生き物が我が物顔で闊歩している。
この著者が見たら、泡を吹いて倒れることだろう。
それでも、この著者の言葉には重みがあった。
それは、本に仕掛けられた魔術によるものなのかもしれない。
それは、この禁書庫独特の空気によるものなのかもしれない。
それは、ただ化野千尋自身に響くものだったのかもしれない。
ひゅうひゅうと肩で息をする。
元の場所に戻す気力もなく、並んだ本の上にぽすんと置く。
持ち出そうなんて思いは、まず抱かなかった。
呼吸を整えながら、真っ暗な図書館へと戻っていった。
ご案内:「禁書庫」から化野千尋さんが去りました。<補足:垢抜けない黒いセーラー服の少女。 黒髪に赤い瞳。 ◯後入り歓迎です!>