2016/10/10 - 21:49~01:23 のログ
ご案内:「職員室」にヨキさんが現れました。<補足:27歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた白コート、細身の白ボトム、黒ショートブーツ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > 午後の職員室。デスクに就いた一回り半ほど年上の男性教師の前で、何やらヨキが肩を落としている。
同僚である男性教師の、いいですね、ヨキ先生、という、穏やかでいて子どもを窘めるような語調。
「…………、うむ……」
昨日のテラスで鬼の形相をしてデザートを決めあぐねていた顔から一転、ヨキは完全にしょぼくれていた。
大勢の教師や学生が行き交う中、大男が突っ立って説教されている図はえらく滑稽だろう。
ヨキを諭した男性教師は、《大変容》前後の比較文化論を受け持つベテランだ。
旧世紀の日本映画を題材にした、今日の講義。
いそいそと聴講しに足を運んだはずのヨキは、危うく出禁の苦境に立たされていた。
その理由は、「泣きすぎ」である。
ヨキ > 元より感受性の高い美術教師として名高いヨキであったが、
それは涙を持たぬ半死人の、金色の瞳によって面目が保たれていたらしい。
《大変容》以前、未だ異能も魔術も表沙汰になっていない一家族を描いた、古き良き日本映画。
その静謐でいて深く心に染み渡る家庭の在りように、ヨキは真っ向からパンチを食らったのだ。
ヨキは初めから独りであったから、そもそも家族というものを知らない。
それでいて常世学園に通う学生らは元より、島民すべてを「いとし子」とするヨキにとって、
彼らの「家族なるもの」は空想の中で半ば神格化されていた。
“可愛いヨキのいとし子らを産んだ家族が、貴くないはずがあろうか(否)”。
そんな理由で、映画の中盤からヨキは独りさめざめと涙していたのである。
照明を落とした最後方で、真面目に鑑賞する学生らを余所に泣いている教師。
イエローカードが掲げられるのも御尤もであった。
ヨキ > とぼとぼと自分のデスクに戻って、椅子に腰を下ろす。
端末のキーボードを操作しながら、冷めた湯呑の茶を一口。
劇中で卓袱台を囲み、家族仲良く茶を飲んでいる光景がフラッシュバックした。
(あの父親はもう、カヨコの茶を二度と飲めぬのだ)と思うと、胸の奥で熱いものがこみ上げてくる。
泣きそうなんだか笑いを堪えているんだか、よく分からない顔になった。
「……い……いい映画だった……」
人波がしばし途切れたタイミングで、ぽつりと呟く。
この期に及んで、まだ余韻に浸っていた。
ヨキ > 「………………、」
しかし、現実が理想的な家族ばかりではない――むしろ、今の世ではどれほど存在するのかも定かではない。
他ならぬ“家族”によって深刻な傷を負った者も学園には多い。
そんな人間たちを前に、おいそれと踏み込む訳にはいかなかった。
彼らが零す“家族”の手がかりを少しずつ拾い集め、学びながら、ヨキは焦れるほどの歩みでここまでやってきた。
そうして、完全な人間となった今は――
「(……ヨキ自身が、家族を作ることも出来るのだな……)」
唇をへの字に曲げて、視線で天井を見遣る。
全く以て、想像の付かない話だ。
ヨキ > 「(……もし)」
端末を操作する手を止め、机に頬杖を突く。
「(《大変容》以前のようだと言われるほど、異能者や魔術師や、異邦人との垣根が目立たなくなったなら……)」
先ほどの映画とは何ら関係のない、事務的なメールの文中でカーソルが止まっている。
「(そのときこそは、ヨキも“人間らしく”身を固めてもいいのやも知れんな)」
無論のこと、そんな相手も機会も、確かなものは何も持っていない。
ヨキ > 「(だが……そうしたら、)」
そしたら?
「……………………、」
眉を顰め、唇を尖らせた気難しい顔で両手を後頭部へやり、チェアに背を預ける。
こんなにも大勢の人間が集う明るい室内というのに、突然独りで放り出されたような心持がした。
止そう。
「――何でもない」
まるで言い訳でもするみたいに、小声で一言。
ぷい、と仕事へ戻ってゆく。
“家族”に対する、無根拠な憧れが催したものは――罪悪感だった。
ご案内:「職員室」からヨキさんが去りました。<補足:27歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた白コート、細身の白ボトム、黒ショートブーツ、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>