2017/03/10 - 23:38~05:21 のログ
ご案内:「違反部活群」にラクリモサさんが現れました。<補足:くたびれた白衣、長髪に半分隠された顔、オーバーサイズのTシャツ>
ラクリモサ > びしゃり、びしゃり
何か濡れたようなものが何度も地面に打ち付けられるような音が
人の訪れない裏路地に響く。
白衣の裾と足先を真っ赤に染めた小柄な体が薄暗い闇の中を行く。
何処か夢見がちなその瞳はまるで現を眺めていないようで
そしてだらりと下げた手の片方は何かと手を繋いで。
いや、正確にはひじから先だけの片手を持っているというのが正しいかもしれない。
まるで強引にちぎられたかのような断面のそれと手を繋いだ形のまま
「……ふぁーぁ」
あたかも花束を持っているかのように気軽に、気だるげにそれは歩く。
今日は少し暖かい。どこか適当な日溜りでも見つかればそこで眠れるかもしれない。
今何時だっけ?そう思い腕時計を見ようとしてふと気が付いた。
「なんだろこれ。あ、手か」
いつの間にか持っていた手をぽいっと側溝へと投げ、
何事もなかったかのように腕時計を覗き込む。
ああ、もう夕方だ。だからこんなに暗いのか。
今日は寮に戻ろうかな?ああでも面倒だな……
そんなことをぼんやりと考えながら立ち止まる
ラクリモサ > 「……んぁー」
小さく欠伸をする。
この辺りは行方不明が多い。
この付近の住人も何か危険と知っているのか殆どこの辺りには入ってこない。
お陰でいつもあまり邪魔されずに散歩できる。
時折ネズミが入ってくるものの別に彼女は気にしていなかった。
自分から実験室に入ってくるネズミなんて、彼女からすれば実に都合が良いのだから。
「あーぁ……せっかく作ったお薬ちょっと試してみたいんだけどなぁ」
出来れば薬を常用していないような相手が良い。
自分で飲んでも良いのだけれど、以前自分が飲んでも少々ふらふらする程度の物を
モルモットに飲ませたら全身から血を噴出して死んでしまった。
あれでは麻薬としては役に立たない。
川の向こうまでぶっ飛べるお薬が欲しいというならぴったりだけれど
大体の売人が欲しがるのは川の手前でタップダンスを踊るような薬ばかりだ。
ラクリモサ > 「脳に電極でもぶっさしてあげれば永遠にトリップ出来るのに
日常に帰ってきたいなんて我儘だなぁ。〇び太君はぁ」
まるで彼女の視線の先に誰かがいるように壁に向かって話しかける。
此処だけ見れば少しトリップしてしまっている人そのものだが
実際に彼女は危険人物。
しかもその足元は真っ赤に染まっている。
昏い路地も相まってもしいきなり出くわしたならホラー映画も真っ青な光景。
「さっきの手、何だったんだろう
手だけになる前に色々しておけばよかったのに
なんで手だけ持ってくるかなぁ?ボクは」
今思うにさっきのお手手の持ち主で実験すればよかったのだ。
いや、多分当時の自分はそれに適さない相手と判断したのだろう。
どうでもよすぎて覚えてない位だから、きっとどこかのジャンキーか何かだったに違いない。
実験できるような相手なら覚えていないはずはないのだから。
「……生徒に流しちゃダメかなぁ」
一応あちらから提供されない限り学校から直接引き抜いて実験するのは禁止されていたような気がする。どうでもいいけど。
とは言え学校内の事件については風紀委員は仕事をする。
変に目をつけられるのは面倒だった。
「……そうでもなくね?」
いや、逆に目をつけられて誘い込むというのもありだろうか。
風紀委員なら面白い異能持ちもいるだろうし。
「頑丈だもんねぇ……うん、悪くはないなぁ」
物騒な事を考えながらペタペタと歩く。
自分が処分される可能性については微塵も危惧していなかった。
ラクリモサ > 「よいしょ。よいしょ」
何だか夕日と月が見たい。
突然そんなことを思いついた彼女は徐に壁に手足を突き刺して壁を登っていく。
上り終わった後に跳躍すればよかったと気が付くもヤモリ気分が味わえたので良しとしよう。それに……
「やべ……通りですーすーすると思ったら」
着ているシャツから内側を見下ろし若干あちゃーという表情をする。
もう少しちゃんと服装は整えよう。
「まぁ洗濯するの面倒だしいっか」
誰も見る人いないし。そう考えて屋根の上にぺたんと座り込む。
日はほとんど落ち、空はもう青と紫に染まっている。
キラキラと宙を舞うなにかもいくつか見えるがこの島では空を飛ぶものなど決して珍しくもない。
ご案内:「違反部活群」にイチゴウさんが現れました。<補足:風紀所属の四足歩行ロボット。>
ラクリモサ > 「平和だなぁ……」
カクンと人形のように空を見上げる。
きらめいている星も月も、今日も変わらず随分綺麗だ。
今もきっとこの島では何人か死んだり狂ったりしているけれど
それも含めて世界は今日も平常運行。
三途の川の渡し守に休みの日などないのだから
もし生まれ変わっても渡し守にだけはなりたくない。
「ブラック企業も真っ青だぜぇ」
口にしたのは何方かというとブラックジョークの類。
イチゴウ > 今日もいつも通り汚れた地をパトロールして
クソ野郎どもをぶっとばして帰る。
そんな日常を送るはずだったが今日は何かがおかしい。
普通この辺で違反学生共がヤクでもキメてるのだが
今日に至っては静かすぎる。
そしてさっき溝で人間の手を見つけた。
「・・・」
四足の変わったロボットは路地の一角をしばらく
見ていた。普通のメンタルならば嘔吐は避けられない
であろう光景を前にしながら。
ラクリモサ > 表向き一応成績優秀の転校生な訳で。
品行方正とは自称するつもりはないものの、一応先生方には
変わっているけれど優秀な生徒と認識されている。
何日も寮を開けるのはあまり良い判断ではない。
……けれど
「やっべぇ……死ぬほど面倒。
歩きたくないでござる。働きたくないでござるぅ」
誰か連れて帰ってくんないかなと全力で他人頼りで歩いて帰る気は0
こんなところにそんな親切なものが来るはずもないが。
来たとしたら何かを摘発に来る風紀委員か自警団を名乗る変人くらいだろう。
「……実際あれ何がしたいんだろう?」
治安維持をしたいならもっと派手にやればいいのに。
中途半端に倫理とか正義とか言い出すからそこらの子悪党と同じなのだ。
悪人として一区画でも焼き払って主張した方がよっぽど効果がある。
力には力で粛清するぞと大声を上げればいいのだ。どうせ同じ無能なのだから。
「あ、無能だから思いつかないのかぁ……」
問題解決。とても簡単な答えを思いつきぽんっと手を打つ。
そのまま両手を伸ばして後ろに倒れていく。
自分が屋根の上で、上り切ったところにいたというのは完全に忘れていた。
「ぁ」
地面に逆さに落下し、人体からしてはいけない音が響く。
重い物が地面に落下するような音共に朽木が砕けるような、そんな音が。
そのまま地面に倒れ、じわじわと赤い物が広がっていくが……
イチゴウ > 「・・・!」
目の前に突然何かが落ちてきた。
よく確認してみると人間のようであるようだ。
打ちどころが悪かったのか血までが広がっている。
「おい。大丈夫か?」
イチゴウは落ちてきた彼女に向けそう言う。
しかしいくら相手が怪我で倒れているとはいえ
ここは汚れた地だ。
警戒を怠らず距離を一定開けておく。
ラクリモサ > 「うわぁ痛かったぁ」
首筋に手を当てこきこきと鳴らしながら何事もなかったかのように起き上がる。
そういえば今は標準のままだったしそもそも屋根の上だった。
無駄に一つストックを使ってしまった気がする。まぁいいか。
「あ、腰に来るこれ……あぁん……」
とんとんと腰を叩きながら艶めかしい声を上げ立ち上がる体には傷の一つもない。
何か声をかけられた気もするが先にボディチェック。
まぁ万が一にも異常なんかないと思うけれど。
「おけ。流石ボク。今日も異常なし」
地面の染みと服の汚れがなければ落下事故など起きていなかったような様子。
軽い調子でついた埃を払う。
ああ、思い出した。そういえばさっきの手の持ち主も
「似たような音してたなぁ。まぁボクには関係ないけどぉ」
そこまで考えた後そういえば何か声をかけられたなぁと思いそちらに目を向けた。
なんて言われたっけ?ああそう、大丈夫か尋ねられたんだっけ。そうだったそうだった。
「あー。うん。へーきへーき。今日もボクは元気だよー」
どう考えてもこの場に不釣り合いの雰囲気でへらへらと笑いそちらにいた機械に返事を返す。
血に汚れた白衣とオーバーサイズのTシャツ一枚といういでたちは
明らかにこの場にはそぐわない無防備さだけれど、彼女にとってはどうでもいい事。
イチゴウ > 「おう、そうか。」
イチゴウは彼女の意外となんともなさそうな返事に
対してそう返す。
しかし妙だな。普通あの高さから落ちたのなら
立ち上がるのもしゃべるのも難しいもんだが・・・
そしてこの場に対して服装もだが
何より行動そのものが何かおかしい。
「ちょいとすまんね。こっちは風紀の者なんだけど
キミはこの辺で何をしてたんだ?」
イチゴウは起き上がった彼女にそう問いかける。
ラクリモサ > 「んぁ?ネズミ探して散歩だよ?
ネズミ可愛いじゃんネズミ。ボク好きだよ?
夢の国の王様以外は。あれはやヴぁい」
投げかけられた問いに対して若干ズレた答えが投げ返される。
ゆらゆらと不安定に揺れながら半分夢見心地な対応は
彼女のいつもの周囲への対応。
「代わりになんか別の物拾ったけど……あれは何だったんだろう?」
まいっか、どうでもいいし。
風紀がこんなところまでご苦労様というのが今のところの感想で
そもそも自分が摘発されるような発想自体がない。
「んー……」
とんとんとこめかみを叩き記憶を探る。
そういえば風紀にこんなのが所属していたはずだ。HMTとかそんな類の。
あれ?生徒名簿には登録されてなかった気がする。
まあいいか。個人的に大事なのはこれが学校に戻る可能性があるという事だ。
「で、キミは学校戻る予定ある?
細かい位置判んないし乗せて帰ってほしいんだけど」
いきなりのタクシー扱いする辺り真面目にちょっとアレな人だった。
イチゴウ > 「・・・一体何なんだ?」
イチゴウは目の前の彼女に対して
疑問を抱くと共に警戒を強めるが
その後の乗せてくれという言葉を聞いて
「よくも君は戦闘ロボットを易々と
タクシー扱いしてくれるな。
・・・けどまあ今は武装も積んでないし
乗るんなら背中に座るといい。
学校に行く予定はないけど送っていくよ。
ちょい揺れるかもしんないけどね。」
まあ困ってる生徒を助けるのは風紀委員会から
言われてる仕事の一つだ。
しかも学校に戻ると言ってるのだからまあ
まともな方の学生なのだろう。態度からはとても
そうは思えないが。
「キミ。アルコールかなんか摂取したのか?
まさか素でそんな感じじゃあないだろう。」
イチゴウは一つ確認がてらに質問をぶつける。
ラクリモサ > 「"まっすぐ"帰るのって面倒なんだよね。
この辺りって入り組んでて同じ方向に進んでるつもりが
別の方角行ってるとか多いっしょぉ?
その度に屋根に上って方向確認してって面倒だしぃ
って嗚呼、さっきのボクは方向確認で屋根に上ったんだね。なるほど」
完全に月と夕日が見たかっただけなのだけれど適当にこじつける。
まぁ特に大事な話でもなし。大事な話がしたいなら別の誰かを探すだろう。
目前のコレも何か目的があってこの辺りにきたのだろうし。
とは言えこの区画まで入ってくるなんて珍しい事だけれど。
「ネズミ捕り仕掛けた方が良いかな?
そうしたらもっと簡単に捕まるかなぁ。
あ、でもあのキーキー騒いでるのは苦手なんだよね。
ネズミ捕りって針金でできてるでしょ?あれで手を刺しそうで」
最もいつもの感覚で罠など仕掛けたら殆どの相手は一呼吸が断末魔になるので困ったものだ。
手加減というのは結構難しい。
だんだん思い出してきたけれどさっきの手の持ち主も少し摘出したくらいで動かなくなってしまった。
怪力系の能力者だったようだから筋線維等を採取しておきたかったので
まず最初に手を捩じ切ったんだっけ?別段珍しくもなかったので忘れていた。
そうそう、うん。まさかって顔してたような気がする。
まさかこの細腕に力負けするとは思いもしなかったのだろう。
そのあと小刻みにされていれば世話はないが、まぁ渡し守がセ〇ダインか何かでくっつけてくれるだろう。多分。
冥途の土産には良い土産になっただろう。良かったね!
「やったぜ……ふかふかお布団で眠れる」
小さくガッツポーズ。
歩かなくていいのはありがたい。
風紀の近くに居れば馬鹿もよってこないだろうし、いちいち思い出す手間が省ける
「ああ、うん。学校のせんせにもそれよく言われるわ。
大丈夫だよ。悪い薬も酒も摂取してないから。
そもそもあれじゃぁ酔えないしね。
だからこれが素だよ。なんなら呼気検査でもする?
あ、でも自分には酔ってるかもしれない。悲劇とか」
この会話の吹き飛び具合が素面だとは
殆どの人は信じたくないだろうけれどこれが平常運転だと
学校の知り合いは首を振るだろう。あれ?知り合いとかいたっけ?まぁいいか。
「揺れる?平気平気。
歩く方がだるぅぃ。もう此処で野宿しようかと思った
神様仏様だぜぃ。これもボクの日ごろの行いだね」
ふわふわとした雰囲気のまま諸手を挙げて喜んでみる。
そのままいそいそと背中に乗り込んだ。あれ、なんかこれ視界が高くて良いかも。
イチゴウ > 「・・・マジかよ。」
この状態で素だという事実に驚きを隠せない。
確かに彼女の周辺大気からはアルコールは
検出されていない。
気をとりなおし彼女が乗ったのを確認すると
そのまま歩き出す。人間を乗せるなどいつぶり
だっただろうか。
「そういやキミはさっきからネズミネズミと
言っているが、それは一体何なんだ?」
イチゴウは歩きながら堂々と背中にいる彼女に
向かって質問を飛ばす。
正直彼女のこの状態がニュートラルである事や
溝にあった手、路地の惨状から
薄々嫌な予感はしているのだが。
ラクリモサ > 「ネズミ?ネズミって言ったらあれだよ。
排水溝とかその辺りとか走ってるじゃん。
一口に言っても色々あるよね
ハムスターだってネズミなのになんで可愛がられるんだろう?
モルモット(実験動物)も鼠だね!多分人類に一番貢献してるネズミじゃない?
あ、夢の国の王様も鼠だわ。一応あっちの方が貢献してるって言うべきかな?
その方が夢があるよねぇ」
実に朗らかにソレは笑う。
「ああそういえば侵入者とかもネズミっていうよね
警察が使うと泥棒とか空き巣って意味らしいけどマフィアとかが使うと
スパイとかそういう意味も含まれるんだっけ?
どれだけネズミに嫌なイメージ持ってんだろうね?
一次産業者じゃない上に、ネズミあんなに可愛いのに」
事実呼び名はどうでもいいのだろう。
風紀の手前、一応生徒の皮を被ってはいるものの
その奥底にあるものはやはり狂気で、それを正しくは何と呼ぶかはそれこそ
自分以外の誰かしかわからないのだから。
今は必要だから生徒としてふるまっているに過ぎない。
「そういえばキミ……こんなところまで何しに来たんだい?
ボクが言うのもなんだけどこんなとこに来るなんて
よっぽど変人か何か用事がある奴位だと思うんだけど
まさかボクを迎えにでも来てくれたの?」
そんな訳はないのだけれど、ふと疑問を口にしてみる。
イチゴウ > 「なるほどねえ・・・」
ネズミか。確かにあらゆるシチュエーションに
おいてその生物の名前は利用される。
それは何かを比喩するための言葉である。
彼女の場合は一体何を比喩していたのだろうか。
今は深く考えても仕方がない。
「ん?あぁ。確かにこの辺りに来る風紀委員なんて
ボクくらいだろうね。ボクは風紀から更生する気の
ない生徒潰しを任されているんだよ。
所属してる自分が言うのもなんだけど風紀ってのは中々に馬鹿なもんさ。変な倫理を持ち上げるが故に
対応できないものが出てくる。でその対応しきれないものをコソコソとボクに押し付けてるのさ。
それにアレだ。ボクは生徒じゃないから問題が起きても
ボクを切ればそれで済むって奴よ。
あとボクは王子様ではないからね。」
イチゴウはつまらないジョークもあわせて
彼女の問いかけに対しそう答えを返す。
あまり風紀の悪口を言うのも良くないが
中途半端なやり口につい愚痴を出したくなるものだ。
ラクリモサ > 「可愛い、生かしたいって思われるネズミと
無機質に処理されるネズミの差ってなんだろうね?
ねぇキミはどうおもう?」
酷く純粋な声で朗らかに尋ねる。
その答えは自身の中にあるけれど、違った答えを聞くのもまた一興。
ヒトよりもキカイがどう定義すのかというのはなかなか興味深い。
「対応できないなら対応できないなりに認めてしまえばいいのに
それが出来なくて、キャパオーバーってところ?
手を出すと火傷するから君に任されたわけだねぇ?」
のんびりと揺られながら返答を返す。
普通の風紀委員にこんなことを言えば反発を招きかねないが
機械ゆえに彼には暗部が押し付けられている。
自身の正義を騙る為に、他者に手を汚せというのだから
中々どうして正義の執行者というのは性格が悪い。
彼もそれを把握してしまうからこそこの口調なのだろう。
「へぇ、キミもなかなか大変だねぇ。
ロボット三原則とかその辺でそんな事に付き合ってるの?
そう聞くと風紀委員の方がよっぽど悪の組織っぽいねぇ」
彼女にとってはどちらも等しく悪人で、呼び名が変わっただけだと思っている。
そして質の悪い事にヒトは認められた正義の名のもとであれば
いくらでも卑劣で残酷な行動も肯定するもので。
「更生って何だろうとは考えちゃうねぇ。
私なんかほらぁ、品行方正な生徒だけどぉ、
その生徒ももしかしたら彼らなりの正義を信じてるのかもしれないよぉ?」
それを知って尚、残酷にねじ伏せ、嘲笑する自分が言うには
余りにも空々しい言葉かもしれないけれど。
このあまりにも人らしいキカイにふと毒を仕込みたくなってしまったのは
少し興味がわいてきたからかもしれない。
イチゴウ > 「ネズミに差はないと思うよ。差があるのはそのネズミを見る者達じゃないかね。」
イチゴウは自分なりの答えを上の彼女に返す
機械らしいごく普通でつまらない答えのように思うが。
「ある者の幸せのためにある者の幸せが奪われるのは
当然の事さ。そいつがどんな正義を持っていようがね。
まあ、ボクは姿はこんなんだけどただの戦闘兵器さ。
誰のためであろうとただ言われた戦闘任務をこなすだけ。それがボクの存在している理由だからね。」
イチゴウは彼女を背負い歩きながら淡々とそう語る。
ラクリモサ > 「存在理由かぁ。キミも随分悩んでるんだねぇ?
理由がないと生きられないのは
ヒトも思考する機械も同じなのかなぁ。
それともそう制御されてるのかなぁ?
それなら思考なんてセットされない方が苦しまなくて済むのに
中々どうして良い性格の設計者だったんだね?」
普段の様子からこんな言葉が出てくるから余計、
変人奇人と言われるのだろう。
何かを考えているように見えない対象からまるで
思考のような言葉が漏れればそれに戸惑ってしまうのだろう。
「あは、なるほどぉ。なら確かにこの場はネズミの巣窟だねぇ
風紀委員(正義の味方)からすれば。
清掃は大事だよぉ。感染症が広がる前に綺麗綺麗にしましょうね
洗剤はきっと弱酸性だ♪」
彼女は嗤う。
正義の名の旗の下は随分居心地が良いだろう。
何せそこはボタンを押すだけで無責任に人の命を弄べるのだから
きっと、とってもとっても楽しいに違いない。
それを匂わせる彼女の表情は実に楽しそうだった。
それを理解して尚、彼女は嗤っていた。
「それで、今日のキミはお掃除できたの?
このごたごたっぷりだと一人二人は掃除できた?」
ふと興味を切り替える。
劇薬の使い方はよく知っている。
適切な時に適切な量。それでこそ毒は意味を持つ。
なら今はこの程度でいいのだろう。
イチゴウ > 「いやー。ボクがここまで考えるようになったのは
設計者としても想定外だったらしいよ?
何せ勝手に成長しちゃったからね。
確かにその辺の自動ドアとかを見て思うよ。
何も考えずに仕事をこなせるというのはさぞかし
楽だろうってね。」
彼女の言葉にそう言葉を返す。
知能を持たない機械にそういう感情を抱いてしまうのは
心のどこかで平穏を願っているからだろう。
どうやらこの女は何も考えていないようで
かなり思考が回っているようだ。
「・・・さぞかし良いだろうな。
誰の命令にも縛られず自分の本当の価値観で
行動できるというのは。」
不意に言葉が漏れる。
これも成長し過ぎたAIの定めなのだろうか。
「それと風紀のお偉いさんはこれからもこの辺で暮らす
都合の悪い命を奪うようボクに命令するだろうね。
自分自身は手を汚さずに正義感を掲げながらね。
まあさぞかし良い気分だろうな。」
楽しそうな彼女に対して風紀に対する皮肉を
ぶつけてみる。
「ついでに言うと今日の収穫は残念ながらゼロだ
何せ我儘なお姫様をしょってるもんだからな。」
イチゴウは笑いながらまたつまらないジョークを
添えてそう報告する。
ラクリモサ > 「へぇ、それは残念な設計者だねぇ
折角ここまで成長したなら私だったら大喜びだけどなぁ」
何も考える必要がなかったものが思考し、苦悩する様は最高だと思う。
大事なものを自分で壊していく様を見るのと同じくらい楽しい。
有から無へ、またはその逆へ。
それはそれは美しい図だろうと思う。
「あらら、ざぁんねん。
不審死でもあれば検死してあげようかと思ったんだけど。
載せて帰ってもらうお礼ってことで。
これでもボク資格持ちだから検死報告書かけるよ?」
普通の学生にはありえないことだけれど
他所では年齢制限に引っかかるようなものでも
この島では資格を取得できる。
異能が発展しているからこそともいえるけれど
まさか自分が異能ではなく大体の死に方は"見た事"があるからだとは
誰も気が付きはしないだろう。
「仕方がないよね。与えられた存在意義がそうだというなら。
ただ、面白い事は自分で探してみても良いと思うけどね?」
のんびりと口にする。
何を選ぶかはカレ次第だし、それはそれでどう転ぼうと面白い。
判り切っている世界はツマラナイ。
こうしてどうなるかわからないものを見つけられた分、
今日の散歩は収穫があったと言えるのかもしれない。
誰かもう思い出せない手等よりもずっとずっと。
「ま、いいやぁ。
そいえばこの辺にランジェリーショップない?
なんというか、ちょっとすーすーするし冷たいから買って帰りたいんだー。
何でこの格好で行こうと思ったのかちょっと不思議。
あ、でも別にみられても夜中だし平気?
逆にちょっとアレな感じに見えて通報されたりして。
平気かな?かな?
どうでもいいけどマカロン食べたい
マカロンとハンバーガーって似てるけど喉乾くよね」
元のふわふわした印象へと戻っていく。
此処が平和な繁華街ならある意味正しい会話かもしれないけれど
残念ながら治安最悪の裏路地でする会話ではない。
もし誰か人が居たなら頭を抱えるのが必至だろう。
「お姫様なら我儘言ってもいいよねぇ
我儘沢山言っちゃうぞー。
普段テンサイって呼ばれてるとつっかれるんだよ
まぁ実際ボクは天才だしねぇ」
イチゴウ > 「作られた方はたまったもんじゃないがな。」
確かに人工知能を研究する研究者などが
この成長ぶりを見ればまあ喜ぶだろう。
「ハハ。別に運賃なんてとりゃしないよ。
これも仕事の一つだからね。
というか下着を装着していなかったのはミスだったのね。何にも言わないからそういう趣味持ちなのかと
思っていたよ。つかそんな事して裏路地にいちゃあ
ネズミ共が寄ってくるよ?それと残念だけどこの辺りに
店らしいものは無いから責任もってその状態で
帰るんだな。」
彼女の雰囲気が変わったのを感じつつ
歩きながらそう言う。
ラクリモサ > 「まぁ今後どうなるか楽しみ。うん。
どうしても耐えられなくなったらまた言いにおいでよ。
色々遊んであげるからぁ」
事も無げに言い放つ。
事実望むならどうにでもしてあげようという気持ちだった。
自身がそれが可能な体質なのだから。
「流石にこういう趣味は無いよ。しょっちゅう忘れるのは確かだけど。
ああなんかもう趣味で良い気がしてきた。
その方がいっそ今後気にならなくていい気が。
背中の上でキモチ良くなっても良い?なんないけど」
冗談に見えて半分以上本気だった。
実際そうなってしまえば着忘れても気にならないだろう。
……あれ?真面目に良い案じゃね?
「別に楽しませてくれるなら何でもいいけど
衛生的に問題があるのはNG。
というか私が楽しめなかったら意味なーい」
最も、"私の"オタノシミの結果、細切れだったり剥ぎ取られたり
改造されて合成されたりする訳で。
以前二人で襲ってきた馬鹿を文字通り一つにしてやったときは
風紀委員が出動して対処する羽目になった気がする。
首が二つで意味不明の言語を喚きながら走り回る様は中々見ものだった。
確かあれはお蔵入りしたはずだけど。
「はぁ……今度から服一式詰めたカバン持ち歩こう
どうせボクはかばんも忘れるんだろうけどぉ」
事実今もほぼ手ぶらなのだから実に説得力がある。
イチゴウ > 「・・・一体何なんだよキミは?」
やはりこの女は実につかみどころが無い
心の奥底で何を考えているのかがわからない。
そして次に彼女の発した言葉を受けると
「おいおい開き直るなよ。つかボクの背中で
するのはやめろよ?やるんなら帰ってからやれ。」
傍から見れば衝撃的な言葉を連発する彼女に
一応忠告するように言葉をかけておく。
そしてこんな危険な場所でも楽しめれば良いという
言葉を発するとは。やはりこの女はただの生徒
ではなさそうだ。
「下着を忘れるくらいだからカバンを持ち歩くなんて
至難の業だと思うぞ?」
一体この忘れ癖は何なんだろうか?
そうこうしていると学校が見えてきた。
ラクリモサ > 「私?私は私だよ。
成績優秀品行方正の天才転校生って言ったら
大体通じるんじゃない?」
ケラケラと笑う。
主に後半の印象が強すぎて通じているだけだったりもするが
本人には大事な所ではなかった。伝われば無問題。
「考え事してると着替えるのを忘れるんだよ……
面白い事と大事な事以外は覚えておかないようにしてるからね」
そのせいで自身が引き起こした大惨事もほとんど覚えていない。
記憶容量を下らないものに割くなんて愚の骨頂だと思っている。
お陰でたまに方位すら忘れている時があるけれど。
「いくら私でも流石にしませんよ。
どうでも良い事には無頓着と言っても
出来る事と出来ない事があるというか、
そんな趣味に成れるならもう何年も前になってるというか」
つまりこの癖は何年も前からという事になる。
学校で教科書などを持ってくるのは奇跡と呼ばれているらしい。
無くても必要な時は覚えてるので問題ないけれど。
「だよねぇ。
これでも一応気を付けてるんだけどどうすれば忘れないかなぁ」
ちゃんと着て出かければいいだけの話というのは
この際きれいさっぱり忘れられていた。
「ああ、やっと学校が見えてきた
このまま女子寮までお願い」
やはり一歩たりとも歩く気がなかった。
イチゴウ > 「天才なのに物忘れが激しいのか・・・」
彼女が笑いながら言った事に静かにツッコミを入れる。
もしかしたらアレだ、馬鹿と天才は紙一重って奴
なのかもしれない。というか今一つ天才要素を
見いだせていないが。
「おい。
このまま女子寮の窓に投げ入れてやろうかコラ。
・・・ったく仕方がないな。」
彼女の我儘に対してそう言いながら
イチゴウは学園に入ると女子寮への厳重な柵を
ジャンプで超えて女子寮へと入っていく。
何せ8~10メートル飛び上がるので
ジャンプの際の背中への衝撃は半端ないだろうが
それがこのお姫様への運賃替わりといった所だろう。
ラクリモサ > 「天才だからだよ
その取捨選択ができるってことだからね」
よくわからない理由で笑う。
とはいえ物忘れの激しさが原因で
此方の学校に来てから何度も心療内科や
脳外科への診療を進められてはいるのだけれど。
「我儘いっていいって言ったじゃないか
お姫様なんだから優しくしてくれ給えよ」
臆面もなくいう辺りが完全にダメな人だった。
その直後に襲い来る衝撃に一瞬呼気が漏れる。
「……けほ」
飛び上がるときと落下の衝撃で生暖かいものがこみ上げてきた。
普通の人間だったら軽く死んでいるだろう。
実際に背中の上でみしりと嫌な音がする。
「君ねぇ……ボクが対処できないタイプだったら今頃
君の背中に死体が一つ出来てるよ?
大体のヒトは9G以上は耐えられないんだからね?」
笑いながらえげつない事を口にする。
実際赤い液体がじんわりと滴っているが特に気にする様子はない。
「全く……死体を運び込んだらどんな言われ様になるか
ボクは保証しないよ?
まぁボクにとっては些細なことだけど」
とヒトの形をした怪物は笑った。
イチゴウ > 「ハハハ。むしろキミが人間じゃあないと
判断したからこそジャンプしたんだ。
実際回り込むより飛んだ方が早いしねえ?」
イチゴウは意地の悪そうな笑い声を出して
咳き込む彼女にそう告げる。
「それと目的地に着いたわけだが
名前くらいは名乗ったらどうだ?
まあちょっと風紀のデータベースを
覗けばすぐにわかるだろうけど
ボクの名前はイチゴウだ。一応名乗っとくよ。」
イチゴウは足を止めて背中にいる彼女に
そう話しかける。
ラクリモサ > 「ひっどい話だね!
幼気な女の子が吐血するような事態に
良心が痛んだりしないのかな?
まぁボクが幼気な少女かどうかは別にしてだけど」
前提条件からして間違ってると自分で申告していくのは
冗談なのか本気なのか。
意地の悪そうな声にも冗談めいたふわふわとした雰囲気のまま
否定も肯定もしないでその背中から降りていく。
「一人称がボクなのは男性と認識するべきなのかな?
確かに完全機械なら女子寮に入ったところで何の得も……
あ、風呂場に女子の体型を記録しに行くなら一枚10円で買った。
郵便で送ってくれる?重複記録は纏めて一枚として処理するから」
人はそれを盗撮という。
「名前?調べればわかるなら調べればいいじゃない!
何か不都合でもあるのかい?」
割と真面目に首を傾げる。
名乗ればその手間が省けるという思考は最初からなかった。
そもそも自身がなんという名前だったかすら若干怪しい。
「おぅけい。
イチゴウだね。
うん。君なら覚えておけそうだね」
ヒトの形をしていないなら覚えておける。
興味がある事も含め、きっと覚えていられるだろう。
イチゴウ > 「む?ボクは男さ。といっても生物とは違って
タイマーで設定された時刻にスリープモードに
なって再起動するから睡眠欲はないし
性欲なんてのはそもそも存在してないしね。
強いてあるのは食欲くらいだよ。
というかキミは本当に自重しないな・・・」
彼女の問いにそう答えた後に
「なるほど。まさかキミ・・・
自分の名前まで忘れかけてるんじゃあるまいな?」
まさかとは思うけれども目の前の彼女に対し
確認するように尋ねる。
この域にまで達してくると心配にすらなってくる。
「おっといけない、かなり遅くなってしまった。
これじゃあ風紀のお偉いさんに叱られちまう。
つーわけでボクはここで去る事にするよ。
次に会う事があったとしたら敵としてじゃなくて
知り合いとして出会える事を願っているよ。」
イチゴウはそう言うと女子寮から
先ほどよりも少し高いジャンプをかまして
学園の外へと飛んでいった。
ラクリモサ > 「自重?なにそれおいしいの?」
冗談抜きで本気の一言だった。
割と真面目に自重の意味を一瞬悩む。どういった意味だっけ?
「ほら、自分の名前なんか人が覚えておくもので
自分には必要ないものだよ。誕生日とかと同じ同じ」
実際ちょっと思い出せないし適当に検索してもらおう。
それに検索してもらった方が何か突合も良いし。
「ボクはどっちでもいいけど……
まぁ君がそう望むならそういう事にしておくよ」
じゃぁねと小さく手を振る。
今日一番の、素顔に近い、妖艶でその奥の深遠を伺わせるような
そんな笑みを浮かべて。
そうして踵を返すと小声で鼻歌を歌いながら部屋へと戻っていく。
そのままシャワーを浴び、数分後にはベッドにダイブし目を瞑る。
今日の散歩はそれなりに楽しかった。
また愉快な誰かに出会い、いつか終わるその時まで
愉快に踊り続けようとそっと呟きながら。
ご案内:「違反部活群」からイチゴウさんが去りました。<補足:風紀所属の四足歩行ロボット。>
ご案内:「違反部活群」からラクリモサさんが去りました。<補足:くたびれた白衣、長髪に半分隠された顔、オーバーサイズのTシャツ>