2017/03/15 - 23:26~03:20 のログ
ご案内:「◆とある邸宅の一室」にさんが現れました。<補足:長髪に半分隠された顔、黒のゴシックドレス、絹の白手袋、ヴィクトリア朝風のケープ>
> この島の少しだけ小高くなった場所に、住宅街がある。
住宅街と言っても、そのロケーションの良さから高級賃貸と言われる物件が集まっている。
住宅と住宅の間はかなりの間があり、堂々とした門や小さな庭がついているような物件が多い。
その中の公園はデートスポットとして密かに学生の間で囁かれる島の名所の一つだった。
曰く、公園内の一番大きい桜の下で告白すると結ばれる。
曰く、公園から見える日の出、日の入りで真っ先に照らされる樹にラブレターを隠すと思い人に思いが通じる。
そんな他愛もない噂が囁かれる場所のその近くにまた別の噂を持つ邸宅がある。

そこは鉄格子の門扉と古い石造りのずっしりと重い雰囲気の洋館。
様々な噂を持っていたその洋館に契約者が現れたというのはその館に纏わる噂の一つに過ぎない。
ありきたりな噂話に借りられて以降、誰も人が入っていないようだという噂が付け加えられても
すんなりと受け入れられたのはその洋館が元々そんな雰囲気のある場所だったからかもしれない。

けれど周辺の住民は愚か、噂を口にするその殆どは知らないだろう。
その洋館の一室、南向きに大きな窓を有する部屋は、島内でも有数の絶景地であるという事を。
その部屋は月と、空と、海が良く見える一室。
四季を通して空と海を一望できるその部屋は、その何れかが好きな者が見学に訪れたなら
恐らくたちまちのうちに魅了されるような光景を見せてくれるだろう。
元々の持ち主は偏屈な音楽家で、この一室での光景を強く愛していたという。

そんな部屋、その窓際に今宵は一つの人影があった。
もうすぐ天頂に差し掛かろうという丸い月に照らされるその姿は
アンティーク調の古い椅子に腰かけ、全身を黒で覆われている。
まるで喪服のような質素なゴシックドレスにヴィクトリア朝のケープ
艶やかに手入れされた長い長髪は顔の片方を覆いつつ肩へと流れている。
日焼け痕すらない白い肌と、絹の手袋だけがその装いに白を刺していて……
一見すれば等身大の人形のようにも見えるかもしれない。

「……」

けれど、静謐そのもののその部屋に微かな、ほんの微かな吐息が響いている。
この音すらゆっくりと埃のように積もっていきそうな部屋で、耳を澄ませてやっと聞こえるような
小さな小さな吐息。
それはその人形に見える影が生きている事を世界に小さく小さく知らしめている。

> その光景は深窓の令嬢という表現がふさわしいかもしれない。
あるいは、西洋に伝わる死者を悼む精霊か。
椅子に腰かけた姿勢のまま両手を揃え、俯くその姿は
まるで絵画か作られたアトラクションのように
僅かな身じろぎすらする事なく昏々と眠り続けている。

それはもうずいぶん長く、夢を見続けていた。
長い長い、半透明で、魘される様な、忌まわしい夢。
己が心を守る為忘れ去り、なお忘れきれない日の夢を
繰り返し、繰り返し、何度も何度も。

> 彼女はそれを記録していた。
記憶になくとも、確かに記録していた。
冷静な科学者としての視点で、まるで別人や
サンプルを眺める様な冷徹な視点で。

何度も何度も彼女を責め立て、嘲笑する声を。
表皮を剥ぎ、赤い紅い宴に酔う残酷な宴を。
それは目を逸らした幼いころの記憶。
鍵をかけ、耳を塞いだ下らない劣化模造のお話。

――それは彼女にとってのアイ(i)の物語。

> 月夜の下、昏々とそれは眠り続ける。
ふとその閉じられた瞼から透明な雫が滴る。
それは頬を伝いぽたりぽたりと膝元を濡らしていく。
落下していく瞬間だけ煌めくさまは、まるで彼女そのものを表しているようで
けれどその光景を見る者はだれ一人いないだろう。
眠りながらも、ただ透明な雫を零し続けるそれは
月を見上げることなくただ静かに眠り続けていて……

彼女は真っ白な一室に立っていた。
身に着けているのは手術衣、ただそれだけ。
ぼさぼさの伸び放題の髪と、一回り小さなからだ。
――小さな手を見下ろし、ふと冷静に思う。

「……ああ、これは夢か」

周囲は苦しい程見覚えのあり、けれど見覚えのない無機質な壁。
部屋に在るのは質素なベッドと、スケジュール帳。
彼女は知っていた。覚えていなくとも。
それが何のスケジュールで、何が行われるのかも。

> ぼんやりと思い出す。扉は抵抗なくすんなりと開いた。
確かこの扉は厳重なカードロックが行われていたはずだ。
何度この扉を叩いた事だろう。確か扉が真っ赤に染まるまで叩き続けた気がする。
……いや、そんな記憶は全くないけれど、何故かそんな気がする。

「"――"、何処に行ったの?」

ふらふらと真っ白な通路を歩き続ける。
……確かこの時期、私達の実験は頭打ちになっていたはずだ。
その臓器は摘出に耐えるも、移植には適さないことが分かってしまったのだ。
それは皮肉にも彼女の再生能力の高さ故。
移植先の体を移植した臓器が喰らってしまうのだ。
これでは臓器カルテルには到底流せない。
その失望は彼女の待遇そのままに表れた。

「……ねぇ、何処なの?」

個別耐久試験はまだ耐えられた。それがアイゆえだと言われていたから。
けれど当時のワタシの役割は玩具であることと……餌。
皮膚を剝げども、心臓をえぐりだされようとも、果ては焼かれ、砕かれようとも彼女は再生した。
初めは喜んでくれた。私が良い子だと。そして愛してくれた。
実験は辛くて、苦しかったけれど、――とオトウサン達がみんないい子だねって褒めてくれたから。
けれどその素材を利用する事が出来ない以上、オトウサンタチはみな失望を隠さなかった。
私を見る目は文字通り、廃棄物それそのもの。
そうして与えられた役は……無限の餌。
当時研究を行っていたもう一つ……魔術師喰らいを成長させるためにこれ以上良い素材は無かった。

> 「……」

頭のどこかでこれ以上進んではいけないと叫ぶ声がする。
進んだ先に何があるかを知っている、切実で悲痛な叫び声。
けれど、それをぼんやりと聞きながら体は一歩一歩、足を引きずりながらも進んでいく。

「……いない」

通路の先はガス室。
何度かここに閉じ込められて、凄く苦しい思いをしたっけ?
ガスだけじゃない。空気を抜かれ、極寒に晒され、髪の毛が燃えそうな暑さに晒された。
何時もしているように小さな体で上を見上げる。
ガス室を確認できるよう、到底手も届かない高さにこちらを観察する場所がある。
そこに時折、オトウサンとオカアサンが来てくれた。
そうして私を見てくれた。ここで苦しんでいる私を。
初めは笑顔だった。私が頑張るための口実だった。
けれど、途中で気が付いた。
その目は全く笑っていなかった。初めは実験動物に向けるような目で
確かこの時期は唾棄すべきものを見るような表情を隠しもしなかった。
確か……個別の耐久実験が始まった位からだったきがする。

> 「……あっちかな」

足が向くままにもう二つある扉の片方へと向かう。
私は知っている。この先であっている事を。
それと同時に潮騒のような声がその扉の向こうから聞こえ始める。
独特の言い回しは日本ではない、とあるヨーロッパで使われている言語。

『くそっ。摘発だって?許可は出ていたはずだ。
 どういうことなんだ』

『尻尾切りでもくらったんだろ、糞!
 所長も連絡が取れないし幹部は高跳びしてやがる。
 俺たちは破棄されたんだよ。化け物どもと一緒にな。
 とにかく資料を持ち出せ。持ち出せないものは火をつけろ
 この内容が公にされたらお互い只ではすまんぞ』

ああそうだ、確かこれは摘発された日。
私達が、初めて空を見た日。

> 『そういっても解剖試験中だぞ』

『ほっとけ。此奴もどうせ死ぬ。
 それに撤収と同時に火を放つらしいからな
 資料と一緒に燃えてる間は踏み込まれないだろう
 せいぜい燃料代わりに足止めでもしてもらおう』

……何のことだっけ。ああ胸がざわざわする。
火事になったらお姉ちゃんたちは大丈夫かな。
お兄ちゃんたちは無事に逃げられるかな。
そんな事を思いながら扉を開く。

――その部屋は手術台が多く並ぶ、白と赤の部屋。
何度もつれてこられ、何度も息を吹き返した場所。
その中の一つに、真っ赤な肉塊が見える。
顔も思い出せない研究員たちが顔をこちらに向ける。

『な、43!?』

『何で部屋から出て来れてるんだ
 あの部屋はロックを解かないっていう話だろう
 化け物どもが出てきたらどうするんだ』

向けられたのは拳銃。
それと同時に発砲音。体に何発も鉛がめり込む。
無意味だと知っているはずなのに。私がそんなもので死なないなんて
貴方達はよく知って居る筈でしょう。
けれどそんな事より、大事なものがあった。
手術台の上、体を開かれ、新鮮な内臓を晒しながら解剖されたカエルのように
体を激痛でひく付かせるそれは……

> 「"――"」

喉からか細い声が漏れる。
私の大事な、とても大事な――。
私が良い子で居れば、解体実験はしないと言われていた、大事な大事なたった一人。
それは目の前で、鮮血と汚物にまみれ、どう見ても助からない状態で、がくがくと痙攣している。

「……どうして?どうしてどうしてどうして?」

疑問はもう声にはならなかった。
撃ち尽くされ、拳銃を投げ捨て部屋から出ていく誰かももう目には入らない。
胸の中で誰かが絶叫する。目を瞑れと。
近づいてはならないと。

けれど、足はいう事を聞いてくれない。
ゆっくりと這うように、その肉塊へと近づいていく。

> 「……イイコでいたよ?私いい子でいたよ?」

私の実験は行き詰っていた。
それは、"死なない"のは私だけだったから。
その私に関する実験が行き詰ってしまえば、全体も同様に行き詰まる。
その癇癪を、うっぷんを晴らすかのように実験は毎日行われ、
何人のお兄ちゃんもお姉ちゃんも、弟も妹も、無駄に死んでいった。
それが正義だと教えられていたから。
弾け、沸騰し、絶叫をあげながら、私という例外を除いて、全て。

それでも成果は上がらず、鬱屈した空気が円満していた。
その中で目的は手段を問わず、ついには手段こそが目的となってしまっていた。
何かの為の犠牲ですらない。何かの為の探求でもない。
誰かの命を掌握し、汚し、奪う快感におぼれたこの場所は
もう、目的なんてどうでもよくなっていて……

「ドウシテ?」

そしてそれを私はもう、気が付いていた筈だった。
私はそのはけ口であり続けたのだから。
もう、ずっと前から。

> 私を除く唯一の例外は、――だけだった。
あの実験を生き抜いたのは、私達だけだったから。
だから、約束していた。いい子にしていれば、――には痛い事をしないと。
だから、約束していた。オトウサン達は私達を愛して(ばらばらにして)くれるから
――を一番好きな私がちゃんと、

「愛して(殺して)あげるって言ったのに」

私がそうする前に、――は愛されてしまっていた。
ペタンと座り込む。部屋にはもう煙が立ち込めていて
もう数分すれば、この部屋はいつかの実験のようになるだろう。
そうして、また生き残るのは私だけ。

> 呆けたように見上げる顔とふと目が合う。
先ほどまで、痛みで滅茶苦茶に動き回っていた目が確かに私を捉える。
それは悲しい程、よく似ているのに、決定的に違う私と同じ顔。
そうしてその口が確かに言葉を紡いだ。
私の目を見つめ、光の消えていく瞳で
ゆっくりと、震えながら、けれど、絞り出すように短い言葉を紡ぐ。

『――ウソツキ』と。

その目に映る光は、オトウサンとオカアサンと同じ光。
化け物を、汚物を、薄汚い裏切り者をみるような、そんな
心の底から唾棄するような光。
そうしてその瞳から光が消える。
残酷な一言を残して、命が消えていく。

「――!!!!!!!!!」

声にならない悲鳴が声にすらならずに肺から絞り出されていく。
聞きたくなかった言葉、見たくなかった瞳。
彼女は心の底から、私を憎んでいた。
私だけを、憎んでいた。

これはきっと、想定された通りの結末。
こうなるように、この舞台は整えられていたのだから。
初めから救いなどないように計画は組まれていた。
本当なら、此処でみんな死ぬべきなのだろう。
計画通り、お約束通り。
けれど……

「……こんなの、間違ってる
 こんな世界、間違ってる!
 こんな現実は間違ってる!」

認められるはずもなかった。こんな結末など。
命をかけて、存在をかけて、認めるわけにはいかなかった。
その為に、何もかもを失ったとしても。

……だから、認めないことにした。

> ああそうだ。おもいついた。どうして思いつかなかったんだろう。それは簡単な事。
ちゃんと私が愛してあげればいいんだ。こんな場所じゃなく、もっと別の形で。
この研究室は火に包まれるだろう。その中で"生きて"居られる方法が一つだけある。

「……」

黒煙の中、放り出されたメスを握りしめる。
使い方は自分の体でよく知っている。
オトウサン達やオカアサン達に褒めてもらいたくて、いっぱいいっぱい練習した。
だから……

「だいじょうぶだよ。ちゃんと愛してあげるから」

自身に突き刺す。肉を裂き、骨をへし折り、ちゃんと切れなかった組織は引きちぎる。
心臓を抉り出す時の感覚だけは慣れない。
視界が揺らぐ。けれど手は止めない。揺らがない。

「だから、これ交換ね?」

弱弱しい鼓動を繰り返す――の心臓も抉り出し、自分の物を収める。
そうして彼女の物を自分の胸へ。けれど、ああ、

「オトウサン達ったら、色々とっちゃったんだね
 大丈夫。私が奇麗に全部揃えてあげる
 今なら新鮮なのがいっぱいだよ」

そう。連れていかれる筈がない。
なら、その末路は間違いなく……だったら

「おねーちゃんたちも一緒に出て行けるね
 うん、喋れなくなっちゃうけどお外に出れるもん。
 名案だよね」

廃棄場への道へ、彼女を抱え、歩いていく。
"私"の臓器を利用した弟妹達のいる部屋を通り抜け……
ほら、やっぱり。

「ね、やっぱりみんないたぁ」

廃棄場の底に詰みあがる新鮮な肉の山。
撃ちぬかれ、お薬をうたれ、まだ新鮮な、震えるヒトからモノの中間のそれ。

> 「お姉ちゃんの此処は無事だね
 お兄ちゃんは……こっちかな?
 うん、大丈夫だよ。ちゃぁんとみんな連れて出てあげる
 だからみんな心配しないで?」

そう笑いながら、無邪気に切り開き、千切り、繋ぎ合わせていく。
腕を引きちぎり、皮を剥ぎ、内臓を切り取り、一つの体に詰めていく。
飛び散る鮮血も、汚物も気にならない。気になるはずがない。
何年も、産まれた時からこれに囲まれてきたのだから。
腐肉に、汚濁に、腐り切った感情に、どうしようもない世界に。

くっつけるのも、分解するのも、全く同じものを作るのもとても得意。
これだけは、生れ出て、第一声世界が嫌いだと叫んだ時から知っているものだから。
オトウサンもオカアサンも知らない、私だけ知っている、ソレ。

「だから、私がくっつけてあげる
 みんなみんなみんなみんなみんなみんな」

全部詰め込むと少し大きくなってしまうけれど、きっと、許してくれるはず。
だって、約束を守るためだもの。皆に大好きっていう為だもの。
だからこれは仕方のない事。
ちゃんと愛してあげるために、ちゃんと生かしてあげないといけない。

> 「これが終わったら、お外に出ようね。
 美味しい物もいっぱいあるらしいよ?
 楽しいものもいっぱい」

もうだれも止める者はいない。
立ち込める煙の中、出来上がった少し大きな体に満足げな表情を浮かべる。

「あ、このままじゃ喋れないよね
 うん、大丈夫だよ。ちゃんと皆のチカラも持っていくから
 だからね、心配ないよ」

与えられたチカラはもう等の昔に変質している。
知るための力は知らない為の力になった。
だから、だから。
例えまたみんながあんな目で私を見ても。

「平気だよね。うん
 こんなにも愛してるんだもん」

ぎこちなく立ち上がるその体を支え
壁に腕をめり込ませて廃棄場の壁を登っていく。
化け物でも平気。もう、独りではないのだから。

> 登り切り、煙と炎の中を焼けながら進む。
お姉ちゃんたちを守るだけでいい。
必要なものは全部、私の中に在る。
私は燃えても、平気なのだから。
そうしていくつも扉を潜り抜け、たどり着いた先には
沢山の大人と、大きな機械。赤と黄色にくるくるとまわる灯のようなものを付けた
鉄の箱のようなものと、銃を構えてこちらを伺う沢山の影。
その誰もが見知らぬ格好をして何か叫んでいるけれど……
ああ、そう、あれは車っていうのね。それでこっちは警察かぁ。
思考がダダ漏れでとっても助かる。

『消防隊を呼べ!くっそ、何処から漏れた。
 糞野郎共を逃がすな。地の果てまで追い詰めろ
 待て……誰か出てきたぞ
 ……っておい、なんだあれは。なんなんだ、何を背負ってるんだ』

私の姿を見た途端一斉に静かになる。
表情はわからない。多分、絶句しているというのが近いのだと思う。
少なくとも彼らの中にあったのは恐怖や戦慄。
けれど、その時思ったのは思っていた以上に寒かったということだった。
見上げた空にキラキラ綺麗なものとまん丸くて赤いものが目に入って

『みて、お姉ちゃん。
 アレがお月さまかな?』

それ以外はどうでもよかった。どうせ区別はつかないのだし。
それ以上に声が聴きたかった。

『ねぇ、おねえちゃん、奇麗だよ?』

けれど背負った体は何も答えてくれなかった。
あの日以降、何も答えてくれない。
きっと私の事を怒っているのだろう。

> 『おい、大丈夫か
 背負ってるそれは……一体』

大人の幾人かが話しかけてくるけれど何を言っているのかわからない。
理解はできるけれど、わからない。
火の中を歩くのは予想以上に以上に体力を使ったようで
疲れていた体で地面に崩れ落ちる。
火と熱気に焙られた体に冷たい地面が気持ちいい。

「……五月蠅いなぁ」

折角いい気持ちなんだから、邪魔しないでほしいとおもう。
その顔を見上げ、瞳を見つめて伝える言葉は一つだけ。

『"黙れ"』

それだけで相手は無音で喉を抑えて崩れ落ちる。
周囲の大人の目に浮かぶ表情が、見覚えのない物から
一瞬で見知ったものへと変わる。
それは、私を見るオトウサン達と、オカアサン達と
何時しか鏡の中の見知らぬ誰かが震えながら見せていた表情。
あれは誰だったっけ。もう思い出せない。

> 『異能者だ!対異能者用の弾丸に切り替え!
 気をつけろ。攻撃性が高い。油断すると持っていかれるぞ』

よくわからない叫びと共に無数の銃口がこちらを向く。
そうして一斉にそれが火を噴いて…

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「――!」

いつの間にか暖炉に入っていた火に薪がはじけ、
その音でうっすらと目をあける。
部屋に微かに広がる香木と木の焼ける香り。
染み入るようなのその匂いが濁った思考を落ち着かせていく。
その間も体は一ミリも動かない。
そうして……数秒後、初めてその体が小さく動く。
その瞼がゆっくりと開かれ、翡翠色の瞳が緩慢な動きで空を見上げる。
少し天頂からずれた黄色い月に照らされ、宝石のようにきらめくその瞳には
透明な雫がたまり、頬をとめどなく濡らしていく。
あの時と同じくらい、息をのむほど綺麗な、違う月。
……けれど。

> 「………?」

その内容は全く思い出せない。
なぜ自分が泣いているのか、全く判らない。
何を見てたんだろう。あの時っていつだっけ。
……きっと下らない夢でも見たのだろう。
覚えていないという事はそういう事だ。
そもそも夢なんて覚えておく必要はない。
所詮幻。それが現実とは限らないのだから。

「――……」

それは再び人形のように動きを止める。
月の美しさを称える絵画のように、何一つ不幸せのないような
けれどまるで喪に服し続けるような言いようの無い笑みを浮かべて。

ふとその窓の外を鳥が過ぎ去っていく。
巣に帰りそびれた烏だろうか。はたまた別の鳥かもしれない。
その影は部屋に差し込む月明りを遮り、一瞬部屋の中は漆黒の闇に包まれる。
鳥が過ぎ去り……再び部屋に月明かりが差し込むころ
その人影は部屋の中から消え去っていた。
まるでそこにはもともと何もいなかったかのように。

月明りはただ静かに、何かが座っていたアンティークの椅子を
それを見守るものもないまま、照らし続けていた。

ご案内:「◆とある邸宅の一室」からさんが去りました。<補足:長髪に半分隠された顔、黒のゴシックドレス、絹の白手袋、ヴィクトリア朝風のケープ>
ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)2」にさんが現れました。<補足:長髪に半分隠された顔、黒のゴシックドレス、絹の白手袋、ヴィクトリア朝風のケープ>
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