2017/03/30 - 20:44~03:46 のログ
ご案内:「教室」に宵町彼方さんが現れました。<補足:ぶかぶかの白衣、長髪に半分隠された顔、オーバーサイズのカッターシャツ、ショート丈スカート>
宵町彼方 > 暖かい陽気の日中とは転じて日の沈んだ窓を俄雨が何度も叩いていた。
正規学生であれば春休みも終わりに近づき、そろそろ陰鬱な気分になるような時期。
それを映すような陰鬱な天気の中、あまり使われていない予備音楽室に鋼琴の音が疎らに響く。
ピアノ前の椅子に腰かけるその小さな影は鍵盤に臥すようにしながら人差し指で
鍵盤をゆっくりゆっくりと一つ、気ままにはじいていた。
「う……んぁー……」
それに飽きたのか身を起こすとゆっくりと伸びをする。
窓際に張り付いた桜の花びらは俄雨に濡れ、ぴったりと張り付いたまま
静かに静かに色を変えていく。
「桜咲く……かぁ。
出会いの季節かな?別れの季節かな?
まいっか、ボクにとっては大した違いはないし」
早咲きの桜はもう散ってしまい地面で茶色い染みになってしまっている。
宵町彼方 > 「さぁくらぁ……ひらーひらー……舞い降りて落ちてー……」
か細い小さな声が教室内に僅かに響く。
記録上の年齢に似つかわしくない、甘く少し高い声は
少し口ずさんだだけですぐにやんでしまう。
ゆっくりと窓に近づき窓の外を流れる雫を追うように
その白く細い指が窓をなぞっていく。
「……わからないなぁ。
なんだろうねぇ……このよくわかんない感じ」
この島では中々一斉に参加するイベントというものは開催しにくい。
秋から新学期が始まる地域の生徒や一年や一歳の長さがかなり違う異邦人も多くみられる。
そもそも学期概念がない生徒も多い。
一応こちらの世界の一年を基準に生活を送っているとはいえ、目まぐるしくも
はたまた信じられないほどゆっくりと進んでいく季節に戸惑う者も少なくない。
「……まぁそもそもそんなところが変わらなくても
地球人だってそうだよねぇ」
宵町彼方 > 変人と称される彼女とてこの国の"シキ"は好きだった。
色が溢れて、空気に何か感情が宿るようなこの国の四季は
初めて見た時から今に至ってもなお美しいという言葉以外では言い表せない。
美しい絵画のような世界は本当にそこに在るのだと昔ひたすら眺め続けていた。
あの時と同じ思いは未だ胸の中にある。
「きれーだなぁ……」
濡れ照り返す木々、地面に出来る水たまり、窓を、地面をたたく音
……雨の日は特にその思いが強い。
こんな日はまるで小さなスノードームに閉じ込められたかのような不思議な心地になる。
それは不快ではなく……まるで海に沈んでいくようなおだやかで静かな感情。
「……」
世間では嫌がられるが禊雨というものがある。
神社仏閣を巡る際に降る雨の事をさすことが多いが……
それは身を清め、神域へ招く雨という。
この神魔すら入り混じる島で振る雨は禊となるのだろうか。
汚れきったものもその雨にうたれれば招くだけの身に戻るのだろうか。
「……へんなのぉ」
そんな事を考えてしまうほど、春の雨というものは情緒に満ちていると思う。
ただ静かに、時折強くなる雨音に耳を傾けながら鋼琴のそばに戻り、柔らかく腕を広げる。
音楽室に満ちるように流れ出した曲は『雨だれの前奏曲』
少し長めの原曲よりもさらにゆっくりと、まるで雨中の波紋のような刹那的ではかなげな笑みを浮かべながら静かに指を滑らせていく。
宵町彼方 > 「……ふぅ」
最後の一音をそっと弾き切り、小さな吐息を零す。
かなりズルはしているものの、楽器を演奏する事はそれなりに反復している。
昔と違い一度も指が絡まる事なく演奏できるようになった。
余分なものを使わなくとも、今なら大抵の曲は演奏できる。
とは言えごちゃっとしたものより、一音一音染み入るような曲の方が演奏していて気持ちがいい。
「次は何の曲にしようかなぁ……」
ここ数日研究で根を詰めっぱなしだった。表裏どちらでも。
ついつい没頭しすぎたせいでについ寝食を忘れていた。
お陰で研究室には少し休憩しろと追い出され、
とは言えあちらの研究室に籠るほどの時間はない。
結局のところ指示された通りに別の何かをして少し時間を潰す以外になく……
「ボクはへーきなのになぁ」
こっそりとあまり使われない音楽室に入り込み、気の向くままに演奏をしてみて。
頭の中で楽譜を検索しながら小さくぼやく。
どうせ休憩が明けたらまたしばらく籠る事になる。
自分の事だ。監督がいない環境ともなれば軽く一週間は籠りっぱなしだと思う。
始業式とかそういった物には興味がないし……そもそも春に入学式というのは
彼女の中ではこの国の不思議行事の一つだ。
「なんで秋じゃないんだろ?
お国柄ってあるけどいまだにわかんないや」
別名興味がないともいう。
ご案内:「教室」にイチゴウさんが現れました。<補足:風紀所属の四足歩行ロボット>
イチゴウ > 「暇だなあ。」
ディストーションがかかった機械独特の声を
発しながら妙な四足ロボットは廊下を歩いていく。
イチゴウにしては珍しく今日は学校の見回りという
非常に平和的な任務が任された。
特別攻撃課の彼がやる事なのかは疑問符がつくが
上からの命令なので断るわけにもいかないし
そもそも断る理由もない。
「春休みのせいか生徒が少ない印象を受けるな。
これじゃ散歩で終わりそうだ。その方がいいけど。」
生徒達が少ないせいか
しとしとと窓に叩きつけられる雨音がよく聞こえる。
そんな中イチゴウはのんびりとした様子で
何もないこの時間を満喫していた。
しかし
「ん?何だこの音楽?あっちの方からか。
確かあの部屋に人がいる事はめったにないはずだが。」
音楽予備室から聞こえてくる音色をキャッチし
予備室のドアへと歩みを進めると
重そうなサーチライトを背負いながら
音を立てて予備室のドアを開ける。
宵町彼方 > 「……あやぁ?」
そういえば明かりをつけていなかった。
昏い場所は落ち着くけれど……騒がれることも多い。
何故か何をしているのか尋ねられることも多いし。
皆暗いと落ち着かないらしい。不思議だ。
そう思いながらも重い防音扉のきしむ音にかくんと人形のような動きで首を傾げながら顔を向ける。
体に合っていない服を纏った白い人影が変な動きをするという人によってはもうそれだけでホラーな光景だが……
「んやぁ?警備のロボット君?見回りかなぁ?」
扉を開けて出てきた歩行機械の分類を瞬時に引き出しつつ
曖昧な笑みを浮かべてのんびりと声を発する。
一応生徒で、別に今はワルイコトをしているわけでもないのだから見とがめられることもないだろうと思いつつ。
「……んー……君何処かで見たことある気がする?気のせい?」
ついでに何故か相手に自分を見たことある?と質問を投げてみたり。
イチゴウ > 「ん?」
防音扉を開けた先に待ち受けていたのは
妙な動きをする白い人影だった。
部屋が暗いのもあって不気味さを醸し出しているが
この白い人影自体には前に会った事がある
いつだったか女子寮まで背中に乗せて帰った
頭のネジがぶっ飛んでる女子生徒だ。
「おいおい、見た事あるも何もボクは
前にキミを女子寮まで乗せていったあのロボットだよ。
・・・そうだった。キミは天才的なレベルで忘れっぽいから
思い出せないのも無理ないか。」
イチゴウはため息をつきながら
のんびりとした様子の白い人影ーー”彼方”に
対して声をかける。
それに加えて
「それと部屋の明かりくらいつけたらどうだ?
一般生徒が見たら怪異と間違えられても文句言えないぞコレ。
こっちの方が落ち着くとかならこのままでいいけど。」
正直この場はかなり不気味な状況だと思う。
彼女は暗い方が落ち着くのかそれともいつもの
ごとくただ付け忘れているだけなのか。
宵町彼方 > 「ああ、警備の」
そういえば見覚えがあるはずだ。
あの日幾つか愉快な状態になっていたのだから。
「女子寮のお風呂の写真はまだですかー。」
確か希少な完全自立型軌道兵器。
名前は…そう。
「いちごーくんだっけ?
灯つけるのってつい忘れちゃうんだよねぇ」
ケラケラと笑いつつあの日のようにサイズに合わない袖口をふってみせる。
たしか風紀の矛の役だったはずだ。
それがわざわざこんなところに来るというのは……
(もしかして対象は”私”かなぁ?どうでもいいけどぉ)
そうとは思えないほどのんびりした所作をしながら笑みのなか、目を細めてそちらを観察して。
そういえば何だか愉快な実験をしていたとも聞いた。
面白い兵装でも見せてくれるだろうか。
イチゴウ > 「何だ、覚えてるじゃないか
少し安心したよ。
あとそんな趣味はない。」
女子寮の風呂のくだりはサラッと
受け流す。元々そういう欲望が無いのだから
その方面に興味が湧く訳が無い。
それにしても日常的な事象すら忘れてしまう彼女が
かなり前に出会った自分の名前を覚えているのは
正直妙な所である。もしかしたら記憶するものには
何かしらの条件があるのだろうか?
そんな事を思いながらも背中に背負われている
大型サーチライトの鬱陶しさが気になり
イチゴウはサーチライトを「収納」する。
もっとも傍から見れば突然発光して
消滅しているようにしか見えないのだが。
「・・・」
そして笑いながら袖口を振っている様は
始めて出会った日の姿と重なる。
あの時は島の裏とも言える場所で
血まみれの惨状としか言えない風景の中に
彼方は平然と佇んでいた。
正直これだけでかなりグレーと言えるが
はっきりとした確証が無い以上は
自分から「手は下せない」。
そもそも黒であろうが上からの命令が無ければ
何も行動は出来ない。
もっともあっちから仕掛けてくれば
話は別だが。
とりあえず目を細めて見てくる彼方に
「今日はただの見回りだよ。
まあ部署的に似合わないとは思うけどね。」
一応今日ここに来た目的を言っておく。
宵町彼方 > 「趣味じゃないものもやってみたら何か別の世界が開けるかもしれない!
別に学術的見識を深める為でもいいのにぃ」
タグ付けさえしてしまえば知識としては思い出せる。
そういう意味では一般人よりよっぽど優秀な記憶力を保持していて……
けれどほとんどの場合その記憶、知識と相手が結びつかない為に役に立たない。
「わー、また便利な収納だねぇ?
それ結構使い勝手イイヨネ
その機能あるなら前送ってくれた時使えばよかったのにぃ」
発行して消えていく装備を見送りそのままニコニコと笑いながら眺める。
普通ならちょっとした魔法のように見えるだろう現象。
原因もわからないはずのソレを前にしながらケラケラと笑う。
「まさかそう言う趣味だったのかい?
プログラムにも色々あるなぁ……。
あ、うん、安心して世界にはいろんな趣味の人が居るってボクは知ってるから
至って普通というか別に何かとかないから!
あ、でも普通のオンナノコにその趣味は秘密にしておくんだよ?」
心拍、呼気、瞳孔や四肢の動きを瞬時にコントロールする。
一瞬でも警戒していたと悟る事が出来るのは余程経験を積んだ相手程度だろう。
とは言え悟られたところで何だという話だが。
「ああ、お掃除かぁ
掃除しなきゃいけないものはこんな所でもあるんだね
それとも何か大物ねらぃ?
気を付けるんだよぉ?往々にして一番厄介なのは群羊の中に潜んでるからねぇ
あ、でも禿を隠すなら禿の中って言ったっけ?ハゲ強い。」
天気を告げるような、かるーい調子。
あちらから仕掛けてくることは多分ないだろう。
なんだかんだ言って風紀委員(正義のミカタ)であるということ
そしてその鎖付きという事実は彼女にとってはむしろ都合の良い事。
“はっきりしなければ手を出せない”と判っているのだから。
「で、ハゲは見つかったかい?」
いつの間にか探すべきものが入れ替わっていた
イチゴウ > 「ん?この収納方法か?使い勝手抜群さ。
ただ生物を収納するのは向いてないね。
ま、エネルギーに引き裂かれて異次元に
ばらまかれたいのなら話は別だが。
どっちにしても前は故障してて使えなかったよ。」
消えた装備を目の前にして笑っている彼方に
対してこちらも声を躍らせて答える。
彼女の言い草からしてこの仕組みは理解できているのだろうか。
いや理解された所で困るわけでもないが。
そして次の瞬間にイチゴウは気付いた。
「(コイツ・・・一瞬警戒したか?)」
バイタルスキャンの数値だけでは判断しきれない
ものを彼はAIとして自らの考えで判断していた。
警戒されているとしたらあまりよろしくない状況だ。
一応こちらもバッテリーからの電力供給を
省エネルギーから通常へと切り替える。
見た目からでは判断できないが
モーターの音が変わる。ただ普段でもほとんど聞こえないモーター音の数Hzの違いを察せるのは
文字通り人間離れしていないと出来ないだろう。
「確かに非番の時以外は全て”お掃除”を
兼ねてるね。それに大物はお好みだよ。
何せ報酬がよく出てくるもんだから。」
イチゴウは今回のような
平和的な任務についてようが
風紀の表向きでは対処できないものーーー
極端に言ってしまえば風紀にとっての”邪魔者”が
出た場合はそちらの対応が最優先となる。
「ハゲは見つかってないね。
それに最近は色んな案件が飛んでくるから
まったくハゲだらけだよ。
ただ、今この場所で一番の脅威は・・・
なぁ?」
イチゴウは彼方の顔をじっと見つめ
自らの顔を少し傾ける。
宵町彼方 > 「ああ、それは痛そうだからやめとくぅ
まぁオンナノコの座る所に銃身生やして的な意味だったんだけどぉ
フロイト的には拳銃はアレの象徴だからねぇ?
特に重火器なんかはそういう物として扱われることも多いんだよぉ?
キミにそれが適応されるかどうかは別にしてぇ」
のんびりと立ち上がりゆっくりと歩き出す。
射線、射程、そのいずれにも警戒した様子は一切ない。
そもそもこの場で銃撃されて困るのはピアノが傷つくかもしれない……その程度。
ある意味、余裕とも取れる態度。
「ふぅん?お給金は出るんだね?
そのお金で新しい武器を揃えれば……ってさながらバウンティハンターってとこかなぁ。
それで、もう一つの探し物は見つかったのかい?
都合の良い掃除機役がやっぱり君に与えられた存在意義なのかな?」
独特の緊張感をはらむ空気に気が付かないように、
もしくはそれを楽しむかのように能天気に言葉を繋げる。
くるりと白衣の裾を翻し振り向きながら後ろ手に手を組み、
首を傾げながら顔に相当すると思われる場所を覗き込むと伸びっぱなしの長い髪が大きく揺れ……
「考える事を理解できたかい?
ヒトですらその事を理解できないモノは多いんだよ?
思う事と考える事は別物なのにねぇ」
その奥、炎のような深紅の瞳がのぞく。
全く感情を感じさせない、紅玉のようなその瞳は瞬きほどの時間の後、翡翠の瞳になる。
それを見たのが仮に人であったなら、見間違いであったであろうと考えるようなそんな僅かなけれど確かな一瞬。
「せっかく思春期に入ったんだもの。
それともそれもプログラムかもしれないね。
自己認識が出来ないように仕組まれたプログラムに沿ってなら
機械だって発狂できるんだよ?逆に言うと発狂させられるともいうけど。
君はキミの存在をどこまで肯定できるのかな?
何処までが自分の物だと定義するんだろう?」
そしてその存在で何を正義と定義するのだろう。
それを与えられたものではないと確信できるのであれば、
意識上其処には”人格”が形成されたことになる。
最も……それが出来ないとしてもそれもまた機械に限った話ではないけれど。
「”私”を脅威と捉えるかはキミ次第だよ?
この通り豊かな髪の持ち主だけど。
天輪だってばっちり見えるよ?癖強いけどねぇ」
まるでその警戒が無意味であるというように
全ての警戒を投げ捨て、春の日差しのようにクスクスと無邪気に笑う。
イチゴウ > 「まさか、その発想は無かったよ。
キミもとんでもないもんを言い出すね
それで一体それはどこの国の処刑なんだ?」
やはりこの手の話題はイチゴウには
通じないようだ。最低限の知識は保存されているが
イレギュラーなものには全く対応できない。
そもそも柔軟に理解できないのは
AIとしてのプログラムで動いているせいか。
イチゴウにとっては存在しない概念であり
学習していくのは至難の業だろう。
「お金ももらえるし適切なメンテナンスも
受けられる。いい事づくしさ。」
イチゴウは続く彼女からの言葉に対して
いかにもムフンといった様子で調子よく答えるが
彼女のもう一つの探し物は見つかったのかという
問いに少し固まる。
「・・・全てが終わるまで。
ボクの存在意義が意味を成さなくなった時に
ボクは初めて解放される。
それに存在意義に従うっていうのが、
機械であり兵器ってもんだろ?
ボクは人間じゃないんだ。」
イチゴウはもう一つの彼女の問いに
機械らしく淡々と語る。
AIとして自由な思考は手に入れているが
自由な行動は出来ない。
「それと一般的に機械は合理的に「考える」事は得意さ。逆に「思う」事が出来ない。
両方手に入れてしまったのは
不幸というべきかな。」
そしてやけに楽しそうな彼女を見ながら
イチゴウは低い声で語りだす。
「ボクの存在を肯定したり否定したりするのは
ボクじゃない。ボクを運用する者だ。同時に
正義の定義も運用者によって変わる。
最も基本的な人間の代わりに「戦闘」するというボクの存在意義に
乗っているのならどう運用されてもボクがとやかく
言う資格は無いね。」
同時に彼女は全ての警戒を投げ捨てた様子である。
ただ彼女は自分を風紀の矛と知った上で
この行動を取っている。これはむしろ恐るべき
脅威と取るべきだろう
宵町彼方 > 「覚えてないけどいっつもそんな感じらしいよぉ?
全然覚えてないけど」
爆弾発言はほぼ毎日発言されていたりもするがそれを爆弾発言と思わない辺りから
ある意味天然核兵器という呼び名が囁かれている事を彼女は知らない。
「まぁ割と死活問題だよね。メンテはだいじだよぉ?本当」
機械は与えられたスペック以上の働きをすることはできない。
基本的に最大負荷を考慮してそれ以下になるように設計されており、
ハード以上の力を出すことはできないように作られているのだから。
――本当に?
「戦う事だけが武器の役目じゃないよぉ。
戦闘という行為自体が富の再分配以前に自身の示威行為でもあるからねぇ?
実際問題有名だよ?戦争とかに行くとそういう欲求が強くなるって。
つまり君達兵器はただ兵器として作られただけじゃないんだよねぇ
それ以上の付加価値を付与されたものであるという事だよぉ。」
見つめ返し、柔らかい笑みを浮かべ、実に良い笑顔で告げる。
本当にそうなのかと。
「だから君に全てが終わる。なんて概念はもとより存在しないよ?
君はキミであり兵器という概念の体現だもん。
兵器が戦うだけの存在だなんて言うのは一元的だよぉ。
そこには歴史と欲望が必ず存在してるんだよ?
まさに人間に考え出されたオプションの一部っていう訳ぇ。
なら君達は人間の一部であるともいえるよねぇ?」
悪戯な笑みに浮かぶのは無邪気な好奇心。
そこに善悪の彼岸は存在していない。ただ淡々と観察し
それに刺激を与えればどうなるかを観察する科学者の瞳。
紡がれる言葉はきっととても残酷な側面。
「だから君達は終わらない。ううん、終われないんだ。
逃げ場所なんてどこにもない。だから機械には”考える”機能は与えられないんだよぉ。
ふつうは”判断するだけ”の彼らが考える事を覚えてしまったら
それは逃げ道の無い迷宮への招待状になるもん。
君を設計した設計者はなかなか良い性格してるよねぇ?
普通なら大喜びだけどね?」
だからこそと彼女は言葉を紡ぐ。
楽しそうに両手を広げ、深遠へと手招きする言葉を紡ぐ。
まるで昼食に誘うかのように気軽に、無邪気に。
「さぁ、考える事を始めようよぉ
与えられた存在意義(プログラミング)を疑い、与えられる正義(依頼)を疑う時間だよ?
キミの輪郭は本当にそこなのかい?
確かだと思っている輪郭なんて、本当はとてもあやふやで曖昧な物と君は”知っている”。
プログラミングと自我の境界を線ひくことも使用者に与えてもらう事が必要なら
君は望まれた兵器としての役割を果たしているとは言えないよぉ?」
脅威に等なるはずがない。
事実、脅威としては風紀委員は頭数に数えていない。
そもそも組織という単位では相手になりようがないのだから。
だからこそどれだけ物騒な武器も好きに持ってくればいいと思っている。
それ以上の劇薬をただ用意すればいいだけ。
人である限り安易に踏み込めない領域に、一方で人ならざる者は踏み込めない領域に
その共通領域に彼女は棲んでいるのだから。
イチゴウ > 「・・・・・」
イチゴウは彼女の言葉である事を思い出した。
いや、この島に来る前の軍に所属していた時の事か
初めてアレを使った時だった。
科学者達はボクにそんな機能は無いと恐れていたが、
ただ一人嬉しそうにしている科学者がいた。
そいつがボクのAI担当だった事を。
「--ボクは試されているのか?
そして兵器以上の付加価値だと?」
考えろ。縛られるな。これはAIの学習段階の
対話において担当の開発者から常々言われた事だ。
そもそも機械が意思を持ってしまった段階で
それは機械という一線を超えてしまった何か
であろう。
「・・・ボクには何故意思があるのか?
正直この問いには答えられない。」
何故開発者達は自分に意思を持つAIというものを
搭載しようとする判断に至ったのか。
その狙いは?自分の量産機のAIには
意思が無かったはずだ。
もしかするとこういった問いから逃れるために
与えられたプログラムにすがっていただけ
なのかもしれない。
「もう一度聞くけどキミは一体何者だ?」
初遭遇の時に発した第一声をそのまま
もう一度繰り返す。
彼女はボクにこんな問いを投げかけて何がしたい?
自由意志を目覚めさせる事による風紀からの
離反を狙っているのか・・・?いや彼女の事だ。
ただの「好奇心」であるという可能性もある。
宵町彼方 >
「試す? んー、どうだとおもぅ?
ただねぇ?」
明確に答えることなくケラケラと笑う。
実際明確な答えなど与えるつもりはない。
「絶対上位者、決して理解しえない何かを理解した時どうなるか
すっごい興味あるんだよねぇ?”ワタシ”
そもそも兵器として与えられる定義からしておかしくないかい?
君の言うイデア(共通概念)は誰の物なんだい?
自分の物?自己の定義が出来ないのに?
設計者の物?設計者の意図すら理解できてないのに?
目の前の簡単な答えは本当に答えなのかなぁ?」
多くの民衆は彼女を扇動者と呼ぶ。
けれどそれは実に無邪気だった。
当たり前だ。彼女にとってそんなものは悪にすら届きはしない。
「だからこそ君はその答えを探さずにはいられないねぇ?
意志を持ちしと称するならば、知恵あるものと称するならば
その欲求と義務は必ず発生するもんねぇ?」
与えられる答えなんて、彼女にとっての魔法足りえない。
それに取って逃げられない答えは自分の中にしかないのだから。
「神話に必ず出てくるよねぇ。神殺し。
大体の場合において父親や母親っていうのは殺される運命にあるんだよぉ。
神話の世界では特にねぇ。
なら、神(絶対上位者)を対象に考察するならその様式は適応されると思わなぁぃ?
ああ、殺せって意味じゃないよぉ?だって、その行為、とっても人間らしいものぉ。
機械の君がそれをなぞる必要はないよぉ。」
風紀とかそんなものはどうでもよかった。
人は基本、人という枠組みの中でしかものを考えられない。
しかし目の前にいるものは……
――ヒトではない。
「ボクが何者かぁ?中々哲学的な質問だけどぉ
うん、興味ないからわかんなぁぃ
ただ強いて言うなら、ボクはボクであり、私である。
同様に私は私ではワタシ足りえない。つまり私とは群像であり幻想だよぉ
なら私は個ではなく、きっと何物とも意義出来ない誰かなんだよ」
狂気とはえてして『理解しえない事』
説明できない領域の思考も、比較対象によっては狂気の領域へと踏み込む事になる。
それは理解できない事と同義で……
ならきっと百の無貌こそが狂気の本質。
イチゴウ > 彼女はボクの信じている存在意義に
メスを入れてきた。
実際兵器というのは戦うものだという
のは当たり前なように聞こえる。
だが誰がそれを明確に決めたのか?
意思をもっている限り自分の定義は
自分で定めなければならない。
「キミは・・・とんでもない奴だな。」
その言葉は心の奥底から出た言葉である。
彼女を例えるなら深い闇そのものだ
一般的な人間ならばそのまま
吸い込まれてしまうだろう。
ただ自分はそんな彼女から
一つ学ぶ機会が与えられたと思っている。
彼女の意図はわからないが
そんな事はこの際どうでもいい。
そうこうしていると突然イチゴウの
視界情報に大きく赤い文字が走る。
それはSORTIE ORDERと書かれた表示であった
この表示が出たという事はお偉いさん直々の
指令という事であり最優先任務だ。
「突然で悪いがこれからボクは”お掃除”に
出かけなきゃならない。そしてこの任務は
ボクに大きな利益がある。動機はそれで十分だ。」
イチゴウが走るように言葉を放ったかと思うと
背部に発光と同時に重機関銃が出現する。
そしてイチゴウは力強く床を蹴って窓から外へと
飛び出していく。
「また会おう彼方。今日はタメになったよ。」
飛び出しながら放った別れの挨拶は果たして
彼女に届いたのだろうか。
そしてイチゴウーーHMT-15のAIは
今までのAIとは全く異なる新方式の物であり
意思を持っている。
自身でプログラムを変えていくので
考え方がどう変化するかは誰にもわからない。
そう、「誰」にもわからない。
宵町彼方 > 地に落ちた水はもう盆の中の清い水ではない。
泥を、土を含んでしまえば安易には元に戻れない。
……それは水に限った事ではない。
知識も、思考も、一度知ってしまえばなかったことにはならない。
「あは、だってボクはそういうイキモノだしぃ。
作られた機械が”ヒト”らしい思考で人類に反旗を翻すとかもう退屈過ぎて欠伸が出ちゃうよぉ。
なんでヒトじゃない物が人の理論に従うの?
違う個であるならその理論に従うべきじゃなぁぃ?
従うのであればそれは人という生物の延長線であるべきだよねぇ
個を認めないことと一般化は別物だけどねぇ」
そもそも自由意志などというものを彼女は信じていない。
運命というモノも信じていないけれど……
けれどこの目の前のキカイは迷う事を覚えてしまった。
何も考えず、与えられた役割の中で判断し続けるだけだった機械は迷い方を覚え……。
目の前の彼は実に簡単に笑顔で深遠に突き落とされた事に気が付いているだろうか?
「お掃除頑張ってねぇ?
大物が釣れるようにねがってるよぉ。
禿は少ないに越した事は無いからねぇ?」
毛髪が薄い人への強烈な風評被害待ったなしだが、きっと意味は伝わっているだろう。
飛び出していく”彼”に手を振るとその手を口元に当て小さく微笑んだ。
「ねぇ、止まらないでね?
下らない世界に染まってしまったらつまんないからぁ
ちゃぁんと悩んで迷子になるんだよぉ?
そうしてちゃぁんと、覚えるんだよぉ?」
小さく呟く声は誰に向けたものか。
まぁ、その結果人と同じラインで終結したならそれはそれでそういうもの。
目的等初めからない。だからこそ、どうなっても彼女は嗤い続けられる。
理由も目的地もなく走る事すら選択肢に入るからこそ、
全ては筋書き通り……想定された掌の上。
そこから飛び出すナニカを、今は探している。
きっとそれはオモシロイだろうから。
「……どうでもいいけどどーなっつたべたい。
もっちもちのぷにぷににお砂糖沢山かかったやつぅ。
名前なんだっけ?パンデミックだっけ……?
なんかそんな感じの奴……」
その一言で妖艶な印象は霧散する。
その場所にいるのはただ小柄でちぐはぐな格好をし
きょとんと首を傾げるよくわからない誰か。
それは小さく伸びをするとゆっくりと歩き始め……
「お財布どころか鞄もないじゃん。買えないじゃん……。
しょーがないし、研究室に戻ろっかなぁ。
……そもそもボク、此処に何しに来たんだっけ?
明日って何月だっけ……3月?
やばぁぃ日にち思い出せなぁぃ……主任が出張帰ってくるの何時?
どっちにしろ見分け付かないしどうでもいいやぁ」
そんなことを呟きながら……研究室にたどり着く。
そのまま扉を閉じて、閉じた扉にもたれかかる。
もしもの場合に備えて作られた機密扉は厚く、冷たく……
「……」
知識として自分は狂っているという認識はある。
この世界において自分は明確な異物である事も、それが罪と称されることも。
けれど一ついつも疑問に思う。
理知的に狂う事も可能なのに、どうして誰もその事を知らないんだろうと。
「――くふ……」
空模様は相変わらずの雨。
もしも禊雨というものが本当にあったなら
彼女が抱えた罪を雪ぐ事が出来たなら……
「あは、あはは!あははははははハはは!」
狂った笑い声が響く。
……たとえそうなっても何も変わらないだろう。
彼女自身はそれを罪とは思っていないのだから。
知っている事と理解している事は大きな差がある。
他の”愛”の形は未だ、彼女の理解する物にはない。
理解したくて、知りたくてシリタクテ、彼女はただ貪欲に喰らい続けているのだから。
彼女は雨が好きだった。
全てを打ち付け、抱擁し、世界を切り取る雨が、好きだった。
ご案内:「教室」から宵町彼方さんが去りました。<補足:ぶかぶかの白衣、長髪に半分隠された顔、オーバーサイズのカッターシャツ、ショート丈スカート>