2017/04/09 - 19:33~01:04 のログ
ご案内:「双葉コーヒー常世島学生街店」にステーシーさんが現れました。<補足:猫耳剣客。(乱入歓迎)>
ステーシー >  
日曜日。ついぶらぶらと島中を巡って桜を見て回ったり。
夕方になる頃にはすっかり歩き疲れ、喉も渇いてきた。

「………?」

ふと、目に付いたのは双葉コーヒー。
最近、常世にも進出してきたコーヒーチェーン店。
……そういえば、ここでよくコーヒーを飲むって生活委員会の友達が言ってたっけ。

よし、ここで何か飲んで帰ろう。
こんな晴れた日のこと、ちょっとくらいの『特別』があってもいい。

あちこちで桜の花を見てご機嫌だったステーシーは、足取りも軽やかにフタバに入店した。

ステーシー >  
店内は落ち着いた雰囲気でシックなBGMが心地よい。
照明もどこか心を和やかにしてくれる気がした。

まずは注文、レジに向けて並んだ。

良い香り。コーヒーは普段あまり飲まないのだけれど。
ここでなら、きっとコーヒーを好きになれる。
そう思った。

ステーシー >  
そして目の前の客が注文をする頃。
悪夢は始まった。

『ホワイトモカフラペチーノのグランデで』

!?
い、今、目の前の女性は何を言ったの?
暗号……?

『あと追加でキャラメルソース、ヘーゼルナッツシロップ、チョコレートチップ、エキストラホイップのエスプレッソショット1杯で』

呪文!?
こ、これは……
この呪文を全て唱えるとコーヒーとは別に店員が銃を持ってきてくれるというスパイ映画みたいな…?

しかしそんな様子はない。
これが。
これがフタバでの正統なる注文の作法なのだ。

私に、同じことができるだろうか……?

ステーシー >  
耳がピンと立つ。
尻尾が落ち着かなくそわそわと左右に揺れる。
周りが私を見ている気がした。

―――田舎者のフェルパーがこんなオシャレな店に来てるー場違いー。

そんなことを言われている。
いや、絶対言われた。聞こえたし。

鼓動が高鳴る。
喉が余計に渇くし、高度な体温調節機能を持つフェルパーであっても暑く感じるほどの緊張感を覚えた。

ここで注文を失敗したらオシャレ人たちに石でも投げられるのではないだろうか。
絶対に。絶対にミスはできない。

ステーシー >  
状況を整理しよう。
まずは呪文を唱えればいいんだ。
私は魔術の類はからきしだけど、要は通じればいいんだ。

『次のお客様、ご注文をどうぞ』
「ひゃい!!」

声が上擦る。
落ち着け、Be Cool! 冷静に、そして冷静にこの状況を切り抜けろ!!

「タッカラプトポッポルンガプピリットパロ」

言った。

『……は、はい?』

通じるわけがなかった。
ああ、今の私思いっきり混乱している。

「すいません、何でもありません」
『は、はぁ………』

苦笑いを浮かべる店員さん。くそう、赤っ恥。

ご案内:「双葉コーヒー常世島学生街店」にニコラスさんが現れました。<補足:白いシャツ、長袖のジャケット、チノパン、革のブーツ。ブラウンのモッズコート>
ステーシー >  
猫のほうの耳にまで力が入ってピンと立っているこの状況。
緊張していることがオシャレ人にバレたら投石される。
いつも通り。普段通りにやれば大丈夫。

「ア………」

ふ、と柔らかい笑顔を浮かべた。

「アメリカンコーヒーをMサイズで」

言えた!!
何が呪文だ、こんなのシンプルに考えれば何も難しくな――――

『申し訳ありません、当店ではアメリカンコーヒーというメニューは取り扱っておりません』

アメリカンコーヒーないの!?

『それと……ビバレッジの種類にもよりますがショート、トール、グランデ、ベンティとサイズが分かれております』

Mサイズないの!?

顔が真っ赤になる。
周りを見たわけではないが、きっとみんな私を見ている。
笑っている。
石を投げようと構えている。

絶望。
そう、この世界という狭い箱には絶望しか残されていないのだ。

ニコラス >  
(彼女の後ろ、つまりは順番待ちのお客様。
 初めて入った店で、コーヒーのサイズも一般的な店とは違うらしい。
 が、サイズなんてものは大抵並んでいる順に大きさが変わるのだ。
 なにやらトッピングやらなんやらややこしそうだが、分からなければ店員に聞いてしまえば良い。
 元の世界での旅人としての経験値がこんなところで役に立った。
 とりあえずメニューを眺めて順番を待っていたら、)

――?

(なにやら呪文が聞こえた。
 前を向けば自身の前の客がわたわたしている。
 店員さんの申し訳なさそうな顔しか見えないが、彼女が困っていると言う事は分かった。)

――普通のサイズの普通のコーヒーが欲しいって事?

(なので首を突っ込む事にした。
 彼女の後ろからカウンターへ顔を出し、店員さんと彼女の顔を交互に見比べる。)

ステーシー >  
信じていた世界の死に、死後硬直していると後ろから男性が顔を出してくる。
ヒィッ!?
私が注文遅いから後ろの人がとうとう顔を出してきた!!

きっとこの人はオシャレ人の尖兵に違いない!!
私はきっと磔刑だー!!

「あううう………」

男性の顔と店員の顔を交互に見て涙目に真っ赤な顔で呻くことしかできない。
石を投げられたら刀を抜くことなく甘んじて受けよう。
それが私の罪。私の罰。

とりあえず女性店員さんは困った顔をしていた。
そりゃそうだよね。

ニコラス >  
だ、大丈夫か?

(顔を見たら死にそうな顔をしていた。
 心配になって逆にこちらがうろたえる。
 店員さんを見ても困った顔を返して来るだけで事態は何も解決しない。)

えっと、とりあえず、普通サイズの普通のコーヒーで良いんだろ。
――あ、初めて来るからよくわからないんで、普通のコーヒーの普通のサイズのヤツ二つください。

(アメリカンコーヒーと言っていたからそれで良いはずだ。
 自身もふらぺちーのやらきゃらめるまきあーとやらよくわからないので無難なものにしておこう。
 ついでに彼女の分もまとめて注文してしまう。)

ステーシー >  
全然大丈夫じゃなかった。
だから彼の言葉に首を左右に振った。

そもそもビバレッジって何?
ビバはイタリア語でノウレッジは英語だよ?

……どうやら彼は助け舟を出してくれているようだ。

「そ、そうなの。普通のコーヒーが飲みたくて……」

彼の注文に、店員さんはようやく動き始める。

『はい、ドリップコーヒーのショートにいたしますね』
『本日は四つの豆をブレンドしたトリビュートとなっております』

つ、通じた!!
この地獄から解放される!!

慌ててお金を払うと、毛羽立っていた尻尾がようやく落ち着く。
コーヒーが届くまで通路脇に退いて、彼を待ち、声をかけた。

「あ、ありがとう………石を投げられずに済んだわ」

いきなり何を言い出すのか。
しかし彼女にとって心から助かったことなので仕方がない。

ニコラス >  
(自分で聞いておいてなんだが、大丈夫じゃないらしいのは見ればわかる。
 こっちで注文してしまって良かったようだ。
 財布から小銭を取り出して店員さんに渡す。)

いやどうってこと――石?

(あまりに自然に言うもんだから一瞬聞き流しそうになった。
 コーヒーショップと石を投げられる事の関係性がよくわからない。
 首を傾げる。)

なんか良くわかんねーけど……。
罪を犯した事がないものだけが石を投げろって言えば良いんじゃねーの。

(そうすればきっと止めるのではないだろうか。
 聖書にも書いてある。)

ステーシー >  
「いや待って頂戴、落ち着くから……」

深呼吸をすると、顔をぺちぺちと二回叩いて呼吸は正常。

「ちょっと被害妄想が出てしまったわ……忘れて」

ドリップコーヒーを受け取ると窓際の席がちょうど空いていたので座る。

「そうよ、フタバの注文で詰まったことのない人なんていないわ」
「私はステーシー・バントライン。あなたは?」

コーヒーに息をふぅふぅと吹きかける。猫舌。
でも熱い飲み物は好き。

「助けられたわね」

本心から言った。
あのままだと恐らくテンパり続けて何を言ったかわからない。

ニコラス >  
お、おう。
忘れろって言うならそうする。

(お互いにとって多分その方が良い。
 こちらもコーヒーを受け取り、ごく自然な流れで同じテーブルに着く。)

そうなのか?
まぁなんか違うなとは思ってたけど。

(確かに彼女のひとつ前の客の呪文のような注文を聞く限り難易度高そうだなとは思ったけれど。
 元々異世界の住人である自身にとってその辺はよくわからない。)

いや、むしろ首突っ込んじまって良かったのかな、って思ってた。
良かったなら良いんだ。

(ひら、と手を振ってコーヒーを一口。
 普通のコーヒーの味でちょっと安心する。)

ステーシー >  
「……思い込みが…激しくて………ね」

しどろもどろ。

「本当、店員さんは敵じゃないんだから素直にわかりませんって聞けばよかった……」

ふぅふぅとコーヒーに息を吹きかけ続けながら話す。
他の客が入店する際に、春特有の心地よい空気が流れ込んできた。

「うん、助かった。もう、本当、死ぬかと……」

リラックスしたのか、尻尾がだるんと垂れ下がり、猫耳もぴこぴこと左右に動いて。
そしてコーヒーを一口。

「あ、美味しい。苦労した甲斐はあったわね」

ニコラス >  
――まぁ、うん。

(あのうろたえ方はちょっと尋常じゃなかった。
 しかし忘れろと言われたからには曖昧な返事でノーコメントとしておこう。
 傷を抉るのはよくない。)

いやコーヒー一つで死にはしないだろ。

(正論。
 それぐらい緊張したとかそう言うことなのだろうが、ツッコミ担当としては突っ込まずにはいられない。
 ボケ担当が彼女と言う意味ではない。)

苦労――うん、そうだな。

(確かに彼女なりの苦労はしたのだろうが、店員さんに注文を通したのは自分だ。
 しかしそこをつっこむ程ヤボではない。
 確かに外から見れば滑稽な姿だったかも知れないが、それでも彼女は彼女なりに死力を振り絞ったのだ。
 そこを突いてからかうほど落ちぶれてはいない。
 ――下手につついて面倒ごとに巻き込まれるのがイヤだと言うわけではない。)

ステーシー >  
「…………うん……」

真実なんてこのコーヒーのように曖昧に濁りきってしまえばいい。
熱く、苦く、黒く。

「いやでも………」
何らかの意図を伝えようと身振り手振り。
「師匠のおやつをつまみ食いしたのがバレた時より死ぬかと思ったわ……」
「あの時も逆さ吊りにされたけれど、それよりも死が近かった」

彼の言葉に複雑な表情を浮かべた。

「まぁ最終的に苦労したのはあなたでしょう。でも」

コーヒーの液面を揺らしながら溜息をつく。

「私だって頑張ったのよ? マキシマムにフルパワーで」
「コーヒーショップに入ってアメリカンコーヒーがないとは思わなかったし」
「Mサイズがないなんて信じられなかったもの」

すぐにぱぁっと明るい笑顔になる。

「でもこれでフタバコーヒーはだいたいわかったわ! 友達に自慢できる」

ニコラス >  
――あー、今更だけど。
ニコラス、ニコラス・アルヴィン。

(今更ながらに自己紹介。
 彼女の名前を聞いてからこちらが名乗るまで間が空いてしまった気がするがきっと時空の歪みがうんたらかんたら云々。)

うん、ちょっとお師匠さんバイオレンス過ぎやしませんかね?

(冷静に突っ込みを入れる。
 勝手におやつをつまみ食いした彼女には非の打ち所しかないが、それにしたって報復のレベルがヤバイ。
 もうちょっと弟子に愛情を掛けるべきでは無いだろうか。)

まぁ……そうだな、頑張ったんだよな。
いや、自慢――うん。

(自慢は出来ないと思う。
 止めようかとも思ったが、せっかく彼女が得られた自信を奪わずにそれを伝える方法がわからない。
 結果的に曖昧な表情で右手を中途半端に伸ばしたような格好に。
 右手を中空でウロウロ。)

ステーシー >  
「ニコラス。ニコラス・アルヴィン」
「いい名前ね、改めてよろしく」

お互いの名前を教えあった後に、師匠の話を続ける。

「普段はゲンコツ一発で許してくれるけれど、師匠の好物の芋羊羹食べた後は確実に吊るされたわね」
「……師匠、元気でやってるかなぁ…」
「私、異邦人なんだけどね。元いた世界に師匠を残してきたから心配で…」
心配されているのは、きっと私のほうだけれど。
そう言って寂しげに笑う彼女には、師匠を慕う気持ちが込められていて。

「………?」

ニコラスが右手を中途半端に伸ばしたのを、何か勘違いした。
その手を両手で握り、上下に揺らした。

「握手? よね?」

にっこり笑うと、猫耳が揺れた。

ニコラス >  
(名前を褒められて悪い気はしない。
 ちょっと照れくさそうに笑って応える。)

師匠ってのはそんなもんだよなぁ。
俺も良く殴られたっけ。
あー、俺も向こうに――友達、残してきてるから。
わかるわ。

(師匠と言うものはどこでも厳しいものだ。
 流石に命の危険を感じた事は無いけれど。
 彼女も異邦人だと分かれば親近感が沸いた。
 表情に込められたものは彼女と微妙に違うが、似ているものも見えるだろう。)

――うん、そう、握手。
よろしくよろしく。

(伝えるのは諦めた。
 応じるように握られた右手を上下に。)

ご案内:「双葉コーヒー常世島学生街店」に宵町彼方さんが現れました。<補足:白衣、長髪に半分隠された顔、だるっだるのパーカー、眼鏡>
ステーシー >  
「そう、私の師匠で、お姉さんで、母親で……大事な、人だった」
「……家出ついでにその師匠から盗んできた刀がこちらになります」

シリアスな語りから一転、帰ったら半殺しにされる案件を喋るステーシーだった。

「ニコラスも異邦人なの? そっか……私達、同じ立場ね」
「異邦人街にいれば異邦人の仲間はいっぱいいるけど、フェルパー(猫獣人)は少なくて」
「やっぱね、時々寂しくなる」

笑顔で握手を終えるとコーヒーを飲む。
まだ熱いけど、香り高く深い味わいがする。

「ねえ、ニコラス。次にフタバに来る時はあれ頼んでみましょうよ、あのメニューに載ってた…」
「ふら…ふらぺてーの? っていうの!」

また惨劇が起きそうな発音だった。

ニコラス >  
そうか、師匠でもあり家族でもあって、その刀の本来の持ち主――ってオイ!?
何してんだアンタ!?

(流石に声をあげてツッコミを入れる。
 なんてことしてんだこのネコミミ娘!)

――そうだな、同じ立場のやつは沢山居るけど、あっちのやつらには会えないからな。
変わりに大事なやつの大事なモンちょろまかしてきたとんだ泥棒猫には会えたけどな。

(その気持ちは痛いほどわかる。
 痛いほどわかるが、今とんでもないカミングアウトをされた身としてはいまいちシリアスになりきれない。
 呆れたような表情。)

フラペチーノな。
頼んでみましょうって、俺も来るの前提かよ。

(別に不満では無いけれど。
 夏はかなり暑くなるらしいので、これからの季節にちょうど良いだろう。)

宵町彼方 >   
「んぁー……おおいよぉぅ」

前方に長く続く列を見て小さめ白衣の少女は
偏光グラスの眼鏡を少し押し下げながら小さくため息をついた。
やっぱりこの時間結構並んでいた。
少しお高いけれど自由に味を調整できる利便性が受けて
この店は結構多くの利用者が押し掛ける。
物珍しさに加えて何だか有名人が良く利用していたとかで一時期話題になった事もあり
この店をよく利用する事が一種のステータスと言い張る学生まで存在しているらしい。

「んに?」

普段は粛々と列が流れていくのだけれど……ふと列の前方から少し騒がしい雰囲気が伝わってきた。
そちらに目を向けると今にも死にそうな表情でカウンターで硬直する姿が目に入る。

「……ははぁん」

この店は結構慣れているか否かがわかりやすい。
そもそも言語統一されていない謎制度なのだから戸惑って当然なのだけれど……
どうやら学生のようだし、悪戯心をくすぐられる容姿をしていた。
遊んじゃおうかなぁ……なんて思っていた時にふいに前列のカップルが
わざとらしくじゃれ合いながら
『田舎者のフェルパーがこんな……』
等と言い出しそれに目を向ける。いかにも頭が悪そうな雰囲気がグッド。

「んふぅ……」

ああ、ちょっと面白い事を思いついた。
私の目の前であんな面白そうなことを言うのが悪い。
明らかに助けられていますという雰囲気でぎこちない二人組をにやにやと眺めている
カップルの後ろでさらに悪い笑みを浮かべ

「ホットチャイティーラテソイミルクに変えてー、ショット追加ー
 サイズはグランデで。あ、タンブラーにお願いしますぅ」

そつなく注文を終えて品物を受け取るとその前をのんびりと横切り
一息つき、少し解けた雰囲気の二人の元へと歩み寄る。

「横領の悪い子はいねがー……
 注文方法がわからない者がこの中におーる……!
 縛り首だー!
 ……なんてねぇ。やほぉ。げーんきぃ?」

トンデモ発言をぶちかましながらいかにも知合いですという雰囲気で話しかけながら隣の席に腰かける。

ステーシー >  
「いやもう、この刀さえあれば師匠みたいに強くなれるかなって……全然ダメでした…」
「か、帰ったら殺される……」

ふるふる震えながらコーヒーを両手で握った。
だらんと垂れる尻尾、へにゃんと折れる猫耳。

「泥棒猫じゃないし……いつかちゃんと返すし…」
「そうそう、そのふらぺちーの! 私一人じゃ……」

その時、尻尾がピンと立つ。
すらすらと例の呪文を唱えた猛者の声が聞こえたからだ。

「ヒッ 縛り首はやめてぇぇぇぇ………」

頭を伏せて震える。
そして顔を上げ、少女を見ると小首を傾げた。

「えっと………?」

死刑を告げに来た者は、灰がかった美しい長髪を揺らす少女。
目をぱちぱち。ニコラスの知り合いだろうか。

ニコラス >  
強くなるには自分が努力するしかないの!
人の道具使ったってその人になれるわけじゃねーんだからな!?

(アホじゃねーのかこいつ!
 周りの目なんて気にしないで声を荒げつつ――とは言え周りの迷惑になるほどの大きさではないが――、人差し指で彼女の額をうりうりとつつく。)

いやだまって持ち出したなら立派な泥棒だよ。
ちゃんといつか返せよ、自分の手で。

(帰れるかどうか分からない、とは口には出さない。
 それを口にしてしまえば、自分も二度と戻れないような気がして。)

しかたねーなぁ……なら連絡先――

(を交換しようとしたところで声が聞こえた。
 そちらを見れば見たことの無い人物が居て。
 正面のネコ娘を見るも、彼女も知らないようだ。)

――あの、あんまいじめないでやってくれるか。

(ネコ娘が借りてきたネコ娘になってしまうのはあまりにもかわいそうだ。
 からかうつもりならやめてくれ、とかばうような言葉。)

宵町彼方 >   
「こんなところで会うなんてめずらしーねぇ。
 今日はちょっと庶民な気分なのぉ?
 ほらぁ、普段は良いの飲んでるじゃなぁぃ。
 この店人気だけどぉ、ほら、コーヒーショップなのにお洒落で来るとかいう人もいるでしょぉ?
 ちょっと頭緩いなーとか思うけどぉ、まぁ上智と下愚は移らずだっけぇ?
 良い言葉だよねぇ。うんうん。
 で、注文とかちゃんとできたぁ?普段利用しないと大変でしょぉ?お嬢様だしぃ」

近くに座り口を開こうとしたカップル+αに喧嘩を売るような爆弾発言を
目の前の二人に一方的に投げつつ小首を傾げる。
後ろでなんだか視線を向けられているような気もするが気にしない。

「まぁ、ほら、事故は起きるものだしぃ、
 へーきだよぉ。ちゃんと使い方判ってる人はいちいち文句言わないからぁ。
 むしろあんな時代があったなーってほっこりしてるし、変に意識しちゃってる系だけだよぉ。
 何か言うとしたらぁ」

知り合い感を出しながら実に良い笑顔で言いきった。
明らかに一部に喧嘩を売っているがそれを聞き周囲の幾人かはああ、と合点がいったように視線を外すかもしれない。
この島はそういった身分の学生も決して少なくないのだから、注文方法を知らなくとも不思議ではない。
それに妙にお洒落ぶられるというのも常日頃利用している側からいえば気持ちの良い事とも言えないのだから。

ステーシー >  
「うん……それはもう痛いほどわかりました…」
「凄い武器と凄い使い手が揃って初めて強いんだって…」

額をうりうりと突かれるとニャアと小さく悲鳴を上げて。

今まで色んなことがあった。
でも何か思い出そうとすると歯医者の強烈な体験に上書きされている。

「……そうだね」

無理やり笑った。
帰れるかどうかはわからないけれど、帰ったら返さなくちゃ。自分の手で。

「……ジョウチとカグはウツラズ?」

Intが低めのステーシーには言葉の意味が通じなかったが、
なんだか同席した少女が爆弾発言しているのはわかった。

「え、ええと………?」
「あなたはオシャレ人? なのかな?」

オシャレ人は造語です。

「ええと、とりあえず初めましてみたいだから」
「ステーシー・バントライン。こっちはニコラス・アルヴィン。あなたは?」
「……誰も意識してないなら、いいの。私が自意識過剰なだけだし」

苦笑いして手をひらひら振った。

ニコラス >  
ったく。
盗むのは技だけにしとけよ。

(身体を引っ込めて腰を下ろす。
 なくなって困るものを盗むのはいけない。
 盗んでもなくならないものを盗むべきだ。)

――あーなんだアンタか。
そうそう、わざわざ自分でいかねーでも良いのに。
自分で行きたいって駄々こねるから、こっそり後ついてきたらこのザマだよ。
ホントウチのオジョウサマには困ったもんだよHAHAHA。

(そして新たに現れた女性が何を言わんとしているのかティンと来た。
 なので適当に話を合わせておく。)

――頭の出来は環境でかわらねーって事。

(そして首を傾げた彼女にこっそり耳打ち。
 この世界の言葉だが、勉強した甲斐があった。)

宵町彼方 >   
「ほら、馬鹿はオシャレな店に来ても馬鹿なまま的なぁ?」

そろそろ背後の視線が殺意に変わってきているが
彼女にとってはどこ吹く風。
そろそろ遊ぶのに飽きつつすらあった。

「ボクは優秀だからね!多分それだと思うよぉ?
 なんだかんだこの店便利なんだよねぇ……客が多くて勘違いの数も多いのが難点だけどぉ。
 おじょー様なんだからちゃんとお守してあげないとだめだよぉ
 さもないと迷い込んだ先とかで悪い人に絡まれちゃうよぉ?
 ところで、誰のハートを盗んじゃったのかちょっとおねーさんに詳しく聞かせろください」
 
いきなり話題の舵をもぎ取る勢いで話題転換しつつ
ティンと来ていないであろう本人に
小声でお嬢様ってことにしてごめんねぇ?と告げつつタンブラーを傾ける。
口の中に広がるスパイシーなチャイの香り。お手軽にこの味が出せるのは素敵だと思う。
前に注文した時には薬かって言われた気もするけれど。
そのまま尋ねられた名前にたっぷり数秒固まった後真剣に悩み始める。

「あー……ボク?あ、そうそう。カナタカナタ。毎回忘れるんだよねぇ……まいっか」

まるで相手が忘れているかのような言い草だが実際は本人が忘れてたり。
まぁ忘れるものは仕方ないよねと笑顔でぶっちゃけながらカウンターに目を向ける。
少し並んでいた客は減ってきた頃合いか……
今ならあんまり緊張しないかもしれない。

「で、フラペ頼むの?なら今売ってるマンゴーのやつお勧めだよぉ
 甘いの苦手ならやめといた方が良いけどねぇ。ボクはお勧めしちゃう。
 サイズは左から順にちっちゃい奴って覚えてくと良いよぉ」

ステーシー >  
「はぁい……」

小さく舌を出して相手の言葉に首肯した。
教わったものは多く、そのおかげで今までの戦いも生き残れてきた。
一人で生きてわかる、師の偉大さ。

「えっ あっ、はい、オジョウサマですハイ」

そうか、今ニコラスは話を合わせているんだ。
全く知恵が回らなかったことを後悔しつつも、遅すぎる相槌を打った。

「………ふむ」

耳打ちされると耳をぴこぴこと動かした。
こっちの世界に来た時に謎の力が働きこちらの言語を理解したが、まだわかっていない言葉は多かった。

少女の言葉に青くなり、まぁまぁと手をぱたぱた動かして。

「あ、あははー。私もバカだからそれくらいにしてもらいたいなー、なんて……」

長い髪の少女に向けられる敵意は膨れ上がっている。
生活委員会である私がフタバで喧嘩に巻き込まれでもしたら先輩方に迷惑がかかる。
必死に穏便に済ませようと頭を働かせた。打算。

「あっはっはー、お嬢様はやめてよーここではー」

欺瞞! 私は今、なんて薄ら寒い笑顔を浮かべているのだろう。

「悪い人に絡まれても私なら平気だよー」
「ええと……彼方」

彼方。
ある物に隔てられて見えない場所のこと。
遠く離れた何かのこと。
不思議な名前だと思った。

「そうそうフラペー、マンゴー味かぁ、次に頼む時は試してみようかな」
「あんまり大きいものを頼むと飲みきれないし、小さいのがいいね」
「そうそう、彼方。ニコラスと今飲んでたけど、ドリップコーヒー美味しいよ」
「コーヒー豆を配合してるみたいで香り高い!」

彼方と名乗った少女の真意を測りかねる。
彼女の言葉には悪意があるけれど、それが自分に向けられているわけではない。
ただ、話をしたいだけなのだろうか。

ニコラス >  
ステーシーはまだ、返せるあてあるんだろ。

(だったらそう言うことはしちゃいけない。
 返せなくなってしまってからでは遅いのだから。)

――下手くそか。

(小声で突っ込む。
 相槌が遅いのはともかく、もう少し演技が出来ないものか。
 どうやらこのネコ娘はアホの子らしい。)

人のこと下に見て馬鹿にするヤツ多いよなぁ。
そんな事したって自分の格が上がるわけでもねーのに。
――そんな面白ドキドキ学園ラブコメな展開はないからな?

(こちらも近くのカップルには気が付いている。
 と言うか並んでいる時から気が付いていた。
 彼らに向けるのは悪意ではなく、失望と苛立ちが混じったようなもの。
 殺意の向けられる先へ視線をちらりと向ける。
 ほんの僅か、狩りの時に見せる狩人の色を混ぜた視線。)

だから下手くそかっつーの。
絡まれても平気、じゃなくて、絡まれないようにするに越したことはないだろ。
――さっきステーシーが言ったけど、改めてニコラスだ。

(ため息。
 刀とか師匠とか、それなりに腕は立つのだろうけれど、トラブルに巻き込まれないならその方が良い。
 自分が守るとか守らないとかは別にして。)

俺はまだそう言う冷たいやつはいいかなぁ。
コーヒーは確かにうまいわ。

(彼女の言葉に同意し、一口。)

宵町彼方 >   
「うん、良い笑顔?
 え?ないの?ドキ!桃色だらけの学園生活的なぁ?
 ……ふぅん。まぁいっかぁ」

静止の言葉にきょとんと首を傾げるとふにゃりと笑って小さく頷く。
そうして言葉を紡ぎながら初めて背後に視線を向ける。
その瞳にあったのはどこまでも空虚な、実験生物を見つめるような無関心で無感情の冷たい色。

「だそーだよぉ?この子がやさしー子でよかったねぇ」
 
あくまで口調はのんびりとしたものだけれど、仮に目を合わせたなら
存在を否定するような色を含んだ冷たい昏い暗い瞳を覗き込むことになる。
それと目を合わせたカップルは感情を誤魔化すかのように悪態をつきながら席を離れていった。
……まぁ喧嘩にはならない。一方的な蹂躙なら起きるかもしれないけれど。

「んぁー……
 やっぱりああいう馬鹿に馬鹿って自覚させるのは楽しいよぉ
 それと驚きの大根役者っぷりが初々しさを演出してるよねぇ」

それに興味を失ったかのように早々に視線を戻すとゆったりとした口調で二コリとほほ笑む。
表面だけ見れば実にのんびりとして柔らかい雰囲気でも吐き出される言葉は結構辛辣だった。
そもそも正義感や倫理観で声をかけたわけでもなく、
目の前の彼女をからかうよりそっちの方が面白そうという理由だったのだから
面白味が消えてしまえば微塵も興味はなくなってしまって……既に顔も覚えていない。
最も彼女に興味を持たれない方が幸せかもしれないけれど。

「んぁー…?よろしくぅ?面白そうだから声かけてみたのー。
 このお店のコーヒーもだけどボクはチャイが好きだよぉ。
 喉痛いときとか本当ほっとするもんー」

そのままフレンドリーな口調で会話を続ける。
若干フリーダム過ぎる印象は与えるかもしれない。

ステーシー >  
「……うん」
「こっちで何回か死に掛けたけど、その時は必死で…後からししょーの顔を思い出すんだよね」

コーヒーの黒い液面に映った自分の顔。
少し情けない。

「いや、だって……ええ?」

困惑しきり。嘘はつけないし頭は悪い。

「あー……私、恋愛方面は全然で…男子の顔より怪異のほうをよく見てるカンジ」

にへへと笑う。
これが話の流れに沿っているかどうかすらわからない。
ただ、人と話す機会があるのであれば、それは話すべき時間だということを多くの別れから学んだ。

「えー、でもこの島って地味に治安悪いし……」
「不良多くない? うちの、怪異対策室三課の室長も元ヤンだし」

彼方が背後にいた人物にどんな視線を向けたのか、何となく察した。

「あわわわわ……」

カウンターでテンパっていたのとは別の意味で泣きたくなる。
桜をたくさん見て潤っていた心をもう思い出せない。

「か、彼方。彼方さん。あんまり人をコケにしてはいけません。めっ」
「……大根役者かー、演劇部にも憧れていたけど」

そもそも常世で演劇の名を出すとあまりにも印象が悪い。
悪の演劇集団フェニーチェのせいだ。

「チャイかー、飲んだことないなぁ」
「私は結構、色んな飲み物を試してみるほうだけど」
「今、生協の沖縄フェアで売ってるシークワーサードリンク試した?」
「すっごい不思議な味がするよ、不味いとか美味しいとかじゃなくて不思議ー」

ニコラス >  
死に掛けるって……いやまぁ俺も人の事は言えないけど。

(心配そうな顔。
 が、自分も元の世界で何回か死んだと思ったことを思い出して苦い顔。)

そんな学園生活があったら送ってみたいわ。
――じゃなくて、そもそもまだ会ったばっかりだっつーの。

(ドキッ!ハーレムラブコメ学園生活~ラッキースケベもあるよ~には興味があります。
 だって男の子だもの。
 それは置いといて、特に心を奪われる要素も無いし、奪う要素も無かったはずだ。
 半目で白衣の彼女を見る。)

怪異対策……えっと、風紀委員みたいなもん?
――とにかく、治安悪いなら尚更だ。

(聞きなれない単語があったが、ともかく。
 自分がなんにでも首を突っ込むと言う事は棚の上にブン投げておいた。)

――。

(こちらから白衣の彼女の表情は見えない。
 が、空気は伝わった。
 猟師としての経験、旅人としての勘。
 深く関わらない方がいい類の人種のような気がする。)

俺は、なんだっけ、コーラ?
アレ好きだな。
不思議な感じの食感――いや食い物じゃねーから違うか。
とにかくあのシュワシュワした感じ。

(しかし、敵意は感じられないし、話も通じる。
 ならば邪険にする要素はどこにも無い。
 根っからのお人好しだから、会話を普通に続けていく。)

宵町彼方 >   
「あははー。死にかけとは穏やかじゃないねぇ?
 気を付けないとだよぉ?へーきだと思ってても案外簡単に死んじゃうんだからぁ」

にこにこと笑みを浮かべながら首を傾げた。
この島では毎日誰かが”モノ”に成っている。数時間前まで
自分がそんなものになるとは思ってもいなかった……そんな人物も含めて。
最もだからなんだと言われたら笑顔でどうでもいいと言ってのけるが。

「え?興味ある系?これは隅におけません。
 すーちゃん?も、きをつけないとーだよ?
 自分縁がありませんから!とか言ってる人も堕ちるの一瞬だったしぃ……
 さもないと狼さんにもぐもぐされちゃうよ?美味しくいただかれちゃうよぉ?」

その言葉をどう受け取るかは本人たち次第だが
聞きようによっては随分物騒な言葉を吐きつつ柔らかな笑みを浮かべる。
とはいえ目の前の二人に特に何かしようというつもりはなく……そもそも今は“優等生”のお時間。
変に騒ぎを起こすメリットもないし、美味しいものは手の中で
地味に機嫌は良い方だったりもする。

「あー……特定怪異に対抗する学生を主とした武装組織だっけぇ……
 治安維持とかも一緒にしてると色々言われたりしそうだけどぉ、
 ……そうでもないのかなぁ?」

その割には目の前の片方は擦れてない気がする。
まぁそういう人もいるだろう。

「んー、その気持ちはわかるかもぉ
 初めての食べ物とかわくわくするよねぇ」

だからこそ終始穏やかな雰囲気のまま、会話を進めていく

ステーシー >  
「怪異対策室三課は怪異と戦うのも仕事の一つだからー」
「……突然、A級怪異災害が現れて戦うこともある。あった!」

友達から借りた恋愛をテーマにした漫画を思い出す。

「……確か、すっごい気難しいイケメンの男子生徒に惚れられて」
「それを断ったら ハッ! 面白ぇー女! って言われてますます気に入られちゃうんだよね」

それが彼女の持つ学園ラブの知識の全てだった。

「彼のことが好きな女生徒たちから睨まれてー、怖い怖い」

指を軽く振ってニコラスに説明する。

「そ、怪異対策室三課。悪い生徒じゃなくて怪異と戦う風紀みたいなもの」
「とはいっても来年には解散しちゃうだろうけど」
「創始者の先輩が卒業だしね」

コーラの話になると目を輝かせた。

「コーラ! いいよねー、シュワシュワしてて冷たくてー」
「私の世界だとああいうのはお酒だって相場が決まってたから不思議ー」

彼方の言葉に難しそうに頷いて。

「うん、気をつける。それに人は簡単に死ぬから、守らなきゃいけないんだ」

真っ直ぐな視線はすぐに外れる。
恋愛関係の話を突っ込まれると弱い。

「狼さんは怖いけれど……私みたいな色気のない剣客猫耳女を狙う人なんて…」

ふと自分の胸を触る。
何とも言葉に詰まる普乳だった。

「ん、上は色々言われてるみたい。だからもう活動は来年でおしまい」
「面倒くさいし、貴種龍を巡る戦いは終わったし、変に継続させても後腐れがね」
「……風紀がやるべきことを、取っちゃまずいもんね」

笑顔で会話を続ける。
笑う角にはフラクタル。

「あ、そうだ。二人ともメルアド交換しよ?」
「私のアドレスはねー……nyannyan-nekoneko@…」

スマホを気難しい顔をしながら睨みながらアドレスを教える。
まだ携帯デバイスの扱いに慣れてない。

ニコラス >  
ほーん。
――って無くなるのか。
じゃあステーシーはどうするんだ?

(となると彼女は所属先がなくなると言う事になる。
 一般生徒に戻るのか、風紀委員に転属と言う形になるのか。)

……それは俺が興味あるやつとは違うな……。

(どちらかと言えばそれは女の子の方が好きそうなヤツじゃないのか。
 と言うか男が男と恋愛しても面白くない。
 少なくとも自分は面白くない。)

まぁ俺も男の子ですからね。
興味ないっつったら嘘になりますよ?
なりますけど送り狼なんてしませんよ。
ニコラスさんはこれでも教会育ちだからな。

(そりゃ人並みには興味ある。
 興味あるけど、こちらからガツガツ行くのはなんか違う気がする。
 そもそも子供の頃からありがたいお言葉を頂戴して育ってきたのだ、送り狼なんてしようとも思わない。)

――まぁ、世の中には小さい方が良いという方もいらっしゃいますし?

(なまあたたかい目。
 頑張れ、貧乳はステータスと昔の人も言っていた。)

コーヒーもうまいけどな。
――お、良いぜ。
まてまて、えーっと……。

(スマホを取り出してぽちぽちとアドレスを打っていく。
 こちらはいい加減慣れてきた。
 スムーズにアドレスと名前を登録してメールを送っておいた。)

人って簡単に死ぬからな。
気を付けろよ、二人とも。

宵町彼方 >   
「卒業するとなくなるの?へーんなのぉ。
 そいうのってどういう仕組みなのかいつも不思議ぃ」

この島はなんだかんだ表裏どちらでも治安維持集団が乱立している。
その内の幾つかは……結構過激だったりもして
島内では賛否両論で、彼女もまたそんな組織の一つに所属しているのだろう。

「んー……そいう話は実はボクも詳しくないんだよねぇ。
 すきーとか嫌いーとか恋とか……あんまりよくわからないんだよねぇ
 あ、でもほら、好きなタイプの話とかはがっこでもするよぉ?
 ならニコ君はこう大人なおねーさん先輩とかそんな感じかぁ成程ぉ」

いつの間にか好みを決められて納得までされるとは実に迷惑な話かもしれない。
実際の好みがどうかはこの際置いといて。

「でもあれだよぉ?耳があるってだけでこう高ぶっちゃう人もいるしぃ
 結構かみ合ってる的な?需要はどうあるかわかんないよぉ?
 むしろその方が良いって人も多そうだし……うん」

まぁ本人が良いなら好きに楽しめばいいと思っている。特には言わないが。
別に不順異性交遊が云々などという倫理観は彼女の頭の中にはないわけで……
それどころかそういう意味ではかなり奔放な思考の持ち主でもある。
そんな感覚は当の昔に消し飛んでいるのだから。いや、元々なかったかもしれない。

「アドレス、アドレスぅ……スマホ沢山あるんだよねぇ……」

普通に探すだけでも6台ある。
最近少しあってアドレス帳を更新した。
一応公で使用できないものも所持している為、聞きながらメモを取っていく。
最も……表面上メモを取っているだけでアドレス等は丸暗記してしまうのだけれど。
しかしアドレスを聞くとぴたりとその指が止まる。

「……先に聞くけどぉ
 そのアドレス人に設定してもらったでしょぉ?」

ステーシー >  
「生活委員会一本になると思う」
「風紀委員になることも考えたけど、そうなると人を斬る可能性があるから」
「人のインフラを守り、異邦人を保護する…それが私の戦いよ」

そうだ、斬ることだけが戦いじゃない。
それを分かった今なら、素直に師匠に謝れる気がする。

身振り手振りで解説しながら、ニコラスの言葉に首を傾げる。

「ニコラス、教会育ちなの? へー、だから私のことも助けたとか?」
「そうじゃないか……なんか、ニコラスは人が良さそうだから」

ぎゃーと両手を上げて抗弁。

「小さくないよ! 普通だよッ!!」

そこは退けぬ一線であった。

「ん、お互い死なないようにしよう。そうすればまたコーヒーが飲めるよ」

ステーシーの細い指先がテーブルに触れる。
そして何かをなぞるように動いて。

「川添孝一って先輩がいて、その先輩が全部面倒な手続きしてたから」
「その先輩がいなくなったら、もう誰も続けないよ」
「……私達ができること、結構やり終わったしね」

今の自分は間違いなく、この島を取り巻く長い後日談の中にいて。
こうして平和な日々を甘受している。

「そうなんだー、彼方もわからないんじゃ私にはちょっと難しいよ」
「えっ、猫耳ってひょっとして興奮する人いるのかな……!?」
「それはそれでちょっと怖い!」

スマホをたくさん持っている、という言葉に目を丸くした。
あんなに維持費がかかるものを複数持っているのか。なんかすごい。

「えっ、なんでわかったの!?」
「川添孝一に設定してもらったのをそのまま使っているけど……」
「あ、よく考えるとこのアドレスかなり恥ずかし………!」

頭を抱えてしばらく唸って。

「さて、それじゃ私はこれで」

最後にコーヒーを飲み干して。

「二人とも、楽しかったよ、またね」

そう言って立ち去っていった。

ご案内:「双葉コーヒー常世島学生街店」からステーシーさんが去りました。<補足:猫耳剣客。(乱入歓迎)>
ニコラス >  
そっか。
なら、がんばれ。

(人を傷つける戦いではなく、人を守る戦い。
 それは共感できる信条だ。
 だから素直に応援できる。)

正しくは孤児院育ちだけどな。
――困ってるヤツを助けるのに育ちとか関係ないだろ?
わかったわかった、普通な、普通。

(何を言っているんだと言う顔で聞き返す。
 困っている人を助けるのに理由は要らない、と言うのが自身の考えだ。
 騒ぐ彼女を宥めるようにどうどうと手を振って。)

おっとニコラスさんは大人のお姉さんも好きですが年下の女の子も好きですよ。
慕ってくれる後輩タイプとか活動的な妹タイプとかがド真ん中です。

(好みのタイプに関しては譲れないところがある。
 無駄に真面目な顔でろくろをまわす。)

なんだ、ケモミミとかケモナーとかなんとかって聞いた事はあるな。
てかうん、このアドレスはどうかと俺も思う。
――つーか多いなオイ!

(改めて酷いアドレスを見ながら同意。
 ちなみにこの知識は自身のものではなく、クラスメイトが話しているのを聞いた事があるだけだ。
 そして何故六台もスマホを持っているのか。
 なんかもう危険な匂いがぷんぷんする。
 でもアドレスは教える。)

おう、気を付けてな。
――俺もそろそろ帰るわ。
課題やっつけちまわねーと。

(そう言ってコーヒーを飲み干す。
 席を立って、去り際に一言。)

彼方も、気を付けて帰れよ。

(右手を上げて店を後に――)

ご案内:「双葉コーヒー常世島学生街店」からニコラスさんが去りました。<補足:白いシャツ、長袖のジャケット、チノパン、革のブーツ。ブラウンのモッズコート>
宵町彼方 > 「……ふぅん」

守りたいと思う気持ちは正直言ってあまりよくわからない。
しかし秩序とは程遠い世界に棲んでいる者もいて……
それを抑える組織に所属するというのならいつか道が交錯する事もあるかもしれない。
その時はきっと……敵同士だろうけれど。

「育ちは関係ない……うんうん良い事言うねぇ。
 好みに関してはメモしておくねぇ?」

良い笑顔でサムズアップなんかしてみたり。
世の中の殿方の好みが多種多様というのは今に始まった事ではない。
アドレスを記録しつつ、その横に女好きと誤解を招く表現を書き加えて……

「んー。じゃねぇ。
 変な人に絡まれないよう気を付けるんだよぉ
 近頃物騒だからぁ」

二人に向かって手を振り見送ると、自分もよいしょと席を立つ
まぁ、多分大丈夫だろう。事実かなり危ないヒトに絡まれていたわけで。
本人たちが気が付いているかは知らないけれど。

「まぁ、どぉでもいいかぁ」

わざわざ知らせる義理もない。
ああそういえば……

「ボク、覚えてられないって伝えるの忘れてた」

けれどそれは些細な事。
きっと、その時も顔なんて区別はつかない。
だから、きっと気にもならない。

飲み切ったタンブラーを空中に投げるとそれは虚空へと消えていく。
そうして白衣の裾をはためかせると、小さな怪物もまた店を後にしていった。

ご案内:「双葉コーヒー常世島学生街店」から宵町彼方さんが去りました。<補足:白衣、長髪に半分隠された顔、だるっだるのパーカー、眼鏡>