2017/05/08 - 22:13~03:16 のログ
ご案内:「職員室」にヨキさんが現れました。<補足:27歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた細身の袖なし白ローブ、黒ボトム、黒革オープントゥのハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
ヨキ > 連休明け、午前中の職員室。
自席で事務仕事に励むヨキは、朝っぱらからこざっぱりとした顔で、質のいいシャンプーのいい香りをほんのりと漂わせていた。
ひと月の半分ほどは、こうして朝風呂から直行してきたらしい爽やかさが見て取れる。
理由はほとんどの場合、女の部屋から出勤してきたか、明け方まで悪の粛清に励んだか、あるいはその両方だ。
若者に人気があるバンドの、配信されたばかりの新曲を口ずさみながら、メールのチェックや書類の整理を進める。
ヨキ > 「……よし。返信は以上、と」
仕事のメール送信を終えて、机の周りを見分する。
備品が隅々まで整理され分類され、小奇麗にまとまっているのが“ヨキらしさ”だ。
「弁当は届けたし、図書館の本も返したし……」
とりあえず一段落。
大きく伸びをして椅子から立ち上がり、職員室の隅で楚々とストレッチ。
何しろ縦にも横にも幅を取るものだから、身体をほぐすときには隅へ移るのが習慣付いていた。
良くも悪くも目立つ教師だ。
ヨキ > 正義の教師たるもの、柔軟体操と筋力トレーニングとスキンケアには余念がない。
意識の高いライフスタイル雑誌がそのまま表れたような暮らしぶりは元からで、
人間となった今でもそのスケジュールは変わらない。
一通り身体を伸ばして上体を引き起こし、息を吐く。
雑務からストレッチを終えて、それからお茶汲み。
流れるような毎朝のルーチンワークだ。
室内を見渡して、ひいふうみい、と茶を淹れる人数を数える。
ご案内:「職員室」に宵町 彼岸さんが現れました。<補足:130程度の身長、翡翠の瞳、白衣、長髪に半分隠された顔、桔梗の髪留め、クールビズのカッターシャツ、チェックのハイウェストスカート、細いカフスチェーン>
ヨキ > このところめっきり蒸し暑い。
ガラスのコップに氷を落とせば、見た目ばかりは涼やかに映ろう。
方々の机で仕事に勤しむ教師に麦茶を配って回り、ついでに午前中の巡回を終えた風紀委員にも一杯。
お茶汲みは、仕事というよりヨキ個人の趣味のようなものだ。
自ら水分を補給し、配るついでに会話もできる。
宵町 彼岸 > 「……よいしょ」
目を離した隙に教師のデスクに腰かける影が一つ。
それはまるで自分の机であるかのように堂々と、机の上に花の御弾きを
良くわからない法則で並べていた。
見る人によっては散らかしているようにも見えたかもしれない。
「……んしょ」
数学が得意なものがみればその分類に法則性を見出すだろう。
とはいえ、法則性があろうとなかろうと机の上に私物を広げて
遊んでいるというのは間違いではない。
本来なら注意対象ではあるけれど、
物腰や人当たりは柔らかいものの何処か浮世離れした生徒にも拘らず
珍しく懐いているという理由で最近は見咎められることも無くなってきた。
「……できたぁ」
本人的には邪魔していないつもりなので、分類がひと段落付いたところでちょこんと姿勢よく椅子に腰かけ、
机の主が一回りして帰ってくるまでのんびりと待っている。
こうしているからと言って特に重要な用事があるわけでもなく……
彼女からすれば何だかちょっと気が向いたので来た程度の理由。
最近何度かそういう事があった為、嗚呼また遊びにきたのかと
他教員も特には気にしないかもしれない。
ヨキ > 馴染みの女性教師との談笑を終え、空になった盆を手に戻ってくる。
不意に自分の席へ目をやると、知った学生の姿が目に入った。
「……おや」
新しいコップに氷と麦茶を注ぐ。
私物の湯呑にも注ぎ直して、彼岸の後ろから歩み寄る。
「こんにちは、カナタくん。遊びに来てくれたのかね。
これ、君の分の麦茶」
二人分のコップと湯呑を、机上にそれぞれ並べる。
授業のために席を外している教師の椅子を引っ張ってきて、並べられたおはじきに目をやった。
「何だい、それ。メッセージか何か?」
宵町 彼岸 >
「んぁ?メッセージ?
……うーん。数式って綺麗ですよね的なぁ?
第二の黄金律っていわれてるらしーですぅ。きれーですよねぇ」
ちらっと眼を上げ、投げかけられた言葉に微かに微笑むもそのまま視線を落とす。
行動こそ控えめな生徒だがその所業から量子力学理論を想起するのはきっと余程の数学マニアだろう。
……最も元々彼女自身が淡々と何かで遊んで何かを満足して帰っていくという謎の生徒で
到底理解できない事を唐突に始める為これに限らず理解はされない事が多い。
教師間には最近はお気に入りがいる様なのでむしろああ良い担当(犠牲者)が出来たという風な空気がないでもない。
「あれ、せんせ、しゃんぷ、変えたですぅ?
また違う、香りする……?」
ふと鼻をくすぐる香りにふと小首を傾げる。
甘い香りを漂わせているのはいつもの事という話は聞いた事がある。
理由を尋ねたら何だか言葉を濁されたけれど……
なんだかんだこのヒトは評価が分かれているのだなぁと最近
色々な人の意見を聞いて少しだけ認識しつつあった。
ヨキ > 「数式か。はは、数学は最低限のことしかやっていないから、難しいことは何も」
借り物の椅子に座ると、お手上げとばかりに笑って、湯呑の麦茶を飲む。
湯呑を取った拍子に癖のある髪が揺れて、仄かな香りがする。
冬のシャンプーは甘さのある花の香だったが、このところぐっと爽やかな風合いになった。
「ん、シャンプー?ああ、季節によって変えることにしてるんだ。
このところ、急に蒸し暑くなったろう。
服だけではなくて、シャンプーも香水も、いろいろ変えて遊ぶのが好きなのさ。
嗅ぎ分けられるようになったか。君も随分とヨキに懐いてくれたな」
親しげな顔で笑う。
「ほれ、曲がりなりにも人前に立つ仕事をしているだろう?
身なりはきちんとしておきたいからね。
君は自分でお洒落をするより、他の綺麗なものを眺めている方が好きそうだな。
それこそ数式だとか、絵だとか」
宵町 彼岸 >
「これは、趣味、ですからぁ」
一見してこれを理解しろというのは難しいと思う。
とは言え理論以外でも感覚で捉えられるものもある。いくつかの御弾きを手に取り再び机に広げていく。
そこに出来上がっていくのは美術家ならなじみ深いほうの黄金律。
くるくると内へと巻き込んでいく線は見ていて美しい。
「そぃうの、好き、です」
意識していなくともすれ違う時や近くにいる時意外と気になるもの。
身なりや香りに気を使うというのは個人的にはとても好ましいと思うのだけれど
何故かそれを軽い性格の表れと受けとる人が多く、正直あまり理解できない。
綺麗だったり心地よかったりするに越した事は無いと思うのだけれど。
……同じ香りを他の誰かが漂わせているところを想像は出来ないあたり
彼女は無自覚ながら贔屓目はあるかもしれない。
「懐く……懐く?よくわかんない、です。
皆、何だか気に入ってるね。とか、そいう事、言うです、けど……」
所在なさげに揺れる細い指が御弾きを一つはじく。
それは隣の御弾きにぶつかり、綺麗な曲線を少しだけ乱して止まった。
「……ボク、お洒落とか、わかんない、ですし
服、どれ着ればいいとか……どれが似合うとか……わかんない、ですから
それより、きれーなもの、いっぱいが嬉しい、です」
ぽつりぽつりと小さく零すように呟く。
彼女にとって、綺麗なものはどこまで行っても自身とは相いれないもので
だからこそ少しでもその近くに居たいのかもしれない。
「せんせ、は、そいうの上手、ってみんな言ぅ……ですから
ちょっとだけ、羨ましいです
せんせは、集めるより、作るの、が、好きですぅ?」
そう言って初めて顔を上げ、少しだけ首を傾げながらお気に入りのヒトの顔を眺めた。
ヨキ > いい趣味だ、と微笑んで感心する顔に、困惑や排斥といったマイナスの感情はない。
おはじきを並べ直す彼岸の指先を眺めながら、相手の言葉に耳を傾ける。
「へえ、カナタ君が、ヨキのことを気に入ってるって?
皆からそう見えるくらい近付いてくれるようになったのなら、ヨキは嬉しいな。
教え子に好かれて、悪い気がする教師は居ないよ」
見るからに機嫌を良くして、にこにこと目を細める。目尻に薄らと笑い皺が寄った。
「無理をして高価な服など着なくとも、清潔にしていれば見る人も心地がいいものだよ。
自分の身体に合った、着心地のいい服を選んで、少しずつお手入れをする。
それだけで十分、お洒落の入口になるとも」
自らの顔を見る彼岸と目が合う。
ヨキの紺碧の虹彩には、細やかな金砂を散らしたような色が交じっていた。
目鼻立ちと相俟って、日本人離れした異邦人らしい造形をしている。
「集めるのも、作るのも好きだよ。
自分で自分を綺麗に整えるのも好きだし、何より自分が暮らす空間は居心地のよい方がいい。
より良いやり方を知っている人が居れば、迷いなくその方法を取り入れる。
だからと言って、君や周りの人たちに強制するつもりもないんだ。
それで相手の居心地が悪くなったら、本末転倒だからね」
穏やかな眼差しで、相手の目を見る。
「カナタ君はもしかして……伸び伸びと生きることさえ、遠慮してはいないかね?」
宵町 彼岸 >
「ボク、はあんまり良い生徒、じゃない、ですから
あんまり良い事じゃない、かもですよぅ」
小声でつぶやきながら余った御弾きをくるくると指先で転がして……
嬉しそうに細められた目を数秒じっと見つめるとなんだか目をそらしてしまう。
このヒトに見つめられたいというヒトが居る。この人に見つめられたくないというヒトもいる。
自分はそのどちらなのだろう。
「自分でも、ちょっとわかんないこと、多いです」
一応冷静に自覚はしている。どれほど出来る限り"予想通り"を装っても
経歴からしてあまり触れたくないうえに
成績面から見ても、心理面から見ても面倒でカワイソウな生徒。
はっきり言って異端過ぎ、面倒過ぎる。
そう思っている講師が多い事は重々理解しているし、それを利用もしている。
だから、別にそれ自体はどうでもいい。今まで気にした事もなかったから。
「それに感けてると、面倒事、押し付けられる、かもですよぉ?
そうでなくても、特別クラスに編入っていうお話、出てますしぃ」
……今までそんなこと、どうでもよかったのに。
周りの誰がどうなろうと、気にしなかったのに。
何処かで戸惑ってしまう。
何故、私はそんな事を気にしてしまっているのだろう。
「居心地の良い……場所
そいうの、増えると良い、ですね
綺麗に作り替えていく、凄いと思うです」
このヒト相手だと、そんな場所が増えてほしいと純粋に願える。
このヒトはこの世界を愛しているのだから、世界から愛されるべきだ。
そんな優しい世界がこのヒトにはよく似合う。
そこに……
「ボク、のびのびとしてる、ですよぉ?
基本自由、ですしぃ。研究室は楽しい、ですしぃ」
自分の居場所はない。
偽装は必要なもの。今の穏やかな生活で居続けるために必要な事。
だからこそ、この内容も分からない叫びは押し留めるべきで……
「わからない、です。遠慮とか、そいうの。
できること、やらなきゃいけない事……そいう事しか、なかったから」
他の方法も、選択肢も知らないから。
語尾に少しだけ混ざる本音。
わかっていても、染みついた色はもう剥がれてくれない。
「生きてるって良く、分からないです。
やりたいこと、もう、分からないです。
思い出せない、ようになっちゃいました、から」
……何処かでそれを大事にしたいと思っていると
それなりに幸せだと思っているのかもしれない。
どこか光の消えた瞳で虚空を見つめ……
「……どでもいいです、ね。
ボク、の事よりも、もっと他のこと知りたいです。
きれーなものと、か、大事なものの事、とか」
ふといつもの表情に戻る。
悩める生徒。変わり者であることに孤独を感じる女学生。
そのどちらとしてもさぞかし上手に振舞えていたに違いない。
その顔に浮かぶのは穏やかで……僅かに仮面のような笑み。
ヨキ > 「面倒事って?」
どうと言うことはない、と首を傾げる。
「それを言うなら、この学園には“面倒なこと”しかないぞ。
島内は毎日が賑やかだし、島外からの風当たりは強い。
ヨキの能力でも不可能なことなら断るが、こなせることを面倒だとは思わんな」
ふっと軽い調子で笑う。
残りの麦茶を飲み干して、彼岸の目をじっと見つめる。
「簡単なことだ。
分からなくなって、思い出せなくなったのなら、そのまま忘れ去ってしまえばいい。
簡単ではないことを無理に思い出そうとするから、余計に分からなくなる。
イチから学んで、やり方を覚え直せばいい。それだけのことだ。
君にとって、この学園で生き方を学び直すことが“面倒事”でなければの話だが?」
背凭れに上体を預け、膝の上で骨張った十指を緩く組み合わせる。
相手の表情の変化を見ながら、落ち着いた声が続く。
「残念ながら、分からないことを分からないままにしておく者に、ヨキから教えられることはないな。
学びたい、生きたいという意欲がある者に教えたいことならば、山ほどあるけれど」
宵町 彼岸 >
「……それもそーですね
この島……そー言う所でしたね」
一瞬きょとんとした後、初めてけらけらと声を響かせる。
ヒトは往々にして自分の問題こそが重要で重大と捉えてしまいがち。
それは間違いではないけれど……真実ではない。
それだけの話。
そう。それだけの話。
「ちょっと幼過ぎる御話しちゃったです。
あはは、研究者の名が泣きますよぉ
そんなこと元々気にするタイプじゃないですしぃ
なーにいってるんだろぉ」
穏やかにいつもの調子に戻る。
そう。いつの間にか忘れていた。
大事な事を忘れていた。狂人にも狂人の矜持がある。
そもそも理論的に動く必要なんてなかったのだから
理由づけなんて、必要ない。
矛盾している。そんなこと、もうずっと前から知っている。
「……でも、めんどーごとぉ色々あるですよぉ?」
何処か艶やかな笑みを浮かべながらくるりと椅子を回して立ち上がり
目の前のヒトを見つめるとその首元にゆっくりと手を伸ばす。
この人はとても大きな体をしているから、私は手をしっかり伸ばさないといけない。
「"私"は面倒な生徒なんですから」
避けられなければそのまま腕を回し、
どちらにせよ悪戯な口調でカレだけに聞こえるように囁く。
白昼の職員室ではあるものの……そんな事は彼女には特に気にする必要もない。
ヨキ > やれやれと、指先で頭を掻く。
「君には、いろいろと学ぶ時間が必要なようだな。
その頑なさ、それこそ研究者の名が泣いてしまう」
椅子の肘掛けに両腕を載せて、くすくすと笑う。
そうして己の正面に立ち、腕を伸ばす彼岸の様子を眺める。
面倒な生徒という自称に、小さく息を吐いた。
「面倒ねえ。
――それは、『私を特別扱いしてほしい』というアプローチの裏返しかな?」
声は変わらず笑っている。
首元に回される腕を受け入れ、片手で抱き止めた背中をぽんぽんと軽く叩く。
教え子と抱き合うのは、このヨキという教師にとっては珍しい光景でもない。
壁の時計を見上げると、するりと彼岸の腕を解いた。
「さて、そろそろ実習の時間だ。
ヨキの時間は、すべての教え子らに等しくくれてやらねばならんでな」
立ち上がると、すっかり彼岸を見下ろす格好になった。
「ヨキのことを好いてくれて、どうも有難う。
このヨキを夢中にさせるくらい、いい女に成長することを期待してるよ」
空にした湯呑と、授業に持ってゆく道具の一式を小脇に抱える。
机上に並べられたおはじきは、乱されることもなくそのままに。
軽やかに笑って、職員室を後にする。
ご案内:「職員室」からヨキさんが去りました。<補足:27歳/191cm/黒髪、金砂の散る深い碧眼、黒スクエアフレームの伊達眼鏡、目尻に紅、手足に黒ネイル/拘束衣めいた細身の袖なし白ローブ、黒ボトム、黒革オープントゥのハイヒールサンダル、右手人差し指に魔力触媒の金属製リング>
宵町 彼岸 >
「研究者って意外とロマンチストなんですよぉ?
あ、でもその響き素敵……
特別扱い……ふふぅ、何だかちょっと良い響き」
数分前の彼女と同一人物と言われると少しためらう者もいるだろう。
それ程、その表情は穏やかかつ晴れやかで……
そこに邪気は感じられないかもしれない。
それもそうかもしれない。元より倫理観などという感覚は彼女の中に無いのだから。
「はぁぃ。行ってらっしゃいですよぉ。
またちゃあんと遊びに来るねぇ」
伸ばした手を軽く受け流し、去っていく背中にのんびりと声を投げかけると
手の中の御弾きをくるくると転がし……
「……くふ」
まるで純真な乙女が指輪を貰いでもしたかのような表情としぐさで
胸の前で両手でそれを握りしめ、瞳を閉じる。
こうしてしっかりと躱されることが、
手に入らない事が何より嬉しかった。
変わらない事が、嬉しかった。
……少し何処かこの胸が痛いけれど、それでも嬉しかった。
未だにヒトの顔は区別がつかないけれど、それでも
またあの不敵と皆に言われる瞳を覗き込んで居たい。
あの真っすぐな視線の先に例え、自分が居なくても。
「綺麗なままでいてね?
綺麗なものは……汚れないと信じさせてねぇ?
……せーんせ」
本当に小さな声、けれど甘い声でつぶやく。
もう少し、もう少しだけ……遊んでいたいと願う。
いつか追いつかれると判っていても
どうしようもない夢に追い付かれる、その瞬間まで。
彼女が去ったあとの机には
まるで星空のように御弾きが並べられていた。
その中の一つだけ、真っ黒な色をしたものがある。
黒曜石のそれは他に紛れる事も出来ず、まるで孤独を謳うように
けれど同時にその存在を誇るかのように静かにきらめきを返していた。