2017/07/24 - 21:55~02:55 のログ
ご案内:「商店街」に獅南蒼二さんが現れました。<補足:無精髭とやや皺の残った白衣。淡く光る指環。窪んだ目は相変わらず疲労の色を湛え,顔色は相変わらず健康そうには見えない。>
獅南蒼二 > 研究室と演習室と教室と図書館,たまに職員室とロビー。
それ以外の場所には殆ど足を踏み入れない白衣の男が,今日はめずらしく商店街を歩いていた。

「……………。」

しかし,この男はやはり,普段通りの場所から出るべきではないかもしれない。
なぜなら,煙草を吹かしながらあるく白衣姿は,どうみても普通ではないからだ。
彼を知る者ならともかくとして,知らぬ者から見ればえらく奇妙で怪しい男にしか見えない。

獅南蒼二 > 目当てのものは一つだった。それは,愛飲している煙草のストックが切れたこと。
こればかりは校内や学生街で手に入れるわけにはいかない。
本土であれば通販などでどうにかするという手もあるのだろうが,研究室に寝泊まりしている獅南ではそれも難しかった。

「………………。」

買い物を終えた獅南が手ぶらなのは,商品をすでに“転送”したからだ。
手で持って帰ってもよかったが,校内に大量の煙草を持ち運ぶのはあまり体裁が良くない。
警備員にでも呼び止められたら面倒だ。

獅南蒼二 > 「…………ん…?」

研究室へ戻ろうとした獅南は,ある寂れた店の前で足を止めた。
商店街の外れの,決して栄えているとは言えないエリア。
その一角にあるその店は,なるほどこの島では確かに寂れていて当然だろう。

それは,時代遅れのバイク専門店。
公共交通機関が十分に整備されたこの島では,無用の長物を扱う店。

獅南蒼二 > ポケットから取り出した煙草に火をつけて,静かに白い煙を吐く。
魔術学以外には全くと言っていいほど興味を示さない男が,その店の前でしばらく立ち尽くした。

魔術学にしか興味を示さないこの男が,一瞬とはいえ,寄り道をしようかどうか迷った。
やがて獅南は「…馬鹿馬鹿しい。」と小さく呟いて,煙草を携帯灰皿へと入れる。

獅南蒼二 > 白衣の男が,その寂れた店に後ろ髪を引かれていたのは間違いない。
しかし,彼は結局,その店に入ろうとはしなかった。

ただでさえ,新理論による魔力生成術式完成の糸口はつかめていないのだ。
検証しておきたい術式構成や,現象がまだまだ山のように残っている。

それを全て片づけたら,もう一度来てみようか?
……いや,どうせ時間の無駄だろう。

ご案内:「商店街」から獅南蒼二さんが去りました。<補足:無精髭とやや皺の残った白衣。淡く光る指環。窪んだ目は相変わらず疲労の色を湛え,顔色は相変わらず健康そうには見えない。>
ご案内:「商店街」に宵町 彼岸さんが現れました。<補足:白衣、長髪に半分隠された顔、オーバーサイズパーカー、蒼のモノグラス、桔梗の髪留め>
ご案内:「商店街」に獅南蒼二さんが現れました。<補足:無精髭とやや皺の残った白衣。淡く光る指環。窪んだ目は相変わらず疲労の色を湛え,顔色は相変わらず健康そうには見えない。>
宵町 彼岸 >   

この町の商店街を眠らない場所と例えたのは誰だっただろうか。
昼夜を問わず多くの存在が行きかうこの場所はまさに眠らない場所。
学生や主婦、暇を持て余したサラリーマンのような姿が喫茶店にあるかと思えば
弐足歩行でスカーフを巻いたおおきな猫が帽子と長靴の値段交渉を店長に投げかけ
その横を荷台に乗った巨大な金魚鉢の中で半人半魚の姿がガラスにぴったりと腕と顔を押し付け
楽し気に周囲を観察しながら通り過ぎていく。
誰もが平等に経済活動や遊覧を楽しむこの場所はある意味この島の表の顔の象徴ともいえるかもしれない。

その一角に、何やら異様な組み合わせの二人組がいた。
まず目につくのは2m近い痩身の女性。
さながら喪服の様なゴシック調のドレスを身に纏い、日を遮るヴェールの下には
白地に黒で蜘蛛の巣のデザインの施された仮面を身に付けている。
形よく整えられたそのつま先はよく見ると宙に数cm浮いており、
滑るように店の間をゆっくりと進んでいく。

その腕の中には対象的な姿が一つまるで幼子のように抱きしめられていた。
身に付けているのは白衣とオーバーサイズのパーカーのみで、
辛うじて髪留めがされている以外はほとんど何も外見に気を使っていないようにすら見える。
さながら家でダラダラしていた姿のまま連れ出されたかのような姿は
少し教育的にはよろしくない絵面かもしれない。
ぐったりと腕に身を預ける姿は半分眠っているよう。

「……んー。次はどこにいこぉかなぁ」

その唇から小さく言葉が漏れると同時に長身がぴたりと立ち止まる。
言葉を口にした本人は周囲から向けられる好奇や胡乱な雰囲気には一切構う事なく、うっすらと瞳を開いた。

「本屋さんはもう行ったし、お花屋さんも良いなぁ……
 あ、この辺りに面白い乗り物のお店とかあったよねぇ?
 何処だっけ?……忘れちゃった。まぁいいかぁ」

少し熱にうなされたような、けれど甘えたような口調で
自らを抱え上げる姿に問いかけると、ふと視線を周囲に向ける。
何処か…そう、どこかで見たことがあるような誰かがいたような気がしたから。

「……覚えておけないのに気のせいだよね」

そうかぶりを振るとまた長身がゆっくりと滑り出す。
気ままに向かうその先は、彼女が先ほど口にした二輪の自動走行をする機械のお店。

獅南蒼二 > この白衣の男が異様だとしても,それはあくまでも人間基準での話である。
この世界における“異様”の基準はある意味で天井を知らない。
貴女たち2人に好奇の目を向ける者はいても,それは一瞬のことで,皆何事も無かったかのように通り過ぎていくだろう。

「………ん。」

そんな2人の姿に,白衣の男も目を引かれた。
だが彼が注目したのは周囲の人々とは,少しだけ違う部分であり…

「酷い有様だな,病人か?」

…そして,貴女たちに声をかけることに,何の躊躇いも無かった。
そして,奇しくもそこは,貴女が目指していたバイクを扱う店の前。

宵町 彼岸 >   
まるで湖面を滑るかのような動きは
唐突に投げかけられた声に反応してぴたりと止まる。
数秒そのまま静止していたものの
少し遅れてゆっくりと振り向き

「……えと、病気ぃ?多分?
 すぐ直るんだけどぉ……なんだか治したくなーぃ?」

淡々とした口調でこちらに質問を投げかけた人物へと向き直った。
半分答えのような、半分独り言のような口調はどこか浮遊した感覚を与えるかもしれない。
そのままうっすらと開いた瞳で貴方を見つめると……
戸惑っているような何処か訝しげな表情へと変わる。

「えと、知り合い、さんだっけ?
 何だか見たことあるよな、気がする、んだけ、ど……
 ボクのこと知ってる人ぉ?」

普段から人の顔を認識できない以上、知り合いでもそうでなくても判らない筈なのだけれど
何処か、何かを擽るような感覚が胸をざわつかせた。
知っているような、知らないような、そんな感覚。
もしかしたら最近会って忘れてしまった人かもしれない。
少しだけ申し訳なさげな調子で告げた後、少しだけ首を傾げながら
何処か親近感を覚える服を纏った目前の人物を見つめ続けた。

獅南蒼二 > 貴女の答えはまるで幼子のような,間延びした答え。
獅南も苦笑を浮かべる他なかったが,瞳をこちらに向けた貴女の表情が変われば…

「さて,どうだろうな…学校のどこかで会ったかもしれんが…。
 顔を見るだけで思い出せんようでは,見かけた程度かもしれん。
 …私は獅南蒼二だ。名前に聞き覚えはあるかな?」

獅南は自分の名を名乗り,貴女に判断を委ねた。

貴女が白衣を着ている,と,獅南はまだ認識できておらず,その親近感を共有することはできない。
もっとも,それを認識しても彼は特に気にすることも無かっただろう。

宵町 彼岸 >   
「獅南……獅南蒼二……?
 しし、なみ、そ―……」

間延びした口調が一瞬途切れ、僅かにその眼が大きく開かれた。
それと同時に何故記憶を擽られたのかがわかった。
”あの論文の作者”だからだ。
……一般的には読解困難な論文扱いを受けているあれは
彼女にとっては非常に興味ある分野だった。
ある意味自分自身の事なのだから。

「え、あのししなみせんせ?
 わ―本物だぁ。本当にこの島に居たんだぁ
 名前、知ってるですよぉ。あの論文面白かったの」

少しだけ嬉しそうな口調でゆっくりと身を起こし、
支えている腕に腰かけるように座りなおす。
腕以上に長い袖のパーカーのまま自らを抱える姿の首元に手を回す姿は
甘えているような雰囲気すらあるものの視線は貴方から離れず
瞳の奥を探るような、どこか不思議な光を宿していて……

「えと、たしか学園のせんせしてた……ですぅ?
 初めまして?ボクの場合何時でもはじめまして、だけど……
 初めはせんせのクラスに編入予定だったんですけど、事故で有耶無耶になっちゃって
 あえてうれしーですよぅ」
 
ふんわりとした笑みを浮かべながら小さく会釈をする。
転校してまだ間もないとはいえ、一部の教師にはかなり有名になっている為
とりあえずちゃんとしておこうと考えるくらいの分別は残っていたらしい。

獅南蒼二 > 名前を名乗っても,思い当たることなど無いだろうと踏んでいた。
しかし貴女は,その名を聞いて表情を変える。
その反応を見た獅南は,苦笑を浮かべて…

「偽物が居るという話は聞いたことが無いが…。」

そう冗談じみた言葉を返す。
ただ,獅南は数えきれないほどの論文を発表していることもあり,貴女の言う“あの論文”がどれなのかは皆目見当がつかなかった。
だが少なくとも,自分が書いた論文を“面白い”と言う…それは,貴女が魔術学の豊かな知識と才能を有しているという事を示していた。

「事故…?それは不幸だったな。
 クラスはともかくとして,私の論文を楽しめるくらいなら,授業に顔を出してみればいい。
 ……いや,それとも,その様子では学園の授業にはまだ顔を出していないか?
 無配慮なことを言ってしまった,気に障ったなら忘れてくれ。」

貴女の視線を,真っ直ぐに見つめ返す男の瞳には疲労の色が浮かんでいるだろう。
だがそれでも,その瞳は淀んではおらず,何処までも深く,澄んでいる。
それは,この男の在り様を示しているようでもあった。

宵町 彼岸 >   
「あはは、偽物(ドッペル)がいたらたのしそー。
 事故は詳細が全然思い出せないので特に気にしてはいませんよぅ
 まだこの国にきたばっかりで日本語怪しいところありますけどぉ
 もし良かったらじゅこーするです。
 せんせの授業ならおもしろそーですしぃ」

くすくすと楽しげに、けれど奥ゆかしげな雰囲気で肩を揺らしながら眼を細める。
何だかこのヒトを探していた気がする。何故探していたのかは……思い出せない。何だっただろう。
あの論文にはどこか、強い渇望が隠れているように思えた。
確かそれに何かを願ったはずなのだけれど……

「この島はたくさんの事情を持つ生徒がいますから……
 講師もその対応で大変だと思いますぅ。
 夏休みも近いですしぃ、ゆっくりできるといいですねぇ」

何処かマイペースながらも気遣う様な落ち着いた表情を見せた。
顔の区別がつかないと知らなければ、他人を慮るタイプにすら見えるだろう。
何処か見覚えのあるような、分かりやすく見目美しい表情は
ある意味人形よりも人形らしいかもしれない。
一見何処までも澄んでいるようで、けれどその瞳の奥は何処か空虚な様は
ある意味対極にあるような在り方。
……最もそれに気が付くヒトは本当に本当に一握りだけれど。

「せんせ、えっと…バイク?好きだったりしますぅ?
 このお店、何だかおもしろそーですけど、好きな人しか来ないって聞いてたですよぅ」

ふと視界を上げて、頭上の看板を仰ぎ見る。
この島では時代遅れと言われるこの機械は、以前いた学校ではまだ使われていた。
それにこの島でも根強いファンがいることはクラスでの会話でも明白で
まだこちらに来て壱年もたたない彼女でもその事を知っていた。

獅南蒼二 > 「だが,確か…本人が偽物と出会ったら死ぬのだろう?
 あまり楽しい展開だとは思えないな。」

貴女の言葉にそう冗談を返しつつ,事故に関しては小さく頷くにとどめた。
思い出せない事故,違和感のある口調,全体的に不明瞭な記憶,
話を聞いただけの獅南からすれば,全ての原因がその事故なのだろうと,そう結論付けるに至る。

「その時は歓迎しよう…尤も,お前が努力と研鑽を重ねることを厭わなければ,だがな。
 しかし,論文か……どんな内容だったか,覚えているかね?」

とは言え,そんな貴女の境遇も,授業の上では配慮に値しない。
貴女の内心の思案を知らぬ獅南は,夏休みという言葉に肩をすくめる。

「私が君と同じように生徒であれば,両手を上げて喜ぶのだろうがね。
 もっとも君はむしろ,生徒だが生徒らしくもないな……。」

瞳の奥の空虚さを見出したのではなく,獅南は貴女の在り様について論じているだけである。
それこそ貴女の言う“たくさんの事情”の一つの形であるかもしれないが,
……何か,違和感とも言えるような,不可思議な感覚が消えなかった。

「…そうだな,嫌いではないよ。
 君と同じくらいに若かった時は,私もバイクを乗り回していたものでね。」

実際にこの店に来るのは初めてだったし,存在すら知らなかった。
貴女が現れなければ,恐らく,一生足を踏み入れることが無い店になるところだっただろう。

「私としてはむしろ,お前とバイクのつながりの方が見出しづらいと思うのだが…?」

宵町 彼岸 >   
「あはは、でも、ちょっと聞いてみたいなーって思う事がいくつかあるんですもぉん。
 それに似た人が3人はいるとも言いますしぃ」

もしもドッペルゲンガーがいた場合、自分の場合はどうなるのだろう?
死なない存在が二人出会い、どちらかが死ぬなら……
それはそれは”愉快”なことだろう。

「えーっと、魔術式多重積層化における許容要領効率の向上……でしたっけ?
 あれボクも使ってるですよぅ。魔術的崩壊過程からの魔力精製の御話も面白かったですしぃ
 あ、魔術師喰いの論文なんかも興味深かったですぅ」

他に誰かがいたならマニアか!?と突っ込まれたかもしれない。
公開されているものは大体目を通しているようだ。
この島に研究員兼生徒としてくる以上その程度は抑えておくべきという感覚なのだが
そうでなくとも純粋に魔術師、そして異能研究者として興味深い論文には目を通すようにしている。
第一線に立ち続ける以上、たとえ冗長であろうと難解であろうとその程度はアタリマエ。

「努力家とは自分では思わないですけどぉ、
 めんどーくさがりですからいつでもこーりつかを考えてるですよぅ?
 ボクは夏休みくれるならその時間研究させてーって言ってるんですけど
 所長がダメ―っていうんですぅ。
 以前いた学校はともかくこの島に来たからにはがくせ―らしく
 せーしゅんをお―かしろってぇ……
 研究だって青春だと思うんですけどむずかしーですねぇ」

やれやれと首を振りながら店舗に並ぶ一台に目を向けた。

「あ、えっと、あれですあれ。
 ボク、昔あの機械に何度か乗せてもらってたですよぅ。
 その時は名前知らなくって……
 でも何だか楽しかった思い出がある気がするですよぅ」

実際は何一つ思い出せないのだけれど、記録自体は頭の中から消える事は無い。
それが自分自身の物かはもう判断が出来ないけれど、少なくとも自身の中にある
誰かが随分あの機械が好きで、乗り回していたらしい。

「また乗るです?ふふー。似合いそうですねぇ
 折角近くにきたのも縁ですしぃ、また乗り回しても良いと思うですよぅ?」

この記録から目前の彼はもうしばらく長い間乗っていなかったのだろうと思う。
何処か自然な笑みを浮かべながら、再度乗ってみてはどうかと勧めてみる。
この島ではあまり使う事は無いかもしれない。合理的に考えれば馬鹿馬鹿しいともいえる。
けれどなんとなく、馬鹿馬鹿しいと切り捨てる事が勿体なく感じてしまった。
何故かこのヒトからは、どこか見知った、好きな香りがするような気がするから。

獅南蒼二 > 「なるほどな…自分自身を客観的に見るというのは,面白いかもしれん。
 尤も,見たくもないような部分まで見せられるかもしれないが。」

苦笑を浮かべる白衣の男は,自分自身が多くの欠点を内包していると自覚している。
だからこそ,こんな後ろ向きな発言をしたのだろう。
貴女がどのような存在であるかを見出していれば,また違う言葉を語ったはずだ。

「……勤勉,という言葉では表しきれん。見かけによらんものだ。
 あぁ,魔力精製に関しては異世界の術式で完成を見たのだが,再現性が無くてな。
 新たな論理を構築しているところだ……論文になるには,もう数年かかるだろうが,ね。」

獅南は,現在の研究について僅かながら語る。それは,貴女の姿勢に興味を持ったからだった。
自分の論文を読んでいるから,という理由ではなく,単純に学ぶ意欲の高さを買ったのだ。

「………そうだな、所長の言う通り,少しは外に視線を向けた方が良い。
 無論,研究に精を出すのは結構だ。存分に才能を発揮してほしい。
 しかし,そのままではお前の行き着く先は,研究室に寝泊まりするような無精者だ。」

それはまさしく自分自身のことである。獅南は貴女の中に自分との共通点を見出し,警告する。
もっとも強く止めるつもりが無いのは,獅南自身が自己の在り様に一片の後悔も無いからだった。

「乗ったことがあるのか…あれと同型だとしたら,良いバイクだな。」

獅南は,貴女の語る記録を貴女の記憶として理解することしかできなかった。
再び乗るように勧められれば,肩をすくめて苦笑を浮かべ…

「…荒野にでも出なければ,思い切り走らせることはできなそうだな。
 むしろ,君の方こそ,また乗ってみたいとは思わないのか?」

…少しだけ,その気になったようだった。

宵町 彼岸 >   
「新しい理論……ふふーたのしみですよぅ。
 日進月歩ですもんねぇ、この分野ぁ
 最先端の御話はいつでもウェルカムなのです」

ある意味外交的なのだけれど、いまいち普通の外交的との違いが良くわからない。
それに寝泊まりに関していうなら、若干もはや手遅れ感すらあった。

「ん―……どでしょ。
 誰かが運転するなら、ありかもですー?」

多分平気で乗り回しそうだけれど、それでも誰かの運転しているものに
乗せて貰う方が多分好きな行為に該当するのだろう。
だからこそ……

「また上手に乗れるようになったら乗せてほしーですよぅ」

笑顔でさらりと無自覚にこういうことを言う辺りが
友人間からの彼女への評価になるのかもしれない。

獅南蒼二 > 「この世界の自然現象を魔力へと変換する…のだが,今のところ,どの現象もうまく適合しないのでな。
 少々難航しているよ…まぁ,面白い発見があったら教えよう。」

貴女の言葉を聞いて,手遅れであることを察したかもしれない。
獅南は何も言わず,研究のことだけを答えた。

「…そうだな,いつになるか分からんが,それくらいなら構わんよ。」

そして,貴女の無自覚な発言に対しても,何の下心も他意もなく,そう返す。
それはこの男にとって,バイクに再び乗ることのモチベーションになる,とまではいかなかったが,
少なくともそれを再び始めるきっかけの1つくらいにはなっただろう。

「さて,私はそろそろ失礼させてもらうよ。
 例の研究が,まだまだ進行段階だからな…機会があれば,授業かどこかでまた会おう。」

ご案内:「商店街」から獅南蒼二さんが去りました。<補足:無精髭とやや皺の残った白衣。淡く光る指環。窪んだ目は相変わらず疲労の色を湛え,顔色は相変わらず健康そうには見えない。>
宵町 彼岸 >   
「自然現象かぁ……
 何処までが”自然現象”なのか興味がありますぅ
 エネルギー化のめどがつけば大革新ですねぇ?」

例えば台風をエネルギー化できれば、地震をエネルギー化してしまえたら……
それは恐らく今世紀最大の発見と称えられるレベルの大革新と言えるだろう。
その規模まで行くにはかなり大掛かり……場合によっては複数のスーパーコンピューターすら必要になるかもしれないが
この島なら、この島でのみならもしかすれば可能かもしれない。
ここはそういった場所なのだから。

「……あ、ごめんなさい。
 少し考えこんじゃいましたぁ。私の悪い癖ですよぅ。
 ふふぅ、楽しみですぅ。
 その時はまた、ボクに名前、教えてくださいねぇ」

きっとその時は、また忘れてしまっているだろうから。
意味不明に聞こえるような言葉を漏らすも、相手は講師。
自分についてのデータを当たったなら、忘却癖にはすぐにたどり着くだろう。
担当授業の講師になるのであれば猶更。

「はぁぃ。
 出来れば今よりもっと幸せな形でありますよぅに。
 これに乗ってるときとか、論文が出来たときとかぁ」

ゆっくりと片手を掲げ、囁かな幸せを願いながら去っていく背中に手を振る。
この香りはいったい誰の物だっただろうか。
どこか懐かしいような気もするけれど、それがなぜなのかは今の所思い出せない。
何にせよ彼女にとっては珍しい事であることは間違いない。
見知らぬ相手の世界が少しでも色づくようにと言葉を送るなんて、とても貴重な事だった。

「……似合わなぁぃ」

そうして見送った後、ゆっくりと腕の中に倒れこむ。
笑顔を浮かべていたものの上体を起こしているのはそろそろ限界だった。
それでもなお、そうしていたのは……

「あれ?なんでだっけ?
 ……まぁいいか」

思い出せない以上大したことではないはず。きっと。
その呟きと共に彼女はふらっと脇道へと入っていく。
この場全員の死角になる場所へ自然に、けれど素早く。
数秒後にそこを覗き込んだ者がいたとしても、その目には何も映らないだろう。
まるで彼女自身の在り方を示す様に、その道の日陰に小さなさざ波が残っただけで
そこには元々何もいなかったかのようにただ静かな空気が流れていた。

ご案内:「商店街」から宵町 彼岸さんが去りました。<補足:白衣、長髪に半分隠された顔、オーバーサイズパーカー、蒼のモノグラス、桔梗の髪留め>