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ご案内:「魔術学部棟第三研究室」に
獅南蒼二
さんが現れました。<補足:黒髪の短髪。白衣。顔立ちはやや彫りが深く,目元が窪んでいる。…明らかに顔色が良くない。>
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」に
クローデット
さんが現れました。<補足:やや暗めの銀髪、整った美貌の女性。ゴシック調の黒いワンピースに身を包んでいる。>
獅南蒼二
>
2学期も終わろうかという冬のある日。
獅南はいつものように,授業を終えて研究室に籠っていた。
だが,今日は単純に研究に没頭しているわけではない。
彼にとっては非常に珍しいことだが,今日は来客の予定があった。
クローデット
>
「………。」
重い扉の前で、1つ息を吐く。
事前に連絡をして、その上で受け入れてくれたから、大丈夫だとは思うのだけれど…。
「武装」をせずにはいられなかった、己の「弱さ」が情けなかった。
………しかし、中に踏み入らないことには、先には進めないのだ。
もう一つ、軽く息を吐いてから…クローデットは扉に手を伸ばし、ノックをする。
「失礼致します」
その声は平常の範囲から逸脱してはいないものの、やや硬い響きを伴った。
獅南蒼二
>
部屋から音は一切聞こえてこない。
貴女にはそれが防諜魔術であろうとすぐに分かるだろう。
そしてそれは,貴方の警戒心を僅かに刺激するかもしれない。
…貴女の声に応えるように,鉄製の重い扉が僅かに開く。
いまだに扉の内側は伺い知れず,そして,獅南からそれ以上の反応は無かった。
扉を引けば,その見た目からは驚くほど軽く開くだろう。
クローデット
>
「………。」
扉には、ご丁寧にも既に防諜の魔術が仕掛けられているらしい。
連絡の際には、防諜が必要だなどとわざわざ伝えはしなかったのだが…。
それでも、クローデットの声に反応するように、扉が緩んだ。
…扉を軽く引いた感じの手応えは、随分軽い。
「…改めて、失礼致します。
………お久しぶりです、獅南先生」
そう言って、クローデットは扉を引いて中に踏み込んでいく。
…たとえ、何が待っていたとしても。
獅南蒼二
>
獅南は普段通りに椅子に座っており,机上には普段通りに大量の魔導書やら宝玉やら,様々なマジックアイテム。
そして普段通りに大量のメモが重ねられており,普段通りに彼は顔色が悪い。
「…ほぉ,思ったよりも元気そうだな。」
小さく肩を竦めて笑うその姿もまた,普段通りの獅南そのものであった。
まるで何事も無かったかのように,何も覚えていないかのように。
静かに立ち上がれば,対面するように置かれたソファの方へ貴方を誘導するように歩いて…
「…立ち話というわけにもいかんだろう。」
座るよう促し,自分は奥のソファに腰を下ろした。
クローデット
>
「………恐縮ですわ」
「思ったよりも元気そう」。
普段通りの相手の振る舞いではあるが、そういう言葉をわざわざ「駒」にかけるような人間だっただろうか?
戸惑いに、少し視線が落ちるが…
「…ええ、少しは込み入った話になるかと思いますので。
それでは…失礼致します」
座るよう促され、獅南の向かい側のソファに腰を下ろした。
獅南蒼二
>
貴方の「武装」を嘲笑うかのように,獅南は無防備だった。
魔力の指輪もせず,防護術式も展開してはいない。
また,貴女の目から,白衣や空間に何らかの術式を仕込んでいるようには見えないだろう。
「私に,お前の役に立つような話ができるとは思わんがね。」
そう苦笑しながら,貴女を真っ直ぐに見る。
貴女の戸惑いなど知らぬ顔で,貴女の言葉を待った。
クローデット
>
単身であるだけでなく、クローデットの魔術を「見る」目から見てもまるで無防備な獅南。
…しかも、次に出てきたのは、謙遜のような言葉と苦笑いだ。
表から見れば、その意味は分からなくもないし…目の前の人物は、良くも悪くも裏表のあるような人格ではないだろう。
…だからこそ、クローデットには図りかねたのだ。
(…一体どのような心境の変化があったのかしら?)
しかし、いきなりそれを聞くものでもないだろう。
「いえ…魔術に幅広く通じていらっしゃる獅南先生なればこそお伺いしたいこともございましたし…
何より、まずは謝罪を、と思っておりましたので」
ここでクローデットは、防諜魔術の度合いを再度確認しにかかる。
…どこまで、ストレートに話して良いものかと。
獅南蒼二
>
心境の変化,という言葉が適切であったのかどうか。
獅南は貴女を,自分自身とは比較にならぬ“才能をもつ者”と見ている。
謙遜にも似た言葉には一切の他意は込められていないし,
劣等感にも似たその感情は,決して消えることはない。
「…なるほど,そういう話ならば…。」
獅南が手を翳せば,扉のロックが自然と掛かり,扉の表面に僅かに魔力が流れる。
術式を解析すれば分かることだが,少なくとも常識的な範囲内での会話であれば,この部屋の外から観測することは一切不可能であろう。
「お前に謝られるような理由は無いのだがな。」
苦笑しつつ,ポケットから煙草を取り出して,指先で弄ぶ。
その先端に,魔力で火を付け……
「…それで,何が聞きたい?」
クローデット
>
防諜魔術が「自分達を」守るように発動したことで、少しだけクローデットの強張りが解ける。
それは警戒が緩んだこともそうだが…「こと次第では全てを話せる」ことに伴う、ある種の開放感によるものだった。
…それでもやはり、「謝られるような理由は無い」と語る彼の苦笑いは、今までクローデットが獅南に抱いてきたイメージからすれば、違和感が拭えないものだったのだが。
「…ですが…「あたくし達」が、酷い怪我を負わせてしまいましたので…。
心の整理をつける間にすっかり完治されておりますし、今更とは思うのですが」
「申し訳ありませんでした」と、綺麗な姿勢で頭を下げる。
数秒そうしていただろうか、頭を上げて…
「…専攻を変えるか否かで、悩んでいるんです。
今後の生き方を考えますと…今の専攻を扱う資格は、わたしには無いのではないかと」
と、切り出した。
獅南と得意分野は違えど、幅広く魔術を扱うという意味では共通するクローデット。
彼女が今専攻としているテーマは魔具作成術の応用、「魔術と重化学工業の融合」だ。
「《大変容》以前からあるものと、それによって「復活」したものとの橋渡し」というのを研究上の意義として掲げている。
獅南蒼二
>
貴女が感じる違和感がどこから来ているのか,それを推し量るのは容易ではないだろう。
何か変わったことがあるとするのなら……今の獅南には,貴女のことも含めて語り合い相談することができるほど,信頼に足る相手がいるということ。
「あぁ,その程度の事なら気にするな。殺されても死ぬつもりは無い。
それに,切っ掛けを作ったのは私の方だろう?」
謝罪を素直に受けることはせず,けれど一方で自らの行為を謝すこともない。
きっと,貴女を軽視しているのではないだろう。
全ては互いの,その瞬間の思い,その瞬間の判断,その瞬間の行動。全てはその結果に過ぎないのだ。
獅南は,自らそれ以上,この話題に言及することは無いだろう。
「……資格がない,か。」
貴女が続けた言葉に,獅南は煙草を咥え,静かに息を吐き出す。
魔力で制御されているのか,煙も匂いも,貴女からは一切関知することができない。
「お前がどのような言葉をかけてもらいたいのか,私には想像できん。
だから私は私の考えを言わせてもらうが…」
煙草を灰皿に押し当てて,
「“資格”などという言葉を使って自己の在り方を曲げるのは感心できん。
それを言うのなら,学ぶ意欲を妨げる資格をこそ,何者も持ち合わせていない。」
もう1本の煙草を取り出した。ペースが速い。
「…要は,お前自身が専攻を変えることに“必然性”を感じるかどうかだろう。」
クローデット
>
まさか、獅南にとっての「信頼に足る相手」が、自分のことを知ってそのままにしておくなどと思えぬクローデットである。
あまり細やかとは言えないなりに、「大人」として自分のことを受け止めているように見える獅南は、やはり「何か違う」としか思えなかった。
「…獅南先生お一人が、為したことではございません。
その多くは、あたくし自身が招いたことでした」
そう言って、ゆるく首を横に振る。
確かに、彼のかつての「裏切り」は「暴走」をだいぶ後押ししたが、そもそも「侵食」のきっかけを招いたのは、自分自身が弄ぼうとして、遊び半分で寄せた存在である。
…まあ、「彼」との関係など、わざわざ自分から口に出すことでも無いのだが。
「…そうは仰いますけれど、「あの」まま「在る」ことが難しかっただろうことは、獅南先生もある程度は存じておられたのでしょう?」
口元を手で隠して、クローデットがまともに見せた初めての表情は苦笑いだった。
それを穏やかに収めて…
「…技術とどのように向き合うのか、どのように扱うことを考えること無しに、「わたしが」技術の開発に関わるのは、欺瞞だろうと思うようになりまして…。
ですから、倫理ですとか、哲学ですとか…そういうものと魔術を結びつけることを、重点的に考えていくべきかと思っておりますの」
彼女なりに感じている「必然性」を、語る。
獅南蒼二
>
貴女を取り巻く状況を知っていたのなら,冗談の一つも言ってやっただろう。
しかし,獅南は貴女のことや,あの青年のことを殆ど何も知ってはいなかった。
後日,貴女の父と会話を交わす機会があれば,全てを知るのだろう。
そしてきっと,いくつかのことに納得し,笑うのだろう。
「まぁ,それは尤もな話だ。私も同じようなものだと,言えないでもないからな。」
獅南は,そうとだけ呟いて苦笑する。
彼自身も“信頼に足る者”との出会いによって,その在り方を大きく変容させた経験を持っているから。
「どのような技術も,齎される結果は使う者次第だろう。
作り出す側はそれを想定することしかできない……だが,そういった配慮によって発展が妨げられては本末転倒だ。
…少なくとも私は,技術としての昇華と倫理的な側面は切り離して考えるべきだと思っている。」
自分なりの立場を述べた上で,貴女を真っ直ぐに見つめ,
「お前の才能,そして努力と研鑽を積み上げる気概は,魔術学の発展にとって大きな力となるだろう。
何れの日にか,魔術によって世界の秩序を再構築することさえ,叶うかもしれない。
……だが,その日を不安なく迎えるためには,お前の言う“倫理”や“哲学”も必要だろう。」
その才能を惜しみつつも,貴女の選択には理解を示す。
クローデット
>
「ですが、以前にも、ご忠告は頂いていたように記憶しております。
………あたくしは、それを正面から受け止める強さを、長らく持てずにおりましたの」
そう言って視線を落とす。
「たいせつなひと」と共にあるために、記憶すら封印し続けた。
現実との食い違いに向き合うことから、ずっと逃げ続けて…最悪の破綻(と思われるもの)こそ免れたものの、積み上げてしまった罪過は大きい。
「…しかし、獅南先生がそのお歳で変わることを受け入れになったというのは…正直に申し上げますと、少々驚きました」
それでも、その重さと陰を振り払うように穏やかに笑んでみせて、今日感じている違和感を、少し冗談めいた響きで白状してみせた。
「…魔術による、世界の秩序の再構築…今のわたしは、そこまでのことをきっと望んでおりませんわね。
そもそも、再構築の必要性と真面目に向き合えるほど…わたしは、世界のことを知りません」
そう語り、控えめな淑やかさで伏し目がちに微笑む。
「技術そのものへの興味は抗い難いものがございます…それは確かです。
…ただ、今後を考えますと、この学園で2年は余分に単位を履修する必要が出てくるかと思いますし…倫理や哲学を学び直しながら、それらと合わせて、取り組むべき課題を定めようかと」
理解を得た安堵に表情を和らげながら…自分の変化と、その足取りの覚束なさまで、クローデットは開示してみせる。
「武装」こそしてはいるけれど、今回の相談の中で、クローデットは獅南を、自分が少しずつ培っている新たな「強さ」を見せる相手として、相応しいものと判断したようだった。
獅南蒼二
>
「過去はどうでもいいが…その強さを僅かでも得たというのなら,それは大きな進歩だろう。
自身の力で得たのか,それとも切っ掛けを与えてくれる他人が居たのかは,知らないが。」
それを追及するつもりは無いようだった。
だが,少なくともこのような大きな変化を,単独で成すのは難しいと誰よりもよく知っている獅南である。
「まぁ,私自身こうなろうとは思いも寄らなかったからな。
やっていることは,何一つ変わりはしないのだがね。」
貴女と獅南は嘗て同じ理想を掲げた同志であり,今や等しく組織の理想から乖離した。
奇妙な偶然だが,結果として,獅南にとっての貴方が,組織や利害を超えた存在となったのも事実だ。
「…学び直す,か。私には到底成し得ないことだが,若いお前ならば,そう時間もかからないだろう。
だが,恐らくお前の進もうとしている道は,魔術がごく一部の者による特権的な技術であった過去には類を見ないものだ。
私の構築する術式よりも,よほど未来に大きな影響を与えるものになるかも知れん。」
2本目の煙草を,灰皿に押し付けて火を消し…
「…私から今,言えるのはそれだけだ。
私の研究も,方向性は違うが何かの助けにはなるかもしれん,お前に学ぶ意欲があるのなら……教えよう。」
クローデット
>
「…とても、話し難い経緯ですので。そう仰って頂けますと助かりますわ」
少し困ったような、それでいて柔らかい微笑を零す。
「彼」のこと、「たいせつなひと」との別離…特に後者は、言葉にするのがとても難しいとクローデットには思われた。
「…確かに、獅南先生がわたしと同じように方向性に変化を加えるのは…失礼かもしれませんけれど、あまり想像がつきませんわね」
今こうして「大人」としてクローデットと向き合い得るようになった獅南ではあるが…この範囲を超えて変化する相手など、クローデットには想像し難いものがあった。
「あら、「魔術をごく一部の者によるもの」から解放するという大きな目標において、わたし達の間に大きな隔たりは無かったのではありませんか?方向性こそ違いますけれど」
獅南の大きな評価に、束の間目を大きく瞬かせた後、楽しげに笑った。
「ええ…まだまだ、様々な壁にぶつかるものと存じております。
必要だと感じた折には、また相談に伺いますわ」
「ご指導、よろしくお願い致します」と、改めて、美しい姿勢で頭を下げた。
獅南蒼二
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「いまだ魔術は万人の物とはなっていない。
我々の研究や,行動が魔術学の発展に少なからず影響を与えていると信じたいが…
…まぁ,それを判断するのは今から100年後の魔術学者だろうな。」
獅南は肩を竦めて,笑う。
貴女が頭を下げれば…小さく頷いて,
「やがて私が教わる側に立たされるかも知れん。
そうならんよう,精々私も努力と研鑽を積み重ねるとするか。」
静かに立ち上がった。
手を掲げれば,防諜魔術が解除され,扉の鍵が開く。
クローデット
>
「運が良ければ…わたしが存命の間に、一定の判断は出ているかもしれませんわね」
二者のうち若い方であるクローデットが、楽しげに笑い返す。
…その頃には、もう1つの自分の願いも、前に進んでいると信じたいものだが…その不安を、心の奥底に沈めて。
「実りが得られるのであれば、教わる側への移動も時には悪くないかと存じますわ?」
「他者の思索から得られるものは多いものです」と、柔らかくもどこか不敵な微笑を湛えて、立ち上がる。
「本日は時間を割いて下さってありがとうございました。
…またしばし、生徒と教師として、よろしくお願い致します」
そう言って立ち上がると、クローデットは重苦しさのない足取りで獅南の研究室を去っていった。
獅南蒼二
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貴女の言葉に小さく頷き,静かに貴女を見送って,獅南は扉を閉じる。
その時,獅南は奇妙な感覚を味わっていた。
「………。」
かつて小娘と侮り,才能に嫉妬し,やがてその努力と研鑽を認めた。
自分とは異なる道なれど,魔術学を昇華させる道を進む者。
その進む先が,己の歩んだような影の道ではなく,陽の差す道であろうように。
獅南は初めて,自分以外の者のために,そう願った。