2015/06/09 - 02:54~09:27 のログ
ご案内:「◆特殊Free(過激描写注意)1」に秋尾 鬨堂さんが現れました。<補足:悪魔のLと呼ばれたマシンを操るドライバー。踏んでいける男>
秋尾 鬨堂 > ―あの日。

これまでの預金をはたいて、その後の給料を全て注ぎ込んで作り上げたマシン。
いい気になっていた。
俺のLD22が、このベイエリアで一番速いのだと。

―あの日のことを思い出す。

海風、西よりやや強し。
午前三時前、自ずからセッティングを出し、調子を見るために軽く流していた時のことだ。

秋尾 鬨堂 > いつもどーりに、チーム常工のRをチギる。
連中、この前随分アオッてきてた。
落とし前をつけるつもりで来たんだろうが、今日のLDは一味違う。

チューニングは日進月歩だ。試行錯誤だ。
クルマとの一体感は、天気一つで容易に変わるし、
ネジ一つのトルクがハズれればもうシケてしまう。
その上で、今日は絶好調。雨にヨタついてるようじゃ俺の前は走れない。

秋尾 鬨堂 > 産業道路のクリアストレートでメーターは見た目キッチリ280km/h。誤差5%で実質265ってとこ。

調子が良い。恐ろしいくらいに。
物流のトラックも、今日は少ない。気味が悪いくらいに―?
いや。なんだ今の嫌悪感は。
マイナス要員なんて無い。なんで、俺は気味が悪いなんて思った―?

秋尾 鬨堂 > 雨脚が強まる。
雷鳴が轟く。

落ち着け。なんてことない、島特有の急な崩れ方。

だが。
だがアイツは、まるでアイツは。

それらを従え、引き連れて来たかのように。現れた―

『悪魔のL』!

秋尾 鬨堂 > バックミラーに写った影は、ミッドナイトブルーを切り裂く光を置き去りに。
追い付いてくる。さっきからアクセルは踏みっぱなし。
メーターは見なくてもわかる。フルスロットル、踏み切っている。

伝説のはずだ!
島のドライバーたちに伝わるただの伝説!
二年ほど前にもそんな噂が立った。
そしてある日、学生街バイパス出口を半日止める大事故と共に消えた噂。

そんな思考をしている隙に、もう奴はテールランプしか見せていない。

秋尾 鬨堂 > あっという間に攻守逆転。
いや、奴は未だ攻めている。誘っている。
着いて来れるか?と挑発している。

行くしかねえ。
LDのエンジンは、バランスを崩せばそくブローと知っている。カリカリに絞った出力は、もうなりふり構った運転で優しく労る余裕なんて無い。

追いすがる。追いすがる。まだチギられちゃいない。
追いつける。追いつける!悪魔を、俺がオトす!
唸るエンジン。断末魔の力を絞り出し、その悪魔の尻尾に噛み付こうとして―

接触。

秋尾 鬨堂 > そしてブロー。俺のハンドルが取られたのが先か?
それとも、悪魔のLが、身悶えたのか。

ブレーキ痕はどれだけの長さになったのだろう、などとゆっくり考えていたような気がする。
ガラス塗れで、半ば以上に潰れた車体。生きているのが奇跡的な怪我。腕は繋がっているか?
指先には力が入らない。夢遊病者のように車体から這い出して、立ち竦む。
時速300km/hでのクラッシュは、かくも惨状を産むもの。

秋尾 鬨堂 > LD22。俺の命を拾って、半身を潰されて息絶えた。
悪魔のL。そして悪魔のLは―

炎の向こうに、立ち上がる人影は、幻視だったのだろうか。
あれだけのクラッシュで、しかし原型を保ち。
スピンの途中で投げ出されたのだろう、顔の無いドライバーを路上に置き去りにして、炎に包まれている。

致命傷のはずだ。そうでなければ、本当に―
俺が意識を失う瞬間、誰のものでもない叫び声が聞こえた。
恐ろしい叫び声だ。しかし、俺にはわかる。
そいつは、「まだ終わっていない」と―言っていた。

秋尾 鬨堂 > あの日。こいつに出会ったあの日。

俺の心は、もう奪われていたのだ。