2020/06/12 - 16:43~01:23 のログ
ご案内:「落第街大通り」に神代理央さんが現れました。<補足:制服に風紀委員の腕章/腰には45口径の拳銃/顔立ちだけは少女っぽい>
神代理央 > 学園都市の暗部を煮詰めて盛り付けた様な様相を誇る落第街。
その大通りともなれば、違反学生は平然と闊歩し、非合法な商品が並べられた露店が当然の様に連なる混沌の熱気で渦巻いている。
乱闘騒ぎは当たり前。法の秩序から解き放たれた此の街こそ楽園と豪語する者も数多くいるのだが――
「…偶には鞭を打ってやらねば、此処の連中は増長するばかりだと思うのだがな」
怪我も無事に完治し、与えられた任務は無難と言えば無難な落第街の巡回。
巨大な金属の異形を引き連れて大通りを闊歩する風紀委員の姿を見れば、露店はそそくさと店仕舞い。脛に傷しかない者達は苛立ちの視線を此方に向けながらも、今のところ何かしてくる気配はない。
奇妙な平穏と秩序が己の周囲にだけ保たれている様な風景が、己が足を進める度に露わになるのだろう。
神代理央 > 引き連れる異形が一歩進む度、地面は僅かに揺らぎ、閉店した露店の屋根から埃が落ちる。普段は天空に向けられている針鼠の様な砲身は、その全てが周囲を威圧するかの様に大通りのそこかしこへと向けられていた。
「まあ、問題が起こらぬのは良い事ではあるしな。余計な仕事を増やされてもたまらん」
復帰の希望が叶ったのは良いが、相変わらず近接戦に長けた者をバディにはしてくれない。
幾ら召喚系の異能とはいえソロで色々とこなすのは面倒なんだがなあ、と小さく溜息を吐き出した。
というより、そもそも希望は前線では無く後方勤務の事務方なのだが。
ご案内:「落第街大通り」に幌川 最中さんが現れました。<補足:腰で風紀委員会の赤い上着をツナギのように結んでいる。人好きのする見目。>
幌川 最中 > 「でもなあ理央ちゃん。
こういうパトロールも悪かねェけどなあ?
もっとこう、も~~~うちょい、こうさ。うまいことさ」
ろくろを回しながら、理央の横を風紀委員が歩く。
二人配備されているのに実質的にソロで仕事をさせられている原因張本人。
10年間の留年を繰り返す風紀委員10年目の無能力者、幌川最中。
「増長するもなにも、わざわざ乗り込むのは幌川さん好きじゃねえんだなあ。
……理央ちゃんは好き? こういう散歩。
『落第街(こっち)』はこっちで、『学生街(あっち)』はあっちでさ。
棲み分けがどうしてこう、ど~~~~~うしてうまくいかないもんかねえ」
ハー、と溜息をつきながら、どこぞの露天で買ったであろうアルコール瓶片手に。
どうよ、と神代の顔を20センチ上からいい体格の男が覗き込む。
神代理央 > 「……先輩がもう少し"うまいこと"していれば、少なくともこんな場所の巡回に付き合う事にはならずにすんだんじゃないですか?」
そう。確かにソロでは無い。傷病明けの自分を気遣って、同行者をつけてくれてはいた。
問題は、同行する先輩は戦闘系の異能を保持していない事。嘘か誠か知らないが、上層部の御小言を頂いた挙句今夜は此方の巡回への同行になったという噂の存在。
流石に噂話を信じるつもりはない。真っ当な理由で彼が己の同行者となったのだと信じたい……信じたい。
「棲み分けが出来ていないのは彼等の方でしょう。彼等が学生街や一般生徒に手を出さず、蟲毒の如く此の街で勝手に屯って勝手に死んでいくのなら、風紀も公安も苦労せずにすむでしょうに。
それと、酒を飲むなとは言いませんけど余り大っぴらに飲み過ぎないで下さいよ。連中につけこまれるのは好みませんので。というか、勤務中に飲まれると報告書に添付するファイルの編集面倒なんですけど」
深々と吐き出した溜息と共に、己よりも随分と背の高い彼に視線を向ける。
その体格差故、必然的に見上げる様な形になれば正しく大人と子供、といった有様だろうか。
悪い人では無いんだけどな、と内心嘆息しつつ、向けられたジト目は酒瓶と彼の顔を行き来している事だろう。
幌川 最中 > 「アハハハハハハ」
空笑いを落第街の大通りに響かせる。
視線が向いても、腰で赤い隊服をツナギのように結んだ男は気にしない。
そして、面白そうに目を細めながら神代へ真面目そうな声色で言うのだ。
「どっちだと思う?」
冗談交じりにそう言ってから、堪えきれなかった様子でまた笑う。
豪快に笑ってから、まあそうつんけんなさんな、と神代の肩に肘を置いた。
明らかに先輩から後輩に行われている完全なハラスメントの現場である。
それを見ている風紀委員は、落第街には1人もいない。事件現場なのに。
「大丈夫大丈夫。酔ってねえから。
心配なさんな理央ちゃん。ありがとうなあ。心配してくれて、ありがとう……。
でも俺は理央ちゃんが書類仕事までやってくれるって信じてるから……」
クソ下手な小芝居を一つ打ってから、困ったように溜息をつく。
瓶の中身はほとんど残っていない。ポイ捨てしちゃだめかな……と言いながら。
「理央ちゃんは落第街が嫌いだねえ。
二級学生の救出だって風紀委員会の仕事なんだぜ。
そんなデカいの持ち歩いてたら駆け込み寺したがる学生もビビっちゃうでしょ。
……それで俺たちがボコられても困るんだけどね。特に理央ちゃんが」
「調子はどんなもんよ、理央ちゃん」
神代理央 > 「…一応、先輩の事を信じてはいますよ。信じているだけで信用はしてませんけど」
豪快に笑う彼に再度深々と。寧ろ見せつける様に溜息を吐き出せば、止まり木代わりにしないでくれと言わんばかりの視線を向ける。
あと20センチ。いや、あと10センチ身長が高ければ…と歯噛みしても、ランプの魔人が願いを叶えてくれる訳でも無く。そもそも魔法のランプは此の場に存在しない。
「勿論仕事は最後までしますよ。しますとも。先輩が酒瓶片手に絶賛巡回中の動画もきちんと提出しますからご安心を。勿論、ポイ捨ての場面も撮影させて頂きます」
言葉こそ堅苦しいものの、フフン、と生意気そうなその口調は少なくとも彼に対してある程度胸襟を開いている事の現れ。
新人への教育担当を務める彼には、己もそれなりに世話になった事がある。此の人本当に風紀委員なのかと思う場面は多々あったにせよ、彼に世話になった者達からの評判は決して悪くは無い。それどころか、概ね好評とも言える。
同じ生徒という立場故に、教師よりも相談しやすい事もあるんだろうなと思っていたり。
だが、次いで彼から投げかけられた言葉に、牧歌的な先輩後輩のやり取りは僅かに色を変える。
彼を見上げていた己の瞳は僅かに細められ、暫し考える様に視線を彷徨わせた後――
「……学籍の無い者を、何故救出する必要があるのです?彼等を救出し、更生させるリソースは、真面目に生きている一般生徒の為に利用されるべきでしょう。
先輩達が襲撃されるのは好ましくありませんが、もしそうなれば私だって命を懸けて先輩方をお守りしますよ。それが仕事ですから」
其処迄言い切ると、小さく肩を竦め――ようとしたが、肩に置かれた彼の肘でそれまままならず。
「……先日襲撃されて、賊を逃がしてしまった挙句負傷しました。失態です」
ギリ、と歯を食い縛る様に。苦々し気な口調で応えるだろう。
幌川 最中 > 「ほらそういうこと言う!
華霧ちゃんもそういうこと言うんだよ。優しくないよこの世界は……。
こんなに信用できる先輩他にどこにいってんだよなあ」
慣れた調子でそう笑う。もしかしたら、魔法のランプはあるかもしれない。
ありとあらゆるものを仕入れるこの落第街だ。探せばありそう。あるかも。
恨みのややこもった視線に気づけば仕方ないな~と腕をどかす。
「嘘でしょそんな話ある?
えっちょっと待って薫子ちゃんとかに出したら俺また怒られるんだけどあの、
理央さん? 神代さ~~~~ん。もしもし。はい。幌川です。
今この瞬間から真面目にするので勘弁してもらっていいですか? いいかな?」
冗談2割、本気8割で後輩に対して懇願が行われる。
この懇願が通るかどうかは二者択一だ。マジで無視する風紀委員も結構いる。
その度に様々な人に迷惑を掛けて歩いているが、多少怒られる程度で済んでいる。
……というよりも、「そのライン」を見極めてわざとやっている節がある。
「そらあ、好きでこんなとこにいる子が全員じゃあねえからさ。
しゃーない事情があって、こんなとこにいるしかなくてここにいる子もいる。
理央ちゃんの同僚にも実は二級学生だったってコもいるんだぜ」
軽く笑ってから、空の酒瓶をまた傾ける。
一滴も舌を濡らすことはなく、困ったねえと言いながらまた片手に持ち。
「真面目に生きる一般生徒候補にリソース吐いてやるのは、
『持ってるやつ』の仕事でしょうよ。……なんてねえ~~~~~。
理央ちゃんが怪我するような賊のいる街に、真面目になれる生徒ほっとけるかあ?」
「俺ァ無理だな。ほら、理央ちゃんも今言ったろ?
命を賭けて先輩たちを守ってくれんなら、同じようなもんじゃねえかなァ」
どう? と気さくに顔を覗き込む。表情は相変わらずにやけたまま。
復帰明け早々仕事に駆り出されている後輩を気にする素振り。
神代理央 > 「優しくされたいのなら普段の行いをもう少し鑑みて下さい。取り敢えず制服はちゃんと着ましょう。お酒はプライベートで嗜んで下さい。ギャンブルをするなとは言いませんが、風紀委員である自覚を持って下さい。というか園刃にもそう言われるなんてよっぽどですよ先輩もう少ししっかりして下さい」
先輩に対して小言の嵐。というか小言の機関銃。
ねちねち、では無いがくどくどと。己より二回りほど大きく、一回り年齢の離れた彼に言葉を続けるだろう。
「怒られれば良いんですよ。赤坂先輩みたいな美人に怒られるのは嫌いじゃないでしょう、先輩。
怒られて暫く本庁出入り禁止くらいがちょうど良いんじゃないですか?」
と言いつつも、彼に向ける表情は呆れた様な笑み。
結果としては、彼は見事に「そのライン」を見極めた事になる。
元より、己自身としても彼の事が特段嫌いでは無いし彼を慕う後輩の気持ちを無碍にするのも居たたまれない。
しっかりしてくださいよ、と再度念押しする様な視線で御小言は幕を閉じるのだろう。
「元二級でも、きちんと校則に基づいて学籍を得たのなら構いませんよ。そういう生徒は、保護の対象です。
此処にいるしかない事情はあるのでしょう。しかし、学園の保護を求めず此処に居座るというのなら、学園の組織である我々が保護する必要もありません」
頑なに。冷徹に。
落第街や二級学生への話題に対する答えは一貫しているのだろう。
人を守るのではなく、規律を守る。ルールを守る者を守り、守らない者は罰する。それが仕事だと、淀みなく彼に答える。
「真面目になれる生徒なら、そもそも落第街に居座る事自体が過ちです。そういう連中を受け入れる機関を否定はしませんが、それは風紀の仕事ではありません。
……同じではないですよ。少なくとも先輩は、学園が認めた生徒です。だから守ります。それが決まりで、それが仕事ですから。それを果たす為なら、命を懸けますよ」
にやけた笑みで此方を覗き込む彼に返すのは、小言を告げている時とは異なる感情の籠らない瞳。
己を気に掛けてくれているのは理解しているが、その思いやりへの理解はあくまで知識によるもの。
他者に厳しい己が、他者から気遣われる事も無いのだろうという諦観が其処には透けて見えるだろうか。
幌川 最中 > 「ダサいだろこれ堂々と着るの!
年イチでいいよ、年イチで。見てみこれ。クソ似合わんでしょ。
年度初めの写真撮るやつ、あれ理央ちゃんもやったでしょ。これ俺の」
携帯電話の画面ににこやかな笑顔で写真に写っている幌川の姿。
愛想よく、楽しげに微笑んでいるがどうにも、なんともいえないダサさがある。
若者向けのデザインを着ているオッサン感が漂っていて悲しくなる写真だ。
これを見せれば絶対ちゃんと着ろとは言われないだろと思うくらいダサい。
「出入り禁止になって困るのは俺じゃないから!!
俺理央ちゃんの見えないところでメチャメチャ仕事してっからな!
……してっかな、してっか。してるかもな。ハハハ。してるわ」
運良くギリギリの綱渡りを成功させて、幌川はにやりと笑う。
満足そうに後輩の背中を軽く叩きながら、「そうだなあ」とやんわりとした相槌。
「例えばさ、理央ちゃん。
……もし怖い人らに捕まってて、偶然やっとこ出会えた風紀委員がそんな顔してたらな。
言いにくいだろ、助けてくれってさ。ほら、理央ちゃんスマイル理央ちゃんスマイル」
恐らく、神代と幌川の見解は一致することはないのだろう。
が、「上」がこう組ませたということは、何らかの意図はある。
幌川はなんとなし、風紀委員会から自分に与えられた役割こそ理解しているつもりだ。故にこう。
どうしろ、と言うでもなく、自分の意見をやんわりと伝える。
「自分が誤らなくても、自分を背負う誰かが過ったりもするもんだぜ。
ほらほら。理央ちゃんが風紀委員会が間違えないからそうしてられてるのと同じ。
風紀委員会のエラーーーい委員長さんとかが過たないからこうできてるだけ。
もし俺が上に立ったらとか考えたら普通にめちゃめちゃ嫌だろ? 俺やだよ」
自分に甘い先輩が、自分に厳しい後輩を甘やかす。似たようなものだ。
そして、こういう諦めを抱える生徒を見てきた数は少なくない。
だからこそ、真剣になりすぎず、軽い調子で笑い声を落とす。
「怪我したあとにすぐ命を賭けるとか言うんじゃねーーーの。
わかった? 理央ちゃん。これ俺のお説教だからね。お説教わかる?」
ご案内:「落第街大通り」にエルピスさんが現れました。<補足:右腕が二本生えている義腕を備えている、少女のような少年。>
神代理央 > 「………制服はダサいダサくないで着るものじゃないですし…。でもまあ、その……すみません……き、気崩すスタイルの方が先輩にはお似合いですよ、うん」
何を言っているんだ、と言わんばかりの視線で携帯を覗き込み、暫し沈黙し、彼と携帯を交互に見やる。
その後、本当に心底申し訳ないと言いたげな表情と口調で彼に謝罪。
実際、似合っていない訳では無いのだが、風紀の制服は確かに派手ではある。というより、体格の良い彼がツナギの様に制服を結ぶ姿が様になり過ぎていると言った方が良いのだろうか。
逆に言えば、己が彼の様な制服の着方をしても似合うわけがない。体格が追い付かない。畜生め。
「……やっぱり動画添付しておきますかね。お説教2時間くらいですむんじゃないですか?」
甘やかすのは良くないかな、と思い直す――様な素振りとジト目。
それでも、それが実行に移される事は無いのだろう。
「……それは、まあ、そうですね。救助対象者に怯えられては元も子も無いですし…。でも、笑うのは苦手です」
慣れているのは、優等生として被る社交的な笑みばかり。
心の底から楽しくて笑う。相手を気遣って笑う。そういった行為は苦手というか経験値が低い。見下して嗤う事は多々あるのだが。
彼の言葉に同意せざるを得ないだけに、己の表情は益々難しい事を考えているかの様に。額に皺が増えていくのだろう。
「……だから、間違えないリーダーが。指導者が必要なのでしょう。それに、誰かの過ちは皆でカバーする事が出来ます。最初から間違えている者を救うのは、それを望む者に任せるべきです」
彼の思う通り、己の信条や見解が直ぐに変わる事は無い。
それでも、此方の意見を否定せずに、柔らかく意見を述べる彼に対しては、流石に語気も弱まるというもの。
最後に彼が冗談の様な言葉を繋げれば、弱弱しく微笑んで小さく肩を竦めてみせる。
「……まさか先輩に説教されるとは思ってませんでした。一生の不覚です。でもまあ、その、そうですね。気を付けます」
もごもごと、未だ気遣われる事に不慣れな様子ではあるものの。
こくり、と小さく頷いて彼の『説教』を受け入れるだろう。
エルピス >
帰り道。
"どうにも空気が違う"と思って路地から通りをのぞき込んでみれば、風紀委員による巡視が行われていた。
(……これは……静かにしておきたいね……。)
風紀委員の赤い隊服は良く目立つ。
おもむろに出歩いて絡まれても困るので、そっと過ぎ去るのを待つことにした。
一応、会話に聞き耳は立ててておこう。
幌川 最中 > 「ほらな!!!! 今先輩の心を傷つけたということを理央ちゃん覚えとけよ!!
人の心はこんなに簡単に壊れるってこと忘れるなよ!!!! ドンフォーゲッツ!!」
もうこの後輩の顔でわかる。何が言いたいのか本当にわかる。
死ぬほどわかるんだ。明らかに「あっキッツこういう大人には絶対ならんとこ……」だ。
間違いないね。幌川は僅かに滲んだ涙を捲り上げたワイシャツの袖で拭う。
「『ミスってるのに気付いてない』上の下にいるコがいるってのは覚えとくといいさ」
そして、歩みは進む。
どっち行く? だのと軽い会話をしながら右に曲がって暫く――エルピスの逆側の道に進んだところで立ち止まる。
目を細めて、がしがしと乱暴に頭を掻きながら「悪いねえ」と呟いて180度方向を変える。
「ちょっと理央ちゃん付き合ってくれる?」なんて言いながら。そして、極めつけは。
・・・・・・・
「多分、こっちじゃねえわ」
赤い隊服は、エルピスのいる方向へと向きを変えた。
神代へと、アイコンタクトで同行を促す。
「間違ったこと」に気付く、幌川の特殊能力。勘の一種。本人は負け犬の勘と呼ぶそれ。
「こうではない」という違和感を嗅ぎ分けるだけの直感であり、彼がこうして巡回に回される理由。
それは、確かに落第街の住人の存在を知覚するだけなら十二分に有用であった。
こうして、「足」を使う巡回ならば。それに、意味はある。
神代理央 > 「あー、はいはい。覚えておきます。覚えておきますから先輩も仕事は真面目にしましょうね」
お手洗いに行ったら忘れてるかも、くらいのノリな口調で返しながらクスクスと笑みを浮かべる。
悪い人じゃないんだよな、と先程と同じ感想を再度抱いていたり。
「…まあ、完璧な指導者が存在し得ない事は理解しています。肝に銘じておきますよ」
重い話題も其処迄。
後は、本来の任務である巡回を小言と雑談を交えながら行っていた。といっても、風紀委員二人の巡回ともなれば早々問題が起きる筈は無かった――のだが。
「…先輩って、疫病神か何かだったりしますか?」
と軽口を叩きつつもその表情は真面目なもの。
彼の異能は勿論把握している。
『こっちではない』風紀委員としての巡回中に、その異能が彼にそう告げたという事は――
腰にぶら下げた拳銃を何時でも引き抜ける様に手を添えながら、彼の直感――或いは異能――を信じて付き従うのだろう。
エルピス >
「げっ、こっち来る。」
会話の内容を盗み聞くのも束の間。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
だらしなく見えた風紀委員がすぐに鼻を利かせ、自身に勘付いた。
この奥の路地裏には私闘の後があるから、あまり見せたくない。
故に……。
「……こんばんわ。巡回、ご苦労様です。」
エルピスは正直に躍り出る。
"2つある右腕"はとても目を引く。
隠れたり逃げるのは得策ではない。
風紀委員に入って長く務めているなら『公安委員会で見たような顔』かもしれないし、
真面目に風紀委員として勤め、落第街の情報を収集しているものなら、
『落第街に居を構えた便利屋を自称するもの』が居る事は耳にしていてもおかしくない。
幌川 最中 > このアンラッキーギフトを異能と勘違いしている後輩も少なくない。
神代もその一人であったことが白日の下に明らかになる。
尾ひれに……あと……なんか色々くっついているのはよくある話。
というよりもむしろ七夕の笹みたいになっているのが幌川という男であるが故に。
「だからねえ、人の心は壊れやすいって言ってるでしょうに」
冗談交じりに笑ってから、方向を変えた先をちらりと見やる。
そして、相変わらず愛想のいい笑顔を浮かべたまま、ハハハと笑う。
「ボンソワール・マドモアゼル」
調子のいい挨拶をしてから、軽く片手を挙げる。
視線の先にはなるほど見覚えがある。公安委員会の……カー……。
カー……。カーペッ……。いやこれ違うな。カーで始まるのはわかる。
上手に声掛けられるかな。無理だな。ゴーマドモアゼル。
「探しものなら手伝うぜ。理央ちゃんが。なんか『お探しもん』でも?」
後輩を親指で示す。こいつがな! こいつがやってくれんだよ!
神代理央 > 彼の能力を異能だと思い違いしたまま――それに気付かぬ辺り、此方も彼に小言を言える立場では無いだろう――それでもその能力を知るが故に、警戒を強めながら彼の後に続く。
そうして眼前に現れたのは、2本の右腕を持つ少女…少年?
一瞬性別の区分がつかない様な相手ではあるが、その最大の特徴である二本の右腕。そして、改めて視界に収めた情報が、記憶の引き出しから一つの情報を引っ張り出す。
「…便利屋か。確かに、叩けば埃が出る様な存在ではあろうが。風紀委員に喧嘩を売る様な愚かな真似はしないとも聞いて――
……って、あの。探しませんけど。落第街の便利屋の加勢なんて嫌ですけど。そもそも僕壊すの専門なので。ていうか先輩がして下さいよ。僕先輩と違って報告書作るので忙しいので。告発用の」
発し慣れた高圧的な言葉は数秒しか持たなかった。
がくりと項垂れると此方を指し示す先輩をジロリと睨み付ける。
面倒事振る様なら本当にチクりますよ、と言わんばかりの視線。
幌川 最中 > その後輩の様子を見てから、幌川は笑った。
誰彼かまわず噛みつかなくてえらいぞ、理央ちゃん。
半ば父親のような――父親にしては甘やかしすぎだが――笑みを浮かべて。
「ほら全部壊せば探しやすくねえ?」
探しやすいわけでもなければ別に探してくれとも言われていない。
冗談交じりにそう言ってから、目を細めて彼の背後をちらりと見やる。
わざわざ風紀委員会の前に姿を見せる理由など決まりきっている。
「冗談冗談。『こっちじゃねえ』っぽいわ。ゴメンね理央ちゃん。
いやあ、30代の大台が怖くて怖くてたまらねえよ。どんどん鈍っちまう」
後輩にはそう言って笑ってから、エルピスにひらりと手を振って。
「遊んだらちゃんと片付けまでやっとけよ」
不干渉。先の幌川の言の通りに、「こっちのルール」と「そっちのルール」の違い。
静かにそれを示してから、くるりと踵を返す。
「いやあ、よかったよかった。
怪我したばっかりの理央ちゃんが先輩庇って怪我することにならなくてよかった。
ほれ、行くぞ。いい時間だ」
後輩の肩に手を回して、半ば無理やりといった様子で歓楽街へ戻ろうと。
エルピスを振り返ることは――しなかった。
エルピス > 「あ、う、うん。」
"公安のカーテン"
公安委員時代のエルピスに付いた二つ名。
人当たりがよく、公安の中でも一般生徒との距離が近いことからついた二つ名。
分かり易く言えば"真面目ちゃん"である。
今は落第街の便利屋にまで落ちぶれているが。
閑話休題。
エルピスは最近の風紀委員の情勢は知らない。
知らないが、性格に強いギャップがあり先輩後輩がはっきりしている二人のやり取りを見れば、
これは意図された組み合わせなのだろう。そんな風に思う。
(……風紀委員のこういうところ、ちょっと羨ましかったっけ。)
怠そうな幌川と嫌そうな神代を見れば、少しだけ気を緩め……
「……え、えーと。」
「"僕には"特になにもありません。探し物も大丈夫です。
ちょっと大通りの空気が張り付いていたので、様子を見てました。」
そのまま過ぎてくれればよいな、と思いながら丸め込もうと試みる。……奥を見られるのはちょっと避けたい。
そう思っていたら片側は去った。
……幌川が去れば、安堵する。
ご案内:「落第街大通り」から幌川 最中さんが去りました。<補足:腰で風紀委員会の赤い上着をツナギのように結んでいる。人好きのする見目。>
神代理央 > 「…それで良いんですか先輩。いや、壊して良いなら壊しますけど。都市区画纏めて瓦礫の山にしますけど」
良くも悪くも調子が狂う。
もし眼前の便利屋と相対したのが己一人であれば、また違うコミュニケーションになってしまったかも知れない。
だが結果として。砲弾は放たれず、砲煙は燻らず。何とも喜劇めいた初対面を果たすことが出来たのだから。
「…ああもう!便利屋、此方も特に貴様をどうこうするつもりは無い。一般生徒に害を為さぬなら、此方も何も言わん」
それでも尚、風紀委員としての威厳を保とうと努力はした。徒労ではあったが。
そんな努力の結果は、肩に回された先輩の腕によって中断する事になる。
「……全く。此方の台詞ですよ。相手が本当に襲い掛かってきたらどうするつもりだったんですか。もう少し危機感持って行動してください」
此方は少しエルピスを気に掛ける素振りを見せながらも。
結局は幌川に引き摺られる様に、落第街を後にする事になるのだろう。
ご案内:「落第街大通り」から神代理央さんが去りました。<補足:制服に風紀委員の腕章/腰には45口径の拳銃/顔立ちだけは少女っぽい>
エルピス > 「あははは……それはちょっと困ります。
可愛いお隣さんが埋まっちゃいますので。」
区間纏めて瓦礫の山。
・・
流石にこの空気なら冗談にできるだろうと、
軽口と共に流してみせる。
「ありがとうございます。"しっかり後片付けもしますので"。」
本当は放置するつもりだった。
だったのだが、場を取り為されて釘を刺されれば応えるべきだ。
「……"風紀委員"の皆さんは本当に尊敬していますから。
どうかお気をつけて。……僕が言うことじゃないですけれど。」
引き摺られるように去る二人を見送る。
気に掛けるように振り向けば、暖かいものを見る目で見送っている様が伺えるか。
エルピス > 「……ふう。」
静寂と共に安堵の息を吐く。
"一手でも間違っていたら"やりあって可能性は高い。
だが、そうはならなかった。
ルールの違いを示す教材となり、穏便に事は運んだ。
「人に頼んで、歓楽街の病院にでも送って貰おうかな。
……多少高くついちゃうけど、しょうがない。」
端末を取り出し、顔見知りの一人に連絡を掛ける───。
ご案内:「落第街大通り」からエルピスさんが去りました。<補足:右腕が二本生えている義腕を備えている、少女のような少年。>
ご案内:「落第街大通り」にエルピスさんが現れました。<補足:右腕が二本生えている義腕を備えている、少女のような少年。>
ご案内:「落第街大通り」からエルピスさんが去りました。<補足:右腕が二本生えている義腕を備えている、少女のような少年。>